実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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ヒント

「……それで、同じ空間にいながらみすみす彼の暴挙を許したと」

 

「おいおい、あの状況で止められるわけないだろ。一瞬何してんのか分からなかったし、まさか試験終わらせるなんてあの瞬間で思いつけるかっつーの。全部理解できたのはあいつが端末を放り投げたあとだったよ」

 

 翌朝、俺と綾小路は、堀北に昨夜の一件を報告していた。

 チャットでのやり取りは早い段階から行っていたが、直接話を聞かせろと言われ、はせ参じたというわけだ。

 

「はあ……高円寺くんには一度、直接言って聞かせる必要がありそうね」

 

 そう意気込む堀北だが、とてもそんなのが通じる相手とは思えない。

 

「やるだけ無駄だと思うぞ。そんなのであいつの態度が改善されたら苦労はない。過ぎたことは過ぎたこととして、今は目の前の試験に集中すべきだ」

 

 露骨に話題を変えにかかる綾小路。

 ま、このままこの話を続けても、俺たちが理不尽に責められ続けるだけだからな。

 

「……話がこれだけなら、俺はもう行くぞ。まだ朝飯食ってないんだよ」

 

「ええ、どうぞ」

 

 堀北も俺を止める気はないようで、勝手にしろと言ってくる。

 お言葉に甘えて退散しようと、モーニングビュッフェをやっている店に向けて足を向けたとき。

 

「なんだ行っちまうのか? もうちょい俺と喋ろうじゃねえかガリ勉野郎」

 

 突然左肩をつかまれ、かと思うと押されてしまう。

 

「なっ……」

 

 体のバランスを崩してよろけるが、何とか転倒は防いだ。

 

「この……っ」

 

 俺を押した輩の顔を拝む。

 その人物とは。

 

「……龍園」

 

「暴力行為として学校に通告するわよ、龍園くん」

 

「クク、暴力だ? 俺はただ話がしたい相手を呼び止めただけさ。そいつが勝手によろけやがっただけだろ。船が揺れでもしたんだろうぜ」

 

 こいつ……相対するのは二度目だが、いつでもどこでもこんな感じなのか?

 

「ようガリ勉野郎。森ん中以来だな。あん時のてめえの怯えた表情は傑作だったぜ」

 

 この人の神経を逆なでるような口調に言葉選び……こりゃ天性のものだな。思わず舌打ちが出てしまいそうになる。

 

「っ……ああ、お前の方こそ、堀北にすべてを台無しにされたと知った時のあの狼狽えた顔、暗い中でも鮮明に覚えてるよ。森の中で5日も潜伏した挙句、その結末が失格だったときの気持ちはどうだった?」

 

「ほお、思ったよりも『喋れる』野郎じゃねえか。仲良くできそうで嬉しいぜ」

 

 椅子を引いてドガっと腰かけつつ、そんなことを言ってくる。

 仲良くって……それだけは御免だ。

 

「ま、無人島ではてめーらDクラスに後れを取ったのは事実さ。こいつは俺の不覚だ。潔く認めてやる。が、今回はどうだ。思いついたのか? 優待者を絞り込む算段をよ」

 

「あら、まるで自分たちはできているかのような言い方ね」

 

 そんなわけがない、というニュアンスを含んだ堀北のセリフ。

 しかし龍園はそれを待っていたかのように口角を上げた。

 

「その通りさ。俺はすでにクラス全員の優待者を把握した。この試験の根幹、そこにある仕組みの解析に手を突っ込んだってわけだ」

 

 それを聞き、堀北に動揺が走る。

 

「……おかしな話ね。あなたのような人間に、素直に優待者が名乗り出るとはとても思えないけれど?」

 

「名乗り出る? 甘ちゃんの考えそうなことだなあオイ。強制的に突き止めるのさ。優待者かどうかを知らせる学校側からのメールを一人一人確認してな」

 

 不気味な笑みを浮かべながら、それが当たり前だと言わんばかりの龍園。

 なんという強引な手法だ。

 

「あなた……正気? 携帯を強引に見るのはルール違反のはずよ」

 

「クク、俺が何の咎めもなくここにいる。それが答えさ」

 

