実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

44 / 77
本当の夏休み~分析~

 夏休みといえば、プール、花火、夏祭り……まあ色々と単語は出てくるわけだが、俺にはそのどれも当てはまらない。

 まあそもそも、この高度育成高等学校には花火大会も夏祭りもないわけで、この2つは俺に限らずこの学校の生徒全員無縁だ。

 プールも通常は水泳部の専用施設となっている。夏休みの最後の短期間だけ、一般生徒向けに開放されるそうだが……。

つまりそれまでの間、この学校の敷地内では所謂「夏の風物詩」的な遊びはできないのだ。

 しかし、それらがないならないなりに、多くの生徒はケヤキモールでのショッピングや、カラオケ、ボウリング、映画など、貯えたポイントを使って楽しんでいる。

 だがそういったものも含めて、俺には当てはまらないのだ。

 なんせ遊ぶ相手がいない。もちろん先ほど挙げた4つの例すべて一人でやろうと思えばできないことはないが、わざわざポイントを使ってまでやろうとは思わない。

 俺の夏休みは、基本的に部屋にこもって過ごし、日が落ちて比較的過ごしやすい気温になったらたまーに散歩、そして定期的に食材の買い足し。まあ、ひどくつまらない日常だ。これといった苦労もないが、同時に楽しみもない。

 こうしてみると、自由というのも考えものだな。

 人間は自由の刑に処されている、とはサルトルの言葉だ。その名言が含む意味とは若干違うが、今の俺の状況には、この言葉がぴったりだ。

 さて、今はその過ごしやすい気温になる時間帯だ。

 俺は寮から外に出て、買い出しのためにスーパーへと足を運ぶことにした。

 ロビーを出てすぐのところには並木道があり、そこを抜けて大通りの横断歩道を渡ると、大通りと大通りをつなぐように敷設された少し広めの歩道に出る。そこにはコンビニなど、少数ではあるが施設が軒を連ねる。

 そこをまっすぐ歩いていくと、次の大通りに出る。その横断歩道を渡り、そのまままっすぐ進むと学校へ、左に曲がるとケヤキモールや、俺の目指す食品スーパーがある。

 俺はそのスーパーへ向けて、大通りの歩道にて歩を進めている。

 向かい側にも歩道があり、その奥にはベンチと、手入れの行き届いた極々小さな草原がある。

 ふと目を向けると、そこに見知った人物が座っているのが見えた。

 こちらとは反対側に向いたベンチに座っているため、後ろ姿しか確認できないが、それでもあれが誰かを特定するには十分だった。

 普段ならスルーしてそのまま歩いていくところだが、この日は気分的に、その人物に接触することにした。

 横断歩道のある場所まで戻るのはひどく面倒だったのだが……この場所に俺を映す監視カメラがある以上は、ガードレールを乗り越えるなどして交通ルールを破るわけにもいかない。

 やむを得ず遠回りをして、そこへ向かう。

 

「おい、何してるんだこんなところで」

 

 その人物———堀北鈴音は、俺の声に反応してこちらを振り向いた。

 手にはブックカバーがつけられた文庫本が握られている。どうやら読書中だったようだ。

 

「……何か用かしら」

 

「いや、別に用ってことはないけどな。スーパーに向かう途中にお前を見かけたから声をかけただけだ。いけなかったか?」

 

「いけないわ」

 

「あ、うん、そうですか……」

 

 相変わらずだな全く。

 一向に態度が柔らかくなる気配がない。カチコチで冷たいままだ。誰か解凍しろよ。

 と、ふと堀北の手に目を向けるとあることに気付く。

 

「……お前、めっちゃ勉強してるんだな」

 

「急に何?」

 

「いや、ペンだこが見えてな」

 

 本を持っている右手中指の爪の横が、不自然にボコッと膨らんでいる。

 

「……ええ。少しでもクラスポイントを上げるため、余念はないわ」

 

「そりゃ結構なことで」

 

「まるで他人事のような口調ね。それとも、頭のいいあなたは勉強しなくても余裕で満点を取れるのかしら」

 

 嫌味を含んだニュアンスでそう言う堀北。

 だが、それには反論しなければなるまい。

 

「本当にそう思うか?」

 

 俺は右手を堀北に差し出す。

 その中指には、堀北と同様にペンだこができていた。

 

「……」

 

 それを見て、驚いたような表情で俺を見上げる堀北。

 

「俺だって努力してる。別にそれを鼻にかけるつもりはないが、さっきの言われ方はちょっと心外だぞ」

 

