実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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無人島サバイバル 6日目・最終日・結果発表

「うわああああああ!!!」

 

「!!??」

 

 誰かの叫び声がテント内にこだまし、俺の意識を強制的に覚醒させる。

 

「……っせえな、起こすなよ綾小路……んん……ぐう」

 

「……」

 

 いまのは須藤の声か。

 そして今のセリフからすると、さっきの叫び声はまさか綾小路……? こいつこんな声も出せるのか。

 

「……」

 

 なんかもう、眠気吹っ飛んだわ。

 それはどうやら綾小路も同じらしく、2人して起き上がる。

 

「なんだよさっきの叫び声は。変な夢でも見たのか」

 

「夢だったらどれほどよかったか……」

 

「……?」

 

 なんだそれ。レモンか。

 

「あんまり思い出させないでくれ。鳥肌が……」

 

「……オーケー」

 

 ぶるっと体を震わせ、腕をさする綾小路。

 こんな綾小路は初めて見た。何かはわからないが、相当嫌なことがあったらしいな。ほじくり返さないでおいてやろう。

 テントの外に出ると、想像していたものとは違った景色が広がっていた。

 

「これは……」

 

「夜中、少し降ったみたいだな」

 

 隣で綾小路がそう呟く。

 テント付近には小さな水たまりが数か所できている。

 荷物と靴は外に出していたが、雨除けのカバーをしていたため無事だ。

 雨は今は止んでいて雨音もしていなかったため、テントの中では気づかなかった。

 止んではいても晴れてはおらず、むしろ空はかなり厚い雲に覆われている。6日目にして、いよいよお天道さんも機嫌を悪くしてきた。

 快晴の時よりも暑さはある程度緩和されるだろうが、湿度が高くなるせいで不快感は増すだろう。

 いや、実を言うと不快感は今もかなりある。

 

「……ちょっと体が気持ち悪いな」

 

「テントの中は蒸し暑いうえに、女子にシャワー室使用禁止を言い渡されたからな」

 

 綾小路の言う通り、変態がいるかもしれない男子にシャワー室は使わせられない、というよくわからん理屈で、男子は昨日シャワーを浴びられなかったのである。

 

「……川で水浴びしてくる」

 

「それがいい」

 

 水着に着替え、タオルを持って川へ。

 時間にすれば10分足らずの行水だったが、これだけでも全然違う。起床時の不快感はだいぶ軽減された。

 体を拭いて戻ると、綾小路は何かを必死に振り払うようにして何度も川の水で顔を洗っており、俺が戻ってきたことに気付くまでにかなりタイムラグがあった。

 いや、ほんとマジでお前の身に何が起こったの?

 

 

 

 

 

 1

 

 程なくして全員が起床。

 点呼とスポット更新という毎朝のルーティンを終え、平田の指示のもとそれぞれやるべきことに取りかかる。

 最優先事項は食糧の確保だ。今日の分を確保できれば、試験終了までポイント消費なしでしのぐことができるからな。

 平田は挙手制で参加者を募り、まとまった人数のグループに振り分けていく。

 最後まで挙手をしなかった俺が配属されたのは、綾小路、堀北、山内、佐倉、櫛田のチームだった。

 

「櫛田、このグループでよかったのか? いつも一緒に行動してる女子はどうしたんだ?」

 

「あー、えっと、うん。ちょっとね……」

 

 俺の問いかけに対して、少しばつが悪そうな反応を見せる櫛田。仲違いとは思えないし、男子には言えない、または言いにくい事情なんだろうか。

 だが、それでも不可解だ。

 俺たちは最後まで挙手をしなかったメンバーで組まれた余り物グループ。櫛田と仲のいい人物が固まっている班はほかにもあるはずなのに、そこに行っていない。

 

「堀北さんとは旅行中ほとんど話せてないから、おしゃべりしたいなーって」

 

 どうやらそんな理由らしい。

 お互い嫌い合っていながら、櫛田は堀北にグイグイ行く。この2人の関係はよく分からない。今のところより謎が多いのは櫛田の方の行動だが。

 俺は堀北に近づき、話しかける。

 

