実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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第4.5巻
本当の夏休み~贈り物~


 一癖や二癖どころではないバカンスが終わり、俺たち1年生は高度育成高等学校の敷地内に戻ってきた。そこからすでに四日ほどが経過している。

 バカンス、なんて言ったが、その実態はバカンスとは程遠いものだった。

 もちろん、使用された船「スペランツァ」はとてつもなく豪華だったが、2週間のバカンスのうち1週間は船ではなく、無人島での過酷な生活を余儀なくされ、もう1週間は船上にはいたものの、その半分以上は特別試験のことで頭が埋め尽くされ、のんびりクルージングを堪能するような余裕もなかった。

 そういったこともあり、この2週間でバカンスどころか、俺たちは心身ともに疲労を蓄積させる結果となった。

 寮の自室に帰り、ベッドにダイブした時のあの何とも言えない安心感。決して高そうな布団でもないのに、どんな高級マットレスに勝るとも劣らない最高の寝心地だ。空腹が最高のスパイスであるのと同様、疲労は最高の睡眠導入剤というべきか。その日は結局電気を消すのも忘れたまま爆睡してしまった。

 そんな色々あったバカンスだったが、俺にも手に入れることのできたものがある。

 一つは大量のプライベートポイント。

 まずは無人島で結んだ契約により、200万。ただ、現状受け取ったのはまだ60万。残りの140万は……まあ、のちに、ということで。

 そして優待者当てで100万、和田から100万で計200万。

 総計で260万ものプライベートポイントが、9月になれば俺の端末に入ってくる。これはかなり大きい。

 そして次に、平田の信用と、それに伴うクラスとのパイプ。

 俺が個人で動くには限界があることを思い知らされた。無人島試験はまだしも……船での特別試験、もしあの時平田との円滑な協力関係がなければ、おそらく俺は優待者の法則にたどり着くことはできなかっただろう。クラスの中枢の情報を、すべてではないにしろ、手に入れられるルートを確保できた。

 もう一つは、藤野との協力関係。

 俺は藤野に対しては純粋に協力するつもりだ。ただ、それへの見返りと言ってはなんだが、藤野もある程度は俺に協力してくれるだろう。そうなれば、多少やりやすくなることもこれから出てくるはずだ。

 バカンスで得られた収穫は大きく分けるとこの3つか。

 そして俺はこの夏休み、また新たな収穫を手に入れるために行動することにした。

 

 

 

 

 

 1

 

「……あっちーなもう……」

 

 思わず、そんなうんざりした声が出てしまう。

 南中時刻を過ぎ、日が傾き始めているとはいえ、今も変わらず太陽の光は俺めがけて容赦なく注がれ、その影響で体は熱気に包まれている。

 寮から学校までの道のりは時間にして10分ほどだが、ちょっと外に出ただけで俺の体は汗だく。これから時間をかけて歩くと思うと気が滅入って仕方がない。

 そんな感情の中でえっちらおっちら歩いていると、寮を出てすぐのところで見知った顔を発見する。

 

「……綾小路?」

 

「速野。どうしたんだこんなところで」

 

「いや……それはこの炎天下でこんなところに突っ立ってるお前にこそぶつけられるべき質問なんじゃねえの」

 

 誰かを待っているなら……寮のロビーは知らない女子たちに占領されてたから厳しいとしても、それなら時間ギリギリまで部屋で待つなり、そうでなくてもどこか室内にいればいい。この学校の屋内施設は、基本的に空調設備が整っているからな。普通はそうするだろう。

 少なくとも、目的地がこんな場所であるとは全く考えられない。

 寮から出てすぐのところ。ここにあるのは並木だけで、特段これといった施設もない。

 この場所の特徴と言えば……寮に出入りする人を、学年問わずに把握できる点くらいだが……。

 

「こっちは何というか……野暮用だ」

 

「なんだ野暮用って」

 

「本当に説明するまでもないことだ」

 

「そんな言われ方したら気になるだろ」

 

 そうは言ったものの……恐らく本当に大したことではないのだろう、と察する。少なくともこいつにとっては。

 

「そんなことより、お前の方こそ制服着て何してるんだ」

 

 やはりその点を突っ込まれる。

 夏休みというのは学習指導要領の外。そのため学校指定の服装をしている生徒は滅多にいない。

 そのため、制服を着て敷地内を歩いている生徒がいるとすれば、そいつの目的地は一つ。

 制服以外での立ち入りが禁止されている、校舎内だ。

 

「ん? ああ、学校に忘れ物を取りにな」

 

 俺は適当にそう答えた。もちろん嘘だ。

 実を言うと、先ほど綾小路の言った野暮用が本当に当人にとって大したことないと断じた根拠はこれだ。

 本当に大した用なら、今の俺のように適当に辻褄合わせの嘘をつくだろうからな。

 そう判断し、俺はこの場を離れることにする。

 

