実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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もう一つの試験

 2日目、夜のディスカッションの時間となる。

 

「さて、また話し合いの時間が来たけど……やっぱりAクラスは不参加?」

 

「ああ。どうぞ勝手にやってくれよ」

 

「うん、そうさせてもらうよ」

 

 上林はそう答えると、やおら立ち上がって言う。

 

「みんな、このままだとやることもないだろうし……人狼ゲームでもやらない?」

 

「人狼?」

 

「うん。みんな知ってるよね?」

 

 聞かれて、周りは全員頷く。

 ……あれ、マジ?

 

「……え、お前人狼ゲームって知ってる?」

 

 隣の堀北に尋ねる。

 

「聞いたことはあるけれどルールは知らないし、やったこともないわ。……逆に知らないの?」

 

「う、うん、聞いたことすらございません……」

 

 堀北ですら名前は把握しているこの状況で、そんなもん知らねえよと大っぴらには言いだすこともできず、端末で調べる。

 どれどれ……村の中で人狼側と市民側に分かれて殺し合う。

 人狼は夜に市民側を殺し、市民側は人狼と疑わしい人物を処刑によって殺す。

 人狼を全滅させれば市民の勝ち、人狼と市民が同数になれば人狼の勝ち、と。

 市民側には様々な役職がある。人狼の殺しから誰か一人を守ることができる騎士、生きてるやつが市民か人狼かがわかる占い師、死んだやつが市民か人狼かがわかる霊能者、市民のくせに人狼側に与する狂人……それ以外にも狂信者にてるてるにパン屋に妖狐にエトセトラエトセトラ、一体いくつあるんだよこれ。つかてるてるって何?

 ただまあ……なるほど、概要を言えば、集団での頭脳ゲームか。

 俺の中学での生活を踏まえれば、知らなくても当然かもしれないな。

 それよりこの人狼ゲーム、少しこの試験に似ている気がする。

 集団の中から、人狼という嘘つきを見抜いて殺すゲーム。

 グループの中に潜む優待者という嘘つきを見抜いて報告する試験。

 ただ市民側は疑わしい人物を殺していき、最終的に人狼を全員殺せば勝ちというシステムだが、この試験は一度間違えればそこで多大なマイナスを受けて致命傷となる。

例えるなら、リーグ戦かトーナメント戦かの違い、といったところだ。

 

「速野くんはどう? 参加する?」

 

「……パスで」

 

 多少の興味は沸いたが、ちょっとルールの把握が追いつきそうにない。

 

「堀北さんは?」

 

 上林は堀北にも声をかけるが、誘いを受けた堀北は即答で首を横に振った。

 

「私も遠慮するわ。Aクラスの勝ち逃げを許しそうなこの状況で、ゲームに興じる気分にはなれない」

 

「でも、何か策は考えついたの?」

 

 それを言われると弱いだろうな。堀北は何も思いついていない。

 これはシンキングの試験であると最初に説明を受けたが、この試験、どれだけ考えたところで一人では何もできない。

 

「しーんとただ1時間過ごすよりさ、ゲームでもして過ごした方がよくない?」

 

「……とにかく、参加はしないわ」

 

「うーん、そっか。残念」

 

 意思は固そうだとみて、上林もあきらめたようだ。

 Aクラスと俺、堀北を除く7名は全員参加するようで、固まって楽しそうに話している。

 優待者である菊池も参加するのは一瞬どうかと思ったが、かといって変に止めれば他クラスに怪しまれる。

 それに……このグループに関しては、他のグループよりもバチバチに神経を尖らせる生徒は少ないだろう。

 ただ、堀北には折を見て菊池が優待者であることくらいは伝えておこう。

 明日にでも。

 

 

 

 

 

 1

 

 今日のディスカッションはなかなか賑やかだったな。

 人狼ゲームの根幹は議論タイム。そこで市民側は人狼と思しき怪しい人物を導き出し、人狼側は上手くそれを切り抜け、さらには自分以外の市民側の人間に疑いの目が向くように誘導する。そのためかなり活発な会話が繰り広げられていた。

