実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
入学2日目。
高度育成高等学校の時間割は、午前中4コマ、昼食をはさんで午後2コマで、1日合計6コマとなっている。
今日が初めての授業。しかし、学習内容には入らなかった。
教科書の配布や、その科目の導入に際しての話など、全てのコマで、所謂オリエンテーションが執り行われていた。
また4コマ目にあたる昼食の直前のコマを利用し、新入生に向けた部活動説明会が体育館で開かれることになっていた。
この学校に部活の加入義務はない。
しかし学校の方針としては、部活に加入することを生徒に推奨している。
授業のコマを消費して話を聞かせるのもその一環だろう。
俺たち新入生は、敷地外に出ること、および外部との連絡は一切禁止、という旨の説明を受けている。じゃあ対外試合の場合はどうするのか、ということは個人的に気になっていたが、それは普通にオッケーで、その代わりに現地では厳重な監視がつくらしい。
連絡といえば、昨夜、藤野から本当に連絡が来て軽くびびった。
確かに「今日の夜連絡するね」とは言われたが……まさか社交辞令じゃなかったとは。
で、どんな会話をしたかというと、藤野の「よかった、ちゃんと繋がったね」、という言葉で始まり、今何してたかを言った後、話題が尽きて沈黙が流れ、じゃあまた明日、で終わった。
まったくもって面白味のないやりとりだったが、俺にまともな会話スキルを求めたのが悪い、と責任転嫁しておくことにした。すまんな藤野。
それにしても、どうしてこの学校は外部との連絡を固く禁じているのだろうか。
漏れたら困る情報があるのか。
悪評が広がるのを未然に防いでいるのか。
しかし現時点では、この学校に悪評が生じる要因なんてない気がするんだが。
不自然ではあるが、大量のポイントが付与されている。
それに昨日1日過ごしただけでも分かるが、設備のレベルも相当高い。
昨日改めてパンフレットを見てみたが、本当に多種多様の娯楽施設が完備されていて、おおよそ生徒たちは不自由しないだろう。
設備に関して少し気になることといえば、校内のいたるところに監視カメラがあるということ。
巧妙に設置されており、普段から神経質な人間でなければ気づかないだろう。
現に須藤は昨日のコンビニでの場面、カメラには全く気づいていなかった。
今日の朝、教室にも設置されているのを見つけたが、それも昨日の時点では分からなかった。
注意して見てみると、廊下、階段、それに通学路など、本当に監視カメラをよく目にする。
監視カメラをつける目的なんて、普通に考えれば防犯くらいのものだ。
しかしただの防犯目的にしては、設置する箇所が多い気もする。
何か他の理由があるのか……。
生徒を監視して緊張感を与える、という目的でつけるなら、生徒にカメラの存在を周知しておかないとその効果は期待できない。
とすれば、生徒の出来るだけ自然な姿を見たい、という事だろうか。
それなら、生徒に監視カメラの存在がバレるまでは効果的だと言える。
だが、それでも早い段階で監視カメラの存在は周知の事実になるだろう。もって2ヶ月くらいか。
効果的ではあるが、長続きはしない。
仮にも政府主導で作られたこの学校が、そんな方法を取るだろうか。
考えても、現時点では答えは見えてこない。
この学校で時を過ごしていけば、いずれ分かる時が来るだろうか。
1
部活動説明会の真っただ中。
俺は漏れ出そうになるあくびをかみ殺すのに苦労していた。
それに失敗した場合は、手で口を抑え、周りに口を開けているのが見えないようにする。
なぜ俺がこんなことをしているのか。
理由は単純。説明会に全く興味が湧かなかったからだ。
上級生たちは新入部員獲得のため、新入生の興味を引こうと頑張っている。
たまにウケを狙ってくる人もいたが、ドン滑りで失笑を買うだけだった。気の毒。今発表が終わった先輩なんてちょっと泣きそうになってたぞ。
部活か。
部活には所属したことはないな。
個人的には運動は得意でも不得意でもないが、少なくとも嫌いなわけじゃない。
少なくともバスケは好きだ。