 Cクラスは龍園翔の独裁体制。

 強引に端末を見られたと訴えるような人間もいない、か。

 これで龍園は、都合4人の優待者を知ったことになる。

 

「場合によっちゃ、Cクラスが圧勝することもありうる。状況が分かったか?」

 

「……ええ、あなたが今の時点では何も突き止められていないことはね。法則がわかったなら、まだ試験が続いているはずはないもの」

 

「俺が遊んでいるだけ、って可能性は考えねえのか?」

 

「いつ誰が答えにたどり着くか分からないこの状況で、そんなことをする余裕はないはずよ」

 

「クク、そいつはどうかな。ま、せいぜい足掻けよ雑魚ども。俺は詰めの段階に入らせてもらうとするぜ」

 

 そんな捨て台詞を残し、龍園はその場を立ち去った。

 無人島で負けておいて雑魚どもか……ただの自信過剰な奴ならいいんだが。

 ……いや。

 

「くそ……余計に腹減った。今度こそ俺は戻るぞ」

 

 そう言いつつ、俺は端末のメモ帳に文字を打ち込み、二人に見せる。

 

『龍園が座ってた椅子の下に端末を置いていった。たぶん録音されてる』

 

「っ……ええ」

 

 堀北は少し驚いたようだが、声には出さないよう注意し、俺に言葉を返した。

 

「じゃあな」

 

「ああ」

 

 龍園と遭遇しないよう、あいつが歩いて行った先とは逆の方向に歩いていく。

 ビュッフェやってる店とは真逆の方向だ。遠回りを強いられてしまった。むかつくなまったく。

 にしても、端末を放置して会話を録音か……中々強かだな。

 さっきはああ言ったが、一人で5日も無人島に潜伏するのだって、相当な行動力と根気が必要だ。

 あのむかつく態度に振り回されて、冷静な思考を失ってはいけない。それすらも狙いのうちだろう。

 分かってはいたことだが……龍園翔は、やはり油断ならない人物のようだ。

 

 

 

 

 

 1

 

 2日目の昼のディスカッションも、やはり進展なく終わった。

 Aクラスはもちろん、最初から最後まで部屋の隅で黙って過ごすだけ。

 そして今回は、今までのようにBクラス側から特に何かを仕掛けてくるようなこともなかった。

 まあ合間を見てはいろんな人に話しかけに行ってたが。特に上林。

 ただ耳に入ってきた会話を聞く限り、試験に関することは何も話していなかった。他愛もない雑談、世間話を繰り返している感じだった。

 だからあれは作戦というより、単に上林がおしゃべり好きなだけだな、たぶん。

 つまり今回に関していえば、Bクラスも正真正銘ノープランだった可能性が高い。

 そんな正直退屈だったディスカッションを終えてしばし。

 俺は5日前、堀北に無人島でのことを話した際に使ったカフェテリアに来ていた。

 その時は人っ子一人いなかったこの場所だが、現在は数名の生徒の姿がある。

 そこで紅茶とちょっとした菓子を嗜みつつ、俺は頭を回す。

 当然、優待者の法則、そして特殊グループがどこかを割り出すために。

 今のところ手がかりは……。

 

 13という全体数。

 その中に1つの特殊グループという、12:1の構成比。

 義務付けられた学籍番号、氏名、ふりがな、生年月日、血液型のプロフィール入力、そして連絡先の交換。

 南、菊池、櫛田というDクラスの優待者。

 そして試験説明の際に見つけられたアルファベット。

 グループAがAr。

 グループCがGe。

 グループDがCa。

 グループEがLe。

 グループIがOp。

 グループJがSa。

 グループKがCa。

 グループLがAq。

 

 このアルファベットの意味から考えたのでは、恐らく答えにたどり着くことは不可能だ。

 アルファベットは、それ以外の材料から導き出された答えの検算として使うのがいいだろう。

 

「速野」

 

 思考に没頭しようとしたところで、名前を呼ばれて意識が覚醒する。

 声のした方を向くと、綾小路がこちらを見て立っていた。

 

「綾小路……どうかしたか」

 

「ここに入ったら偶然お前を見つけたから、声をかけただけだ。迷惑だったか」

 