「いえ……ごめんなさい」

 

 さすがによくないと思ったらしく、案外素直に謝罪の言葉を述べる。

 

「分かればいいんですよ分かれば」

 

「それで、スーパーに行く途中と言ったわね」

 

「ん、ああ」

 

「なら同行させてもらうわ。私にも買い物があるし、何よりあなたに話しておくことがあるから」

 

「……まあ、いいけど」

 

 なんだろうな、俺に話しておくことって。

 少々疑問を抱きつつも、堀北が本をしまい終えるのを待つ。

 支度が整い、堀北がベンチから腰を上げたのを見てから、スーパーに向かって歩き出した。

 そしてすぐに堀北が口を開く。

 

「一つ言っておくけれど、このペンだこは勉強だけのものじゃないのよ」

 

「……え?」

 

「船上試験の振り返りよ」

 

「……なるほど」

 

 確かに、それはやっておくべきことだな。

 

「でも、どうやって振り返ってるんだ。優待者の法則も分かってないのに」

 

「ええ。だから分かる範囲でやっているわ。まず、櫛田さんが優待者だったグループK」

 

「どうして結果1になったかってことか」

 

 頷く堀北。

 

「結果1は、優待者がクラスにいないグループにとっては非常にいい結果だけれど、優待者がクラスにいるグループにとっては避けるべき結果よ。それにそもそも、避けるまでもなく結果1を実現するのは至難の業だわ」

 

「そうだな」

 

「もし他クラスが一方的に優待者を突き止めたなら、その瞬間に裏切って結果3もしくは4になってしまう。つまり、結果1に持ち込むには優待者のいるクラス……もしくは、優待者自らが協力する必要性が高い。そしてこの一件には間違いなく龍園くんが関わってる」

 

 段々と堀北の言いたいことが見えてくる。

 

「つまりお前は、櫛田が何かやらかしたんじゃないかと睨んでるわけか」

 

「その可能性が高いわ。そしてもしそうだとしたら、クラスに対する裏切りに他ならない」

 

「なるほどな……」

 

 まさかそんなバカげた話、とは口が裂けても言えない。なぜなら俺もそれに近い考えを持っているからだ。

 

「そのことを綾小路くんに話したら……彼にこう言われたわ。もし仮に櫛田さんがあの結果にかかわっていたとしても、それを防げなかった私が悪いとね」

 

「それは……ずいぶんと手厳しいことを言うのな、あいつも。お前と櫛田は別グループなのに」

 

「たとえ別グループであっても、Aクラスを目指してクラスを引っ張っていくなら、抜け目があってはダメだと言われたわ」

 

「ほーん……」

 

「いささか理不尽ではあるけれど、全面的に間違っているわけでもない。確かに私は、彼女の裏切りを防ぐことができなかった。それは間違いのないこと」

 

「……」

 

 少し気になるな。

 俺自身、櫛田の関与はあり得ない話じゃないと思っているが……それはあくまでも可能性の一つとして考えているに過ぎない。

しかしどうも堀北は、櫛田が裏切ったと今の段階で断じている節がある。

 単に櫛田が嫌いだからか。いや、たとえ嫌っているとしても、これまでの櫛田を見ていればクラスを裏切ることなどそうそうないと判断するはずだ。

ならばこいつは、櫛田がクラスを裏切る動機に何か心当たりでもあるのか。

 そう分析しているところで、俺たちは目的地のスーパーに到着した。

 空調が行き届いていて、入った瞬間にここはオアシスかと思ってしまう。日が傾いて気温が下がったとはいえ、まだまだ熱気はあるからな。

 二人とも買い物かごを取り、無料コーナーへと向かっていく。

 と、そこで再び堀北が口を開く。

 

「クラスから裏切り者を出すわけには行かないわ」

 

「そりゃ当然だろ。クラス間競争の根本が崩れかねない」

 

 事実、葛城はそれで足をすくわれた形だ。

 

「私が船上試験について考えていたことはもう一つ、それは私たちのグループ」

 

「ああ、2番目に早い裏切りを受けたな」

 

 その裏切りの主犯は俺なのだが、当然それを告げることはない。

「試験終了後、一之瀬さんに連絡を取って確認したわ。私たちのグループだった浅田さん、佐藤さん、葉山くんの中に優待者がいるかどうか。私たちのクラスに優待者がいたことも合わせて告げてね。そしたら彼女、驚いていたわよ。そして『いる』と答えた」

 

「つまり、俺たちのグループIが特殊グループだったってわけか」

 