だが、部活に入ってまでやりたいとは思わない。
部活に所属すると、知らず知らずのうちに自分の中で「練習行かなきゃ……」といった義務感が働く。
俺は、スポーツはやりたい時にやり、やりたくないときはやらない、というのが一番いいと思っている。
こんなこと言うとプロを目指している人に怒られるかもしれないが、俺はただの趣味に義務感で時間を割くような真似はしたくなかった。
紹介された部活は、いま俺が言及したバスケのほか、バレー、野球、サッカー、陸上、水泳等々、王道の部活は揃っていた。
文化系部活もあったが、そちらはほとんど覚えていない。
たしか……花道部とか茶道部とか、あと家庭科部だか料理部だかはあった気がする。
ともあれ、俺が部活に入るということは現時点ではなさそうだ。
「……」
そう結論付けると、いよいよ退屈である。
本当に退屈した時は、無性に体をひねったり動かしたりしたくなる。俺もその欲求に従って首を回し、ついでに周りを見回した。
割合にして半分くらいの生徒たちは、俺同様退屈している様子だった。
俺のように部活そのものに興味がない人だけではなく、既に興味のあった部活の紹介が終わってしまった、という人も多いだろう。
「んー……お?」
首が右を向いた時、後ろの方に堀北がいることに気がついた。
もしかして最初からそこにいたのだろうか。移動したときはバラバラだったし、体育館に来てからはずっと益体もない考えごとばかりしていたため気づかなかった。
その堀北の視線は、舞台上に不自然なほどに一直線に注がれている。
もちろん、今は部活動説明会。本来そうすることが正しい。
しかし今堀北が向けている視線には、単に説明している先輩を見る目とは違う、他意を感じた。
俺が見ていることに気づかれても困るので、視線を外し、堀北と同じ方向に目を向けた。
「カンペ持ってないんですかー?」
1人の生徒のヤジが飛び、場内は笑いに包まれる。
堀北が視線を向けるその上級生は、舞台に立っているにもかかわらず、一切何も話そうとしない。
始めはみんな緊張で固まっているものだと思い、その上級生をいじるような雰囲気だった。
しかし上級生は微動だにしない。
そのうち、体育館の中は妙な空気に包まれ始める。
徐々に、徐々に話し声が小さく、少なくなっていく。
そしてあのヤジから十数秒と経たないうちに、誰も一言も喋らない、いや、喋ってはいけないと思わせるような静寂が訪れた。
そのタイミングで、壇上の男は話し始める。
「私はこの学校で生徒会長を務める、堀北学です」
堀北。
その苗字は、隣にいる俺のクラスメイトと同じものだ。
「生徒会でも、他の部活同様、一般生徒から役員を募ります。立候補に必要な資格はありませんが、入会した場合は、他の部活動との掛け持ちは、原則認められません」
丁寧な口調で淡々と説明していく生徒会長。
普通なら、特別な感情を抱くことはない。言葉だけを追えば、今までの部活動紹介と何も変わらない。いや、むしろつまらない部類に入るものだ。
しかし、先ほどまでその約半数が暇を持て余していた体育館の新入生総勢160名は、いまはそのほとんど全員がこの生徒会長の演説に聞き入っていた。
この生徒会長が、堀北学という男が話す一言一言には、丁寧ながら、確かな鋭さがあった。
その場にいて直接触れることでしか実感することのできない凄み、カリスマ性といったものが、この生徒会長には備わっている。
そして、と、会長は続ける。
「生徒会は、半端な気持ちでの立候補者は必要としていない。もしもそのような気持ちで立候補した場合、恥をかくだけでなく、この学校に汚点を残すことになることを理解してもらいたい。この学校の生徒会は、それだけの学校からの信頼と、誇りを持って活動している。確かな信念を持つもののみ、ぜひ私たちとともに活動していこう」
「堀北さん、ありがとうございました」
会長の発表が終わった。
しかし、拍手すら生まれなかった。
司会進行が説明会の終了を告げるまで、この場にいる者は誰1人として口を開くことができなかった。
2
体育館も人がだんだんと少なくなっていき、俺も戻るか、と出口に向かって歩みを進める。
その時ふと、不自然な光景が目に入った。
