実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
「須藤とCクラスの生徒3人の間で、トラブルがあった。分かりやすく言えば喧嘩だな」
翌朝のホームルーム。
茶柱先生の口からそんなことが告げられた。
喧嘩、というと、須藤の場合殴り合いでもしたのか。
だが、事はそんな呑気な考えができるほど他人事ではなかった。
「校内での暴力行為は、当然ながら校則違反だ。須藤個人への罰則はもちろん、クラスの連帯責任として、クラスポイントの没収がなされる可能性もあるが……まだ確定はしていない。お前たちに今月分のポイントが入っていないのには、そういった背景がある」
「は!? なんすかそれ!」
「どういうことですか先生!? なんであたしたちまで!」
「私に言われても困る。処分は私が決めることではない」
頑張って貯めたクラスポイントが、須藤のせいでゼロになるかもしれない。
その恐怖や理不尽さから、教室内はざわついていた。
「先生は先ほど、可能性がある、とおっしゃっていましたよね。……結論が出ていないのはどうしてですか?」
混乱するクラスの中、まとめ役である平田が努めて冷静に質問する。
「面倒なことに、須藤側とCクラス側で主張が食い違っているからだ。Cクラス側は須藤に呼び出されて一方的に殴られた、とのことだが、須藤は自分が呼び出されて喧嘩を売られた、と言っている」
「俺は嘘なんてついてねえよ。正当防衛だ」
「だが須藤、お前の言い分には証拠がない。違うか?」
「は? そんなもんあるわけねえだろ。つかそれを言うならよ、向こうの言い分にも証拠はねえだろうが」
「その点はその通りだ。つまり双方の主張のうち、どちらが正しいとも言い切れない状況だ。だから結論を出すのが長引いている。結論によっては、責任がどちらに傾くかが大きく変わってくるからな」
なるほどな。
確かに双方の主張は食い違っている。
が、一つだけ共通点があった。
須藤が暴力行為に及んだという点だ。
須藤は正当防衛だと言っていた。暴力に及んだことは否定していない。あくまで最終手段としてそうしたという主張。
これまでの状況から察するに、経緯はどうあれ、須藤が一方的にCクラスの三人をボコったのは間違いなさそうだ。。
そして恐らくは、その時に負った傷がCクラスの訴えの根幹になっているわけだな。
喧嘩の原因がどちらにあるかは分からないが、傷を負っていることだけは確たる事実だ。
「目撃者が出てくれば、状況に何らかの変化があるかもしれない。須藤はその場に誰かがいた気がする、と言っていたが、どうだ。誰かこの中で、須藤とCクラスの生徒が喧嘩をしている場面を見た者はいるか?」
茶柱先生は目撃者に挙手を呼びかける。
だがそれは須藤のためというより、事務的、機械的に行われているものだった。
「残念ながら須藤、名乗り出る者はいないようだな」
「ちっ……!」
須藤はがっかりしたような表情を浮かべ、目を伏せる。
「今、全クラスで同じような呼びかけが行われているはずだ」
「は!? バラしたのかよこのこと!?」
「目撃者を求めているのはお前だろう? それを募るとなれば当たり前のことだ」
「くそっ!」
狼狽している須藤。
だが目撃者の話がなかったとしても、プライベートポイント支給の遅延に繋がったこんな事件、遅かれ早かれ明るみに出ていただろう。
バスケ部での立ち位置などについて不安があるのかもしれないが、隠し通そうという方が無理な話だ。
「とにかく、この話はここまでだ。責任がどちらにあるか、どのような罰を受けるのかも含めて、来週火曜の話し合いを経て、最終的な判断が下されることになるだろう。それではホームルームを終了する」
そう言って、先生は教室を出て行く。
それとほぼ同じタイミングで、須藤も教室を出た。
出入り口の扉が乱暴に閉められる。
自身を疑うような視線が投げかけられるこの場に居づらくなったのか、あるいはここにいると自分を抑えきれそうになかったからか。
もしも後者なら、須藤も少しは成長しているということか。
しかし須藤が出ていくやいなや、次から次へと須藤に対しての文句が噴出する。
「あーあ、あいつのせいでまたゼロポイントかよ」
「ほんと使えねーよなあいつ」
