実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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練習Ⅱ

 今日は、Dクラスでは初めてのグラウンドを使用しての練習だ。

 着替えを終え、グラウンドに出る。

 違和感に気付いたのはそれからすぐだった。

 

「うわ、あれ見てみろよ」

 

 同様に違和感に気付いたらしい池が、うんざりしたようにそう呟く。

 池の指した方向を見ると、そこからは何人かの生徒がこちらを観察するように見つめていた。

 

「あれBクラスだろ?」

 

「隣のはAクラスじゃね?」

 

「偵察ってやつかー」

 

 他クラスの実力を測る動きは当たり前のものだ。事実俺たちも、1年生のクラスがグラウンドに出た際には似たようなことをやっている。というより、自然と目が引き寄せられる。

 だが……いざそれをやられる身となると、かなり嫌な感じを受けるな。

 無視されるのもそれはそれで考えものだが、監視されるというのもまたストレスだ。

 ただ、それも授業が始まる前までだ。

 授業が始まれば、生徒たちはそこに集中せざるを得なくなる。授業そっちのけでよそ見なんかしていたら、クラスポイントの減点対象になるリスクがあるのだ。

 まあそれでもチラチラ見られるだろうから、完全に防げるわけではないとは思うが。

 

「やはり、当然こうなるわよね」

 

 女子で一番早く着替えを終えて出てきた堀北も、偵察の視線に気づいてそう漏らした。

 

「早いな」

 

「時間を無駄にしたくはないもの」

 

 実に堀北らしい理由だ。

 ま、着替え中に雑談するような相手がいないから、ってのもあるとは思うけどな、こいつの場合。

 

「気になるわね」

 

 偵察の目が向けられる方向を眺めつつ、そう堀北がつぶやく。

 

「なにが?」

 

「Cクラスよ。他の2クラスと違ってこちらを見ている気配がない」

 

「ああ……」

 

 そう、AクラスとBクラスと違い、Cクラスの教室からは一切の視線を感じないのだ。

 

「移動教室ってわけじゃなさそうだが……」

 

「偵察することすらも思いつかない、というわけではないにしろ、するつもりがないことは確かなようね。前回の無人島試験同様、まじめに取り組むつもりがない……と、以前の私ならそう考えていたかもしれないわ」

 

 堀北はそこで言葉を止め、会話の相手であったはずの俺の方ではなく、その右後ろに目を向けた。

 その方向から、綾小路が歩いてこちらに近づいてくる。

 そして俺の隣に綾小路が立ち止まったのを見てから、堀北が言葉を続けた。

 

「無人島試験と同様なら、今回もCクラスは勝つための戦略を思いついたうえでこのような行動をとっているはず。その戦略に偵察は必要ないということでしょう」

 

 それに綾小路は頷き、口を開く。

 

「大切なのは、それに思い至った時点で満足せずにその先を考えることだ」

 

「……その先?」

 

「人は何か策を思いついた時、それを隠そうとするのが普通だ。だが龍園はそうしていない。それどころか、自分が何か画策していることを周りにアピールしている。フェイクの偵察を入れることもなくな」

 

「なるほどね」

 

 つまりその理由を考えてみろ、ということか。

 まるで生徒にアドバイスを送る教師だな。

 龍園の行動の意味を考えること。つまり龍園という人間を分析するということに等しい。言うは易しだが相当難度の高いことだ。

 

「鈴音、ちょっといいか」

 

 そんなやり取りをしていた中、須藤が堀北の横に来て名前を呼んだ。

 しかし、堀北はなぜか不機嫌そうな顔をする。

 

「須藤くん、何度も言っているけれど勝手に下の名前で呼ばないでもらえるかしら」

 

 苛立ちの原因はそれか。つか公認じゃなかったのかよ。

 

「なんでだよ。なんか不都合あんのかよ?」

 

「あるに決まっているでしょう。親しくもない人に呼ばれたら不愉快で仕方がないわ。これ以上呼ぶなら、こちらも手を打たせてもらうことになるわよ」

 