「体調はどうだ」

 

「……休みを取れたおかげで、幾分マシになったわ」

 

「……そうか」

 

 見る限り、まだ万全とは程遠いようだが……昨日より顔色がいいことは確かだ。

 

「軽井沢が勝手に購入した物資、皮肉にもお前の回復に寄与したんじゃないか」

 

「……否定はしないわ」

 

 不機嫌そうにそうつぶやく。

 確認は済んだので、俺は堀北のもとを離れる。

 

「伊吹、お前も一緒に来ないか?」

 

 出発の直前、綾小路は伊吹にそう声をかけた 。

 

「私……?」

 

「ああ。ぜひ手伝ってほしいんだ。嫌なら無理強いはできないが……」

 

「……Dクラスには助けられた恩もあるから、分かった。手伝う」

 

 こうして伊吹の加入も決定。

 山内は女子メンバーが増えたことに対してテンションが上がっているようだ。

 あれ、山内が佐倉のこと狙ってるってのは俺の勘違いだったのか……? と一瞬思ったが、どうやら別に勘違いというわけではなかったらしい。

 山内は機会があればしつこく佐倉に話しかけている。

 

「明日で試験も最後だしさ、頑張ろうぜ佐倉!」

 

「は、はい……」

 

 しかし山内の思いとは裏腹に、佐倉はどんどん距離を取っていく。

 山内……そんな目でそんな方向見るからだ。人に話しかけるときは胸じゃなくて顔を見なさいって教わらなかった?

 

「少し急いだ方が良さそうね。雨雲が近づいてるわ。予想より早く雨が降るかもしれない」

 

 空と腕時計を交互に見ながら、堀北がそうつぶやく。

 腕時計にはコンパスの機能も付いており、それをもとにすると雨雲は南西の方から来ているようだ。見た感じ動きも速く、且つかなり厚い。

堀北の言う通り、あまり悠長にしてはいられないだろう。

 

「ねえねえ速野くん」

 

 さて、食い物探すか、と意気込んでいると、櫛田に名前を呼ばれる。

 

「なんだ?」

 

「速野くんと綾小路くんって、堀北さんと仲いいよね。ずっと気になってたんだけど、どうやって仲良くなれたの?」

 

「いや、前も言ったが、仲良くはないぞ? そりゃ他の生徒と比べれば多少話す関係ではあるけど……そこらへんは綾小路に聞いた方がいいんじゃないか? 俺よりあいつの方が堀北と話すこと多いぞ。ほら、今も隣歩いてるし」

 

「確かに。うーん……」

 

 そう答えると、再び考える仕草を見せる櫛田。

まあ、クラスメイト、どころかこの学校の全生徒と仲良くなろうとしている櫛田のことだ。俺たちとは話して自分とはろくに話もしてくれないことが気になるんだろう。

 綾小路と堀北はただの協力関係だ。櫛田もその中には入れているのだから、立場的に言えば綾小路も櫛田も堀北とは同程度の関係だと言える。

 違いがあるとすれば、堀北が櫛田を嫌っていて、櫛田も堀北を嫌っていること。恐らく一朝一夕でどうにかなる問題でもないんだろうと思う。

 

「あっ」

 

「どうしたんだよ櫛田ちゃん?」

 

 櫛田の突然の声に、山内が反応する。

 

「私、見つけちゃったかも。速野くんと綾小路くん、それに堀北さんの共通点」

 

「え?」

 

 俺たち3人の共通点、と聞いてすぐに思い浮かぶのは、「僕らは友達が少ない」くらいだが、櫛田が言ってるのはそういうことではないだろう。

 

「なんだよそれ」

 

「3人の共通点はねー……全員、ほとんど笑顔を見せない!」

 

 思わぬ角度からの指摘だった。

 笑顔か……。

 

「……俺はまだ笑う方じゃないか?」

 

「あの二人に比べたらそうかも。でも、少ないでしょ?」

 

「……まあ、その点に自覚がないわけじゃないが。でも、それ俺たちが比較的話す関係になった理由になるか?」

 

