実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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証明のためにⅠ

 目撃者探しが始まって、3日目の昼休み。

 当然ながら多くの生徒は昼食を摂っている。

 入るはずだった8700ポイントの支給が遅れていることで、全体的に質素な食事だ。しかし0ポイントで作っている俺よりも質素な料理は存在するまい。

 俺はその質素を極めたような昼食を味わっているが、中にはいち早く昼食を終え、須藤の事件に関する目撃者の調査を行う者もいた。

 そんな中、俺の斜め後ろに座る女子生徒、堀北鈴音は、何やら思案顔だった。

 

「気になってるのか、朝の話」

 

「……ええ、まあ」

 

 今日の朝、Dクラス教室内の会話の流れから、茶柱先生が重要なことを俺たちに話した。

 須藤を助ける手立てを考える場のはずが、行き詰まり、なぜかAクラスをひたすらに羨む空間になってしまっていたとき。

 誰かがぽろっと「Aクラスに行ける裏技みたいなのねーのかなあ?」と漏らした。

 それに茶柱先生が反応し、次のようなことを俺たちに伝えた。

 2000万プライベートポイントを支払えば、強引にクラスを移動することができる、と。

 要するに、何でも買えるプライベートポイントを使って自分の所属するクラスを買え、ってことだ。

 2000万。Dクラスにとっては、あまりにも次元の違いすぎる話だった。

 いま俺たちが欲しがっているのは未来の2000万ポイントなんかじゃなく、目の前の8700ポイントなのだ。

 そんな話に現を抜かしている場合ではない、と、生徒の多くも目が覚めたようだ。

 まあ、単にそれだけの一幕だったのだが。

 

「当面はクラスポイントを貯めるしかない、ってことだろ」

 

「分かってるわよ。それに、私が考えているのはその次の話よ」

 

「部活で活躍したらポイントが入る、って話か」

 

 そのカミングアウトは俺たちにとっては衝撃的だった。それも他クラスにはすでに伝えられているだろう、という。

 なんで茶柱先生は今までそんな重要なことを話していなかったのか……まあ本人は「伝え忘れていた」とか言ってたが……。

 それを聞いた生徒たちは、なんでもっと早く伝えなかったんだと文句たらたらだった。

 茶柱先生が言うには、部活はポイントのためにやるものじゃないんだから、いつ知っても同じだ、とのことだ。

 それも正論っちゃ正論だが……意図的か無意識か、茶柱先生には一つ見落としている点がある。

 まあ、今はそれはどうでもいいとして。

 

「須藤がバスケ部のレギュラーに選ばれる、って話が本当なら、須藤を助けるメリットが生まれたことになる」

 

「……」

 

 堀北はその点で頭を悩ませていたのだ。

 須藤を反省させるためにも、そして自らの心情としても、今回須藤に手を貸さないという選択肢の妥当性が高い。

 しかし、バスケ部での活躍でポイントを得る可能性を潰す恐れもある。それはひいては堀北の目標であるAクラスへの昇格を遠ざけることにも繋がってしまう。

 それを踏まえて自分はどう動くべきか、決めかねているのだろう。

 そんな堀北に、俺は少し声を潜めて問いかける。

 

「堀北。一つ確認したいことがある」

 

「……なに?」

 

 訝しむような堀北。

 なんの話題か理解しているからこその反応だ。

 お察しの通り、一昨日の件でございますよ。

 

「一昨日、お前が櫛田の説明中に見ていたのって……佐倉なんじゃないのか」

 

 驚き、目が大きく見開かれる。

 図星か。

 

「どうして……」

 

「昨日の朝、登校中に佐倉に声をかけられたんだ。何か言いかけてたんだが……どうも、須藤の件について話そうとしてたらしくてな。結局何にも言わずに先に学校に行ったが」

 

 佐倉の口走った「すど……」から連想される、「須藤」の名前。

 恐らく間違いないだろう。

 あの時堀北が見てた方向にも佐倉の席があった。

 

「どうなんだ」

 

 問い詰めると、堀北は観念したようにため息をついた。

 

「……どういうわけか、あなたは彼女に信頼されているようね。彼女と何かあったの?」

 

「いまそれはどうでもいいだろ……それで、なんで見てたんだ?」

 

「櫛田さんが説明しているとき、私が見た限りでは、彼女だけが目を伏せていたのよ。私やあなたのようによそ見をしていたわけじゃなく、何かを不安がるように下を向き続けていた。何か変でしょう?」

 

「……なるほど。確かに」

 

「彼女は事件について何か知っている。恐らく、須藤くんの言っていた目撃者は彼女なんじゃないかしら」

 

「……」

 

 佐倉は人と関わるのを苦手としている。目撃者を募っていたあの場で、挙手をするのは到底無理なことだった。しかし、それでは須藤を見捨てることにもつながる、という葛藤があった。

 だから櫛田の説明中に目を伏せていた。

 筋が通る。

 

