実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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第4巻
舞台は豪華客船


 言うまでもないことではあるが、この場所……豪華客船『スペランツァ』は楽園だった。

 船の上で用意できる娯楽施設、おおよそその全てがそろっている。

 しかもそれらを全てタダで使える。

 1週間、無人島の過酷な環境で溜まったものを解放するように、生徒たちは遊びまくっていた。

 まあ2日目の時点でリタイアしたCクラスの生徒を除いて、ではあるけどな。遊びまくっているのは同じだとしても、別にあのクラスには溜まるもんもなかっただろう。ポイントも溜まらなかったのは想定外だったんだろうけど。

 そんなことは今はいいんだ。

 とにかく、無人島の環境下で辛くなかった生徒がいないのと同様、この豪華客船上の環境ではしゃいでいない生徒もいないということ。

 落ち着き払っていて、一見感情の起伏がない生徒でも例外ではないはずだ。堀北も、恐らくは綾小路も。かくいう俺もだ。

 しかし、船に戻ってからしばらくの間はそういったお気楽な雰囲気ではなかった。

 それも当然と言えば当然だ。俺たちは無人島でバカンスを楽しむと言われて連れてこられ、ふたを開けてみればサバイバルをさせられるという騙し討ちのような形で特別試験を受けさせられた。船に戻ってもすぐには安心できない。学校側が何か仕掛けてくることがあるかもしれない、と考えるのは当たり前だ。

 しかし、船が無人島を発ってから今日で3日。何かが起こる気配はかけらもない。

 何も起こらないならそれが一番。生徒一同、それを心から望んでいる。

 何も起こらないでほしい、という生徒の期待は、3日という時間をかけ、何も起こらないだろう、という楽観的思考へと変わっていく。

 そして、何かが起こるかもしれない、という警戒心は時間をかけて解きほぐされていった。

 つまり、今この瞬間が一番警戒心の薄いタイミングということにもなるわけだが。

 この3日間という期間は、俺たちの気を緩めさせるために学校側が用意したインターバルではないか。

 ……まあ、そんなこといま考えても仕方がない。

 昼飯行くか。

 起きたのが10時頃のため朝飯は食べていない。結構空腹だ。

 がっつり行きたい。

 となると……中華だな。

 レストラン街は5階にある。部屋を出て階段へ。

 

「あれ、速野くん?」

 

 階段に足をかけたその時、後ろから声をかけられる。

 

「平田と……綾小路か」

 

 そういえば、2人はルームメイトだったな。

 そんな2人がこの時間に階段を登ろうとしてるってことは、今から一緒に飯でも食いに行くんだろう。

 

「何か用か」

 

「いや、実は君の端末に連絡を入れたんだけど、反応がないからちょっと心配してたんだ」

 

「え、マジ?」

 

 連絡を受けた覚えはないが……と考えていると、思い出した。

 

「ああ……悪い、電源入れてなかった」

 

 昨夜電池切れを起こしてから充電していたのだが、使うタイミングもなかったため、充電が完了してからもそのまま放置していた。

 

「そうだったんだね」

 

「悪いな、不注意だった。それで、何か俺に用事でもあったか」

 

「うん。一緒にご飯でもどうかなと思ってね。綾小路くんも入れて3人で」

 

「……俺も今から食べに出るところだったし、それは構わないが」

 

「本当かい? よかったよ。屋上のファストフードなんだけど、それでいいかな」

 

「ああ」

 

 中華の予定だったが……まあ、別に今じゃなきゃ食べられないってわけじゃない。この船で過ごす時間はあと5日ある。その間に食べるタイミングはいくらでもあるだろう。

 屋上は備え付けのプールがあるということもあり、かなりにぎやかな場所らしいと聞いている。そのため、俺のように遊び相手がいない奴にとっては近づきがたく、Aクラスの清水と森重との取引で使って以来一度も足を運んでいない。伝聞情報なのもそのためだ。

 3日ぶりに来た屋上だが、聞いていた通り……聞いていた情報から予想していた以上に騒々しかった。

 このような真昼間の時間帯にここに来るのは初めてだ。騒がしい騒がしいと話には聞いていても、実際に目にしてみると圧倒される。

 ジュースを片手に談笑する者。プールに入ってボールで遊んでいる者。レンタルできる水着で歩き回る大胆な者の姿も。

 彼ら全員の共通点は、非常に楽しそうな表情を浮かべているということだ。

 無人島生活での疲れなど、高校生にとっては1日2日あれば吹っ飛んでしまう。疲労感など微塵も感じさせず、今を全力で楽しんでいる感じだ。

 平田はそんなキラキラした空間を涼しい顔をして歩いているが、こういった場所に慣れていない俺と綾小路は先ほどから挙動不審である。

 いや、それにしても……本当にかなりの込み具合だ。

 

