実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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真相

「やあDクラスの諸君、一週間の無人島生活はどうだったかな?」

 

 船のデッキに戻った俺たちは、ドリンクを片手に持った、それはそれは元気そうな高円寺に激励を受けた。

 

「てめえ高円寺! お前のせいで30ポイント失ったんだぞ!」

 

「落ち着きたまえよレッドヘアー君。私は体調を崩してしまったんだ。仕方がないだろう?」

 

「こんの……! んなツヤツヤした肌で何言ってやがる! サボった一週間でみっちり焼きやがって!」

 

「人聞きの悪い。これも療養のうちさ」

 

「くそったれ!!!」

 

 落ち着け、と言いたいところだが、まあ怒るのも無理はないというか当然だし、しばらくは好きに暴れてもバチは当たらないだろう。むしろそれで気が済むなら存分に荒ぶってもらって結構だ。

 

「あれ、堀北さんは?」

 

 少しして、堀北がいないことに気づいた生徒のひとりが言う。

 

「ああ、彼女は部屋に帰って休んでいるよ。この一週間、無理をしてしまったからね。かなり疲れが出てるはずだよ」

 

「ねえ、そういえばなんで堀北さんは最後島にいたの? リタイアしたんじゃなかったの?」

 

「だよね。速野くんは確かにリタイアしたって言ってたよね……」

 

 おっと、話の矛先が俺に向いてきた。

 

「いや、あの時は俺もリタイアしたもんだと……だからリタイアしてないと知ったときはたまげた。俺にもよくわからないんだよ」

 

「それについては僕から説明するよ」

 

 平田がそう言うと、注目が俺から平田に移る。

 助け舟を出してくれた、ってことだろうか。

 なら、それに甘えよう。

 平田は綾小路からことのあらましを聞いているだろう。それで上手くクラスの疑問を解消してくれるはずだ。

 嘘で塗り固められた説明ではあるだろうけど。

 

「……飯でも食いに行くか」

 

 俺も結構働いたんだ。もう腹が減って仕方がない。

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 場所は客船内のとあるカフェテリア。

 ここは船内でもあまり人通りが多くなく、聞かれたくない話をするのに適した場所だ。

 

「大丈夫か、堀北」

 

「大丈夫なわけがないでしょう。見事に風邪がぶり返したわ」

 

 にらみつけられるが、体調が万全でないせいかいつもより弱弱しい。

 

「でも、どうせリタイアするつもりはなかったんだろ、最初から」

 

「だからと言って、まさか野宿させられるとは思わなかったわ。……覚悟はできているのかしら」

 

 いったい何の覚悟をしろと……。

 

「いや、それは悪かったよ……でもできる限りのケアはしたろ」

 

「言い訳にすらなってないわよ」

 

「マジで悪かったって……」

 

 やはり滅茶苦茶怒っているようだ。

 

「洗いざらい、すべてを話してもらうわよ。誤魔化さずに言いなさい。この試験、一体何が起こったのか……」

 

 Dクラスの高得点、そしてCクラスの失格。堀北からすれば理解の及ばないことが多いだろう。

 

「ああ、お前をあんな形で巻き込んだ時点でそのつもりだ。ただその説明をするには俺だけじゃ足りない。もう少しで……ああ、来たな」

 

 その人物が到着し、俺の隣に腰かけた。

 

「綾小路くん……」

 

「今回の試験の全容を説明するには綾小路が不可欠なんだよ。というわけで、説明しろってさ」

 

 綾小路は状況を理解したようで、俺の言葉に頷いた。

 

「どういうこと? あなたたち二人は、協力して動いていたということ……?」

 

 突然の綾小路の出現に、訳が分からないといった様子の堀北。

 

「いや、初めは全く別々に動いていた。動き方はかなり似てたけどな」

 

「オレもこいつも、無人島に降り立ってすぐに洞窟のスポットに先回りしようと考えた」

 

「洞窟のスポットって、Aクラスが占有していた……そこに先回り? そんなことはできないはずよ。スポットの場所なんて森に入って探し回るしかないのだから……」

 