「そういうことになるわね」

 

「そりゃ驚きだな。どこかのクラスが3人の優待者の名前書いてメール送ったってことか。可能性の一つとして考えてはいたが」

 

「ええ、正直私も驚いたわ。あんなに早くに試験が終わったグループIが特殊グループなんて」

 

 優待者メールを3人分送らないと試験が終了しない特殊グループは、通常最も裏切りによる試験終了の可能性が低いグループだ。驚くのも無理はない。

 

「けれど、これがどういうことか分かるかしら、速野くん」

 

 突如、堀北はそう言ってこちらを強く睨んでくる。

 

「……なんだよ」

 

「あなたのアリバイが崩れたということよ」

 

 射貫くような鋭い口調でそう言った。

 

「……どういうことだよ」

 

「試験が終了した時点では、あなたは私のそばにいた。だから3人目の優待者の名前を送ったのはあなたではないわ。けれどそれ以外の2人分に関しては別よ。1人目か2人目か、あるいはその両方か……いずれにせよ、あなたにも優待者メールを送ることは可能だったということになる。グループIの試験が終わったとき、当然それが特殊グループである可能性も頭をよぎった。けれどその時、どれか1クラスが3人の優待者を指名したものだと思い込んで、複数クラスが絡んでいる可能性に思い至ることができなかったのよ」

 

 先入観、だな。

 メールを送るなら、一気に3人送って片をつけるはずだ、という先入観。

 そこから抜け出し、堀北は真相に一歩近づいた。

 

「で、それを俺がやったと?」

 

「あなたならやりかねない、と私は思っているわ。無人島の試験で、勝手にあんな危険な契約を結んだあなたならね」

 

「……なるほど」

 

 どうやら、あの一件で堀北からの俺の信頼は(元からほとんどなかったが)地に落ちたらしい。

確かにあれは危険な契約だった。だが、たとえあそこで契約を反故にすることができず、スパイ契約が生き残ってしまったとしても、やりようはあった。俺だってリスク回避の手法くらい考えたうえで行動している。

 

「俺がなんのためにそんなことをするんだ」

 

「当然、プライベートポイントが狙いでしょう。たとえ間違えてもポイントが没収されるわけではないから」

 

「堀北、俺はそんな行動はとらない。9分の4の確率で100のクラスポイントが減るんだぞ。しかもそうなったらプライベートポイントも入らない。無視できるリスクじゃない」

 

「本当にそう思っているかしら」

 

「当たり前だろ。無人島試験、俺は葛城が戸塚からリーダー変更を行わないことに関しては9割方の自信があったが、残りの1割を想定してお前に見張りを頼んだんだ。5割近い確率を無視できるなら、お前にあんなことはやらせねーよ」

 

 実例を用いて否定する。そんなことはしないと。

 

「それにだ。お前、俺が試験終了の瞬間にお前のそばにいたことを疑ってたよな。アリバイ工作じゃないかって。それについてはどう考えるんだ。偶然ってことでいいのか」

 

「それは……」

 

「偶然じゃないとしたら、俺は他クラスと繋がって終わらせたことになるが、そんなことをしても俺には何の得もない。お前の言うような行動をとったとしても、俺ならそのあとは試験終了まで何の騒ぎも起こさずに静観するぞ。あわよくばこのまま最後まで行ってしまえばいいってな。その方がより痕跡を残さずに済む」

 

 矛盾点をつくと、黙り込んでしまう。

 ……ここまでだな。

 今の堀北にはこれ以上の追及は不可能だ。

 すべてを解き明かすには、俺と和田との間の繋がりを突き止めなければならない。そのためにはさらに、Aクラス内に藤野という第3の勢力が存在することを看破する必要がある。クラス内にも隠し通しているこの事実に、堀北が気づけるはずがない。

 

「……いいわ。今はあなたの言い分を信じましょう。私にはあなたの策を見破ることはできなかった」

 

「おい疑いまくりじゃねーか。何が信じるだ」

 

「これからのあなたの働きに期待するわ」

 

 堀北はそう言って俺から顔を背け、買い物かごに食材を入れ始めた。

 

「……はあ」

 

 まあ、信じてくれとは言わない。

 実際信用に値する行動なんて取ってないわけだしな。以前も今も、そしておそらくはこれからも。

 

 

 

 

 

 1

 

 その翌日、午後3時ごろのこと。

 俺はある人物とケヤキモールのカフェにいた。

 

「んー、おいしい~」

 