「これ席空いてるか……?」

 

「予想以上の混雑だね……あ、向こうのテーブルが空いたみたいだ」

 

 平田が指さした先のテーブル。そこに陣取っているグループは、空になった食器のトレイを持って今まさに立ち上がろうとしているところだった。

 

「あそこに座ろうか」

 

「そうだな」

 

 ほかのグループにとられないうちに、少し小走りでそこへ向かい席を確保する。

 

「ふう……運がよかったね」

 

「ああ。この炎天下で待ちぼうけは流石にな……」

 

 プールのそばとはいえ、今は夏真っ盛り。いや、プールが近くにあるからと言って必ずしも涼しくなるわけじゃない。プールの水の蒸発により発生した水蒸気が漂い、湿度が上がっている空間は、短時間であってもとても留まっていられるものじゃない。

 その点、パラソルで日陰を作ってくれるこの飲食テーブルをすぐに確保できたのは、その実かなり幸運なことだ。

 無人島で頑張ったからかなー、などとその幸運を噛み締めつつ、何を食おうかと置かれていたメニュー表を手に取った瞬間。

 

「……実は、二人に相談があるんだ」

 

 真剣な表情で、平田はそう切り出した。

 

「……相談?」

 

「うん。ごめんね、二人を呼んだのも、実はこの相談事を話したかったからなんだ……」

 

「……」

 

 なるほど。なんで急に俺と綾小路の組み合わせを……と薄々疑問に思ってはいたが、そういうことか。

 なら、相談内容に関してもある程度推測が立つ。

 

「もしかして、堀北のことについてか」

 

 言うと、はっとしたような表情になる平田。

 

「……よくわかったね」

 

「俺と綾小路の共通点といえば、クラスの中では堀北と話す方、って点くらいだからな」

 

 どうやって堀北と仲良くなったのか、なんて質問を受けることも1度や2度じゃない。ただ問題は、俺もこいつも別に堀北と仲が良いわけじゃないってことなんだが。

 

「そう、速野くんの言う通り、相談は堀北さんに関してのことなんだ。頼みたいことは一つ。君たち二人に、僕と彼女の橋渡し役になってもらいたいんだ」

 

「橋渡し役?」

 

「うん。今回の特別試験、僕たちDクラスは彼女の活躍で大きなポイントを得ることができた。きっとこれからも、堀北さんはDクラスにとって重要な存在になっていくと思う」

 

「ああ」

 

 もはや英雄だからな、堀北は。

 本人にそのつもりがなくても、Dクラスの面々は自然と堀北を頼りにするようになる。

 

「だから僕を含め、彼女とクラスのみんながもっと仲良くなる必要があると思うんだ。本当の意味で、全員が一致団結していけば、きっとAクラスだって夢じゃない」

 

 それはかなり楽観的な見方だとは思うが……少なくとも、堀北が輪に加われば、その分可能性が高まるのは確かだ。

 

「でもいきなり、というのはさすがに厳しいものがあるから、まずは君たちを介して、という形を取りたい」

 

「具体的にはどうするんだ。あいつは俺たちが橋渡ししたところでどうにかなるものでもないと思うけど」

 

 橋渡し、という言葉の意味を、単純に俺たちが意思の疎通の媒体になる、と仮定して考える。

 例えばあいつに意見があったとして、俺から平田に話しておく、と提案しても「必要ないわ」と言いそうだし、平田からの意見を伝えようとしてもやはり「必要ないわ」と言いそうだ。

 つまりあまり意味をなさない。

 しかし平田はその辺も想定していたらしく、自分の考えを述べる。

 

「僕の考えを二人に伝えるから、それを二人なりに解釈して、彼女に伝えてほしいんだ。その逆……彼女の考えを二人になりに解釈して僕に伝える、ということもお願いしたい。僕の存在は伏せてね」

 

 なるほどな……。

 平田の意見を伝える際には俺たちが平田に成り代わり、逆の時には堀北に成り代わる。平田に成り代わる時には、そのことは伏せて。こうすれば、堀北本人は全く自覚なしに、平田、ひいてはクラスの輪に加わっていることになる、ということか。

 まあ確かに、全部がうまくいけばそうなるだろうけど……。

 

「平田……悪いが、そういう話なら俺は降りてもいいか」

 

 誤魔化さずにきっぱりと断ると、平田は残念そうな表情になる。

 