「……まあ、こんなクソあっついところでこれ以上話したくない。学校行ってくる」

 

「ああ。またな」

 

 綾小路に別れを告げ、校舎へと向かう道を歩く。

 その道中、何人かとすれ違うが、みんな俺の制服というなりに好奇の視線を向けてきた。

 まあ、仕方ないことだ。みんな少しでも涼しい気分になるようにと考えて服を選んでいるのに、そんな中で制服、しかも長袖の、さらに言えばあんな赤いブレザーとくれば嫌でも目立つ。

 そしてそれはこちらから見ても同様だ。

 俺は、自分と同じく制服に身を包んだ男女二人組を視認する。

 男の方は俺に気が付いたようで、足を止めてこちらに目を向けてくる。

 こっちに来いと言われているようだ。

 まあ今から俺が通るつもりだった進路にいるし、言われなくても行かざるを得ないんだが……。

 お互いの声が届く距離にまで近づくと、まず口を開いたのは男の方……堀北学生徒会長だった。

 

「久しぶりだな」

 

「どうも……」

 

「あなたは確か……須藤くんの暴力事件の際に、Dクラスの陣営にいた速野くんですね」

 

 俺の顔を見て、思い出すようにそう言うのは女子生徒の方。こちらは確か橘茜という書記を務める生徒会役員だったはずだ。

 そちらにも軽く会釈をして答える。

 一通りの挨拶を終えたタイミングを見計らい、堀北会長はふっと薄笑いを浮かべて俺に語り掛ける。

 

「こちらにも、お前たちの特別試験の結果の報告が上がってきた」

 

「はあ……」

 

「無人島での試験結果は驚くべきものだな。4クラス中2クラスが200ポイント以上を記録し、1位はDクラス。そして残りのクラスの中の1クラスは失格。誰も予想だにしなかっただろう」

 

「まあ、俺たちなりに頑張ったので……ただ、まさか泥棒が出るとは思いもよりませんでしたよ。万が一盗まれるとしても、何というかこう、盗んだのすら気づかないような些細なものくらいしかないだろうと思ってましたんで」

 

「盗まれたのはキーカードだったな」

 

「え、そうなんですか。てっきり下着泥棒のことかと……」

 

「その件も把握はしているが、Cクラスが失格扱いとなった直接の要因はキーカードを盗んだことだ。お前が知らないわけはないだろう。お前が無人島でかなり大胆に動き回ったことは把握している」

 

 おいおいそこまで報告するのか学校側は。情報漏洩どころの話じゃねーぞ。

 

「ああ、まあ、堀北……会長の妹さんの手となり足となり、いろいろ働かされましたよ」

 

「あくまで作戦は鈴音が考えたものだ、と」

 

「少なくとも俺はそう聞かされてますけど。現にあいつから指示受けましたし」

 

「キーカードを盗まれながらあの高得点……ここからは直接聞かなくても、Dクラスがとった戦略はおのずと見えてくる」

 

 なんと生徒会長には試験の全容が見えているという。

 ……この人ならあり得ない話じゃないな。

 

「だがその戦略を思いつくことは、今の鈴音には不可能だ」

 

「そう決めつけてやるのはちょっと気の毒なんじゃ……?」

 

「仮にも兄妹である以上、力量は正確に把握できている。そのうえで言っていることだ」

 

 一見妹に冷たい兄貴という図だが、実のところそうではない。

 会長は妹にとても大きな期待を抱いている。言い回しからそれがありありと伝わってくる。

 あえて突き放したような言い方や接し方をしているのはもしかしたら……。

 と、そこまで考えていると、会長が口を開く。

 

「立ち話もなんだ。この続きは応接室で話そう」

 

「え、か、会長?」

 

 橘書記の方は、会長が俺にそう提案したことに驚きを隠しきれないようす。

 だが、これは会長のちょっとした冗談だ。

 

「今から面談の予定が入っているはずでは……?」

 

 動揺を見せる橘書記に対し、会長は薄く笑って答える。

 

「問題ない。その面談の相手というのが、この速野なんだからな」

 

「え、えええっ!?」

 

 そう、俺がわざわざ制服を着て学校に出向いたのは、この人を交えての話し合いのためだ。

 

「そろそろ時間だ。行くぞ」

 

「そうですね」

 

 そう言って校舎に向かって歩いていく俺たちに対し、橘書記は不思議そうなまなざしを向けてくる。

 さっきの会話にも、あまりついていけていない様子だった。

 3年Aクラスである以上しっかりとした実力を持ってはいるんだろうけどな。

 

