実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
いよいよもって、体育祭に向けて本格的に実技面での練習が始まろうとしている。
実技面、とあえて言ったのは、そうでない部分、つまり入場行進やら競技の開始から終了までの一連の流れやらの練習は、すでに前から始まっていたからだ。
それらに割かれる時間は、体育の授業とは別枠の「体育祭練習」として、全学年全クラス同時に取られている。
そして、初めに言った実技面での練習を行うのが「体育」の授業というわけだ。
この時間は何をやっても自由。もちろん、体育祭となんの関係のないことをやって遊び呆けるのは減点対象になるだろうけどな。
ちなみにDクラスでは以前の話し合いで、ホームルームも練習に費やすことを決めている。
「借りてきたよ、握力測定器」
そう言って、平田が小走りでグラウンドに来た。
クラスの方針は運動ができる生徒を優先するというものになったが、運動ができるかできないかそのものを判断するために、簡易的な体力測定が必要になる。
その中の一つが握力測定だ。
もう一つは100メートル走。それは現在女子がやっている。
ちなみに、測定するまでもなく運動神経が高いことが明らかである須藤や平田、堀北、小野寺などの面々は、すでに誰との組み合わせになるかは大方決まっており、参加表にも記入が済んでいた。
「順番に、利き手の握力を測っていこう。結果は僕に口頭で伝えてもらえば、このノートに記録していくから。測定器は2つあるから、一つは右回り、もう一つは左回りに回していって効率的にいこう」
「んじゃ、まずは俺から測るぜ。最初に高い目標を見せとかねーとな」
順番に、という平田の言葉が聞こえていなかったのだろうか。須藤はそう言って、平田から測定器をぶんどってしまった。
「……じゃあ、もう一つは須藤くんの隣の外村くんから回していこうか」
平田は仕方なく、外村に測定器を渡した。
「おらあ!!!」
気合の声とともに、須藤が測定器を握る。
モニターの数字はぐんぐん上がっていき、最終的に示した数値は82.4キロ。
「おま、マジでバカ力過ぎだろ! ゴリラかよ!」
「普段から鍛えてっからな。当然だぜ。つか、誰がゴリラだ」
「あだだだだだだ! 悪かった、悪かったって!」
余計なことを口走った池が須藤からの折檻を受けている。
一通り池を痛めつけ、満足したところで解放した。
「はあ、はあ、死ぬかと思った……」
「ったく。おら高円寺、お前も測れよ」
体育館の壁にもたれて爪を研いでいる高円寺に、須藤が呼びかける。
しかし、この男はやはりぶれない。
「興味ないねえ。君たちで勝手にやっていてくれたまえ」
「あ? ざけんなよてめえ。ああ、俺に負けるのがこええのか」
なんとか舞台に引きずり出そうとする須藤だが、その安い挑発は高円寺には全く届いていない。
「……くそが。ほら、お前だぜ綾小路」
そうして、測定が進んでいく。
しばらくして、俺にも外村からの測定器が回ってきた。
「はあ……」
少しため息が出てしまう。
というのも、俺が体力測定で最も苦手としている種目が、この握力なのだ。
以前堀北に貧相な体だと言われたことがあるが、あれに関してはもっともな指摘で、俺はパワーがゴミクズなのである。
とりあえず、全力をもって測定器を握る。
「……32.6キロか」
「え、弱くね?」
近くにいた本堂にそう言われてしまう。
本堂も思わず口をついて出てしまったようで、俺が視線を寄越すとやべっとか言いながら口を塞いでいた。
いやまあ、事実だから仕方ないっちゃ仕方ないが……。なんかむかつく。
俺がお前のテストの点数見て「低くね?」って口走っても文句言うんじゃねえぞこの野郎。
心の中で文句を垂れつつ待機していると、7、8分ほど経って男子全員の測定が終了した。
上位3人は須藤、綾小路、平田。
綾小路は60.6キロ、平田は57.9キロ。
珍しく綾小路が好成績を残している。なんだあいつ、調整ミスったのか?