「……おい、堀北?」
「……」
立ち尽くしたまま、一言も喋らない堀北。
無視して先に行ってもいいのだが、少し気になる。
「おーい」
「……」
やはり、声をかけても無反応だ。
無視を決め込んでる感じもしない。
これ、俺の声聞こえてないんじゃないのか。
なら……
パンッ
「ひあっ!」
「……」
「……な、何を……」
「いや、呼んでも無反応だったから……」
ビンタを食らわせたわけではない。
顔の目の前で手を叩く、猫騙しというやつだ。
堀北を驚かせて気づかせるのには成功したのだが、あまりに意外すぎる堀北の小動物的な反応に、逆にこっちが驚かされてしまった。
堀北自身も今の反応は恥ずかしかったのか、ちょっと顔が赤くなっている。
珍しいものが二連発で見れたなー、とか思っていると、堀北の表情はいつの間にか普段通りに戻っていた。
いや、訂正しよう。普段の8割増しの殺気が溢れていた。
今後このことを言い出そうものなら殺すと堀北の目が語っている。言わねえよ。言わねえから睨むな。怖いなまったくもう。
「……みんな戻り始めてるぞ。早く歩けよ」
「先に行けばよかったでしょう。待ってほしいなんて頼んでないわ」
「……でも、お前あのまま1時間くらい立ち尽くしてそうだったぞ」
「……別に、少し考え事をしていただけよ」
堀北はそう言って、何も問題がないことを強調する。
考え事……というより、頭が真っ白になって動けなかった、という感じがしたが。
ここは一つ探りを入れてみるか……
「同じ苗字だったな、お前とさっきの生徒会長」
そう口にした瞬間、堀北の体が跳ねたのがわかる。本人は隠そうとしたようだが隠しきれていない。
いまの反応で確信に変わった。この二人は恐らく兄妹、そうでなくても何かしらの血縁関係がある。
そして恐らく二人の関係は、あまり良いとは言えない状態にある。
とは思うものの、他の家族の問題に首を突っ込むなんて野暮なことだ。
今は、これ以上この話題に触れることは避けておく。
3
「速野くん、だよね?」
「……?」
放課後を迎え、寮に帰宅しようとしたところで、突然名前を呼ばれた。
「僕は平田洋介。よろしくね」
「あ、ああ。よろしく。速野知幸だ」
爽やかな雰囲気で、且つイケメン。ザ・好青年という感じの男子生徒だった。
「……何か用か?」
「ああ、ごめんね。そんなに時間は取らせないつもりだよ」
「いや、急いでるわけじゃないが……」
平田は今朝、多くの生徒(特に女子)から頻繁に声をかけられていたため、よく目立っており、記憶に残っている。
そんなクラスの人気者が、いったい俺に何の用なのか。
「実は昨日、クラスで自己紹介をしたんだ。でも、速野くんはその場にいなかったよね?」
「ん……ああ、話は聞いてる。先生が出て行った後にやってたらしいな。ちょうどその時……トイレに行ってたんだ」
昨日と同じく「雉を撃ちに行ってた」と言おうとしたが、やめた。
「そうだったんだ。安心したよ」
「……安心?」
俺がトイレ行ってたことで安心する要素なんてあるか?
思いつくこととしては俺が便秘じゃないことが確認されたくらいだが……そうなると、平田が初対面の生徒の腸内事情を心配する変人ということになる。
「実は、自己紹介を拒んで教室を出て行ってしまった人たちがいてね……当然、強制することじゃないから、不快に思わせてしまったことを申し訳なく思ってたんだけど、速野くんはそういうわけじゃなかったんだ」
ああ、なるほどそういう話か。納得。
自己紹介を拒んだのは、多分堀北や堀北、それに堀北とかのことだろう。
話を聞く限り、自己紹介をやろうと発案したのはこの平田らしい。
入学初日で誰もが戸惑っている中、そう簡単にできることじゃない。
きっとこれから、クラスのリーダー的存在になっていくんだろう。
「今日の部活動説明会、何か気になる部活はあった?」
「いや……どこにも入る気はないな」
「そうなんだ。僕はサッカー部に入ろうと思ってる。中学から続けてるんだ」
「……そうなのか」
サッカー部か……なんというか、イケメン要素を詰め込んでるな。
いまここで俺に話しかけてるのは、自己紹介ができなかった俺への気遣いだろう。
……あれ?
