実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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先手

 新しく発表された時間割の変更点は、単に体育の授業時間が増えるというだけではなかった。

 体育祭に向けての話し合いの時間として、週に1度、午後の2コマにホームルームが設けられている。

 今はそのホームルームの時間。Dクラスでも、いよいよ話し合いが始まった。

 今回も平田が率先してクラスを引っ張っていくことに変わりはない。

 ホームルームの時間はどう使おうと自由だと言われている。平田が自分の席を立ち教壇に立っても、茶柱先生は特に何も言うことはなく、教室の主導権を明け渡すように端に移動した。

 

「早速、話し合いを始めていきたいと思う。まず何よりも最初に決めなきゃいけないことは、競技に出る順番や組み合わせをどう決めるか、その大本になる方針だ」

 

「方針?」

 

「うん。ただやみくもに決めていくのは得策じゃないよ」

 

「平田くん、その方針って例えばどんなものなの?」

 

「僕は大きく分けて二つあると考えてる」

 

 より分かりやすく説明するため、平田はチョークを手に取り、黒板に書きだす。

『挙手制』、それから『能力制』という文字。

 

「まずは挙手制。これは文字通り、競技に参加する順番や組み合わせなんかを、挙手で募って決めていくことだ。みんなの希望が通りやすいから、体育祭に楽しく挑むことができる。ただ、希望が重なった場合はその通りには行かなくなってしまう。そしてクラスの勝敗という点では、あまり好材料とは言えないね。たぶんムラが出てきてしまうと思う」

 

 わかりやすい説明に、クラスの多くがうなずいている。

 好感触を得た平田は、説明を続ける。

 

「一方でもう一つの能力制は、運動に自信のある人達が勝てるような配置を考えて決めていくことだ。例えば100メートル走でいえば、足の速さに自信がある人同士を別の組み合わせにする、というふうにね。クラスの勝利のためにはこの方法が一番だけど、配置に偏りが出てしまうから、クラスみんなの意思を反映することはできない。はっきり言ってしまうと、運動に自信がない人を切り捨てる策、って捉え方もできてしまう」

 

 平田は挙手制、能力制の文字の先に、自身の説明のまとめのような形で言葉を書き足していく。

 クラスの面々も、それで理解の足しになっただろう。

 

「この二つのやり方のうち、どちらを念頭に置いて組み合わせを決めていくかだけど……」

 

「んなもん、能力で決めるのがいいに決まってんだろ」

 

 平田が言い終える前に、いの一番にそう発言したのは須藤だ。

 この体育祭で、間違いなくDクラスで一番の活躍を見せるであろう生徒。

 全員がそれを理解しているため、今回に関しては須藤の発言力はかなり大きい。

 須藤本人も水を得た魚のように、自信満々な態度を覗かせる。

 

「できるやつが点数稼げば、それでクラスの勝率も上がんだろ。それでいいじゃねえか」

 

「……まあ、そうかもしれないけど」

 

 須藤の言うことは間違っていない。それぞれ思うところはあるだろうが、積極的な反論は出てこない。

 

「俺は運動が不得手だ。推薦競技なんてとてもじゃないが出られない。それを須藤が全て引き受けてくれるっていうなら、賛成してもいい」

 

 須藤を後押しするような意見を表明したのは幸村だ。

 学力は非常に高いが、運動は苦手。定期試験の時などとはうってかわって、あまり活躍が期待できない生徒だ。

 

「もちろんだぜ。俺が推薦競技に全部出てやるよ。つか、運動できねえ役立たずには元々任せらんねえ役割だしな」

 

「ちょっと須藤くん、そんな言い方ないんじゃないの?」

 

 須藤の乱暴な物言いに、気の強い篠原が立ち上がって反発した。

 

「あ? なんか文句あんのかよ」

 

「さっきの平田くんの話だと、能力制になったら運動が苦手な子は切り捨てられちゃうんでしょ? そりゃ、あんまり戦力にはならないかもしれないけど、私たちだって勝つチャンスは欲しいっていうか」

 

「勝つチャンスってなんだよ。お前が勝てると思ってんのか?」

 

