実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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ディスカッション

 その翌日の朝8時前。

 俺は平田たちの部屋に呼ばれていた。

 

「来てくれてありがとう、速野くん。その椅子に座って」

 

「ああ」

 

 言われるがまま、備え付けの背もたれがついた椅子に座る。

 俺たちの部屋と構造、宿泊人数が変わらないのに、より小綺麗な印象を受けるのは、ベッドのシーツや荷物の散らかり具合が俺たちより数段きっちりしているからだろう。

 部屋のメンバーである平田、幸村は自身が使うベッドに腰かけている。

 幸村とはほとんど関わったことはないが、特段仲が悪いというわけでもないし、楽しく語らう場でもない。それにこの場には平田という共通の知り合いがいるため気まずいこともなかった。

 高円寺の姿はないが、あえて言及する者はいない。

 まあ、あいつに関して考えなくて済むならそれが楽だからな……。

 ただ、高円寺だけじゃなく綾小路の姿もないのは少し驚いた。

 

「綾小路は?」

 

「1時間くらい前に部屋を出ていったきりだね。直接聞いてはいないけど、たぶん堀北さんと会ってるんじゃないかな」

 

「そうか」

 

 長時間ここにいないとすれば、堀北しかないか。

 俺を呼ばなかったのは、同じグループになったからだろう。いくらでも話す時間はあるからな。

 

「そろそろだね……」

 

 あと数十秒で午前8時。自分が優待者であるかどうかを知らせるメールが送られてくる。

 沈黙が流れる。

 そして午前8時。俺、平田、幸村の端末が同時にメールを受信した。

 

「来たな」

 

 すぐさまそのメールを開き、文章を確認する。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループのひとりとして自覚を持って行動し試験に挑んでください。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。グループIの方は2階のI室に集合してください』

 

「二人とも、どうだった?」

 

 優待者に選ばれたかどうか、平田が聞いてくる。

 幸村も俺も首を横に振った。

 その証拠として、端末を渡して平田に文面を確認させる。

 

「……」

 

 幸村も俺の行動に流されるようにして端末を平田に手渡した。

 メールを見せるのは抵抗があったみたいだが、俺が当たり前のように手渡したのを見て自分もやった方がいいと判断したんだろう。ここで渋っては、嘘をついているわけでもないのにいらぬ疑いがかかってしまう。

 

「ありがとう。僕も優待者じゃなかったよ」

 

 平田も、俺たちにメールの文面がわかるように端末をこちら側に見せる。

 俺がグループI、平田がグループK、幸村がグループLであるという違い以外、文面は全く同じだった。

 優待者に選ばれた人間には、恐らく『優待者に選ばれました』という記述があるんだろう。

 

「3人とも優待者じゃなかったか」

 

「残念がるべきではあるんだろうね。この試験、優待者に選ばれるか選ばれないかの違いで、試験の難易度は雲泥の差だから」

 

「そうだな」

 

 だからこそ、意味を持ってきそうなのがメールにあった「厳正なる調整」という文。

 昨日の説明の際も、優待者は「厳正に調整している」と茶柱先生は述べていた。優待者に関するキーワードとみて間違いない。

 

「この『厳正なる調整』の部分、少し気になるね。不自然な表現だと思わないかい?」

 

 平田も俺と同様の部分に着目していた。

 

「……確かにそうだな」

 

「言われてみれば」

 

 俺はあえて、いま初めてそのことに気が付いたように装う。

 

「つまり……優待者の選定はランダムじゃない、ってことかな」

 

「そういえば、昨日の説明の時に堀北が質問してたな。13グループで優待者が一人ずつだと、優待者の人数がクラス間で違って不公平じゃないか、って」

 

「でも、特殊グループには優待者が4人いるから、各クラス4人ずつで平等な振り分けが可能だろう」

 

「堀北がその質問をしたのは特殊グループに関する話が出る前だった。だからあんな質問の仕方になったんだろう。でもたとえ平等な振り分けが可能だとしても、もし優待者がランダムで選ばれる仕組みだったとしたら、不公平が生まれる可能性は排除できない。でも、厳正なる調整、って単語が出るってことは……」

 