「あの、一つ聞いてもいいですか速野くん?」

 

「……なんでしょう」

 

 その橘書記から話しかけられる。

 

「君は、その、Dクラスなんですよね?」

 

「……まごうことなきDクラス配属ですけど」

 

 だからなんだってんだ。別に大して負い目を感じているわけじゃないが、そこ弄ってくる気か。

 

「その、不満はないんですか? 私はこの言葉はあまり好きではないですが、不良品と揶揄されるクラスですし……」

 

「ああ……」

 

 なんだそんなことか。

 

「大してないですよ。俺は自分が不良品だという自覚があるんで」

 

「……そうなんですか? 君は学力も非常に高いですし、Cクラスとの話し合いから察するに知性も感じられます。コミュニケーション力は少々改善の余地があると思いますが、それでもDクラスに配属されるほどとは……」

 

「知性とかはよく知りませんけど、学力だけじゃ不良品の烙印からは逃れられないってことで納得のいく話ではあります。俺や堀北以外にも幸村や王、高円寺といった生徒がDクラスにはいますし。それにその疑問は、俺よりも平田や櫛田に対してふさわしいものでしょう」

 

 二人とも学力もコミュニケーション力も優秀だ。

 その二人についての疑問ということであれば、俺も同意だ。なんでDクラスなのか全くわからない。

 

「それに俺は、元々進学就職の特権にはさして興味なかったですし」

 

「興味がない……珍しい生徒ですね」

 

「そうですか? まあ確かに魅力的な特権ではありますけど、みんながみんなそれを強く望んでここに来たとは限らないでしょう」

 

 先ほど話に出た堀北なんてまさにその最たる例だ。

 あいつがAクラスにこだわりを見せているのは、特権が目的じゃない。

 あれは……そう、無人島試験6日目の深夜。

 息も絶え絶えといった様子のあいつは、それでも俺の質問に対してはっきりと答えた。

 Aクラスに上がるのは、兄……堀北学に認めてもらうためだと。

 この学校に来たのも、その兄を追いかけるためだと。

 

「では、あなたはどうしてこの学校に来たんですか?」

 

「シンプルに言えば、金がかからないからですよ。本当にそれだけが目的でここに来たと言っても過言じゃないです」

 

 もちろん進学率、就職率100パーセントというのもたいそうなうたい文句ではあるが、それを差し引いても入学金、授業料タダというのも十分に魅力的な要素だ。

 

「だから今強いて不満があるとすれば、こんな暑い中でも制服を着なきゃいけないことくらいです」

 

「あはは、そうなんですか……君は親孝行ですね」

 

「……そりゃどうも」

 

 素直にそう答えておいた。

 親孝行、か。

 まあ確かに、俺は俺を育ててくれた人たちに感謝してるし、そんな人たちに金銭的負担をかけたくないと思っていたのは事実だ。

 ただ……俺には自覚がある。自分がとんでもない親不孝者であると。

 

 

 

 

 

 2

 

 それから30分ほど後のこと。

 面談を終えた俺は、校舎内を会長と橘書記の二人とともに歩いていた。

 

「速野、今日の面談で改めて実感した。生徒会に入らないか?」

 

「え、か、会長!?」

 

「いや、あの、謹んでお断りします……」

 

「あ、あなたも即答で断っちゃうの!?」

 

 さっきから橘書記が賑やかしにしかなっていない。この人実はそういうキャラなんだろうか。天然、というか。

 

「お前は生徒会に入るにふさわしい実力を持っている」

 

「そういうのは無理です。部活動説明会の時に言っていたような心意気なんて持ってないですし。それに何より、この面談のあとでそれを誘いますかね……? 『特例』を認めてもらうわけにもいかないんでしょう?」

 

「あ、そ、そっか……」

 

 橘書記も俺の言いたいことに理解が及んだようだ。

 

「いや、認めてやらないこともない」

 

「……マジですか」

 

 会長の答えは想定外だった。

 そこまでして、一体何を……。

 

「……会長が認めてくれても、次の生徒会長がそれを継続してくれるかの保証はないですよね。会長の任期、もうそんなに長くないでしょう? やっぱりお断りします」

 

「そうか、残念だ。その次の生徒会長のことで、お前の力を借りたかったんだがな」

 

「それって、南雲くんのことですよね?」

 

 南雲? おそらく人物名だろうが、知らない名前だ。

 次期生徒会長候補なのか。

 

「ああ。俺が生徒会長の座から降り、この学校を去った後、その時の生徒会長によってこの学校のシステムは大きく変わることが予想される。それも望まない方向にな」

 

「心配は分かりますけど、私には、彼が悪い学校づくりをするようには思えないんですが……」

 

 そう言った事情に疎い俺は、先ほどから会話についていけていないのだが……要するに、次期生徒会長に不穏な動きがあって、それを現会長の堀北先輩が警戒してる、と、そいうことでいいのか?

