実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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体育祭Ⅱ

「合計54個で、紅組の勝利です」

 

 女子の玉入れの結果がアナウンスで報告される。

 紅組が勝利したことで、先ほどの俺たちの棒倒しでの完敗によるマイナスは綺麗に消えた。女子には感謝しなければならないだろう。

 しかしほっとしたのも束の間。すぐに次の競技、綱引きに関する説明が始まる。

 綱引きも先ほどの棒倒しと同様、2本先取した組の勝利という規定になっている。

 

「綱引きは直接の接触がないから、向こうも単純な力で勝負するしかない。さっきみたいなことにはならないはずだよ」

 

「まあな……だからこそ負けらんねえ」

 

 互いの距離が離れているため、不正が介入する余地はない。いくら龍園でも、勝つためには正々堂々やるしかないだろう。

 

「打ち合わせ通りに一気に叩く。いいな?」

 

「うん、わかってるよ」

 

 平田と葛城が作戦の最終確認を行う。

 といっても複雑ではない。事前の取り決め通り、背の低い順に前から並ぶだけだ。そのための調整も準備期間で済んでいる。

 Dクラスは事前の取り決め通りに、綱の大体の位置につく。

 しかし、問題があるのはAクラスだった。

 

「葛城くんさー、いつまでも偉そうに仕切らないでもらいたいねー」

 

 長めの髪を後ろでまとめた男子生徒がそう言った。

 

「……どういう意味だ橋本」

 

 葛城から橋本と呼ばれたその生徒は、身長は高い方で雰囲気は柔らかそうだが、葛城に対しては馬鹿にしたような目を向けている。

 その橋本を筆頭にして、Aクラスの男子の半数が並ぼうとしないのだ。

 

「どういうって、そのまんまだよ。あんたのせいで今Aクラスが失速してるんじゃないか? 本当にこの作戦で勝てるって言い切れるの?」

 

 おそらく、坂柳派の人間だろう。橋本と呼ばれた生徒に続き、葛城の作戦に異を唱える者が出てくる。

 拭えない今更感。ちょっとタイミングがおかし過ぎやしないだろうか。

 そもそもの話、今は作戦について話し合うべきときではない。クラス内で議論する時間はいくらでもあったはず。だが、状況から見てその時に異を唱えた者がいるとは思えない。

 坂柳の指示だというのは想像がつく。

 問題は目的だ。

 俺たちにクラス内での対立、そして自らの派閥の優位性を見せつけるため? 坂柳は攻撃的な質だと聞くし、ありえない話ではないかもしれない。

 

「Dクラスも動揺している。冷静に進めるべきだ」

 

「答えになってないなー」

 

 もしここで葛城が「何か案があるのか」と問えば、どうなるだろうか。

 いや、これは愚問か。葛城の性格上それはしないだろう。今ここでそれを話しても無意味だし、もし坂柳の側に戦略があるのであれば、提案された時点で葛城派はまた窮地に追い込まれる。葛城ならそこまで考えているはずだ。

 

「俺の決定を疑う気持ちは理解するが、これ以上場を乱すようなことがあれば坂柳の責任が生まれるだろう。それでも構わないか?」

 

「何も見えてないねー葛城くんは」

 

 橋本は何やら意味深なことを言うだけで、真面目に受け答えしている様子はない。

 そんな時、Aクラス陣営から声を上げたのは、この次の競技に当たる女子綱引きに向けて後ろでスタンバイしていた藤野だった。

 

「橋本くん、派閥が違うっていっても、今はなりふり構っていられないんじゃないかな? もし橋本くんたちがすごくいい案を今出しても、Dクラスのみんなはついてこれなくなっちゃうし。今は勝てるかどうかじゃなくて、勝つために全力を尽くすべきだと思うな」

 

 どちらの派閥にも属していない中立(表向きは)の立場からの発言に、葛城陣営は勢いづく。

 一方の橋本、その他坂柳派は、初めから言葉通りのことは考えていなかったのだろう。ここが引き際と見たのか、自分が担当する綱の位置につきながら言った。

 

「じゃあ、やろうか。連携不足と言われても癪だしねー」

 

 その点に関しては時すでに遅しの気もするが、始まるのならそれでいい。

 

「ったく、不安だぜ。やっぱただのガリ勉連中かもな」

 

