実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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大暑の一幕~運動~

 暑い。

 暑い。

 それから暑い。

 あと暑い。

 暑い暑いうるせえと思うかもしれないが、本当に暑いんだから仕方がない。あっつ。

 ただそれは自業自得というか、こんな真っ昼間に俺が室内にいないのが主な原因だ。

 今俺がいる場所は、通学路とは反対の方角に位置するバスケットコート。以前佐倉と遭遇した場所でもある。

 こんな場所でやることといえば一つしかないわけで。

 もちろん、バスケである。

 いやまあ、佐倉はここで自撮りしてたが……例外だろう。

 バスケは俺の数少ない趣味の一つだ。

 BリーグやNBAなどにはあまり興味はない。プレイ専門だ。

 今月は8700ポイントしか支給されなかったDクラスだが、俺には男子バスケ用公式球を余裕で買えるくらいの財力はある。

 幼少期に父親に教わって以来、ずっと続けている。部活に入ったことはないが。

 小学校高学年、そして中学時代、友達が一人もいなかった時期でも、バスケは継続してやっていた。

 そこら辺のバスケ部員よりも、バスケ歴は長いくらいだろう。

 ただしずっと一人でやり続けてきたので、技術の発展具合はかなり極端だ。

 合同練習が必要なパスやディフェンスは並以下。

 できるのは、一人でいくらでも練習できるシュートとハンドリングくらいか。ドリブルもスムーズにはできるが、対人戦などほぼ経験がないので、相手を抜き去ることができるかは分からない。

 ドリブルからレイアップシュートを決め、ボールがゴールネットをスパッと綺麗に通り抜ける。

 そのボールが地面に落ちるダムッという音が聞こえた直後、俺は膝に手をついて、切れた息を整える。

 

「はぁ、はぁ……ふう、きっつ……」

 

 尋常じゃないほどの汗の量だ。今のように頭を下に向けていると、コートにポタポタと滝のように汗が滴る。

 すでに大量に汗を吸い込んだタオルで顔を拭き取り、持ってきていた無料のミネラルウォーターで水分補給を行う。

 上着なんて、汗で湿っていない場所を探す方が難しいくらいだ。放置したら馬鹿みたいに臭くなりそうだし、帰ったらシャワー入って即洗濯だな……。

 そんなことを考えていた時。

 

「おお、誰かと思えば速野じゃねえか」

 

 バスケットコートに、同じDクラスの同級生、須藤が姿を表した。

 

「……おう」

 

「お前バスケ好きだったのか」

 

「まあな。……みたとこ、部活前か」

 

 須藤は動きやすい恰好をしており、スポーツ用のセカンドバッグを肩にかけていた。

 

「ああ。練習は1時からなんだけどよ。その前に軽く動こうと思ってな」

 

「なるほどな……」

 

「にしてもお前、バスケ好きなんてわかってんじゃねえか。やっぱり一番だよなあ!」

 

 俺をバスケ好きの仲間だと考え、嬉しそうにそう言った。

 

「いや、まあ、球技の中ではな……てか、正直意外だ。お前個人競技向きなんじゃないのか」

 

 こいつほどの体格と身体能力があれば、練習すれば割とどのスポーツでも高いレベルまで到達できそうだが。実際、水泳なんて本当に速かったし。高円寺に負けはしたが。

 

「最初は俺もそう思ってたんだけどな。実際やってみたら、バスケが一番しっくり来たんだ」

 

「へえ……」

 

 まあそういうこともあるか。

 懸念点としては、須藤にチームプレーができるかどうかだが……まあレギュラーに選ばれるくらいだし、そこら辺はしっかりやってる、と考えていいのか。

 

「それよりちょうどよかったぜ速野。やろうぜ、1on1」

 

 嬉々としてそんな提案をしてきた。

 

「いや……勝負にならんだろ」

 

「いいからやってみようぜ! な?」

 

「……俺が雑魚過ぎて文句言うなよ」

 

「わあってるって」

 

 ほんとにわかってんのかな、こいつ……

 

 

 

 

 

 1

 

「はぁ、はぁ……須藤お前馬鹿か、ダンクなんか止められるわけねえだろ……」

 

 須藤の動きは、実際に相手取ってみると想像のはるか上を行っていた。

 ドリブルは力強く、動きは素早い。それでいてパワーも十分。レギュラーに選ばれるのも納得だ。

 

「もう時間ねえし、お前のボールで最後な。ほらよ」

 

「ああ……」

 

