実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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第2巻分開幕です。


第2巻
火種Ⅰ


「だいぶ暑くなってきたな……」

 

 日はすでに大分傾いていて、あと数分もしないうちに日入りだというのに、若干汗ばんでしまうほどだ。

 鬱陶しく思って、オレンジに染まる空を見上げる。

 と、その時だ。

 

「……ん?」

 

 不思議な光景が目に映った。

 誰かは分からないが……3人の生徒を目撃した。

 それが普通の生徒だったら、あるいは目に入ることもなかったかもしれない。

 しかし、その3人は傷だらけだった。

 血も流れている。

 千鳥足で、ヨタヨタとどこかへ歩いていく。

 

「……保健室も診療所もそっちにはないぞ」

 

 

 それは、ある日の夕方のこと。

 何の変哲もない……いや、ないと思っていた、ある日の出来事だった。

 

 

 

 

 

 1

 

 午前8時ごろ。登校してきて、すぐに教室内の違和感を感じ取る。

 今日のクラスの雰囲気は、日常とは異なっていた。

 どこか浮ついている……というより、教室全体に緊張感があった。

 理由は分かり切っている。

 今日は七月の月初め。

 クラスポイント発表の日なのだから。

 俺たちDクラスは、入学してからの1か月間に怠惰に怠惰を重ね、クラスポイントをゼロにまでしてしまった。

 この学校では、月初めにクラスポイント×100のプライベートポイントが、小遣いとして生徒に支給される。

 つまり、5月に俺たちに支給されたポイントはゼロ。

 しかしこの学校は質の悪いことに、施設内のいたるところに無料のモノを設置している。

 学食の山菜定食。

 自販機のミネラルウォーター。

 コンビニの雑貨。

 食品スーパーの無料コーナー。

 つまり極端な話、ゼロポイントでも死にはしない、ということだ。

 当然ながら、ゼロポイントでは、この学校ご自慢の娯楽施設など利用できるはずがない。

 4月にやりたい放題やったツケが回った、とでも言えばいいだろうか。学校側から「不良品」の烙印を押されたDクラスの大半の生徒は、5月、6月の2カ月間、禁欲を極める地獄のような生活を送った。

 しかしDクラスの中でも、綾小路や堀北、平田、櫛田などをはじめとして、一部の生徒は、禁欲などをそこまで強く意識しなくても生活できるようなポイントを残している。

 俺も、そちらの方に入る。

 というより、現在のDクラスで最も多くのポイントを所持している生徒は、恐らく俺だ。

 額にして、約36万ポイント。

 単純に計算すれば、この3カ月間でAクラスに支給されたポイントの合計額よりも高い数値だ。

 俺は、先の堀北生徒会長のやり取りで受け取った約31万ポイントと、堀北から度々「守銭奴」なんて罵られるほど徹底した禁欲と倹約によって、この数値を実現している。

 食品スーパーの無料コーナーを利用しているため、食費はゼロ。

 ポイントを使ったのは、無料ではどうしても手に入ることのなかった生活必需品と、須藤の退学阻止のための3万ポイントだ。

 俺、綾小路、堀北の3人で合計10万ポイントを支出し、須藤の英語の点数を1点買った。

 この行動について、俺は一切後悔していない。

そうした方が今後の利益が見込めると踏んだ上での判断だ。いわば、未来へ向けての投資だ。

 須藤はいずれ、クラスに必要不可欠な存在になる。その考えは今でも変わっていない。

その須藤は、四月に比べると問題児っぷりはいくらかマシになっていた。

 そして、だ。

 プライベートポイントの使用用途がとてつもなく広いことも、その件で明確なものになった。

ポイントを支払えば、点数すらも操作できる。

 これまでは「貯めておいて損はない」だったのが、今は「貯めておけば得する」に考えが変わった。

 と、そこまで考えたところで、茶柱先生が教室に入ってきた。

 

「おはよう。なんだ、今日は空気が違うな」

 

「佐枝ちゃん先生! 俺らもしかしてまたポイントゼロだったんすか!? 朝見たら振り込まれてなかったんすけど!」

 

「なるほど、そのせいか」

 

 池の主張に、茶柱先生が納得したような表情を浮かべる。

 ここDクラスは、入学当初とは本当に見違えるクラスになっていた。

 無断欠席、遅刻はなくなり、授業中の私語もかなり少なくなった。いつだったか堀北が言っていたが、マイナス要素はほとんど削れたはずだ。

 加えて前回の中間テストも、高い水準でクリアした。

 今月こそはポイントを獲得できる。誰もがそう確信した。

 にも拘わらず、俺たちの端末にポイントは振り込まれていなかった。

 茶柱先生が察した通り、教室の雰囲気が変だったのはそのせいだ。

 

