実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
茶柱先生に解散を告げられたDクラスは、早速荷物を持って森の中へと入って行った。
しかし俺はそこから外れ、現在は池、須藤、山内とともに森の探索へ向かっている。
スポットはもちろんそうだが、森の様子や、食料のありかなども目的の一つだ。
このままクラス全員で固まっていても仕方がないということで、平田も止められなかった。
「にしても意外だったぜ速野。お前が俺たちについてくるなんてよ」
最後尾を歩く俺に、須藤が話しかけてくる。
「は? 誘ったのお前だろ須藤」
「そりゃそうだけどよ。ダメ元ってやつだよ。断ると思ってたぜ」
「荷物持ちするよりは楽かと思ってな」
「んだよそんな理由かよ」
呆れられてしまう。
「別にいいだろそんな理由で。スポットの探索だってそこそこ大変だぞ。暑いし、綾小路は即答で断ってただろ」
「まあな」
最初に探索に名乗りを上げた池、須藤、山内の3人のほか、須藤が追加で俺と綾小路を誘い、俺はその誘いを受けたという流れだ。
森の中の道なき道を、池を先頭にして進んでいく。
「なあ寛治、道忘れてないよな……?」
不安そうにつぶやく山内だが、一方の池はそこまで気にしている様子はない。
「なんだよ春樹、心配性だな。大丈夫だって。海の方まで出れば、あとは適当に浜辺を歩いたらクラスに合流できるって」
「あ、そ、そうか……」
こういう場所で迷った際の基本だな。とにかく開けた場所に出ること。それを知っている池、こういったことに慣れてるのか。
ちょっと聞いてみるか。
「池、お前、こういう森とかって慣れてるのか」
「ん、まあ、少しはなー。子どものころ、よく家族でキャンプしてたからさ。迷ったときの対処法とか、父さんに叩き込まれたんだ」
「なるほどな……」
とすればこの試験、池はクラスにかなり貢献するかもな。
火起こしだったり、森で食べられる植物だったり……。
「……」
と、俺はその場で立ち止まる。
それに気づいた須藤がこちらを振り返って言った。
「どうしたんだよ速野。はぐれちまうぞ」
「悪い須藤、トイレ行きたくなってな。やっぱ戻るわ」
「は!? マジかよ!」
驚きを見せる須藤。
「悪いって」
「ったく、しゃーねえなあ。平田に一人で行動すんなって言われたし、俺がついてってやるよ」
「いやいい。まだそんなに距離歩いてないし、木の間から海岸も見えてる。さすがに迷ったりしない」
そう言って、須藤がこちらについてくる前に逆方向へと歩き出す。
「どうしたんだ健。あれ、速野は?」
俺と須藤がついてきていないことに気付いた山内。
「あいつトイレ行きてえから戻るってよ」
「はあ? お前馬鹿だなあ」
「馬鹿って……馬鹿で悪かったな……」
須藤に呆れられた挙句、山内に馬鹿にされるとは……。
まあ下船前にトイレ済ませとけって指示あったし、ここで催すのは確かに馬鹿なやつかもしれんが……。
こんなところで悠長にしてる場合じゃない。もうあまり余裕がないんだ。
「おい、マジで気をつけろよ! 迷っても知らねえからな!」
「ああ、肝に銘じとくよ」
そう答え、俺は須藤たちを見送った。
そして3人の背中が完全に見えなくなったことを確認し、俺は歩き出した。
1
森の中を歩いていると、前の方から話し声が聞こえてきた。
「で、でも、ほんとにいいの? あんな凄い秘密、綾小路くんに報告を任せちゃって……」
「ああ、大丈夫だ」
そこにいたのは、見知った二人。
クラスメイトの佐倉と綾小路だった。
植物がうっそうと茂っている環境のためか、二人は俺に気が付いていない様子。
その背中に話しかける。
「なんだ、凄い秘密って」
「はひゃあっ!!」
背後からの突然の声に驚いたのか、佐倉はしりもちをついてしまった。
え、そんなに驚く?
