実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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それぞれの思い

 グループIの試験が終了したという話は、俺と堀北が演劇鑑賞で外界との連絡を絶っている間に全生徒に駆け巡った。

 その件に関して、平田と話し合うことに。

 演劇スペースのある地下2階から、急ぎ足で平田の部屋へ向かう。

 ドアの前に立ってノックすると、すぐに平田がドアを開けて迎え入れてくれる。

 

「速野くん」

 

「おう……」

 

「まあ、入って。立ち話もなんだしね」

 

「分かった」

 

 促されるまま部屋に入る。

 中には平田のほかにも幸村、そしてグループIの優待者である菊池もいた。

 以前2度来た時に座ったのと同じ椅子に腰かける。

 菊池とは丸テーブルをはさんで向かい合う形になったが、二人とも体はベッドに座る平田と幸村の方を向いているため、対面とは少し違う感じだ。

 早速平田が口を開く。

 

「君が来る前に菊池くんからも話は聞いたけど、あえて同じことを速野くんにも聞くよ。菊池くんが優待者であることを見破られてしまった可能性はある?」

 

 まずは一番の懸念点を聞いてくる。

 自クラスに優待者がいるグループで試験が終了したとなれば、一番気になるのはその点だろう。

 

「俺の肌感覚で構わないなら……菊池がそうだと悟られるような失言はなかった、と思う。ところどころ疑問を抱いたとしても、裏切るに足るほどの材料をディスカッションの場で揃えられたとは思えない」

 

「だ、だよな! 大丈夫だよな!」

 

「ああ……」

 

「ふう……な? 言っただろ幸村」

 

 俺の証言もあり、ひとまずは自分のミスではないことが証明されてほっと胸を撫でおろす菊池。俺が来る前、幸村にだいぶ強く詰め寄られたらしいな。

 

「いや、まあ……もちろん絶対とは言い切れないが……」

 

「お、おい!」

 

「お前の発言を一字一句聞いて覚えてるわけじゃないし……」

 

 狼狽えている菊池には悪いが、一応こう言って保険をかけておく。

 

「でも、見破られた可能性は低い、と考えていいんだね」

 

「ああ。可能性の話ならそう考えていいと思う」

 

 ああは言ったものの、少なくとも、菊池の様子から見破られた可能性は限りなくゼロに近いと言っていい。

 

「可能性の話なら、もう一つあるだろ」

 

 幸村が俺に鋭い視線を向けつつ、そう言う。

 

「なんだよその可能性って」

 

「このグループIが特殊グループで、Dクラスの誰かが3人の名前を書いて裏切った可能性だ」

 

 ……仕方のないことではあるが、かなり疑心暗鬼になってるな、幸村は。

 幸村の疑問は、平田がすぐに否定した。

 

「それだけはないんじゃないかな。優待者である菊池くんに回答権はないし、速野くんと堀北さんは試験が終了した瞬間は演劇スペースにいて、端末の電源を切ってたんだ。だからこそ初めは連絡がつかず、話を聞くのが遅れたわけだしね」

 平田は理路整然とした説明で、俺たちの裏切りの不可能性を説く。

 

「……そうだったな。悪い」

 

「いや、分かってくれたならいい」

 

 俺にも堀北にも完璧なアリバイがある。

 堀北も一瞬俺に疑いの目を向けてきたが、俺の無実である証拠を目撃したのは堀北自身。疑うことしかできないどころか、疑うことすらできない状況だ。

 

「でも、演劇スペースで何してたんだ?」

 

 些細なことも気になるのか、幸村が質問してくる。

 

「普通に二人で演劇鑑賞、とは思わなかったのか」

 

「いや……別にそれならそれでいいんだが」

 

 まあ、幸村の疑問も分からないではない。俺も堀北も、演劇を見るにしても一人で行くだろうと思われているはずだ。そして実際それは当たっている。事情がなければあんな場所に誘ったりはしない。

 

「……さすがに冗談だ。ただ見に行ったわけじゃない。堀北に、平田から聞いてた優待者の件と、早朝にグループGの試験が終わった件について聞いた話を報告してたんだ。あそこなら誰かに聞かれる心配もないと思ってな」

 

「……そうだったか」

 

 幸村もそれで納得したようだ。

まあ本当のことだし、これ以上勘繰られてもこっちが困る。

 

「でもこうなると、特殊グループがグループIである可能性は低くなったとみていいね」

 

 そう平田が言った。何か一つの結論に達したようだ。

 