「そう結論を急ぐな。Dクラスが頑張ったことは、学校側もしっかり把握している」

 

 言いながら、持ってきていた巨大な紙を取り出して、黒板に貼り付ける。

 

「では、今月のクラスポイントを発表する」

 

 広げられた紙を見る。

 これは……

 

「あまり良くない傾向ね……まさか、もうポイントを増やす方法を見つけ出したのかしら」

 

 堀北が不安そうに呟いた理由は、Aクラスのクラスポイントだ。その数値は1004と、入学時のポイントをわずかに上回る結果となっている。

 Aクラスを本気で目指す堀北にとって、これは由々しき事態だろう。

 だが堀北と違って、クラスの大半は他のクラスのポイントのことなど眼中にない。

 肝心なのはDクラスのポイント。

 そこには……87と表示されていた。

 

「87……8700ポイントってことか!? よっしゃあ!」

 

 山内の歓喜の声を皮切りに、クラス中が沸き立つ。

 その気持ちも分かる。約2ヶ月ぶりのポイントだ。喜ばないわけがない。

 しかし、それを茶柱先生は制す。

 

「そう単純に喜んでいていいのか? 他のクラスのポイントを見てみろ。お前たちと同等か、それ以上にポイントを増やしているだろう。今月のポイントの増加は、テストを乗り切ったお前たち1年生に対する褒美のようなものだ。一定のポイントを全クラスに支給することになっていたに過ぎない」

 

 なるほど、だから全クラス綺麗に上昇していたのか。

 

「あれ、じゃあなんでポイント振り込まれてないんすか?」

 

 誰かがそう呟く。

 そう、問題はそこだ。

 前に張り出された紙には、確かにクラスポイント87と書かれている。

 しかし俺たちの端末に8700のプライベートポイントは支給されていない。

 

「少しトラブルがあってな。ポイントの支給が遅れているだけだ。気にするな」

 

「えー、なんすかそれー。学校側の不備なんだから、お詫びでポイント追加とかないんすか?」

 

「そんなことを私に言われても困る。ポイント関連の決定権を持っているのは担任ではない。トラブルが解決され次第、問題なくポイントは振り込まれるはずだ。ポイントが残っていれば、の話だが」

 

 そう言うと、茶柱先生は次の連絡事項の伝達を始めた。

 またこの人は意味深な一言を……

 

 

 

 

 

 2

 

「変わってるようで変わってないよな、須藤のやつ。退学した方が良かったんじゃないか?」

 

 誰かのそんな言葉が耳に残る。

 いま発言に出た須藤は、放課後になってすぐ、部活に向かおうとしていたところを茶柱先生に呼び出されていた。

 さっきの言葉は、また何かやらかしたのか、というニュアンスと、呼び出しを受けた際の先生に対する態度が悪かったこと、この二つが含意されていそうだ。

 だがバスケに情熱を注ぎ、人生の中心に据えている須藤にとって、それを邪魔されてまで呼び出されるのはよっぽど嫌なことだろうな、とは察する。

 もちろん、須藤の態度には問題ありだが。

 

「あなた達もそう思う? 彼は退学すべきだったと」

 

 さっきの声は堀北の耳にも届いていたのか、帰り支度の時間潰しに綾小路と俺に問うた。

 

「オレは別に」

 

 綾小路はそうさらっと答える。

 別に、そうは思わない、なのか。

 別に、あまり興味がない、なのか。

 続く言葉によって全く別の解釈が可能な言い方だ。

 俺も少し考えてから答える。

 

「俺は須藤に関しては退学すべきじゃないと思う」

 

「綾小路くんとは違ってはっきり言うのね」

 

「体力バカのあいつは、いずれどこかで役に立つかもしれない。お前こそどうなんだよ」

 

 堀北も、中間テストでは須藤たちの勉強を全面的にフォローした身だ。

 多少なりとも思うところはあるのだろうか。

 

「須藤くんがクラスにとってプラスになるのか、それはまだ未知数ね」

 

 どうやらそんなことはないらしい。

 須藤よ、お前の想い人はお前に無関心だぞ。

 その想い人、堀北は帰り支度を終えて立ち上がり、綾小路も同時に荷物を持って席を立った。

 この2人は最近、寮まで一緒に帰ることが日常になっているらしい。

 

「お前も帰るか?」

 

「いやいい。いつも通り2人で帰れよ」

 

 綾小路の提案を丁重にお断りする。

 なんとなくの雰囲気で分かるが、あの2人の間には共有する秘密がいくつかある。

 俺が綾小路について知っていることといえば、頭がいい、喧嘩めっちゃ強い、顔もそこそこ良い。あれ、めっちゃ高スペックじゃね?

