実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
午後8時、特別試験二度目のディスカッション。
「試験に参加しろ里中」
「またその話か? 俺たちはちゃんと試験には参加してる。話し合いに参加しないだけだ。何かルールに触れることがあると思うなら、学校側に訴え出てみたらいいんじゃないか?」
「……くそっ」
予想通り、先ほどと状況が変化することはなかった。
いや、悪い方面に悪化したというべきか。このディスカッションでは、Aクラスの3人は初めから椅子に腰かけることすらせず、部屋の隅で端末を弄っていた。
まあAクラスも戦略としてこのやり方を取っているわけで、それは時間でどうこうできる問題じゃない。
初めのディスカッションが終わってから、推測でしかないがBクラスは何らかの形で独自の話し合いを持っただろう。しかし今のように呼び掛けるのみに留まっている。それは実質的に何もできていないのと変わらない。そしてそれこそが、Aクラスの手が有効であることの裏付けにもなっている。
あくまでも現時点では、という話だが。
そのまま何もないまま時間だけが経過し、5、6分ほどが経ったころだろうか。
「ちなみに、みんなはどの結果が1番いいって考えてるの? 私は結果1かなって」
Bクラスの佐藤がそんな質問を全体に投げかける。
「俺もだな」
「私も。やっぱりポイントは欲しいよね」
佐藤と並んで座っていた同じくBクラスの葉山、上林が席順通りにそれに続く。
上林がその隣に座るCクラスの樫本に目配せして、答えを促す。
「まあ、そうだよな……」
「理想としてはそうなるよね」
「結果1だな」
樫本に続き、三嶋、小川も答える。
その隣に座る俺の番になる。
「……俺もそうだな。前にも答えたけど」
流れに逆らわず、そう答えた。
そして俺の隣の堀北の番を迎える。
その堀北は、腕組みをしながらゆっくりと答えた。
「どうかしらね。結果1は確かに魅力的ではあるわ。でも私としては、クラスポイントの変動がある結果3、4が望ましい。無人島試験で差を詰めたとは言っても、私たちDクラスは他クラスと大きな差があるのよ」
ここは流石、空気を読まない堀北。
ここまで全員が結果1を持ち上げたにも拘わらず、堂々と結果3、4を主張した。中々できることじゃない。
「確かに、それも言えてるなあ……」
堀北の隣に座る菊池は、若干堀北に乗っかるような形でそう答えた。
「……確かにそうだね。みんな答えてくれてありがとう」
言い出しっぺの佐藤がそう謝辞を述べ、一連の流れはひとまず途切れた。
今の一連の流れ、何の変哲もない一幕に見えて、恐らくBクラスの戦略だったと考えられる。
流れはこうだ。
タイミングを見計らって、Bクラスのひとりが、どの結果がいいかという質問を投げかけると同時に、自分は結果1がいいと言う。そしてすかさず隣に座るBクラスの生徒2人が、自分も結果1が望ましいと乗っかる。
こうしていくと、椅子に座っていないAクラスの生徒を除くメンバー全員が、席順の通りに答える流れになる。尚且つ、3人続けて結果1がいいと答えたことで、それ以外の結果が望ましいと答えれば不自然に映る状況が完成される。
グループの結果を結果1に持っていくためには、優待者を含めた全員が協力していく必要がある。しかし当然ではあるが、今の時点で優待者はその正体を隠している。そこで「結果1が望ましい」と答えれば、確かな嘘が生まれることになる。
嘘をつけば、ただでさえ正体を隠している優待者には確実にプレッシャーが募っていく。
そしてそれこそがBクラスの狙いなんだろう。この中にいるであろう優待者に嘘をつかせること。Bクラスの3人は、質問に答えていく人物を注意深く観察していた。様子がおかしい人物はいなかったかと。
この戦略は、Bクラスの3人がまとまって座り、且つその中でも端に座る人物が最初に呼びかけを行わなければ有効性が一気に落ちる。
恐らくは、このI室に早めに来て、3人がまとまった席を確保するところから計画のうちだったんだろう。
しかし、それを壊したのが堀北だ。
全員の答えに流されることなくDクラスにとっては結果3、4が望ましいと答えることで、あとに続く菊池がプレッシャーなく答えられるようにしたのだ。
だからおそらく、先ほどの堀北は単に場の空気を読まなかっただけではないと考えられる。
