実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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終わりは突然に

 特別試験開始から3日目。

 今日はディスカッションが行われない、完全自由日となっている。

 どういった意図で学校側がこんな日を設けたのかは正確には分からないが……少なくとも、この日を使って最終日に向けての作戦を立てろ、と言っていることだけは明白だ。

 それくらいは少し考えればすぐにわかることだ。

 だからこそ、クラスの中心人物……いや、決してそうとは言えない生徒も、試験最終日のディスカッションでどういった戦い方をするか、それを思案するつもりだったはずだ。

 しかし、そんな生徒たちの意識は、学校側からのあるメールによって一瞬そらされることになる。

 

『グループGの試験が終了いたしました。グループGの方は以降の試験に参加する必要はありません。他のグループの妨げにならないよう、注意して行動してください』

 

 メールの受信時刻は午前5時半ごろ。生徒は全員部屋にいたはず。さらにルームメイトが寝ていることを確認してから裏切り者がメールを送ったとすれば、誰が送ったかの目星を付けることすら難しいだろうな。

 

「グループGっていえば……須藤や佐倉のいるグループか」

 

 状況把握のために話を聞いておきたい。

 須藤や池の話は、2人には悪いが正直少し参考になりにくい。かといって松下とは全く接点がない。

 聞くとすれば……佐倉しかいないか。

 俺はチャットで佐倉に、試験終了の件で話を聞きたいとメッセージを送った。

 意外にもメッセージ送信から10秒と開けずに既読が付き、返信が来た。

 

『今ちょうど綾小路くんにも同じことを頼まれたから、二人で一緒に来てもらうことって、できるかな』

 

 おっと、綾小路と行動が丸被りだったか……。返信が早かったのは、綾小路とやり取りしていてチャットアプリを開いてたからか。

 

『わかった。綾小路と連絡とって合流する』

 

 佐倉にはそう返信し、そのまま綾小路にメッセージを送る。

 

『佐倉に話聞くんだってな。俺も同じだから合流したい』

 

 今度は1分弱の間が開いて既読が付き、返信が来る。

 

『わかった』

 

 その後、連絡を取り合って綾小路と合流。そこからは綾小路と佐倉の間で連絡を取り、3人が集まった。

 

「悪いな佐倉、急に呼び出して」

 

「ううん、その、私も急に試験が終わっちゃって、不安だったから……」

 

 本当に戸惑っている様子でそう言う佐倉。

 佐倉と会うのは、なんだかんだで結構久しぶりだな。無人島試験の最終日以来か。

 

「佐倉のグループの優待者について、何か分かったことはあったか? もしくは、お前自身が優待者ってことは……」

 

 そう問うが、佐倉はそれを真っ向から否定するように首を横に振った。

 

「私は優待者じゃなかったよ。ただ、誰が優待者かについては、全然……ごめんね」

 

「いや、謝ることじゃい。それが分からないのはオレたちも同じだ」

 

 そう言って安心させる綾小路。

 

「ほか三人の様子はどうだったんだ? 裏切る素振りとかあったか?」

 

 それに対しても、佐倉は首を横に振る。

 

「ディスカッション中に見てた限りだと、そんなことはなかったと思う……でも、それ以外の時間は分からないから……」

 

「……そうか」

 

 ディスカッションでは特に変わった様子はなく、突然裏切りが起こったってわけか……。

 

「Aクラスはどうだった? 噂には聞いてると思うが……やっぱり話し合いには参加してなかったか?」

 

「うん。ほんとに全然話す気がない、って感じだったよ……」

 

 まあ、それはそうだろうな。藤野も言っていた通り、坂柳派の生徒もこの試験では表立っては葛城の策には逆らわない。

 だが、優待者メールの送信はどうだ。誰が送ったかが全く分からない以上、表立っての反逆にはならない。葛城派をさらに失脚させるために、適当にメールを送ってAクラスにマイナスをつけた可能性も否定はできない。

 だが、藤野の話によれば葛城派はすでに求心力をかなり失っている。放っておいても葛城派は失脚し、坂柳が台頭することはほぼ確実。そんな状態で迎えたこの試験で、わざわざ50のマイナスをつけることに果たして意味はあるのか。