「……理由を、聞いてもいいかな」

 

「単純にバレたときに怒られるのが怖い」

 

 こういう風に裏でこそこそやられるのを極度に嫌うからな、堀北は。そういう意味じゃ、特別試験での俺と綾小路のムーブはあいつの逆鱗に触れただろう。

その怒りがあれだけで収まったのは、単純に自分にも至らぬところがあったと自覚しているからということと、その自分の至らなさが帳消しになるほどの結果がついてきたからに過ぎない。

 

「堀北の協力がクラスに必要だってのには俺も同意見だが、そのやり方に加担するのは……ちょっとな」

 

 何より、平田らしくない。

 もちろん、堀北相手に正面から語り合っても進展はないであろうことを理解し、そのうえでの策なんだろうが、それにしても少し焦りを感じる。

 普段の平田なら、思いついても実行はしないやり方なんじゃないだろうか。

 俺の意見を述べるのであれば……いま必要なのは、そういった強引なやり方じゃなく、仲間を持つことの重要性を堀北に強く自覚させることだろう。

 

「……そっか」

 

「悪いな」

 

「謝ることじゃないよ。ごめんね、いきなりこんな話を持ちかけて」

 

「いや、他に協力できることがあればまた言ってくれ」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

「ああ。じゃあな」

 

 そう言って、俺は椅子から立ち上がる。

 

「え、ここで食べないの?」

 

「想像以上に人混みがきつくてな。ほかの場所行ってくる」

 

 平田は、少し早歩きで立ち去る俺を止めることもできず、その場に座っていることしかできなかった。

 ……いや、勘違いしてほしくないのは、飯だと言われてここに誘い出され、こんな話を持ちかけられたことに怒ってるわけじゃない。人混みがきついってのも本音だ。

 単純に、頼みを断って勝手に気まずさを感じてるだけだ。

 それ以外には……やっぱり中華が食べたくなったってのも、まあ、なくはないけどな。

 

 

 

 

 

 1

 

「ふう……うんまいな、どれもこれも」

 

 当初の予定の通り中華のレストランに足を踏み入れた俺は、炒飯と餃子と油淋鶏を注文。たった今完食したところだ。

 これだけ聞くとかなり重い料理を食べたように見える。実際ちょっと胃がもたれる感覚があるが、このレストランは本格的な中華を追求しているというより、日本人の舌に合うように作っているようで、名前から受けるインパクトほどは重くない。最後まで非常に美味しくいただけた。満足。平田には悪いが、ここにきて大正解だった。

 無料で使っているこの施設の費用を負担しているのはすべて国の税金。国の金で食う中華は最高だ。……このセリフ、世が世なら非国民として吊るし上げられそうだな。

 たぶんまた来る。その時は八宝菜と中華そばでも頼もうか。

 満腹により、気分上々で部屋へ戻る。

 ドアを開けると、ルームメイトのひとりがベッドで横になっていた。

 端末を手に持って操作しているようなので、寝ているわけではない様子だ。

 そのルームメイトとは、三宅明人。

 これまで特に交流はなかったが、すぐにはルームメイトが決まらなかった余り者組同士で組んだ結果、こういうことと相成った。

 同じ空間にいても、特に共有するような話題もない。実際、このバカンスが始まってから今まで、二言三言しか会話を交わしていない。

 居づらさがないことはないが、もう一つの余り者グループには高円寺がいる。それよりはよっぽどマシだ。そのグループに組み込まれた綾小路と幸村には黙とうを、自ら進んで引き受けた平田には称賛を。

 いっぱいになった腹を落ち着けるがてら、ベッドに腰かけながら今後の予定を考えようとしていたその時。

 突然、部屋の中にキーンという音が鳴り響いた。

 発信源の特定は容易だった。

 俺と三宅、それぞれの個別端末だ。

 

「……なあ、これって」

 

 俺の方を向いて問いかける三宅。

 

「……ああ。学校側が重要な連絡事項とかをメールで伝えるときの受信音だよな」

 

 以前茶柱先生から連絡事項として伝えられた。マナーモードでも、電源を切っていている状態でも、電池または通信回線が切れていない限りこの音は鳴るそうだ。

 今までこの機能が使われることなんてなかったんだが……俺と三宅の間に緊張が走る。

 それと同時に、船内アナウンスが流れる。

 

『ただいま、全生徒に一斉メールを送信しました。記載されている内容の指示に従ってください。受信できていない生徒は、近くのスタッフに申し出てください。重要事項ですので、確認漏れのないようお願いします。繰り返します……』

 

 言われるがまま、メールを確認する。

 

