実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
昼食を食べ終えた俺たち一行は、再びプールで遊びに興じた。
鬼ごっこやフリスビー、それに単純なリレー勝負など。遊びとはいえかなりハードで、かなり疲労が溜まっている。
今は特にみんなで何かするでもなく、流れるプールでロングビート板や浮き輪に乗ってぷかぷか浮いておしゃべりしていたり、度胸試しとか言って飛び込み台から飛び込んでたり、それぞれ気ままに過ごしている。
俺はプールサイドに上がり、ベンチに座って一息ついていた。
と、そこで、座る場所がなく立ち尽くしている佐倉を発見した。
俺のベンチは隣が空いているため呼びに行くのがいいのだが、恐らく立ち上がった瞬間に席は他の誰かに確保される。
かといってその場にとどまり大声で呼び出すのも、目立つのを極度に嫌う佐倉は望まないだろう。
「……俺に気付くまで待つか」
そう決め、音は出さず、身振り手振りでなんとか佐倉の目に入ろうと努める。
幸いなことに佐倉はキョロキョロしていて挙動不審だったため、合図を出している俺に気付くのにそう時間はかからなかった。
手招きして呼び寄せる。
「速野くん……」
「座りたいならここ使っていいぞ。俺の隣が嫌じゃなければ」
「い、嫌だなんて……ありがとう。座るね」
「ああ」
断りを入れ、隣にちょこんと腰かける佐倉。
圧倒的なスタイルを誇っているであろうその体は、ラッシュガードによって覆い隠されている。
「……正直、お前がこの場にいるのは堀北と同じくらい意外だぞ。何かきっかけでもあったか?」
ずっと気になっていたことを聞く。
「自覚は、あるけど……その、綾小路くんに誘われたから……行ってみようかなって」
「……そうか」
想像以上に懐かれてるなあいつ。そうなるよう仕向けたのは俺ではあるんだが。
「そういえば、あのストーカーの店員……楠田の話は聞いたか?」
この話題になった瞬間、佐倉の表情と体が強張るのが分かる。
しかし、それを押さえつけるようにして佐倉は口を開いた。
「……うん。無人島で、綾小路くんから聞いたよ。懲戒解雇になったって」
「ああ。まったく反省しようとせず、意味不明な供述ばかりしてたらしいからな。仕方がない」
結局、学校側が俺に何か言ってくることは最後までなかった。ということは、メールアドレスの件は楠田の口からは何も出てきていないか、出てきたとしても虚言や妄言の類だと判断されたということだろう。
「目の前の心配事は取り除かれたが……ブログはどうしてるんだ」
「学業に集中したいから、って、小休止してる」
「……それがいい」
あんなことがあった後では、さすがにな。
それに、考えることもあっただろう。
アイドル雫としての自分と、佐倉愛理としての自分について。
今回この集まりに参加したのも、心境の変化があったから、って面も無きにしも非ずなんじゃないかと勝手に思っている。
「……ただ、この学校は、単に学業だけじゃどうにもならないのが難しいところだな」
「え? あ……う、うん、そう、だね……」
「……」
あれ、なんか気まずい空気が……。
1
「あ、おーい速野、お前もキャッチボールするかー?」
プールサイドを歩いていたところで、Bクラスの柴田に話しかけられる。
今日まで全く関わりはなかったのだが、こうしてフレンドリーに話しかけてくれるおかげで接しやすい。
「ありがたいんだが、さっきのリレーがさすがにこたえた。もうちょい休む」
「んーそうか、お大事にー!」
「ああ」
柴田たちは、Bクラスの男子三人で三角になってキャッチボールをしていた。
プールサイドの一番近くに神崎が位置している。
その神崎に話しかける。
「柴田のコミュ力はすごいな」
「……その点は同意だ。俺はああいう風にはなれないが、学校生活の中であの性格に助けられることは多い」
「……想像つく」
グイっと引っ張ってくれるやつがいるだけでだいぶ楽になる。
「Bクラスには、一之瀬や柴田みたいな人材が集まってるのか」
「どうかな。全員が全員ってわけじゃない。中には俺のような生徒もいる。でも、学年全体で見れば、明るいクラスだって自負はある」
「当たってる。『いいクラス』はどこかってアンケート取れば、間違いなくBクラスが一番だろ」
「『いいクラス』……そうだな」
「……」
純粋な褒め言葉として言ったつもりなのだが、神崎はその表現を快く思わなかったのか、一瞬眉をひそめた。
しかし、すぐにそれは消え、元の真顔に戻る。
……人の地雷って、どこにあるのか分かったもんじゃないな。まあだからこそ「地雷」なんて呼ばれてるわけだが。