「いや、それは違う。お前は体調崩して船内にこもってたから見てないだろうが、無人島への入港直前、この船は島の周りを大きく一周した。アナウンスがあったの覚えてるか? 『意義ある景色が見られるから、デッキに出てみろ』って。葛城も気づいてたが、あれは洞窟のスポットに気付かせるための学校側からのヒントだったんだ。俺たちが気づいたのもその時だ」

 

「……じゃあ、あなたが遭難しかけたという話は」

 

「もちろん嘘だ。須藤たちが歩いているルートが洞窟へ向かうルートから外れる前に、3人から離れて洞窟に向かった。その後は普通にDクラスの待機場所に戻るつもりだったが、洞窟に向かう途中で偶然こいつと佐倉に出くわしたのはかなりビビったよ」

 

 俺もこいつもお互いを認識しあったが、佐倉もいた手前下手に接触はしなかった。

 

「そこで、オレたちはある光景を目にした。その時の話はしたよな?」

 

「ええ。キーカードを持った葛城くんが、戸塚くんと一緒に洞窟から出てきたのよね」

 

 いつの間に話してたのか……まあ、機会はいくらでもあったから不思議ではないが。

 

「ああ。そのあと洞窟を見たら、Aクラスによって占有されていた」

 

「つまり、Aクラスのリーダーは葛城くん?」

 

 早合点する堀北に、綾小路は首を振って否定した。

 

「いや、隣にいた戸塚だ。葛城は慎重で堅実な策をとる男だ。二人しかいない空間で占有したりはしないだろう。リーダーが絞り込まれてしまうからな。それに、誰の目があるかも分からない外でキーカードをさらす行為もだ。つまり欲に駆られて先走って占有した戸塚がリーダーで、葛城がカードを持ってでてきたのは、それを隠すためのカモフラージュだと考えるのが自然だ」

 

「ちょっと待って……あなたたちの話によれば、Aクラスはスポットの場所を絞り込めていたのよね。ならどうして全員で移動しなかったの? 大勢で動いていれば、リーダーを特定されることもなかったはず……」

 

 その点は堀北の言う通りだ。事実俺たちDクラスは、占有するとき大人数で堀北を囲って隠した上に、ダミーの生徒まで用意した。リーダーを絞り込ませないために。

 

「たぶん、原因はAクラスの内部事情だ」

 

「そこに何か問題があったということ?」

 

「ああ。Aクラスは今、葛城をリーダーとしたい派閥、坂柳という生徒をリーダーにしたい派閥に分かれて足を引っ張りあってるんだ。そのうえ、今回Aクラスの欠席者はその坂柳だった。だから表向き葛城に従うしかなかった坂柳派の生徒の不満は大きく、かなり不安定な状態だったんだろう。戸塚が成果を急いで先走ったのも、坂柳の派閥のことが頭にあったからだろうな」

 

「なるほどね……」

 

「その時点でオレはAクラスを一度眼中から外した。洞窟の周辺にはそれ以外にもスポットが点在していたが、それでいくら稼いでもリーダーを当てればすべて無効にできるからだ」

 

「一度、ということは、もう一度Aクラスに目を向けるきっかけが試験中にあったということ?」

 

「ああ。そのきっかけの発端が、伊吹の登場だ」

 

「伊吹さん……彼女はスパイだったのよね?」

 

「ああ。Dクラスのリーダーを探るためのな」

 

 伊吹はスパイとして十分な働きをしたと言っていいだろう。

 Dクラスに近づきすぎず、かといって離れすぎず。

 だが何より功を奏したのは、伊吹が頬に負っていた外傷だ。あれで、クラスで揉めて殴られた挙句追い出された、という話の説得力が格段に上がった。

 

「伊吹が最初に座り込んでいた地面には、掘り返された跡があってな。それに、木の枝にはハンカチも括り付けられていた。これはここに何かあって、その場所を忘れないようにするための目印だ。俺は二日目の夜中に調べに行ったんだ。そしたら、無線機が出てきた」

 

「無線機が……?」

 

「ああ。それをこんなところに隠す理由は一つしかない。俺はその時点で伊吹をスパイだと断定した」

 

「オレも伊吹を怪しんで、あいつのリュックを調べた。伊吹はデジカメを持ってたんだ」

 

「デジカメを……」

 

「ああ」

 

「俺もリュックは怪しいとにらんでいた。そのため無線機を探し当てた後に伊吹のリュックを調べ、俺もデジカメを発見したが……その時すでにデジカメは故障してた」

 