 

「政争、という理解でいいですかね。そのための人材を欲しがっていると。それにしては時期がちょっと遅すぎるんじゃ……?」

 

 もう3か月もしないうちにこの人は生徒会長を引退する。任期の75パーセントを消化しきっている現状では……。

 

「耳の痛い話だが、もっともな指摘だ。派閥づくりを怠っていた俺のミスだな」

 

「……ずいぶん素直ですね」

 

「事実だからな。それを受け止めたうえで、お前に頼んでいることだ」

 

「お断りします」

 

 軽く頭を下げ、きっぱりとそう言った。

 再三断りの返事を入れ、会長も諦めたようにふっと笑う。

 

「まあ、お前がこの面談を持ってきた時点で、半ば諦めてはいたことだ。他を当たることにする。だが、気が変わったらいつでも生徒会室に来るといい。改装工事も終わったことだしな。茶くらいは出そう」

 

「え、改装してたんですか」

 

「ああ。つい今日出来上がったところだ」

 

「内装がやけに新しげだったのはそういうことだったのか……」

 

 生徒会室の中で生じた疑問が片付いた。

 

「……じゃあ、俺はこれで」

 

 二人はこれからまた用事があるらしく、学校に残るらしい。これから帰る俺とはここで分かれ道だ。

 

「ああ」

 

 軽く会釈をし、会長たちと別れた。

 そこからしばらく歩いたところで、俺は再びある人物と遭遇することになる。

 

「お前……」

 

「よう……」

 

 そう、綾小路である。

 向こうからしても想定外の邂逅のようで、少し戸惑っているような感じがある。

 

「マジで一体何やってるんだ……?」

 

 この場所はちょうど校門を出たところにある横断歩道付近で、綾小路は俺から見て右側から歩いてきた。その方面には俺が普段使いしている食品スーパーやケヤキモールがあるが……。

 

「知りたいか?」

 

「……」

 

 思わず少し黙り込んでしまう。

 なんか……挑発的な口調だな。

 ちょっとよくない予感がしたが、気にならないと言えば嘘になるので頷いた。

 

「なら、今からオレの部屋に来てくれ」

 

「え?」

 

「そこで話す」

 

「……はあ」

 

 うーん、やっぱり嫌な予感がする。

 これはそうだな。5月の中間テスト前、堀北に学食で「なんでも奢ってやる」と言われた時の感じに似ている。

 まあ、もう乗り掛かった舟だ。どうにでもなってしまえ。

 そんな心持ちで綾小路の背中についていき、こいつの部屋である401号室に到着する。

 カードキーで鍵を開け、ドアが開く。

 すると、玄関には複数人分の靴があり、部屋の中からは雑談の声が漏れてきた。

 疑惑の目を綾小路に向けるが、同じく目で「入れ」と促される。

 漏れそうになるため息を我慢し、靴を脱いで中へ。

 そこには、須藤、池、山内のいつもの3人がいた。

 

「おっ、速野じゃん。なんでいんの?」

 

「いや……」

 

「そこでたまたま会ってな。ちょっと知恵を借りようと思ったんだ」

 

 山内の疑問には綾小路が答えた。

 

「知恵を借りる? なんかクイズ大会でもやってんのか?」

 

「クイズじゃないが、謎解きみたいなものだ」

 

「謎解きって……俺そういうのは苦手なんだが」

 

「いいから一緒に考えろって!」

 

 勢いのまま、否応なしに参加させられることになってしまう。

 ……仕方ないか。

 

「で……なんなんだその謎って」

 

「葛城のことなんだよ」

 

「葛城?」

 

「そうそう。あいつ昨日、ケヤキモールでプレゼントみたいの買っててさ。誰に渡すかってのを知りたいんだよ。あいつの彼女をさ」

 

「彼女……って、そのプレゼントは女子向けのものなのか?」

 

「ああ。選んだ商品とラッピングからして、それは間違いない」

 

 まあそうだな。男物のプレゼントなら、そもそもからしてこいつらがそんなに気にするわけはないか。

 

「あと、多分誕生日プレゼントだぜ。店員に誕生日カードつけてくれって頼んでたから」

 

「その誕生日もいつか分かるのか?」

 

「8月29日だ」

 

「……なら、絞り込むのはそんなに難しくないんじゃないのか?」

 

 8月29日生まれの女子を探せば、その人物が可能性としては非常に高くなる。

 

「オレもそう思ったんだが、この学年の女子生徒に、8月29日生まれはいなかったんだ」

 