 それを俺は「なるほどこういうふうに進めていくのか」と眺めていた。次やる機会がいつ訪れるかは分からないが、プレイ自体は多分もう問題なくできるだろう。

 そんな感じで振り返りながら、部屋で制服から私服に着替え、夕飯にありつくべく部屋を出る。

 

「おう、速野じゃねーか。飯か?」

 

 ドアを開けた瞬間、須藤と池が目の前を通り、そのうちの須藤が話しかけてきた。

 

「ん、ああ」

 

「なら一緒に食いに行かね? 俺たち、5階のラーメン行くところなんだけどさ」

 

 ラーメンか……まだ手出してなかったな。

 

「ああ。そうする」

 

「おし、じゃあ行こうぜ」

 

 すでに場所は把握しているらしく、船内の案内図も見ずに歩いていく二人。

 

「何回か食いに行ってんのか?」

 

「これで3回目だ。やっぱラーメンは基本だろ」

 

「そうなのか……」

 

 まあ、食べ盛りの男子はああいうガッツリしたものを好むんだろう。気持ちは分からないでもない。

 タイミングを見て、先ほどから気になっていることを尋ねる。

 

「そういえば山内はどうした? 一緒じゃないのか」

 

「ああ、なんかあいつ、最初の話し合いが終わって少ししてから妙に張り切っててさあ。絶対に優待者を見つけてやるんだああとか言って、今も部屋にこもって考え込んでるんだよ」

 

「へえ……なんかきっかけでもあったのか」

 

「詳しくは知らねえけど、なんかアドレスがどうとか独り言言ってたぜ。よくわかんねえ」

 

「アドレス……」

 

 ああ、なるほどね……。

 となると、ちょっと危ないかもしれない。

 

「不用意に優待者のメール送らないように見張っててくれ。送った瞬間に50のマイナスだからな。月5000が消えるぞ。月5000だぞ月5000」

 

 数字を明示して危機感をあおる。

 

「うお、なんか月5000って聞くと途端にやばく聞こえんな……ぜってー送らせんなよ寛治」

 

「お、俺かよ! お前も一緒に見張れよ健」

 

「分かってんよ」

 

 二人とも山内の回答を全く信用してないのには内心少しかわいそうになったが、まあとりあえずはこれで大丈夫か……。

 それからも雑談を続け、そしてくだんのラーメン屋に到着した。

 

「ここだぜ」

 

「おお……」

 

 入り口の前に立っただけではあるが、スープの出汁のいい匂いが漂ってくる。

 おそらくはここまで漂ってくるように空調の風向きなんかを調節して、集客しようとしてるんだろうけど……とはいえ、本能的に食欲をそそられてしまう。

 

「とっとと入っちまおうぜ。腹減って仕方ねえ」

 

「だな。行こうぜ行こうぜ」

 

 中に入ると、数人の生徒が麺をすすっているのが確認できた。

 ディスカッションが終わってから直接ここに来た生徒だろう。

 入り口のすぐそこに、俺の身長と同じくらいの高さの機械が置いてある。食券制ってやつか。

 須藤と池の二人は3度目の来店とあってメニューが頭に入っているのか、迷うことなく食券のボタンを押して注文していた。

 

「えーっと……」

 

 醤油に味噌に塩、それに魚介とんこつか、あらかたはそろってるな……へえ、つけ麺もあるのか。

 サイドメニューはライス、炒飯、餃子、小さめの丼ものにキムチなどの小鉢。

 餃子と炒飯は食ったしな……。

 

「おい早くしろよ速野」

 

「ちょっと待ってくれよ……お前らと違って来るの初めてなんだから……」

 

 ここは直感で……味噌野菜ラーメンの普通盛りと、チャーシュー丼のボタンを押して、店員に渡した。

 その後、10分ほどで頼んだものが揃い、ずずっと食べ始めた。

 

「ん……うまいな」

 

 あっさり感の強いスープと麺がよく合う。野菜の茹で時間は少なめでシャキッと歯ごたえが強く、スープの味を邪魔していない。

 池と須藤は喋りながら麺をすすっていたが、俺はその会話をBGMにしばらくラーメンを堪能していた。

 