「オレが壊しておいたんだ」

 

 直接目にはしなかったが、これが単なる故障ではなく何者かによって壊されたということは何となく察しがついた。そしてその何者かというのが、恐らくは綾小路であることも。

 

「でも待って、なぜデジカメなの。リーダーの名前を知らせるなら、キーカードを見て無線機で伝えればいいだけじゃないかしら」

 

「その点は俺も疑問に思ったが、その時すぐには解けなかった。完全に解けたのは3日目だ」

 

「3日目……その日に何かきっかけがあったということかしら」

 

「ああ。その前に2日目の午前中、Cクラスの様子を3人で見に行っただろ」

 

「ええ。あなたは途中で離れたけれど……」

 

「その時俺は、浜辺の奥に保管されてた、Cクラスが購入した物資を調べてたんだ。そしたらバーベキューの材料、菓子ジュース類、遊び道具のほかに、俺たちが毎日食ってた保存食、それに釣竿が出てきた」

 

「何か不思議があるかしら」

 

「あるだろ。趣味で釣りをする生徒がいるかもしれないから釣竿はまだわかるとしても、保存食なんてその日のうちに全員リタイアする作戦をとるクラスが好き好んで購入するものじゃない」

 

「確かにそうね……」

 

「俺はそれを、他クラスに供与するためのものだと考えた。おそらくその時使っていたシャワー室や仮設トイレも一緒にな。そう踏んで俺は、仮設トイレに目印をつけるために、ある仕掛けをした」

 

「その仕掛けって……」

 

「『貸し出し用』と書かれたシールだ。うちが使ってたものにもついてただろ」

 

「ええ。それを剝がしたの?」

 

「いや、剥がしたら怪しまれすぎる。シールの向きを変えたんだ。貸し出し用の文字は横書きで、横に読めるようにシールが貼られてる。それを縦に貼りなおした。そしてそのシールが縦に貼られた仮設トイレは、3日目にAクラスのベースキャンプで見つけたよ」

 

 3日目の午前中、Bクラスのベースキャンプを経由してAクラスに向かったのはこれの確認のためだ。

 

「つまり、AとCは裏で手を組んでいたのね……」

 

「そうだ。まあ最初からある程度Aクラスだろうとは思っていた。BクラスにCクラスの生徒が伊吹と同じように匿われてたってのもそうだし、それ以前に一之瀬が龍園と手を組むとは思えなかったからな」

 

「なるほどね……」

 

「AクラスとCクラスの契約の内容は具体的には知らないが、恐らくCクラスは物資の供与とリーダー情報の提供を約束してたんだろう。そこで、伊吹がデジカメを持っていたのはAクラスがリーダー情報に関して確たる裏付けを欲しがったから、という答えにたどり着いた」

 

「でも、デジカメはオレによって壊されてしまった。だから伊吹はお前からキーカードを盗み出すなんてリスキーな行動に出ざるを得なかった」

 

「そう、そのあたりも不自然よ。私はキーカードを見られた。ならば当然Dクラスのリーダーは当てられるはず。なのになぜあんな高得点を……」

 

 それは堀北にとって最も大きな疑問の一つだろう。

 

「今まで似たような動きをしていたオレたちだったが、それの対処に関する方針が決定的に食い違っていたんだ。オレの方は初め、リーダーの入れ替えによって対処しようとした」

 

「リーダーの入れ替え……? 待って、そんなことはできないはずよ」

 

「本当にそうか? マニュアルにはこうあった。正当な理由なく、リーダーの変更はできない。裏を返せば、正当な理由を用意すればリーダーの変更が可能だ。それが、リーダーのリタイアだ」

 

 それを聞いた堀北は目を見開く。

 

「あなたたちはまさか……私が体調不良だということを知っていたうえで、リタイアする可能性の高い私を推すように櫛田さんに言ったの……?」

 

「いや、櫛田が堀北を推したのは全くの偶然だ。ただもし櫛田がそうしなかったとしても、何らかの形で堀北を推すつもりではあった」

 

 一応フォローしておくと、体調不良であることを抜きにしても、リーダーとして適格な人物は堀北だと考えていた。

 体調不良なら誰でもいいというわけじゃない。

 

