実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
その翌日の昼食時間。
直前の授業で使用した教科書類を片付け、代わりに弁当箱をカバンから取り出す。
それを持って立ち上がろうとしたとき。
「速野くん、少しいいかしら」
直前で堀北に話しかけられ、動きを止める。
「ん……なんだ急に」
堀北に呼び止められるときは大体ろくなことが起こらないので少し嫌だが、ここはひとまず話を聞く。
「あなたが昨日送ってきた解説、わかりやすかったわ」
意外や意外。褒められてしまった。
「そうか、なら良かった」
昨日、佐倉の件の後、俺は堀北から図書館で出した問題の解説を送らなければいけなかったことを思い出した。
ぱっと解説を作成し、勉強会のための業務連絡用としか考えていなかった堀北の連絡先にそれを送った。
やはり連絡先があると便利なものだ。
「それで、何の用だ?」
要件を言うよう促す。
まさか、昨日の解説のことを言うためだけに話しかけてきたわけでもあるまい。
「今日の放課後、また一緒に来てもらえるかしら?」
「……なんでまた」
放課後に何をすると言うのか。俺にもやりたいことがあるし、正直乗り気ではなかった。
「……それ、断ってもいいか?」
「断りたいのね。それでもいいけれど、あなたの身の回りに奇怪な現象が起こらなければいいわね」
「……と、いうと……?」
「そうね…………で、どうするの? 断る?」
「おいなんか言えや」
何も言わないのが余計に怖い……
「はあ……放課後に何があるんだ。それが何かによる」
先日の堀北による綾小路の昼飯買収事件から、俺も学び取った。まずは要件を聞いてからだ。
それが分からないままついていくと、どんな結末になるのか分かったもんじゃない。
「……昨日、あなたがなぜ私のことを無能無能と言っていたのか、分かったわ。私は、あの問題だけで無能と判断されるのはいい心地がしなかった。でも勉強会で、私も彼らの学力面だけを見て、すぐに無能だと決めつけた。あなたはそこが気に入らなかったんでしょう?」
急にそんなことを言ってくる。
「……どう解釈しようがお前の自由だ。でもどうした。心境の変化でもあったのか?」
あったとすればあの時。
昨夜、堀北が綾小路に助けられた場面だが……
「ええ、そうかもしれないわね。どこぞの事なかれ主義者のせいで」
そう言うと堀北は、机に突っ伏している綾小路に目を向けた。
ということは生徒会長の件の後、綾小路が堀北をどうにかして言いくるめたのか。
「事なかれ主義のくせに、論破しちゃったのか」
いやそれ以前に、事なかれ主義者が生徒会長と事を構えるってどうなんだ……と言いたかったが、俺があの場面を見ていたことは、この二人には知られない方がいいだろう。
「おーい……」
綾小路の背中に言うが、反応はない。
「ちょっと、人の話を聞いているの? 頭は大丈夫?」
堀北は手のひらを綾小路の額に当て、その後、自分の額にも当てた。
「風邪を引いたわけではないようね」
「引いてねえよ! つか、失礼だろ!」
「人の話を無視して寝たふりを決め込んでいたのは誰かしら?」
堀北が即答で正論を言う。
「……ちょっと長めの回想に入ってただけだ。それで、オレに何か御用でしょうか……」
「須藤くん達にもう一度勉強会に参加してもらうために、あなたには体を張ってもらわなければならないわね」
「体を張るって……」
「具体的に言うと、土下座でもしてみたら?」
「なんでそうなるんだ……そもそもお前が揉めたんだから、お前が自分でなんとかしろよ」
「あの勉強会が壊れたのは学ぶ姿勢のなかった側の責任よ」
「おいちょっと、ストップストップ」
話についていけなくなった俺は、二人の会話を強引に止めた。
「お前ら、もう一回勉強会やるのか?」
