実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
2日目の朝。8月2日における、俺にとって2度目の目覚めだった。
「……背中いってえな」
起き抜けに出た最初の言葉がこれだ。
地面の上に直接テントを置いてるんだから無理もないことだ。布が一枚間にあるだけでは、固い地面の上で寝ているのと大した違いはない。
こんな状態だと、満足に疲れをとることは難しい。テントと地面、あるいは体と地面の間に何か柔らかいものを挟めるといいんだが。
腕時計を確認すると、時刻は7時半を少し回っていた。
外からは談笑する声も複数聞こえる。1度目の起床の際は誰も起きていないであろうタイミングでテントを抜けて用を済ませたが、この時刻になるとさすがに起きている生徒も少なくない。
とはいえテント内にはまだ寝ている生徒もいるため、起こさないようにそろりそろりと歩いてテントを出た。
「ああ、おはよう速野くん」
すると、偶然テントの出入り口付近にいた平田に挨拶された。
「おお、おはよう」
「やっぱり、寝起きはあまりよくないみたいだね」
「ああ、まあな……よく気付いたな」
「体が痛そうな顔をしていたからね。君に限らず、みんな同じような感じだよ」
「ああ、そういう……」
まあそりゃそうだろうな。
昨日一日の疲れのせいで、寝付けない者はいなかったようだが。
「うん。この問題は、早急に解決する必要があると思うんだ。速野くん、何か意見はないかな?」
先ほどの穏やかな表情とは違い、真剣に問うてくる平田。
クラスの問題を解決するために常に奔走する。何がこいつをそこまで駆り立てるのか……。
まあなんにせよ俺自身、これは解決しておきたいことだし、何より俺は遭難しかけてクラスに混乱をきたした前科があるからな。その詫びも兼ねて、ちょっと真剣に考える必要がありそうだ。
「……できるだけポイントは使いたくないよな」
「もちろん、それで解決できるならそうしたい。でも、睡眠の質は試験中のパフォーマンスやモチベーションにも直結してくることだからね。多少の支出はやむを得ないと僕は考えてるよ。ポイントで購入可能なものの中には、ちゃんとしたマットもあるしね」
「……そうか」
平田の言うことも間違いではないが、その甘えが多少のポイントで収まればいいんだが……。
やはりここは、ポイントを使わない方策を考えるべきだろう。
「……利用するとしたら、無料で、かつ無制限に支給されるものだな」
「それって、簡易トイレ用のビニールとシートのこと?」
「ああ。それを使ってどうにかクッション代わりに……とまでは行かなくても、地面の硬さを軽減できるような道具にできるといいんだが……」
無料で無制限。好きな時に好きなだけ手に入れられるものだ。利用しない手はないだろう。
しかし平田には懸念材料があるようだ。
「でも、大丈夫かな。その二つが無制限に支給されるのはトイレの後処理のためで、それ以外の目的で使うのは……」
「もし道具を目的外で使用することを一律に禁止したら、例えば座って釣りをしている状態から立ち上がる時に、釣竿を支えにするのも禁止ってことになる。釣竿を魚を釣る以外の目的で使ったことになるからな。こういう解釈違いを防ぐために、そういった規制をするには細かくルール設定をする必要があるが、そんな記述はマニュアルのどこにもなかった。今ある道具をどう最大限に生かすか、ってのも、この試験で問われてることの一つだと思うぞ」
まあ、これは「自由」がテーマの特別試験だ、って学校側が言ってるんだから、そんな規制を設けるなんてことは絶対にないだろうけどな。
「……なるほど。確かに、君の言うとおりだね」
どうやら納得したようだ。
「ビニールとシートだけど、ビニールなら、丸めて置くだけである程度地面の硬さを和らげる効果はありそうだね」
「確かに……その使い方はありだな」
「うん。早速、点呼の時にみんなに話してみよう」
「ああ、それがいい」