「リーダーの入れ替えが可能なら、他クラスにリーダー情報が流れるのは弱みどころか武器になる。証拠付きならなおさらな。知ったクラスは100パーセントの自信を持てるから、リーダー当てに参加してお前の名前を書く。そして外す。そう考えた」

 

「じゃあ6日目、あの探索の場に伊吹さんを誘って参加させたのも、あの時カードを落としたのも、私が川へ行くよう誘導したのも、すべて伊吹さんにカードを盗ませるための作戦だったというの……?」

 

「そうだ」

 

 呆れて言葉も出ないといった様子の堀北。

 しかし、すぐに一つの疑問にぶつかる。

 

「……でも変よ。私はリタイアしていない。ならどうして……」

 

「それが、オレと速野の方針の食い違いによって生み出された結果なんだ」

 

「さっきから話に出ている速野くんの方針というのは、いったい何なの?」

 

「リーダー情報を敵に流したうえで、相手にリーダー入れ替えの可能性を悟らせ、リーダー当てに参加させない、というものだ」

 

「……可能性を悟らせる、って、いったいどうやって」

 

「まあそこらへんは誘導だな。そのための布石は打った」

 

 俺はポケットからある紙を取り出し、堀北に見せた。

 

 それは4日目の午後、俺がAクラスの生徒二人と交わした契約書だった。

 

「これ……あなた、裏でこんなことを……!」

 

 内容を読み、怒りに震える堀北。

 何の説明もないままこれが表に出れば、俺は大バッシングだろうな。本当の意味で終わりだ。現時点で何か始まってるわけではないが、その始まりすらも許されなくなる。

 

「最後まで聞いてくれ。言っただろ、これは布石だって。この契約の話が葛城に伝われば、疑念を持つはずなんだ。こんなに簡単に裏切るのは、この契約に何か裏があるからなんじゃないかとな」

 

 そしてその疑念の答えが明らかになったのが、葛城がDクラスのキーカードを確認しに来た現場だ。

 

「お前は気を失ってたから何も知らないだろうけどな」

 

「あの時にそんなことが……」

 

 堀北と伊吹がやりあったところもしっかりと見ていた。龍園と葛城が来るまでは身を潜め、タイミングを見計らっていたのだ。

 あれはかなり迫力のある戦闘だったなあ、なんて考える。

 

「葛城はその性格からしてリーダー当てに参加しなくなることは読めていた。だが龍園は未知数だったのと、葛城のように接触の機会を持てるかどうかは分からなかったから、堀北の名前をリーダーとして書く可能性を排除しきれなかった。それへの対処として、Cクラスを失格に追い込んだ」

 

「あの失格はあなたの仕業だったのね……」

 

 Cクラスの失格。その裏にある事実が明かされる。

 

「お前が山内に泥ぶっかけられた直後、俺はその場を抜け出して森に身を潜めつつ、伊吹の動向を追った。デジカメで録画し続けながら」

 

「デジカメ? ……あなた、勝手に購入したのね」

 

 誰にでも購入できることを知った直後、すぐに申請した。

 それまではどう平田に事情を説明して購入してもらうか考えていたが、その手間が省けたのは大きい。

 

「まあな……。いずれ俺も伊吹がカードを盗み出すよう誘導するつもりだった。綾小路がそのお膳立てをしたのにはかなり驚いたが……伊吹がお前のキーカードを盗み出す瞬間をデジカメでばっちり映し、その映像をすぐに学校側に提出した。有無を言わさぬ証拠だったからな。問答無用でCクラスの失格は決まったよ」

 

 こうすることによって、Cクラスの動きは完全に封じた。

 ちなみに、失格になったクラスのリーダーを当てても問題なく50ポイントが入ることは、もちろん事前に確認済みだった。

 

「Cクラスのリーダーが龍園であることは、Cクラスのベースキャンプに行ったときにすぐにわかった。伊吹と同じ型の無線機が置いてあったからな。Cクラスのほとんどがリタイアしても、島に潜伏しているのは間違いないと踏んでいた」

 

「龍園くんがリーダーを入れ替えることはなかったのかしら」

 

「入れ替えようにも入れ替えられなかったんだよ。龍園がリーダー入れ替えの可能性に気付いた時には、すでにCクラスは失格になってたんだ。映像をすぐに学校側に提出したのはこのためでもある」