「おお、わ、悪い……」
「大丈夫か、佐倉」
それを見た綾小路が、すっと佐倉に手を差し伸べる。
「あ、ありがとう……えっ、は、速野くん!?」
佐倉は綾小路に支えられて立ち上がると同時に、今度は俺の顔を見て驚いた。
「あ、ああ、俺だが……」
「ど、どうして、ここに……?」
「須藤たちはどうしたんだ。一緒に探索してたんじゃないのか」
綾小路は周りを見て誰の姿も見えないことに気付き、問うてくる。
「ああ、実はトイレ行きたくなって、元の場所に戻ろうと思ったんだが……迷ってな」
「え……」
俺の言い分に唖然とする佐倉。さっきから驚きすぎだろ。
まあとりあえずそれは横に置いといて……。
「だから二人が通りがかってくれて助かった。今から戻るところか?」
「ああ」
「よかった。ちょっと俺もお供させてくれ」
「構わないが……平田に絶対に一人で行動しないでくれって言われてただろ」
「いや、距離的にそんなに歩いてなかったから、迷うとは思ってなかったんだよ……」
情けない話ではあるけどな。
「それで、トイレは大丈夫なのか」
「迷ったのに気づいて、尿意なんて引っ込んだよ」
こんな右も左もわからない森の中、迷った時点で「え、俺終わった?」と思ってしまうのも自然だろう。
まあ幸い、2人に遭遇して助かったとはいえ、勝手に行動したのは事実だ。あとで平田には謝っとこう。
「それより、何人で探索してるんだ?」
「オレたちを入れて12人だ」
「じゃあ、6組に分かれてるのか」
「いや、4組だ。3人1組だったんだが、もう一人の高円寺は……」
「ああ、なるほど……」
高円寺の名前が出た時点で、みなまで言われずとも理解する。
勝手にずんずん進んで行って、追いつけなくなったってことか。あまりにも簡単に想像がついた。
にしてもなんて組だよ。綾小路に佐倉に高円寺……。クセありすぎだろ。
まあ多分、佐倉は綾小路が探索に参加するのを見て決めたんだろうけど……。
そんなことを考えていると、正面にDクラスの生徒の集まりが見えた。
現在のDクラスの待機場所か。
「ああ、良かった。戻れた……」
「次から気をつけろよ」
「分かってるよ……」
綾小路の忠告はありがたく受け取っておいた。
俺だって、別に好き好んでこんなことしてるわけじゃないんだよ。
2
集合場所に戻ってすぐ、森で迷いかけて綾小路たちに助けられたことを平田に伝えた。
「そうだったんだね……とりあえず、戻ってこられてよかったよ。でも、これから単独行動は絶対に避けてほしい。森を散策するときは必ず複数人で。頼めるかな?」
「わかった。悪かった」
「いや、君が無事なら何よりだよ。全員で力を合わせて、この試験を乗り切ろう」
「ああ」
いや、注意やさしっ。
怒られないだろうとは思ってたが……まあいいか。
一応今の会話は他の人に聞かせるつもりはなかったんだが、特段声を潜めていたわけではないため、近くに座っていた生徒には聞こえていたらしい。俺を呆れ顔で見つめる一方、平田を聖人か何かのように崇める表情をしていた。
平田からの優しい説教をうけ、気を背もたれにして座っていると、こちらに堀北が近づいてきた。
「なぜ須藤くんたちと探索に出たあなたが、綾小路くんと佐倉さんと3人で戻ってくるのかしら。彼らは高円寺くんと行動していたはずなのに、一人で戻ってきて海に泳ぎに行ってしまうし……」
「面目次第もございません……え、高円寺戻ってたのか」
「ええ」
しかも海に泳ぎに行ったって……あいつ点呼までに戻ってくるのか?