「うん。優待者は各クラス4人ずつ、平等になるように調整されて振り分けられていると見ていいね」

 

 平田の言う通り、調整の意味をそのまま解釈すれば、不公平が出ないよう調整した、と受け取ることができる。

 優待者は12グループに1人ずつ、そして残りの1グループには4人、計16人。おそらく各クラスに4人ずつ優待者が振り分けられている。そして優待者が4人いるグループでは、各クラス1人ずつが振り分けられていると考えられる。

 

「各クラスから同じ人数の優待者が出るように調整して……あとはランダムで選んだのか?」

 

 どのグループにはどのクラスから優待者を出すか、さえ決めておけば、具体的に誰を優待者にするかはランダムに決めたとしてもクラス間の公平を保つことは可能だ。

 

「それはまだ分からないね。厳正なる調整によって優待者を選んだ。この言葉をどう解釈するかによるけど……もしかしたら、優待者にも何かの法則があるのかもしれない」

 

「な、なあ、それって、説明の時に見たアルファベットと何か関係あるんじゃないのか?」

 

 平田の話を聞いて、幸村がはっとしたような表情で言う。

 

「その可能性は大いにあると思う。あのアルファベットは、優待者を導き出すための学校側からのヒントかもしれない」

 

 その推測はおそらく的中している。

 あのアルファベットの意味を解けば、優待者がわかる。

 つまり、優待者は何らかの法則に則って決められている。

 ディスカッションによらず、試験をクリアする「裏技」とも呼ぶべきものをこの段階で見つけられたのは大きい。

 だが、他クラスを出し抜けたとは考えない方がいい。法則が存在することに気付くこと自体は難しすぎるほどのことじゃない。葛城や龍園は気づいているだろう。一之瀬はまだ実力のほどを測りかねているが……会話した感じや、流れてくる情報などでは頭の回転は速そうだった。気づいていると考えておくべきだ。

 

「そういえば、他のグループのアルファベット、分かったか」

 

「あ、うん。全部のグループとはいかなかったけどね」

 

「教えてくれるか」

 

「うん、もちろんだよ。元々気づいていた人と、君たちの後に説明を受けた人のグループを合わせて、新たに5つのグループのアルファベットがわかったよ」

 

 端末にメモしているようで、画面を見せてくる。

 

 グループAがAr。

 グループCがGe。

 グループDがCa。

 グループEがLe。

 グループJがSa。

 そして綾小路が気づいたグループLのAq。平田たちのグループKがCa。俺たちのグループIがOp。

 

「なんでCaが二つあるんだ……?」

 

 そう疑問を口にする幸村。

 

「グループDとKだね。僕も最初に見たときは少し驚いたんだ。でも、今のところとっかかりもつかめていないよ」

 

「見間違いとかじゃないのか?」

 

「それはないと思うよ。どっちもアルファベットの存在に堀北さんが気づいた後に確認してほしいって頼んだグループだから。全員Caだって言ってたしね」

 

 全員が意識してアルファベットを探してる状態で、その答えがグループ内全員で一致してるなら、間違えている可能性は限りなく低い。

 

「それから……学校側の手が加えられているのは、たぶん優待者だけじゃないと思う。これは僕が振り分けられたグループKのメンバーなんだけど……」

 

 平田はそう言って、端末のメモ機能を表示して俺たちに見せる。

 

 

Aクラス…葛城康平・西川亮子・藤野麗那・的場信二

Bクラス…安藤紗代・神崎隆二・津辺仁美

Cクラス…鈴木英俊・園田正志・龍園翔

Dクラス…櫛田桔梗・平田洋介・王美雨

 

 

「これは……」

 

 錚々たるメンツだ。俺が知っているだけでも、葛城に藤野、神崎、龍園、それに平田と櫛田。

 各クラスの中心に位置する生徒がずらりと並んでいる。

 まさに激戦区だ。明らかに学校側の手が加わっている。

 

「大丈夫かよ平田」

 

 心配した幸村が声をかける。まあ心配といっても、平田本人というよりDクラスが負けはしないかというニュアンスではありそうだが。

 

「不安はあるけど、全力でやるだけだよ」

 