 須藤からボールを受け取り、まずは息を整える。

 すこし落ち着いたところで、ドリブルを始めた。

 須藤は俺から少し距離を取っている。

 まだあまり警戒してる様子はない。

 これならいけるか。

 俺はドリブルをやめ、シュートを放った。

 

「は!?」

 

 驚きの声を上げる須藤。

 無理もない。

 俺の位置は、スリーポイントラインから3メートルほど後方。

 こんなところから打っても、入らない。いや、入る入らない以前に届かない。

 だから警戒なんてしないし、すべきじゃない。ディフェンスは距離をとってドライブに備えるべきだ。須藤の選択は正しい。

 しかし俺の放ったボールは、リングの中心をスパッと通過した。

 

「う、うそだろ……」

 

 フリーの状態からのスリーポイント。

 俺がバスケで一番得意な動きだ。

 この距離でも届くような体の使い方、力の入れ具合のコツをつかんでから、何千何万と練習してきた。

 

「も、もっかいだ!」

 

「いや、でもお前、さっき最後って」

 

「いいから!」

 

 そういって、こちらにボールを渡してくる。

 ならば、と俺はその瞬間にシュート体制に入った。

 

「させるか!」

 

 須藤が距離を詰め、ブロックをしにくる。

 しかし須藤の足が地面から離れた瞬間、俺はボールを前に突いて、右から抜き去る。

 

「くそっ!」

 

「……はやっ、マジか」

 

 完全に置き去りにできたと思っていたのに、フリースローラインを越えたところですでに須藤の姿が左に見えた。

 追いつかれた。

 このままレイアップに行ったら、ボールは間違いなく叩き落される。

 そのため俺は、シュートをフローターに変えた。

 

「があっ! 届けっ!!!」

 

「おおっ……!」

 

 ボールはすこし高めの弧を描き、ガツン、とリングにぶつかる。そこから落ちてきたボールもまたぶつかる。それを繰り返し、そのうちリングの上をぐるぐると回る。

 入るか入らないか、と見ていたところ……ボールは、リングの外側に落ちた。

 

「っし!」

 

 ガッツポーズを作って喜ぶ須藤。

 

「……お前、触ってたのか」

 

「まあな。ギリギリだったぜ」

 

 目ではわからなかったが、どうやらそれでボールの軌道が変わっていたらしい。

 

「これで満足したか」

 

「ああ。あんがとよ。つかお前、マジで上手いな。絶対バスケ部入ったほうがいいぜ」

 

「いや……部活はちょっとな」

 

「そんなこと言うなって。練習して体鍛えたら、レギュラーもあり得るぜ!」

 

「いいって言ってるだろ。入らん」

 

「か、頑なだなオイ……まあ、無理には言わねえけどよ」

 

「そうしてくれ」

 

 なんとか面倒な事態はさけられそうだ。

 

「っと、もう時間だ。わりいな。部活行ってくる」

 

「ああ。頑張ってくれ」

 

 軽く汗を拭きながら、須藤はコートを出ていく。

 レギュラーとして活躍して、その暁には是非とも俺たちにクラスポイントをもたらしてもらいたい。

 

「……俺もそろそろ終わるか」

 

 キリもいいので、今日のところはここで引き上げることにした。

 

 

 

 

 

 2

 

「ふあぁ……あーよく寝た」

 

 バスケから帰ってきた俺はすぐにシャワーを浴びて着替え、爆睡した。

 あんな炎天下で動き回っていれば、疲労の蓄積も半端ではない。そんなに長い時間眠っているつもりはなかったが、現在時刻は午後6時で、軽く5時間は寝ていた計算になる。

 夕飯の時間だし、何か作るか……と思って台所に向かおうとしたところで、不在着信があるのに気づく。

 合わせて3件。全て堀北からだった。

 須藤の件以来、こうして堀北から不在着信が入ることが多い。

 まあなぜ不在着信かといえば、単純に俺が全部無視してるってのが理由なんだが。

 今日も折り返すことはせず、そのまま放置しておこうとした瞬間だった。

 堀北からまた着信が来てしまった。

 

「……」

 

 ちょうど端末を手に持ってる時にドンピシャでかかってくるのは初めてだ。

 同じ着信を無視するという行為でも、端末が手元にないときとあるときでは罪悪感が全然違う。

 それに……。

 

「……はあ」

 

 もういいか。取ろう。

 受話器のマークをタップし、端末を右耳にあてる。

 

「……もしもし?」

 

『覚悟はできているかしら』

 

 電話に出た瞬間、ノータイムでそう告げられる。

 

「……なんのことですか」

 

『私からの着信、散々無視してくれたわね』

 