「可能性はかなり高いな」

 

「ええ。少なくとも無関係な人間の反応じゃないわ」

 

 そう言うと、堀北は急に立ち上がった。

 

「ん、どこ行くんだ」

 

「直接確認しに行くのよ」

 

 佐倉の席へと歩き出す堀北。

 

「いや、おいちょっと」

 

 俺の静止の声など聞こえないようで、足早に佐倉の元へと歩いていく。

 二人の会話の声はここまで届かないが、堀北のことだ。恐らくドストレートに「あなた、須藤くんのことについて何か知ってる?」って感じで聞いてるんだろう。

 そう考えつつ二人の様子を見ていると、佐倉が席を立ち、堀北から逃げるようにして教室を出て行った。

 

「……やっぱり、そういう反応になるよな」

 

 その場に残された堀北は、すぐにこちらに戻ってくる。

 

「逃げられたわ」

 

「そりゃそうだろ。見りゃ分かる」

 

「けれど、反応からして彼女が目撃者であることは間違いなさそうね」

 

「……マジかよ、確信を得たのか」

 

 やりとりはかなり短い時間だったと思うんだが。

 

「ええ。質問したときの挙動不審具合もそうだけれど、私は『何か知ってるか』と聞いたのに、『何も見ていない』と答えたのよ」

 

「……」

 

 つまり、焦るあまり墓穴を掘ったってことか。

 気の毒に。

 ただ、間違いなく失敗すると思っていただけに、かなり意外な結果になった。

 何の成果もなく戻ってきた堀北に、交渉の何たるかを学問的見地から説いてやろうという俺の計画は崩れ去った。

 

「これで、目撃者の問題は解決ね」

 

「……まあ、そうだな。一応は」

 

 しかし、事態が進展したかといえば全くそんなことはない。

 目撃者が佐倉だというのが、また新たな悩みの種だ。

 

 

 

 

 

 1

 

 放課後。

 俺は須藤たち3人と櫛田と共に、綾小路の部屋に集まって話し合いを行っていた。

 

「目撃者が、佐倉さん……?」

 

「ああ。根拠はいま言った通りだ。半分は堀北からの伝聞だが」

 

 佐倉のことについて、この場にいる全員に共有した。

 佐倉には少し申し訳ないが……仕方ない。心の中で謝っておこう。ごめんね。

 

「まさか、こんな身近に目撃者がいたなんてな」

 

 綾小路がそう呟く。俺も同意だ。

 しかし。

 

「……なあ、佐倉って誰だっけ?」

 

 眉をへの字にして池がつぶやいた。

 おい、その段階なのか。

 池のまさかの反応に、櫛田から思わずため息が漏れる。

 

「クラスメイトくらい覚えてようよ……須藤くんの右斜め前に座ってる子だよ」

 

「右斜め前? ……ああ、なんか誰かいたような気はするぜ」

 

 そりゃ誰かはいるだろ。空席じゃないんだから。

 てか須藤も覚えてねーのかよ。

 ……まあでもよく考えてみると、仕方ない、のかもしれないな。確かに佐倉は雰囲気が地味だ。これは罵倒ではなく事実。わざわざ伊達メガネをかけてまで、本人の方が地味だと思われたがっている節があるのだから、これは侮辱でもなんでもない。

 バスケットコートで佐倉に遭遇してなかったら、俺も覚えていなかった可能性も大いにある。この点で3人を責めるのは少し酷な面もあるかもしれないな。

 と、そう思った矢先。

 

「あ、思い出したぜ! あの胸がすんげえデカいやつだろ!」

 

「え……あ、あああ、あいつか!」

 

 手法は最低のものだったが、どうやら須藤を除く二人ははっきり思い出したようだ。

 まあ、お前らプール授業のときに「佐倉の胸がデカい」とか盛り上がってたもんね。記憶の片隅に残ってたんだろう。

 そんな男子特有の下劣なやりとりの様子を、櫛田はジトッとした目で見ている。

 それに気づいた池が誤魔化すように手をわちゃわちゃさせながら言う。

 

「で、でもラッキーだよな! 同じクラスなら絶対証言してくれるぜ!」

 

 喜んで見せる池。

 ただ、話はそう単純じゃない、と綾小路が指摘する。

 

「同じクラスに目撃者がいたことが、一概にいいことだとは言えないと思うぞ。第三者からすれば、須藤は無実だったってことにするために嘘の証言者を立てた、って考えるかもしれない」

 

「無実だったってことにする、って何だよ。だから俺は本当に無実だっつってんだろ」

 

「第三者から見た場合の話で、そういう反論も想定されるってことだ。それに、証言だけじゃ証拠にはならない」

 

「え、なんでだ?」

 

「証言というのは、裏を取って初めて証拠能力を持つんだ。現段階ではその証言の真実性がどこにもない。だからこの場合は、証言しても事態は改善しない、どころかむしろ悪化する可能性もある」

 

