実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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今回はかなり短めです。


無人島サバイバル 4日目

 4日目の午後。

 俺はまたこっそりとベースキャンプを抜け出し、森の中を歩いている。

 実を言うと俺は2日目以降、隙を見てはこのような行動をとっていた。

 具体的には2日目の午後と3日目の午後、そして今日の午前中もだ。

 目的地はぼんやりとしか設定していない。

 それは「Aクラスのベースキャンプ付近」だ。

 ちなみに昨日の午前中も同じように抜け出して行動し、Aクラスのベースキャンプに行ってあんな妙ちくりんなことになったが、あれは別枠というか、違った目的を持っての行動だ。

 こう何度も何度も歩いていると、DクラスのベースキャンプからAクラスのベースキャンプへの道のりも慣れたものだ。

 木々や茂みが広がっているだけとはいっても、景色の特徴はやはり存在する。そして何度も通っていれば、無意識のうちにそれを記憶しているものだ。それを頼りに、迷うことなく歩いていく。

 この行動において重要な点は、Aクラスの生徒が多数集まっているベースキャンプから直接目の届く領域には絶対に入らないこと。そして、4人以上の大勢で行動している集団の目に触れないこと。

 どちらも大して難しいことじゃない。ベースキャンプの場所を常に頭に入れておけば、つい近づいてしまったなんてことにはならない。また4人以上で行動しているグループはこちらから見えやすいし、多くの場合は話し声が聞こえてくる。気配を察知して隠れるのは想像より簡単だ。

 俺はこの2つを強く意識して、この3日間歩き続けている。

 まあ、今のところ成果はないが……そう焦ることでもない。成果が上がればラッキー、くらいの認識でいる。

試験終了まで成果が全くなく、ここでの俺の行動が無意味なものとなる可能性も十分にあるが、それならそれで構わない。

ベースキャンプに留まっていても、今はあまり実りはないからな。

 

「……今日はこっちの方を歩いてみるか」

 

 周囲の景色からAクラスの洞窟に近づいたことを察した俺は、洞窟から少し遠ざかるようにして右折した。

 そのまままっすぐ歩いていくと、段々と道が開けていくのがわかる。

 そして同時に、俺のことを追跡する2人の人間の気配を察知した。音を出さないように注意を払っているようだが、それも完ぺきではない。

 俺はそれに全く気付かないふりをして、そのまま歩き続ける。

 しばらくすると、目の前に傾斜の強い上り坂が見えてきた。

 

「これは……ちょっとした登山だな」

 

 この坂の頂上にはおそらく、客船が島を高速旋回した時に見えた塔があるはずだ。はじめはそこに行こうと思っていたが、いまはその必要もなくなった。

 近くにあった木にもたれて座り込み、持ってきていた水を2口飲んだ。

 ペットボトルの口を閉めて一息ついたその時。

 

「おい、こんなところで何をしている」

 

 途中から俺を尾行していた2人組が目の前に現れ、そう言った。

 

「……お前、Dクラスの速野だな」

 

「……俺のこと知ってるのか。葛城から聞いたのか?」

 

 言うと、そいつはむっと眉を顰める。

 

「なぜそこで葛城の名前が出てくる。確かにお前は昨日も俺たちのベースキャンプ付近をうろついていたそうだが、お前のことは初めから知っていた。坂柳と同等の学力を持つ、Dクラスの要注意人物のひとりとして」

 

 今の反応、そしてセリフ。こいつは坂柳派だ。ビンゴ。

 

「……そりゃどうも」

 

「それで、何をしている。答えろ」

 

「……」

 

「なんだ、答えられないのか」

 

「……いや、その……」

 

「言え」

 

 一人が、持っていた木の枝をまるで武器のように使って俺に突き出し、脅しをかける。

 マニュアルにあった禁止事項に抵触しそうだが、誰かが見ているわけでもない。違反を証明する術はないか。

 俺は脅しに屈したという形をとり、口を開く。

 

「……これは、秘密にしておいてほしいんだが」

 

「それはお前の発言次第だ」

 

「……わかった」

 

 確約はもらえないようだ。まあいいか。

 