その中には、須藤と普段からつるんでいる池や山内もいた。
つるんではいても、不満はある、ってことか。
教室内は、須藤に対する悪口でどんどん埋め尽くされていく。
この教室に、須藤の「正当防衛」という主張をすぐに信じる者は少ない。
いよいよ収拾がつかなくなってきた時、櫛田が立ち上がった。
「みんな、少し私の話を聞いてくれないかな。須藤くんは確かに喧嘩しちゃったかもしれないけど、本当に巻き込まれただけなの」
「巻き込まれたって、櫛田ちゃんは須藤の言ってること信じるのかよ?」
池は少し不満そうに櫛田を見る。
その視線をしっかり受け止めた上で、櫛田は事の詳細を語り始めた。
須藤がバスケ部のレギュラーを取りそうで、それに嫉妬したCクラスのバスケ部員である小宮と近藤が須藤を特別棟に呼び出し、なぜかその場にいた石崎と共にバスケ部をやめろと脅してきた事。その流れで須藤は先に仕掛けられ、防衛のために相手を殴った事。要約するとこんなところだ。
俺たちが知らなかった情報がどんどん入ってくる。
クラスのほとんどは、櫛田の必死の説明に聞き入っていた。
「改めて聞きます。もしもこのクラスの中や、知り合いや友達にこの事件を目撃したっていう人がいたら、教えてください。お願いします」
そう言って、櫛田は着席した。
櫛田の説明した、嫉妬で喧嘩に発展、という流れは、確かにあり得ない話ではない。だが、それは並かそれ以下の高校なら、だ。
そんな短絡的思考で動く奴が、この学校に、しかもよりによって俺たちより上という査定を受けたCクラスにいるとは。
櫛田の話を全部信じてそのまま受け取ったら、の話だが。
クラスの反応も芳しいとはいえない。
「でもさ、やっぱり須藤の言ってる事信じらんねえよ、俺。あいつ中学の頃、喧嘩ばっかやってたらしいしさ。めっちゃ自慢してくるんだぜ」
「私、廊下でぶつかった子の胸ぐら掴んでるの見たよ」
などなど、須藤の悪行を裏付けるようなエピソードが次々出てくる。
櫛田の力をもってしても、クラス全員の賛同を得ることはできなかった。
こうして聞いていると、須藤という人間の悪名高さがよくわかる。
そもそも須藤の話が信頼されていないのも、須藤のこれまでの態度が原因の1つだ。
疑いがかけられてるのが平田だったら、男女口を揃えて「あり得ない」と言っていたはず。
築いてきた信頼度の差は大きい。
「僕は信じたい」
そう言ったのは、今ちょうど頭の中で思い浮かべていた平田だった。
「他のクラスの人が疑うなら、それは仕方ないことかもしれない。でも、同じクラスの仲間を信じてやれないのは、僕は間違ってると思う」
「私も賛成ー。濡れ衣だったらひどい話だし」
平田の声に続くようにして言ったのは軽井沢だ。平田と付き合ってるとかいないとか、そんな話を聞いたことがある。
軽井沢本人が持つリーダー気質と、平田のガールフレンドという肩書き。
Dクラス全体というより、Dクラスの女子のリーダー格だった。
その軽井沢が須藤擁護に回ったのを機に、女子はだんだんとその方向に流れ込んで行く。
それをみた男子の方も、須藤擁護という形でだいたいまとまったようだ。
集団行動が得意というべきか、我が弱いというべきか。
とはいえ、俺もとりあえずはその流れに逆らわないことにした。
須藤のために動けば、クラスポイントの没収がなくなったり、色々俺にとってもプラスになるかもしれないしな。
2
「フェードアウト、の予定だったんだけどな……」
「……ん、なんか言ったか綾小路?」
「なんでもない……」
よく聞き取れなかったが、まあいいか。
昼休み、食堂に集まっていたのは、1ヶ月半前の勉強会のメンバー7人だった。
俺はいつものように弁当を持ってきていたので、食堂に来てわざわざ弁当を食べるという、若干異様な光景が作り出されている。
「全く、あなたは次から次へとトラブルを運んでくるわね」
堀北が呆れた様子で須藤を見る。
「ま、仕方ないから助けてやるよ」
「ああ、悪いな」
朝のホームルーム後には須藤のことをさんざん責め立てていた池だが、本人を目の前にして手のひらを返したように態度を変えている。
「それと堀北、また迷惑かけちまって悪い。でも、本当に俺は悪くねえんだ。クソみてえな嘘ついてるCクラスに一泡吹かせてやろうぜ」