「そういやよ速野」

 

 と、いきなり須藤に話しかけられる。

 

「ん?」

 

「いや、その……」

 

「……?」

 

 ごにょごにょと口ごもる須藤。らしくもない。

 

「どうしたんだよ」

 

「……ほ、堀北の様子、どんな感じなんだよ。お前、あいつと同じグループなんだよな!?」

 

 ……なるほどね、想い人の様子を聞くのを恥ずかしがったわけか。

 

「どう、って言われても……いつも通りなんじゃねえの。俺がわかる範囲では変わったことはない」

 

 基本的にずっとぶすっとして、不機嫌そうに座ってる。

 

「お、俺のこととか、なんか言ってなかったのかよ」

 

「いや、残念ながら一言も」

 

「……そうか」

 

 かなり落胆している様子だ。

 恋愛ってのは面倒だな……フォローしとくか。

 

「試験のことで頭がいっぱいなんだよ、今のあいつは。Aクラスが話し合い拒否しただろ?」

 

「あ、ああ、あいつら勝手なことしやがって……」

 

「まあ、そういうのもあって気が立ってるんだろ。俺も話しかけづらいし。そう落ち込むことでもないと思うぞ」

 

 と、一応嘘ではないことを言っておいた。

 

「……だな。俺はあきらめねえぞ鈴音!」

 

「おい健、食いながらしゃべるなよな! 汁が飛んでる!」

 

「っと、わりいわりい」

 

 そんなコントのようなやり取りが繰り広げられる。

 須藤の場合はちょっとくらい落ち込んでた方がいい、って気もしてたが……こいつにもじもじされると想像以上に違和感がすごくてむず痒い。

 いつも通りに戻ったようで、まあよかったか。

 と、そこで池が、思い出したように手を叩いて言った。

 

「そういや速野、松下がお前のこと聞いてきたんだよ」

 

「は? 松下?」

 

「そうそう」

 

 松下って……クラスメイトの松下だよな。確か須藤と池と、あと佐倉と同じグループGだったか。

 

「……なんて聞かれたんだ?」

 

「幸村のタイプか堀北のタイプかどっちに近いかって。マジで意味不じゃね? 聞き返したら、もういいって言われたけど」

 

「……そりゃ謎の質問だな」

 

「だろー? てか俺的には、幸村と堀北の違いもよくわかんねーしさ」

 

「あ? 全然違うだろーが」

 

 須藤がキレ気味に突っ込みを入れる。

 

「い、いやほら、二人とも成績いいけど、割といつも一人だし、あと態度もキツイとこあるじゃんか!」

 

「堀北の場合はそこが良いんだよ」

 

 いや、それはお前にとってはそうかもしれんが……お前の好みは聞いてない、と池の目が語っている。

 少し意外だったのは、池の幸村に対する印象だ。

 無人島試験の最初、ポイントを使わずに限界まで我慢するという一致した考え方で共闘していたが、それでも幸村はキツイ性格ってイメージなんだな。

 しかし理解はできる。短い時間ではあるが接してきて、幸村は学力で人を測る癖があることがわかった。そして学力が低い人間を見下してしまう。入学当初の堀北と同じだ。

 堀北は誰彼構わずキツイ感じだが、幸村に関しては、その見下されてるのを「キツく当たられている」と感じているんだろう。

 ただ松下の質問は、恐らくそういった性格面の話ではない気がする。

 わざわざ幸村と堀北を対比させたってことは……。

 

「なあ、お前それ本人に言うなとか言われなかったのか?」

 

「え? ……あ!」

 

「……お前な」

 

「その、黙っててくんね……?」

 

「別に言わねーよ……松下とは喋ったことすらないしな……」

 

 やっぱり、口止めを受けていたようだ。

 となると……。

 

「……聞かれたのが池でよかったか……」

 

「ん? なんか言ったか速野」

 

「いや……そろそろ腹も満たされてきたと思ってな」

 

「そうだな。もう食い終わったし、出よーぜ」

 

「ああ」

 