「……確かに。うーん、結局わからずじまいだなー……」

 

 そう言ってしょんぼりして見せる櫛田。

 

「この辺りを重点的に探しましょう。絶対に2人以上で行動することだけは心がけて。良いわね」

 

 俺たちの会話は堀北に聞こえていなかったのか、聞こえていてスルーしたのか。どっちかはわからないが、堀北はよく通る声で全員に適切な指示を出した。

 それを皮切りに、それぞれ組を作っていく。櫛田は伊吹と。山内は佐倉と。堀北は綾小路と。

 俺は……あれ、俺は?

 

「速野くん、私たちと来てくれると嬉しいな。男の子の手も欲しいからさ」

 

 余りものグループの中でもさらに余ったという事実に軽く涙がちょちょぎれそうになっていたところに、櫛田からありがたい申し出があった。

 

「分かった、そうさせてもらう」

 

 一言断りを入れ、櫛田と伊吹に合流した。

 本格的に探索を始めてからも、櫛田は途切れることなく話題を振ってくる。伊吹も櫛田の会話量に驚き、少し目を逸らしながら時々話す。俺も話を振られたらそれに答えるという感じ。ほとんど櫛田一人でこの場の会話をコントロールしているが、櫛田の非常に高い会話能力によって、傍から見れば会話が弾む楽しげな作業現場に見えるだろう。

 やっぱり櫛田のコミュニケーション能力は凄い。改めて実感する。

 と、そんな時。

 

「あっ!」

 

 驚いたような、焦ったような綾小路の大きな声が聞こえて来た。

 すぐに振り向くと、目に映ったのは堀北が何かを上着のポケットに入れている場面だった。

 

「どうしたんだろう?」

 

「……」

 

「速野くん?」

 

「……あ、ん? なんだ?」

 

「いや、今の綾小路くん、どうしたんだろうって思って」

 

「……さあ、何か落としたんじゃないのか?」

 

 堀北は何故か激怒していて、綾小路を鬼の形相で睨みつけていた。それにたじろいだのか、綾小路はその場を離れ、佐倉と作業をしていた山内に声をかけていた。会話の内容は聞こえてこないが、山内は何か神妙な顔をしている。

 

「……」

 

「……速野くん?」

 

「え?……あ、ああ、悪い。集中する」

 

 櫛田の呼びかけで我に帰り、再び作業を続けた。

 しかし、そこから10分も経たないうちに事件は起こった。

 

「うはははは! 泥だらけだぜ堀北! いや、ドロ北だドロ北。あははは!!」

 

 そんな頭の悪そうな笑い声に反応して振り向くと、そこには泥にまみれて無言で立ち尽くす堀北と、その頭に泥を塗りたくっている山内の姿があった。

 その山内に、堀北にそれはそれは綺麗な一本背負いをくらわせる。

 

「がふえぇっ!!!!!」

 

「や、山内くん!?」

 

 こうなると、食料採集なんてやっている場合ではなくなる。

 泥まみれの堀北と、ぶん投げられた山内への対応に追われ、俺たちのグループは右往左往していた。

 そんな光景を眺めつつ、俺の頭を支配しているのは、一つの疑問。

 

 なぜ綾小路が、俺のやろうとしていたことをやっているのか。

 

「悪い櫛田、俺ちょっと」

 

「え、は、速野くん?」

 

 俺は櫛田に断りを入れ、その場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 2

 

「お、おい火事だ! トイレの裏でなんか燃えてるぞ!」

 

 午後5時ごろ。事件は突如として起こった。

 ただならぬ状況を察知し、俺も手に持っていたものをポケットにしまって現場に向かう。

 聞こえてきた通り、トイレの裏で炎が燃え盛っている。

 すでに火の手はかなり大きくなっている。このままだと大惨事になりかねない。いますぐに消火が必要だ。

 俺の近くにいた伊吹は、炎が上がるその光景を見て驚愕と混乱が混ざったような表情をしていた。

 

「何があったんだ!?」

 