須藤は少しテンションを上げて堀北に言う。
須藤は堀北を好いているようだし、また一緒に動けると思って嬉しいんだろう。
しかし。
「悪いけれど、私はこの件、協力する気にはなれないわね」
堀北はそんな須藤の声をバッサリと切り捨てた。
「は!? どういうことだよそりゃ!」
「あなたはどちらが先に仕掛けたか、に話の重きを置いているようだけど、それは些細な違いでしかないことに気づいているかしら?」
「さ、些細ってなんだよ。全然ちげえだろ!」
「そう。そう思うなら、精々頑張るといいわ」
素っ気なく言い、堀北は飯にほとんど手をつけないままお膳を持ち上げ、立ち上がった。
「何だよそれ! 俺ら仲間じゃなかったのかよ!」
「仲間? あなたと仲間になった覚えはないわ。そもそも、何よりも重要なことに気がついていない愚かな人間と、話すことは何もない」
毒舌を浴びせ、須藤が唖然とする中、そそくさと歩いて行ってしまった。
「何だよクソっ!!」
「あっ」
須藤が拳を机に叩きつけた衝撃で、箸でつかんでいた人参が床に落ちた。
「……」
おい、またか須藤。
お前が俺の靴をカップ麺のスープで汚したの、許した覚えはねえからな。
汚れは水で流せても、この気持ちは水に流せない。
……まあ、今はそのことはどうでもいいか。
あいつに少し確認したいことがある。
「悪い、ちょっと外す」
「お、おいお前まで抜けんのかよ!?」
椅子から立ち上がる俺を見て須藤が狼狽する。
「違う。ちょっと堀北を追うだけだ。すぐ戻る」
須藤を制しながら立ち上がり、堀北を追う。櫛田も不安そうな顔してるが……まあ、うん、なんかごめんね。
堀北の姿を捉え、声をかける。
「堀北」
名前を呼びかけると、堀北はうんざりしたようなこちらに振り返った。
「はあ……あなたストーカー?」
「お前を好き好んでストーキングするやつなんていねえよ……」
やったら殺されそうだし。
コンパスとかで。
「で、何か用かしら。野暮なことを言うつもりじゃないわよね」
「ああ……引き止めはしない。お前の言ってることも分からんでもないからな」
こいつは今回の事件、須藤にも原因があると考えている。
俺は須藤擁護派だが、須藤の責任がゼロかといえばそうは思っていない。
だから、俺が気にしているのはそのことじゃない。
「お前、何か知ってるだろ」
堀北の顔に、明らかな動揺が走る。
「……何の話?」
「今日の朝、全員の前で櫛田が説明してたときのことだよ。……お前あの時、櫛田の話聞かずにどっか向いてただろ。一点見つめてたようだったけど、お前あの時何見てたんだ?」
言うと、堀北は目を細めて俺を睨む。
「……あなたに教える必要がある? それに、私が何を見ていたかくらい、あなたはわかっているんじゃないの?」
「やっぱり何か見てたのか。言っとくが、お前が何見てたかなんて本当に知らないからな。みんな櫛田の話聞いてるなー、とか思って周り見渡したときに、全力でそっぽ向いてるお前が目に入っただけだ」
正確には、堀北が櫛田の話をどう聞いているかが気になって、ピンポイントで堀北を見てたんだが。
言うと話が面倒な方向に行きそうだったので、それは伏せる。
「まあ、話したくなければ話さなくて良い」
無理に聞いても何も話してくれないだろう。というか、無理やり聞こうとしたら俺の心が傷ついて終わりそうだ。
「ただ、綾小路あたりには話を入れといても良いんじゃないか?」
「……なぜそこで彼の名前が出てくるの?」
「他の奴より話す気起こるだろ」
「……私の勝手にさせてもらうわ。話はそれだけ?」
「ああ、呼び止めて悪かったな」
そう言って堀北の前を離れ、須藤たちがいる場所に戻る。
取り敢えず、堀北が何か知っていることは確定だ。具体的に何を、かは皆目見当もつかないが。
「おせーぞ速野」
戻ってきた俺に、須藤が軽く手を上げて言う。
「ああ、悪い……あれ、櫛田は?」
「櫛田なら、知り合いがいるとか言ってさっきどっかに行ったぞ」
俺の質問には綾小路が答えた。
まあ、あいつ知り合いめちゃめちゃ多いだろうしな。
「で、何の話してたんだ?」
「あ、そうそう、この中の誰が一番早く彼女作るかって話なんだけどよー」
「……」
こいつら、一体なんのためにここにいるんだ……?