「え、どうしてだ?」

 

 菊池が尋ねる。幸村も理解するには至っていないようで、平田に視線で疑問を投げかける。

 

「もしグループIが特殊グループだった場合、少なくとも菊池くんが見破られていない状態で、Dクラス以外の誰かが3人の名前をメールで送った可能性が高いことになる。けどそれはおかしなことだ。確信を持てない人物の名前は書かないのが自然だよね。間違えればその分マイナスを受けてしまうから」

 

「そっか……確かに」

 

「このグループが特殊グループなら、試験は続行してるはずってことか」

 

「うん、そう考えるのが自然だと思う」

 

 平田の言う通り、可能性としてはそっちの方が高い。

 しかし、俺はここであえて違う説を唱えることにした。

 

「いや、でもそうとも限らないんじゃないか。もしかしたら、何らかの方法でこのグループが特殊グループであることを見破った人間がやみくもに3人の名前を送った可能性もある」

 

「え?」

 

「でも、そんなことをしたらクラスポイントが……」

 

「ああ。でも、クラスポイントなんかより、目の前のプライベートポイントの方に目がくらんだ人間がいたとしたら……」

 

「っ、そういうことか……」

 

 幸村は理解するに至ったようだ。

 

「説明してもらえないかな、幸村くん」

 

「ああ、速野が言ってるのは、単純に期待値計算の話だ。だよな?」

 

 その問いに俺は頷く。

 

「特殊グループの説明に、プライベートポイントのマイナスはされない、って書いてあっただろ? つまり、クラスポイントを無視すれば、優待者を適当に指名してもそいつにとって損はないってことだ。計算したら分かるが、3人を適当に指名しても、大体4分の1弱の確率でそいつには50万ポイント以上が転がり込んでくる」

 

 さすがにこのあたりの数字に強い幸村。一瞬で確率計算を組み立てたようだ。

 計算上、3人を適当に指名して得られるプライベートポイントの期待値は16万ポイント強。クラスポイントを無視すれば、という条件は入るが、それができる人間にとっては賭けに出ないほうがおかしい勝負なのだ。

 

「なるほど……確かに、そういう考え方もできるね」

 

「そして、俺たちは3分の1の確率でそのとばっちりを食って、50クラスポイントのマイナスだ……」

 

 最悪の事態を想像して頭を抱える幸村。

 そんな幸村の肩に手を置き、諭すように平田が言う。

 

「幸村くん、あまり思いつめすぎるのはよくないよ。これに限らず、今まで出た話も全て『その可能性もある』ってだけだし、それにもしそうだとしても、確率としては3分の2で50ポイントのプラスだよね。こう考えればポジティブに捉えることもできる」

 

「それはそうだが……」

 

「グループIがどんな結果になっても、言ってしまえばすでに終わったことだ。僕らにはもうどうすることもできない。そんなことで心を乱しても、明日のディスカッションに悪影響が出てしまうだけだ。だから焦ることはないよ」

 

「……そう、だな」

 

 まだ幸村のグループの試験は終わっていない。

 すでにどうすることもできない過去にばかり気を取られて、今やるべきことを見失ってしまうのは愚かなことだ。

 

「二人とも、試験お疲れ様。あとは僕らが頑張るよ」

 

「あ、ああ。頼むぜ」

 

「うん」

 

 それでこの場は解散となり、俺と菊池はそれぞれの部屋に戻った。

 いろんな可能性が唱えられ、検証もされたが……平田にしても幸村にしても、見落としている可能性が一つある。

 だが、指摘することはなかった。気づいていないなら気づいていないで、こちらにとっては好都合だからだ。

 俺が指摘しなくても不自然な部分はない。平田にも思い至らなかった可能性に俺が思い至らなくても当然だろう。

 

 

 

 

 

 1

 

 平田の部屋を出た後、俺は次に堀北から呼び出を受けていた。

 12時に演劇スペースを出てから怒涛の展開で昼食を食べそびれたため、そのついででいいなら、ということで了承した。

 ただ一方で向こうはすでに昼食を済ませたらしく、行くならカフェにしろと言われた。なのでまたあのカフェを使うことになる。これで3度目だ。

 その場所に赴くと、すでに堀北が到着してコーヒーを飲んでいるのを確認したため、その席に行って堀北に向かい合うようにして座る。

 

「……待たせたな」

 

「ええ。5分待ったわ」

 

「……そすか」

 