 須藤もそれをひしひしと感じ取っている様子だ。

 俺の後ろは三宅、前は見知らぬAクラスの生徒だ。綺麗に身長順になっている。

 他方で、白組は連携を取っていないため、クラス単位で前方後方の綱の担当が綺麗に分かれていた。綱の前方を担うBクラスは俺たちと真逆で、身長が高い順に前から並んでいる。綱を引く位置を高くすることが狙いか。

 だがCクラスは特に何も決めていないのか、バラバラだ。

 

「こっちが有利だぜ! 行くぞお前ら!」

 

 試合開始の合図とともに、思いっきり綱を引く。

 

「オーエス! オーエス!」

 

 本当にこんな掛け声するんだな、と思いながらも、一応俺も声を出す。

 これはシャウト効果とかシャウティング効果とか言われていて、アスリートもよくやっていることだ。詳しいメカニズムは知らないが、声を出すことによってパワーが上がることは確からしい。実感もある。もう一つの目的としては、力がかかるタイミングを一致させてより強く綱を引くためだ。

 

「オラオラオラ! 余裕余裕!!」

 

 初めこそ均衡が保たれていたが、連携を取っているこちら側が優勢。20秒ほどで決着がつき、赤組の勝利となった。

 

「しゃー! 見たかオラ!」

 

 綱の一番後ろを担当する須藤が吠える。

 

「BクラスとCクラスは、本当に協力してないみたいだね」

 

「……だな。まあそっちの方がありがたい」

 

 可哀想なのはBクラスだが……。

 

「なー、やっぱ協力した方がいいぜ? 相手強いしさー」

 

 柴田がそう言うが、龍園は全く相手にしていない様子だ。

 しかし何も対応しないわけではない。

 

「よしお前ら配置変えるぞ。チビから順に並べ」

 

 指示というより命令という感じだ。龍園の指示通りに小さい順から並んでいく。完成した白組の並び方は、ちょうど弓なりになっていた。

 

「へっ、楽勝だな。あんなんで勝てるわけないぜ」

 

「いやそうとも言い切れん。全員気を抜くな」

 

「でもさっきも余裕だったじゃん? 俺らみたいに小さい順に並んでるわけでもないしさ」

 

「そうじゃな……いや、今は時間がない。とにかく全力で引け」

 

 インターバルが終わったため、葛城は説明を諦めざるを得なかったようだ。

 

「オーエス! オーエス!」

 

 試合開始とともに掛け声が響く。だが、異変を感じたのは始まってすぐだった。

 明らかにさっきと重さが違うのだ。紅組に動揺が走る。

 

「おら粘れよお前ら。簡単に負けたら死刑だぜ」

 

 さらに龍園の呑気な号令が飛ぶ。すると、また少し綱が重くなった気がした。

 

「ぐああ、痛い痛い!!」

 

 前方で苦しむ声を出す池たち。

 1回目よりもさらに長引いた勝負は、わずかな差で白組が勝利を収めた。

 

「なんでさっきと違うんだよ!? 誰か手抜いたんじゃねえだろうな!?」

 

「落ち着け須藤。相手が正しい陣形の一つを取ったこと、そしてこちらの油断が主な敗因だ。だがこれで分かっただろう。相手は連携がなくても戦う力がある。次は油断せず、気を引き締めて綱を引くことだ。それから綱を引くときは斜め上に向かって引くようにするといい」

 

 流石にAクラスをまとめ上げてきただけのことはある。荒ぶる須藤を止め、且つ的確なアドバイスを送る。今打てる最善の手だ。

 

「よーしお前らにしちゃよくやった。次も同じようにやりゃいい。勝てると思ってるカスどもに思い知らせてやれ」

 

 一方、クラスを支配しているからこその鼓舞の仕方をする龍園。

 ……いや、今の声掛けすらも、鼓舞というより俺たちへの挑発の意味合いのほうが強そうだ。

 龍園は徹底して相手をかき乱す策を取るらしい。

 そんな中、いよいよ最終戦が始まった。

 

「オーエス! オーエス!」

 

 掛け声とともに綱に力を込める。

 さっきと同様、なかなか決着はつかない。だが、試合開始時の足の位置より後ろにいるところを見ると、わずかではあるがこちらに引かれているようだ。

 

「ぜってえ勝つぞ! もう一息だ! 引けええええ!!」

 

 須藤の叫び声に合わせ、気持ちさらに力を入れて引く。

 しかし。

 