 焦り交じりの声とともに平田も現場に駆けつけ、状況を理解して感嘆する。

 

「だ、誰がこんなことを……」

 

 握りしめた拳を震わせている平田。

 それは、怒り、焦り、その他あらゆる負の感情がないまぜになったような声だった。

 

「平田、取り敢えず消火だ。川や注文したペットボトルから水が欲しい」

 

「わ、分かった。みんな、お願いできるかな」

 

 平田もだいぶ切羽詰まっているようで、少し早口になっていた。

 常に冷静で温厚な平田が、こんな反応を示している。その事実から危機感をさらに膨らませたクラスメイトが、すぐに水をかけて消火活動を行う。

 

「これでとりあえず燃え広がる心配はないな……」

 

 水を運んで来てくれたうちの1人である綾小路がそう呟く。

 燃焼が収まったところで、ようやく現場の状況が詳しくつかめてきた。

 

「燃やされたのは……これはマニュアルね」

 

 燃え残った残骸の中に、僅かながらに見覚えのあるイラストが読み取れる。

 これはポイントで購入可能な物資の一部。堀北の言った通り間違いなくマニュアルだ。

 

「僕がちゃんと管理していれば……マニュアルは、鞄の中に保管してあったんだ。昼間だからって油断してしまった……」

 

 平田が自らを悔いるように歯噛みする。

 

「……最終日で良かったな。あと1日なら、別にマニュアルがなくても乗り切れる」

 

「……そうだね」

 

 そう声をかけるが、いまのこいつには少しの慰めにもなっていないだろう。

 そのうち、Dクラスのベースキャンプ内に怒号が飛び交う。

 

「もう無理。ここに下着泥棒の変態と放火魔がいるなんて、もう耐えらんない!」

 

「俺らじゃねえよ! いつまで疑ってんだよ!」

 

「み、みんな待って……」

 

「分かんないじゃない。もしかしたら下着泥棒を誤魔化すためにやったかもしれないでしょ?」

 

「んなことしねえよ!」

 

「みんな、お願いだ。落ち着いて話し合おう……」

 

 また先日のように、犯人の押し付け合いが始まる。

 雨が降り出した頃、俺はDクラスの騒ぎの様子を横目で見ながら、森の中に足を踏み入れた。

 

「どうしてなんだ……僕は、今まで何のために……これじゃ、あの時と……!」

 

 壊れたようにそうつぶやく平田に目を向けながら。

 

 

 

 

 

 3

 

 俺が森に入って、すでに1時間半は経過しただろうか。

 時刻は午後7時を少し回ったくらい。真夏の太平洋上ということもあって、まだ真っ暗というわけではなかったが、すでにかなり視界は狭まっている。懐中電灯は必須だ。

 俺は前方に、不自然に動く光と複数の人間の話し声を確認した。

 

「そろそろか……」

 

 そこに向かって、足を動かす速度を速める。

 そして、お互いがお互いを認識するのに苦労しないほどの距離に来たと判断した段階で、俺は声を発した。

 

「お、お前たち……なにやってるんだ、こんなところで……」

 

 俺の声がしっかり聞こえたのだろう。先ほど認識した不自然にうごめく光……つまり懐中電灯の光が2つ、俺に向かって照らされる。

 

「あ? 誰だてめえは」

 

「速野か……」

 

「速野? ……あぁ、鈴音の腰巾着その2じゃねえか」

 

「葛城……それに、龍園、伊吹も……っ! 伊吹お前、やっぱりスパイだったのか……」

 

 悔しさを滲みだすように呟くと、龍園が笑い出す。

 

「おめでてぇ連中だな。ま、今更気づいても手遅れってやつだ」

 

「手遅れ……? な、お、お前、それ……!」

 

 龍園の手に握られていたのは、堀北が持っていたキーカードだった。

 

「ほら、確認しろよ葛城」

 

 龍園はそれを葛城に手渡す。

 葛城はそれを確認し、龍園に戻す。

 伊吹に関しては、最初からあまり話についていけていない様子だった。

 俺はそれを無視し、目を落とす。

 ここ数分で、視界はさらに悪くなっている。

 持っていた懐中電灯を照らして足元を見ると、そこには傷だらけの堀北が横たわっていた。

 