 ラーメンには満足できた。

 それに、たまにはこうやって誰かと食べるのもありなのかもしれないな。

 こうやって思わぬ情報を得ることもある。

 まあ、今はこんな些細なことに構っている心の余裕はないが……。

 

 

 

 

 

 2

 

 夕飯も食べ終わり、風呂や歯磨きなどを含めた寝支度も済ませた。

 時刻は夜11時すぎ。

 明日はディスカッションがない完全自由日のため、皆いつもより就寝時間は遅いだろう。

 しかし、こんな時間に船内の施設で開いているのは、地下にあるスタッフ用のバーくらい。酒以外も置いてるし、特段利用制限がなされているわけではないが、そうじゃなくてもそんなところに行く生徒はいない。入りづらい雰囲気だしな。

 起きていても、自分の部屋の中か、もしくは違う部屋の仲のいいグループで過ごしているか……男女で外に出て夜空を眺めているか。ま、そんなところだろう。

 そういったものとは到底無縁の俺ではあるが……しかし、俺もまだ就寝していない生徒のひとりではある。

 そして今いる場所は、三宅たちのいる自分の部屋ではなく……2階だ。

 そんな中、コツ、コツ、と足音が近づいてくる。

 

「お待たせ、速野くん」

 

 こちらに小さく手を振りながら、俺を見つけて少し小走りでこちらに来る女子生徒。

 俺の友人で、Aクラスの藤野麗那だ。

 ボブカットの綺麗な銀髪はまだ完全には乾ききっていない。少し前まで風呂に入っていたんだろう。

 今から1時間ほど前、俺は藤野に、話がしたいので会ってほしい、と連絡していた。

 少し長くなるかもしれないから、今から行く場所と合わせてその旨をルームメイトに伝えてくれ、ただし俺の名前は伏せて、とも。

 

「悪いな、急に」

 

「う、うん、それは全然いいよ。でも、なんで途中で集合場所を変更したの?」

 

 そう。俺は初め、落ち合う場所を船外のデッキと指定していた。

 しかし途中で変更し、この2階、現在特別試験で使用しているフロアに来てもらった。

 なぜわざわざそんなことをしたのか。

 

「俺とお前がここで会ってることを、誰にも知られないようにするためだ」

 

「え……?」

 

 少し驚きを見せる藤野。

 

「で、でも、それならそうと言ってくれれば、こっそり抜け出したのに……」

 

「こっそり抜け出したら、ルームメイトに怪しまれるだろ。今の時間、大体の生徒は自分の部屋で過ごしてるだろうしな。そしたらついて来られかねない」

 

「そ、そうかな……?」

 

「その可能性はでかい。特別試験の最中とはいえとんでもなく豪華なバカンス。そんな中、こんな夜遅い時間に一人でどこかに出かけるんだ。その様子を見た周りの人間が想起するイベントは一つ」

 

「……告白、だね」

 

「ああ。この船の中でも何組かカップルできてるみたいだし、高校1年生、特に女子はこの手の話題に敏感だろ」

 

「う、うん、それは確かに……」

 

 思い当たる節があるみたいだな。寝る前に恋バナしまくってるのか。

 

「野次馬根性でこっそりついてくる可能性、あると思わないか?」

 

「……あるね。ていうか、実際ついてきてたっぽいし……」

 

「……マジかよ」

 

 よかったー保険打っといて。

 

「でも、ついてきてたってことは、速野くんの作戦、外れてるんじゃ……」

 

「いやそうでもない。もちろん、その時点でついて来ないでくれるのが本望ではあるが……船のデッキって、星も海も見えて、告白スポットとしては絶好の場所だろ?」

 

「うん。何人かそこで告白したって話は聞いてるよ」

 

「だろうな。だから船のデッキに呼び出されたとなれば、ついていきたくもなる」

 

「え、ってことは、船のデッキに行くことをルームメイトに伝えて、わざとついて来させたってこと?」

 

 その通り。

 

「ちょっと話が読めてこないんだけど……速野くんは、ついてきてほしくなかったんだよね?」

 