「あ、そ、そっか……」

 

「それに、まだ佐倉さんが証言してくれるって決まったわけじゃないよね……」

 

「ああ。目撃者が見つかったのは吉報だが、オレたちが思ってるより進展はしていないと考えるべきだと思うぞ」

 

 問題はまだまだ山積みだ。佐倉という証言者が手に入ったことで進展するかと思いきや、また新たな問題が見えてくる。

 現時点では、佐倉の証言の証拠能力がなさすぎる点。

 櫛田の指摘した通り、そもそも佐倉が証言台に立ってくれるかすらまだ分からない点。

 もしもこのまま証拠能力のない証言しかできないなら、むしろ証言しない方がマシとすら考えられる。

 

「なんだよクソッ。行けると思ったのによ」

 

 悪態をつく須藤。

 我が物顔でベッドを占領してるところといい、その上なんかゲームしてるところといい、こいつ自分も原因の一端だとはこれっぽっちも思ってないな。

 困るなまったく。須藤にはいろんな意味で成長してもらいたいんだが。

 

「でも堀北ちゃん、あんなこと言っておいてしっかり須藤のために調べてくれてたんじゃん。ツンデレってやつ?」

 

「……そういや、そうだな。堀北……ありがとよ」

 

 おい須藤、髪が赤いからって頬まで赤らめるな。

 今のを堀北が聞いてたら、罵倒を交えた全否定の上に汚物を見る目が贈呈されるぞ。

 なんて考えていると、場を総括するように櫛田が口を開く。

 

「取り敢えず、このことは平田くんにも報告しておくね。いいかな、速野くん」

 

「ああ。目撃者探しなんていう無駄な行動を続けて、これ以上醜態をさらすのはやめなさい、だってよ」

 

 堀北から預かった伝言だ。

 

「ははは、堀北ちゃんの真似だろいまの! ちょっと似てるぜ速野!」

 

 なぜかツボった池と山内が笑い転げている。

 あ、そう、似てた? でもこのこと堀北には言わないでね。命の危険があるから。お互いに。

 ……それはいいとして。

 平田は今日も目撃者探しをしているはずだ。櫛田から平田に佐倉のことを伝えてもらえば、もうそんなことをする必要もなくなる。

 

「それからみんな、佐倉さんが目撃者だってわかっても、本人に強引に迫るようなことはしないでほしいの。今までよりももっと心を閉ざしちゃうと思うから。そうなったら、本当に証言してくれなくなっちゃうかもしれない。だから佐倉さんへの交渉は、全面的に私に任せてくれないかな?」

 

 忠告するように言う櫛田。

 まあ、もう堀北がそれやっちゃったけどな。

 もちろん櫛田の提案に対して反対意見が出るはずもなく、ひとまずこの場はその結論で解散となった。

 

 

 

 

 

 2

 

 その帰り。

 俺は櫛田とともに、上行きのエレベーターを待っていた。

 池と山内は、先に来た下行きのエレベーターですでにその場を離れている。

 いい機会だ。

 俺は櫛田に一つ質問することにする。

 

「なあ櫛田。須藤だけじゃなく、Cクラスの3人に関する目撃情報はあったのか?」

 

 言うと、櫛田ははっとしたような表情になった。

 俺たちは「須藤を見たか」や「喧嘩の様子を見なかったか」などは聞いて回って方が、「Cクラスの3人を見たか」については聞いていなかった。

 

「そういえば、その線では調べてなかったかも……」

 

「名前は石崎、小宮、近藤だったっけ。写真とかあるか。そいつらのこと知らなくてな」

 

「あ、うん、多分あると思うよ。ちょっと待ってね」

 

 さっと端末を操作し、俺に画面を見せてくる。

 

「これが近藤くんで、こっちが小宮くん。それからこれが石崎くんだよ」

 

「……」

 

 なるほど。

 

「ありがとう」

 

「うん、どういたしまして。他にも何かあったら何でも言ってね」

 

「ああ。助かる」

 

 会話が終わると同時に到着したエレベーターに乗り、櫛田と別れた。

 さて、どうなるかねこの事件。

 俺は最悪、須藤やクラスが処分を受けても一向にかまわないという立場だ。

 どうでもいいとすら考えている。

 いや、それは少し語弊があるか。あくまでも最悪の場合は、の話だ。

 俺が須藤擁護派として協力しているのは、それがクラスメイトとして「やるべきこと」だと思っているから。それに、得られるはずだった8700ポイントを逃したくはない、ってのもある。

 須藤が無実だってことだけは確実だ。それはつまりCクラス側が嘘を吐いているということ。それを示せればポイントは入るからな。

 ただ、俺は俺で「やりたいこと」が別にある。それさえ達成されれば、俺の中で最低限のノルマはクリアだ。

 1つ気がかりなことがあるとすれば……「やりたいこと」があるのは、どうやら俺だけではないらしい、ということだが。

 

 

 

 

 3

 