 俺の目の前に座るその人物、藤野麗那は、とても幸せそうな表情で巨大なパフェを頬張っている。

 

「ホームページで見たときからずっと食べたかったんだよね、このジャンボ夏みかんパフェ」

 

 ジャンボ夏みかんパフェ。

 高さ20センチにも至ろうかというほど大きなグラスに、下からゼリー、バニラアイス、生クリーム、シリアル、そしてまたバニラアイスが層を作って積まれている。その上には球形のシャーベットが3つ並べられ、それぞれ夏みかん、シークヮサー、グレープフルーツ味。そしてそのシャーベットに夏みかんのドライフルーツが差し込まれている。さらにその横には生クリームと、控えめな甘さを持ったプレッツェルとビスケットが差し込まれている。

 お値段、占めて3000ポイント。めちゃくちゃ美味そう。

 サイズがでかいが、デザインも工夫が凝らされ洒落て見える。よくある「でかすぎて品がない」というような感じはなかった。

 

「速野くんも注文して食べたら?」

 

「いやいい。甘いのは好きだが、このサイズになると胸焼けする未来が見える。……逆によく食えるな」

 

「こういう時、スイーツは別腹だってほんとに実感するよー」

 

 そう言って再びパフェを口に運び、「ん~」と歓喜の表情を浮かべる。

 女子の食欲ってのは不思議なもんだな。

 いやまあ、藤野がよく食べるタイプっていうのもあるのかもしれないが。

 

「俺じゃなくても、他にもいたんじゃないか? 一緒に来る人」

 

「うーん、ここってあんまり大人数で来るには向かないでしょ? ってなると、2人か3人がちょうどいいけど……その人数で集まる友達、あんまり食べるタイプじゃなくてさ」

 

「いや、別に俺も食べるタイプじゃ……」

 

「そそ、そこがちょっと予定外だったんだよね。甘いもの好きって聞いてたから誘ったんだけど……迷惑だったかな?」

 

「いや、迷惑ってわけじゃない。どうせ部屋に引きこもってばっかだったし、連れ出してもらって感謝すらしてる」

 

「あはは、それはよかった」

 

 ちなみに俺もここで何も食べていないわけではない。700ポイントのケーキセットを注文して食べている。

 ただ、その量は藤野と比べれば歴然の差。藤野が半分を食べ終わるころには、すでにケーキも紅茶も胃の中だった。

 

「一口食べる?」

 

 食べ終わって手持ち無沙汰にしている俺を見て、藤野がそう申し出る。

 

「ん、いいのか?」

 

「もちろん。こんな巨大だしね」

 

「なら……一口」

 

「うん、どうぞ」

 

 グラスを差し出される。

 俺は夏みかんのシャーベット、ヨーグルト、シリアルをスプーンで拾い、口に運ぶ。

 

「……うまっ」

 

 そんな単純な言葉が、無意識のうちに口から飛び出した。

 本当に美味いものを食べたとき、人間は語彙を失う。食レポどころじゃない。

 

「でしょ?」

 

 藤野の問いかけに、うんうんと何度もうなずいて答える。

 

「速野くんも注文すればよかったのに」

 

「……正直この味見せつけられると、後悔の念が出てくるな」

 

 この味をもう一度味わいたいという欲求が脳を支配する。が、んなことは無理だと言い聞かせる。ケーキ食べた後にこの量は胃が死ぬ。

 周りを見てみると、客は大体10人前後。その中の2人がこの巨大なパフェを食べている。やはりかなり注目されている目玉商品のようだ。ネーミングからしても夏季休暇限定とか銘打たれてるんだろう。

 

「んーー、おいしかった。ごちそうさま」

 グラスの底まで食べ終えた藤野の表情は、それはそれは幸せそうだった。

 

 

 

 

 

 2

 

「ほんとに幸せー。この暑さにも余裕で耐えられちゃう」

 

 寮への帰り道、そう言って腹をさする藤野。

 

「ちょうどいい量、って感じではなかったみたいだな」

 

「あはは、まあそりゃね。もう1杯は絶対無理」

 

「当たり前だ」

 

 俺なんて1杯でも無理そうなのに。よく完食できたなほんと。

 

「あ、ねえ、あそこでちょっと休んでいかない?」

 

 そう言って藤野が指さした先には、東屋のような休憩所があった。

 

「ん、ああいいぞ。消化のついでか」

 

「うん、そんな感じ」

 

 この暑さだと、本当は空調の効いた屋内で休むのが良いんだろうが、考えることはみんな同じだ。ケヤキモール内のめぼしいベンチは、すべて生徒によって占領されてしまっていた。