 もう一つの可能性は、Cクラス。

 だが……龍園の話によれば、Cクラスは優待者の法則を看破することを目指していたはず。つまり勝負をかけるとすれば、それは法則を見破ったとき。そしてその時は一気に片を付けるはずだ。グループGの1つだけを裏切るというのはおかしな話だ。

 決め手に欠ける。どちらのクラスにももっともらしい理由があり、それを否定する材料も同時にある。今そろっている材料だけでは判断することはできない。

 試験結果でポイント増減が明らかにされれば、特定できるかもしれないが。

 今はDクラスが裏切ったわけではなさそうだ、ということが分かっただけでもよしとしておくべきだろう。Dクラスの優待者が見破られたという可能性は、このグループに限って言えば『絶対にあり得ない』。

 

「話してくれて助かった。ありがとう佐倉」

 

「う、うん。こんな私でも、役に立ててよかった……」

 

 ほっと胸をなでおろす佐倉。

 

「この前みたいに、相談事があったらいつでもオレに伝えてくれ。できる限り力になる」

 

「ありがとう綾小路くん。速野くんも、またねっ」

 

「ああ」

 

 小さく手を振り、立ち去っていく佐倉を見届けてから、俺は綾小路に向き直る。

 

「……佐倉から何か相談受けてたのか?」

 

「ああ。グループのメンバーがきつくて憂鬱だ、と相談を受けた」

 

「なるほど……須藤に池に松下、佐倉の気が滅入るのも仕方ないか」

 

 堀北と同じグループになった俺は、ある面では幸運といえるのかもしれないな。

 

「順調に佐倉の信頼を得ていっているようで何よりだ」

 

「そう誘導したのはお前だろ。佐倉本人から聞いたぞ。これからはオレを頼れって、お前から佐倉に進言したらしいな」

 

 あら、話伝わってたか。なら正直に答えよう。

 

「まあな……。須藤の暴力事件の時、佐倉に証言台に登ってもらうためにはそう言う方がより確実だと思ったんだ」

 

 それがあったからこそ……と言えるほどの影響があったかはかなり疑問だが、結果としては佐倉の証言のおかげで再審となり、Dクラスは事なきを得たのだ。結果オーライ結果オーライ。

 

「話も聞けたし……俺はまた用事があるからもう行くが、お前はどうする?」

 

「特にこれと言って用事はないが、ちょっと地下の方をぶらつこうと思ってる。あんまり行けてないからな」

 

「地下か。何階だ?」

 

 何の変哲もないこの質問に答えるのには少し不自然な間があったことを、俺は見逃さなかった。

 

「いや、特には決めてない」

 

「そうか。なら途中まで一緒に行くか。俺も行き先は地下なんだよ」

 

「そういうことなら、いいぞ。ちなみに何階なんだ?」

 

「2階だ」

 

「そうか」

 

 同意を取り、二人で地下へと足を運ぶ。

 さっきの間……本当に地下何階に行くかを決めていないなら、あんな間は生まれない。

 こいつ、地下で一体何をするつもりなのか。

 

 

 

 

 

 1

 

 綾小路と地下1階で別れた俺は、地下2階にある演劇鑑賞スペースに来ていた。

 昨日映画を観た際にこの近くを通ったものの、演劇を観るのはもちろんこのバカンスで初めてのことだ。

 掲示の注意書きに従い、携帯の電源を切って中に足を踏み入れる。

 椅子は50席ほどが用意されており、観客は現在のところ俺を含めて7名のようだ。

 

「……まだか」

 

 俺は用意された席のうち、出入り口から最も遠く、且つ斜めからの鑑賞になってしまう一番人気の低い席に腰かけた。

 そして出入り口に注意深く目を向けること数分。

 目当ての人物が入ってきた。

 声は出さず、手を振り上げて自分がここにいることを伝えると、その人物も俺の視認に成功したようで、こちらに歩いてくる。

 

「悪いな急に」

 

「ええ、本当に正気か疑ったわ。話さなきゃいけないことがあるから演劇スペースに来いなんて……」

 

 俺の目当ての人物とは、何を隠そう堀北鈴音である。

 演劇鑑賞という場であるためにこの空間は通常より暗がりではあるが、堀北が不機嫌であることはプンプン伝わってくる。

 