「「「うわああ!!?」」」

 

 その瞬間、綱の重みが一気に解消され、体重が後ろに行ったまま倒れてしまった。

 前を見て、ようやく状況が把握できた。白組、それもCクラスが、急に綱から手を離したことが原因だ。

 Bクラスとしてもこれは予想外だったらしく、数人倒れている生徒がいた。

 

「ふざけてんのか!?」

 

 噛みつく須藤だが、対する龍園は涼しい顔で言い放つ。

 

「勝てねえと思ったから手を休めたのさ。よかったなお前ら、ゴミみたいな勝ちを拾えて。虫みてーに這い蹲る様は面白かったぜ」

 

「テメエ!」

 

 棒倒しの件もあり、頭に血が上った須藤が走り出そうとする。しかし、葛城は腕を掴んでそれを止めた。

 

「やめろ須藤。こうやって怒らせるのもあいつの作戦の一部だ。それで体力を消耗させる、あるいは暴力行為での反則勝ちを狙っているかもしれない」

 

「けどよ!」

 

「落ち着け。龍園のやったことは褒められたことじゃないが、ルール違反ではない」

 

 須藤のように当たり散らさないだけで、龍園の態度に対して怒りを抱いているのは葛城も同じだ。その声には怒気が感じられる。

 それを受けた龍園はこれ以上留まっても仕方ないと思ったのか、Cクラスを従えてせっせと立ち去ってしまった。

 

「くそ、勝ったのになんかスッキリしねえ」

 

 恨み言を漏らす須藤。その様子を見ながら、俺も自陣へと歩いていく。

 その時、俺の隣に並んで歩幅を合わせてくる人影が現れた。

 

「あはは……さっきはみっともないところ見せちゃったね」

 

 少し苦笑いを浮かべながら話すのは、先ほど橋本を説得していた藤野だった。

 

「いや、お互い様だろ。須藤がうるさくて悪いな」

 

 アレは一応気合いが有り余ってのことだからフォローのしようはあるんだが、須藤の場合は限度を知らなさすぎる。

 だがフォローするまでもなく、藤野の須藤に対する印象はそんなに悪いものではなかった。

 

「すごいね、須藤くん。とっても頑張ってるの、見たら分かるよ。今のところ全部1位だよね?」

 

「ああ。最初から学年1位狙ってるし、狙えるやつだからな、あいつは」

 

 すべての競技を圧倒的大差で制している。

 他には、確か柴田も全て1位だったはずだ。どこかで直接対決をする場面があれば、そこが一つのポイントとなるだろう。

 

「須藤くんも言ってたけど、ちょっと水差されちゃったね。流石、って言った方がいいのかな……?」

 

「……まあな」

 

 俺自身はあまり気にならない。ただ須藤のように精神的にムラのある人間には、転んでもただでは起きないという龍園のスタンスは効果てきめんだろう。

 どの場面でも必ず何かを仕掛けてくる。そしてそれが当たり前になってくると、面白いことに「何もしない」ことすら仕掛けたことになってしまうのだ。

 

「まあ、頑張ってくれ」

 

「うん。オッケー」

 

 そう言い残し、藤野は女子の綱引きへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 1

 

 続いての競技は障害物競争。

 用意されている障害物は、平均台、網潜り、頭陀袋。難易度は高くないが、どれもスピードダウンを余儀なくされるものだ。

 もうすぐ俺が配属された7組目のレースが始まる。

 1つ前の6組目のレースには綾小路が出て、結果は3位という中々の好順位だった。

 そして俺と同じ組には、Cクラスの石崎がいる。お互いに認識してはいるが、当然会話などあるはずがない。

 

「おい速野! 変な順位取るんじゃねえぞ!」

 

 最終組に配属された須藤からそんな声が飛んできた。俺は振り返って頷くことでそれに答える。

 開始の合図とともにスタートする。

 初めの平均台までの直線で1位だったのはBクラスの生徒だ。

 俺はその生徒と石崎に続き、3位で平均台に突入する。

 だが俺はここで前の2人を抜き、一気にトップに躍り出ることに成功した。走るスピードほぼそのままで平均台を渡りきり、次の網潜りへと向かう。

 網潜りに関してはスピードにほぼ差が出ないため、そのまま順位をキープ。

 そして急いで最後の障害物である頭陀袋に足を通して、一生懸命飛び跳ねる。

 頭陀袋を脱ぎ捨てた時点ではほぼ同時。しかし最後の50メートルの直進に入ると完全に追い抜かされ、2位に後退した。

 そして後ろからは「うおおおおおお」といううなり声をあげて迫ってくる石崎。追い抜かれないように必死で前進し、なんとか2位でゴールすることができた。

 