「本当に助かったよ。ありがとう速野くん」
「いや」
そうして、平田はまた別の生徒のところへと奔走していった。
1
朝の点呼とスポット占有の更新を終え、俺たちは各々の時間を過ごしていた。
ちなみに、点呼と占有の時間が重なっているのは偶然ではない。
他クラスも点呼を受けているこの時間にスポットの更新を行えば、盗み見られるリスクを減らすことができるだろうという判断で、昨夜のうちに時間を調整していたのだ。
俺は現在やりたいこともやるべきこともないため、日光を避けるために木陰に入って時間をつぶしている。
そんなとき。
「なんだよお前ら!」
池の怒鳴り声が、Dクラスのベースキャンプ内に響き渡った。
みんな何事かと声のする方に目を向ける。
そこに立っていたのはCクラスの生徒二人。小宮と近藤だった。
二人の手には、それぞれペットボトルの炭酸飲料とポテトチップスの袋が、俺たちに見せつけるかのように握られている。
「はっはは、そんなにカッカすんなよ。こんなクソみたいな森の奥でみじめな生活してるお前ら不良品に、いい話を持ってきてやったんだからよ」
「はあ? どういう意味だよ!」
「龍園さんからの伝言だ。夏休みを満喫したかったら、浜辺に出て来いよ。こんな生活が一瞬で嫌になるくれえの夢の時間を共有させてやる」
こんな調子で、強い言葉を使って俺たちを刺激し、挑発してくる。
先ほどから伊吹の姿が見えないが、おそらくどこかに隠れているんだろう。追い出されたって話が本当なら、クラスメイトとは顔も合わせづらいだろうし。
俺たちからすればひたすらに迷惑でしかないこの騒ぎ。反感を覚えた生徒たちが二人の前に集まり、野次馬を形成していく。
俺もその輪の中に入った。
Cクラスの二人との距離は5メートルほど。十分に顔は識別できる距離だ。お互いに。
そのうちの一人と一瞬だけ目が合った。するとそいつはぎょっとした表情になる。
そいつはすぐに俺から目をそらし、隣に立つもう一人に何やらこそっと話しかける。
そのやり取りの内容はこちらには聞こえてこなかったが、話しかけられたもう一人も納得したように頷いた。
「……ま、ってわけだ。素直に龍園さんの誘いに乗ることをお勧めするぜ。じゃあな、Dクラスの不良品ども!」
ぎゃははは、と下品な笑い声を残し、二人は立ち去って行った。
「ったく、なんなんだよあいつら!」
「こないだの須藤の件も、騒ぐだけ騒いで結局訴え取り下げたんだろ? Cクラス」
「なんかウゼエよなあ、あいつら」
口々に文句を漏らしながら少しずつ野次馬を解いていき、Dクラスの面々はまた元通りに各々の時間を過ごし始めた。
にしてもあの二人、「夢の時間」とか言ってたな……。
ジュースと菓子を持っていたところを見ると、俺たちと比べる財布のひもがかなり緩いのか。
俺たちを挑発するためだけに揃えたって線もなくはないが……。
いずれにせよ、少し気になる。
挑発に乗せられた、という形にはなるが、そんな体裁よりも実利を優先すべきだだろう。俺はあの二人の言うとおり、適当なタイミングで浜辺に出てみることを決めた……が、そのタイミングは今この瞬間のようだ。
浜辺に出る方向へと歩き出していく生徒が二人。
そのあとを追い、声をかける。
「お前たちも浜辺に出るのか。綾小路、堀北」
「速野か。ああ、偵察も兼ねてな」
「……あなたも来るの?」
堀北には嫌そうな顔をされてしまう。
「……いいだろ別に」
「まあ、止めはしないけれど」
「そうですか……」
なら、最初からそんな顔すんじゃねーよ。
2
「これは……一体どういうことなの……?」
驚愕に染まる声を漏らしたのは、俺の隣に立つ堀北。
声には出さないものの、驚いているのは俺も同じだった。おそらくは綾小路も。
小宮と近藤の言っていた通りに浜辺に出た俺たちの目の前には、想像を絶する光景が広がっていた。
バーベキューにビーチバレーに水上バイクに、それ以外にも名前もよく知らない遊び道具がわんさか……。
仮設トイレもシャワーも完備だ。