 最後の忠告だ、とばかりに絶対零度の視線を須藤に向ける。

 

「まるで親しい人間になら呼ばれてもいいみたいな言い方してるけど、お前親しい人いるのか」

 

「いないわね。だから誰も私を下の名前で呼ぶことはないわ」

 

「……」

 

 突っ込んでみたが、即答でそのように返ってきた。さすがとしか言いようがない。

 明確にファーストネーム呼びを拒絶された須藤。だがそれでも諦めきれないようで、こんなことを言い出した。

 

「わあったよ……でもよ、もし体育祭で俺がクラスで一番活躍できたら、名前で呼ばせてくれ」

 

 活躍の褒美として、名前呼びを求める。

 須藤は何としても名前呼びを実現したいらしい。

 

「あなたが頑張るのはDクラスとしては非常に好材料だけれど、そのお願いに私が応える義務はないわね。第一意味が分からないもの」

 

「意味っつーか……1学期の最初の中間テストん時、お前は俺を助けてくれただろ。だからお前とこ……友達になりてーと思ったんだよ。その一環だ」

 

 そうか。そういえばあの時須藤が退学を免れた理由は、表向きは堀北の根気強い交渉の結果ってことになってるんだったな。

 綾小路が自分のしたことを隠すためにそうしたんだ。

 ただ堀北もポイントを出してはいるため、堀北が救ったというのも間違いというわけではない。

 

「別に名前で呼んだからといって友達になるわけでもない。正直理解に苦しむわね」

 

 親しくなったから名前で呼ぶのであって、名前で呼ぶことで親しくなろうというのでは順序が逆ということ。

 しかし、形から入る、ということもある。まったく納得できない話ではない。

 ただこれに関しては逆も然りで、別に名前で呼び合っていないからといって親しくないというわけじゃない。俺と藤野は友人だが、苗字呼びを継続しているし、特段名前で呼びたいとも思わない。

 さて、そのように言って捨てた堀北だったが、少し間を置いてから出された答えは、それまでの反応とは真逆のものだった。

 

「……でもいいわ。もしあなたが活躍できたら、その時は私を下の名前で呼ぶことを許してあげて構わない」

 

「っ、おっしゃマジかよ! 約束だぜ」

 

 須藤は内心では期待薄だと思っていたらしく、願いが聞き入れられたことに感激している。

 しかし堀北はそんな浮かれた様子の須藤に対し、鋭い口調で「ただし」と付け加える。

 

「条件があるわ。活躍と言っても、クラスとは言わず学年でトップを取ること。そしてもし失敗すれば、今後私のことを名前で呼ぶことも、今回のようにそのチャンスを与えることも決してないこと。これが条件よ」

 

「お、おう……やってやるぜ」

 

 厳しい条件にひるみつつも、この好機を逃すわけには行かない、と須藤は承諾した。

 ただ学年でのトップなら、須藤は十分に狙うことができるだろう。

 さらにこれが最後のチャンスとなれば、須藤はすさまじいやる気を出す。

 堀北の狙いもこういうことなんだろう。断るよりも、受け入れたうえであのような条件を付けたほうがDクラスの勝利が近づくと考えた。

 堀北は自分が須藤から好意を向けられているとはつゆにも思っていないだろうけどな。

 

 

 

 

 

 1

 

「行くぞオラア!!」

 

 そんな気合の声とともに、とてつもないスピードで100メートルを駆け抜ける須藤。

 当然のように1位でゴールした。

 Dクラスの中じゃ敵なしだな。平田ですら歯が立ってない。

 先ほどの堀北との話もあって、モチベーションも非常に高いようだ。

 100メートル走や200メートル走だけではない。ハードルや障害物競走、綱引きなどありとあらゆる面で須藤はDクラスの誰よりも秀でた実力を発揮していた。

 

「すごいよ須藤くん、何をやっても一番なんて!」

 

「ま、こんくらい当然だぜ」

 