もちろん、菊池が優待者でなければ取り越し苦労ということにはなるが、それが不明である以上、賢明な処置といえるだろう。
しかし、それでBクラスの攻撃を全てしのぎ切ったと判断するのは、いささか楽観的過ぎる考えだ。
今のがすべて、Bクラスには優待者がいないと思わせるためのフェイクって可能性も十分にあるわけだからな。
誰かに疑いをかければかけるほど、その疑いから導き出される結論とは全く逆の疑いもどんどん濃くなっていく。
まだまだ手探りの状態は続きそうだ。
1
Bクラスが仕掛けてきて以降は特に目立った動きもなく、2度目のディスカッションも進展ゼロで終えた。
現在時刻は日付が変わる10分前。
本来ならもう寝ている時間だが、試験の経過の話し合いをするとのことで、俺は朝と同じく、平田たちが宿泊している部屋を訪れていた。
「また来てくれてありがとう、速野くん」
「いいよ別に。暇だったしな」
そんな会話の隣では、上半身裸の高円寺が逆立ちのまま腕立て伏せをしている。
何もかもが規格外だな……俺は逆立ちすらできないのに、その状態で腕立てまでやるのか。
「高円寺くんも参加してくれると嬉しいんだけどね」
「すまないね平田ボーイ。私は今、肉体美の追及中だ。邪魔しないでくれたまえよ」
はっはっは、と笑いながら言う高円寺。すまないね、とは微塵も思ってないだろう。
高円寺がDクラスの戦力になればこれほどすごいことはないと思うが、こいつが俺たちに協力するなんて地軸が180度変わってもあり得ない気がする。
つまり気にするだけ無駄ということだ。
平田も本気で高円寺が参加すると思って声をかけたわけじゃなさそうだしな。
高円寺から目を切り、平田は居住まいを正した。
「実は……僕のところに3人、優待者が名乗り出てくれたんだ」
突然の告白。かなりの重要事項だ。
「何? ……それは誰だ?」
幸村がそれに食いつく。
「それは……言えないよ。信頼して教えてもらってるからね」
その言葉に幸村が眉を顰める。
「俺たちが信用できないっていうのか。お前が知っている以上、俺たちにも知る権利はあるはずだ。それに優待者の情報を共有することで、何かわかるかもしれないだろ」
「……そうだね。僕も相談したいと思っていた」
幸村の説得に折れた、という形で、平田はその情報を明かすようだ。
だがおそらく平田は、最初から打ち明けるつもりだったんだろう。優待者が名乗り出たことを告げれば、それが誰かを聞かれることは簡単に想像できるはずだ。
「実は……」
「待ってくれ平田、一応携帯かなんかに打ち込んだほうがいい」
平田が人物名を口に出す直前、俺はそれを引き止める。
「……そうだね。どこに耳があるか分からない」
俺の意見に賛同し、平田は端末を取り出して文字を打ち始める。
非常に慣れた手つきで素早く打っていく。
打ち終わった平田が端末をこちらに向けてきた。
『グループKの櫛田さん、グループIの菊池くん、グループAの南くん』
「っ……なるほど」
菊池が優待者だったのか……。ディスカッション中の挙動から少し疑ってはいたが、いざ実際に聞くと改めて驚いた。
となると、堀北のあれはファインプレーだったってことになるな。
そして、各クラスの中心が集まっているグループK、櫛田が優待者だったか……。これはいい展開だ。櫛田なら、ちょっとやそっとのことで悟られるなんてことはなさそうだ。
「平田、こいつらの連絡先持ってるか?」
言いながら、平田の端末の画面に表示されている南の文字を指で示す。櫛田の連絡先はずいぶん前にもらったし、菊池のは同じグループなので持っている。
一応のカモフラージュとして、知りたいのは南一人だが「こいつら」と複数形にしておいた。
「え? うん、持ってるけど……ただ、本人の許可なく連絡先を教えることはできないよ」
「いや、俺が知りたいのは連絡先じゃなくてプロフィールだ」
「……それなら、構わないけど」
少し迷ったようだが、見せてくれた。
俺はすぐにメモを取って南のプロフィールを記録する。
ずっと変だと思ってはいたのだ。なぜわざわざプロフィールを全て書かせる必要があるのか。グループのメンバーに個人情報を共有する必要があるのか。たった3日間、計6時間同じ部屋で過ごすだけの関係なのに。
この中に、優待者の法則を解き明かすヒントがあるかもしれない。