「とりあえず、推薦競技の四方綱引きはこの値をそのまま採用していいね。4人選ぶ必要があるから、須藤くん、綾小路くん、三宅くん、それから僕」
記録を見ながらメモを取っていく。
純粋なパワーがものをいう競技だ。特に反論は出ない。
やるべきことをやり終え、平田は女子の方に目を向けた。
「100メートル走はまだ全員は終わってないみたいだけど、走り終わった女子には握力測定をやってもらうことにしよう。櫛田さんに言ってみるよ」
時間を有効に活用するためだろう。測定器を2つ持って、女子の方へと駆けていく。
櫛田と二言三言交わし、持って行った測定器を預けてこちらに戻ってきた。
「あともう少しで全員走り終えるみたいだから、みんな改めて準備体操しておこう」
まだ終わっていない生徒は100メートルのスタートラインに集まっているが、その数は6人。あと5分もしないうちに終わるだろう。
平田の指示通り、腱を伸ばしたり足首をほぐしたりして、その時間を潰した。
ほどなくして、櫛田から全員終わった旨を報告され、男子の100メートルが始まる。
2列に分かれて2人ずつ走る。計測は平田が、スタートの合図は綾小路が請け負った。
あいつがこんな面倒ごとを引き受けるとは正直以外だったが、誰もやりたがらないので特に文句が出ることはなかった。
「っしゃ、見とけよ」
握力と同じく、100メートルでも須藤がトップバッターを務める。
綾小路が腕を振り下ろし、スタート。
「うお、はやっ!」
完璧なスタートダッシュで、早くも隣を走る伊集院を置き去りにする。
そのままスピードを落とすことなくゴール。タイムは分からないが、相当速いことだけは確かだ。
続いて伊集院もゴールし、すぐに次の走者である池と山内が準備にかかる。
「運動だけはすげーよな、健のやつ」
「ま、俺も中学の時インターハイで決勝まで残ったけどな」
「嘘つけ」
また山内の虚言が始まった。そもそもインターハイは高校だ、なんてツッコミはもはやする気にもなれない。
スタートを切る。仕方のないことではあるが、須藤と比べるとかなり見劣りする。
二人仲良くほぼ同時にゴールした。
その後順番は巡っていき、俺の番になる。
隣を走るのは三宅だ。
綾小路の腕が降ろされたのを見て、すかさずスタート。
初めの10メートルは俺がリードしていたが、その後追いつかれ、30メートル地点ではほぼ横並び。それ以降はどんどんリードを許し、体3つ分ほどの差でゴールした。
「三宅くんが12秒75、速野くんが12秒92だね。お疲れ様」
手元のタイマーを見ながら、平田が俺たちのタイムを告げた。と同時にノートに記録していく。
「ほかのやつらのタイムはどれくらいなんだ?」
自分がクラスでどれくらいに位置しているかを知りたいようで、三宅が尋ねる。
「ノートを見てみるかい?」
「いいのか?」
「見るだけなら構わないよ」
「じゃあ、ちょっと借りるぞ」
「うん」
承諾を得て、三宅がノートを眺める。
「……俺も見ていいか?」
「ああ」
俺も気になってはいたので、三宅の隣で拝見させてもらうことにする。
「須藤の奴10秒台じゃねえかよ……バケモンだな」
須藤の記録を見た三宅が感嘆の声を漏らした。
手動測定でブレも大きいため正確ではないだろうが、この数値なら陸上でも十分通用するんじゃないだろうか。改めて須藤の身体能力の高さを思い知らされる。
俺は……一応速いほうみたいだな。12人走り終わって4番目の記録だ。
ちなみに三宅は須藤に次いで2番目の記録だ。
握力でも4番目だったし、三宅は高い身体能力を持っているようだ。
そして……。
いや、これは後で、着替えの時にでも言うか。
全員が走り終え、結局俺は全体で7番目という立ち位置に落ち着いた。
この結果、推薦競技であるクラス対抗リレーには須藤、三宅、平田、加えて女子からは堀北、前園、小野寺が選ばれることとなった。男女混合二人三脚についても、この6人の中からペアを見つけることになる。
一通りの測定が終わり、Dクラスが全員集合する。
「これで4つの推薦競技のうち、3つを決めることができたね。まだ決まってない残りの1つ、借り物競争も、いまこの場で決めよう」
「でもどうやって決めるんだよ?」
借り物競争は、身体能力的な部分もそうだが、この中では一番「運」の要素が絡んでくる競技だ。単純に運動神経がいい者を選ぶことは、必ずしも最適解とは言えない。