 別に謝りはしない。平田の部屋から最短ルートで来たのだから、俺が責められる謂れはない。

 ……ない、はずなんだけどな。一体全体なんでこいつは俺を責めるような口調なんだ。生まれつきか。

 新たな来客にウェイターが気づき、俺にメニューを渡してくる。

 以前と同じウェイターだった。

 

「ご注文お決まりになりましたら、お申し付けください。いつもご利用ありがとうございます」

 

「あ、ああ……どうも」

 

 どうやらウェイターも俺の顔を覚えていたらしく、去り際にそんな一言を添えてくれた。

 

「……頻繁に利用しているの? ここ」

 

 そこに疑問を覚えた堀北が聞いてくる。

 

「いや、頻繁って程じゃないが、三度目だ。顔覚えられてたっぽいな」

 

「……そう。まあいいわ。それで、平田くんと話してどういった結論に至ったの?」

 

「別に、目新しい話はなかったぞ。全部お前が思いつく範囲のことだったと思う」

 

 実際そうだろう。試験終了の報告を受けてすぐはこいつもかなり焦っていたが、昼食も挟んだようだし、冷静になって考える時間はあったはず。

 菊池が見破られた可能性は高くないこと。

特殊グループだった可能性はあるものの、Dクラスがメールを送った可能性はあり得ないこと。他クラスがメールを送っていたとしても、確率的にDクラスがマイナスになる可能性は低いこと。

これら全て、堀北なら一度通った思考の道だろう。

 

「まあ結論としては、終わったことを気にしても仕方がないから試験に集中しよう、ってことになったけどな。平田たちはまだ試験続いてるわけだし、当然と言えば当然の結論だが」

 

「……そうね」

 

 そんな、少し弱弱しい声が返ってきた。

 先ほどから妙に堀北の反応が鈍い。

 

「……何か腑に落ちないことでもあるのか?」

 

 気になったので直接質問する。

 すると堀北は、こちらに強い視線を向けて口を開いた。

 

「……気がかりなのはあなたの行動よ、速野くん」

 

「は? ……俺?」

 

「……私は前回の無人島試験での行動を受けて、あなたのこの試験での行動を疑っていた。今回も何かしでかすんじゃないかとね。そしてあなたが所属したグループで裏切りが起こり、でもあなたが裏切っていないというアリバイ証人が私……都合が良すぎないかしら」

 

「いや、そんなこと言われても……裏切りが起こる時間なんて予測できるわけないだろ。俺があの場所を指定したのだって、話を誰にも聞かれないためにはどこがいいのかってのを考えてのことだし……お前もそれは納得済みで、演劇スペースに来たんだろ?」

 

「それは、そうなのだけれど……」

 

「そんなことで疑惑をかけられても困るぞ。偶然以外に説明のしようがない。お前いずれ、俺とお前が同じグループに振り分けられたことすら怪しむんじゃないのか」

 

「話をそらさないでくれるかしら」

 

「そらしてねえわ。……つまり俺から言えることはだな、あんなの偶然以外の何物でもないってことだ。俺だって、演劇見て終わったら試験まで終わってた、なんて驚いたに決まってるだろ」

 

「……」

 

 偶然で片づけられているものに疑いをかけるのは、別に悪いことじゃない。

 しかし、偶然で片づけられていることにも理由がある。

 その理由を解き明かさない限り、疑いは永遠に疑いのまま。

 偶然で片づけた側は、偶然だと言い張るのみだ。

 話がひと段落したことを感じ、俺は手を挙げてウェイターを呼び寄せる。

 

「お伺いいたします」

 

「パスタセットで……パンかライスの選択はパン、紅茶かコーヒーは紅茶、デザートは……バナナタルトで」

 

「かしこまりました。少々お待ちください。メニューおさげいたします」

 俺の注文を記録し、立ち去っていくウェイター。

 再び二人になり、今度は俺から話を振る。

 

「それで……どうだ堀北。前回の試験と今回の試験、総合して、一番クラスの役に立ってるのは誰だと思う? あいつは除いて」

 

 俺や綾小路はひとまず度外視して、誰が最もクラスに貢献したか。

 

「……何が言いたいの?」

 

「いいから答えてみろよ」

 

「……平田くん、でしょうね」

 

 平田のことを信用していないとは言いつつも、その功績や実力はちゃんと認めているようだ。

 無人島で、Dクラスが一つの学級としての体をなして試験に挑むことができたのは、ひとえに平田の功績だ。

 それに今回も、優待者やアルファベットなど、有用な情報を集めたのは平田だ。

 