 

「……話が読めてきたわ。あなたが私に浜辺付近に野宿させ、自分がいない間に島から船に戻った生徒がいなかったかを確認するように言ってきたのは、戸塚くんがリタイアしたか否かを確認させるためだったということね」

 

 ご明察。その通りだ。

 

「葛城くんはリーダー入れ替えを行わなかったのね……」

 

「ああ。さっきも言った通りだが、葛城は内部に不安要素を抱えてる。坂柳派の生徒が、葛城の勢いを落としたいがためにリーダー情報を他クラスに渡す、なんて暴挙に出ないとも限らない。もしそんな裏切り者がいたら、リーダー変更を行っても無駄だ。むしろリタイアのペナルティ30ポイントをどぶに捨てることにしかならない」

 

 慎重で堅実な葛城は常に最悪の事態を想定して行動している。それはつまり、最悪の事態を避けることにこだわっているということだ。

 ここでいう最悪な事態とは、リーダー変更を行って30ポイントを失い、そのうえで変更後のリーダーを当てられてしまうこと。

 裏切り者がいれば、たとえ変更してもリーダーを当てられることは避けられない。

 だが変更を行わなければ、少なくとも30ポイントは守られる。

 クラスのリーダー情報を他クラスに渡す裏切り者がいる可能性をほのめかせば、葛城ならこの選択肢を取るだろうと考えていた。

 ただし絶対というわけではなかったから、念のため堀北に戸塚がリタイアしないか見張らせていた。

 もちろん堀北が見張りをしたのは俺がいない間。体調を崩しているこいつにできる限り無理をさせないため、俺はDクラスのベースキャンプで点呼を終え、堀北がリタイアしたと偽の情報を流した直後、堀北のもとへ向かい見張りを変わった。

 俺が見張りをしている間は、堀北は休んでいた。その間も手で仰いだり汗を拭いたりなど、できる限りのケアはしたつもりだ。

 堀北をベースキャンプに戻さなかったのは、Dクラス全員に堀北がリタイアしたように装うためだ。

 AクラスがDクラスのベースキャンプに来て、本当に堀北がリタイアしたかどうかを探りに来る可能性があったからな。その相手を完璧に騙すためには、Dクラス全員が堀北がリタイアしたと「本当に」思い込む必要があるというわけだ。

 

「言葉にならないわ……」

 

 試験の全容を聞き、唖然とする堀北。

 

「ただ……心底気に入らない。あなたたち二人は私を散々利用していたということじゃない」

 

 ああ、その通りだ。

 

「その点については申し訳ないと思ってる。詫びを入れる手はずは整えてるよ」

 

「……何をしてくれるのかしら」

 

 俺は端末で時刻を確認する。

 10時5分前か。ちょうどいい。

 

「堀北。俺と一緒に屋上のデッキに来てくれ」

 

「……どういうこと?」

 

 俺の誘いを怪しむ堀北。

 だが来てもらわないと困る。

 

「いいから」

 

「……わかったわ」

 

 念押しが効いたようだ。それとも、ここまで来たら最後まで付き合あわされてやろう、という心理か。

 

「じゃあな綾小路」

 

「ああ」

 

 綾小路とはここでお別れだ。

 体調不良の堀北に合わせ、ゆっくりと屋上のデッキへ向かった。

 

 

 

 

 

 3

 

 デッキに到着する。

 そこにいたのは、俺と契約を交わしたAクラスの清水と森重の二人。

 俺からリーダー情報を得ていたにも拘わらず、期待していたポイントを得られなかったことに対する悔しさが、表情からにじみ出ていた。

 しかしその表情は、俺と一緒に来た堀北を見た瞬間に変わった。

 

「おい、なんでこの場に堀北がいるんだ?」

 

 当然、その点をついてくる。

 

「……いや、それは……」

 

 俺は口ごもる。

 

「お前……堀北にこの契約のことを知られたな?」

 

「……」

 

 俺は何も言わない。

 

「契約違反だ」

 

「……違う」

 