そんな心配事は堀北の叱責の声で吹っ飛ぶ。
「事情は綾小路くんからあらかた聞いたわ。あなたバカなの?」
「もうやめてくれ反省してるから……」
「……におうわね」
「え?」
やだ、俺もう汗臭い? と思ったが、どうやらそういうことではないらしい。
「あなた、何を企んでいるの?」
「は? 企み?」
「あなたがただ迷ったとは思えないわね」
「なんだその疑い方は……」
まあでも、鋭いな。
こいつが『本調子』なら、もう少し核心に迫った問いかけができたんだろうけど……。
試験のことを考えると、本調子じゃなかったのがこいつでよかったのかもしれないな。
近くにあった木に背中を預けて休んでいると、向こうのほうから何やら大きな声が聞こえてきた。
「川だよ、川があったんだよ! めっちゃ綺麗で、なんか装置みたいなものもあってさ! あれがスポットってやつなんだよきっと!」
探索から戻ってきた池だった。スポットらしきものを見つけたことを平田に力説している。
須藤と山内がいないところを見ると、二人はその場所に残って見張り役をしているのだろう。
「それはお手柄だね池くん」
「すぐにでも行こうぜ! 他のクラスにとられる前に!」
「そうだね。ただ探索に出ているグループが2つ、まだ戻ってきてないんだ。誰かがここに残る必要がある」
数名がこの場に残り、それ以外は池の案内の元、スポットと思しき場所へ向かう。
この無人島は、面積約0.5平方キロメートル、最大標高約230メートル。船で1周した時に見た感じではいびつな形はしておらず、円形や正方形に近かった。つまり、700メートル×700メートルぐらいだと考えていい。この島を歩いて移動するとして、通常時のスピードを時速4キロとすると、このクソ歩きにくい地面と全く慣れていない環境を考慮すれば時速2キロが妥当ってところか。分速に直せば大体30メートルになる。
体調が万全であれば、この島のどこにいても4、50分できるだけ同じ方向へ歩けば開けた浜辺に出られるだろう。
しかしこの予想は、あくまでも終始冷静な思考を保つことができたらの話。この試験、素直にクリアするならまず大前提として体調管理をしっかりとしておくことが肝要だろう。
そんなことをいろいろ考えているうちに、池の言っていた場所にたどり着いた。
開けた場所だ。明らかに人工的に整備されている。
「うん、川もあるし、木陰で太陽も防げる。それに地面も平らだ。ここならベースキャンプに向いてるね」
「だろだろ? それにほら、これ見てみろよ!」
池が指し示す場所には、不自然にでかい岩が一つある。
平田が確認すると、どうやらそれにはスポットの装置が埋め込まれているようだった。
「なるほど、まさにここがスポットということだね。ベースキャンプをここにするのは決まりとして、ここを占有するかどうか……」
「するに決まってんじゃん! ポイントも入るんだし、メリットしかないだろ」
「いや、占有に動いたらリーダーを見破られるリスクも大きくなるよ。ここは開けてるけど、周りはたくさんの植物があって、他クラスが身を隠して盗み見するのは容易だからね。そうなればマイナス50ポイント、その上スポット占有で得たポイントもなくなってしまうんだ」
「それは、あれだよ。こう、みんなで囲うようにして守れば見えねえって」
突発的な策ではあるが、有効ではありそうだ。背の大きな生徒に囲ませれば隠れるか。
多分他のクラスも同じような感じで動くだろう。
「じゃあ、あとはリーダーを誰にするかだね」
一番の問題はそこだ。この重責を誰が負うのか。
そこで、櫛田が挙手して発言した。
「あ、そのことなんだけどさ。ちょっと私に考えがあるんだけど……みんな小さく円になってくれるかな?」
そう言って櫛田はみんなを集め、小さい声で話を始めた。
「私ちょっと考えてみたんだけど、リーダーになるには、平田くんや軽井沢さんだと目立ちすぎる人は避けたほうがいいよね? でも、キーカードを管理する以上は責任感が強い人じゃないといけないし……その二つを満たしてるのは、堀北さんだと思うんだけど、どうかな?」