「特典は3位の人まで用意されてるんでしょ。もしかしたら、ってこともあるかもしれないじゃない」

 

 運動が得意ではなくても、組み合わせ次第で可能性があり、それを捨てたくはないという主張。

 

「それはあまりにも非効率的な戦い方じゃないかしら」

 

 その様子を見て、堀北も篠原に対する反論に加わった。

 

「適材適所よ。須藤くんのような運動能力の高い生徒に頑張ってもらう。他の生徒はそれを支える。運動のできない生徒の勝利に期待するより、確実性の高い方法であることは明らかよ」

 

「支えるって……言い方で誤魔化さないでよ。結局、私たちが勝つ可能性を切り捨ててるんでしょ」

 

「どう捉えるのも勝手だけれど、それがクラス一丸となって戦う、ということよ。特典に関してのことなら、運動ができる生徒と組まされた生徒は、上位入賞を支えたとして報酬の一部を振り分けることも提案するつもり。個人競技で最下位になってしまった生徒も、ポイントの負担は実質的にゼロにする。それなら文句はないでしょう。勝利より個人的な欲求を優先してもし負けたら、その責任をあなたは取れるというの?」

 

「そ、それはっ……」

 

 クラスの勝利を目指さないという意見が採用されれば、負けたときの責任はその意見を貫いた者が負わなければならない。

 内容的なこともそうだが、クラスの中の意見も堀北に同調するものが多いようだった。堀北の言葉に頷く生徒が随所にみられる。

 しかし、自らの不利を肌で感じながらも篠原は反論を続けた。

 

「……特典はポイントだけじゃないじゃん。テストの点数に不安を抱えてる子はどうするの?」

 

「それはおかしな話ね。テストの点数は日々の勉強の積み重ね、その帰結よ。こんな特典に頼らなくても安心できるような勉強量を普段からこなしておけばいいだけのことじゃないかしら」

 

「でもさー」

 

 と、突如としてそんな声が挟まれる。

 その声を発したのは、軽井沢だった。

 椅子から立ち上がり、堀北を見つめている。

 

「何かしら、軽井沢さん」

 

「テストでミスって退学、なんてこともあるかもしれないわけでしょ。そんな時、もしも特典があったら、ってことになったらどうするの? それこそ、堀北さんが責任取ってくれるわけ?」

 

「そうならないように全力でサポートするつもりよ」

 

「でも絶対じゃないでしょ?」

 

「絶対なんてこの世には存在しないわ。それを言うなら、たとえ特典があったとしても絶対の安全が保障されるわけじゃない。小学生レベルの反論ね」

 

 くだらない、と吐き捨てる堀北。

 キツイ言い方に軽井沢も一瞬言葉に詰まる。

 

「っ、とにかくさ、そんなことで大切な機会を捨てさせられるなんて、理不尽でしょ」

 

「先ほど言ったことの繰り返しになるけれど、それがクラスで一丸となって戦うということよ。分からない?」

 

「分かんないんだけど。ねえ、櫛田さんはどう思う?」

 

 軽井沢は、それまで口を開いていなかった櫛田に話を振った。

 問われた櫛田は、少し考えるような所作を見せ、そしてゆっくりと口を開く。

 

「難しい、問題だよね……。正直、どっちの気持ちも分かるよ。両方の意見を汲んだ形にできれば、一番いいと思うけど……そういう意味では、堀北さんの言ったポイントの分配は、いい意見だと思ったかな。でも軽井沢さんの言う通り、それだけじゃテストの点数の問題は解消できないし……みんなはどう思う?」

 

 自分一人では答えを出せないと踏んだのか、櫛田は他の生徒の意見に耳を傾けた。

 その中の一人が、ぽつりとつぶやく。

 

「私は……軽井沢さんが反対なら、反対かな」

 

 そんな弱弱しい主張を、堀北はすかさず潰しにかかる。

 

「ちょっと待って。意味が分からないわ。軽井沢さんが反対だから反対? 自分の頭で考えることをしないのかしら」

 