「違うだと? いいかよく見ろ。俺、森重、お前、葛城以外に知られてはいけないって条項がある。そしてここは支払いの場だ。支払いは契約の一部だ。たとえお前が堀北に何も伝えていなかったとしても、ここに堀北を連れてきた時点で、契約の内容をお前が露呈させたってことになるんだよ。これでもまだ否定するのか?」

 

「っ……そういう考え方もあるか」

 

「認めろ速野」

 

「そうだとして……どうすればいい。俺には200万の持ち合わせなんてないんだぞ」

 

「開き直るのか。だが簡単さ。お前自身が言ってたことだろ? 学校側を巻き込んでお前の処遇を決めてもらうんだよ。どんな対応が取られるか見ものだな。クラスポイントの没収なんてこともあり得るんじゃないか?」

 

 好機と見た二人は何事か相談し、そのうちの一人が駆け足でこの場を離れた。

 おそらく、教師を呼びに行ったんだろう。

 時間がない。

 俺は頭をフル回転させて、この状況をひっくり返すにはどうすればいいか、それを考える。

 教師がどんな質問をしてくるか。こいつらがどう反応するか。俺はどう発言すべきか。綿密にシミュレーションしていく。

 しかし無情にもタイムリミットが過ぎた。

 教師……よりにもよってAクラス担任の真嶋先生を引き連れて、森重がデッキに戻ってきた。

 真嶋先生がさっそく口を開く。

 

「話は聞いた。速野、契約違反を犯したという話は本当か?」

 

「……はい」

 

 正直にそう答えた。

 

「そうか。だが」

 

 そのセリフを遮って、俺は言う。

 

「森重が、今まさに契約違反を犯しました」

 

 俺のその言い分に、Aクラスの二人は驚きを見せる。

 しばらく呆気にとられていたが、俺への反論のために森重が口を開く。

 

「……は、何言ってんだよ。契約違反を犯したのはお前だろ、速野。堀北を支払いの現場に連れてきて、契約の内容の一部を露呈させた。これは十分違反に値するものだ。そして契約違反を犯せば契約は無効。つまり真嶋先生に話しても問題にはならないだろう」

 

「一つ勘違いしていることがあるが、堀北はこの契約の内容をすべて知ってる。この場で支払いがあることだけじゃなく、俺が何を売り、その見返りに何を受け取るかも全部」

 

「それはつまり、契約の内容全部を知られたってことじゃないか。お前が契約違反を犯したことがより明確になっただけだ」

 

「違う。堀北がこの契約を知っていたのは……最初からだ」

 

「……は? 最初から?」

 

 発言の意味が分からなかったようで、聞き返してくる森重。

 なら、解説してやろう。

 

「そもそもこの契約を結んで来いと俺に指示を出したのは、堀北なんだよ」

 

「……何?」

 

「う、嘘をつくなよ。この契約は俺たちとお前ですり合わせたもので……」

 

「確かにな。だが俺は、交渉の場でどうやって相手を誘導すればいいか、そう言った言葉選びも堀北からの指示のもと行っていた。もちろん、契約の具体的な内容はある程度幅を持たせて考えてたが、リーダーを教えて見返りに大量のポイントをもらう、というこの契約の根幹は堀北の考えだ」

 

 あの時のやり取りを思い返せば、確かに誘導されていた気がしてくるはずだ。

 

「……でも、関係ないだろそんなの。お前が俺たち以外の他人に契約を知られた事実は……っ!!!」

 

 言い終わる前に、清水の目が大きく見開かれ、その体が跳ねる。

 どうやら、気づいたみたいだな。

 

「契約書にちゃんと書かれてるはずだ。『契約成立後』、他言してはいけないって。つまり、成立前に契約の内容を把握していた場合はこれには違反しない」

 

「……」

 

「つまりさっきの時点ではこの契約は有効。その状態でお前たちは真嶋先生に契約のことを話した。つまり、契約成立後に外部の人間に契約のことを他言した違反者は、俺じゃなく森重だってことだ」

 

 盛大に仕組まれた罠。

 その存在に気付いた時には、すでに罠にかかった後だ。

 

「ま、待てよ! 堀北が考えた契約だって話が嘘かもしれないだろ! そもそも、この契約は俺たちから持ちかけたものだ! つまり、俺たちとお前が偶然出くわさなければなされなかったもののはずだ! それなのに、契約の内容を堀北が考えてたって……理屈が通らないだろ!」