話題転換のついでに、俺はずっと気になっていたことを聞いた。
「そういえば、バレーの時に思ったんだが……一之瀬、あんまりバレー得意じゃないんじゃないか?」
「……どうしてそう思ったんだ?」
「いや、動きとか見て何となく……言い出しっぺだから得意かと思い込んでたが、どうもそうじゃないっぽいんでな」
サーブを打つとき、顔の向きとボールの方向が全く一致していないことも結構あった。初めはフェイントかと思ったが、打った後なんか「やべっ」みたいな表情してたし。あれは顔は狙っていた方向を見ているのに、実際はあらぬ方向にボールが行ってしまったってことだろう。
思ったままを述べると、神崎はふっと笑った。
「クラスの機密情報は教えられないな」
「……それほぼ答え合わせみたいなもんだろ」
「ふっ、なんのことだ?」
「……」
聞いたことがあるだろうか。旧ソ連において、スターリンはバカだと言った民が機密漏洩罪で逮捕されたというジョーク。
冗談めかした顔をしているあたり、本気で隠すつもりはないらしい。
「もしかして、バレー以外も苦手なのか?」
「どうだろうな」
「……」
この、絶対確かめてやる。
「柴田ー、俺にもボールくれー」
奥の方にいる柴田に声をかける。
「お、混ざるか? いいぜー。ほらっ」
快くボールを渡してくれた。
さて。
「一之瀬ー」
たまたま近くで遊んでいた一之瀬に声をかけ、ボールを投げつける。
「えっ、は、速野くん? わっ、ちょちょっ」
いきなりボールを投げつけられ、しっかりとキャッチできずにお手玉した挙句、最終的にボールはあらぬ方向に行ってしまう。一之瀬はそれを追いかけようとするも叶わず、バシャバシャと水音を立ててプールの中へと沈んでいった。
「わははは! 何やってんだよ一之瀬ー!」
その様子を見て柴田は腹を抱えて爆笑し、神崎も呆れたように笑っている。
「悪い悪い、一之瀬、こっちに投げ返してくれ」
「う、うん。それっ」
掛け声とともに投げられたボールは、ふらふらっとした軌道を描き、俺のところ……からは大きく逸れ、明後日の方向のプールにぽちゃっと落ちた。
「……」
「あははは!」
「も、もう柴田くん、笑いすぎだよー……」
「相変わらずだなー一之瀬は!」
「もー……」
一之瀬は自らの失態を恥ずかしがるように身をよじらせる。
「……相変わらずってことは、あれがいつもの様子ってことか? 神崎」
「……」
沈黙を貫く神崎。
体力やスピードはありそうなのに、それを全く使いこなせてないな一之瀬は。馬力はあるのにハンドルとタイヤがイカれてる車みたいなもんか。
まあそこはセンスが物を言う領域ではあるし、ある程度仕方ない面はあるか……。
一之瀬の意外な欠点を見つけたな。
2
「そろそろ解散にしよっか」
「え、まだ閉館時間まで結構あるぜ?」
「ギリギリまで遊びたいのはみんな同じだから、これ以上いるとものすごい混雑になっちゃうと思うんだ。だからその前に出たほうがいいかなって」
「そうだね。私もそれがいいと思う」
「櫛田ちゃんが言うならさんせー」
と、そんな流れで、少し早いが解散することになった。
「それじゃあ、また出口でね」
「オッケー」
そう言葉を交わし、男女別の更衣室へと向かう。
Bクラスの3人とは離れたロッカーを使用しているため、必然的に距離を取ることになる。
そこである異変に気付いた。
「綾小路はどうしたんだ?」
先ほどから綾小路の姿が見当たらない。
疑問に思って声を上げたが、池たち3人はそれに答える様子がまったくない。
というか、さっきから挙動不審だ。全く落ち着きがない。
理由はまあ……例のビデオだろうけど。
「おい、おいって」
「へ!? な、なんだよ速野、驚かすなよ……」
「いや、肩ゆすっただけで、そんな驚くようなことじゃないだろ……綾小路がいないんだが、あいつどこ行ったんだ?」
「綾小路? し、しらないけど……」
「……そうか」
まだ着替えを終えるほどの時間は経っていない。
更衣室に見当たらないということは、トイレか、まだプールに残ってるってことだ。
トイレならいいんだが、プールに残っていた場合は少し気になる。
俺は体の水気をタオルで軽く拭き取った後、プールサイドへと戻った。
そこでは、まだ遊んでいる生徒に紛れて、綾小路……そして軽井沢が、二人で何か話しているのが確認できた。
「……」
悟られないようにすぐに視線を外し、更衣室へと戻る。
あの様子を見る限り……午前中の軽井沢はやはり、綾小路の指示で動いていたとみてまず間違いない。
ただ、いつの間にあの二人にこんなつながりが……。
確か船上試験で同じグループだったな。その時に仲良くなったのか?