「何それ。意見は意見でしょ。出る競技を公平に決めてもらいたいって思ってる人もいるの。そういう人たちを無視してそっちの意見を押し通されるのは納得できない」

 

「これは試験なのよ。勝つための戦略を考えるのが当たり前。他のクラスにあなたたちのような愚か者は存在しないわ」

 

「はあ!?」

 

 議論はヒートアップしていき、使う言葉も強くなってきている。

 このままではまずいと思ったのか、すかさず平田が二人の間に入って止めにかかる。

 

「ちょっと待って二人とも。言い争うのはよくないよ。まずは落ち着いて考えよう。みんなが納得のいく形で……今この場で、多数決を取るのはどうかな?」

 

 状況を打開するための提案。

 平田は教室を俯瞰したのち、堀北と軽井沢にも目を向け、伺いを立てる。

 

「ま、洋介くんが言うならいいけど」

 

 彼氏である平田にまで噛みつくようなことはせず、軽井沢は引いた。

 

「……それで構わないわ。今はクラス内で争っている場合じゃない。あなたたちが正しい判断を下すことを期待するわ」

 

 堀北もそれで収まり、不満げな表情を浮かべながらも椅子に座った。

 いまの、堀北と軽井沢の言い争い。

 俺はそれに強い違和感を覚えていた。

 無人島試験の初め、軽井沢はポイントをできるだけ使わないという男子の意見に賛同していた。多少生活が不便になってもポイントを貯めたいと。

 それならこの体育祭の方針に関しても、どちらかといえば堀北寄りの意見を持つのが自然のはずだ。その点に関する違和感がぬぐえない。一体どういうことなのか。

 

「なあ、なんか変じゃないか軽井沢のやつ」

 

 俺はその疑問を堀北にぶつけた。

 しかし、返ってくるのは斜め上からの反論だった。

 

「彼女が変なのは常でしょう」

 

「……いや、うん、そうじゃなくてな」

 

 この展開にいら立っているのは分かるが、話は最後まで聞け。

 

「無人島試験の時と今、論調が違うと思わないか」

 

「……そういえばそうね。けれど、彼女の行動をいちいち分析していてもキリがないわ」

 

 それだけ言って、俺から目をそらしてしまった。

 その違和感について考えることもない、投げやりな態度だ。軽井沢のことは頭に思い浮かべるのすら嫌そうだな。

 

「まあ、気分なんじゃないか。……ん?」

 

 思考を放棄した堀北の代わりに綾小路がそう言った。

 しかしなぜか語尾に疑問の声を残し、そしてその視線は天井に注がれている。

 

「どうかしたか綾小路」

 

「……いや、なんでもない」

 

 そう言って目線を戻した。

 俺も綾小路と同じ方向に目を向けるが、これといって想定外のものはない。幽霊でも見たのかな。

 そんなやり取りのあと、平田が全員に呼びかける。

 

「じゃあ、決を採るね。もしも決めきれない人がいたら、無投票でも構わない。まず、運動が得意な人を優先する、堀北さんの案に賛成する人は手を挙げてほしい」

 

 堀北、須藤をはじめとして、上位に食い込む自信のある生徒、そして最初から自分には望みがないとあきらめている生徒が手を挙げた。

 後者に関しては、この案においては切り捨てられてしまう存在だが、それでも支持するのは堀北の言ったポイントの融通というのが大きいか。それに、元々体育祭に対してのモチベーションがかなり低いというのもあるだろう。切り捨てられても気にしない生徒たちだ。

 

「えっと……16人、だね。ありがとう。じゃあ次に、個人個人の意向をできるだけ反映する、軽井沢さんの案に賛成する人」

 

 こんどは、確実に上位に食い込むとまではいかないものの、組み合わせ次第では可能性がある生徒、それに軽井沢に乗っかる生徒が手を挙げた。

 

「13人……だね」

 

 16人と13人。堀北の意見に賛同する者の方が3人多い、という結果になった。

 

「これで決まったわね。出場競技の組み合わせ等は、運動能力の高い人を優先して勝つための戦略を立てる。あとは平田くんにお任せするわ」

 

「じゃあ、皆そういうことでいいかな?」

 