そもそも推薦競技にすべて出場するなど、体力バカの須藤だからこそできる芸当であって、普通はスタミナ面も考えてできるだけ分担していくべきなのだ。
休める部分で休んでもらう。そしてその「休める部分」の筆頭がこの借り物競争だ。
「決め方はじゃんけんでいいんじゃないかな? 運には運を、ってね」
一見してふざけた提案だが、ことこの競技に関してはそれで事足りるだろう。対案もなく、反対意見が出る様子もない。
須藤は全競技に出場することが決定しているため、それ以外の5人を決めるじゃんけんだ。
その場で7~8人の5グループに分かれてじゃんけんを行う。勝ち残った最後の一人が出場決定となる。
1回戦目、勝利。
2回戦目、またも勝利。
そして3回戦目。俺と綾小路の一騎打ちだ。
あれよあれよと勝ち上がった綾小路だが、心の底から負けることを願ってるだろうなこいつは。
俺も積極的に参加したいわけじゃない。借りてくるお題の引きによっては、最悪の場合最下位のペナルティを受けてしまう可能性があるのだ。
もちろん、3位までに入賞すれば特典がついてくる。それを目当てで強く参加希望をしている生徒もいたが……。それでも俺は、あまり気は進まなかった。
俺がいくら健闘したところで、Dクラスはこの体育祭で高い確率で完全な敗北を喫するからだ。
「いくぞ」
「ああ」
最初はグー。じゃんけん———
俺→パー、綾小路→チョキ。
ということで、綾小路の借り物競争への出場が決定。
どうにかこの面倒ごとに駆り出されることを回避できた。
「まあ、頑張ってくれ」
「……ああ」
その返事にはいつも以上に覇気がなく、あからさまに気落ちしていることが分かる。
ま、あれだ。お前は7人の中から八百万の神に選ばれたんだ。きっと借り物競争のくじ引きにも幸運があるさ。たぶん。
1
体育の時間が終わり、今は更衣室で着替えている。
「三宅」
そこで、俺は近くにいた三宅に声をかけた。
声に反応し、こちらを振り向く。
「なんだ?」
「ああ、ちょっと頼み事なんだが……二人三脚、俺と組んでみないか」
「え?」
予想外の誘いに、少し驚いている様子だ。
「お前の方がかなり速いが、歩幅と足の回転の速さはほぼ同じだったから、もしかしたら合うんじゃないかってな」
二人三脚は、速い者同士やタイムが近い者同士で組んだからといってうまくいくとは限らない。体のサイズ———主に足の長さ———、それに歩幅と足の回転数。タイムが同じでもこれらが全く違う人同士では走る際の感覚が異なり、息は合わなくなってしまうだろう。
その点、俺と三宅はクリアしている。
体のサイズは元々似ている。
歩幅と足の回転数も同じくらいだ。
特にトップスピードに乗った後半50メートルは、俺と三宅の足の動きは綺麗に重なっていたのだ。
その時点で三宅は俺より前にいたから分からなかっただろうけどな。
それでも俺と三宅でそこそこのタイムの差が出たのは、先ほど挙げた三要素のすべてで三宅がわずかに優れているためだろう。一つ一つはわずかな差でも、それらすべてを足し合わせればあれほどに広がる。
だが、その点は調整で何とでもなるだろう。
練習で調整を重ねて、二人そろってトップスピード並みの調子で走ることができれば、かなり上位を狙えると思っている。
「……別にいいぜ。とりあえず、次の機会に試してみるか」
「試しか……そうだな、分かった」
まあ、俺がやっていたのはただの皮算用。実際にやってみないと分からない部分は間違いなくある。
いきなり決めろという方が無理な話か。
拒否されなかっただけで喜ぶべきところだろう。
2
数日後、ホームルームの時間。
体育の時間と同様、体育祭の競技の練習をしている。
以前と違うことがあるとすれば、その練習場所がグラウンドではなく体育館であるという点だ。
グラウンドでは、この時間に体育の授業が入っているクラスが練習を行っている。
グラウンドと比べて体育館は手狭だ。当然100メートル走などの競技はできっこない。満足な練習はできない。
これだけ聞くと、不利な方に甘んじているように見えるが、見方を変えればそうではない。
体育館は体育館で、他クラスからの偵察が困難だという利点がある。
協議の中でも偵察されたくないような練習……そう、騎馬戦の練習には向いている。
誰が騎手を務め、それを誰が支えるのか。その騎馬はどのような動きを見せるのか。