 佐倉が目撃者、という事実が発覚した翌日。

 事態は進展どころか、悪化の一途をたどっていた。

 

「ごめん、失敗しちゃった……」

 

 まず、櫛田が佐倉との交渉に失敗した。

 櫛田がやさしく語りかけても、佐倉は最後の最後まで拒絶し続けた。

 あの様子だと、誰が話しかけても同じだろう。櫛田でダメならもう無理だ。

 その上気の毒なことに、勢いよく教室を飛び出した佐倉は、廊下で他の生徒とぶつかり手に持っていたカメラを落としてしまった。

 そしてどうやら、それが落下障害か何かで壊れてしまったらしいのだ。

 一難去ってまた一難、とはよく言ったものだ。

 

「ったく。俺を助ける気あんのかよあの女。つかえねーな」

 

 そして、この謎にデカい須藤の態度。

 渦中の人間が動くのは得策じゃないから、ということで、目撃者探しなどには全く参加しなかった須藤。

 自分が何もしない中、みんなが自分のために動いている、というのを、自分が祭り上げられてると勘違いしてんじゃねえのこいつ。

 まあともかく、そういったこともあってクラスの雰囲気は悪い。

 須藤の無実の証明を諦める者も多くなってきた。

 そしてはた迷惑なことに、火に油を注ぐ者もあらわれる。

 

「使えない? 面白いことを言うのね」

 

「あ?」

 

「もう諦めたらどうかしら。佐倉さんは証言台には立ってくれない。けれどそう悲観することでもないわ。ポイントが87しかない今の時期でよかったと考えるのよ。たとえペナルティがそれを上回っていたとしても、ゼロ以下になることはない。クラスへの被害は小さく、そしてあなたは愚かな自分自身を見つめなおすいい機会を得る」

 

「……どういう意味だよそりゃ。見つめなおすも何も、俺は無実なんだよ」

 

 反発する須藤に、さらに言葉が降りかかる。

 

「君は退学したほうがいいんじゃないかな、レッドへアー君。君の存在はとても醜い」

 

 その声は高円寺のものだった。

 

 いつも通り、足を机の上で組みながら、常備している手鏡で自分の顔を眺めている。

 

「……あ? もう一度言ってみろよテメエ」

 

「同じことを繰り返すなどナンセンスさ。理解力が欠如しているようだねえ」

 

 的確に須藤の神経を逆なでていく高円寺。

 元々沸点の低い須藤を切れさせるには、それだけで十分だった。

 机を蹴り飛ばす「ドガッ」という音が教室に響く。

 

「上等だよコラ高円寺! 一発ぶん殴ってやる!」

 

「そこまでだよ二人とも。やめるんだ」

 

 そんな二人を止めに入ったのは、クラスのリーダーである平田だ。

 

「どけよ平田!」

 

「だめだ須藤くん。高円寺くんも悪いけど、今ここで君が暴れても何にもならない。むしろ学校からの心証が悪くなるだけだよ。違う?」

 

「っ……」

 

「平田くんの言う通りだよ。やめよう二人とも。私、友達が喧嘩してるところなんて見たくないよ……」

 

 櫛田も、二人の間に立って止めに入る。

 

「……ちっ」

 

 櫛田にまで止められては、さすがに須藤もこれ以上は何もしない。

 舌打ちをして、須藤は教室を出て行った。

 これまでも、このようなトラブルの種は何度かあった。

 そのたびに、平田と櫛田のコンビネーションで事態を収束させてきた。

 ガタガタに見えても、クラスのシステムは正常に機能しているということだ。

 

「一つ訂正させてもらうよ平田ボーイ。私は産まれてこのかた、間違ったと思うことはしたことがない。私が悪いというのは、君の勘違いだよ」

 

「でも、須藤くんを責め立てるのは間違ってる。彼に謝るんだ」

 

「私は悪いと思っていないのだから、謝罪する必要はどこにもないねえ。では、私はこれからデートの約束があるので失礼するよ」

 

 そう言って颯爽と立ち去るあの変人を止める者は、誰一人としていなかった。

 デートって言ってたが……あの高円寺と一緒に過ごそうと思うやつがいるなんてな。

 世界は広い。

 高円寺と須藤という台風の目が去ったことで、教室内の空気が元に戻っていく。

 

「あーあ、空気最悪だぜ、須藤のせいで」

 

「もうあきらめた方がいいんじゃね? 打つ手もないみたいだしさー」

 

 池と山内がそんな愚痴を漏らす。

 いや、2人だけではない。クラス全体として、そんな雰囲気だった。

 須藤の無実は証明できない。

 もしくは、最初から嘘を吐いていたのは須藤だった。

 だから諦めた方がいいんじゃないか、と。

 しかし、そうでない生徒もいる。

 例えば櫛田だ。

 

「……私、佐倉さんの説得をもう一度やってみる。そしたら、この状況も改善するかもしれないから」

 