「いや別に迷惑ってことはないが……座るか?」

 

「悪いな」

 

 一言断りを入れ、椅子に腰かける綾小路。

 新たな来客を見て、ウェイターがすぐにこちらに来る。

 

「お客様、こちらメニュー表になります。ご注文お決まりになりましたらお申しつけください」

 

「じゃあコーヒーを」

 

「かしこまりました。そちらのお客様は、何かございますか?」

 

「えーっと……じゃあこのミルクレープください」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 注文を取り終え、ウェイターが厨房へそれを伝えにいった。

 

「……結構甘いの好きなのか」

 

 綾小路は俺の側のテーブルを見て、自分が来る前も何かを食したことを察し、聞いてくる。

 

「好きっちゃ好きだ。それに、カツカツのDクラスは普段こういうのにはありつけないからな」

 

「カツカツって……まあそうか」

 

 俺が節約に節約を重ねていることを知っている綾小路は、俺が別にカツカツでもないことを知っている。しかしそれは、普段からカツカツの状態と変わらない生活を送っていることと同義だ。

 そしてもう一つ。綾小路は俺と清水、森重の契約を知っているため、カツカツなどではないことも同時に把握できている。

 

「まあ無人島試験でクラスポイントも増えたし……この試験で大敗しなければ、ちょっとは余裕も出てくるんじゃないか」

 

「そうだな。大敗しなければ……」

 

 そこから、話題はこの試験……主にディスカッションの様子へと移っていく。

 

「そっちのグループでも、Aクラスは話し合い拒絶してるのか」

 

「ああ。取り付く島もないって感じだ。一之瀬はあの手この手でけん制してるが、それも実ってない。そっちのグループでも、ってことは、お前のところでもか」

 

 綾小路の問いに頷く。

 

「初っ端に宣言されたよ。Aクラスは全グループ全生徒、話し合いに参加することはないってな」

 

 そしてそれは策として有効だ。Aクラスが話し合いに参加しないことを咎めることはできても、強制的に参加させることはできないからだ。

 

「一之瀬のあの手この手って、例えばどんなのなんだ?」

 

 先ほどのセリフで気になっていたことを質問した。

 

「色々あるが……さっきの話し合いでは、いきなりトランプをやろうと言い出した」

 

「トランプ……?」

 

「一之瀬によれば、話し合いがうまくいかないのは信頼関係がないからなんじゃないか、ってな。だからトランプで遊ぶことで、その壁を取り払おう、ということらしい」

 

「なるほど……それで、肝心のAクラスはそのトランプに参加したのか」

 

「いや」

 

 これ以上ないほどの即答だった。

 

「ダメじゃん……」

 

「一之瀬も困り顔だったな」

 

「まあそりゃそうなるだろうけど……」

 

 くだらない、と失笑して無視を続けるAクラスの姿が目に浮かぶ。

 それにしても……。

 

「トランプか……」

 

「どうかしたか」

 

「いや、なんでも」

 

 トランプ、というキーワード。

 これは、俺が先ほど並べた手がかりとの一致率が高いのだ。

 トランプは、エースからキングまでの13種類。

 しかもジョーカーという、まさに「特殊」と表現するほかないカードもある。

 そしてダイヤ、スペード、ハート、クローバーという4種類の絵札。これはA、B、C、Dという4つのクラスと同じ数字ではないか。

 これは……。

 

「お待たせいたしました。コーヒーと、ミルクレープでございます」

 

 俺の思考を打ち切ったのは、俺たちの注文品を持ってきたウェイターの声だった。

 綾小路の前にはティーカップに乗せられたコーヒーが、俺の前にはミルクレープが乗った小皿がフォークとともに、それぞれカチャリと置かれた。

 

「……どうも」

 

「ごゆっくりお過ごしください」

 

「あ、すいません、紅茶のおかわりもらえますか」

 

「承りました。ミルクはお付けいたしますか?」

 

「あー、お願いします」

 

「承知いたしました。空いたお皿、おさげいたします」

 

「お願いします……」

 

 ウェイターが諸々の作業を終え、テーブルから離れる。

 