他の競技に関しても偵察されないに越したことはないが、例え偵察されたとしても、結局は組み合わせ次第。実力を知ったところでどうにかなるものじゃない。
しかし騎馬戦はそういった競技とは一線を画す。全生徒が一堂に会し、総当たりで対決する競技だ。騎馬の実力やフォーメーションを知れば対策が可能となってしまう。そういった情報を秘匿しておく必要性が最も高い競技だ。
体育館を使えるこの時間は、その騎馬戦を練習する好機というわけだ。
騎馬の土台となる馬役は、あまり苦労することなく決まっていく。パワーや速さという分かりやすい重要項目があるため、須藤や綾小路、それに三宅などが推挙された。
ちなみに先ほどの3人は同じ騎馬の支えを務めるのだが、その騎馬の騎手が平田。Dクラスのエース格の騎馬だ。
一つの騎馬の組み合わせが決まり、次にそのほかの騎馬について話し合う。
「速野くんは騎手に適任だと思う。身長は170センチ以上はあって、それに対して体重はあまり重くない。それに今までの練習での動きを見れば、運動神経が悪くないことも分かるからね」
そんな平田の提案。
確かに、そうかもしれない。
何より蟻んこレベルのパワーしかない奴に土台を任せたいと思う者はいないだろう。
「……わかった。俺でいいなら」
「お願いするよ速野くん」
そうして俺が騎手を務めることが決まった。
そののち、馬役は池、山内、本堂が務めることも決まる。
一つのグループとなった4人で集合する。
「まあ、とりあえずよろしく」
「ああ」
「お前騎馬できんのかよ速野―」
山内が俺を見ていぶかしげに言う。
「土台役よりはまともにできるだろ。お前が仮に騎手役だとして俺に支えられたいか? 握力30キロだぞ」
「そりゃまあ……確かに」
それで納得したようだ。なんか釈然としないが仕方ない。
早速練習を始める。
「速野、お前軽くね? 何キロ?」
あまりにも簡単に持ち上げられたことに驚きを見せる本堂。
「さあ……」
最後の測ったのは確か……1年半前くらいだ。その時は50キロなかったはずだ。
その時と比べて身長も少しは伸びてるし、いまは多分53か54とかじゃないだろうか。
「でも楽だな。お前がガリで助かったぜ」
「そりゃ、どうも……」
ガリって……いや事実だけどさ。この間の握力の時といいちょっと言い方がイラつくぞ本堂。
ただまあ、騎馬戦に関しては協力していかなくちゃならない。こんなことでいちいち目くじら立てている暇はない。
信頼して、本堂にも足元を預ける。
「他はどうだ?」
「正直、割と余裕あるぜ。マジで軽いのなお前」
前方を務める山内が言う。重さで騎馬が崩れるようなことはなさそうだ。
にしても、結構揺れが大きいな。
高い安定度があるわけではない騎馬の上でどう体を動かせばいいか、バランス感覚を身に着けておく必要がありそうだ。
3
ホームルームの時間は連続して二時間取られている。
今はそのインターバルにあたる10分間の休み時間。
水分補給を済ませた俺は、三宅とともに二人三脚の自主練習を行っていた。
俺の左足と三宅の右足をひもで結び、そして肩を組む。
「じゃあ、結んだ方の足から」
「ああ」
まずは左足、その次は右足、そして左足……と、まずは軽いウォーキングのような感じで歩いていく。
結ばれた左足は、引っ張られたり押し戻されたり、かと思えば何の抵抗もなくスムーズに動いたりと不安定な状態。こけるようなことはないが息があっているかといえば微妙なところだ。
それでも段々とスピードを速めていく。
「走ってみるか」
「オッケー」
そして、歩きから走りへ。
これが不思議なことに、走りに移行してからの方が足の動きがスムーズになった。
そのまま走り続けているうちに壁際に到達したため、いったんストップする。
「……行けそうじゃないか?」
「とりあえず合わないってことはなさそうだ。グラウンド練習の時にもやるか」
「ああ」
向こうも同じように思っていたようだ。
相性はいいだろうとは思っていたが、まさかこんなにすんなり行くとは。奇跡的な相性だ。
ほかにも二人三脚の練習をしている生徒は何組かいるが、俺たちのようにスムーズに動けている組は一つとしてなかった。
4
休み時間を終え、再びクラス全体での練習が始まる。
「ごめん、みんなちょっと聞いてくれるかな」
授業開始のチャイムが鳴り終わると同時に、平田が全体に声をかけた。
「どうしたんだよ」
はやく練習を始めたい須藤は、不機嫌そうに平田に問う。