 しかし、そういった生徒はもはや少数派だ。

 すぐさま堀北が否定する。

 

「とてもそうは思えないわね。昨日、話に出たんじゃないのかしら。佐倉さんが目撃者だということの問題点について」

 

「それは……そうかもしれないけど」

 

 昨日綾小路が指摘した点だ。

 その綾小路が、突然口を開いた。

 

「今回の事件が教室とかで起こったものだったら、また話は違ったと思うんだけどな」

 

 そんなことを言い出す。

 

「どういうこと?」

 

「ほら、教室にはカメラがあるだろ?」

 

 綾小路が指さす先にあるのは、2台の小型監視カメラ。

 こいつもカメラの存在に気づいてたか。

 しかし、どうやらそれは少数派のようだ。

 

「カメラなんてあったのかよ……」

 

「私も初めて知ったよ……あ、でも、5月に茶柱先生、私語の回数とか正確に言ってたよね。それって、このカメラがあったからかな」

 

「そうでしょうね。私もその時に気づいたわ」

 

「このカメラが現場にあれば、目撃者探しなんてしなくても事件は片付いてた、ってことか」

 

「ああ」

 

「まあ、確かに……」

 

 だが、それはないものねだりというものだ。

 恐らくCクラス側は、カメラのない場所を現場に選んだはず。

 カメラがないからこそ、Cクラスがこんな嘘を今の今までつき続けることができているわけで。

 ただ……それは推測に過ぎない。

 この目で見て確かめたわけじゃない。

 いや、それを抜きにしてもだ。

 暴力事件の調査をするのに、今までその現場に一度も足を運んでいないというのは、初動として致命的だったかもな。

「綾小路、それから堀北も。ちょっと頼みたいことがあるんだが」

 俺は二人に、事件現場となった特別棟への同行を頼んだ。

 

 

 

 

 

 4

 

「あっつ……」

 

 暑い。

 マジで暑い。

 特別棟では、冷暖房なんてご立派なものは機能していないらしい。一応あるにはあるんだが、それだけ。電源は切られているんだろう。

 

「どうして私たちをこんなところへ?」

 

「何か思いついたのか……?」

 

 堀北は大丈夫そうだが、綾小路にとってはこの環境に少し辛いもののようだ。

 俺の方は、どちらかと言えば堀北寄りだ。暑いが、この程度なら慣れている。

 

「いや別に。俺にはそんなたいそうな思考力はないからな。ただ、一度は現場に足を運んだ方がいいと思っただけだ。何か新しい発見もあるかもしれないし」

 

「……そうね。確かに一理あるわ」

 

「きつそうなら帰ってもいいぞ、綾小路」

 

「いや、いい。ただあんまり長居はしないでくれると助かる」

 

 やっぱりそう答えるか。

 そう考えた俺とは対照的に、堀北は綾小路の返答に意外そうな表情を浮かべる。

 

「あら、あなたなら喜んで帰ると思ったのだけど」

 

「須藤は友だちだからな。できる限り手助けしたいとは思ってる」

 

「そう。まあいいわ」

 

 自分から尋ねておいて、どうでもよさげな反応だ。ひでえ。

 そんなことを話しているうちに、現場となった特別棟の3階に着いた。

 

「ここ、本当に人通りが少ないのね。特別棟に入ってから、誰一人としてすれ違わなかったわ」

 

「向こうはそういうのも想定済みで、この場所を選んだんだろうな。監視カメラがないのも」

 

 3階に着いてからすぐに天井を探したが、まあ当然ながら、監視カメラなどあるはずがない。

 

「どうだ堀北。なんか思いつくか」

 

 現場を見回している堀北に問う。

 

「……いいえ、特には。それに、この環境では少し思考が鈍るわ」

 

「確かにな。頭がボーっとしてくる……」

 

 俺たちが日常を過ごしている校舎は冷房が完璧だからな。

 綾小路と比べて平気そうな堀北も、普段と比べれば思考が鈍るのも当然だろう。

 

「須藤にはあきらめろとか言ってた割に、策は考えてるんだな」

 

 綾小路の鋭い指摘。

 あまり突っ込まれたくないことだったのか、堀北は睨みをきかせる。

 

「いや、文句じゃない。むしろ嬉しいくらいだ。今回の件、須藤にも原因があるっていうお前の考えは、オレも間違っていないと思う。ただそれでも、Dクラスにとってプラスになるように動いてほしい」

 

 綾小路も、堀北と同じような考えのようだ。

 そしてこの言い回しからすると、綾小路は、須藤の無実を証明することと、Dクラスにとってプラスになることを別のものと考えている。

 

「……須藤くんにはああ言ったけれど、私も、須藤くんの責任はできるだけ軽くしたいと思っているわ。結果的にポイントが残るなら、それに越したことはないもの」

 

「無実を証明する、とは言わないんだな」

 

「あなたもわかっているでしょう? そんなことは不可能。だからCクラス側の嘘を暴く必要があるけれど、証拠はどこにもない」

 

 その通りだ。ここには監視カメラもなかった以上、証拠も望めない。

 俺の周辺で、Cクラスの嘘を暴けるような証拠映像、なんてものを持ってる人間なんて……まあいるわけないよな。そもそも「俺の周辺」とかいう母数の少なさと言ったらもう……

 ん?