学籍番号、名前、ふりがな、生年月日、血液型。これらの情報から得られるものは何か。
そして試験説明の際に散りばめられていたたアルファベットとの関係性は。
このアルファベットに関する話はディスカッション中に一度も出てこなかったが……恐らく試験をクリアするための最重要ヒントであるために、下手に話題に出すことを避けているものと考えられる。
アルファベットということなら、一番は血液型との関連性が考えられる。でもABO以外の文字がほとんどを占めているし、違うなこれは。そもそも13ってのと繋がらない。
一旦考えるのをやめ、話し合いに意識を向けた。
「優待者は4人いるんだよな? だとしたらまだ足りないぞ」
幸村は優待者を全員知りたがっているようだ。
「そうだね。でも名乗り出ることを強制はできないよ。本人の意思の問題もあるし、誰かに話せばその分リスクが高くなるわけだしね」
平田の言う通り。つまり平田は今そのリスクを取っているわけだが。
そんな感じで話を進めていく中、部屋に鼻歌が響き出した。
どうやら……というか、やはり発生源は高円寺。
逆立ち腕立て伏せをしながら鼻歌歌えるって、どういう構造してるんだこいつの体は。
真剣に話している中で集中を乱された幸村が、しびれを切らして高円寺に詰め寄る。
「ああくそ高円寺! 気が散るから鼻歌を止めてくれっ! それと、今回は最後までちゃんと試験に参加しろよ。無人島の時みたいなことは絶対にするな!」
「そう言われても、私はあの時体調を崩していたんだ。そんな状態で無理はできないさ」
「っ、仮病のくせにっ……!」
無人島から船内に戻った際、高円寺の身体は1週間みっちり焼かれていたことは記憶に新しい。こいつが体調を崩したと言っても信じる奴は1人もいないし、高円寺もそんなことはどうだっていいんだろう。
「ふむ、しかし、この面倒な試験があと2日も続くのは気が乗らないねえ」
「面倒って、真面目に考えてもいないくせに何言ってるんだ」
「意味のないことを真面目に考えても仕方がないだろう? 嘘つきを見つけるだけの簡単なクイズさ」
そう言ってベッドに置いてあった自身の端末を操作し、何かを打ち込んだ後、再び端末をベッドに放り投げた。
高円寺が何をしたか。この場にいる人間は直感的にそれを理解してしまった。
「お、おい、何をしたんだ!?」
そう叫ぶ幸村だが、時すでに遅し。高円寺が操作を終えるのとほぼ同じタイミングで、この部屋にいる5人全員に一斉にメールが届く。
『グループEの試験が終了いたしました。グループEの方は以降の試験に参加する必要はありません。他のグループの妨げにならないよう、注意して行動してください』
「おい、グループEってお前のグループだろ高円寺!」
「その通りだよ。私は晴れて自由の身となったわけだね。では、アデュー」
そう言って、意気揚々とバスルームの中へ消えていった。
「くそっ、なんてことをしてくれたんだあいつ! 俺たちが必死に考えてる間にっ!」
「まだ分からないよ。彼なりの考えがあったのかも……」
「そんなもんあるわけないだろ! あいつは単に試験を放棄しただけだ! 自分さえよければそれでいいんだよ! もう最悪だ……!」
頭を抱えて嘆く幸村。
適当に優待者を答えたのならもちろん最悪だ。Dクラスは50ものクラスポイントを失うことになる。
だが高円寺はもしかしたら、さっきの言葉通り本当に「嘘つき」を見つけたのかもしれない。
しかしあまりにも想定外の行為なのは事実。
高円寺の行動により、全員大混乱を起こしていた。夜更けにもかかわらずグループチャットの通知がどんどん溜まっていく。
「……みんな混乱してるみたいだね」
そりゃそうだ。初日時点で裏切り者が出るなんて誰も予想できなかっただろう。
それも裏切ったのが高円寺と知ったら、混乱はさらに酷くなるだろうな。対応に追われる平田が気の毒だ。
「くそ、あいつのせいで話し合いどころじゃなくなったじゃないか!」
「……だな」
「ごめん、少し電話してくるよ」
そう言って端末を持って立ち上がる平田。
幸村も冷静さを欠いてるし、平田は平田でクラスの対応に追われている。
綾小路はいつも通りだが、この部屋の中で俺と綾小路が話し合っても成果は生まれない。
こんな状態じゃ、今日はもう話し合いが行われることはなさそうだな。
なら、ここに俺がいる必要もないか。
「じゃあ、俺は戻る」
それだけ告げて、俺は部屋を後にした。