何か作業している様子もなく、全員が全員、海辺での遊びにふけっていた。
「どういうつもり……? 多少の散財なんてレベルじゃない。完全な無駄遣い……」
「ああ、これは……少なく見積もっても130ポイント以上は溶かしてるな」
もちろん、これは目に見える範囲での計算だ。これ以外にも何かしら購入しているとしたら……。
と、衝撃的な光景の前に立ち尽くしている俺たちの前に、一人の男子生徒が駆け寄ってくる。
「あ、あの、龍園さんが呼んでます……」
はきはきとしていない、何かに怯えているような、そんな声色だった。
「……どうする? 招かれているようだけれど。行く?」
「それはオレが決めることじゃないだろ」
「まあ、いいわ。招かれてあげましょう。こんな愚かな行動に出た王様気取りの人物に、少し聞きたいこともあるし」
行くことに決めた堀北、それに綾小路は、男子生徒についていく。しかし俺はその場にとどまった。
「あれ、来ないのか」
「ああ。龍園とやらの相手は二人に任せるよ」
「わかった」
俺を残し、二人はパラソルの下でビーチチェアの上にふんぞり返っている人物に接触した。
あれが龍園か。
ここから距離はそこまで遠くないため、その様子をうかがい知ることができる。チェアの横にあるテーブルには、バーベキューで焼きあがった食材と炭酸飲料、それに無線機が置かれている。
それを見届け、俺は浜辺の周囲を歩き回った。
先ほどは視界に入らなかったアイテムなども見えてくる。
本当に、惜しむことなく湯水のようにポイントを使ったことが伺える。
そうしていくうちに、Cクラスの取っている行動の意味が、薄っすらとだが見えてくる。
バーベキューの材料はまだまだ豊富に蓄えているようだし、それに加えてかなりの数の釣竿と保存食も用意しているようだ。
本来寝るためのものであるはずのテントは、どちらも大量に買い込んだ道具の物置と化していた。
「なるほどな……」
まだ何かを理解できたわけではないが……一見滅茶苦茶に見えるCクラスの行動には、しっかりとした戦略が見え隠れしている。
少なくとも、ただ単に遊び呆けているだけってわけじゃなさそうだ。
俺は誰も使用していないタイミングを見計らって、仮設トイレに近づく。
その裏側には、『貸し出し用』と書かれたシールが貼ってあった。これはポイントで購入できる物資のうち、飲食料などを除いた耐久消費財に例外なく貼られているものだ。
それをいじっていると、そのシールが剥がれてしまった。
「おっと……」
俺はそれを貼り直し、そそくさとその場を立ち去った。
数分後、龍園とのやり取りを終えたであろう堀北と綾小路が戻ってくる。
「どうだった。何か分かったか?」
「分かるも何もないわ。彼、龍園くんは愚か者だった。それだけよ。どうやら、今日ですべてのポイントを吐き出したらしいわ」
会話の流れで、龍園自らそう明かしたのか。堀北が呆れたようにつぶやいた。
「……やっぱりそうか」
「やっぱり、って……」
「浜辺の様子や今の伊吹の状況を見れば、大体の想像はつく。ゼロポイントだから、伊吹がベースキャンプにいなくて点呼に遅れようが関係ないってことだろ。だからさっき来たCクラスの奴らも、伊吹のことを全く気にかけないまま帰っていったんだろう。ポイントを残す気があるなら、伊吹を見かけなかったか、とか聞くのが普通だ」
つまり、伊吹をこのまま匿えば60ポイント削れるとか、リタイアして30ポイントに抑えるべきとか、そういったちまちました計算は初めから全くの無意味だったってことだ。
「なるほどね……じゃあ彼らはこれから6日間、どうやって乗り切るつもりなの……?」
その疑問には、綾小路が答える。
「あいつらは多分、6日間なんて見てないと思うぞ。単純な話、高円寺がやったようにリタイアすればいいだけだ。そうすれば俺たちがサバイバルしている間、船内の施設を満喫して夏休みを楽しめる」