「……Dクラスは居心地が悪い。もらえるポイントは少なくて、無料で手に入れられるもので耐え忍ぶばかりの生活だ。この無人島試験に限っても、考えなしに動くやつが多いうえに騒がしい。仲のいい友達もいないしな。だから……その、偵察も兼ねて抜け出したんだ。昨日洞窟周辺をうろついてたのも、同じ理由だよ」

 

 俺は愚痴をぶちまけるようにして、言葉を吐き捨てる。

 

「クラスに大きな不満を持っている、と」

 

「……そうだ」

 

「その割には偵察に来るなんて、殊勝な心掛けだな」

 

「不満があっても、Dクラスの一員って事実は卒業まで続くからな……」

 

「藤野から聞いていたお前の人物像とだいぶ乖離しているな。お前がクラスに不満を持ってるなんて聞いたことがない」

 

「藤野に話してるわけ、ないだろ……友達でも、クラスの上では敵同士なんだから。たぶんお前たち以外誰も知らねえよ……」

 

「なら、なぜ俺たちにはこんなにも簡単に話した?」

 

「なぜって……言えと脅してきたのはお前らだろ。木の棒まで突き付けて……もう勘弁してくれよほんと……」

 

 情けない声でそう言うと、二人は俺を見下すような失笑を浮かべた。

 そしてその笑顔を保ったまま、俺に顔を近づけて話す。

 

「そんなお前に、一つ朗報があるぞ。キーカードを受け取ったDクラスのリーダー情報を俺たちに流せば、報酬を払う用意がある。数千数万じゃない。10万……いや、20万やってもいい。どうだ、Dクラスが今までに支給された額よりもはるかに大きいだろう」

 

 入学初日、突如として10万ポイントを手にした時のように、額の大きさに驚き目を見開く。

 

「……いや、でも、ポイントでクラスを売るのは……」

 

「何を躊躇してる。ポイントに不満があると言ったのはお前自身だろう。高々あんなクラスを裏切るのに、どこにためらう必要がある?」

 

 目の前のポイントか、クラスか。ポイントを取れと迫ってくる二人。

 

「言っておくが、ほかの連中にも同じ話を持ちかける。早い者勝ちだぞ」

 

 まるでセールスのように、俺を誘惑してくる。

 二人から目をそらし、間をためる。

 そして、口を開く。

 

「……43万だ。43万出せるなら……リーダー情報を流す」

 

 最初に提示された額の倍のポイントを要求する。

 上乗せを求められることは想定済みだっただろうが、ここまでの額とは思っていなかったのだろう。強気の要求に多少面食らっている様子だ。

 

「……妙に数値が細かいな。なぜ43万なんだ」

 

 当然の流れとして、この数値をはじき出した計算式を問うてくる。

 

「俺がいまここでリーダー情報を流したら、Dクラスはマイナス50ポイント。そのうえボーナスポイントはゼロだ。Dクラスが占有しているスポットは一つだから、試験中に20たまるはずだったポイントがゼロになる。50+20=70、それに100掛けで、月7000のプライベートポイントを損失する。そして卒業までの月一のポイント支給の機会は残り32回だから、7000×32=224000、千の位以下切り上げで23万だ。つまり俺は23万を受け取ってようやくトントンだ。そしてその額に、さっきお前たちが提示した額の20万を上乗せして、43万。20万出すといったのはお前たちなんだ。それを『俺に20万の利益をやる』と解釈すれば、妥当な額だろ」

 

 突如として饒舌になった俺を見て何かを感じたのか、後ろを向いて何事か相談する二人。

 俺はその背中に追い打ちをかけるようにして話す。

 

「藤野から聞いてないか。俺は金にがめついんだ。クラスメイトから守銭奴と罵られるくらいにな。クラスを裏切れと言うなら、これくらいは出してもらわないと納得がいかない」

 

 この二人にはいま、迷いが生じている。

 43万なんて額を吹っ掛けられることは想像していなかっただろう。しかし、この金額は出そうと思えば出せる額だ。

 有益な情報か、想定以上の出費の抑制か。

 絶妙な数値設定により立場は逆転。今はこの二人が2択を迫られている。

 数分間、こちらには聞こえないように議論した二人。

 結論が出たようで、こちらに向き直って口を開く。

 

「……なら、この条件でどうだ。お前は今後も、AクラスのスパイとしてDクラス内の情報を俺たちに流す。それなら43万出してやってもいいぞ」

 