「翻って、自分はどうだ。1学期に役立たずだと思ってたDクラスの人材より活躍できたと、胸を張って言えるか?」

 

 これは特に無人島試験で顕著だ。

 Dクラスがベースキャンプにした川のスポットを見つけたのは、堀北が一時「退学した方がいい」とまで宣った須藤、池、山内の三人だ。

 池の持っていたキャンプ知識で、食料などの面でDクラスの消費ポイントを抑えることもできた。

 しかし堀北は、まあ体調を崩していたというのもあるが……そう言った面での活躍はまったくと言っていいほどできなかっただろう。その点に自覚がないわけではあるまい。

 

「……だから、それが何だというの」

 

「お前もそろそろ、Aクラスに上がるためには、お前自身が『クラスの一員』として協力していくことの必要性をいやでも分からせられたんじゃないかと思ってな」

 

 先ほど「そう言った面での活躍ができなかった」と言ったが、別にそれはそれで必ずしもダメなことというわけじゃない。適材適所という言葉があるように、こいつの得意分野は別にあるだろうからな。

 しかし適材適所が通用するのは、その集団内でしっかりと協力体制が取られている場合に限る。

 そうでないと、適材も何もないだろう。一人で生きている人間の材は自分しかないのだから。

 

「……この夏休みの二つの試験で、自分一人では何もできないことを実感させられたことは否定しないわ」

 

「なら」

 

「話はこれで終わりよ。私は戻るから」

 

「あ、おいちょっと……」

 

 俺が制止する間もなく、堀北は席を立ち店を出て行ってしまった。

 

「……あともう一押しか」

 

 逆に言うと、これでもまだ一押し足りないということになるわけだが。

 まああいつもあいつで、今まで貫いてきた生き方ってものがあるんだろう。

 それがここでは通用しないことを受け入れるのは、それなりに辛いものがあるだろうからな。

 

 

 

 

 

 2

 

 夕食の時間。

 俺は、自分と同じく試験が終わった組である須藤と池とともに夕食を食べていた。

 なんの巡り合わせか、この二人と二日続けて夕食を共にすることになるとは……。

 今日はラーメンではなく、ビュッフェをやっている洋食レストランに来ている。

 

「まさかお前のところまで試験終わっちまうなんてな」

 

「まあな……本当に突然終わるんだな。……お前らもびっくりしただろ」

 

「そりゃそうだぜー。朝起きたらいきなりだもんな」

 

「裏切った奴に心当たりとかねーのかよ」

 

「ああ……全く。堀北も最初はかなり混乱してたよ」

 

 というより、俺たちDクラスに限らず、そのほかのグループIの「ほぼ」全員が混乱していただろう。

 あのグループは、初めからどんなことがあろうと誰も裏切るつもりはなかっただろうしな。

 

「……つか、そんなことよりよ、俺はお前に聞きたいことがあんだよ」

 

「……?」

 

 目を伏せてそう言う須藤。

 ジュースが入っていたグラスを飲み干し、それをガン、とテーブルにたたきつけて、俺を睨みつける。

 その音に驚いた池は体を跳ねさせるが、それにも構わず須藤は俺の肩を掴んで言う。

 

「……聞いたぜ速野。お前、試験が終わったとき、堀北と二人で演劇見てたらしいじゃねえか!」

 

「あー……」

 

 なるほど、そういう怒りだったか……。

 

「いや、まあ確かにそれは事実だが……」

 

 ったく、これ説明するの今日で何回目だ……?

 俺はひとまず須藤をなだめ、周りには聞こえないよう小さい声で返答する。

 

「……あの時、グループの試験が終わるなんて知らなかったからな。試験について話し合うために会ってたんだよ」

 

「んなら、あんな場所じゃなくても……」

 

「ああいう場所だからいいんだよ。皆作品に集中してて、こうやって小さい声で話しとけば、周りからは何言ってるか聞こえないからな。この試験、話し合いを持つにしても、他クラスには秘密にしといたほうがいい内容が多いのはお前も分かるだろ?」

 

「あ、ああ……」

 

「それだけのことだ。だから安心しろ須藤。それに、これ見てみろ」

 

「あ?」

 

 俺は履いていたスリッパを脱ぎ、素足を晒す。

 普段は学校から持参した上履きを履いているが、風呂を終えるなどしてもうやることが残り少なくなると、スリッパに履き替える生徒が多いのだ。

 