「それで、手短に済ませてくれるかしら。劇が始まってしまうわ。その前にここを出ないと……」

 

 そう言って急かす堀北。

 どうやら、大きな勘違いがあるらしいな。

 

「いや、俺は演劇中に伝えるんだよ。だからお前もこの劇を観ることになる」

 

 そう伝えると、あまりに衝撃的過ぎてか、堀北の体が硬直する。

 

「……冗談でしょう」

 

「いやマジだよ。ほら、もうあと1分でトイレ除いて原則入退室不可になるぞ」

 

「なっ……」

 

 もう迷っている時間はない。決断するなら今しかないという状況。

 演劇鑑賞か、この場からの逃走か。

 堀北が選んだのは……前者だった。

 観念したように、俺の隣の席に腰かける。

 と同時に、俺の足を思いっきり踏んづけてきた。

 

「んゔうゔっ……!!!!」

 

 叫び声を何とか我慢する。

 い、痛すぎる……こいつなんちゅーことを……足先の爪のところ的確に踏みやがって。確実に内出血だ。下手すりゃ爪割れてるぞこれ。

 

「お前な……!」

 

「あら、ごみを踏んだかと思ったらあなたの足だったのね。ごめんなさい」

 

「……」

 

 こいつ……いま龍園以上にむかついたぞ。

 騙し討ちみたいな真似になったのは悪いと思ってるが、明らかに負った傷が釣り合ってないだろうがこれは。

 いってえ……

 と、そんな俺の悲惨な状況をよそに、演劇が幕を開けた。

 題目は『オペラ座の怪人』。

 この作品に触れるのは俺自身初めてのことで、右足の爪が痛くて、実のところ痛くて割と楽しみにしていたりするいってえなマジで!

 

「……」

 

 ……ちょっとあまりにも痛すぎるので、できるだけ音をたてないように靴を脱ぎ、患部をさすって痛みを誤魔化す。

 ふう……少しはマシになったか……。

 まだまだ痛いことに変わりはないが、先ほどのように思考の途中に割り込んでくるほどではなくなった。

 この空間には時計がなく、今どれくらい経過したかは分からないが、ストーリーの進行は起承転結の承に差し掛かったあたりくらいか。

 そろそろか、と思い、声を潜めて堀北に話しかける。

 

「結構見入ってるところ悪いが……話すぞ」

 

 かなり小さい声だが、隣にいる堀北には十分聞こえる大きさだ。

 

「……何」

 

 堀北の方も努めて小さい声で返答する。

 お互いにこの声量なら、他の誰かの耳に入ることもない。

 そう確信し、俺は一つの事実を口にする。

 

「……菊池は優待者だ」

 

「っ……!」

 

 驚きを隠しきれず、思わずこちらに顔を向けてしまう堀北。

 しかしすぐに舞台の方に向き直る。

 

「……それは確かなことなの?」

 

「……ああ。一昨日の夜、平田から聞いた」

 

「……なぜもっと早く言わないの」

 

「……タイミングも場所もなかったからだ」

 

「……まあいいわ。他に平田くんに名乗り出た優待者は?」

 

「……グループAの南と、グループKの櫛田だ」

 

「……あと一人足りないわね」

 

「……平田から聞かされたのは、今の3人だけだ」

 

「……そう。わかったわ。それで、それを聞いていたあなたは法則を掴めたのかしら」

 

「……無茶言うな。サンプルが3つじゃ厳しすぎる」

 

「……それもそうね」

 

「……取り敢えず、当初報告する予定だったのはこれだけだ」

 

「……当初? ……ほかにも何かあるというの?」

 

「……さっき、グループGの試験が終わったことについて、佐倉に話を聞いてきた」

 

「……それで?」

 

「……聞いた限りでは、Dクラスの生徒が裏切った可能性は薄い」

 

「……優待者がDクラスにいて、それを見破られた可能性は?」

 

「……完全に否定はできないが、グループGのDクラス生は池、須藤、佐倉、松下だ。佐倉は優待者じゃないと言ってたし、もしそうでも綾小路あたりには名乗り出そうだ。それ以外も、松下なら平田に、須藤ならお前に、池なら須藤を介してやっぱりお前に、それぞれ名乗り出ると考えられる」