 あれは……

 

「どうしたんだ速野」

 

 急に壁に向かって歩き出す俺を不思議がり、綾小路が聞いてきた。

 

「いや……このコンセント、なんだろうなと思って」

 

 壁の少し高い位置……そう、ちょうど監視カメラを設置するくらいの高さのところに、謎のコンセントがあるのを見つけた。

 

「まさか、監視カメラのための……? となると、カメラは設置されていた、ということ?」

 

「いや、それはないと思う。最近までカメラがついていたなら、どこかにカメラの日焼け跡みたいなのが残ってるはずだ」

 

「確かに……ないわね、日焼け跡」

 

「ああ。残念ながらな。もしついてたとしても、それは日焼け跡が消えるくらい前のこと、ってことになる」

 

 もしくは、設計上ついてるだけ、ってこともあり得る。いずれにせよ事件の証拠となるものではなかった。

 新たな発見もむなしく、また行き止まりに当たってしまう。

 これ以上ここにいても、特に進展はなさそうだ。

 

「……そろそろ戻るか」

 

「そうね」

 

 そうして、3人で引き返す。

 特に会話もなく、廊下の角を曲がったとき。

 

「うおっ」

 

「あっ……」

 

 誰かにぶつかってしまう。

 

「っ、おお……」

 

 少し驚いてしまった。

 そのぶつかった「誰か」は、他でもない、佐倉だった。

 

「あ、えっと……っ!」

 

 俺以外にも人がいることを認識し、そしてその中に堀北の存在を視認した途端、佐倉に強い動揺が走る。

 堀北は、あの時に佐倉にしっかりとトラウマを植え付けていたようだ。

 

「佐倉さん、少し聞きたいことがあるのだけど、いいかしら」

 

 そんな佐倉の心情などまったく気にしない堀北。

 堂々と真正面から佐倉に言葉をぶつける。

 

「こ、この前のことなら、私、何も知らないって……」

 

「けれどあなたは」

 

「堀北」

 

 強引な追及を試みる堀北を、綾小路が声で制した。

 想定外の行動だったのか、堀北は思わず黙り込んでしまう。

 

「さ、さよなら」

 

 その隙に、足早にその場を立ち去る佐倉。

 このまま見送るのかと思いきや、佐倉の背中に向かって綾小路が声をかける。

 

「佐倉。無理はしなくていいからな。もしお前が目撃者だったとしても、証言するかはお前の自由だ。誰かに強要されそうになったら、一人で抱え込まずオレに相談するんだ。役に立つかは分からないが、力になる」

 

 綾小路の声が廊下に響く。

 それに佐倉は立ち止まって答える。

 

「わ、私、本当に何も見てないから……人違い、だよ」

 

 あくまでも佐倉は目撃者だということを否定する。

 曲がり角を曲がっていったため、すぐに佐倉の姿は見えなくなってしまった。

 

「あなた、あれでよかったの? 千載一遇のチャンスを逃したかもしれないわよ?」

 

「佐倉があれだけ違うと言ってるんなら、やっぱり佐倉は目撃者じゃないんじゃないか。いや、もしそうだとしても、無理強いするのは違う。それにお前も言ってただろ。Dクラスの目撃者は証言としては弱いって」

 

「まあ、そうだけれど……」

 

「……」

 

 なんだろうな、この違和感。

 綾小路が佐倉に言ったことは、ある種正しい。

 証言台に立つかは佐倉の自由だ。無理強いすべきことじゃない。

 しかし、それならそっとしておけばいいだけだ。

 あそこで声をかける必要は全くなかった。ましてや、「強要されたら自分に相談しろ」なんて。

 誰の言うことも気にするな、というニュアンスの発言をしておきながら、自分を含めた誰かのことを気にさせるよう仕向けている。

 やはり綾小路は、間違いなく佐倉のことを目撃者だと考えている。

 そして佐倉を逃がしたのも、その背中に声をかけたのも、恐らく佐倉の証言を引き出すための行動だろう。

 全く、何が事なかれ主義だって? 聞いて呆れるというものだ。

 

「君たち、こんなところで何してるの?」

 

 綾小路の行動を考察していたところに、何者からか声がかかる。

 

「……」

 

 そこにいたのは、見覚えのある女子生徒だった。

 確か……一之瀬だったか。

 図書館で須藤が揉め事を起こしそうになった時に、勇敢にも止めに入った生徒だ。

 そういえばあの時、なんか俺のこと知ってる風だったけど……

 

「私たちに何か用かしら」

 