「うおっ、お前なんだそれ……」

 

 それを見て須藤が驚く。

 右足の爪が、内出血によって赤黒く変色しているのだ。中々にグロテスクな光景だ。

 

「堀北に足踏んづけられたんだよ。俺に誘われたのが相当むかついたらしくてな。でも試験の話だからって嫌々誘いに乗ったんだ。これがその証拠だ」

 

「お、おっかねー……」

 

 池が軽く引いている。

 対して、須藤はそれを見て何か考え込む所作を見せ、少し間をおいてからうんと頷いた。

 

「……わあったよ。信じてやる」

 

「そりゃよかった……」

 

 恒常的な痛みはずいぶん前に消えているが、足先に力を入れると痛むため、踏ん張ることができない。そこそこの傷を負ったものの……まあ、よしとするか。いやよくはないけどな。

 

「……っと、料理切れた。ちょっと取ってくる」

 

「おう」

 

 そう断りを入れ、料理が置かれているスペースに移動する。

 スパゲッティ……これはボンゴレビアンコか。それが目に留まり、トングで皿に盛りつける。

 すると、その隣に一人の体格のいい男が立っているのに気づく。

 

「……葛城」

 

「速野か」

 

 葛城もここで夕食をとっているようだ。

 しかし、俺を見る葛城の表情は渋い。

 

「正直、あまりお前と話したくはない」

 

「……は?」

 

「無人島で、お前とは2度会話を交わしたが……あれは2度とも、俺の思考を誘導するためのものだったのだろう。リーダー入れ替えの可能性に気付かせ、堀北の名前をリーダー指名の際に書かせないため。そしてもう一つ、内部にある不安要素を煽り、俺たちにリーダー指名をさせないため。それに加え、例の件に関してもその一環なのだろう」

 

 例の件、とは、恐らく清水と森重から伝え聞いていたであろう契約のことか。

 誘導されていたこと自体には気づいてたんだな。

 

「……それで、今回も誘導されるんじゃないかと考えてるわけか」

 

「……」

 

 悔しさからか、口を噛み締めている葛城。

 

「……安心してくれ。今回は別に堀北から何か指示受けてるわけでもないし、てか、俺と堀北のグループが既に試験終わってるの、お前も知ってるだろ?」

 

「……ああ。だが、堀北とお前への警戒を解くことはない」

 

「一度してやられた他クラスの生徒に対しての警戒を解け、なんて言う方が無理な話だ。そんなことは言わない。会話したくないなら俺が離れる」

 

 そう言って、俺は隣にあったピザを一切れ皿にのせ、その場を離れようとした。

 

「俺の作戦について、何か言ってくると思っていたんだがな」

 

 葛城のそんな言葉で、俺は足を止める。

 ……なんだ、探りを入れてきたのか。

 

「……そりゃ俺だってやめてほしいとは思ったよ。でもそんなこともう何度も何度も言われてきたんだろ? 一之瀬や……それに直接聞いたわけじゃないが、堀北本人からだって接触があったんじゃないか? それで変わってないなら、俺が何言ったって無駄だろ。じゃあな」

 

 それだけ言って、俺は今度こそトレイを持ってその場を離れた。

 無人島での件、結構根に持たれてるみたいだな。当然と言えば当然のことではあるんだが。

 俺が何言っても無駄というのは、まるっきり嘘というわけでもない。

 無人島において葛城への誘導が効いたのは、それが「事実」に基づいていたからだ。

 リーダーの入れ替えという、葛城と龍園の思惑を完全に打ち破ることのできる解決策が存在する「事実」。

 葛城が内部に不安要素を抱えているという「事実」。

 しかしこの試験では、そういった誘導のもとになるような「事実」がない。

 さらに言えば葛城は俺のことを警戒しきっている。

 その警戒心を逆に利用して、俺が「いい作戦だと思う」なんて言ったら、少しは可能性が出てくるかもしれないが……それでも、0が0.01になる程度のもの。作戦を変えることはないだろう。

 そもそも、俺は葛城の作戦を変えたいとは全く思っていない。

 なら動く理由もない。それだけのことだ。

 

 

 

 

 

 3

 

 池と須藤と別れ、自室に戻っている最中。

 持っていた端末にメッセージが入った。

 

「綾小路……?」

 

 内容は呼び出し。

 今から屋内階段に来てくれ、と。

 

「……なんだ?」

 