 

「……なぜ須藤くんが私に名乗り出るかは分からないけれど……そうね、その4人なら、確かにクラスにまで隠し通している可能性は低いといえそうね……」

 

「……ああ。だからグループGの結果が3と4のどちらであれ、俺たちがマイナスを被る可能性はかなり低いとみていい」

 

「……そうね」

 

「……これで報告は終わりだ」

 

「……わかったわ」

 

 言うべきことを言い終え、それ以降はお互いに演劇鑑賞に興じた。

 

 

 

 

 

 2

 

 上演が終了し、係員の案内に従って鑑賞スペースを出る俺たち。

 ……いや、よかった。演劇。マジで。

 こういう機会でもないと触れることさえなかったであろう世界。今日ここに来たのは間違いなく正解だった。

 隣を歩く堀北も、恐らくは同じように感じているだろう。相変わらず表情はぶすっとしているが、初めここに入ってきたときにはあった不機嫌さが消えている。少なくとも不満ということはないようだ。

 

「さて、電源つけるか……」

 

 ボタンを長押しし、端末の電源をつける。

 そんな時、俺はちょっとした違和感に気付いた。

 

「……なあ、なんかやけに騒がしくないか」

 

「……そうね。何かあったのかしら」

 

 そう、フロア全体が不自然にざわついているのだ。

 もともと地下1階~3階は娯楽施設が集まっているフロアということもあって、地上階よりも騒がしいことは騒がしい。

 しかし、それを加味してもおかしいと感じた。俺だけでなく堀北も感じたというのだから、程度の甚だしさがわかるだろう。

 それに、生徒一人一人の表情を見てみると、何かトラブルでも発生したかのような、そんな不安を感じさせるものだった。

 

「あ! 堀北さんと速野くん、こんなところにいた!」

 

 そんな中、その声とともに一人の男子生徒がこちらに駆け寄ってくるのを視認した。

 Dクラスの沖谷。この船における俺のルームメイトでもある生徒だ。

 

「どうかしたか沖谷」

 

「や、やっぱり……二人とも連絡が取れないって聞いてたけど、知らないんだね!」

 

 かなり必死に探し回っていたようで、息を切らしながら必死で言葉を紡いでいる。

 

「あ、ああ。さっきまで端末の電源切ってたから……」

 

「それで沖谷くん、何が起こったというの? そんなに焦って」

 

「本当に大変なんだ! 二人ともメールを見て!」

 

「メール……?」

 

 言われるがまま、メールの受信フォルダを確認する。

 するとそこには、あまりにも衝撃的な内容のメールが受信されていた。

 

「そこにも書いてあるけど……グループIの試験が終了したんだ!」

 

「なっ……!」

 

「ど、どういうこと……!?」

 

 俺も堀北も驚きを隠せない。

 それも、つい先ほど菊池が優待者だという話をしたところというのもあり、その動揺、焦燥は頂点に達していた。

 そのせいかは分からないが、堀北は疑惑の目を俺に向けてきた。

 

「……あなたまさか」

 

 それに関しては即座に否定する。

 

「待て待て、お前俺が今まで端末の電源消してたの見てただろ。演劇スペース内は電源オフなんだから。そんな状態でどうやってメール送るんだよ」

 

「……そう、よね」

 

 冷静に考えれば、俺がメールを送って試験が終わったわけではないことはすぐに分かる。

 

「……平田から話したいってメッセージが来てる。とりあえず俺は平田のところ行ってくるからな」

 

「え、ええ……」

 

 少し顔色がよろしくない堀北を置いて、俺は男子の宿泊部屋がある3階へ向かった。

 ここまでグループE,グループGと試験終了になったが、次に自分のグループの試験が終了するとは微塵も思っていなかったようで、堀北は半ば放心状態になっていた。

 まあ、致し方ないことなのかもしれない。

 この試験が裏切り者によって終わる場合……ほぼ例外なく、その時は突然やってくるのだ。

 

『グループIの試験が終了いたしました。グループIの方は以降の試験に参加する必要はありません。他のグループの妨げにならないよう、注意して行動してください』

 

 メールの受信時刻は、演劇の真っ最中である11時ちょうど。

「……予定通りだな」

 

 

 

 

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