実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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証明のためにⅢ

 櫛田たちと共に家電量販店へ出かけた翌日の月曜日。

 言うまでもなく登校日だ。

 空調が効いているのは、当然ながら寮のロビーまで。

 通学路を歩く数分間は、とてつもない猛暑に晒される。

 ロビーを出て数秒だというのに、既にエアコンが恋しい。もはや依存症の域だ。

 まあでもそれは一面では事実かもしれないな。最近では、エアコンを憲法25条における最低限度の生活の維持に必要不可欠な物資として認めろ、と求める動きが強まっているという。

 つまり人間は、こんなクソ暑い中でエアコンなしでは生きてはいけないってことだ。

 くそったれ。太陽なんてほくろだらけになっちまえばいいんだ(黒点)。

 そんな、俺たちを容赦なく照らすお天道様への恨みつらみを心の中で述べていたところだった。

 目の前に見知った顔を発見する。

 

「綾小路……?」

 

 寮のロビーを出てすぐのところにある掲示板の前に立ち、それを眺めていた。

 声をかける。

 

「何やってるんだ」

 

 すると、綾小路は振り返り、なんだお前か、という顔をする。俺で悪かったな。

 

「いや、これを見てたんだ」

 

 綾小路が指さしたのは、掲示板にいくつかある貼り紙の中の一つ。

 

「これは……須藤の喧嘩の目撃者を募る掲示か……報奨のポイントまで」

 

「こんなことできるのは……」

 

「ああ、多分な」

 

 掲示を見て感心していた俺たち。

 

「おはよー速野くん、綾小路くん」

 

 そんな俺たちに、後ろから声がかかる。

 暑さを打ち破るような、快活で清涼感のある声。

 Bクラス、一之瀬のものだった。

 

「おはよう一之瀬」

 

「おはよう」

 

「うん、おはよう二人とも。何してたの?」

 

「この掲示を見てたんだ。一之瀬がやってくれたのか」

 

 綾小路が問うと、一之瀬がその掲示を覗き込む。

 

「ふむふむ、なるほど……確かにこの形での呼びかけは考えてなかったな。良い手だね。でも、これをやったのは私じゃないよ」

 

「え、そうなのか」

 

「うん。多分これは……あ、ちょうどいいところに。神崎くーん」

 

 神崎……?

 俺たちの知らない名前が一之瀬の口から出る。

 その声に反応した男子生徒が、ゆっくりこちらに近づいてきた。

 

「おはよう神崎くん。この張り紙、神崎くんだよね?」

 

「ああ。金曜日の夕方にな。この場所は生徒全員が例外なく通る場所だから、掲示には最適だと思ったんだ」

 

「さすがだよ。これなら人の目に留まりやすいね」

 

 金曜の夕方……となると、俺は少なくとも、今この瞬間を除いて5回ほどこの場所を通る機会があったわけだが、まったく目に入らなかった。

 この場所の掲示事項は、部活の部員募集だったりが大半だからな。多くの生徒はそんなに注目していないだろう。だがそれでも、一人ひとりに確認を取るよりは効率的だ。

 

「……助かる。わざわざポイントまで」

 

「礼には及ばない。お前は確か、速野だったな」

 

 神崎という名前らしいその少年は、俺の目を見てそう言った。

 

「……知ってるのか」

 

「にゃはは、だから言ったじゃない。速野くん有名だよって」

 

「そうだったな……」

 

 俺の名前は予想以上に一人歩きしてしまっているらしい。

 もちろん、警戒対象としてだろうけど。神崎の視線がちょっと鋭かった。

 

「もう一人の彼は綾小路くん」

 

「神崎だ。よろしく」

 

「よろしく」

 

 初対面の挨拶と同時に握手を交わす二人。

 そんな穏やかな様子を、少し羨ましく思ってしまう。

 学力だけの俺なんかより、綾小路の方を警戒したほうが絶対にいい……なんてことを、この場で言い出せるわけはないんだが。

 

「何か情報はあった?」

 

「いや、残念ながら有力なものはなにも」

 

「うーん、そっか……私も掲示板見てみよっかな」

 

「掲示板? 他にも何か貼ってるのか?」

 

「にゃはは、違うよ綾小路くん。私の掲示板はこっち」

 

 そう言って、一之瀬は自身の端末を指し示す。

 

「学校のホームページに、インターネット掲示板があるんだよ。そこで情報提供を呼び掛けてたんだ」

 

 言われて、綾小路が自身の端末でも調べ始める。

 俺はそれをのぞかせてもらうことにした。

 

「なるほど……閲覧者数もみられるのか。しかもこっちにもポイントを……」

 

 プライベートポイントの支払いが滞っている原因でもあるこの事件の注目度はそれなりに高く、多くの生徒がこの掲示板を閲覧しているようだ。

 

「ほんと悪いな、何から何まで」

 

「ううん、気にしないで。私たちが勝手にやってることだから。えーっと……あ」

 

「どうかしたか?」

 

「うん、書き込みについて、2件ほどメールで来てるみたい。えーっとどれどれ……Cクラスの3人のうちの石崎くん、中学時代は相当な悪だったらしくて、喧嘩の腕も立つみたいだよ。地元じゃかなり恐れられてたって」

 

 俺が藤野から聞いたものと全く同じものだ。

 

 俺はこの情報を、櫛田や平田をはじめとするDクラスの面々に共有していなかった。

 

「学外のことについては裏取りは不可能だが、もしも事実だとしたら興味深いな。バスケ部2人に、喧嘩慣れした人物が1人。その3人が須藤1人に一方的にやられたというのは不自然だ。須藤にやられたのはわざとかもしれない」

 

 かなり頭の回るらしい神崎が、素早く筋の通った推測を立てる。

 