 櫛田が須藤の躍動を称えるが、須藤はそれに浮かれることなく落ち着いた態度を覗かせていた。

 須藤にしてはドライな感じを受けるが、その理由は高円寺がいないからだろう。このクラスでは唯一須藤に対抗しうる……いや、恐らくは凌駕するほどの底知れない身体能力の持ち主。その高円寺がいない土俵でどれだけ無双しても、その喜びは小さいというわけだ。

 しかし櫛田は興奮冷めやらぬといった様子で言葉を続ける。

 

「これくらいできて当然、ってところが凄いよ。今回の体育祭、須藤くんがDクラスのリーダーだねっ」

 

「……俺がリーダー?」

 

「それは僕も賛成だよ。このクラスで一番の君が引っ張ってくれれば、これほど心強いことはない」

 

 櫛田に加え、暫定的にリーダー的役割を引き受けていた平田も推薦した。

 

「……つっても、俺そんなガラじゃねえしよ」

 

 当の本人は乗り気ではないようだが、その態度もすぐに覆ることになる。

 

「あなたは大勢の注目を浴びて大きな力を発揮できる人よ。指導者としては平田くんの方が適任かもしれないけれど、時にはあなたのように強引に引っ張っていくことが必要になることもある。もしあなたがリーダーを引き受けるなら、私も異を唱えるつもりはないわ」

 

 須藤の想い人である堀北からの言葉だ。

 明確に賛意を示すものではなかったが、須藤をその気にさせるには十分すぎるものだった。

 

「……わかった。俺がDクラスを引っ張ってやる」

 

 須藤はそう宣言し、リーダー就任が決まった。

 それからの須藤は多忙だった。

 リーダーになった以上、当然だが自分一人の練習だけに集中するわけには行かなくなる。他の生徒へのアドバイスや指導など、やることは多い。

 今は走り方のアドバイスを行っているようだ。

 

「余計なところに力はいりすぎだぜ。それじゃスピードも出ねーし、無駄にスタミナも使っちまうだろ」

 

 言葉は粗雑だが、的確なアドバイスを送っていく。

 俺はその様子を眺めながら、二人三脚の練習を行うことにした。

 パートナーに決まった三宅に声をかけて練習を始める。

 

「じゃあ、いつも通り行くぞ」

 

「ああ」

 

 スタートの合図に合わせて、結んだ足の側から先に前に出し、徐々にスピードを上げて行く。いい加速だ。

 二人三脚で1番の理想は、相手がいないかのように走れること。それに近い感覚を感じることができる。トップスピードに乗ったときの速さは、ちょうど10キロ走のラストスパートくらいか。

 こうしてこけることもなく、スムーズに走り終えることができた。

 

「ふう……本番もこんな感じなら、多分大丈夫だろうな」

 

「ああ。入賞は狙えると思う」

 

 二人三脚に関してはまったく心配いらなそうだ。その後3回ほど練習を繰り返し、三宅とは別れた。

 

「意外ね。あなたも三宅くんも、人に合わせるのは苦手だと思っていたけれど」

 

 休憩していたところに、堀北が声をかけてくる。

 

「合わせてるわけじゃない。偶然合ったんだよ。まあドンピシャで相性が良かったってことだろうな」

 

「そう……」

 

 これに関しては本当に運が良かったとしか言いようがない。

 

「それで、お前の方はどうなんだ。確かペアは小野寺だったか」

 

 俺と三宅のようなペアはそう何組もできるものじゃない。最初の段階では、ひとまず足が速い順に組んでみることが基本方針になっている。

 

「伸び悩んでいるわね」

 

「へえ。合わないのか」

 

「向こうが合うようになるまで待つしかないわ」

 

「……自分から合わせに行くという発想はないのか」

 

「遅い方に合わせてどうするの?」

 