 多数決で決まった結果。さすがにもう反論は出なかった。

 軽井沢もそれで大人しく引き下がる。自分の案が否決されたにしては少々大人しすぎるくらいに。

 

「じゃ、さっそく決めようぜ。俺はさっき言った通り、全部の競技に出る」

 

「ちょっと待って須藤くん」

 

「んだよ」

 

 勝手に話を進めようとする須藤を平田が引きとめる。

 

「組み合わせを決めたら、最後に参加表に記入する前にそれをメモすることになるよね。このメモは、絶対に他クラスに見られてはいけないものだ。まずはこのメモの保管方法について話し合いたいんだ。何か意見はあるかな?」

 

「んなもん、平田が保管するんじゃだめなのかよ」

 

「それが最善の方法なら、僕としてもそれで構わない。でもそれに関して、速野くんから意見をもらってるんだ」

 

 なんでここでお前の名前が出るんだ、といった視線が教室中から俺に集まる。

 堀北も疑惑の目を俺に向けているだろうが、俺は後ろを見ていないので実際のところどうかは分からない。

 

「速野くんからの提案は、メモを教室で管理することなんだ」

 

「教室で? でもそんなの、見られやすいんじゃ……」

 

「そうだね。でもメリットもある。紛失の可能性を限りなく低くできることだよ。先生に提出するまで一切教室から出さなければ、たとえ一時的に場所が分からなくなっても必ず教室にあることが分かっているから探しやすい。それから見られやすいっていうデメリットは、ダミーのメモをいくつか用意することで、本物のメモがどれかを分からなくすれば対応できるよ。何より教室には監視カメラがある。他クラスも迂闊な動きはできない。放課後や僕らが教室を空けるときは、カギを締め切ってしまえば入られることもない。どうかな?」

 

 かなり説得的な平田の言葉で、クラスの大半が同意するように頷いた。

 

「じゃあ、これで決まりだね」

 

「悪い平田、もう一ついいか」

 

 次の話題に移る前に、俺は立ち上がってそう言った。

 

「速野くん?」

 

「朝早く、一番乗りで教室に入って見張るやつと、放課後一番最後まで残って見張るやつを、当番制で決めたい。……言い出しっぺの俺はもちろんやるが、さすがに毎日はきついからな。他に信頼できるやつにも頼みたい」

 

 そして教室を見渡す。

 

「平田、櫛田……それに堀北も、やってくれると心強いんだが」

 

 そして、この当番にふさわしいと思った3人を名指しした。

 

「僕は構わないよ。できることは協力したい」

 

 最初に答えたのは平田だった。

 

「うん、私も大丈夫。堀北さんも、どうかな?」

 

 櫛田もそう答え、全員の注目が堀北に向く。

 堀北の目は……一瞬だけこちらを向いた後、すぐに教壇にいる平田に向き直った。

 

「……わかったわ。そのメモは絶対に守り通さなければならない存在。私も似たようなことを提案しようとしていたから」

 

 それを聞いた平田の表情がぱっと明るくなる。

 

「本当かい? ありがとう堀北さん。助かるよ」

 

 これで、メモを守り通す算段を整えることはできた。

 

「自分の出番が決定したら、その出番と自分のパートナー、それから前後のメンバーだけを覚えて、記録しておいてほしい。参加表やメモ全体の写真を撮ったりはしないでほしいんだ。念には念を入れてね。それから、話し合いの時間以外にメモそのものを見ることも極力避けてほしい。ダミーの方を間違って確認しちゃったら、大変なことになるからね」

 

 クラス全体に向けてそう忠告する平田。みんな参加表が漏れることのまずさを理解しているため、納得して頷いた。

 これで、メモに関する話はひと段落。

 話し合いは次の段階、具体的に誰がどの順番で競技に出るのか、といったことに移っていく。

 

「櫛田さん、前に来て、僕と一緒にまとめ役をお願いできないかな」

 

「え?」

 

 平田が櫛田に協力を仰いだ。

 こんな誘いを受けるのは想定外だったようで、櫛田は驚いた様子だ。

 