いや、でも試験結果発表のときの様子を見るに、今のように二人きりで話すような間柄とはとても思えなかった。ましてや、更衣室盗撮を阻止するために動くような関係性にあるとは……。
俺が今まであの二人に注目していなかったから、見えていなかっただけか……。
ずっと船上試験でのSIMカード入れ替えの作戦は平田が仲介したものだと思っていたが、もしこの2人が直接つながっていたとしたら……。
もし仮に何らかの事情で、綾小路と軽井沢が協力関係にあるんだとしたら……いい手駒を手に入れたな。綾小路。
あいつもあいつで、あの2つの特別試験から自分一人で動くことの限界を感じ取ったってことか。
……俺もそろそろ、考える必要がありそうだ。
3
「お待たせーみんな。じゃあ寮に帰ろっか」
「おう」
着替えを終えた女子が出てきて、全員で帰ることになる。
バスタオルで拭き取ることのできる水分には限界があり、全員まだ乾ききっていない。また、プールの水に混ぜられている塩素の匂いも、ほんのりとただよってくる。
「堀北」
長い髪を揺らして俺の前を歩く少女に声をかける。
「……何かしら」
「楽しかったか」
「……そうね。案外悪いものではなかった、と言っておくわ」
「……へえ、そうか」
こいつにしてはかなり素直な表現だな。
最初は渋々の参加だったみたいだが……まあ、楽しめたならそれでいい。
感心した視線を向けていると、堀北が前方に意識を向けているのに気づく。
「どうかしたか」
「結局、なんだったのかしらね。あの3人の変な様子は」
「……さあ。更衣室でも別に普通だったし、分からん」
「そう。ならいいけれど」
いや、よくはないんだけどな決して。
ただすでに事態は綾小路と軽井沢によって片づけられている……はずだ。
大ごとになるようなことはないだろう……たぶん。
なんかやっぱ心配になってきたな。まあ俺にはもうどうすることもできないんだが。
学校の敷地から寮までの道のりにあるコンビニが近づいてきたとき、一番前を歩いていた一之瀬が立ち止まり、皆に呼びかけた。
「ねえみんな、コンビニに寄ってアイスでも食べない?」
「おっ、いいね。行く行く」
「俺も!」
みんなも疲れた体に冷たいものを欲しているようで、特に反対する声は出なかった。
15人の大集団が一斉にコンビニになだれ込む……と思いきや、それは正確な表現ではなかった。
より正確には14人。まあそれでも十分多いのだが……俺は店に入らずに残った人物に声をかける。
「お前行かないのか、堀北」
「ええ。一時の欲を我慢するだけでポイントが残るんだもの」
「なんだお前、いつの間にか俺に負けず劣らずの守銭奴になったな」
「何とでも言えばいいわ。勝つために、小さな一歩でも惜しまないと決めたのよ」
「そうか。まあせいぜい頑張れよ。守銭奴の生活ってのも中々厳しいぞ」
節約生活経験者の先輩としてそう助言しておく。
「別に、あなたのように1ポイントも使わないというわけではないわ。100ポイントあれば余裕を持ってシャープペンシルの芯が買える。私ならそっちに費やすわね」
「熱心なことで」
まあ、最近は俺も財布のひもがだいぶ緩んできてるけどな。今みたいな状況でも、アイスを我慢することもない。4月5月あたりでは考えられなかったことだ。
コンビニに入り、アイスのコーナーまで移動する。
「は、速野、お前何買うんだよ?」
クーラーボックスの前、俺の隣に立つ池が聞いてくる。
焦ってるなあ。怪しまれないために、あえて俺に話しかけたのか。でも完全に逆効果だな。嘘のつき方を知らないのかこいつは。
まあ、敢えて突っ込みを入れるようなことはしない。ここは普通に答える。
「ん、ああ……今は何というかこう、さっぱりした感じのやつが欲しいから……これとか」
手にしたのは、水色を基調としたパッケージに包まれた、ソーダ味のアイス。見るからに清涼感があって、今の俺の食欲にマッチしている感じだ。
「それにすんのか。んじゃ俺はこれで……」
池は、俺が手にしたものとは色違い……というより味違いか? とにかく、同じシリーズのアイスで、オレンジ味のものを選んだ。
「春樹ー、お前は何にするんだよ」