「ああ、もちろん。だからその次に場所を変更してもらったんだ。告白するのに絶好スポットである船外デッキで誰にも会わず、船内に戻っていくお前の姿を見て、ついてきた奴は『告白じゃないんじゃないか』って思うだろ?」

 

「っ、なるほど、そういうことだったんだ……!」

 

 藤野にも全部理解できたようだな。

 

「ああ。一瞬でも告白じゃない可能性がよぎったら、それに引っ張られるようにして思い出すはず。告白するにしてもされるにしても、こっそり出ていくはずなのに、わざわざ場所を伝えてきたこと。そしてお前の表情に告白直前の独特の緊張感が全くなかったことも」

 

 藤野は、自分が俺に告白されるなんて考えてもないだろうしな。

 

「そしたら興味を失って、おとなしく自分の部屋に戻る……」

 

「ああ。少なくとも、何としてもこの目で見たいっていう思いから、何があったかは後で部屋で聞けばいいか、って程度にはな。最初に野次馬がついてきてたとしても、それで人払いはできると踏んでた」

 

「……」

 

 呆気に取られている様子だ。

 俺がここまで手の込んだ仕掛けをすること———いや、できることを、藤野は多少気がかりに思うだろうが……そんなことは、この後すぐに問題ですらなくなる。

 

「じゃあ、入ってくれ」

 

「え? 入るって……」

 

「ここだ」

 

 俺は2階のI室のドアを開け、中に藤野を招き入れた。

 

「え、どうして開いてるの……?」

 

「鍵を借りて俺が開けたからだ。忘れ物したから貸してくれって頼んだら、割とすんなりな」

 

 試験中何度も通るから分かるが、このフロアの部屋はかなり防音がしっかりしている。

 この船の中で最も密会に適した場所は、実はここだろう。

 

「電気つけたら窓から光が漏れて怪しまれるから、ここは月明かりで我慢してくれ」

 

「う、うん」

 

 今夜は快晴で、十五夜が近いこともあって光量としては申し分ない。

 ……さて、本題に入るか。

 

「お前を今日ここに呼んだ用件、いくつかあるんだが……まず最初に話したいのは、一か月くらい前、須藤の暴力事件に関してのことだ」

 

「ああ、あの件だね。結局Cクラス側が訴えを取り下げて、Dクラスは事なきを得たって聞いたけど……」

 

「ああ」

 

 事態はなんとか収束したが、正直危なかった。

 

「お前はあのとき、俺に情報をくれたよな。石崎は中学の頃、問題行動が多かったって」

 

「うん。そうだって耳にしたから……」

 

「それが変なんだよ、どう考えても」

 

「……え?」

 

「Bクラスの生徒に確認したら、ホームルームで伝えられたのは『Dクラスの須藤とCクラスの3人が喧嘩になった』ってことだけだった。つまり、Cクラス側の人間が具体的に誰だったかなんて、説明されてなかったんだ」

 

 Dクラスへも同じく、事件の概要は「須藤とCクラスの3人」という説明の仕方だった。これは学校側として、全クラスで統一した説明口上だったんだろう。あの時点ではCクラスの3人は単なる被害者の可能性が高かったし、学校側としてはいたずらに被害者の名前を晒すのは避ける。それに事件現場の目撃者を探す目的なら、普段から粗暴で、悪い意味で目立ちまくっていた須藤の名前を出すだけで事足りるという判断を下すのも自然な流れだ。

 にもかかわらず、藤野は石崎がCクラス側のひとりであるということを知っていた。つまり藤野は、この事件に関して不自然に詳しすぎるということになる。

 

「一体どこで知ったんだ? 須藤とやり合ったCクラス側3人のうちの1人が石崎だったなんて」

 

 問うと、藤野は顎に手をやって考え込む仕草を見せる。

 

「それは……えっと、誰だったかな。Dクラスの誰かから聞いた気がするんだけど……」

 

「それが最も自然な可能性だろうな。でも藤野、お前あの時こうも言ってたよな。この事件に関しては、真嶋先生が全体発表で話していた内容以外は知らないって」

 

「……」

 

 黙りこむが、否定はしない藤野。

 