俺が自己紹介をしてないってことは……。
「そういえば平田、なんで俺の名前知ってたんだ?」
俺は自己紹介をしていないんだから、本来平田が俺の名前を知っているはずがない。
「ああ、さっき君が持っていた教科書にそう書かれているのを見たんだ。ごめん、驚かせちゃったかな」
ああ……そうだったか。納得した。
「いやいい」
「ごめんね、急に呼び止めたりして。これからよろしく、速野くん」
「あ、ああ。こちらこそ」
そう言うと、平田は荷物を持って教室を出て行った。
確か、部活の申し込みは今日からスタートだったな。サッカー部に入ることをすでに決めている平田は、恐らく入部申請をしに行くんだろう。
俺はこれ以上学校にいる用事もないので、寮に帰宅することにする。
ただ、俺と同じように放課後に直帰するのは少数派だ。
多くの生徒は、与えられた大量のポイントを使い、昨日と今日で仲良くなったメンバーで娯楽施設に遊びに行く。
中には未だに友達を作れていない生徒もいるが、一人でも楽しめる娯楽施設は敷地内に多数存在するので、特にこれといった用がなくても足を運ぶ生徒もいる。新入生にとっては何もかもが目新しい光景のため、退屈はしないだろう。
いずれにせよ、寮に直帰、という選択をする生徒はあまり多くない。
「平田と何話してたんだ?」
荷物を背負ったところで、後ろの席の綾小路に声をかけられる。
今日一日の様子を見ている限り、綾小路は昨日トラブルがあった須藤、それに同じくクラスメイトの池や山内と多少話す関係になったようだ。
こういったところから友達の輪というのが広がっていく、というのは分かっているのだが、俺が知りたいのはどうやって多少話す関係になったのか、という部分だ。
しかし今それを考えても答えが出ないことは分かりきっているので、ひとまず綾小路の疑問に答えることにする。
「別に……世間話みたいなもんだ。昨日俺が自己紹介に参加してなかったから、気を遣って話しかけたんだろ」
「なるほどな」
綾小路もいま教室を出るところだったらしく、並んで教室を出る。
こいつもそのまま寮に行くので、一緒に帰ることになりそうだ。
とはいえお互いによく話すタイプではないので、俺たちの間に流れるのは、そのほとんどが沈黙の時間だ。
……学食の無料の商品のこと、綾小路にも共有しておくか。
「もう学食行ったか?」
「いや、まだ行ってない。昨日も今日もコンビニだった」
確かに、今日の昼も教室でコンビニ飯食ってたな。
「実は、学食にも無料のものがあったんだ」
「……本当か?」
「ああ。『山菜定食』ってメニューだったんだが、マジでおいしくなかった」
「食べたのか……」
「今日の昼にな。……悪いか?」
「いや、悪いってことはないが……」
たしかに10万ものポイントを貰ったばかりの1年生の中にこんなメニューを口にしたやつは俺ぐらいしかいないだろうが、別にそれを禁じるルールがあるわけではない。
ちなみに山菜定食の味だが、先ほど言ったように確かに全くおいしくない。
しかし重要なポイントは、決して不味いわけでもない、ということだ。俺が「おいしくない」という表現を使い続ける理由はここにある。
おいしくないので積極的に食べようとは絶対に思わないが、「食べたくない」とは思わない。むしろ無料というメリットを考えると「食べてもいい……のか?」と思ってしまう、非常にタチの悪い商品だった。
「コンビニの次は学食にも、か」
「ああ。それと、あそこにあるミネラルウォーターも無料だ」
「……本当だ」
マジかよ。今歩いてる場所から自販機まで割と距離あるんだが、見えるのか。目いいなこいつ。モンゴルの遊牧民かよ。
「ポイントが足りなくなったら、オレも使わないといけなくなるかもな」
「そりゃそうだろうけど、昨日堀北が言ってたように、10万も貰って足りなくなるって普通じゃないと思うけどなあ」
「まあ、確かに」
支給されるポイントが減る可能性については、全く考えていない体で会話を進める。
そのことについても言おうか迷ったが、話がややこしくなりそうなのでやめておいた。
「なあ、速野」
「ん、何」
「一つ頼みがあるんだが」
「……急だな。どうした」
大したことではないだろうとは思いつつも、少し身構える。
「よければでいいんだが、連絡先交換しないか?」
……前言撤回。俺にとってはめちゃくちゃ大したことだった。ごめん綾小路。
マジで急だな。いや、もちろん大大大歓迎なんだが。
「ああ、いいぞ」
他の生徒の歩行の邪魔にならないよう、一度歩道の端に避けて作業を行う。
交換の操作は滞りなく終わり、無事二人目(クラスメイトでは初めて)の連絡先を入手することに成功した。
「そういえば、Dクラス全体と、男子用のグループチャットができてるんだ。一応招待しておくぞ」
「あ、ああ、助かる」
もうそんなのできてたのか……
それに綾小路がすでに参加していたということにも、失礼ながら少し驚きを感じてしまった。
俺が招待された二つのチャットのルームには、それぞれチャットへの参加人数が表示されており、クラスの方は32人、男子の方は17人が参加していた。
クラス全体で40人、男女比は半々だから、クラスチャットには8人、男子チャットには3人、それぞれ参加してない生徒がいることになる。
クラスの方の8人のうち1人は絶対に堀北で確定だとして、それを除いてもあと7人も参加していない人がいるんだな。少し意外。
そういえば、綾小路は何人の連絡先を持ってるんだろうか。
せっかくだし聞いてみるか。
「今までに何人と連絡先交換したんだ?」
「速野含めて4人だ」
「……なるほど」
いや、何がなるほどなのかは自分でもわかってないんだけど。
俺の倍か。
4人という数字が少ないのかは分からないが、恐らく多い方ではないだろう。
対して、俺の2人という記録が少ない数字であることは間違いない。