「スムーズに決めていくために、櫛田さんの力を借りたいんだ。協力してほしい」

 

 真剣な表情で頼み込む平田。

 こういった頼み方をされると、櫛田は断りづらいだろう。

 少しの間のあと、ゆっくりと頷いた。

 

「……うん、わかった。私で力になれるなら」

 

「ありがとう櫛田さん。重ね重ねごめんね」

 

「ううん、みんなで力を合わせて頑張りたいから、私にできることは何でもするよ」

 

 そんな力強い櫛田の宣言に、教室から歓声が上がった。

 その歓声に迎えられるようにして、櫛田は前に出て平田の隣に立つ。

 

「それじゃあ、まずは決めやすい推薦競技から考えていこうか」

 

 そうして、話は煮詰まっていく。

 今回の話し合い、かなり出しゃばったことをしてしまった自覚はある。

 だがダミーのメモの用意くらい、ちょっと頭をひねれば思いつく。メモの見張りのために当番を設けることも。単に思い付きの策がたまたま採用されただけ、と認識されるだろう。都合のいいことに、堀北が「自分も同じような策を提案しようとしていた」って言ってたしな。

 それでも多少のリスクはあった。だが、それはかける価値のあるリスクだ。

 すべては一つの目的のため。

 

 

 

 

 

 1

 

 帰りのホームルームが終わり、帰宅時間となった。

 

「速野くん、櫛田さん、それに堀北さんも。いいかな」

 

 みんながせっせと帰り支度をしている中、俺たち3人は平田に呼び出された。

 この4人はメモの見張りをするメンバーだ。平田はそれに関する話し合いがしたいんだろうと想像がつく。

 堀北も、ここは特に何も言わずに平田のもとへ足を運んだ。

 

「ごめんね、呼びだして」

 

「構わないわ。メモの見張りの件でしょう」

 

「うん」

 

「今のうちに当番を決めておいた方がいいよね」

 

 俺以外の二人もしっかりと用件を理解していたらしい。平田も満足げにうなずいた。

 

「そうだね。そこで3人に相談なんだけど、僕は部活があるから放課後は難しい。できれば早朝を担当したいんだ。構わないかな?」

 

 事情を説明し、申し訳なさそうに言う。

 

「そんな、全然気にしないでいいよ」

 

「習慣的なことをいえば朝の方がきつさは上だ。気にするどころか、それをやってくれるんなら助かる」

 

 櫛田も俺も承諾した。

 堀北は何も言わなかったが、かといって特に反発する様子はない。

 

「3人ともありがとう。じゃあ、僕は朝だね」

 

「分け方としては、朝夕二人ずつが望ましいな。もう一人の朝担当は俺がやるか」

 

「朝がきついと宣ったあなたに任せられるはずがないでしょう。私がやるわ。朝は得意よ」

 

 間髪入れずに、堀北がそう言った。

 

「……助かります」

 

 まさに、一刀両断だな。何となくそう言われる気はしてたが。

 

「じゃあ、残った私と速野くんが放課後の担当だね。任せて」

 

「うん。お願いするよ」

 

 結局、平田、堀北が朝、俺、櫛田が放課後の担当ということで決着した。

 続いて、今度は俺からの提案を話す。

 

「見張り中の話なんだが……俺たちも、参加表そのものを取り出したりはしないようにしないか。どこに誰の目があるか分からない」

 

「それが手堅いでしょうね。参加表は話し合いの時に取り出し、終わったらすぐに片づけて、次の話し合いの時間まで触ることすらしないようにしましょう」

 

「賛成だよ」

 

「私もそれがいいと思う」

 

 こういった感じで、スムーズな話し合いで結論が定まっていく。3人とも頭の回転が速いため、余計な言葉が必要なくかなりやりやすい。

 

「それじゃ、後は朝夕それぞれの組同士で、どうやって当番を分けるかを決めようか。放課後の見張りは、さっそく今日からお願いしたい」

 

「ああ、分かった」

 

「任せて」

 

「ありがとう」

 