「この時間は、綱引きの並び順を決めるのに使いたいんだ。この前、葛城くんと少し話し合ってね。僕ら紅組は、身長の小さい人を前にして、身長順に並んで綱を引く作戦に決まった」
全員参加競技の一つ、男女別綱引きは、紅白の組が2クラスまとまって行う競技。協力は必須だ。
身長順に並ぶことによって、綱に伝わる力の方向が分散しにくく、引く力をより強くできる。
「なら、Aクラスも一緒にやらないといけないんじゃね?」
「もちろん。その機会はまた今度設けるよ。でもそれまでの間に、クラスごとの身長順だけでも把握しておいた方が、その時になってよりスムーズに決められるよね。そのためのものだよ」
同じ身長順に並ぶというのでも、20人と40人では大変さが違う。2クラスまとめてやろうとすれば混乱に陥ってしまうだろう。
ここでやらなければますます面倒なことになるということで全員納得し、男女に分かれて並び始める。
全員、自分の身長が高い方か低い方かは大まかには把握している。沖谷や池などは前へ、須藤は真っ先に後ろへ。
俺は真ん中より少し後ろくらいのところで待機していた。近くには俺とほぼ身長が同じ三宅もいる。
綾小路はかなり後ろの方にいた。
身長は結構高いんだよなあいつ。
ただ、それであいつの地味さが軽減されるかといえばそうではない。今の俺が考えたように、こういった機会があって初めて「あいつって実はけっこう身長高いよな」となるくらいだ。
さて、本当なら須藤に次ぐ身長があるはずの高円寺だが……列に参加しようともせず、相変わらずサボりを決め込んでいた。
Dクラスの誰もが高円寺の身体能力の高さを知っている。4月にあったプール授業で見せた驚異的な泳ぎ。あのような動きを体育祭で発揮してくれれば、比喩ではなく本当の意味で一騎当千の活躍を見せることは間違いないんだが……。
今回の体育祭、高円寺はまったくと言っていいほどやる気を見せていない。
そしてそんなあいつを舞台に引っ張ってくることのできる人間は存在しない。
どこまでも自由人。どこまでも自分の気まぐれに従う。
そういう意味では、本番中にコロッと態度を変えられるより、最初からやる気ゼロでいてくれたほうが混乱が少なくて済むかもしれない。
例えばの話だが、身体能力順で組むと決めた以上、須藤と高円寺は間違いなく二人三脚でペアを組むことになるはず。それが本番になって高円寺が出場しないということになってしまえば、同時に須藤も失格ということになってしまう。
しかし高円寺が初めからこの様子では、須藤とペアを組ませるなんてことはまずしない。元々犬猿の仲ということもあるし……。まあ恐らくは須藤が一方的に嫌っているだけで、高円寺の方は意に介してすらいないとは思うが。
ともかく、これでポイントゲッターの須藤がペア不在で失格になってしまうなんて事態は避けられるというわけだ。
しかし参加表に高円寺の名前を書かないわけにもいかないため、高円寺の名目上の二人三脚のペアは、暫定的にDクラスの男子で最も足の遅い外村ということになっていた。失格になっても一番クラスのダメージが少ない人物だ。
と、そんな考え事をしているうちに、並び順が決まるまで俺たちを含めて残り数人、というところまで来ていた。
平田がこちらに近づいてくる。
「速野くんと三宅くんは……ほぼ同じだね」
パッと見ただけではほとんど差がない。
このままでは決めるのに苦労する。が、決め手は何も身長だけじゃない。
「三宅が後ろの方がいいと思うぞ。たぶん三宅の方が足が長い。これもほんの少しの差ではあるが」
俺はそう平田に告げた。
この作戦の根幹は要するに、綱を引く体勢になった時に、生徒全員の綱を持つ高さが前方から後方にかけて段々と高くなっていくようにすること。
綱を持つ手は腰とほぼ同じ高さになる。そうなると身長のほかにも決め手はもう一つ。足の長さだ。
足が長く、腰の位置が高い方が綱を持つ高さも高くなるというわけだ。
「そうだね。三宅くんもそれでいいかな?」
「分かった」
「じゃあ、二人はそう並ぼうか」
これで、俺と三宅の位置関係が決まった。
それ以外の生徒については、決めるのにそこまで苦労はしなかった。
俺とその前の生徒とは目に見えて身長が違う。それ以降も、並べて比べてみればすぐに分かる程度の身長差があった。
結局並び順決めは15分ほどで終わり、各自前後の人を覚えておくように言われて終了となった。