『間もなく特別試験が開始されます。各自以下の文章の指示に従い、行動してください。本日19時20分までに、202号室に集合してください。10分以上遅刻した場合、ペナルティを科す場合があります。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなどを済ませ、端末はマナーモードか電源をオフにしてお越しください』

 

「特別試験……またか」

 

 三宅がうんざりしたように呟いた。

 やはり……このタイミングで仕掛けてきたか。

 無人島での特別試験は、クラスポイントのみに影響がある試験内容だった。

 堀北生徒会長の話によれば、特別試験にはプライベートポイントが大きく関わってくるものもあるとか。

 今回はどうか。クラスポイントか、プライベートポイントか、あるいはその両方か……。

 そう考えつつも、俺もうんざりした表情を浮かべる。

 

「厄介なものじゃないといいけどな……」

 

「せめて、船から降りるようなことはもうないことを祈る」

 

 記載内容からしてそれはなさそうだが……。

 気になる点といえば、19時20分という少し中途半端な時間指定だ。

 

「三宅、集合時間はいつだ」

 

「俺は19時からだが……全員そうじゃないのか?」

 

「いや、俺は19時20分だ。生徒によって指定時間が違うみたいだな」

 

「そうなのか……場所はどうなんだよ。俺は204号室なんだが」

 

「……こっちは202だ」

 

 指定時間だけでなく、場所も違うのか……。

 おそらく、俺たちに今回の特別試験の説明を行う場なんだろうが……だとしたら、なぜ一斉に説明を行わないのか。

 この違和感……残念ながら、厄介なものじゃないといい、という俺の希望は、早々に打ち砕かれたってことになりそうだ。

 そんな疑念を巡らせていると、再び端末にメールが届く。

 今度の差出人は学校ではなく、堀北だ。

 

『今、メールが届いた?』

 

『ああ。指定時間と場所は? どうも個々人で違ってるらしいんだが』

 

『私は19時20分、202号室よ。そっちは?』

 

 おっと……少し驚いた。

 

『全く同じだ。偶然か?』

 

『そのようね。綾小路くんは18時らしいわ。とりあえず、行ってみるしかないわね』

 

『そうだな。ペナルティは御免だ』

 

そう返信したきり、堀北からの返事は返ってこなかった。

 

 これはまた……面倒なことが始まりそうだ。

 

 

 

 

 

 2

 

 指定時間間近、2階のフロアは全クラスの生徒が入り交じり、かなりざわついていた。

 同じDクラスの生徒も何人か確認できたが、話しかけられることも話しかけることもない。ぼっちの悲しい運命だ。

 

「……っと、あと1分切ってるな」

 

 端末で時間を確認し、指示通りマナーモードにした後で202号室の前へ。

 ノックをしてから入室する。

 まず、正面には茶柱先生が座っていた。

 そして椅子が3つ並べられ、そのうち2つはクラスメイトによりすでに埋まっている。

 1つは堀北。これは事前のメールでのやり取りで予測済み。

もう一方に座っていたのは、菊池という男子生徒だ。

 必然、俺は空いている残りの1つの椅子に腰かけることになる。

 それと同時に、茶柱先生が口を開いた。

 

「全員揃ったようなので、これより試験の説明を始める。今回の特別試験では、1年生全員を13のグループに分け、そのグループ内で試験を行う。この試験はシンキング能力を問うものだ。この段階での質問は一切受け付けないので、まずはしっかり説明を聞くように」

 

 13とはまた不吉な数字だ。なぜ12で分けなかったのか。その方がキリがいい気がするが……など、いきなり数か所突っ込ませてほしいところが出てくるが、質問ダメ絶対というのなら仕方がない。まあ質問が認められていたところで「なんで12グループじゃないんですか?」と聞いても、まともに答えてはもらえないだろう。

「社会人に求められる基本的なスキルは、アクション、シンキング、チームワークの3つに大別される。無人島での試験はチームワークに比重が置かれた内容だったが、今回はシンキング。つまり考え抜く力が必要になる」

 

 そう説明する茶柱先生だが、内容も明らかになっていないのに外側から説明されても謎だらけだ。

 

「ここまでで何か質問はあるか?」

 

「どうして少人数での説明なのでしょうか? 試験の内容からクラス単位というのは無理でも、グループ単位で説明を受けた方が手間がかからないと思いますが」

 

 堀北が質問を飛ばす。

 1学年160人———欠席している坂柳という生徒を勘定に入れれば159人の生徒を13のグループに分けるなら、1グループあたりの人数は12人か13人だと予想される。少なくとも、こんなに少ない人数であることは考えられない。

 