 前向きな言葉が返ってきたのを見て、ひとまず幸村もうなずいた。

 学校側の作為で、優秀な人物が集められたであろうこのグループ。

 だが、そうだとするとおかしな点が見られる。

 

「このメンツなら、一之瀬や堀北が入っててもおかしくない気がするんだが……」

 

「うん、僕もそこは気になったんだ」

 

「ただそれを抜きにしても、このメンバーには学校側の作為を感じずにはいられないな……くそっ」

 

 なぜか少し悔しそうな表情になる幸村。

 自分がこの中に入っていないのが気に食わないのか。あるいは自身のグループのメンバーを思い浮かべて、そこに自分が振り分けられたことが納得いかないのか。

 幸村のグループのメンバーはわからないので何とも言えない。

 

「じゃあ、俺はそろそろ戻る」

 

 そこまで考えたところで、俺は椅子から立ち上がる。

 今この段階の話し合いでは、出せるものは出尽くした感がある。

 

「うん。また呼んでもいいかな?」

 

「構わない」

 

「ありがとう。じゃあ、試験頑張ろうね」

 

「ああ」

 

 グループごとに振り分けられての試験。

 今の俺の状況で、何ができ、そして何ができないか。

 とりあえず、この試験での俺の行動指針は決まった。

 まずは……あのアルファベットの意味を解き明かすことに全力を注ぐ。

 

 

 

 

 

 2

 

 試験開始時刻の午後1時が近づき、俺は指定されたI室に入った。

 中には、すでに堀北を含め8名が円状に並べられた椅子に腰かけていた。何人か雑談している生徒も見受けられる。

 堀北の両隣りの椅子はいずれも座るのを遠慮されたようで、空いている。

 無人島試験でDクラスを勝利に導いた立役者として注目を浴びているというのもあるし、堀北本人のこっちに来んなオーラを感じたからというのもあるだろう。

 俺は堀北の左隣の椅子に腰かけた。

 しかし、即座に睨まれてしまう。

 もしかしてこいつ、誰かが近づいてくるたびにこんな睨み効かせてるんじゃないだろうな……。

 

「……必ず誰かはお前の隣に座るんだ。それがたまたま俺だっただけだ」

 

「別に何も言ってないわ」

 

「……」

 

 この……いまの睨みは明らかに「なぜあなたが隣に来るのかしら。離れて」ってニュアンスだっただろうが。

 と、そんな突っ込みを入れつつ、俺は端末を操作する。

 直後、堀北の端末がブーッと震えた。

 理由は単純。俺が堀北に向けてチャットを送ったからだ。

 

『方針は決まったのか』

 

 俺からのチャットを受け取った堀北は一瞬俺に顔を向けたが、すぐに俺の意図を察してか、俺から顔を背ける。

 俺と堀北がやり取りをしていることを周りに悟らせないための行動だ。

 

『まだ分からないことだらけで、定まってないわ。自クラスに優待者がいるのか、他クラスにいるのか、それともこのグループが特殊グループで、すべてのクラスにいるのかさえ分からない。一応聞くけれど、あなたは優待者?』

 

 堀北からのチャットが通知なしに届く。音はもちろん、バイブレーションも切っておいた。

 

『いや、違う。証拠が欲しいならあとでメールを見せてもいい』

 

 先ほどはあった堀北の端末のバイブレーションも、今回はなかった。俺と同じように切ったんだろう。

 

『そう。一応信じておくわ』

 

 俺は堀北に優待者であるか否かを聞かなかった。

 優待者であることを自クラスの生徒に隠す理由は、試験後に報酬を得たことを知られたくないからだ。

 仮に堀北が優待者なら、そういった考え方はしないだろう。こいつはAクラスに上がることを目標にしているし、優待者の報酬を得たことを知られたところで気にも留めないはずだ。

 そして堀北が優待者であれば、俺の最初の「方針は定まったか」という質問には「定まった」と答えるだろう。

 これらの理由から、堀北が優待者に選ばれなかったであろうことは今のやり取りで確信できた。

 後から誰にも見られないよう、今のやり取りを端末から削除しておく。

 ……まあいずれにせよ、俺はこのディスカッションの場で何かを発言する気はない。

俺の方針はアルファベットの意味の解読……ひいては、高い確率で存在が予想される優待者の法則の看破だ。

 ディスカッションに関しては、全面的に堀北に一任することとしよう。

 ふと周りを見渡すと、いつの間にやら全員が揃い、用意されていた椅子も埋まっていた。

 同時に、船内アナウンスが入る。

 