「ええ。そうなんでしょう綾小路くん?」
「いや、開くのお前だろ」
「あなたが私を引き戻したんでしょう。最後まで責任を取りなさい」
その言葉で、綾小路は何もいえなくなる。
どうやら本当に堀北の説得に成功していたらしい。
綾小路がここまでするとは思っていなかった。
昨日はどうすることもできない、とか言ってたのに。
まあでも勉強会が再開されるというのは朗報だ。
おかげで、自分で動かずに済んだ。
「話を戻すわ。速野くん、それで放課後だけではなく、今日この時間にも来てほしいのよ」
元々勉強会再開のために動く予定だったし、それなら構わないだろう。
「……分かった。行く。場所は?」
「まだ決まってないわ」
「なら、この弁当を持ち込める場所にしてくれ」
「そうね。あなたの質素な弁当のせいで雰囲気を壊されるのは、他人が迷惑するでしょうし」
「そうそう。できればそのディスによる俺への迷惑も考えてほしいんだけど?」
「あら、何か間違っていたかしら?」
まあ間違ってはないんだけどさ……
と、そこで、綾小路が忠告するように言った。
「堀北。分かってると思うが、櫛田の協力は必須だぞ」
「……ええ。分かってる」
そう言うと、堀北は櫛田の元へ向かい、話しかけた。
「櫛田さん、話があるの。お昼、少しいいかしら?」
「堀北さんからのお誘いなんて珍しいね。うん、もちろん!」
櫛田は快諾。昼飯の場所に選ばれたのは、校内で絶大な人気を誇るカフェパレットだった。
なんか、流れに身を任せていたらパレットに来てしまったが……ここ、俺が弁当食ってもいいのか? 俺の質素な弁当とやらで雰囲気壊す場所の最たる例じゃねえのここ。
弁当持ち込み禁止とは書いてなかったけど……
まあ……いいか。とっとと食っちまおう。
「お代は私が出すわ」
「ありがとう。それで、お話っていうのは……?」
「須藤くんたちの勉強会。もう一度協力して欲しいの」
「それって、やっぱり……堀北さん自身のため?」
「ええ、彼ら3人のためではなく、私のため。それでは手を組めない?」
「ううん、正直に言ってくれて嬉しい。それに私たち、クラスメイトだもん。喜んで協力するよ」
「ありがとう。助かるわ」
堀北が素直に礼を言う姿は初めて見る。
1日でこんなにも変化があるのか。
よほど綾小路の説得が響いたらしい。
俺は櫛田の発言の方にも、わずかな違和感を覚えた。
「堀北さん。もう一回聞くけど、これはAクラスに上がるためにやることなんだよね?」
「そうよ」
「そんなことって、本当に出来るのかな……あ、堀北さんを馬鹿にしてるんじゃないよ? でも、たとえ中間テストを乗り切っても、ポイントが入るかどうか……正直、クラスのほとんどの人は現実的に考えてないんじゃないかな、って……」
概ね櫛田の言う通りだろう。
上に行きたいとは思っていても、精々Cクラスに行ければいいかな、くらいにしか思っていない人がほとんどのはずだ。
いくら「進学、就職時の安泰」という入学目的があっても、俺たちはその教師から「不良品」と面と向かって言われてしまったのだ。
そして、それを表す膨大なポイントの差。
Aクラスっていいよね、という声はあっても、Aクラスに上がりたい、という声は堀北以外からは聞いたことがなかった。
しかしそれでも、堀北はぶれない。
「私はやるわ。Aクラスに上がるために。私自身のためにね」
「綾小路くんと速野くんも?」
「ええ。2人とも私の助手として、Aクラスに上がるために粉骨砕身、働いていく所存だそうよ」
「は?」
いきなり助手認定され、顔を見合わせる俺と綾小路。しかも粉骨砕身とまできた。聞いてないんだけど堀北さん。
そんな俺たちの心情はスルーで、堀北と櫛田は会話を続ける。
「……うん。分かった。じゃあ、私も堀北さんたちの仲間に入れてくれる?」
「ええ。だから勉強会の手伝いをお願いしているのだし」