「は? お、おい堀北!? しっかりしろ!」

 

 体をゆするが、反応はない。

 息はあるようだが、気を失ってる……。

 

「……他クラスへの暴力行為は即失格のはずだろ」

 

「……あぁ? 知らねえよ。伊吹が言うには、鈴音の方から手を出してきたらしいぜ。暴力をふるったのはどっちだろうなぁ?」

 

 この状況下で、どちらに非があるかを完ぺきに判断することはできない、か。

 

「……くそ。なら、キーカードはどうだ。明確な略奪行為だろ!」

 

「略奪だ? そりゃまた知らねえなあ」

 

 龍園はニヤつきながら自らの衣服でキーカードを丹念にふき取り、その後横たわる堀北の手に握らせた。

 

「そのキーカードから指紋でも出てくりゃ、話は別だがな」

 

 指紋はたった今龍園によりふき取られてしまった。そんなものが出てくるはずがない。

 

「くそが……どちらにせよ、この状態じゃ、どのみちリタイアさせるしかない、か……はは、葛城、クラスのリーダーがリタイアしたらどうなるかわからないから気をつけろ、なんてお前に言ったのに、まさかそのまま自分たちに当てはまってしまうとは思ってなかったよ」

 

「……リーダーのリタイア……」

 

 堀北の体ができるだけ雨に濡れないよう、着ていたジャージを堀北に重ね着させる。

 そんな俺を見ながら、葛城は何かに思い至ったようだ。

 

「……リーダーのリタイアによる入れ替えか!」

 

「あ?」

 

 全てを悟った葛城の大声に、龍園も何事かと振り向く。

 

「マニュアルにはこうあった。正当な理由なく、リーダーの変更はできない。逆に言えば、正当な理由があればリーダーの変更が可能だ……怪我や体調不良によるリーダーのリタイアはおそらく、正当な理由に当てはまる……!」

 

 葛城のそのセリフを受け、龍園の目が見開かれる。

 

「……クソがぁ!!」

 

 降りしきる雨の中、龍園の雄叫びがこだました。

 そのまま苛立ちをぶつけるように、横に生えている木を勢いよく蹴る。

 蹴られた木は大きく揺れ、木の葉についていた水滴がその衝撃で落ち、まるで一瞬、その空間だけ土砂降りの雨が降ったかのような光景が作り出された。

 何が何だかわからない。そんな表情をしている俺に、龍園が凄んでくる。

 

「誰だ……」

 

「は?」

 

「こんな計画考えやがったのはどいつだ」

 

「……」

 

 凄む龍園。しかし俺はそれにだんまりを決め込む。

 

「鈴音か? 平田か? 別の人間か? 言いやがれガリ勉野郎」

 

「……」

 

 それでも口を開かずにいると、突然、ノーモーションから龍園の右拳が俺の顔に向かって飛んでくる。

 

「っ……!」

 

 しかし、寸前のところでそれを止めた。

 

「痛い目を見たくなけりゃ、言え」

 

 俺の胸倉をつかみ、再度脅しをかける龍園。

 

「……やめといたほうがいいぞ、龍園。俺は倒れてる堀北を見つけてすぐに腕時計のボタンを押した。到着はまだみたいだが、いつ来るかは誰にもわからない。もし駆け付けたスタッフにお前の暴力行為を見られたら……」

 

 俺が言い終わる前に、龍園はつかんでいた俺の胸倉を乱暴に突き飛ばすようにして離した。

 その衝撃でバランスを崩し、こけそうになるのをすんでのところで堪える。

 

「……ずらかるぞ伊吹」

 

「ちょ、ちょっと龍園」

 

「待て龍園!」

 

 立ち去ろうとする龍園を葛城が呼び止める。

 

「言っとくが、契約は成立だぜ。俺がリーダー情報を流し、てめえがその両の目で見た、その瞬間にな」

 