「うーん、用っていうか、純粋な疑問かな。何してるのかなーって。君たち3人ともDクラスの生徒だよね? もしかして、あの喧嘩騒ぎの調査だったりする?」

 

「……ああ、そうだ」

 

「ちょっと」

 

「ここで誤魔化しても意味はないだろ」

 

 誤魔化すことに意味をなくしたのは、一之瀬の問いに肯定した綾小路なんだがな……まあ確かに、ここで隠し通したところで、大した意味はないかもしれない。

 

「オレたちのこと知ってるのか?」

 

「中間テストのとき、図書館で集まって勉強してた3人だよね。そしてそのうちの1人が速野くん、で合ってるよね?」

 

 名指しされ、少し驚く。

 え、なんで知ってんの。名乗った覚えないんだけど。

 

「ありゃ、これは自覚なしかな? あの小テストで満点を獲得した、Dクラスの速野知幸くん。君かなり有名だよ? まさかこんなところで会うなんてね」

 

 ……マジか。

 正直全く自覚はなかった。

 そしてなぜか堀北からにらまれる始末。なんだよ……。

 いやーでもそっかー、俺が有名人かー。はははーいやー光栄だなー。なのになんでこんなに友達少ないんだろうね?

 そんなどうでもいいことを考えていると、堀北が一歩前に出て、一之瀬に言う。

 

「確かに私たちは、暴力事件の調査のためにここに来たわ。そうだとしても、DクラスでもCクラスでもないあなたに何か関係がある?」

 

 ……どうしてこう、初対面の相手に常に喧嘩腰なんだこいつは。敵意なんて人に簡単に向けるもんじゃないぞ。

 しかし、相手の一之瀬はそれを軽くいなすようにして答える。

 

「うーん、関係があるかと言われれば、直接の関係はないね。でも騒動の概要を聞いてちょっと気になることがあったから、一度現場に行ってみようと思ってここに来たの。そしたら、君たち3人に遭遇したってわけ」

 

 つまり、完全なる興味本位ってことか。

 一之瀬はさらに続ける。

 

「よかったら、事情聞かせてくれないかな? この前私がいないタイミングで、Dクラスの子がBクラスに目撃者を探しにきた、っていうのは知ってたけど、それ以外は、Dクラスの須藤くんとCクラス3人の間で喧嘩騒ぎがあった、みたいなことしか説明されてなくって」

 

 一之瀬の言葉を受け、どうすべきか、一瞬綾小路と顔を見合わせる。

 その後堀北の方にも目を向けたが、こちらのことなど知らん顔で「勝手にしろ」と言っているようだった。

 なら、まあ話してもいいか。

 綾小路が説明を行う。

 

「実は……」

 

 一之瀬のほうは、綾小路の説明に時折相槌を打ちながら、頭の中で状況を整理していっているようだ。

 

「うーん、なるほどね。それで目撃者探しを……ねえ、これって結構大きな問題なんじゃない? 絶対にどちらかが嘘を吐いてるってことだよね」

 

「ああ。オレたちは何としてもCクラスの嘘を暴く必要がある。それでこの現場に足を運んだんだ。まあ、事件の手がかりみたいなのは何も見つけられなかったが」

 

 まるでそれ以外の手がかりは見つけられたみたいな言い方だが……いや、今は細かいことはいいか。

 

「君たちはもちろん、須藤くんの言い分を信じて調べてるんだよね?」

 

「ああ」

 

「それって、何か根拠のあることだったりする?」

 

 須藤の言い分を信じるに足る根拠か……。

 Dクラスとしては、そんなものは持ち合わせていない、というのが答えだな。クラスメイトだから一応信じているだけ、というのがほとんどだろう。

 

「ないわね。だからもし彼が嘘を吐いているんだとしたら、正直に告白させる」

 

「うん、私もそうすべきだと思うよ」

 

 タイムリミットは来週火曜の話し合い。

 もし須藤が嘘を吐いているなら、なるべく早くそれを学校側に伝える必要があるのは間違いない。

 

「もしよかったらさ、手伝おうか? 事件を調べるのとか、目撃者探しも含めて」

 

 思いがけない提案。

 これにはさすがに、先ほどはスルーだった堀北も反応を示す。

 

「ちょっと待って。どうしてそういう話になるのかしら。これも単なる興味本位だと言うのなら、もう手を引いてほしいのだけど」

 

「興味本位、っていうのもないとは言わないよ。でもそれ以上に、このままだと嘘を吐いた方に有利な結末になっちゃうよね。クラス間対決の色の強いこの学校で、それはすごくまずいことだと思うから。それに、事情を聞いちゃった以上は見過ごせないしね」

 

 前半はともかく、後半に関しては、一之瀬は事情を聞こうとした時点で俺たちを手伝おうと考えていた、ってことになるんじゃないか。

 

「裏がないとは考えられないわ」

 