 もっとも、頭がいいというのは俺が実際に目にしたわけではなく、俺が盗み聞きした堀北会長とのやり取りや、堀北からの伝聞だ。

 さらに、会長と綾小路が対決した時の綾小路のあの俊敏な動き。運動神経も相当なものだということは瞬時にわかる。

 そのはずなのに、テストの点数は平均、むしろそれ以下。

 プールでは平々凡々の速さだった。

 綾小路は意図的に自分の能力を隠している。どうやらこれだけは間違いなさそうだった。

 自分の秀でた部分を隠したがる。

 その一点だけでいえば、佐倉もそのタイプの人間に分類される。

 佐倉の容姿のレベルは相当高い。堀北や櫛田、藤野とは違うタイプの美人だ。

 しかし、自撮りが趣味であると言う彼女は、カメラの前以外ではそれを隠している。

眼鏡……それも、度の入っていない伊達眼鏡をかけ、地味な雰囲気を意図的に醸し出している。

 見た感じ、人付き合いは俺並みに苦手そうだ。誰かと仲良く話している場面を見たことがない。

 そんなことを考えながら、綾小路と堀北に数分遅れて、俺も教室を出る。

 教室を出て、廊下の角を曲がったところに、その人物はいた。

 

「あ、速野くん来た」

 

「悪い、少し遅れた」

 

 俺の数少ない知り合いで、この学校で最優秀のAクラスに所属しているその少女。

 名前を藤野麗那という。

 綾小路と堀北が一緒に下校する習慣を作ったように、俺も3、4日に1度ほどの割合で藤野と帰る習慣がついていた。

 まっすぐ帰るわけではない。

寄り道先は、藤野が俺に紹介した食品スーパーの無料コーナー。

 学校からのルート的に、一度寮に戻ってからスーパーに出かけるより、学校帰りにそのまま行くほうが効率的だ。

 Dクラスとは違って潤沢なポイントがあるはずの藤野だが、俺と一緒に無料コーナーで買い物をしている。

 料理が楽しいかららしいが……それなら無料コーナーじゃなくてもいいだろうに。

 無料コーナーは無料だけあって、品ぞろえも品質もクソ。賞味期限なんてギリギリが当たり前で、なんなら期限切れの商品すら普通に置いてある。この材料を使えば、料理もそれ相応のレベルに落ち着いてしまうというものだ。

 まあ、よくわからないことはあるが……こんな美少女と一緒に帰れるなんて役得役得。

 ……なんか、リアルが充実してきている感じがするぞ。いい傾向だ。

 靴箱で外履きに履き替え、外に出る。

 季節は夏に近づき、気温が上がってくるこの時期。

 校舎内で着用が義務付けられているブレザーを煩わしく思うようになる日も、そう遠くはないだろう。てかすでに脱ぎたい。

 

「今日は何買うの?」

 

 そう問う藤野。

 その左手には、今日買う食材の一覧がメモされた紙が握られている。

 

「いつも通り、行ってから決める。メモ書いても、どうせ予定通りにいかないことの方が多いしな」

 

 俺も最初のうちはきっちりメモをとって決めていたのだが、結局はスーパーにいるときの気分でメニューが変わることに気づき、以降は全く決めなくなった。

 スーパーに着いて中に入り、今日は何を作ろうかと吟味する。

 ……今日は肉って気分じゃないし、野菜炒めでも作るか。

 そう決め、まずはキャベツを取ろうとする。

 瞬間、女子のものとみられる細い腕が見え、瞬間的に手を引いた。

 そこに目を向けると。

 

「……堀北?」

 

 俺の右側にいたのは、綾小路と帰ったはずの堀北だった。

 Dクラスがゼロポイントになってから、堀北もこの無料コーナーで食材を調達していることは知っていたが……。

 

「久々に嫌な偶然ね……あなたも買い物?」

 

 嫌なのかよ。悪かったな。

 

「まあ、な。お前はどうしたんだ? 綾小路と帰ったんじゃないのか」

 

「……材料を切らしていたことを失念していたのよ」

 

「珍しいな」

 

 堀北でもこういうミスはするのか。

 考え事でもしていたんだろうか。

 