「今回の試験では、各クラス3から4人を抽出してグループを作るためだ。事前に説明していなければ、混乱をきたす恐れがあるだろう」

 

「え、違うクラスとグループ組むんですか?」

 

 先生の言葉に、反射的に菊池が質問する。

 

「そうだ。それに関してはこれから説明する」

 グループと聞いて、俺たちは先入観からそのメンバーはクラスメイトだと思い込んでいた。

 しかし、そもそもそれが誤った認識だったのだ。

 他クラスの人間とグループを組まされる試験。想定の範囲外だ。

 

「まず、お前たち3人が同じグループになることは決定事項だ。そして、お前たちはグループI。ここにグループIの全員のリストがある。持ち出しと撮影は禁じるが、メモは取っても構わない」

 

 その言葉で、堀北は素早くメモ帳を取り出す。お前それ携帯してんのか……。ただ、ここではファインプレイだ。

 茶柱先生から、ハガキほどのサイズの紙を受け取る。

 

Aクラス…石田正弘 里中拓人 和田琴美

Bクラス…上林真美 佐藤ゆかり 葉山隼輝

Cクラス…小川勝 樫本耕太 三嶋加奈

Dクラス…速野知幸 堀北鈴音 菊池修

 

 各クラス3人ずつ、合計12名だ。

恐らく、12名グループが10個、13名グループが3個あるんだろう。これで計159名。バカンスに参加していないAクラスの坂柳1人を除いた1学年の総人数となる。

 書かれている名前は、各クラス毎に苗字の頭文字順か。ふりがなはふられておらず、1人読み方が分からんのがある。

 

「先生、Bクラスの葉山ってやつの名前、なんていうんですか?」

 

「それに関してはいずれ分かることだ」

 

「……そうですか」

 

 流されてしまったが、まあいずれ分かるならいいか……。

 

「試験期間は明日から、1日の完全自由日を挟んで3日間とする。その間、お前たちは1日に2回、午後1時と午後8時から1時間、指定された場所でグループ内でのディスカッションを行ってもらう。ただし、初顔合わせの際に自己紹介と連絡先交換が義務付けられている。この連絡先だが、電話番号とメールアドレスではなく、学校側からお前たちに個別端末を配布した際、初めからインストールされていたチャットアプリを使い、プロフィール設定の全てを記載しろ。そしてグループのメンバーの連絡先は試験終了のアナウンスが流れるまで削除することを認めていない。これらを守らなかった生徒にはペナルティを科す」

 

 自己紹介に関してはまだ納得できるが、連絡先交換の強制は理解に至らない。それもわざわざチャットアプリ、さらにはプロフィールの全入力まで指示してきた。

一体何の目的があってのことなのか。

 

「個人情報を開示しろ、ということですか?」

 

「そうだ。そのあたりの詳しいルールはこの紙に書かれている。そしてこの紙には、この試験の結果に関する重要事項も記載されている。この紙に関しても撮影、持ち出しを禁止する。メモを取るか、頭で理解して覚えろ」

 

「試験結果、ですか?」

 

 結果が記載されている、という文章にはかなり違和感がある。

 ディスカッションで何を話し合うかは知らないが、試験結果とはその時々の様々な状況に左右され、無限の可能性が考えられるのではないか。

 俺のそんな思考を見透かすように、茶柱先生は続ける。

 

「この特別試験の結果は、4通りしか存在しない。どのような方法を取っても、この4通りの結果になるように設計されている」

 

 茶柱先生から紙を受け取り、読み込んでいく。

 

 

 

 夏季グループ別特別試験説明

 本試験では、グループ毎に割り当てられた優待者を基点とした課題となる。定められた方法で学校に回答することで、4つの結果のうち必ず1つを得る。

 

・試験開始当日午前8時に、一斉メールを送信する。『優待者』に選出された者には、同時にその事実を伝達する。

・1日に2度、所定の場所においてグループ内で話し合いを行うこと。ただし、指定されたこと以外の話し合いの内容に関しては、全て生徒に委ねるものとする。

・試験最終日、午後9時半から午後10時までの間のみ、グループ内の優待者が誰であったかの回答を受け付ける。また、回答は1人1回までとする。回答は、自身の端末で学校側に送信することでのみ可能である。

・『優待者』には回答権が存在しない。

・自身が配属されたグループ以外への回答は全て無効とする。

・試験の最終結果については、試験終了当日の午後11時に全生徒へメールで伝達する。

 