「ちょうど手が離せなかったんだよ。で、何の用だ」

 

 話が拗れそうだったので、話をそらして要件を促す。

 

『この……まあいいわ』

 

 何を言いかけたのか気になるところだが、突っ込まない。怖いし。

 

『要件はあなたもわかっているはずよね。生徒会室での話し合い、あの時のあなたの発言。一体どういうことなのか、きっちり説明してもらうわよ』

 

 やっぱり、それだよなあ。

 俺は素直に答えることはせず……逆に問い返す。

 

「お前はどう思ってるんだ。俺のあの奇行について」

 

『……素直に答えなさい』

 

「まずは自分の考えを言ってみろよ。今日まで散々考えてたんだろ?」

 

 考えてた、というより、無意識のうちに頭がそのことに考えを回してしまう、という言い方が正しいだろう。

 

『……あなたが私たちを現場に行かせたことも、話し合いの最後であなたが一人語りを始めたことも、私にあの策を思いつかせるための誘導……そうよね』

 

 やっぱり、そこまでは考えが及んでいたか。

 俺は答える。

 

「少し違う」

 

『……どういうこと?』

 

「確かに現場に行こうと提案したのは俺だ。だが、そのきっかけとなった言葉は誰が発したものだった?」

 

 俺の思考はこうだ。

 特別棟に監視カメラはおそらくない→しかし、まだ直接この目で確認したわけじゃない→ならば現場に行く必要がある。

 

『……まさか、綾小路くんの……?』

 

 気づいたみたいだな。

 

「それにだ。あの話し合い、参加してたのは俺たちだけじゃないんだよ」

 

 参加した、ということと、あの場にいた、ということは必ずしもイコールじゃない。

 

『……分からないわ。一体どういうこと?』

 

「俺はあの話し合い中、ずっと綾小路と通話をつないでたんだ」

 

『っ! そんなことが……』

 

 綾小路は、話し合いの様子をずっと聞いていたのだ。

 

『……なるほど、だから討論終了直後、綾小路くんが生徒会室の前にいたのね』

 

 話し合いの様子が通話で分かっていれば、それが終了するタイミングも把握できる。

 

「そういうことだ。これで俺の行動の理由、片付いただろ」

 

 堀北にとって納得のいかないあの時の俺の行動は、全て裏から綾小路が糸を引いていた。

 そう結論づけられる。

 

『ちょっと待って』

 

 しかし、まだ引き下がらないようだ。

 

「……まだ何かあるのか」

 

『まだ疑問は解消されていないわ。あなたの日の入り時刻に基づいた推定……あれも綾小路くんがやったものだとは言わないわよね』

 

「……」

 

『彼の最終的な目的は、私に監視カメラの策略を思いつかせることだった。けれどあなたのあの行動に関しては、その目的から外れているわ。つまりあれは、あなたが独自に動いたこと』

 

 鋭いな、結構。

 やっぱり根本的にこいつは頭がいい。

 ここは素直に答える。

 

「ああ、あれは自分で頑張ったことだよ。俺だってDクラスが負けるのは嫌だからな。結局、ほとんど効果はなかったけど」

 

『だとしたらどうして、まるで私が考えていたことのように言ったの?』

 

 そこはやっぱり気にしてるよな。

 

「まあ、あれだよ。ああいうのは、お前の考えってことにしといた方がキャラ的に合ってるだろ」

 

『ふざけないで。真面目に答えなさい』

 

「いや……結構マジなんだけどな、この答え」

 

 いたって真面目なトーンで言うと、堀北は黙りこんだ。

 少し間を開け、電話口から声が聞こえてくる。

 

『……つまりあなたは、目立ちたくないから、私を隠れ蓑に利用しようと?』

 

「当たらずとも遠からずだ」

 

 堀北を隠れ蓑に使うというのは正しい。だが、それは単に「目立ちたくないから」という理由だけではない。

 ……まあ、ここまでしゃべったんだから、あとは自分の頭で考えていただくことにしよう。

 

「もういいか。切るぞ」

 

『ちょ、ちょっとまっ』

 

 言い終わる前に、俺は通話を切った。

 追い打ちで着信が来ることを予想し、俺は通信をオフにして端末を置いた。

 キッチンに移動し、蛇口をひねって手を洗いつつ、つぶやく。

 

「……俺は別に、どっかの誰かみたいに事なかれ主義ってわけじゃないぞ」

 

 そこを一緒にされてもらっては困る。

 

 俺が……。

 

 俺が、このポイントがモノを言う「実力主義の学校」で、やりたいことは……

 

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