3
放課後になった。
本格的に目撃者探しが始まる。
一緒に行動することになるであろう池たちの姿を探していると、すでに櫛田、山内と集まって談笑している姿を発見した。
俺もそこへ行こうとしたとき、急に呼び止められる。
「速野くん。少しいいかな」
「……平田」
クラスのリーダーである平田。
須藤擁護派が多いとは言えないDクラスの中でも、最も積極的と言っていいほど、須藤のために動こうとしている人物だ。
「……何か?」
「ごめん。場所を変えたいんだけど、構わないかな」
「……ああ」
平田に連れられて、教室から少し離れた廊下に場所が移る。
あまり大っぴらに話すことじゃないのか。
「ごめんね、急に。時間は取らせないから」
「ああ。……それで、俺に何の用だ?」
「実は櫛田さんから、堀北さんがこの件について非協力的だって話を聞いてね。さっきの授業の合間に話を聞こうとしたんだけど、突っぱねられてしまって。もちろん、本人が嫌がっている以上は協力を強いることはできないけど……君なら何か知ってるんじゃないかと思ったんだ。堀北さんがなぜ協力を渋るのか」
なるほど、その話か。
「堀北自身から全部聞いたわけじゃないから推測が混じるが……あいつは今回の件、たとえ須藤が騙されたものだとしても、あいつ自身にも非がある、って考えてるからだと思うぞ」
「須藤くんにも、非がある?」
「クラスの中で須藤を信用する生徒が多くないのは、普段のあいつの生活態度が原因だろ。学校側は当然須藤のそういった素行を把握してる。だから須藤に呼び出されて殴られた、ってのがCクラス側の嘘だとしても、学校側はそれを不自然さのない筋の通った説明として受理してる」
「……なるほど。もし須藤くんがしっかりと分別をつけて生活してれば、こんなことにはならなかった」
「ああ。そしてそれを須藤が全く理解してないから、協力する気が起こらないんだろうな」
そう伝えると、平田は少しの間思案して、そして顔を上げる。
「そう、だったんだね。分かった。ありがとう速野くん」
「平田は、この話を聞いたうえで須藤のために動くのか」
堀北の理屈———まあ俺の予想でしかないが———は、一面では非常に正しい。
それを聞いたうえで、平田の態度は変わるのか。
「もちろんだよ。クラスメイトが困っていたら、絶対に助けるべきだ」
「……そうか」
変わらない、というのが、俺の疑問への答えのようだった。
4
翌日の登校時間。
いつも通り、通学路をえっちらおっちら歩いて学校へと向かう。
昨日は結局、放課後に目撃者探しを行ったが……特に成果は得られず。
全員、先生から「須藤とCクラスの3人が喧嘩をした」という話を聞いた以外は何も知らないそうだ。
まあ、そう簡単に上手くはいかないよな。
そもそも目撃者の存在だって、須藤が「いた気がする」と言ってるだけ。
それは須藤の勘違いで、いない可能性だって大いにあるのだ。
期限は来週の火曜まで。
もしこのまま目撃者が見つからなかったら、その時は……
「あ、あのっ!」
「……?」
その呼びかけに反応して、思考を止める。
立ち止まって振り返ると、俺の背後には、なぜかめちゃくちゃオドオドしている佐倉が立っていた。
当然ながら、あの時とは違って眼鏡をかけている。
「え、えと、お、おは、おはようございませっ」
「……おはよう」
ご丁寧にどうも。ただその前にとりあえず落ち着けよ。な。おはようございますといらっしゃいませがフュージョンしてるぞ。
「……なんか用か?」
聞くが、佐倉はオドオドしたまま下を向き続けている。
「え、あ……その……す……」
「す?」
「す、すど……」
「……?」
「すど……り、素通り、出来ない性格で! こ、声、かけたんです!」
「お、おう、そうだったか……」
「じゃ、じゃあっ! 私、学校に行かなきゃいけないからっ!」
「あ、おい……」
俺の静止は全く耳に入っていない様子で、そのまま小走りで立ち去ってしまった。
……学校行かきゃいけないから、って……いや、そりゃ今ここにいる奴らもれなく全員そうだろうよ。
いくら何でも緊張しすぎじゃないだろうか。
あのコミュ障っぷりは俺以上だ。あれがデフォだとしたらまともに生活できるレベルじゃない。
社会に出て大丈夫かしら……なんて親心が芽生えかけたとき。
何者かに肩をちょいちょいと触られる。
「おはよ、速野くん」
振り返って姿を目で捉える前に挨拶され、その声で正体が分かった。