「……そうなのか? だとしてもなんでそんなこと分かるんだよ」

 

「櫛田に聞いた」

 

「なるほど」

 

 一瞬で納得した。櫛田が言ってたならたぶん間違いない。

 

「ただ一つ、8月29日が誕生日の男子はいたんだ」

 

「え? それって誰だ」

 

「葛城本人だ」

 

「……えぇ?」

 

 なんだそれは。ますます意味が分からないな。

 ただの偶然で片づけることもできるが……。

 

「それで苦戦してるわけか……」

 

「もし仮に上級生だったら、オレたちに突き止めるのは無理だ」

 

 他学年の誕生日まで把握している生徒なんてごくごく少数だろうし、そういった生徒に話を聞けるほど、俺たちの顔は広くない。

 

「あ? そういや速野、なんでお前制服なんか着てんだよ」

 

「そういえばそうじゃん。何してたんだ?」

 

 須藤と池が違和感に気付いて質問してくる。

 

「いや、教室に忘れ物を取りにな。ただ思い違いだったみたいで、目的のものはなくて今は手ぶらだが」

 

 現在何も持っていないことの理由としてそう言っておく。

 

「なあ、そういえば、葛城も制服着てたよな……」

 

「あ、そうだそうだ。確かにおかしいよな?」

 

 池と山内の二人が思い出すように言った。

 なるほど確かに、ケヤキモールで制服姿というのはかなり違和感がある。

 少し考えていると、綾小路が発言する。

 

「それで一つ報告があるんだが、実はさっき葛城には会えたんだ。昨日と同じ場所で」

 

「マジかよ! 見直したぜ綾小路」

 

「それで、誰かわかったのかよ?」

 

「いや、そこまでは絞り込めなかった」

 

 それはそうだろうな。わかったんならここに俺を呼ぶ必要はないわけで。

 にしてもそうか。今日綾小路があんな行動をしてたのは、葛城の捜査のためだったわけか。

 確かに、説明するほどのことでもない野暮用だ。

 

「ただ、葛城は今日も制服を着てたんだ」

 

 ……へえ、昨日に続いて今日も、同じ場所に同じく制服で、か。

 

「葛城のやつ、制服好きなのか? それとも着る服ないんじゃね?」

 

「それはないって。あいつAクラスだぜ? 服買うポイントなんて腐るほどあるだろー」

 

 そんな会話を遮るようにして、俺は口を開く。

 

「いや、葛城が制服を着てたのは多分、学校に行くためだ」

 

「え、そうなの? なんでわかんの? 校舎で葛城見たとか?」

 

「いや、直接見てはないけどな。でもこんな暑い中で、わざわざ好き好んで制服なんて着ないだろ」

 

「ま、まあそりゃそうだけど」

 

「だったら、必要に駆られて制服を着たって考えるのが自然だ。で、この敷地内で制服着用が義務付けられてるのは校舎内だけだ」

 

 ちなみに、単に校門をくぐるだけであれば、別に制服でなくとも可能だ。そうでないと部活生があまりにもかわいそうだからな。

 

「なるほど!」

 

「まあ、まさに俺がそれだったからな」

 

「てことは、葛城は校舎にいる誰かにプレゼント渡そうとしてるってことか?」

 

「そうかもしれないな。昨日は渡せなかったから、今日こそ渡しに行くつもりだったと考えれば、昨日も今日も制服姿だったのも頷ける」

 

 その線で考えれば筋は通る。

 ただ、一つ問題があるとすれば……。

 

「え、じゃあさ……その相手ってまさか、先生?」

 

 若干引いたような口調で池が言う。

 そう、問題はこれだ。

 校舎内の誰かが相手だとすれば、その予測を立てるほかないのだ。

 

「普通に日ごろの感謝ってことで渡すって線はないのか?」

 

「いや、でもあいつ、周りキョロキョロ気にしててさ。プレゼント買ってるのバレないようにしてる風だったんだ。感謝のプレゼントなら、そんなことやんなくても堂々としてりゃいいじゃん」

 

「……確かに」

 

 とするとやっぱり、恋愛関係が濃厚になってくるのは確かだ。

 ただ、葛城にしても教師にしても、生徒と教師がそういった関係になることが様々な面でよろしくないことくらい理解しているはず。

 ただ可能性として排除できない以上、その線を捨てるわけにも行かないか……。

 ……一応、確認しておくのがいいだろう。

 

「ちょっと電話かけてくる」

 

「は? 誰にだよ」

 

「他人の誕生日に詳しそうなやつだ。櫛田以外のな」

 

 そのセリフ回しで、池には思い当たる人物がいるようだ。

 

「お、おいそれって……藤野ちゃんかよ!」

 

 ご名答。

 