「あれ、速野くん?」

 

 そこに、少し離れた場所で商品を見ていた藤野がひょこっと顔を出す。

 

「……奇怪なこともあるのね。あなたが誰かと買い物するなんて」

 

 ひでえ反応。

 

「奇怪とまで言うか……」

 

「えっと……」

 

 見知らぬ人間のいきなりの出現に、流石の藤野も戸惑いを見せる。

 堀北の方は全く気にかけていないようだが。

 

「……お前のこと紹介しといていいか?」

 

「はあ……勝手にすればいいわ」

 

 ため息をつき、うんざりしたようにそう呟く。

 ではお言葉に甘えて、勝手にさせてもらうことにする。

 

「同じクラスの堀北ってやつだ。なんか突然悪かったな」

 

「ううん、全然。えっと、藤野麗那です。よろしく」

 

「よろしく。では、さようなら」

 

「えっ……」

 

 それだけ言って、堀北はスタスタとレジに向かって歩いて行ってしまった。

 俺たちが来る前に、既にキャベツ以外の材料は買い揃えてあったようだ。

 

「悪い、ちょっと」

 

「あ、うん……」

 

 藤野に一言断りを入れ、堀北を追いかけて声をかけた。

 

「おい堀北」

 

「何? まだ何かあるの?」

 

 少しは改善されたとはいえ、他人との関わりを嫌う性質はまだまだ健在だ。

 今回の場合、自己紹介を求められる空気になる前に素早く退散したんだろう。

 

「言っておくが、あいつは多分お前が見下せるレベルの人間じゃないぞ」

 

「……どういうこと?」

 

「あいつについて知ってること、何かあるか?」

 

「あるわけないでしょう。今日初めて会ったのよ」

 

 まあ、そりゃそうか。

 

「あいつの所属クラスは……Aクラスだ」

 

「………」

 

 Aクラス、という単語を聞いた瞬間。

 表情には出さないが、堀北の雰囲気が強張るのがわかった。

 

「まあ、俺たち不良品とは違って超優秀ってことだな。これをどう受け取るかはお前の自由だが……現時点でのお前の目標なんだろ? Aクラス」

 

「……確かに私はAクラスに上がることを目標に設定したわ。でも、私はまだ自分がDクラスであることを認めたわけじゃない」

 

 前にも同じようなことを言ってた気がする。

 

「……つまり、お前はあいつより優秀な自信があるってことか?」

 

「随分彼女のことを持ち上げるのね。私と彼女のどちらが優秀かは測りかねるけれど、あなたは彼女の方が優秀だと思うの?」

 

 俺を睨みつけながら、食い気味にそう言う堀北。

 実を言うと俺も、藤野と堀北のどちらが優秀かなんてことは分からない。

 堀北に関しても藤野に関しても、知らないことが多すぎる。

 藤野の学力レベルは堀北と同等。以前聞いたが、あいつの小テストの点数は90点。中間テストは5科目総合で497点。優劣はつけられない。

 堀北は運動能力も高いが、藤野はその項目についてまだ未知数だ。

 コミュ力は誰がみても藤野に軍配があがる。これは1+1=2とか、俺はコミュ障とか、エジソンは偉い人とかそのレベルで当たり前。

 分かっている比較項目はこれだけだが、お互い、まだ明らかになっていない優秀な部分があるかもしれないし、期待外れに能力が低い項目もあるかもしれない。

 

「まあ、今の時点で判断はつかないが……お前が本気でAクラスを目指してるなら、藤野の関門は避けては通れないと思うけどな」

 

「……抽象的すぎるわ。全て想像でしょう?」

 

「そうだ。でも、変にポジティブな希望的観測よりよっぽどマシだろ?」

 

 特に堀北のようにゴールが大きい場合、常に最悪のケースを想定して行動しなければならない。いくら用心してもしすぎることはない。

 不服そうな視線を俺に向ける堀北だが、それ以上の反論はしてこなかった。

 

「……もういいかしら」

 

「ああ、言いたいことは言った。じゃあな」

 

「ええ、さようなら」

 

 堀北は俺の方を見向きもせず、それだけ言ってレジへと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 3

 

「私、嫌われちゃったかな……」

 

「あれで普通だから大丈夫だ」

 

 心配そうにつぶやく藤野にそう言ってやる。

 

「あ、あれで普通なんだ。それはそれで……」

 