 正直、それは俺も同感だ。

 パッと見た感じ悪意は感じられないが……だからこそ信じきれない部分がある。

俺たちを手伝ったところで、Bクラスの一之瀬にメリットがあるとは考えづらい。となれば、俺たちの気づかないメリットが一之瀬の中にはある、と考えるのが妥当だ。

 そんな疑心暗鬼な俺たちに、一之瀬は続けた。

 

「私はあくまで真相の追及に手を貸すだけ、ってことでどうかな? もちろん、調べていく中でDクラス側に不利な証拠や証言が出てくる可能性もある。これでもまだ裏を感じる?」

 

「……そこまでして手伝いたいのか」

 

「さっきも言ったでしょ? 嘘をついた側に有利な結末にはさせたくないし、ここまで聞いたら放ってもおけない。まあ、偽善って思われても仕方ないかもしれないけど……私としては、そんなに重いものを背負うつもりもないしね」

 

 聞いた限りではだが……構わない、と思う。

 たとえ一之瀬に何か裏があったとしても、それは恐らく俺たちを害するものではなく、Bクラス、もしくは一之瀬個人の得になるもの、だと思う。

 俺たちはいま、須藤の無実を証明するために何ふり構っていられない状態なのだ。俺たちの助けになるなら、それを利用して得でもなんでもしてくださって一向にかまわない。

 それに、一之瀬のことが信用できないと判断したら、それ以降は一之瀬の話に耳を傾けなければいい。

 

「手伝ってもらいましょう」

 

 答えを決めたのは堀北だった。

 どんな思考経路だったかは分からないが、行きついた結論は俺と同じだったようだ。

 

「うん、分かった。えっと……」

 

「堀北よ」

 

「綾小路だ」

 

 二人が名乗る。さすがに堀北も、協力相手に自己紹介を渋るほど常識外れではなかったようだ。

 

 俺はすでにフルネームまで知られているため名乗らなくてもいいと判断し、二人に続いて軽く会釈をするにとどめる。

 

「よろしくね3人とも。早速質問なんだけど、調べていた目撃者は見つかったの?」

 

「ええ、それ自体は見つけたわ。Dクラスの生徒だったけれど」

 

「あちゃー、それは……幸い中の不幸、って感じだね」

 

 一之瀬は、同じクラスから目撃者が出てしまったことの問題点にすぐに気づいたらしい。

 やり取りしていて分かるが、頭の回転が速い。優秀だ。さすがはBクラスってところか。

 

「でも、他に目撃者がいないとは限らないしね」

 

「ええ。望みは薄いと思うけれど、今は目撃者の目撃者、そしてCクラス3人の方の目撃者、という線でも探しているらしいわ」

 

 らしい、という語尾を使い、自分は関与していないことを暗に示す堀北。

 

「でも、凄いよね須藤くん。一年生でバスケのレギュラーなんて。大会とかで活躍すればクラスポイントも入るし、身体能力の面で今後Dクラスのかなりの戦力に……あれ、どうしたの?」

 

 ……おいおい、なんて言った今。

 

「クラスポイントが入る……?」

 

「え、もしかして知らなかった?」

 

「私たちが聞いていたのは、活躍した個人にポイントが入ることだけ。それすら先日初めて聞かされたというのに……これは明日、すぐにでも追い詰める必要がありそうね」

 

 おお、問い詰めるんじゃなくて追い詰めるのか……恐ろしい。

 その様子をみた一之瀬が不思議そうに言う。

 

「なんか変だね、君たちの担任の先生。私たちの担任、こういう情報は5月になった瞬間に私たちに伝えてきたよ? みんな頑張ってポイントを稼いでねって。何でも、卒業時のクラスがそのまま査定に関わるらしくて」

 

 ……そうなのか。

 なんだ、この学校では教師にも実力主義が適用されるって話、当たってんじゃん。

 となると恐らく、配属クラスに関してもそれまでの実績が重視されると考えられる。

 優秀な実績をあげればAへ、ダメならDへ。

 

「無欲なのか何なのか……教師の査定なんてどうでもいいけれど、私たちに伝えるべき情報を伝えないのは迷惑極まりないわね」

 

「ここまで情報格差があると、クラス間で争う以前の問題だよね。Dクラスだけ土俵に上がらせてもらえてない感じがするよ」

 

「まさか、敵に塩を送られる形になるとは思わなかったわ」

 

 ここまでくると、もうわざととしか考えられない。

 担任として楽しみに見ておこう、とか言ってたくせに……。

 いったい何がしたいんだあの人は。

 

「なんていうか、色々気になることはあるけど……取り敢えず、円滑に連絡を取るために、3人の連絡先教えてくれないかな?」

 

「ああ、分かった」

 

 俺と綾小路は端末を取り出して一之瀬の元へ行くが、堀北は動かなかった。

 ……頑なだなーこいつ。そういう姿勢、損はしても得はしないと思うんだが。

 前言撤回だ。堀北は協力者相手との連絡先の交換を渋る常識はずれなやつだった。

 

 

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