 そのため、仕方なくモールを出て行ったのだ。藤野も落ち着ける場所が欲しかっただろう。

 東屋の日陰に入り、設置されていたベンチに腰掛ける。

 ふう、と一息ついてから、お互いに無言の時間が流れる。

 聞こえてくるのはセミの声。ただその声も、無人島から帰ってきた当初と比べると少し落ち着いている印象だ。

例年、セミの全盛期は8月の上旬だからな。すでに中旬から下旬に差し掛かっている今は、その時よりは数が少なくなってきているんだろう。

 額から流れ落ちる汗を腕でぬぐう。

 それを皮切りにして、俺は藤野に話しかけた。

 

「なあ。今聞くようなことじゃないとは思うんだが……」

 

「え、なに?」

 

「船上試験のことだ」

 

 それを受けた藤野は、なるほど、と納得したような表情になる。

 

「わかった気がする。私たちのグループの結果について、だよね?」

 

「ああ」

 

 さすが。

 櫛田のグループは藤野のグループでもある。つまり、藤野は回答時間内に優待者は「櫛田」と回答したメンバーのうちの一人だ。

 

「何があったのか、話を聞きたくてな」

 

 平田は何が起こったのかを理解していなかった。あれは最後のディスカッションが終了するまで優待者を隠し通すことができたという自信があった証拠。つまり少なくとも平田と王にはこの結果に至る過程が分かっていない。いや、分かっていたとしたらそれは龍園と手を組んでいた裏切り者だ。知らぬ存ぜぬを貫き通すに決まっている。

 となると、グループKに属していた生徒の中で、話を聞けるのは藤野だけなのだ。

 

「うーん、これ実は他言無用だって言われてるんだけど……」

 

「話して不都合があるなら無理には聞かないが」

 

「ううん、話すよ。速野くんが心のうちに止めて置いてくれればいいだけだから」

 

「肝に銘じとくよ」

 

 約束し、藤野が真相を語り始める。

 

「試験が終わって、回答受付時間になる少し前のタイミングで、Cクラスの木下さんが私と西川さんの部屋に来たの。西川さんとは同室だったから」

 

 Cクラスの木下とAクラスの西川。どちらも関わりはないが、木下の方は聞いたことはある。確か陸上部だったか。

 まあ今は俺がその二人を知っているか否かはさして重要じゃない。

 

「最終ディスカッション終了後しばらくは、他クラス同士での話し合いは禁止されてたはずじゃないか?」

 

 それも、破ったら退学というかなり厳格なルールだった。

 

「うん。だから部屋に来たっていうより、部屋の前にいたっていう感じ。部屋のドアからドンっていう音が鳴ったから開けてみたら、木下さんが立ってたの。たぶんノックはまずいと思ったから、体をぶつけたんじゃないかな。バランスを崩したふりをして」

 

「なるほど……」

 

「私たちも話すのはまずいから無言でいたんだけど、そしたら目の前に端末を落としてどこかに行っちゃったんだ。それで端末を見てみたら、メモ機能が開いたままになってて、私と西川さんの名前と、このことは他言無用だっていうこと、それから今から送られてくる映像を見て優待者メールを送れって書いてあったの」

 

「映像を……」

 

「で、回答時間になった瞬間に、木下さんの端末に映像が送られてきた」

 

「どんな映像だったんだ」

 

「同じグループのメンバーだったCクラスの鈴木くん、園田くん、龍園くんが、櫛田さんの名前を書いて学校側にメールを送ってる映像だよ」

 

「……なるほどな」

 

 そういうことか。これで納得できた。

 

「あとで話を聞いたら、葛城くんと的場くんのところにもCクラスの人が来てたみたいだから、多分Bクラスの方にも同じように人が行って、その映像を見たんだと思う」

 

「すでに優待者メールを送ってしまった映像、それもCクラス3人が全員同じ名前を書いたとなれば、どれだけ龍園に信用がなくても、同じ名前を書いて送るしかないな」

 

 メールを送らなければもちろん結果2。そして櫛田以外の名前を書いて送っても結果2。送った名前が違う時点で、どちらかが不正解であることが確実だからだ。

 櫛田の名前を書いて送った場合にのみ、結果1の可能性が存在する。

 優待者でない者にとっては、ゼロか50万か。どちらを取るべきか、まったく悩むまでもないことだ。

 

「それで結果発表の後、木下さんが端末を取りに来て、改めてこのことは他言無用だって念を押されたの」

 