 基本ルールはこんな感じ。そして禁止事項として、連絡先交換をした者への迷惑行為や、優待者に関する学校側からのメールを当人の承諾なしに強引に見ること、盗み見ること、最終ディスカッション終了後の一定時間、他クラスの生徒間で集まること、連絡を取り合うことなどが書かれている。破れば退学という厳罰だ。

 優待者という単語は新出だが、続きを読めばその意味は分かるだろう。

 そして、結果の一部が掲載されていた。

 

・結果1…優待者、及び優待者の所属するクラスと同じクラスのメンバーを除くグループ全員が回答時間内に回答し、全員が正解していた場合、グループ全員に50万ポイント、優待者は100万ポイントを得る。優待者の所属するクラスと同じクラスのメンバーも、同様のポイントを得る。

 

・結果2…優待者、及び優待者の所属するクラスと同じクラスのメンバーを除くグループ全員が回答時間内に回答した中で1人でも不正解がいた場合、または未回答者がいた場合、優待者のみ50万ポイントを得る。

 

 

 なるほど、結果が記載されているってのはこういう意味か。

 グループ内で導き出される結果が4通りになる、ってことね。

 見ると、報酬はプライベートポイントのみ。となるとこの試験は、プライベートポイントのみが関わってくる試験なのか……。

 ただ……そもそもこれは試験と言えるのか?

 まだ残り2つの結果が明かされていない段階だが、これだけではどのグループも結果1を目指すに決まっている。

 それにこの優待者は、言葉通りかなり優遇されている。選ばれた時点で50万ポイント以上を得ることが確定的だ。なんと羨ましい。

 

「残りの2つの結果はなんですか」

 

「まずはここまでのルールを理解できたか? そうでないと先に進めない」

 

「問題ありません」

 

「菊池、お前はどうだ」

 

「……な、なんとか大丈夫っす」

 

 ルールが記載された紙とにらめっこしながら、そう答える菊池。

 俺はこの菊池という生徒と接点を持ったことはないが、俺と堀北が孤独型ということもあってかなり居づらいだろう。さっきから体が縮こまっているのがわかる。ごめんね。

 

「この試験の肝は1つ、優待者を当てることだ。優待者は原則として各グループに1人存在する。例えば速野、お前が優待者に選ばれた場合、グループIの答えは『速野知幸』ということになる。グループ全員がそれを回答時間内にメールに記載して送信すれば、結果1が成立するということだ」

 

 原則として1人、か。

 

「そしてここからが、残り2つの結果の説明だ。優待者をより早く暴き出すことで、結果の3つ目と4つ目が現れる。紙をめくれ」

 

 指示を受け、3人とも裏面を見る。

 

 

・結果3…グループ内の何者かが、試験終了を待たずに回答し、正解していた場合、正解者には50万ポイント、正解者の所属クラスには50ポイントのクラスポイントを与え、優待者を当てられたクラスは50ポイントのペナルティを受ける。なお、この時点でグループ内の試験は終了とする。また、優待者と同じクラスに所属するメンバーの回答は無効とする。

 

・結果4…グループ内の何者かが、試験終了を待たずに回答し、不正解だった場合、回答者の所属するクラスは50クラスポイントのペナルティを受け、優待者には50万ポイント、優待者の所属するクラスには50クラスポイントを与える。なお、この時点でグループ内の試験は終了とする。また、優待者と同じクラスに所属するメンバーの回答は無効とする。

 

 

 ……なるほど、そういう仕組みか。

 裏切り者のルール。しかもクラスポイントにも関わってくる。となれば、優待者の情報をグループ内で共有するわけにもいかず、当然見破られてもいけない。この2つの結果の存在だけで、試験の様相はがらりと変わった。

 

「次に、匿名性について説明を行う。学校側は、優待者が誰であるか、そして結果2に至った場合の回答の正否、結果3または4に至った場合に回答者が誰であるかに関して、一切の発表を行わない。誰にいくら振り込まれたか、ということに関しても同様だ。希望すれば、ポイントを振り込んだ仮IDを発行し、後から受け取ることも可能だ。本人が明かさなければ、その情報が漏れることはない。試験結果は、それぞれのグループがどの結果に至ったか、そして最終的なクラスポイント、プライベートポイントの増減をクラス単位でのみ発表する」

 

 なるほど。まあ確かに、仮に優待者に選ばれたらそれだけで大量のポイントを得られる可能性が高くなる。変に目立ったりすることを嫌う佐倉のような生徒からすれば、非常にありがたい措置だろう。

 

「優待者に選ばれるか否かで、試験の難易度がかなり変わってきませんか」

 

「そうだ。その点は学校側も承知の上で、この試験を組んでいる」

 