 そう吐き捨てて、龍園は立ち去った。

 

「……くそっ」

 

 葛城は何も言い返せない。

 俺はその背中に、さらに話しかける。

 

「葛城。今回の試験では坂柳派に足を引っ張られてるのか」

 

「……答える義務はない」

 

「それはそうだが……藤野から聞いた。派閥間対立のせいでコミュニケーションがうまくいってないって」

 

「……」

 

「クラス内に、とんでもない裏切り者がいる可能性も否定しきれないな。例えば……俺のように、リーダーの情報を他クラスに流したりする……そういうやつがいないことを祈るよ」

 

「……余計なお世話だ」

 

 そのまま悔しそうに地面を踏みしめ、自らのベースキャンプへと戻っていった。

 後に残ったのは、俺と、意識のない堀北。

 時刻は7時20分。

 

「……さて」

 

 俺は持ってきたハンカチで、堀北の頭を拭く。

 気休め程度にしかならないけどな。

 ただ、雨が降っているとはいえ、今は真夏。今日は熱帯夜で夜でも気温は30度を越している。そのおかげでこれほど雨に降られても低体温症になっていないのが救いか。

 そして俺は、暗闇に向かって声を発する。

 

「……手伝ってくれ、綾小路」

 

 

 

 

 

 4

 

 森を抜けてDクラスのベースキャンプに戻り、点呼を受け終えた俺は、クラス全員にある報告をした。

 

「堀北さんがリタイア?」

 

「ああ。どうも、無人島に来る前から風邪をこじらせてたらしくてな。火事騒ぎの中で逃げ出した伊吹を追いかけてるうちに力尽きたみたいだ。自分で時計のボタンを押して、今は船で療養してる」

 

 そう言うと、クラス中から落胆の声が上がる。

 

「えー、これでマイナス30ポイントー?」

 

「占有できないからボーナスポイントも1点なくなっちゃうよね」

 

「マジでー? てかあの火事騒ぎ、やっぱり伊吹さんだったんじゃん」

 

「信じてたのに最悪―」

 

 堀北の心配より、獲得できるポイントが減ってしまったことへの心配の方が強そうだった。これも普段の行いの帰結か。

 そんな中、ベースキャンプから少し外れた場所では、綾小路がキーカードを伊吹に見られたことを平田に報告している。

 その衝撃的な報告に絶望する平田を見ながら、俺は再び森の中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 5

 

 最終日。

 昨日とはうってかわっての快晴だ。

 昨日の雨水が太陽光により蒸発している。片付けは楽だが、まるで蒸し風呂にでも入っているかのような環境はかなり辛いものがある。

 各クラスの生徒たちはすでに片づけを終え、初日に真嶋先生から全体説明を受けた浜辺でくつろいでいる。

 

『試験はすでに終了しております。飲み物やお手洗いなどは休憩所をご利用ください。まだ船内に戻ることはできませんので、ご注意ください』

 

 そんなアナウンスが定期的に流されている。

 その時、平田が紙コップを二つ持ってこちらに駆け寄ってきた。

 

「お疲れ様速野くん」

 

「ああ……ありがとう」

 

 差し出された紙コップを一つもらう。

 昨日はいろいろあってかなり参っていたようだが、今は大丈夫そうだ。

 平田は最後の最後まで、クラスのために奔走している。

 

「お礼を言うのは僕の方だよ。この試験期間中、君には何度も救われたからね」

 

「救うなんて……俺はそんな殊勝なことは一切やってない。それをしたのは……」

 

「……そうだったね」

 

 再確認するように頷く平田。

 

「それにしても……本当にCクラスは誰もいないんだね」

 

「ああ……そうだな」

 

 浜辺には、森への入り口から見て右側からA、B、C、Dクラスの順に並んでいるが、俺たちの右隣にいるはずのCクラスの待機場所には、誰一人として生徒が確認できなかった。昨日まではいたはずの龍園もだ。

 

「じゃあ、また後で」

 

「ああ」

 

 そうして、平田はまた別のクラスメイトのところへ駆けていった。

 

「……すごいな」

 