 

 かなり狼狽しているが、発言の内容は一理ある。

 堀北が契約を考えていたなら、こちらから持ちかけるという形になるはず。

 俺とこの二人が出くわしたのも、契約を持ちかけられたのも偶然である以上、その点の不自然さはぬぐえない。

 だがそれも対策済みだ。

 

「確かに、俺とお前たちが出くわしたのは偶然だ。ただ、確率としてはゼロじゃないだろ」

 

「それは詭弁だろ!」

 

「いや違う。俺はその確率を上げるための努力をちゃんとした。この契約を結んだ日まで、俺は暇さえあればAクラスのベースキャンプ周辺をうろついてたんだ。Aクラスの誰かに出くわして、リーダー情報を流す契約を持ちかけられることを期待して。そのことは、俺の腕時計についていたGPSが証拠になるはずだ。調べてもらえればわかる」

 

 向こうが推測による状況証拠しか並べられないのに対し、こちらは物的証拠を積み上げていく。

 

「……結論は出たな」

 

 俺たちの様子を見て、真嶋先生が静かにつぶやく。

 

「ま、真嶋先生!」

 

「そろっている証拠を整理したうえで現状確定している事実は、森重、お前が俺にこの契約の内容を話したことだ。これは契約違反と言わざるを得ないだろう。お前には200万の支払い義務が生じ、契約によれば速野をスパイにすることが決まっているようだが、それも無効だ」

 

「そんな……」

 

 担任である真嶋先生から、無情な結論を突き付けられる二人。

 

「話は以上だ」

 

 そう言い残して、真嶋先生はこの場を去ろうとする。

 

「すみません、もう少し待っていただけませんか」

 

 俺はそれを呼び止めた。

 まだこの場を離れてもらうわけにはいかない。

 教師という、生徒に対して平等でなければならない立場とはいえ、担当するクラスの生徒の敗北を目の前にするのは辛いものがあるだろう。ましてやクラスの成績は自身の査定にも関わってくるというのだからなおさらだ。

 心なしか、真嶋先生の表情は険しい。

 一方、同様に絶望の表情を見せる、清水と森重の二人。

 

「……そういうことだ。200万ポイント、しっかり払ってもらうぞ」

 

 追い打ちをかけるようなセリフであることは自覚している。そのうえでそう語りかけた。

 

「……これも全部、計画通りっていうのか……」

 

「ああ。そこにいる堀北のな。言っておくが、さっき俺が話した内容に何一つ嘘はないぞ」

 

 あくまでも、すべて堀北の指示ということで片づける。

 

「……今手持ちは払う予定だった60万しかない。残りの支払いは延期にしてもらえないか」

 

 まあ、だろうな。

 Aクラスだろうと200万なんてそうそう用意できるもんじゃない。

 

「……らしいが、どうする堀北」

 

「……いいんじゃ、ないかしら」

 

 何かをかみ殺すようにして、堀北はそう言った。

 俺はそれに頷き、二人に向き直る。

 

「ただ一つ条件はつけさせてもらう。契約が無効になったから、他言無用の条件もなくなったわけだが……それを復活させてもらいたい。契約のこと、そして今日ここであったことは他言無用。それなら延期してもいい」

 

「……わかった」

 

 いま全額支払えない以上、この条件は呑むしかない。

 

「延期と言っても、期限は決めておきたい。どれくらい経てば全額用意できる?」

 

 なんだかんだと言っていつまでも支払われないのは望ましくない。

 

「……それは……正直、めどが立たない」

 

「Aクラスのポイントは1000以上あったよな。毎月7万ずつ返してくれれば、二人合わせて10か月で完済ってことになるが……」

 

「そ、それは……7万はさすがに」

 

「じゃあ……5万ならどうだ」

 

「それなら……大丈夫だ」

 

 二人合わせて月10万。完済まで1年と2か月か……。

 ただ、これからの特別試験ではプライベートポイントが関わってくるものもあるはず。

 とすれば。

 

「じゃあ、原則月5万で、月利1%ってことでいいか」

 

 こうすれば、二人が無暗に返済を先延ばしにすることもなくなるだろう。延ばせば延ばすほど負債が膨らんでいく。

 この利率なら利息制限法にも引っ掛かってないし、無効だと主張される心配もない。

 