「……Dクラスの誰かに聞いたってのが嘘で、当然ながら先生から説明を受けたわけでもない。となると残りの可能性は……藤野、お前は……」

 

「……」

 

「……事件の一部始終をその目で見た目撃者だった、ってことじゃないのか」

 

 1か月前から、ずっと疑問に思い続けていたこと。

 それに対する決定的な答えを口にした。

 しばらくの間続いた沈黙を破ったのは、諦めを含んだ藤野のため息だった。

 

「……分かっちゃったか。うん、速野くんの言う通り、私は事件の目撃者だった。と言っても、私が見たのは事件そのものじゃなく、その直前だったんだけどね。石崎くんたちが『絶対に自分たちから須藤に手を出すな』とか、『絶対に失敗するなよ』とか話してたのを聞いてたの」

 

 その会話の内容で、須藤の暴力事件がCクラス側によって仕組まれていたものだってことは分かったわけか。

 

「やっぱりそうだったんだな」

 

「うん。……ごめんね、黙ってて」

 

「結果的にDクラスに損害はなかったし、証言するかは自由だからな」

 

「そう言ってもらえると、ちょっと心にゆとりができるけど……じゃあ、さ。私がなんで黙ってたかも、分かったりするかな?」

 

 それに関しても、俺は大方の予想がついていた。

 通常、目撃者であることを黙る理由は、そのほとんどが巻き込まれたくないから、関わり合いになりたくないからといったものだろう。最初に佐倉が目撃者として名乗り出なかったのもそれが理由だった。

 しかし藤野は違う。もし本当に巻き込まれたくないなら、石崎のことを俺に話すはずがない。

 仮に、何も話さないのは罪悪感があるから、それを緩和するためにそうしたのだとしても、ならば最初に須藤と喧嘩したCクラスの3人は誰だったのかを俺に聞いて、そこから石崎の名前を引き出してから、石崎の中学時代の素行の話を伝えればいいだけだ。それなら変に疑われることもなかった。

 さらに、だ。

 俺がさっき、事件に関して真嶋先生が言ってた以上のことは知らない、という藤野のセリフを持ちだしたとき、それを受けた藤野はいくらでも言い逃れることができた。そんなこと言ってない、記憶違いだろう、と。何しろ1か月も前のことだし、録音といった物証があるわけでもない。一方が否定すれば言った言わないの水掛け論になり、どちらが事実かを客観的に示すことはできなくなる。

 それにそもそもの話、あの時藤野がこんなセリフをわざわざ口に出してなければ、石崎のことはDクラスの誰かしらから聞いたことにできたはず。

 つまり藤野は、単に面倒だからとか、そういう理由で目撃者だったことを知られたくなかったわけじゃない。

 自身の発言、行動の中に意図的に矛盾を作り出し、俺に違和感を抱かせた。

 いや……。

 

「……俺が違和感を抱き、答えにたどり着けるかどうかを試してた、ってところか」

 

 俺の核心的な一言で、藤野の表情が苦笑に変わる。

 

「……すごい……なんでも分かっちゃうんだね、速野くん……」

 

 

 

 

 

 3

 

 一番初めのきっかけは、5月の頭。藤野が俺にクラスのことを相談した際に受けた、俺からのアドバイスだったそうだ。

 

 

「藤野。突飛な発想だが……」

 

『聞かせてほしい』

 

「……もしどうしようもない時は、自分で三つ目の勢力を作る、ってのも手だと思う」

 

『…………』

 

「……悪い、やっぱりちょっとぶっ飛びすぎてるな。今のは忘れてくれ」

 

『……ううん、なんか話しててすごいスッキリした。ありがとね、真剣に考えてくれて』

 

 

「実は、速野くんにこのアドバイスを受ける前から考えてはいたの。坂柳さんにも葛城くんにもつかないなら、自分で派閥を作るしかないのかもって……」

 

「……そうだったのか」

 

「でも、勇気が持てなかった。だから速野くんに相談して……そしたら、私の考えと全く同じことを言われちゃって。これはもう、やるしかないなって」

 