『時間になりました。ディスカッションを開始してください』

 

 いよいよもって、特別試験が始まった。

 しかし室内はしんとしたままだ。

 どうやらこのグループIには、決定的な進行役というものがいないらしいな。

 Dクラスに限ってではあるが見てみると……俺も菊池もそういう柄じゃない。堀北は説明されることに対し積極的に質問したり反論したりはするが、自分から先頭になって進めていく、という場面は今まで見たことがない。

 果たしてどうしたものか……と思いつつも沈黙を決め込んでいると、俺のちょうど真向かいの椅子に座っている女子生徒が遠慮がちに口を開く。

 

「えっと……取り敢えず、自己紹介と連絡先の交換はした方がいいよね? 指示があったし……」

 

 それに呼応するように、隣の男子生徒も発言する。

 

「そうだな。そうしよう」

 

 しかし、それに反論するような声も上がる。

 

「連絡先の交換はともかく、自己紹介は要るのか? どうせ連絡先交換で知ることになるし、今の時点でもある程度お互いの顔と名前は把握してると思うんだけど」

 

 おっと、それはちょっと違うぞ。現に俺はあんたの顔も名前も、それどころかクラスすら知らないし。

 

「した方がいいんじゃない? 学校側からの指示は守っておいた方がいいと思う。ペナルティを受けるかもしれないし……」

 

「でも、できるだけ効率よく済ませるのには賛成だ。ディスカッションの時間が削られるのも癪だしな」

 

「それはそうだね。じゃあ、自己紹介の時に自分のチャットのIDも発表することにしようよ。そうすれば自己紹介と連絡先交換を一気にできるよね。それでいいかな里中くん?」

 

「……分かった」

 

 自己紹介に否定的だったこの男子生徒も、渋々といった感じで了承した。

 こいつ里中っていうのか。確かフルネームは里中拓斗。Aクラスの生徒だったな。

 その後、提案された通りに、一人ずつごく短い自己紹介とチャットのIDを発表した。ちなみに、読みがわからなかった葉山のファーストネーム「隼輝」は、「はやて」と読むことが分かった。

 義務付けられていたということもあり、さすがの堀北も自己紹介や連絡先交換を拒絶するなんて暴挙には出なかった。

 やることを全て終えてしまい、室内には再び沈黙が流れる。

 初めに提案を行ったBクラスの上林、そしてそれに乗っかった同じくBクラスの葉山、そしてCクラスの樫本と三嶋、それに俺たちと同じDクラスの菊池は、この沈黙に「大丈夫かな」といった一抹の不安を覚えている様子だ。何とかしたいが何もできない、といった心情が少し顔に出ている。

 ここで注目すべきはAクラス。3人ともこの沈黙に全く動じていない。何もするつもりがないようだ。中でも里中は、ポーカーフェイスというよりもむしろこの沈黙を歓迎しているようにすら映る。

 

「どう進めたらいいかな……?」

 

 最初に場を仕切るような格好になったことで、雰囲気に流されるように司会進行としての役割を追ってしまった上林。

 明確に誰に向けての質問、といったわけでもなさそうだったが、どちらかといえばクラスメイトの佐藤と葉山に相談を持ちかけた感じがあった。

 しかし、そんな上林に答えたのは、Aクラスの里中だった。

 

「進める必要はないんじゃないのか?」

 

「え、どういうこと?」

 

「つまりこういうことだ。この時間はディスカッションと名前が付けられてはいるけど、指定されたこの部屋にさえいれば基本的には何をしようと自由。裏を返せば、何もしないことだって選択肢の一つだろ?」

 

 その言葉に、室内が少しざわつく。

 何もしないってことはつまり、話し合いそのものを放棄するということか。

 

「でもそれじゃ、優待者はどうするの?」

 

「放っとくんだよ。普通に考えて、優待者なんて見つけられると思うのか?」

 

「そのためのディスカッションだよ。話し合いによって、もしかしたらボロを出してくれるかもしれない。それとも自分のクラスからボロが出るのが怖いの? 里中くん」

 