 なるほど……そう来たか。

 悪手だと思うが、それならそれでこの好機に乗らない手はない。

 

「……その条件だと、43万じゃ釣り合わない。さらに上乗せして50……いや、60万なら引き受けてやる」

 

 さらに上乗せを要求する。

 今度は二人とも一瞬思案するだけで、すぐに返事が返ってきた。

 

「いいだろう。契約成立だ」

 

 おそらく先ほどの話し合いで、いくらの上乗せまでなら許容できるか、ということまで話していたのだろう。スムーズな返答だった。

 

「口約束ほど信用できないものもない。紙に書き留めたいんだが」

 

「いいだろう。紙とペンはこちらが持っている」

 

 リーダー情報を売るという交渉を持ちかける予定だったなら、念書にして残すことは当然想定済みか。

 

「契約を反故にされないよう、ペナルティは重めに設定させてもらうぞ。契約を破れば相手方に200万ポイント。これでいいな」

 

 あまりに大きな額に、二人とも驚きを見せる。

 

「Dクラスのお前に、そんな額が出せるわけがないだろう」

 

「ああ。現状では不可能に近い。もし俺が破ったら、学校側も巻き込んで俺に相応の措置が取られるだろうな。逆に言えば、こちらに破る意思は全くないってことだ。この数字はその意思の表れだ、とでも思ってくれ」

 

「……まあいいだろう」

 

「紙は何枚持ってる?」

 

「1枚だが」

 

「ならそれを半分に切って2枚にして、まったく同じ文章の契約書を互いに持ち合おう」

 

「……なるほどな。分かった」

 

 契約書が1枚しかないのは非常に危険だ。それを所持している人間が破棄してしまえば口約束と何ら変わりない。

 そしてトラブルを防止するために、俺の書いた契約書はAクラス側に、Aクラス側が書いた契約書は俺に手渡された。

 こうすれば後でどちらかが契約書の内容を書き換えようとしても、筆跡が違うために露呈する。

 

「それから、この話は葛城にも伝えることも盛り込ませてもらいたい」

 

「……なんだと?」

 

 再び出てきた葛城の名前に不快感を示す二人。

 

「単純な話だ。お前たちの心情はともかく、この試験でAクラスを取りまとめているのは葛城なんだろ。そいつにも話を通しておいた方がいいと思っただけだ。それに、悪い話じゃないだろ。葛城派に、Dクラスのリーダー情報を手にしたという成果をアピールできる」

 

「……いいだろう」

 

 やはり、この文言を出せば呑むと思っていた。

 その後も、互いに認識の齟齬がないよう、文章のすり合わせを綿密に行っていく。

 例えば、リーダーの定義なんてその最たる例だ。クラスを引っ張っていくという意味でのリーダーではなく、スポット占有を行うリーダーであることを明確にするために、「リーダーとは、試験初日に受け取ったキーカードに名前が刻印されている者である」という文言を加えた。

 こうして、お互いに絶対に守らなければならない契約が完成した。

 

 

 

『Aクラス清水直樹、森重卓郎とDクラス速野知幸の間に結ばれた契約』

 

・8月4日、速野知幸(以下甲とする)は、清水直樹(以下乙とする)、森重卓郎(以下丙とする)に、Dクラスのリーダーの名前を教え、本用紙に記述する。ここでいうリーダーとは、試験初日に受け取ったキーカードに名前が刻印されている者である。

・甲は、Aクラス(以下丁とする)に自クラスの情報を流すスパイとして立ち振る舞う。

・乙、丙は、甲に対する報酬としてプライベートポイント60万を支払う。支払いに関しては、8月7日午後10時に船の屋上のデッキに集合とし、30分以上遅刻した場合は契約違反とみなす。

・船とは、高度育成高等学校1年生が無人島に上陸する際に使用した船である。

・乙、丙はこの契約を葛城康平(以下戊とする)に共有する義務を負う。

・契約成立後、甲、乙、丙、戊以外にこの契約の存在を他言してはならない。

・契約違反をした者は、相手側に違約金として200万プライベートポイントを支払い、この契約は無効とする。

・契約を無効にする場合、相手側に違約金として200万プライベートポイントを支払う。

 

 Dクラスのリーダー『堀北鈴音』

 

 

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