「紅茶なんだな。甘いものにはコーヒーの方がいいんじゃないか」

 

 そんな他愛もない質問をしてくる。

 

「単純に舌に合わない。たぶんまだお子ちゃまなんだよ」

 

「お子ちゃまって……」

 

 いやほんとに。コーヒー苦手。だって苦いじゃんあれ。だから苦手。苦いだけに。

 俺の誕生日が3月27日で、学年でも1、2番目に遅いことが関係してるのか、それは分からないが……1年後の俺が綾小路のようにコーヒーを嗜んでいる姿は、想像できなかった。

 

 

 

 

 

 2

 

 綾小路とのティータイムを終え、午後3時ごろ、俺は地下のフロアに移動した。

 目指した先は、図書スペース。

 閑散とした廊下には、俺の足音だけが響く。

 この様子だと、誰もいなさそうだな……と、そんな予想を抱きながら、目的の場所に足を踏み入れる。

 

「……っと」

 

 入った瞬間、少しだけ驚く。予想に反して人がいたからだ。一人だけではあったが。

 少し小柄で、染めているわけではなさそうだが藤野と似て色素の薄い髪。見た目や雰囲気から察する分には、かなり大人しそうな印象を受ける女子生徒だった。

 俺はこの女子生徒を知らない。つまり少なくとも、同じクラスの人間ではないということになる。

 抜き足差し足で来たわけじゃないから足音はそれなりに出ているはずだが、俺に気付かないのか、或いは来たのが誰であろうがどうでもいいと思っているのか、こちらには一切目もくれなかった。

 まあ俺も別に気付いてほしいと思ってるわけじゃないから、特に声をかけることもなく図書スペースを歩く。

 学校の図書館はかなり広大だが、船の中の図書スペースは、それと比して数段規模が小さい。まあ当然のことだが。

 そのためこの図書スペースでは、電子書籍用のタブレットが十台ほど設置されており、何か本を読みたい生徒は主にこのタブレットを使用することになる。紙媒体の本も置いてあるが、それは作者や出版社などの意向が絡んで電子書籍化できなかったものに限られているようだった。

 この工夫により、あまり広いとはいえない図書スペースでも、作品そのものを楽しむことは十分に可能だった。

 しかし今ここにいる少女は、タブレットではなく紙媒体の本を読んでいるようだった。彼女の座る机には紙の本が3冊ほど積まれている。

 世の中には、デジタルの画面よりも実物の本を好む人がいるという。かさばったり重かったり、そういった一般的にはデメリットに思える部分も、それこそが「自分は今読書をしている」と実感させる要素だ、とかなんとか。俺にはその気持ちはいまいち分からないが、彼女もその口か。

 いや、あまり気にすることでもないか……。

 とりあえず、自分の目当ての本を探そう。

 そう考え、本棚を流し見していく。

 

「何かお探しですか?」

 

「すぇっ……!?」

 

 背後からいきなり話しかけられ、変な声が出てしまった。なんだよ「すぇっ」て。

 てか、いつの間に……。あーびっくりした。

 

「すみません、驚かせてしまいましたか」

 

「いや、まあ……」

 

 めちゃくちゃ驚いた。

 

「で、何か探してるのか、だったな。別に特定の本を探しに来たわけじゃないんだが……何となく立ち寄って、何となく眺めてただけだ」

 

「そうでしたか。宜しければ、私のおすすめを紹介しましょうか?」

 

 そんな申し出を受ける。

 ……ふむ。ここで断るのも変か……。

 

「じゃあ……聞かせてもらう」

 

 そう答えた瞬間、彼女の表情、雰囲気が変わった。まるでスイッチが切り替わったように。

 あ、まずいかも……と思った時には、すでに彼女のマシンガントークは始まっていた。

 正直なところ、彼女の話した内容はほとんど頭に残っていなかった。

 かなり早口だったし、それに俺は元々ほとんど読書はしてこなかった人間だ。そんな俺に、なんとかチャンドラーやらなんとかロバーツやら、その中のうんたらシリーズやら言われても一切知らない。さすがにアガサクリスティとかシェイクスピアぐらいなら一般常識として名前くらいは知ってるが……こいつには悪いが、まさに右から左って感じだった。