 清々しいほどの即答だ。俺の目は点になっているだろう。

 なるほど、タイムが伸びていない理由が分かった。

 自分は全速力で走って、パートナーのことを全く気にかけていない。堀北ペアが走っている場面を直接見てはいないが、その光景は容易に想像がついた。

 まあ、今の段階で俺から言えることは何もない。

 俺も偶然三宅という非常にやりやすいパートナーが見つかるラッキーに恵まれただけで、本来他人と息を合わせるのが不得手なのは堀北と変わらない。

 

「健闘を祈るとだけ言っとく」

 

「妙に上から目線の言葉で気に食わないわね。あなたに言われずともベストは尽くすわ。パートナーがベストを尽くしてくれるかどうかは別問題だけれどね」

 

 そう言い切る堀北だが、ベストを尽くしていないのはどちらの方か、それを理解する機会が訪れることを俺は祈った。

 

 

 

 

 

 2

 

 時間は惜しいが待ってはくれない。体育祭本番は刻一刻と迫っている。

 ひと時も時間を無駄にしないよう、体育の授業やホームルームに加え、授業開始前の早朝や、さらに放課後にも体育祭に向けての練習が行われている。

 これは何も俺たちDクラスだけの話じゃない。他のクラス、そして他の学年も同様だった。考えることはみな同じということだ。

 当然、全学年全クラスが入り交じっての練習となれば、偵察もし放題され放題だ。しかし以前も述べたように、多くの種目の結果は参加表で決められた組み合わせにより左右されるところが大きく、偵察されても大きな問題はない。もちろん注意を欠かしてはならないが、むしろ偵察を過剰に恐れて練習不足になる方がよっぽどマイナスが大きい。

 今は朝。俺を含め、リーダーの須藤を中心としてDクラスの半数ほどが体育祭に向けての練習をグラウンドで行っている。

 ちなみに平田はメモの保護のため参加していない。それ以外にも運動が苦手な生徒や早起きが得意でない生徒も不参加だ。

 俺はこの場では主に200メートル走の練習を行っていた。

 100メートルの倍の距離があることに身構えて、初めはペース配分とか考えたほうがいいのかなーとぼんやり思っていたが、試しに何回か走ってみると意外にも最初から最後まで全力疾走で行った方がいいことが分かった。もちろん最後はスタミナ切れで失速してしまうが、この距離なら素人は余計なことを考えない方がいい。

 須藤にも尋ねたが、「んなもん最初から最後まで全力で走りゃいいんだよ」と返ってきた。実際にやってみるまではこの脳筋めと思ったものの、今はその時の自分を殴ってやりたい気持ちでいっぱいである。須藤の言っていた通りだった。

 走っては休み、走っては休みを何回か繰り返していると、息を切らして膝に手をついている女子生徒が俺の目に入ってきた。

 佐倉である。

 

「はあ、はあっ……は、速野くん……」

 

「おお……お疲れ」

 

 ずいぶんと頑張っている様子だ。

 1学期にあった須藤の暴力事件を乗り越えたあたりから、佐倉はこのようなことに積極的に挑むようになっていた。

 無人島試験や普段の体育の授業、それに今この瞬間もだ。以前の佐倉であれば、体育祭に向けての早朝の自主練習なんて間違いなく参加していなかっただろう。ましてや佐倉は運動が苦手で、今回の体育祭のDクラスの方針の中では犠牲を強いられる側の生徒である。モチベーションも決して高くはないだろう。事実そういった生徒は朝も放課後も、さらにはホームルームの練習にも参加していないことが多い。

 

「……頑張ってるんだな」

 

「その、少しでも、クラスの役に立てたら、って……」

 

 呼吸を整えながら俺に答える佐倉。殊勝な心掛けだ。

 今は体力回復に専念させてやった方がいいと思い、俺は一言佐倉に断ってからその場を離れた。

 そのまま右の方に目を向けると、何やら揉めているのが目に入る。

 堀北と小野寺。二人三脚の暫定的なペアだ。

 話の内容は遠いため聞こえてこないが、言い争っているのは分かる。

 少しのやり取りののち、小野寺が怒った様子で堀北のもとをツカツカと立ち去った。

 