「うん、私もそう思う。でも、これだけだとまだ弱いかな……」

 

「そうだな。須藤が暴力をふるったという事実を帳消しにできるほどのものじゃない。うまく心証を操作できても、よくて須藤6、Cクラス側4が限界というところだろう」

 

「うーん、そうだねえ……。Dクラスの方はどう? 目撃者について、何か進展あった?」

 

 俺はそれに答えようとしたが、出しかけた声を打ち消すようにして綾小路が言った。

 

「いや、それについてはまだ何とも言えない。交渉中だ」

 

「うーん、そっか……何か事情があるのかな」

 

 ……言わないのか、この2人に。

 堀北じゃあるまいし、知らせたくないってわけじゃないんだろうが……。

 佐倉が態度を翻したときの逃げ道を作ってやるつもりか。

 

「取り敢えず、約束は果たさないとね。情報をくれた子にポイントを……あれ、相手は匿名か。どうやって送ればいいんだろ……?」

 

「ああ、そのやり方ならオレが知ってる」

 

 その様子を見て、俺はその場を立ち去る。

 

「ふたりとも、協力ありがとう。俺はそろそろ登校するから。またの機会に礼をさせてくれ」

 

「そんな、気にしなくてもいいんだよ。行ってらっしゃーい」

 

「ああ」

 

 少し小走りで寮の敷地を出て、学校へ続く横断歩道を渡る。

 その途中、ピロン、と、俺の端末に通知が来た。

 

 

 

 

 

 1

 

「おはよう、速野くん」

 

 教室に入り、自分の席に向かっていたとき。

 すれ違いざま、佐倉に挨拶をされた。

 

「あ、ああ……おはよう」

 

「……うん」

 

 なんだ……?

 何か、俺を見る目が前と違うような……

 

「……」

 

 ……いや、そういうことか。

 そうか。

 佐倉、気づいたんだな。

 俺のわずかな認識の変化に。

 恐らく、彼女の中でも根拠があるわけじゃない。

 当然のことながら、日曜日に寮のエレベーターで別れてから、彼女と顔を合わせるのは今が初めてだ。

 だから、直感だろう。

 しかし確かに感じ取ったのだ。

 俺が……佐倉のもう一つの顔……グラビアアイドル「雫」としての顔を持っていることに気づいた、ということを。

 

 

 

 

 

 2

 

 その日の昼休み。

 教室の隅っこ、俺たちの席付近で、明日の話し合いに向けた作戦会議を開いていた。

 参加メンバーは、当初目撃者探しの櫛田班として動いていた5人に須藤、堀北を加えた7人。

 

「先生の言い方、ちょっと酷かったと思わない? あれじゃあ、勇気を出した佐倉さんがかわいそうだよ……」

 

 朝のホームルーム終了後、櫛田と俺、堀北、綾小路は、佐倉を連れて茶柱先生のもとに報告へ行った。

 しかし茶柱先生は、佐倉が目撃者だという話を最後まで疑っていた。

 なぜもっと早く名乗り出なかったのか、などと、佐倉を責めるように。

 

「あれくらいは言われて当然よ。全て事実だもの。それに佐倉さんが悪いわけじゃないわ。恐らく、佐倉さん以外のDクラスの生徒が佐倉さんより早く目撃者として名乗り出ていたとしても、状況は大して変わらなかったでしょうね。目撃者がDクラスの生徒だった時点で、避けることのできない問題よ」

 

「そう、かもしれないけど……」

 

 櫛田はどこか納得のいかない様子で目を伏せる。

 そんな櫛田の様子など知らん顔で、堀北はそのまま話を続ける。

 

「明日の話し合いには、須藤くんに加えてあと二人、Dクラス側の弁護役として参加することが認められたわ。参加するのは私と……あなたたち二人のどちらかになる」

 

 どちらかというのは、当然俺と綾小路。

 譲り合いという名の押し付け合いになるかと思われたが。

 

「……俺がやるよ」

 

 自分から名乗り出た。

 話がこじれて、呆れられるよりはいい。

 

「……意外ね。立候補するなんて」

 

「自分でもそう思うが……綾小路もできればやりたくないだろ?」

 

 当然、とでも言わんばかりに綾小路が頷く。

 

「おいおい、大丈夫かよ速野。お前で」

 

 何やら文句ありげな視線を須藤に向けられる。

 綾小路をご所望だったか?

 

「何かご不満かしら須藤くん?」

 

「い、いや、不満ってほどのことじゃねえんだけどよ」

 

「なら文句を言わないで。速野くんでも綾小路くんでも、あなたよりはよほど弁が立つわ」

 

「ケッ」

 

 赤い髪をした暴れ馬も、想い人である堀北にかかればタジタジだ。

 

「……まあ、頼りないっていうお前の気持ちは分かるが、できるだけ頑張るから我慢してくれ須藤」

 

 俺も8700ポイントは欲しいしな。

 そんな中、隣が少し騒がしくなる。

 

「おい、ちょ、返せよ寛治」

 

「いいじゃんかよ、俺もポイント半分出してんだからさ。読み終わったらすぐ返すって」

 

 どうやら漫画雑誌を取り合っているようだ。小学生か。

 こいつらほんと、参加するならするで話くらいはちゃんと聞いてくれよ。堀北に粗大ごみを見る目で見られてるぞ。

 その喧騒の中、櫛田がぼそりとつぶやく。

 

「……もしかして……」

 

「どうした櫛田?」

 

「あ、ううん、何でもない。明日は頑張ってね、堀北さん、速野くんっ」

 

 そういって受け流す櫛田だが……昨日もこんな感じのやり取りがあったよな。

 昨日のと何か関連があるのか?

 

 

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