俺も同感だ。物置状態になっていたあのテント、あれは寝ることを考えた使い方じゃない。おそらく昨日の夜を明かした時点で用済みになったから、購入した道具を適当に突っ込んだんだろう。
「理解不能だわ。これはプラスを積み重ねることを目的とした試験のはずよ……」
「先生も言ってただろ。『自由』がテーマだって。これも考え方の一つだ」
「そうだとしても、よ……そもそも、こんなふざけた作戦に反旗を翻したのが伊吹さんとあと一人だけだったなんて……異常よ、このクラスは」
そんな堀北のセリフに引っ掛かりを覚える。
「え、伊吹のほかにもいるのか?」
「ええ。そのもう一人も、ベースキャンプから追い出したらしいけれどね」
「……そうだったか」
なるほどな……。
「ちょっと疲れた。俺はもうベースキャンプに戻るが、二人はどうする?」
「そうね……」
「そのことなんだが、Bクラスのベースキャンプに行ってみないか」
さらっとそう提案する綾小路だが、俺と堀北は少し驚いてしまう。
「あなた、いつの間にそんな情報を……」
そう。試験が始まってからほとんどベースキャンプを離れていない綾小路が、どうしてBクラスの場所を知っているのか。
「今朝……と言っても、まだほとんど全員が寝てた6時半ごろだったが、神崎がベースキャンプに来たんだ。それで、大まかな道のりを教えてもらった」
そんな、聞いてみればなんというほどのこともない、実に単純な種明かしだった。
まあその代わり、なんで神崎がDクラスのベースキャンプの場所を知ってんのかって疑問が新たに生まれたわけだが……たぶん単純にリサーチしたんだろうな。
「神崎くんが……そうだったのね。では、そこに行きましょう」
堀北もBクラスとコンタクトをとることに賛成のようだった。
俺だけ目的地が違っていたが、途中までは同じルートだった。
そんな中折れた大木が目に入ったとき、綾小路は「こっちだ」といい、左折してBクラスのベースキャンプへ。
俺はそのまま直進して、Dクラスのベースキャンプへと戻っていった。
3
日が傾いて、空がオレンジ色に変化している。
俺は平田に頼まれ、ベースキャンプの周りに食べられるものが生えていないか、その探索をしていた。
そこに、恐らくは散歩でもしていてたまたまここにたどり着いたであろう綾小路が姿を現す。
「よう」
「ああ」
綾小路と堀北と別れた後、3時間経たないくらいの時間に二人はベースキャンプに戻ってきてはいたが、話しかけるタイミングがなく今に至っていた。
「Bクラスの様子、どうだった」
せっかくの機会ということで、偵察の成果を尋ねる。
「総合的に見て、Dクラスの上位互換って感じだった。いろんなものを有効活用してポイントを節約してる。それから、寝るときの地面の硬さについては、うちと全く同じ手で対処してたぞ」
「丸めたビニールを大量に置くやつか」
「ああ。あと、伊吹のほかにももう一人、Cクラスから追い出された生徒がいたって言ってただろ。その生徒はBクラスに拾われてた」
「……そうだったか」
Cクラスから追い出された生徒二人が、BクラスとDクラスに一人ずつ、か。
Bクラスの生活の様子も含めて、想定の範囲内ではある。
Bクラスの話はこれで終わり。俺は新たに疑問をぶつける。
「そういえば、Bクラスの様子を見に行っただけにしては、かなり時間かかったな。お前たちが迷うとは思えないし、あの後どこか寄り道でもしたのか」
「ああ、あの後Aクラスの様子も見に行ったんだ。一之瀬に場所を教えてもらってな」
「……さすがのリサーチ力だな、Bクラスは。それで、どうだったんだ」
「いや、Aクラスに関しては何の成果もなかった。洞窟がスポットになっているようだが、その入り口がビニールで覆い隠されてて、中の様子は全く見られなかった。まさに秘密主義って感じだ」
「そうか。それは仕方ないな」
まあでも、総じていえば偵察の成果としては十分といえるだろう。
「ああ綾小路、暇なら手伝ってくれ。平田に食材が生えてないか探してきてくれって頼まれたんだ」
「ああ、いいぞ」
会話を切り上げ、二人で探索を始めた。