「……だめだなありゃ」

 

 誰にも聞こえないようにそうつぶやき、俺は再び200メートル走のスタート地点へと向かった。

 

 

 

 

 

 3

 

 その日の昼食時間。

 いつもの通り、斜め右後ろの席で静かに昼食にありついている堀北。俺はそこに声をかけた。

 

「おい」

 

「……何かしら」

 

 声をかけられたことに対する不快感を隠そうともしない、いつもの堀北である。

 

「朝の練習中、なんか小野寺と言い争ってなかったか」

 

 今朝のことについて質問した。もめているのは分かったが、具体的にはどのような顛末だったのか。

 

「彼女とはペアを解消したわ」

 

「……は?」

 

「合わせる気がないなら、これ以上は私とはやれない、と言われてね」

 

「……」

 

 お前があんな認識なんだから当たり前だ、とは言わなかった。堀北相手に一を言えば四も五も返ってくる。ここのところ練習続きで疲労が蓄積していることもあり、それはひどく面倒だった。

 その言葉の代わりに、俺は一つ大きなため息をついた。

 だがこれが余計だった。余計に堀北を刺激してしまったらしい。

 

「ちょっと、言いたいことがあるなら素直に言ってもらえるかしら」

 

 強い口調でそう言ってくる。

 

「以前にも言ったわよね。速い方が遅い方に合わせても記録は落ちるだけよ。それがどこか間違っているのかしら?」

 

「俺が素直に言ったところでお前は素直に聞き入れないだろ」

 

「内容次第よ。反論すべきところは反論するわ」

 

「それが面倒なんだよ」

 

「つまり反論されるのが分かっているのね」

 

「ああ。言葉で説得できる自信はないしこの場ではする気もない。俺から声をかけたのは悪かったよ」

 

 こうして、これ以上の難儀な会話を避けた。

 しかしこちらの撤退の意思とは裏腹に、堀北は食い下がってきた。

 

「まるで言葉でなければ私を説得できるような言い方ね」

 

 自分が正しいと信じて疑わない堀北は、どうやら俺が説得可能だと思っていることそのものが気に食わないらしかった。

 

「……なら放課後やってみるか? どうせグラウンドで練習するんだろ? 教室でメモ見張っとかなきゃいけないから少し遅くなるが」

 

「ええ、構わないわよ」

 

 堀北も承諾し、決まった。

 

 

 

 

 

 4

 

 そして放課後。

 時計の針は5時半を回り、日は落ちかけている時間帯だが、それでもグラウンドでは多くの生徒が体育祭に向けての練習を行っていた。

 グラウンドの隅には、練習に参加している生徒のものと思われる荷物が並べられている。

 この時間になるとクラスの担当者によって教室は閉められてしまう。そうじゃなくても、わざわざ荷物を取りに行くためだけに教室に戻るのは面倒だ。それに体育祭期間中は指定の体育着での下校が認められているため、放課後に練習を行う生徒のほとんどは荷物をはじめから持ち出し、練習が終わればそのまま寮に直帰、というルートを辿る者がほとんどだ。

 教室の鍵を閉め、更衣室で着替えてグラウンドを訪れた俺もその御多分に漏れず隅の方に荷物を置き、グラウンドの中央に出た。

 この人数から堀北一人を探し当てるのは難度が高いが、大体はクラスごとに固まって練習している。

 1年Dクラスが固まっているエリアを見つけてそこに向かうと、堀北の姿はすぐに捉えられた。

 固まっていると言っても、やはり堀北はクラスの中では孤立して一人で練習を行っていた。

 

「来たぞ」

 

 ハードルを飛び越える練習をしていたらしい堀北に来訪を告げる。

 

「ようやくね」

 

「時間も惜しいしさっさとやるぞ」

 

 俺は手に持っていた二人三脚用の紐を見せる。

 

「あなたと私で二人三脚を?」

 