「なるほどな……」

 

「だから今、Aクラスには葛城くん、坂柳さんとは別の3つ目の勢力があって、私はそこに入ってる。今まで中立だった人たちも、多くはそのグループだよ。もちろん、葛城くんと坂柳さんにはそのことは知られてない」

 

「そうか……」

 

 さらっと言ってるが、これはそんな簡単なことじゃない。

 ただでさえ葛城と坂柳のどっちにつくか決めかねている人間に、新しく第3の選択肢を与え、そして仲間に引き入れるなんて……こいつの人徳のなせる業なんだろうが、一体クラスメイトからどれほどの厚い信頼を持たれているのか。櫛田や一之瀬に匹敵……下手すりゃそれ以上だぞこれは。

 

「お前は……Aクラスの台頭を狙ってるのか?」

 

 聞くと、藤野は首を横に振った。

 

「ううん、私にそんな力はないよ。でも、葛城くん派と坂柳さん派、両方の失脚を狙っているっていう点では、クーデターを企ててるって言い方が正しいかも」

 

「両方の失脚……」

 

「私の見立てでは……たぶん、葛城くんは坂柳さんには勝てないと思う」

 

「……それってのは、Aクラスには、葛城のような慎重な考え方を持ってる人間より、坂柳のような積極的な考え方を持ってる人間の方が多いってことか?」

 

「ううん、それは違うよ。むしろ、Sシステムの裏が説明されてからしばらくの間は、葛城くんの派閥が優位だったくらい……」

 

「なら……」

 

「単純な話だよ。葛城くんには、ちょっときつい言い方になるかもしれないけど……格が違う、と思う。もちろん、葛城くんもとても優秀だよ? でも坂柳さんは多分、立ってるステージそのものが違う」

 

 真剣なまなざしで語っていることが、月明かりに照らされた藤野の顔で分かる。

 

「じゃあ、いずれ葛城派は失脚して、坂柳が台頭するのか」

 

「たぶんね。事実、葛城くんは無人島で失態を犯し、求心力を急速に失ってる。もちろんこの特別試験では、皆表面上葛城くんに従ってるけどね。ほかに先頭に立てる人がいないから……。あの結果だと、多分Dクラス、というより、速野くんは気づいてるよね。葛城くんがCクラスと繋がってたこと」

 

 もはや、お互いに隠しても仕方がないところまで来てる感じだな。

 

「ああ。Cクラスの様子を見に行った時、釣竿や保存食とか、豪遊してすぐにリタイアするクラスには不要なものまで揃えられてたからな。それで気づいた」

 

 俺も素直に答える。

 

「Aクラスは、Cクラスから200ポイント分の物資と、各クラスのリーダー情報の提供の見返りに、Aクラスの全生徒から龍園くんに、卒業まで毎月2万のプライベートポイントを譲渡する契約を結んだの」

 

「……プライベートポイントを……しかも、その言い方だと龍園個人にか」

 

 となると龍園は、毎月80万もの膨大なポイントを得ることになる……。

 

「そんな契約を結んでたのか……」

 

 あの時、清水と森重が「月7万の返済」という条件で渋い顔をしたのは、こういった理由もあってのことだったか……。

 

「うん。でも、私は無人島の試験が始まってすぐ、Aクラスの勝利はないって確信した。今のAクラスの状況だと、必ず内部から裏切り者が出ちゃうから……」

 

「……リーダー情報が流れる、ってことか」

 

 それでリーダーは当てられ、マイナス50ポイント。せっかくいいスポットを手に入れて大量に貯めたボーナスポイントもパーになる。

 そして後に残るのは、卒業まで延々と続く毎月2万の支払い。

 葛城が勢いを失うのは必然ってことか。

 

「うん。まあ、裏切り者によってリーダー情報が漏れたCクラスは失格になって予想は外れたけど……今度は、Dクラスに自力で見破られちゃってたみたいだから、数値の上では、一周回って私が当初思ってた通りの結果になった」

 

 藤野は最初から、Aクラス……葛城が失態によって勢力を落とすことを見越してたのか……。

 