「だからちょっとドア閉めるぞ」

 

 そう断り、俺はリビングのドアを閉めて空間を遮断。

 何やら悔しがるような池と山内の声が聞こえてくるが、ドア越しのため音がこもっていて正確には聞き取れない。閉めて正解だったな。

 その後端末で藤野に電話をかける。

 友達と遊んでいるなら出ないかもしれないが……と思っていると、数コール後につながった。

 

「もしもし」

 

『速野くん? どうしたの急に?』

 

「いま時間大丈夫か」

 

『うん、部屋にいるから』

 

 なら好都合だ。

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだ。8月29日が誕生日の人、誰か知らないか。この学校の生徒に限らず、教師とか敷地内のスタッフとか」

 

『8月29日……ちょっと待ってねー……』

 

 おそらく、端末に入っている連絡帳などから探し出しているんだろう。

 おとなしく待っていようと思ったのだが、その途中で付け加えるように藤野が言う。

 

『あ、先に言っておくと、先生とかスタッフとかの誕生日はさすがに分からないよ?』

 

「……ああ、やっぱそうか」

 

 いくら藤野でも、そこまでは知らないか。さすがにこちらの期待度が高すぎたか。

 

『うん。でも、生徒の中に8月29日が誕生日の人はいたよ』

 

「葛城か」

 

『あ、知ってたんだ』

 

「櫛田がクラスメイトに伝えたのを、そのクラスメイトから又聞きした」

 

『そうだったんだ。でも、もしかしたらこれは知らないんじゃない? 私が知る限り、8月29日が誕生日の人はもう一人いるよ』

 

「え、マジか」

 

 確かに、そんな人物がいるとしたら櫛田も知らなかった情報だ。

 一気に希望が高まった。

 藤野の言葉を待つ。

 

『うん。それはね……葛城くんの双子の妹だよ』

 

 答えを言う藤野。

 

「……」

 

 ……なるほど。そういうことか。

 

「……双子の妹がいたのか、葛城」

 

『うん。前にちょろっと聞いただけだから、ちょっと体が弱い子ってことくらいしか知らないけど』

 

「いや、十分だ。助かった」

 

『これくらいなら全然いいけど……突然どうしたの?』

 

「ちょっとな。礼はまた次の機会に」

 

『ありがと。じゃあ、またね。いつでもかけてきていいよ』

 

「助かる」

 

 そこで通話を終える。

 期待した収穫ではなかったが……それでも答えにたどり着くことができた。

 満足し、俺はリビングに戻る。

 

「お、速野。たぶん解けたぜ、葛城の謎」

 

「……え?」

 

 なんでだ。こいつらが葛城の双子の妹に関して知ってるとは思えない。

 ただ、一応聞かせてもらうことにする。

 

「つまりこういうことだよ。自分の誕生日に女子からプレゼントをもらえないのはきついから、誰かから貰ったように見せかけるために買ったんだ!」

 

「……」

 

 言葉が出ない。

 とんでもない新説だ。

 完全に俺の思考の外。要は見栄を張るために誰かから貰ったように見せかけるってことだが、そんな発想、多分一生かかってもたどり着かなかっただろう。

 

「ってわけでさ、俺たちで葛城に誕プレ買ってやろうって話になったんだ。お前もポイント出せよ」

 

「……はあ?」

 

「だってなんか気の毒だろ? 誰からも祝ってもらえないからってあんな行動取るなんてさ。だから俺たちでポイントを出し合って、救いの手を差し伸べてやるんだ!」

 

「……」

 

 まあ、思考回路として理解できなくはないんだが……。

 ……いや、単純に結果だけ考えれば、葛城に誕生日プレゼントを買ってやるというだけのことだ。つまり純粋な善意。

 なら、ポイントを出すのも悪くないかもしれない。

 

「……わかったよ。と言っても俺も別に余裕があるわけじゃないからな。500ポイントで勘弁してくれ」

 

「んだよケチだな。まあいいけどさあ」

 

「明日買いに行くから、お前も来いよ」

 

 池からそう誘われた、というより指示されたが、それはできない相談だ。

 

「明日は無理だ。ついでに明後日もな。今日と同じで学校に用事がある」

 

「はあ? なんだよその用事って」

 

「進路相談みたいなもんだ。色々考えてるんだよ」

 

「進路相談って……俺たちまだ高1だぞ?」

 

「早すぎていけないことはないだろ。てことで、ポイントは綾小路に渡しとくから、頼む。じゃあな」

 

「え、あ、おい」

 

 呼び止める山内の声は無視し、俺は綾小路の部屋を後にした。

 その後、俺は綾小路に500ポイントを送金するとともに、1通のメールを送った。

 

 

 

 

 