「……それでいい」

 

 新たな契約が成立し、俺は清水と森重から真嶋先生に視線を移す。

「真嶋先生にはこの取引を見てもらいたかったんです。保証人になってほしかったので」

 

「……そういうことか。安心しろ。ここで交わされた取引が確かなものであることは、俺が保証しよう」

 

 口約束ではあるが、教師の言葉だ。信頼してもいいだろう。

 その後60万の譲渡はスムーズに行われ、清水と森重の二人は足早にこの場を去った。

 そのあとに続き、真嶋先生も立ち去る。

 それを見届け、デッキの手すりに持たれて立っている堀北に話しかける。

 

「この60万をお前に譲渡するから、それで手を」

 

 パン、と乾いた音が響いた。

 左頬にジーンという感触が残る。

 

「……」

 

「……どれだけ私のことを馬鹿にしたら気が済むのかしら。こんなもので私が納得するとでも?」

 

「……気に障ったなら謝るが」

 

「言っておくけれど、先に私の顔を札束で殴ろうとしたのはあなたよ。今のはその報いだと思いなさい」

 

 なんだこいつ結構上手いこと言うな、なんて思ってしまう。

 一つの問題は、いまの堀北の怒りは利用されたことではなく、その詫びをポイントで済ませようとしたことに対してのものだということだ。

 つまり償いどころか、怒りを増幅させてしまっただけ。どうすればいいのか分からなくなってしまった。

 

「……どうすればいいんだ」

 

「……もしあなたが本当に申し訳ないと思っているのなら、答えは一つよ」

 

「……なんだよ、その答えって」

 

「Aクラスに上がるのに協力しなさい。今回のように、積極的に。それで今回のことは不問にしてあげるわ」

 

 ……なるほど、そういう要求か。

 

「……今回のようにすればいいんだな」

 

「ええ」

 

「分かった。それで不問にするっていうなら、協力する」

 

「契約成立ね」

 

 これで、とりあえずひと段落、ってところか。

 そう思って一息ついた、次の瞬間。

 

「あ、堀北さんやっと見つけた!」

 

 そんな声が、大人数の足音とともに聞こえてきた。

 後ろを振り向くと、そこには笑顔を浮かべるDクラスの生徒たちがいた。

 突然のことに、堀北も困惑しているようだ。

 

「何……?」

 

「平田くんから全部聞いたの。堀北さんがAクラスとCクラスのリーダーを当てたって!」

 

「私たちのポイントが高かったの、そのおかげなんだよね!」

 

「Cクラスが失格になったのは、軽井沢さんの下着を盗んだ犯人が伊吹さんだって証拠を見つけたからなんでしょ?」

 

「い、一体何を言って……!?」

 

「謙遜する必要はないよ堀北さん。今回のDクラスの勝利は、間違いなく堀北さんによってもたらされたものだ」

 

「すご! 天才じゃん堀北さん!」

 

「リタイアしたふりして、AクラスとCクラスのリーダーを調べてたんでしょ!?」

 

「い、いや、そんなこと……っ!」

 

 一斉に質問攻めを受ける堀北。

 俺と綾小路の差し金であることを察してこちらを睨みつけてくるが、その視線は堀北に群がるクラスメイトによって遮られてしまった。

 

「……一件落着だな」

 

 騒ぎを横目に、俺はデッキから船の自室に戻った。

 

 

「……悪いな」

 

 ここにはいない堀北に謝罪の言葉を述べる。

 

 今回のようにしろ、と言われた以上、それには従う。だがその場合、俺はAクラスに上がるための動きをするつもりはない。

 堀北はこの点を勘違いしている。

 俺が今回こんな動きをしたのは、他クラスに勝つためじゃない。

 

 Dクラスが得るポイントを……俺に入るポイントを最大化するためだ。

 

 そもそもクラスの勝利を優先するなら、綾小路の策に介入したりはしない。あいつの作戦通り、堀北をリタイアさせ、AクラスとCクラスがDクラスのリーダー当てを間違えてくれる方が俺たちとの獲得ポイント差は大きくなる。

 だから俺にとって、他クラスに勝つことは二の次。

 俺にポイントが入りさえすれば、それでいい。

 

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