「……ああ、なんだ藤野だったか。おはよう」
「うん、おはよ。さっきの人、知り合い?」
隣に並んで歩き始める藤野。
さっきのやり取りを見ていたようだ。
「ああ。同じクラスのやつだ」
「なんか、ちょっと変な感じだったけど……」
たぶんちょっとどころじゃないくらい変だっただろう。
「俺と同じかそれ以上にコミュ力がない子でな」
「あはは……」
苦笑いされてしまった。
が、すぐに笑顔は引っ込み、代わりにこちらを気遣うような表情になる。
「大変なことになっちゃったね、Dクラス……」
「……まあなあ」
「目撃者、いそう?」
「全く分からん。取り敢えず昨日は進展ゼロだった」
「そっか……」
昨日聞き込みを行ったのはBクラスだけで、藤野のいるAクラスにはまだ手は回ってなかったが……
あまり期待はできなさそうだな。
と、そう思っていたのだが。
「私もこの事件に関しては、真嶋先生が教室全体で発表した以外には何も知らないんだけどさ。少し個人的に気になることがあって。もしかしたら、Dクラスの助けになるかも」
「……本当か?」
「うん」
期待できない、というのは撤回する。まさか藤野から何か情報があるとは。
すぐにでも聞きたいが……その前に少し気になることがある。
「……俺たちにそれを流すってことは、お前は須藤の言い分の方を信じてるのか?」
「うーん、先生の説明だけではなんとも言えないけど……でも、事件の解決は真実の追及につながるでしょ? なら、集まる情報は多くて損はないじゃない?」
要するに、Aクラスとしては須藤が黒でも白でもどちらでも構わない立場だが、この事件の真相は気になるから情報を提供する。で、その情報がたまたまDクラス側に有利なものだった、ってことか。
「……分かった。じゃあ教えてもらえるか」
「うん。事件のずっと前に……確か、5月の頭くらいに聞いた話なんだけどね。Cクラス側の3人の中に、石崎くんって人がいたでしょ」
「ああ、あの一人だけバスケ部じゃないのに現場にいたっていう……」
頷く藤野。
「その人、中学時代は結構な不良で有名だったらしくて。喧嘩もかなりやってたらしいよ」
「……本当か」
「伝聞情報ではあるけどね」
いや、それでもこれは大きな材料だ。
「もしそれが本当のことだったとしたら……」
「運動部二人と喧嘩慣れしてる石崎くんで、須藤くんひとりに一方的に、って少しおかしいよね」
「ああ……須藤は嵌められた、って話が補強される……」
想定されるシナリオとしては、須藤を呼び出し、挑発、威圧などをして、須藤から暴力を引き出す。もちろん自分たちは一切手を出さず……か。
いや、そうだとしても、普通に考えれば少し妙な点が思い浮かぶ。
「須藤を嵌めるため……いや、多分Dクラスを嵌めるためでもあるんだろうが……とはいえそこまでするか?」
そのシナリオの通りだとすると、三人が負った役回りはあまりにも理不尽が過ぎる。
いくらクラス対決とはいっても、さすがに度が過ぎる、というのが普通の感覚だろう。
「うん、それは私も思ったんだけど……でも、Cクラスならできる」
そう言う藤野の表情には、確信的な何かを感じた。
「……何か根拠が?」
問いに対し、勢いよく頷く藤野。
「Cクラスの体制だよ。いまのCクラスは、ある一人の生徒の独裁体制みたいな感じになってるの」
「独裁って……」
「大げさなんかじゃなくて、本当にそうとしか形容できないんだよ。だからその生徒が命じれば、それ以外の生徒は動くよ。それがたとえ、一方的に暴力を振るわれてこい、っていう話だったとしてもね」
「……そこまでのものなのか」
「うん」
「その生徒っていうのは……」
「龍園翔くん、っていう男子生徒だよ」
その名前に聞き覚えはないが、ひとまず把握した。
Cクラスがそんな状況になっているとは。
いや、だがそれ以上に。
それをAクラスは知っていて、俺たちは微塵も知らなかった。
浮き彫りになる情報力の差。
どうやらDクラスは、他クラスに比べてあらゆる面で相当な後れを取っているようだ。
「……色々助かった。サンキューな」
「うん。何か相談事があったら、いつでも連絡してね」
「ああ、そうさせてもらう」
そう言葉を交わし、俺と藤野は玄関で別れた。
靴を履き替えて教室に向かう。
そして歩きながら、少し考える。
藤野の情報提供は本当に助かった。
助かったのだが。
……今は気にすることじゃないか。