「先生、先ほど優待者はグループ内に1人と聞きましたが、優待者に選ばれた生徒が所属するクラスが偏ってしまっては、公平性に欠けるのでないでしょうか。どれだけ調整しても、1クラスだけ優待者が4人いるクラスが出来てしまうと思うのですが」

 

 堀北がしっかりとその点を質問してくれた。茶柱先生は満足げにうなづいてから、答える。

 

「各クラスの優待者の割合をここで話すことはできない。ヒントにつながってしまうからな。だが、優待者の選定に関しては、公平を期して学校側が厳正に調整している。そしてこれはルールにも記載していることだが、優待者の希望や交換はいかなる理由があろうとも受け付けない。メールが送られてから試験終了まで、優待者か否かの各自の立場は絶対に変わることはない」

 

 つまり、無人島の時のようにリーダーを交換するような裏技は存在しないということ。

 この方面から崩していくのは不可能だな。正当な理由なく、という条件否定ではなく、いかなる理由でも不可能、と完全否定してきた。

 

「また、優待者がグループに1人だと言ったのはあくまで『原則』の話だ。つまり、優待者が1人だけでないグループが存在するということだ」

 

 その説明で、俺たちの頭には一気にハテナマークが大量生産された。

 茶柱先生の述べたフレーズに引っ掛かりを覚えた部分もあったが、今はそれより優待者が1人でないグループの説明を聞かなければならない。

 

「それについて今から説明する。まずは先ほどまでに配った紙を全てこちらに返却しろ。新たに紙を一枚配布する」

 

 紙を返し、新たに一枚受け取る。

 俺は受け取った紙に強い違和感があることに気付いたが……そんなことは一瞬意識から吹っ飛んでしまうほど、驚くべき記載があったた。

 

「そこにも書いてあることだが、口頭でも説明しておこう。お前たちが振り分けられる13のグループのうち、1つだけ性質の異なる『特殊グループ』が存在する。そのグループには計4人の優待者が存在し、そしてそこには3つの結果が存在する」

 

 

・結果1…特殊グループにおいて、自身のクラスの優待者以外の全てのクラスの優待者を全員が正解した場合、優待者は100万ポイント、グループのメンバーは50万ポイントを得る。

 

・結果2…特殊グループにおいて、1人でも不正解、または未回答者がいた場合、回答されなかった、或いは外された優待者のみが50万ポイントを得る。

 

・結果3…特殊グループにおいて、試験終了を待たずに回答した者がいた場合、その回答者は正解、不正解の数によってポイントを得る。例えば、優待者と思われる人物を2人回答して1人が正解だった場合、正解が1つで50万ポイント、不正解が1つでマイナス50万ポイント、合計で0ポイントとなり、この回答者のポイント変動は無し。1人回答してそれが正解だった場合、回答者は50万ポイントを得る。また、得るポイントが0未満の場合はポイント変動はないものとする。また、回答者のクラスのクラスポイントも、1人正解ごとに50ポイントのプラス、1人不正解ごとに50ポイントのマイナスを受けるものとし、クラスポイントに関してはマイナスの値も適用する。この結果で、回答者に回答されなかった、或いは外された優待者は50万ポイントを得る。逆に正解された優待者のクラスはマイナス50ポイントのペナルティを受ける。なお、複数の人物が同じ人物を回答した場合、報酬、およびペナルティは最も初めに回答した者が受けるものとし、最も初めに回答した者以外の回答は無効とする。このグループは他のグループと異なり、グループ内合計で優待者だと思う人間を3人分回答しない限り回答が行われたことは通知せず、試験は続行する。また、自クラスの優待者の名前を答えた回答は無効とする。

 

 

 そしてその横に注意事項として、「特殊グループ以外のグループの生徒が複数人の名前を書いて学校側にメールを送った場合、その回答は例外なく不正解として扱う」と書かれてあった。

 

「また、特殊グループがどのグループであるかに関しては、学校側は一切の説明を行わない。必要があれば自分たちで調べることだ」

 

「え、えっと……? つまりどゆこと?」

 

 菊池は複雑すぎるルールに戸惑っている。

 堀北の方はすでに理解したようだが、これは確かにかなり難解だ。菊池を責めるのは酷というものだろう。

 この特殊グループがどのグループかを見つけ出すこと自体は簡単だ。単純な話、クラス間で情報を交換して、優待者が他クラスと被ったグループ、それが特殊グループだ。

 だがそれはあまりにもリスクの高い手法だ。そうそうやりたがる生徒は出てこないだろう。

 つまり、優待者を見つけることはもちろん、特殊グループがどこであるかを特定することさえ、恐ろしく難易度が高い課題ということになる。

 