 3

 

 翌日の夕方、日が落ち始めたころのこと。

 俺は空き教室をあとにし、校舎を出るべく靴箱に向かって廊下を歩いていた。

 と、その時である。

 

「……」

 

「……」

 

 何も語らずとも、目を見るだけで互いに言いたいことは伝わっていた。

 またお前か、と。

 

「……最近よく会うな、綾小路」

 

「まったくだ」

 

 当然ながらここは校舎内のため、綾小路も制服を着ている。つまり今日、校舎に来ることは事前に予定していたということになる。

 俺の送ったメールが影響しているか。まあ仮に俺が送っていなかったとしても、こいつなら予測して制服を着るという行動をとっていたかもしれないが。

 というわけで、こいつがなんで制服を着てここにいるかも理解している。そのためあえてその理由を聞くこともない。

 そのままお互いに何も語らず、寮への道のりを歩いていく。

 寮のロビーには、葛城が少し沈んだ様子で腰かけていた。

 その葛城はこちらに気付いて立ち上がる。

 

「綾小路、お前を待っていたのだが……速野もいたか」

 

「学校で用事済ませた後、帰ろうとしたときに遭遇したんだ」

 

「……そうか」

 

 やっぱり、気分は沈んでるみたいだな。

 以前俺は葛城に会話を拒否されたことがあるが、あれは特別試験の中での話。夏休みでしかない今なら全く問題ないだろう。

 そう判断して口を開く。

 

「帰ってくる道中で大体の話は聞いた。それ、双子の妹へ送るつもりだったプレゼントなんだってな」

 

 もちろん話など聞いていないが、昨日の時点で推測していた結論を口にする。

 

「ああ、そうだ」

 

 もちろん、外部へ物を送る行為は公式に認められているものではない。

 それを叶えるために生徒会に手助けを求めたが、あえなく断られたって感じだろう。連日学校へ出向いていたのは生徒会とコンタクトを取るため。しかし昨日堀北会長から聞いた話では、確か生徒会室は昨日まで改装工事を行っていたはずだから、それで会うことができなかったんだろう。

 

「もしよければ、これは仲間内で食べてくれ。俺には必要なくなってしまったからな」

 

 自嘲気味に笑い、おしゃれにラッピングされた箱を俺たちに差し出してきた。

 

「これ、中身は?」

 

「チョコレートだ」

 

「なら、ちょっと行儀が悪いがいま貰っていいか。糖分がほしくてな」

 

「構わない」

 

 箱を受け取り、リボンをほどいてしまう直前で俺は動きを止める。

 

「……どうした、開けないのか?」

 

「いや、開けていいものかと思ってな」

 

「お前がさっき聞いてきたんだろう。そして俺は許可した」

 

「まあな。でも、まだ策はあるのにもったいない」

 

「……なんだと?」

 

「って、そんな顔をしてたからな。綾小路が」

 

 そう言うと、葛城の視線が俺から綾小路へと移る。対して、綾小路の視線は俺に向けられていた。迷惑そうな目だ。余計なこと言いやがってと思っていそうだ。

 綾小路は葛城の強い視線からは逃れられず、しぶしぶといった様子で口を開く。

 

「……策はないこともない」

 

 やっぱり、ちゃんと思いついていたようだ。

 

「それは本当か綾小路。生徒会に断られた話だぞ」

 

「校則の中で行動しようとしていたら、もちろん無理だ。なら、その外に出ればいい」

 

「……校則を破れと言うのか」

 

「その覚悟がなければプレゼントを贈ることは不可能だ」

 

 覚悟が問われる葛城。

 悩んでいるのか、すぐには答えられずにいる。

 

「いずれにせよ、こんな場所でする話でもない。話だけでも聞きたいと思うなら、オレの部屋に来るか?」

 

 リスクを取らない葛城には、恐らく思いつくことのできない策。それを綾小路は思いついている。となれば、葛城に選択肢は残されていない。

 

「そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらう」

 

 実行するにしてもしないにしても、策があるなら聞かないわけには行かない。

 俺としてはここで帰っても特に問題はないが、事の顛末を見届けるために綾小路の部屋に同行することにした。

 到着し、葛城とともに綾小路の部屋に入る。

 

「片付いているというより……入学時から様子が変わっていない感じだな」

 

 部屋に入って開口一番、葛城は少し戸惑ったように言った。

 

「よく言われれる」

 

「そのせいで何かと集合場所に使われてるよ」

 

 主に三馬鹿プラス櫛田の。あの4人に関しては合鍵まで持ってるらしいからな。家主に無断で合鍵作れるって、そのセキュリティレベルはちょっと、いやかなりまずいと思うんだが、ちゃんと改善したんだろうかこの学校は。