 俺が戸惑いの表情を浮かべているのにようやく気付いたのか、ようやく勢いが収まった。

 

「あ……すみません、本のことになると少し感情が高ぶってしまって……」

 

「ああ……うん、そうみたいだな……」

 

 少しどころじゃないと思うが……とは口には出さなかった。

 

「ここに来る生徒は、元々あまり多くないんですよね。皆さん娯楽施設の方に行ってしまうので……来ても、タブレットで電子書籍を見る方がほとんどなので、本棚を眺める方は珍しいんです。それで声をかけさせていただきました」

 

「そうだったか……。そういえば、お前も紙の本を好んで読んでるみたいだな。こだわりか?」

 

「こだわり……いえ、特に強いこだわりがあるわけではありませんよ。ただ電子書籍と実物の本では、同じ文量を読んでも目の疲れ方が結構違うので、その点で、体力的に多く読むことのできる紙の本の方が好きではありますね」

 

「ああ、なるほど……」

 

 純粋に作品を読むのが好きなんだろう。俺の予想は外れていたみたいだ。

 と、そこで椎名が「あ」と何かを思い出したように言う。

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。Cクラスの椎名ひよりと申します」

 

 そう言ってぺこりと軽く腰を曲げた、椎名という女子生徒。

 

「あ、ああ……Dクラスの速野だ。よろしく」

 

 こちらも自分の名前を伝えると、はっとした表情になる椎名。

 

「あなたが速野くんでしたか……」

 

「……知ってるのか」

 

「名前だけではありますが」

 

 ……本当に、会う人会う人みんな俺の名前知ってんな……。

 

「不快にさせてしまいましたか?」

 

 俺の表情からそう感じ取ったらしく、申し訳なさそうに言ってくる。

 

「ああいや、そういうわけじゃない……そう受け取ったなら悪いな」

 

「いえ、一方的に知られているというのは、気分がいいものとは限りませんから」

 

 実体験からなのか一般的な視点から述べた意見なのかは分からないが、実際椎名の言う通りだ。嫌でも人に知られる有名人……一之瀬や藤野なんてその最たる例だろうが、そういった人たちの凄さを改めて実感する。

 

「この後はどうされますか?」

 

「ん、ああ……せっかく来たし、何かちょっと読んでいこうと思ってる」

 

 そう言って、目の前の棚の本を適当に手に取る。

 その本は、レオナルド・ダ・ヴィンチにより描かれた名画『最後の晩餐』が表紙になっていた。

 

「最後の晩餐……」

 

「どうかされましたか?」

 

「いや……ちょっと電子書籍で探してみることにするわ」

 

「そうですか。では私も読書に戻りますね」

 

「ああ」

 

 そうして、いそいそと元の席に戻っていく椎名。

 それを見送りつつ、俺は先ほど手に取った本をもう一度見る。

 

「……」

 

 13人の使徒。13のグループ。

 ユダという1人の特殊な人物。優待者が4人いる特殊グループ。

 イエスキリストという中心人物。各クラスの中心人物が集まったグループK。

 

「これは……」

 

 俺はその本を手に、椅子に座った。

 

 

 

 

 

 3

 

 図書館を後にした俺は、演劇や映画が見られるスペースに移動した。

 そこで、意外な人物と邂逅することになる。

 

「あれっ、速野くん?」

 

「……一之瀬」

 

 Bクラスの一之瀬帆波。いつもの通り、快活な雰囲気を周囲に振りまいている。

 

「や、久しぶりだね。ちゃんと話すのは無人島以来かな?」

 

「そうだな。試験の前後に2階で何度か見かけることはあったが」

 

「だね。君は映画?」

 

「ん、ああ。お前は違うのか?」

 

「うん。近くにダーツできるところあるでしょ? そこで遊ぼうって話になってね。待ち合わせまでの時間つぶしにぶらぶらしてたんだよ」

 

「そうだったか」

 

 だから一人だったのか。

 

「やっぱりリフレッシュは必要だよね。1日中試験のこと考えてたら、ガス欠になっちゃうよ」

 