 特に断る理由もないので、了承のメッセージを返す。

 屋内階段は今歩いている方向とは逆方向にあるため、Uターンすることになる。

 そこに着いて少ししてから、綾小路がやってきた。

 

「……もういたのか」

 

「ちょうど廊下にいたときにメッセージが来たからな。そのまま向かったんだ」

 

「いま時間は大丈夫か」

 

「……まあ、後は歯磨いて寝るだけだから」

 

 てか、そういうのはメッセージ送る段階で確認しとくことなんじゃないのか……。

 

「少し話せないか」

 

「話す? ……って、何を?」

 

「それを言う前に場所を移したいんだが、いいか」

 

「……ああ」

 

 周りに聞かれたくない話をするようだ。

 人払いができる場所に心当たりがあるのか、迷った様子もなく船を歩いていく綾小路。

 その背中についていき、たどり着いたのは船首だった。

 ここには光源がなく、夜に来るにはあまりにも暗い。

 ここなら誰かに話を聞かれる可能性も低いってわけか。

 

「で、なんなんだよ話って」

 

「協力してほしいことがある」

 

 急な申し出だ。

 

「協力……?」

 

「そうだ。試験に勝つために」

 

「……」

 

 こいつからこんなセリフが飛び出すとは……。

 さすがに気になる。

 

「……お前、無人島の時から変だぞ。前々からなんだかんだ言って裏からDクラスを助けてはきてたが、こんなに積極的じゃなかっただろ」

 

「まあ、意識が変わったんだ」

 

 うわあ、こんなにわかりやすい嘘もなかなかないぞ。

 

「嘘だな。こうやって動かざるを得ない事情が何かあるんだろ。まだ何か隠すつもりか」

 

 ちなみにだが、綾小路が暗躍していることに関しては、俺が反論の余地もない状況に追いやって強制的に認めさせた。

 無人島試験6日目のあの時、キーカードをわざと落っことしたこと。山内に頼んで堀北を泥だらけにさせたこと。

 これらのことで綾小路の狙いを看破した俺は、伊吹が堀北からキーカードを盗み出す場面をデジカメで撮影した後、次に綾小路の動向を追っていた。カードを持った伊吹が、Dクラスのベースキャンプから抜け出しやすくなる状況を何らかの形で作ると踏んでいたからだ。まさかマニュアルに火を放つとは思わなかったが……驚きつつも、俺はその様子もデジカメに収め、森に入っていった綾小路を捕まえ、映像を見せた。

 それすらも「出来心だった」で誤魔化そうとしたのには笑ってしまったけどな。放火よりも暗躍の方がバレるのが嫌なんて、こいつの中の優先順位はどうなってるんだと。

 しかし、葛城にリーダー入れ替えの可能性を悟らせたことを告げると、ついに認めた。

 まあ、それはこいつの作戦の総崩れを意味していたからな。認めなければDクラスの躍進はない。もはやこれまでと思ったんだろう。

 

「どうなんだよ」

 

 念を押すように、改めて問う。

 

「……事情はある。だが詮索はするな」

 

「……」

 

 綾小路の雰囲気が変わるのを直感的に感じた。

 殺気にも似た凄みが綾小路から溢れ出る。

 なるほどね……アンタッチャブルな場所だったか。

 

「……わかったよ」

 

「タダで協力してくれとは言わない。ポイントを払う用意はある」

 

「いや、お前そんなにポイント持ってないだろ。それにお前への協力の対価を安いポイントで済ませるのは勿体ない。貸し一つにしてくれ」

 

「……わかった」

 

「ただ、まだ協力するとは言ってないぞ。内容を聞いてから決める。俺に何をしてほしいんだ?」

 

「そんなに難しいことじゃないんだけどな」

 

 綾小路の頼みは、至極単純なもの。

 それでいて、確かにDクラスの勝利へと近づけるものだった。

 

「なるほど……わかった。それでいいなら協力する」

 

「助かる」

 

 綾小路がこんな作戦を立て、そして俺にこんな協力を頼んだってことは……グループLの優待者はDクラスにいることに気付いたんだな。

 でもそうだとすると、気がかりなことがある。

 この作戦のためには、綾小路とその優待者が協力し合っている必要がある。まあそれに関しては、平田が間を取り持ったと考えれば説明はつく。

 もう一つ。誰が優待者かってことは、恐らく平田から直接聞いたんだろう。

腑に落ちないのは、なんで平田はそんなことを綾小路に話したのか。

 俺や幸村がいる中では秘密にしていたのに……。

 

 

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