 まあ、そんな反応になるわな。

 あれでも改善されてる方だ、とは言えなかった。

 でも、フレンドリーな堀北なんてちょっと想像できない。アレも一つの個性、と言ってしまえばそれまでだ。

 買い物袋を手にひっさげて、店を出る。

 これ以上の寄り道はせず、寮に向かって真っすぐ歩く。

 その道中で、藤野が思い出したように言う。

 

「そういえば、トラブルがあってポイントの支給が遅れてるって……」

 

 今朝のホームルームで茶柱先生から言われたことだ。

 Aクラスにも同様の説明があったらしい。

 

「そうみたいだな」

 

「大変だね。Dクラスは特に、1日でも早くポイントが欲しいところなのに……」

 

「全くだ。他クラスが羨ましい」

 

 今月のAクラスのクラスポイントは1000を超えている。それ以前も950弱のクラスポイントをキープしていた。

 

「参考までに聞きたいんだが……いくら残ってるんだ?」

 

「えっと確か……大体20万ポイントくらいかな」

 

 ということは、これまでに使ったのは大体8万ポイントってところか。

 藤野に友達が多く、適度に遊んでいるであろうことも考えると、まあまあ切り詰めている方なんじゃないだろうか。

 

「速野くんは?」

 

「あー……大体9000弱くらい使ったな」

 

 須藤のことや、堀北会長のことは伏せ、このような答え方をする。

 

「相変わらずすごい切り詰め方だね……」

 

「俺に限ったことじゃない。5月以降、1ポイントも使えてないやつもいるぞ。それに俺の場合、元から一緒に出かけるような人もいないしな……」

 

「ここでこうしてることはお出かけに入らないの?」

 

「これは金がかかってないからな。俺が言った『出かける』ってのとは意味が違うだろ」

 

「あ、そっか。……でもそう言えば、速野くんと週末にお出かけしたことなかったね」

 

 確かに、週末はちょくちょくチャットのやり取りがあるだけで、実際に顔を合わせるのは学校のある日だけだ。

 

「そだ。今度遊びに行かない? Aクラスの人も何人か一緒にさ」

 

「それはDクラスの財布事情への当てつけですか……」

 

「あ、ち、違うよ。……奢ってもいいよ?」

 

「断る」

 

「えー?」

 

 確かに奢ってもらえれば金銭的な負担はゼロになるが、そういう問題じゃない。

 

「Aクラス、なんかギクシャクしてるんだろ?」

 

 以前、クラス内で派閥争いがあってクラスが二分されていると相談を受けた。その時にちょっとしたアドバイスはしたが……。

 

「大丈夫だよ。一緒に行くとしても、さすがにギクシャクした人同士を一緒にはしないよ」

 

「まあそうだろうけど……それに、お前はどうか知らないけど、Aクラスのやつらは多分、俺らを『不良品』だって見下してるだろ。正直いい気はしないな」

 

 Aクラスが、と言うよりは学校全体が、という方が正しいだろう。

 そういう風潮が、おそらく俺たちが入学する何年も前から染みついている。

 

「……確かに、ごめん。そういう雰囲気があるのは否定できないかも……でも、私はそんなことしないよ?」

 

「お前がそうだとは言ってない。それに、いい気はしないと言っただけで、見下すなと言ってるわけでもない。見下されても仕方のない結果が、実際に数字として出てるわけだしな」

 

 Dクラスがポイントを全て吐き出した期間中も、Aクラスはしっかりとポイントをキープしていた。

 格の違いは明らかだ。

 

「それにあれだ、こんな形で奢られたら、俺も奢り返さないと気が済まなくなるからな」

 

「そんな、気にしなくてもいいのに……」

 

「味噌汁の件ではお前も同じようなこと言ってただろ」

 

 何か施しを受けると、何かお返しをしないと気が済まない。

 これはもう人間の性としか言いようがないだろう。ただより高いものはない、という諺の原義でもある。

 

「そっか、そうだよね」

 

「分かってくれたか」

 

「うん。でも、速野くんが遊びたかったらいつでも誘ってね?」

 

「それを考えるのは、もうちょっとポイントが入ってから、だな」

 

「そっか。楽しみにしてるね」

 

 藤野は笑顔でそう言った。

 今のDクラスに、無駄な支出をするような余裕はない。

 ただ、藤野と遊びに出かけるようなことがあるとすれば、それは無駄ではない支出……必要経費、と捉えてもいいんだろうか。

 そんなことを考えながら、寮への道のりを歩いていた。

 

 




明日15時、オリキャラ2人のデータベースとショートストーリーを公開します!
2巻分の第2話は明後日12月1日15時に公開です。
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