 堀北、平田の二人と別れ、次は櫛田と二人での話し合いだ。

 集まった場所からは俺よりも櫛田の席の方が近かったため、櫛田は自分の席に、俺はその隣の席を拝借して腰かけた。

 

「速野くん、なんかやる気満々だねっ」

 

 俺が座ったのを確認して、櫛田がさっそく話しかけてきた。

 

「まあな。夏休みの特別試験での堀北の活躍にあてられたのかもしれない」

 

「あはは。でもすごく頼もしいよ」

 

「ダミーの参加表やら見張りやらなんやらは、たまたま思いついたんだよ。正直、採用されるのが恐れ多い」

 

「そんな、すごくいい提案だと思うよ。体育祭、皆でがんばろっ」

 

「……そうだな」

 

 こんなふうに皆を元気にする天使のような少女が、このクラスを裏切っているなんてあり得ることなのか。そう思いたくなってしまう。

 しかし、外面で判断してはいけない。あくまでも警戒していかなければ。

 

「それで、見張りの当番だが……櫛田は俺と違って、友達付き合いも多いだろ。月から金のうち、1日だけでもやってくれればいい」

 

 俺は話し合いの一歩目として、まずはそう切り出した。

 

「え……それだけでいいの?」

 

 遠慮するようにそう言う櫛田。

 

「いい。俺は教室にいても寮にいても、やることはほとんど変わらないからな」

 

「えっと、何をしようと思ってるの?」

 

「勉強だよ」

 

「わ……すごいね」

 

 素直に感心した表情を浮かべる櫛田。

 

「学生の本文でもあり、俺の数少ない取り柄でもあるからな。普段、寮の自室にいるときも勉強してることが多い」

 

「すごいなあ。私、宿題と予習復習やったら、友達と電話とかで時間潰しちゃうから」

 

「予習復習やってるだけ大したもんだと思うぞ」

 

「そうかな?」

 

「ああ」

 

 塾にでも通ってれば、そこでの学習が予習復習の役割を果たすが、この学校の敷地にそんなものはない。

 あくまでも自主性に任せられるこの学校で、テスト前でもないのにきっちりと予習復習まで習慣づいているというのは誇っていいことだろう。

 

「勉強に関することで速野くんに褒められると、自信つくかも。ありがとう」

 

「別に、素直な感想だ」

 

「あ、それから、速野くんの取り柄は勉強だけじゃないよ? 数少ないなんてことはないよ。クラスのためにこんな行動を起こせるとことか、尊敬するよ」

 

「お前に比べたら大したことじゃない」

 

 平田と櫛田のクラスへの貢献度はとてつもなく高い。二人に比べれば、この程度は仕事をしたうちにも入りはしないだろうな。

 ……櫛田といると自然と会話が弾む。コミュ障の俺でもこれだ。すごいな。

 

「あ、速野くん。1日だけでいいっていうのは凄くありがたいんだけど、それだとやっぱり申し訳ないよ」

 

「……いいのか? それ以上頼んで」

 

「うん。あ、さすがに毎日はちょっと厳しいけどね」

 

 櫛田は冗談めかしてそう言った。まあそりゃそうだ。

 

「……じゃあ、月水金が俺で、火木が櫛田、ってことでいいか」

 

 週当たりで、俺が3日、櫛田が2日。バランスとしては申し分ない。

 

「速野くんがそれでいいなら、お願いできるかな」

 

「ああ。じゃあ決まりだな」

 

 お互いに頷き合い、同意に至る。

 こうして、こちらの話し合いも平和的にまとまった。

 

「今日は俺の当番だ。櫛田は帰っていいぞ」

 

 借りていた席から立ち上がりながら、俺は櫛田に帰宅を促す。

 

「うん、ありがとう。じゃあよろしくね」

 

「ああ」

 

 感謝の言葉を述べた櫛田は、その後ほかの生徒と同じように帰り支度を始めた。

 平田と堀北の方もすでに話し合いは終わったようで、二人とも教室に姿はなかった。

 俺は自分の席に座り、勉強道具を広げつつ、考える。

 ……これで、餌は撒き終えた。

 あとは食いついてくるのを待つだけだ。

 

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