「言葉での説得が無理なら、残る手段は実践しかないだろ。俺との接触は嫌かもしれないが我慢してくれよ」

 

 そこだけは堀北に折れてもらうしかない。一つの心配要素ではあったが、「あなたとは無理」とは言われなかったので助かった。

 

「私が結ぶわ」

 

 とはいえそれでも俺に……というより他人に触れられるのが嫌なようで、足を固定する作業は自らが買って出た。

 

「お前、タイムは?」

 

「13秒97だったわ」

 

「了解」

 

 俺とは大体0.2秒差くらいか。さすがに男子である俺よりは遅いが、部活未所属の女子にしては非常に良いタイムだろう。

 紐を結び終えて足の固定が完了し、準備が整う。

 

「じゃあ行くわよ……」

 

 他人からの接触を嫌う堀北だが、二人三脚のために渋々といった様子で俺と肩を組む。

 説得のためとはいえ、滅茶苦茶をするつもりはない。最初はゆっくり、徐々に速く。これが基本だ。

 しかし、進んでいくにつれて堀北には徐々に焦りが見え始める。

 

「っ、ちょっとっ……」

 

 俺はそれに構うことなくずんずんと進み、強引に堀北の足を引っ張って加速する。いや、堀北の足による抵抗があるため正確には加速になっていない。

 全く足並みがそろわず堀北はこけそうになってしまうが、俺は腕を強くつかんで無理やりそれを阻止した。堀北は重くないため、俺のミジンコ以下のパワーでも支えることができる。

 それでも堀北はどうにかしてついて来ようとするが、最終的に堀北の足は二人三脚のペアとして全く機能せず、半ば俺に引きずられるような形になっていた。

 その惨状を確認し、俺はようやく足を止めた。

 

「はっ、はっ……」

 

 距離にしては70メートルも走っていないが、そうとは思えないほどに息を乱している。

 

「……もし私が怪我をしていたらどうするつもりだったの?」

 

「こけないように腕掴んだだろ。でもこれで分かったか。片方がペアのことを無視して強引に走れば、もう片方は上手く走れない。どころか怪我のリスクすら負うんだぞ」

 

 自身でそれを体感したことで、俺に対して一切反論できずに押し黙る堀北。

 

「でも、誰かが言ってたぞ。二人三脚で上手く走れないのは、遅い方が速い方に合わせられないのが原因だって。先に言っておくが俺のタイムは13秒75だった。つまり俺に合わせられないお前が悪いんだってよ。そいつの理屈に従うなら、もしお前が怪我したら自業自得と思えとしか言えない。そんな主張してるやつのこと、どう思う?」

 

「っ……」

 

 当然「そんな主張してるやつ」とは目の前にいる堀北だ。だが敢えて煽るような口調で言い放つ。

 

「……まあ、危険にさらしたのは悪かったよ。俺は二人三脚のペア失格だ。じゃあな」

 

「ちょっと———」

 

 呼び止める声を無視し、俺は違う練習をするためにその場を離れた。

 正直、こんな説得なんて俺のガラじゃないし、積極的にやりたいとも思わない。そのうえこの体育祭、1年Dクラスは敗北がほぼ確定している。

 それでもこんな事をやったのは、そうはいっても一縷の望みは残っているからだ。ワンチャンあるってやつだ。

 堀北とペアを組むのは、小野寺もそうだったが走力の高い生徒になる。つまりそれだけ期待値も高い。それなのに上位を取れないとなれば大きな損失だ。さらに堀北の強引な走りで走力の高いもう一人のペアに怪我を負わせれば、さらに大きな損失が積み重なる。

 ただでさえ敗色濃厚な勝負にこのような要素までのしかかるとなっては、いよいよ勝つ見込みなどゼロになってしまう。

 この行動はそんな事態を避けるためのものだ。

 振り返って堀北の様子を見てみると、練習に戻ることもなくひとりで立ち尽くし、何か考え事をしているようだった。

 響いてくれてるといいんだが。

 

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