「そのうえで、何もしなかったんだな。正直、お前のAクラスの中での影響力がこれほどとは思ってなかった……お前なら、変更後のリーダーをクラス内にすら知られずに、ボーナスポイントを守ることもできそうだ。でも、葛城の失脚を狙ってそうしなかった」

 

「うん……そういうことになるね」

 

 つまりあの試験のカギを握ってたのは、実は藤野だったってことか。

 こいつの動き方によっては、Aクラスは倍以上のポイントを保持し、逆にDクラスはリーダー当ての50ポイントを得られていなかったかもしれないわけだ。

 

「一つ聞きたいんだが……坂柳って、そんなにすごいのか」

 

 その問いに、藤野は間髪入れずに頷いた。

 

「うん。私はもちろん……葛城くんでも、多分足元にも及ばない」

 

「お前や葛城でもか……」

 

「……うん」

 

「それで……俺が、坂柳を降ろすための協力者として相応しいかどうかを見極めるために、こんな回りくどいことを……」

 

 その問いにも、こくりと頷いた。 

 

「……都合のいい、勝手なお願いだってことはわかってるけど……でも、お願い。私に協力してほしい」

 

 いつになく、表情は真剣だ。

 

「……それはつまり、試験の合格通知って意味か?」

 

「そんな上から目線なこと、もう絶対に言えないよ……私自身、速野くんを試したのは後悔してるもん」

 

「……」

 

 恐らくその藤野の後悔の念が、俺たちの間になんとも言えない気まずさを生み、一時期連絡が途絶えることに繋がったんだろう。

 

「……俺とお前とじゃ学級が違う。この学校のシステム上、藤野の派閥に協力することで、俺が不利益を被ることだってあり得るんじゃないか?」

 

「だったら、それ以上の見返りを私たちが用意する。もし速野くんが見返りに納得できなかったら協力しなくてもいい。それに、クラスを裏切れ、なんて頼んだりしないよ。少なくとも速野くんがDクラスにいる間は、Dクラスのマイナスになるようなことは絶対しないって約束する。……プラスの要素を奪っちゃうことは、あるかもしれないけど」

 

 例えば今の船上試験で例えるなら、Dクラスの優待者が分かっても指名しない、とかそういうことを言いたいんだろう。

 

「それから、これは個人的な望みになっちゃうんだけどね……」

 

 そう前置きして、藤野が言った。

 

「私ね……速野くんと同じクラスで卒業したいって思ってるの。もちろんこれは私が勝手に思ってることだから、速野くんが気にする必要はないんだけど……速野くんが、私たちとの協力を通して2000万ポイント貯められたら、その時は私たちのクラスに来てほしい」

 

 今ここで協力すると言っても、その都度見返りに納得できなければ協力しないという選択肢も取れる。内容の自由度は高い。デメリットといえば、Dクラスが獲得するはずだったプラスがなくなってしまう可能性があることだが、その場合は、さらに大きい見返りで相殺するか、Dクラスの利益も損なわない方法を考えればいい。要は俺次第ということだ。

 恐らく藤野の言っていることは信じていいだろう。

 ……いや、たとえ罠が仕掛けられていたとしても、俺は……。

 

「……分かった。協力する方向でいく」

 

「ほんとに!?」

 

「ああ。ただ、俺は自分の利益を最優先させてもらう。貯めたポイントをクラス異動に使うかどうかも、俺の判断で決めさせてくれ。その条件が呑めるなら……」

 

「もちろん。速野くんに無理強いすることだけは絶対にないよ」

 

「分かった」

 

 こうして、ここに俺と藤野の協定が成立した。

 

「……藤野。早速なんだが質問がある。グループIの生徒の中に、お前の派閥の人間はいるか?」

 

「え? う、うん。琴美ちゃんがそうだよ」

 

 和田か……やっぱりそうか。

 手間が省けて都合がいい。

 

「なら藤野、一つ頼みがある」

 

「頼み?」

 

「ああ。だがその前に……」

 

 そう前置きし、俺があることを口にすると……藤野の顔は、驚愕の色に染まった。

 

 

 

 

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