「これでこの特別試験の説明は全て終了だ。質問があれば受け付けよう」

 

 それを受け、堀北が挙手する。

 

「なんだ」

 

「この右下に小さく書かれているアルファベットに、何か意味はあるのでしょうか」

 

 やはり、堀北も気づいていたか。

 俺が覚えた違和感の原因もこれだ。

 堀北の言っていた通り、この用紙の右下に、注意していなければ気づけないほど小さく、Opというアルファベットが印刷されていた。

 

「ああ、それは印刷時に設定された紙の記号のようなもの。グループにアルファベットが付けられているのと同じようなものだ。まあ、お前がそれに意味を見出すのなら、確かに意味はあるのかもしれないな」

 

「……わかりました」

 

 堀北も感じただろう。茶柱先生の説明は、明らかに俺たちを煙に巻こうとしているものだった。

 この文字列に関するこれ以上の答えは望めない、か。堀北もそれを察してか、それ以上は追及しなかった。

 部屋を退室した直後、俺と堀北はルールに関して菊池から質問攻めにあった。

 

 

 

 

 

 3

 

 菊池にルールを理解させた後、俺は堀北と二人になった。

 これから説明を受けるであろう生徒達で騒がしかった廊下から離れ、今はしんとした場所にいる。

 周囲を見回した後、堀北が口を開く。

 

「あなたはどう思う? この試験」

 

 恐らく、これを聞くためにわざわざ移動したのだろう。

こちらの考えを他クラスに聞かせる必要はない。だから口を開く直前に誰もいないことを確認した。

 

「どう思うか、と言われれば、かなり複雑で面倒な試験だとしか……」

 

 結果3、4の裏切り者のルールまではまだいい。

 厄介なのは特殊グループに関する決まりだ。これでだいぶかき回されてしまった。

 課題は大きく分けて2つ。

 最優先事項は優待者の特定。その上で特殊グループがどこかを発見できればなおのこといい。だが、他のクラスとの情報交換が実現しなければ発見はほぼ不可能だ。

 だが、学校側はノーヒントで課題をこなせと言っているわけではない。先ほどの説明の時にも、あちらこちらに手がかりが隠されていた。

 

「連絡先の交換義務というのも気に入らないわね。試験中に必要になるのかしら」

 

「超個人的な意見だな……」

 

 堀北は1人を好む性質上、むやみに連絡先の交換はしたくないんだろう。俺と交換したのだって、元々は業務連絡用みたいなもんだしな。……いや、今もか。

 無人島試験を経ても、このあたりの考え方の変化はまだ堀北には訪れていないようだ。

 

「確か、プロフィールも絶対に書かないといけないんだったな」

 

 俺も茶柱先生の説明内容を思い出しながら言う。

 

「もう1つ気になるのは、あの右下のアルファベットね……茶柱先生はああ言っていたけれど、あの答え方は何かを誤魔化そうとしていた。何らかの意図があることは間違いないはずよ」

 

「だろうな」

 

「ほかのグループにも同じものがあったか気になって、綾小路くんにも聞いたわ。アルファベットの文字は大文字のAと小文字のqだったとのことよ」

 

「Aとq……」

 

 言われてすぐに思い浮かんだフレーズは、アンサーとクエスチョンの頭文字。だがその場合はふつうQ&Aと表記するはず。この直感は的外れだ。

 となるとおそらく、この2文字は何かの英単語の頭の2文字か……。

 そして綾小路の説明の時にもあったということは、恐らく残りのすべてのグループにも同様のアルファベットがあると考えて間違いなさそうだ。

 

「すべてのアルファベットを知るためには……平田と櫛田の協力が不可欠だろ、堀北」

 

 あの二人に協力を求めろ、と働きかける。

 

「……櫛田さんはともかく、平田くんと連絡を取る手段はあるの?」

 

「普通に連絡先持ってるからな」

 

「……意外ね。似合ってないわよ」

 

「失礼な……似合う似合わないの話じゃないだろこれは」

 

 連絡先を交換したからといって、俺と平田が友達同士になったわけではない。

 交換したのは、クラスが上に上がっていくための協力関係。コミュニケーションの効率化だ。必要なことだからやったに過ぎない。

 

「……協力の重要性、身に染みて分かったんじゃないか?」

 

 自分一人が気づいただけでは何の成果にもならない。クラス中の協力があって初めて意味を持つ、という現状。

 堀北は頑固だが優秀だ。しっかりと理解しただろう。

 

「……連絡は任せたわ」

 

 それだけ言い残して、堀北は立ち去った。

 

 

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