「そう契約したんだな」

 

「契約っていうか、どちらかと言うと口約束かな? ただ、他言しても基本的にこっちに得はないってことは強調されたよ。もし学校にバレて不正ってことになったら、受け取ったポイントが没収される可能性が高いって」

 

「……なるほどな」

 

 一連の行為はすべてグレーゾーンではあるが、明るみになった際に学校側が不正でないと認めるかは絶対とは言えない。

 だが、これで一つ分かったことがある。

 少なくとも、他クラスのグループのメンバーに櫛田の名前を書いて送らせる、という過程に関しては、櫛田も含めてDクラスの生徒は関わっていなかった。

 ちょっと読み違えたか。

話し合いが禁じられている中、他クラスに使者を送りつけるというハイリスクな行為は、龍園の支配が及んでいるCクラスだからこそ取れる戦略だな。

 

「龍園くんが試験を終わらせなかったのは、やっぱり私たちAクラスを狙い撃ちにするため?」

 

「それで納得するしかないな。それに加えるとすれば、俺と同じでクラスポイントよりプライベートポイントを優先したかったか」

 

 無人島試験の戦略から見ても、龍園がプライベートポイントに固執していることは見て取れる。

 

「龍園くんはよくわからないね……」

 

「まあ俺たちをこうやって戸惑わせることも、あいつの狙いの一つだとは思うが」

 

「あはは……」

 

 龍園は思考も行動も無茶苦茶な面があるが、そこには一つのビジョンがある。だからこそ厄介だ。できれば龍園についてはあまり頭を回したくないのだが、しかしあいつから振りかけられる火の粉は払わなければならない。

 

「でも、龍園くんはどうやって優待者の法則を看破したんだろ? 速野くんも、導き出した法則に関して確信に至るには、自クラスのほかにもう1クラス分のサンプルが必要だって言ってたでしょ?」

 

「導き出したわけじゃなく、Aクラスから情報を得ていた、って可能性は?」

 

「うーん、それもないとは言えないけどね。グループBの優待者は坂柳さんの派閥だから、情報を流さないとも限らない。でも、残り3人は琴美ちゃんと葛城くんの派閥の人だし、3人とも自分が優待者ってことは基本的に秘密にしてたから。私には話してくれたけど……少なくとも、Cクラスに情報を流すリスクがある人には話してないんじゃないかな」

 

「なるほど……」

 

 情報源がAクラスである可能性は考えにくい。となると、やはり龍園が法則性を導き出したことは間違いなさそうだな。

 

「ってことはさ……BクラスかDクラスから情報を得てたってことになるよね?」

 

「ああ。龍園が自クラスだけで確信に至ったんでない限りは」

 

 俺も様々なヒントから法則にたどり着くことができたが、その際他クラスの優待者は知らなかった。たどり着くだけなら自クラスのみでも不可能じゃない。俺の場合は確信に至るのに後4人ほどのサンプルが必要だっただけだ。

 この「確信に至る」のラインは人それぞれ。龍園の場合は俺と違って、自クラスの優待者と符合した時点で確信に至った、という可能性もあるわけだ。

 リスクを取ることを厭わない龍園ならあり得る。

 

「ちなみに、Dクラスで情報を流す人に心当たりはあるの?」

 

 そう藤野が尋ねてくる。

 

「試験中に優待者を3人以上知ってたのは、平田、幸村、綾小路、俺。あとたぶん櫛田も知ってただろうな。その中にいるかどうか……」

 

「うーん、裏切るような人には思えないね」

 

「ああ。しいて言えば俺だ」

 

「あはは……」

 

 櫛田のきな臭さを知らない藤野としては、そう考えて当然だな。

 龍園は試験終了後、堀北をターゲットにすると息巻いていたが、その堀北を櫛田は嫌っている。ここに利害の一致があることになる。

 また俺としては、平田の可能性も捨てきれない。

 無人島試験で火災が起こったときに見せた平田の様子は明らかにおかしかった。

 平田も櫛田も、どちらにも深い闇がある。恐らくはその闇が、この二人がDクラス配属になった理由とも直結しているのだろう。

その闇が裏切りに走らせた可能性はある。

 いずれにしても、次の行事では他クラスとの競争のほかに、クラス内部にも目を向けることが絶対に必要だ。いや、先々の不安要素を取り除くという点ではむしろそっちを優先した方がいいとすらいえる。

 クラス内に裏切り者がいるとすれば、そいつは必ず動く。それを見極め、その人物を絞り込む。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。