 話し合いが進むことによって困るのは、基本的には優待者とそのクラスの生徒だけ。この時点で話し合いを拒否する態度を見せれば、優待者を抱えているのではないかと疑われるのも自然なことだ。

 

 しかし里中はそれを見越していたように口を開く。

 

「Aクラスにそんなボロを出す奴はいないさ。この中に優待者がいてもいなくても。いや、関係ないと言ってもいいかな」

 

「関係ない……? ってどういうこと?」

 

 発言の真意が分からない、といった様子で聞き返す上林。

 里中はその答えとして、椅子から立ち上がり、高らかに宣言した。

 

「俺たちAクラスは、全グループの全生徒、最初から最後まで話し合いを拒絶するということだ。初めから一切口を開かなければボロが出ることもない、だろ?」

 

「ぜ、全グループ全生徒?」

 

「そうだ。もうAクラスは方針を固めたんだよ。これが葛城さんのやり方だ」

 

 なるほど……葛城の策か。

 葛城の名前が出た瞬間、不快な表情を示す石田を俺は見逃さなかった。おそらく坂柳派の人間だ。隣の和田という女子生徒は……普通だな。ただ葛城の策に納得がいっているかは分からない。

 石田だけでなく、すぐさまCクラスの小川が拒否反応を示す。

 

「正気の沙汰とは思えないぞそれ。試験を放棄してるのと一緒だ」

 

「人聞きが悪いな。これも戦い方の一つだよ。それに試験の放棄って、皆Cクラスにだ

けは言われたくないと思ってるんじゃないか?」

 

「……」

 

 言葉に詰まる小川。

 少し笑ってしまった。

 まあ確かに、Cクラスは無人島試験で2日目にして全員リタイアという、それこそ試験の放棄とも言うべき奇策を打ったからな。

 小川を黙らせた里中は、ここぞとばかりに言葉を続ける。

 

「それに最初に説明を受けただろ? この試験はどうあっても4つの結果のうちどれかになるって。どんな戦い方をしても、結果はついてくる。そう考えれば、一概に試験の放棄とも言えないんじゃないか?」

 

「それは……」

 

「まあ特殊グループはまた違った事情があるけど、いったんそれは度外視して考えよう。俺たちの策を実行すれば、結果はどうなる?」

 

 先ほど黙らせた小川の隣に座る樫本に問いかける。

 

「それは……優待者がわからないからすべて結果2、か」

 

「そう。そして結果2の報酬は優待者に50万プライベートポイント。結果1と並んで、一切のマイナスが存在しない結果だよ」

 

「……確かに」

 

「結果3でも4でも、マイナスが出ちゃうよね……」

 

 一切話し合いを持たない、という突拍子もない意見だが、里中の説明によって説得的な主張に思えてくる。

 風向きが変わったのを感じたのか、葉山が反論する。

 

「でも……優待者が誰かわからないってことは、どのクラスに何人いるかもわからないってことだろ。その状態で優待者の勝ち逃げを許したら、各クラスに入るプライベートポイントが違ってくるかもしれない」

 

 しかし里中は、それに薄い笑みを浮かべて答えた。

 

「今、言いながらも自分で気づいたんじゃないか? 試験の説明を聞いたらわかる通り、優待者はそれだけで優位な立ち位置だ。そんな生徒の分布をクラス間で統一しないなんて不公平、学校側が作るとは思えない。実際俺たちは、優待者は公平を期して選んでるって説明を受けた。だとしたら、優待者は各クラスで同じ人数……合計4人ずついるって考えるのが自然だ」

 

 言いながら、どころかディスカッションが始まる前から、葉山も優待者の各クラスの人数の平等性には気づいていただろう。

 しかし、何か反論しなければと思い、無理やり材料を持ってきた。その結果苦し紛れなものになってしまったのだ。

 

「少し待ってもらえるかしら」

 

 そういって突如待ったをかけたのは、この話し合いをずっと静観し続けていた女子生徒……堀北だった。

 

「堀北……」

 

 苦虫をかみつぶしたような顔になる里中。

 無人島試験では、Aクラスは堀北に一本取られてしまった形になっている。そんな堀北からの発言は気が気じゃないだろうな。

 