櫛田からありがたい提案だ。
本人はまさか櫛田から推薦があるとは思っていなかっただろうが、驚きの色は見られなかった。
「僕も賛成、というか、元々僕も堀北さんがリーダーに適任だと思ってたんだ。堀北さんさえよければ、頼めるかな?」
堀北は少し考えたあと、俺の方に視線を向けてきた。
俺は黙って、やってくれ、という気持ちを込めて見返す。
すると、小さくため息をついてから言った。
「分かったわ。私が引き受ける」
「本当かい? ありがとう堀北さん!」
堀北が了承の意を示すと、平田はすぐに茶柱先生のところに報告に行き、キーカードを受け取って堀北に渡した。
「じゃあ、占有しよう」
背の高い生徒が堀北、そしてダミーの生徒数人を囲み、作業を隠す。こうすることで、たとえこの光景を盗み見られたとしても、中で囲まれている生徒の誰がキーカードを使用しているか絞れなくする作戦だ。
占有はつつがなく完了した。
「よし、これで風呂と飲み水はいけるな!」
「え、まさかこの水飲むの……?」
「あんた正気?」
池はこの川を飲み水としても利用するつもりらしいが、主に女子から反対意見が出る。
「なんだよ、綺麗な水じゃんか。いけるって」
確かに見た感じ透き通っていて、飲んでも問題なさそうに見える。子どものころによくキャンプを経験したという池なら、大丈夫であることは感覚的にわかるのだろう。
しかし抵抗を感じる人は大勢いる。
「ね、ねえ平田くん、やっぱり無茶だよ、川の水飲むなんて……」
「なんだよみんな、何が不満なんだよ。天然水みたいなもんだろ? せっかく見つけた川なんだしさ、有効活用しようぜ!」
「じゃあ試しにあんたが飲んでみなさいよ」
「は? まあ別にいいけどさ……」
篠原に言われ、池は川の水を手ですくい上げて一気に飲む。
「キンキンに冷えててうっめえー!」
「うわ、マジで飲んだよ。ドン引きなんだけど」
「はあ!? お前が飲めって言ったんだろ!?」
「無理無理、こんな野蛮人、私が一番嫌いなタイプだわ」
「なんだと!?」
まあ、俺自身川の水を飲むのに抵抗がないといえば嘘になるし、篠原の気持ちも一部わからないではないが……。
トイレの次は飲料水の問題か……。堀北に聞いたところ、トイレはどうやら購入することで決着したらしいが、争いの種は尽きないな。
「篠原、お前いちいち文句つけんなよ。みんなで協力しないといけない試験だろ、これって」
突然、須藤がまともなことを言い出した。その姿に少し驚いてしまう。
こんな冷静で常識人っぽい須藤は初めて見た。
「ちょ、なに笑わせにきてるの? それ須藤くんが言う?」
「俺が今までクラスに迷惑かけてきたことは分かってんだよ。だからこそ分かったんだ。自分がやったことは自分に跳ね返ってくるってな」
「……なにそれ。結局須藤くんもポイント使いたくないだけでしょ?」
「そんなこと言ってねえだろ。寛治、お前も少し落ち着けよ。いきなり川の水飲むなんて言われたら俺も抵抗あるし。なあ、確か水って沸騰させたら殺菌できるんじゃなかったっけ?とりあえずそれで試してみるってのはどうだ?」
「沸騰って、化学の実験じゃないんだから……思いつきで発言するのやめてよ」
馬鹿にしたように言う篠原だが、実際に滅菌するのに煮沸処理は有効だ。
それにさっき川魚が見えた。あれはたぶんイワナだろう。イワナは比較的きれいな川にしか生息しない。
こういった川の水なら、煮沸処理ののちろ過でもすれば安全に飲めるだろう。煮沸処理だけで取り切れない有害物質は、おそらく学校側が取り除いているはずだ。
「とりあえず解散にしよう。今喧嘩しても意味はないし、まだ時間もあるしね」
クラスのリーダーである平田が出した結論は、保留。
篠原たちが喧嘩になる前に止めたかったんだろう。
解散を告げられたDクラスの面々は、各々好きなように散らばっていった。