「ん? 俺はこれだ!」
そう言って山内が取り出したのは、コーン付きのソフトクリーム型のアイスだった。
「お前それ……結構高いんじゃないのか」
「なーに、明日になればポイントが入ってくるだろ? どうってことないって!」
そう言って山内は余裕綽々の態度を見せた。
確かに山内の言う通り、Dクラスは夏休み期間中に359ものクラスポイントを稼ぎ出した。元々あった87ポイントと合わせて446ポイント。つまり4万5000弱ものプライベートポイントが入ってくることになる。生活は今までよりも数段よくなることは間違いない。
が、ああも露骨に気が緩んでいると、ちょっと心配になるな。
まあ俺が何を言っても、ケチケチすんなと聞く耳を持たないだろう。ほっとくか。
「レジ行ってくる」
じゃれあう二人を放置し、俺は会計のためにレジへ向かった。
結構並んでいるが、様子からして俺たちと同じくプール帰りの生徒がほとんどだ。
そのため買い物の点数は少なく、混雑の割に列はすんなりと進んでいった。
俺もこのアイス1点のみ。30秒とかからず会計を終え、外へ出る。
店の外では、みんなが購入したアイスを頬張っていた。
「んー、冷たくておいしー!」
「疲れた体に染みるねー……」
そんな会話を耳に入れつつ、俺も早速開封して口に入れる。
いや、文句なしに美味いなこれは。
もはや味の説明など不要だ。夏、プール後、そしてアイス。美味くないわけがない。同意できないやつは虫歯か口内炎か重度の知覚過敏症だろう。
そのままガリガリと勢いよく食べ進めていく。
ガリガリガリガリ。
「……んっ?」
アイスで隠れていた木の棒が半分ほど姿を現したところで、俺はあることに気付いた。
「……マジかよ」
これは……。
俺はそのまま食べ進め、店内入り口のすぐ外に設置されているごみ箱に袋のみを捨てたのち、店内のレジに並んだ。
先ほどの混雑は解消されており、カウンターに着くのにそれほど時間はかからなかった。
「どういたしましたか?」
「いや、あの……これ」
店員に見せると、ひどく驚いた表情になる。
「……おお、あたり棒ですか! わかりました。あちらのクーラーボックスから、このシリーズの中で好きなアイスを持って、レジにお越しください」
「……わかりました」
店員の指示に従い、クーラーボックスへと向かう。
そして俺が買ったのと同じ味を取り、レジへ戻って手続きを済ませ、店を出た。
「当たりが出ると、こういう対応になるんだな……」
初めての経験だったため、何というか新鮮な感じだった。
そのまま、この中で唯一アイスを持たない人物へと近づく。
「ほら、これ」
「……何のつもりかしら」
堀北は素直には受け取らず、訝しむような視線で俺を見てくる。
「当たったんだよ。さっきのアイスで。その当たり棒と交換してきた」
「……だからと言って、なぜ私に……?」
「んなもん分かるだろ。お前以外にあげるやつがいないからだよ」
堀北を除く全員、すでにアイスを一つずつ購入済みだ。
「ならあなたが食べればいいでしょう」
「全く同じもの二つもいらん。いいから受け取れ。溶けるだろ」
俺に全く食べる気がないことを察して、ようやく堀北は受け取った。
「……そこまで言うなら、食べてあげるわ」
「ああ、そうしてくれ」
こいつの謎の上から目線の物言いなんて気にしてる場合じゃない。俺の親切心が溶けてなくならなければそれでいい。
「あなたが他人に施しを与えるなんて……明日は豪雪かしらね」
「お前よりはレアリティ低いぞ、少なくとも」
「そうね。私は益のないことはしないから」
「それはそれでいい心がけだと思うぞ」
俺だって同じだしな。
まあ、気まぐれでこんなことをすることもあるが。
「……ありがとう」
「……あ? なんて?」
何か言ったのは分かったが、声が小さくて聞き取れない。
「なんでもないわ」
聞き返したものの、今度ははっきりと聞こえる声でそう言い、スタスタと歩いて行ってしまった。
「……なんだありゃ」
あんなごにょっとした物言いのあいつは、俺がアイスをあげること並みにらしくない。
ちょっと気色が悪いな。
つか、感謝の言葉くらいくれたっていいだろうに。なあ。