「優待者が各クラスに同じ人数だけいるという推測は、私も確度が高いと思うわ。けれど問題がないわけじゃない。結果2になってポイントが入ってくるのは優待者のみ。その点で不公平が生まれるとは思わない? あなたが優待者かそうでないかは現時点ではわからないけれど、仮に違うとしても、ポイントは欲しいはずよ」

 

「確かに欲しい。だからその点でも不公平が生まれないよう、クラス内で優待者が得たポイントを分け合えばいい。優待者が4人で50万ずつ得るから、各クラス40人で割ったとしても、分け前は1人5万ポイント。話し合いを行わずに時間を過ごすだけで、5万ポイントを得ることができるんだよ」

 

 堀北の疑問を利用し、自説の補強に使ってきた。上手いな。

 試験を放棄すれば安全に5万が入ってくる。これだけ聞くと魅力的な提案にも思える。その証拠にグループの半分ほどはAクラスの案に反対はしていない様子だ。

 しかし堀北の追及は続く。

 

「学校側は優待者の匿名性に気を使っているわ。つまり優待者はポイントを振り込まれたことを隠し通すことができる。クラスメイトが相手であってもね。そんな状況で、クラス内でポイントを分け合うために優待者は素直に名乗り出るかしら。黙秘して、ポイントを独り占めしようと考える可能性が高いわ」

 

「その点に関して、Aクラスには何の心配もない。完全な信頼関係があるからな。まあその他のクラスに関しては、俺たちの知ったことじゃないからそれぞれで解決してもらう必要はあるけどね」

 

「そう? Aクラスは確か、派閥争いでクラスが二分されていると聞いたけれど。本当に信頼関係なんてあるのかしら」

 

「どこから聞いたかは知らないけど、噂は噂だ」

 

 そう言われてしまえば、その点に関してはこちらもこれ以上は追及できない。まさか俺が「藤野も言ってた」なんて言うわけにもいかないし。

 

「……確かに、あなたの言う通りではあるわね。ポイント配分はクラス内の問題。むしろそこにAクラスが顔を突っ込んでくる方が道理に合わないことよ」

 

「ああ、そういうことだ」

 

「でも、Aクラスが完全な信頼関係で結ばれているという話は納得いかない。それはこの場にいる全員が思っていることのはずよ。さっきも言ったけれど、あなたたちのクラスは二分されている。信頼関係なんてないはず」

 

「だから、ただの噂だって」

 

「そう言い張るしかないでしょうね。けれどあなたたちはこう考えているはずよ。すべての試験を結果2で終わらせた後で、クラス内の優待者が名乗り出ようと出まいとどうでもいいと。違う?」

 

 堀北のそのセリフで、これまで余裕を醸していた里中の表情が一瞬強張った。

 しかしすぐに元に戻し、堀北に対し反論する。

 

「そんなことはないぞ。名乗り出なかったらクラス内で不公平が生まれる。それは避けたい」

 

「それは建前。なぜなら、Aクラスがこの提案をする目的は、プライベートポイントの公平な配分なんかじゃなく、この試験における全クラスのクラスポイント変動をゼロにすることだからよ」

 

 上林や葉山など、何人かの生徒は今の堀北のセリフで気がついたようだ。

 里中が……いや、Aクラスが仕掛けた罠に。

 

「結果2で終わることによって、各クラスは200万のプライベートポイントを得る。けれどそれと同時に、Aクラス以外の下位クラスは、Aクラスとのクラスポイントの差を詰める機会を一度棒に振ることになるのよ」

 

 下位クラスからすれば、とにかくポイントを増やしてAクラスに追いつき、追い越したい。

 逆に言えば、Aクラスはクラスポイントの差を今のままキープできれば最低限それでいい。

 そんな状況で、クラスポイントの変動をゼロにする案に乗ることは、Aクラスの逃げ切りをアシストすることに繋がってしまう。

 元々の明晰な頭脳に加え、Aクラスに上がりたい気持ちが人一倍強い堀北がその理屈に気付き、そして拒絶するのは当然のことといえる。

 