 

「二人とも何か飲むか? といっても水かお茶しかないが」

 

「構わないでいい。それより、お前の思いついたという策を教えてもらえないだろうか」

 

 要約して砕けた言い方にすると、能書きはいいから早く言え、ということだ。

いつも冷静な葛城にしてはかなり気が逸っている。それだけこのプレゼントには強い感情を抱いているのだろう。

 促され、綾小路が語り始める。

 

「まず前提として、学校から直接配送する手段はない。校則で禁じられていることだから、間違いなく郵便局も取り合わないだろうな。いかなる理由があっても」

 

「ああ。だからこそ困っている」

 

 学校が運営する施設を通すことは絶対にできない。

 

「つまり、荷物を敷地外の妹のもとへ届けるには、少なくとも学校の外に荷物を運び出す必要があることになる」

 

「それこそ無理な話だろう。俺たち生徒は敷地の外に出ることができないんだ。まさか、教師やスタッフに頼む、なんて話じゃないだろうな。そんなことは不可能なうえに、不正を摘発されてペナルティを受けるだけだろう」

 

「そうじゃない。頼むのは生徒だ」

 

「……だから、それは無理だと」

 

「いや、葛城、生徒に関しては絶対に無理ってわけじゃないと思うぞ。現に俺たちは、先のバカンスで敷地の外に出ただろ?」

 

「それは例外的な状況だからだろう。それに特別試験中にプレゼントを送り出すようなチャンスはなかった。そもそも29日までに特別試験はない」

 

「例外があるかないかはかなり大事な点だ。つまり敷地外へ出ることが禁じられているのはあくまで原則の話ってことだ。俺は思い浮かばないんだが、特別試験の他にも、生徒が外に出られる状況があり得るんじゃないか?」

 

 試験などではなく、もう少し生徒の自由が効きそうなもの。

 

「……なるほど、部活動の対外試合だな」

 

 葛城が答えにたどり着く。

 

「そういうことだ」

 

「だが、厳しいことに変わりはない。学校側も荷物検査は徹底するはずだ」

 

「徹底しているといっても限度はあるだろう。所詮は高校生の部活動だ。学校側の監視を超えればいい話だ。交渉の余地があって、近々対外試合を控えている人物に当てがある」

 

 綾小路のそのセリフで、俺は一人のクラスメイトの顔が頭に浮かぶ。

 

「……須藤か」

 

「ああ。ちょっと呼び出してみる」

 

 そう言って端末を取り出し、須藤との連絡を試みる。

 時刻は……6時を回ったくらいか。なら、部活が終わるまであと30分か1時間ってところだな。須藤がここに着くのはそれにプラス20分前後加算した時刻だ。多少のずれがあるにしても、少し長い間待つことになる。

 正直、生徒会と交渉してどうにもならなかった時点で、こうなることは予想がついていた。

 今後の展開に関しては、予測とかそういう話じゃない。須藤が来て、話を聞いたうえで葛城の提案を受けるか断るか、その2つに1つ。そしてそのどちらになろうとも俺にはあまり興味が湧かない。

 明日の用事に向けてこの後も少しやることがあるし、俺はここでお暇させてもらうことにする。

 

「じゃあ、俺はそろそろ」

 

「ああ」

 

「少し待ってくれ速野」

 

 床から立ち上がろうとしたところで、葛城に呼び止められる。

 

「……ん?」

 

「せっかくの機会だ。船の中での出来事について、謝らせてほしい」

 

「船の中……?」

 

 言われて、思い出す。

 

「……ああ、あの夕食会場でのことか」

 

「試験中で気が立っていたとはいえ、礼を欠いた物言いだった」

 

 そう言って頭を下げる葛城。

 

「そのことなら気にするなって言っただろ。これからああいうことは幾度となく訪れるんだ。逆にこれからこっちが多少乱暴な言い方をしても、見逃してもらわなきゃ困るぞ」

 

「ああ」

 

「それだけなら、俺はこれで帰る。綾小路、上手くいったかどうかだけ後から報告頼むわ」

 

「分かった」

 

 それだけ言い残して、俺は部屋を出た。

 その数日後、須藤の協力のもと万事うまくいったという報告が上がってきた。

 葛城は、須藤に10万、綾小路に1万の合計11万ものポイントを報酬として支払ったらしい。

 妹が病弱とはいえ、どうしてプレゼント一つにここまでこだわるのか疑問だったが、よくよく話を聞いてみると、葛城の両親はすでに他界しており、誕生日を祝ってやれる家族が葛城自身以外にいなかったそうだ。

 何とも美しい家族愛を見た気がする。

 俺にはそういう情を抱けるような兄弟姉妹はいなかったからな。

 

 

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