「ううん、そうじゃなくて。Aクラスを目指す仲間に入れて欲しいの。私にも何か協力できることがあるかもしれないし……ダメ、かな?」
言いながら櫛田は、堀北の表情を伺うように覗き込む。
俺、堀北、綾小路が3人集まった文殊の知恵でも足りないものを、4人目の櫛田は持っている。断る理由はない。
「ええ。では、この勉強会が無事成功したら、正式にお願いするわ」
「ほんとに? やった」
堀北の了承を得ると、櫛田は体を起こして、堀北と綾小路の前に手を差し出した。
両者ともに、渋りつつも手を握る。
そして今度は、俺の前にも手を差し出してきた。
「速野くんも、ね?」
少し抵抗があったが、俺も櫛田の手を取った。
女子との握手。
これで、少し藤野のことを思い出した。
櫛田と藤野。
二人のキャラクターは被っているところがある。
しかし……何かが決定的に違う。
具体的なことは何もわからないが、確かにそう感じた。
俺のことをクラスメイトというだけで友だちと言った櫛田が、先ほど堀北のことを「クラスメイト」と呼んだことと、その違和感は何か関係あるのだろうが。
1
放課後。
櫛田が、帰ろうとしていた赤点組の3人を呼び出し、堀北の元へ連れてきた。
「なんだよ今さら。櫛田ちゃんがどうしてもって言うから来たけどさー」
当然ながら、勉強会をあんな形で終わらせた堀北にいい印象は持っていない。
「あなたたち、本当に一人でこのテストを乗り切ることが出来ると考えているの? もしその絶対の自信があるなら、私はもう何も言わない」
「それは……でも、今までもなんだかんだで乗り切ってきたしさ。一夜漬けで何とかなるって」
「それは絶対の自信とは言わないわ。その姿勢で仮に今回は乗り切ることが出来たとして、テストは今回で終わりじゃないのよ。次も、またその次も危険な綱渡りを続けるつもり? それでもまだ、自分は生き残ることが出来ると考えるの?」
「……」
「そう思えないのなら、今からする私の話をよく聞いて」
一応のこと、3人に聞く気はあるようだ。
池の言った、今までは乗り切ることが出来た、というのは、もしかしたら嘘ではないかもしれない。
しかし、その「今まで」は、「今」とは全く状況が違う。
今までは赤点をとっても、追試や追加課題などがあった。それをやれば、なんだかんだで合格を貰うことが出来ていた。
しかし今は、赤点を取れば退学なのだ。
幅10センチほどの平均台がある。それが高さ10センチほどの場所に設置されていれば、難なくわたることが出来るだろう。
しかし、それが高さ数十メートルのビルとビルの間に渡されていたら、どうだ。
危険があるかないかの違いだけで、人間のパフォーマンスにはとても大きな差が出る。
いまこの3人は、後者の状況にある。
恐らく堀北の話を聞いたとき、赤点を取って退学に追い込まれる姿が容易に想像できてしまったんだろう。
「あなたたちは、授業中に居眠りや私語をすることはなくなったけれど、授業内容は全く聞いていないわよね?」
「い、いや、そんなこと……」
「そんなことない、と言うの?」
そんなことありまくる、ということは自身が一番よくわかっている。
「……だって、先生がなにしゃべってるか頓珍漢なんだよ。仕方ねーじゃん」
「つまりあなたたちは、60分×6コマ分、6時間という勉強時間をどぶに捨てているということになる。まずはその無駄を削ることよ。授業中はとにかく集中して、先生の話にかじりつきなさい」
これをこなすだけで、3人の勉強時間は激増する。
「分からなかったところは、次の10分間の休憩中に私たちが解説する」
「けど、さっきも言ったけど、俺たち先生の話なんて聞いてもわかんないぜ?」
「気づいていないかもしれないけれど、この学校の授業の質は相当高いわ。ちゃんと集中して聞けば、何一つ分からない、と言うことはないはずよ。一度やってみなさい」