「彼の案に賛成していた人もいたようだけれど……今の話を聞いても、まだ賛成するのかしら?」

 

 そう問いかける堀北。

 

「……まんまとAクラスに乗せられるところだったぜ」

 

「危なかった」

 

 まあ、当然だな。Aクラスの勝ち逃げをそうそう容認はできない。

 里中の案に賛成しかけていた生徒も、それで意見を翻す。

 しかし、それでも問題が解消されたとは言えない。

 

「そうか。賛成してくれないのは残念だけど、俺たちの意見は変わらない。話し合いたいなら好きにすればいいさ。Aクラスがそれに加わることはあり得ないけどな」

 

 そう、Aクラスの策の有効性の一つは、このように賛成が得られずとも話し合いの拒絶自体は強引にできてしまう点だ。

 先ほど里中が言っていた通り、ディスカッションの時間に何をしようと自由だ。強引に拒絶するなら、それに対抗する手立てはない。

 

「……厄介ね、これは」

 

「でも、グループ全体が優待者を放置する流れになることは避けられたよ。ありがとう堀北さん」

 

 自分では止められなかったと、謝辞を述べる上林。

 

「これくらいは気づいて当然よ……それよりも対策を考えないと」

 

 そう言って思考を巡らす堀北に対し、無駄だと言わんばかりに笑顔を向ける里中。Aクラスの3人はそのまま椅子から立ち上がり、部屋の端へ移動した。

 話し合いへの参加拒否を目に見える形で実行して見せた。

 

「どうするんだ堀北」

 

 俺は困惑した顔を作ってそう尋ねた。

 それに堀北が答える前に、今度は俺の方が話しかけられる。

 

「速野、だよな。俺はむしろ、お前の意見を聞きたいんだが」

 

 葉山のそのセリフで、部屋中の注目が俺に集まる。

 やめて、視線で溶けちゃう。

 

「俺の意見?」

 

「私も。何しろ成績が圧倒的だもんね」

 

 佐藤もそれに乗っかってきた。

 こういう時、俺の答え方は一つだ。

 

「いや……こういうの苦手なんだよな。学校の勉強と違って明確な答えがない。今の議論にもついていくので精いっぱいだったし、意見を求められても……ってのが正直なところだ。こういうことは全部堀北任せだ」

 

 お手上げ、といった感じで答えた。

 

「それでもいいから、聞かせてほしいな」

 

 上林は意外にも食い下がってきた。

 いや……なるほどな。

 ここで俺が答えを拒絶すれば、それは話し合いを拒否したAクラスと同じ穴の貉。ならば俺は、多少強引に迫られても答えようとするはず。そこから何か手がかりをつかもうという腹か。いい戦略だ。

 

「そりゃ、希望を言えば、優待者を見つけたいとは思ってるよ。そうすれば結果1にも持っていけるかもしれないし……裏切れば、結果3で、俺にとっては一番いい形になるし。でも、現実問題として優待者を見つけるなんて相当難しいことだからな。自クラスにいるか他クラスにいるかも分からない。その点はさっき里中が言ってた通りだと思う」

 

 なんの面白みもない、極々当たり前のことを述べた。

 

「やっぱりそうだよね……ありがとう、聞かせてくれて」

 

「いや」

 

 形式的に謝辞を述べる上林だが、これで俺への元々の興味関心は極度に薄れたと判断していいだろう。

 そして新たに、これほどに単純な答えしか出せない生徒なら、話を振っていけば何かボロを出すかもしれない、といった方面での利用価値を見出した可能性もある。

 頻繁に話しかけられるようなことがあると、少し面倒だな。

 今この段階では俺との会話はここで切り上げるようで、じゃあね、と言って他の生徒に話しかけに行った。

 

「ふう……」

 

 俺の隣に座る菊池から、そんなため息が聞こえてきた。

 うんざりというより、何か安堵を含んだような……そんな感じだった。

 上林が離れていったことに対してか。

 

「……」

 

 まあどれだけ気になる点があっても、自分の洞察力によっぽどの自信がなければ、それだけで何かを確信するに至ることはできない。少なくとも俺には無理だ。

 その後、Aクラスに対する有効打もないまま話し合いは滞り、特別試験最初のディスカッションは終了した。

 

 

 

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