 無意識のうちに、声が漏れ出ていた。

 試験中、誰よりもクラスのために行動し、悩み苦しんだのは間違いなく平田だ。試験が終了した今、肉体的にも精神的にも今すぐに休息を取りたいはずなのに、嫌な顔一つせずにクラスメイトをねぎらっている。

 俺にはとてもあんなことはできない。

 ……とはいえ、あまり見習いたいとは思わないが。

 と、突然浜辺にキィンという機械音が響き渡る。

 音のする方を向いた生徒たちは、真嶋先生が右手に拡声器を持っているのを見て瞬時に状況を理解し、姿勢を正した。

 そんな生徒たちを見て、真嶋先生は穏やかな声で言う。

 

『すでに試験は終了している。この時間は夏休みの一環のようなものだ。各々自由に過ごしてもらって構わない』

 

 そういわれても、生徒たちの緊張は全く解けない。

 先生が拡声器のスイッチを入れたということは、学年全体への発表事項……つまり、特別試験の結果発表のときが近いことを意味しているからだ。

 

『この1週間、我々は君たちの特別試験への取り組みを興味深く観察させてもらった。正面から挑む者も、工夫して挑む者もあったが、総じて素晴らしい試験結果だったと考えている』

 

 教師からの素直な誉め言葉に、生徒一同は安堵の表情を浮かべていた。

 

『ではこれより、簡潔にではあるが試験結果の発表を行いたいと思う。なお、結果の詳細に関する質問は一切受け付けない。自分たちで分析し、反省し、次の試験へと生かすことだ』

 

 さて、どうなったか。

 

『下の順位から発表していく。最下位は……Aクラス。170ポイント』

 

 最上位クラスであるAクラスは最下位。

 Aクラス側からはざわめきが起きている。

 葛城も驚いている様子だ。

 

「え、まって、最下位のAクラスが170ポイント……?」

 

「どういうこと? 私たちそれより高いの……?」

 

 高円寺や堀北のリタイアなどで多くのポイントを失ってしまっているはずのDクラスからも、疑問の声が沸き起こっている。

 

『続いてBクラス。207ポイント』

 

 Bクラスからは歓喜と同時に、困惑の声が聞こえてくる。

 207ポイントも取って、3位なのかと。

 だが、その認識には誤りがある。

 Bクラスは3位ではなく……2位だ。

 

『そして……1位、Dクラス。259ポイント』

 

「え……えぇ!? 俺たちが1位!?」

 

「よっしゃああああ!!!」

 

 歓喜に沸くDクラス。

 しかし、すぐに新たな疑問が噴出する。

 

「あれ、Cクラスはどうしたんだよ……?」

 

「そういや発表されてねえよな……」

 

 その疑問に答えるように、真嶋先生が口を開く。

 

『なお、発表がなかったCクラスは、他クラスに対する略奪行為が発覚したため、試験は失格、対象者のプライベートポイントをすべて剥奪する処分とした。以上で結果発表を終わる』

 

「Cクラスが失格って……」

 

「マジで?」

 

 そう、Cクラスは順位付けされる資格すらも失っていたのだ。

 

「ほ、堀北ぁ!!!!?????」

 

 突然、後ろの方で堀北の名を絶叫する声が聞こえてきた。

 それもそのはずだ。

 リタイアして船にいるはずの堀北が、自分たちの後ろに堂々と立っていたのだから。

 

「え、な、なんで……?」

 

「どういうこと!?」

 

 当然、Dクラスはパニックに陥る。

 そしてそれはAクラスも然りだった。

 

「どういうことだ葛城!」

 

「説明しろ!」

 

「お前ら落ち着けよ!」

 

 順当で予想通りの結果だったのはBクラスだけだろう。

 ほか2クラスが混乱を極める中、純粋に喜びを分かち合っていた。

 これじゃ、どっちが勝利クラスかわからないな。

 だがしかし、数字の上ではDクラスの完全勝利だ。

 波乱と混乱と歓喜、そして失格の特別試験は、これをもって幕を閉じた。

 

 

 

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