「わ、分かったよ」
以前と比べて、かなり効率的な方法だ。これなら須藤が放課後に部活を休む必要もなくなる。
「それに加えて、私と速野くんが、その授業の中でテストに出題されそうな部分をまとめるわ」
「え、俺も?」
「当然でしょう。あなたは授業中暇を持て余しているようだし、これは私たちの勉強にもなる。違う?」
「……まあ、確かに」
授業の要点をまとめることで、自身のテスト勉強の効率化も測ることができる。さらに人に教えることで理解も深まる。一石二鳥というわけだ。
ここまで説明を終え、池と山内は好感触だった。
しかし、残りの須藤は……
「お前が俺たちの赤点を阻止しようとしてくれてんのは分かった……けど納得いかねえ。あのな、俺はお前が俺に言い放ったことを忘れちゃいねえ。バスケのプロを目指すのが愚かなことだと? こんな奴に教わるなんざまっぴらごめんだ。まずは謝罪から先にすんのが筋だろ」
納得いかない、というより、納得したくないといった様子で突っぱねる。
プライドが邪魔しているんだろう。
それほど、バスケットと自分の夢を馬鹿にされた怒りは大きかったということだ。
それに対し、堀北が言う。
「私はあなたが嫌いよ須藤くん」
「は!?」
「でも、あなたがバスケットを好きなのは伝わってくる。あなたはバスケットに対してなら全力を出せるであろうことも。その集中力を、今回は少し勉強に向けてほしい」
それは堀北から須藤への、少しだが、明確な歩み寄りだった。
罵倒するしかなかった昨日の堀北とは、まったく見違えるほどだ。
「……俺は興味ねえ。もう行くぞ」
しかし、届かず。
須藤はそのまま教室を出て行こうとした。堀北もそれを止めない。
俺ももう無理か、と思ったとき。
それまで黙って話を聞いていた綾小路が動いた。
「櫛田、お前もう彼氏できたのか?」
突然の綾小路の質問。櫛田も少し戸惑いながら答える。
「え、今はいないけど……ど、どうして?」
「じゃ、じゃあ、この中間テストで平均50点取ったら、俺とデートしてくださいっ」
そう言って、綾小路はキレのある動きで櫛田の前に手を差し出す。
その様子を見て、池も山内もすかさず反応した。
「な!? じゃ、じゃあ俺は51点取るから、俺と行ってくれ櫛田ちゃん!」
「な、なら俺は52点だ!」
この2人は天然でやってるんだろう。
綾小路の狙いに気づいたとは考えにくい。
俺もこの流れに乗っておこうと思う。
「じゃあ、俺は53で……」
「「お前は満点取れ!」」
「なんで俺だけ……」
池と山内から思いっきり突っ込まれる。だが、満点取っても櫛田とデートすることはないから大丈夫だ。
「え、えと、私、テストの点数で人を判断したりしないよ?」
「でも、モチベーションの向上にも繋がると思うんだよ。頑張った後のご褒美みたいなもんで」
綾小路がそう言うと、櫛田も綾小路のやりたいことが分かったらしい。
「じゃ、じゃあ、一番点数が高い人と、っていうなら……目標のために頑張れる人って、かっこいいと思うな」
「「うおっしゃああー!!」」
「見とけよ速野! 負けねえからな!」
「お、おう、頑張ってくれ……」
池の気合いに気圧されながらも、激励しておいた。
そうして、視線は残りの1人、須藤に集まる。
「……デートか、悪くねえ。俺も参加してやる」
綾小路がやったのは、須藤が参加しやすいようにするきっかけづくり。
デートのために堀北を利用してやるだけ、という理屈付けを須藤がするよう誘導したのだ。
結果、須藤も折れて参加が決定した。
「覚えておくことにするわ。男子は単純で馬鹿だと言うことを」
堀北はチクッと刺すようにそう言った。
須藤を迎え入れるために堀北なりに考えたものだと信じたいが……多分9割9分本音だよなあ……
次回更新は11月24日15時です。