 言いながら、んん、と伸びをする一之瀬。

 その仕草に、周囲にいた男子生徒の視線が一瞬一之瀬に集まる。

 理由は単純。ただでさえ大きな胸がさらに強調される形になっているからだ。かくいう俺も視線が吸い寄せられないと言ったらウソになる。

 ……いや、仕方ないだろ。俺だって男なんだから。遺伝子に刻まれてんだよ。

 伸びをしている間、一之瀬は目を閉じているので大丈夫だが、いつ気づかれるか分からないので即座に目をそらす。

 そのすぐあと、伸びを終えた一之瀬がふう、と息をつき、口を開く。

 

「龍園くんと話した後は特に疲れるなー」

 

「……なんだ、話したのか?」

 

「うん。まあディスカッションが終わった直後だから、時間は結構経ってるんだけどね。私としては、葛城くんにAクラスの生徒を試験に参加させるよう交渉するだけのつもりだったんだけど、思いがけず捕まっちゃって」

 

「そりゃ……気の毒に」

 

「にゃはは、ありがとう」

 

 同じく龍園と相対した者として、気持ちは理解できる。

 

「実はそこで、龍園くんがある提案をしてきたんだよね」

 

「ある提案? ……それ、俺に話してもいいことなのか?」

 

 話を聞く前にそれを確認しておく。

 

「君たちとは協力関係だし、その場には堀北さんも綾小路くんもいたから大丈夫だよ。それに隠すようなことでもないからね。あまりにも非現実的なものだからさ」

 

 堀北もいたのか……今朝の一件といい、完全に龍園に目をつけられてるな。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて聞かせてくれるか」

 

「オッケー。と言っても、本当に非現実的な提案だからね。簡単に言えばこうだよ。AクラスをのぞくB、C、Dクラスのすべての優待者を共有して、特殊グループと優待者の法則を突き止め、Aクラスを狙い撃つこと」

 

 少し困り顔で言う一之瀬。

 それは……。

 

「いくらなんでも無理があるだろ……」

 

「だよねー。もちろん、龍園くん以外全員が反対して、この話は立ち消えになったよ」

 

「そりゃそうだろうな……」

 

 この作戦は、共有した優待者の情報がすべて本物であり、且つそれを使って同盟内から裏切り者が出ないという前提条件のもとに成り立つ。

 が、龍園にはそういった信用がない。まったくと言っていいほどに。いや、むしろ自分からかなぐり捨てている印象だ。

 ……それ以前に、俺は提案者がこの一之瀬だったとしても、その案に乗ることはないだろう。

 

「龍園くんも、こんな話が成立するわけないって絶対にわかってたはずだよね。そのうえであんなに場をかき乱すことを言うんだから……ほんとに厄介だよ」

 

「……まったくだな」

 

「名前に龍なんて入ってるけどさ、あれはまるで蛇だね蛇。狙った獲物はどこまでも逃がさない、って執念を感じるよ」

 

「蛇……」

 

 蛇といえば、十二支か……でも、グループは13個あって……。

 いや、でも13なら……。

 

「っ!」

 

 その瞬間、俺は自分の脳が高速で回転していくのを感じる。

 散りばめられていたパズルのピース。

 英語の頭文字。13という数字。

 そして今この瞬間、新たに加わった貴重な貴重な最後のひとかけら。

 ……つながった。

 何もかも。

 

「どうしたの?」

 

「……いや、確かにその印象はあるかもしれない、と思ってな。それより、リフレッシュだなんだって言っておきながら、結局試験の話に戻ってるぞ」

 

「え、あっ、ほんとだ! にゃははー」

 

 やっちゃったー、とでも言いたげに頭を掻く一之瀬。

 そして腕時計を確認し、はっとした表情になる。

 

「わ、そろそろ時間だ。じゃあまたね速野くん、映画楽しんでね!」

 

「ああ。また」

 

 小走りで移動していく一之瀬。

 その背中に、俺は見送ると同時に感謝した。

 一之瀬にとっては何気ない一言だっただろう。

 しかし、それがあまりにも大きすぎるヒントになった。

 ありがとう一之瀬。

 お前のおかげで、膠着していた現状を打ち破ることができそうだ。

 

 

 

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