「ふう……」

 

 レースを終えて呼吸を整えていると、俺の正面に堀北が立っているのが目に入った。

 

「どうした。女子はもう向こうで準備してるが」

 

「……お手洗いよ」

 

「……あ、了解っす」

 

 ……ちょっとまずいことを聞いてしまったな。

 そんな微妙な空気を払拭するためか、ただ単に気にも留めていないのかは知らないが、堀北が言葉を続けた。

 

「あなた、足の速さはそこそこだけれど身のこなしはかなり上手いわね。何か訓練でもしていたの?」

 

 意外や意外、堀北の口から出たのは称賛だった。

 どうやらレースの一部始終を見ていたらしい。

 

「訓練って……別にそんな軍隊みたいなことはしたことないぞ」

 

 俺は体のバランス感覚を要する競技についてはそこそこ自信がある。

 

「そろそろ行くわ」

 

「ああ、次も強敵と当たるだろうけど頑張れよ」

 

「? ……ええ、負ける気はないわ」

 

 そう言って、堀北は待機場所へ駆けていった。

 そのようすを見届け、俺はレースが行われているトラックに目を向ける。

 それと同時に、池の叫び声がこだました。

 

「はあ!? 健のやつまた野村と鈴木じゃん! ズルすぎだろ!」

 

 ちょうど最終組がスタートする直前、その組全員がレーンにそろったところだった。

 確かにCクラスから出ている生徒は、いっちゃ悪いが見るからに運動音痴だった。そしてこれは100メートル走の時と同じ組み合わせだ。だからこそ池も「また」という言葉を使ったのだ。

 だが、その組に須藤の最大の敵が立ちはだかる。

 Bクラスの柴田だ。

 ハードルという特殊な競技ではあったが、柴田の同じ組で走ったからこそ分かる。柴田の速さは常軌を逸している。

 しかし、それは須藤も同じだ。この対決は非常に見ものだ。ギャラリーの注目度も今までにないほどに高い。

 スタートした瞬間、やはり須藤と柴田が一気に抜け出し、他を置き去りにしていった。

 その中でも、わずかではあるが須藤がリードしているように見える。誰よりも速く平均台を渡った。柴田もそれを背後から追いかける。

 網潜りも、2人ともとてつもない速さでクリアした。まだ須藤がリードを保っている状態だ。

 須藤は跳躍も得意だ。次の頭陀袋で少し離したが、それでもわずかだ。

 そしてラスト50メートルのストレート。いよいよ柴田の本領発揮である。

 須藤は背後の柴田の気配を感じているだろう。

 はた目からでも柴田が追い上げてきているのが分かる。これはやばいか、と思ったが、わずかなリードをなんとか保ったまま須藤が1位でゴールした。

 かなり厳しい戦いだったんだろう。須藤は今日初めて肩で息をしていた。

 それより驚きは、純粋な直線の勝負なら柴田に分がありそうだという事実だ。のちに行われる200メートル走、もしも柴田と当たるようなことがあれば須藤も磐石とは言い難いのかもしれない。

 そしてその可能性をあり得ないと笑い飛ばすこともできないのが現状だ。事実須藤はCクラスの野村、そして鈴木と連続で同じ組にあたっている。

 しかし、それでも勝利は勝利。呼吸を整え終えた須藤は自身に満ちた表情で帰ってきた。

 

「オラ見てたぞ寛治! おめえ6位だっただろ」

 

「お、お前だって危なかったじゃんかよ! アイコだろ」

 

 結局1位を獲得した須藤と6位という下位に沈んだ池ではアイコであるはずがない。

 

「1位取ったじゃねえかよ。ま、柴田のやつも結構速かったけどな」

 

 柴田の速さを認める発言をしながら、アホな事を言い放った池を折檻していた。放してやれよ……。

 次は女子の障害物競争だ。その後には二人三脚も控えており、あまりダラダラしていられない。

 女子の1組目には堀北がいる。そして同じ組には、不運なことに先ほども同じ組だった矢島と木下がいた。

 

「さっきも見た展開だな」

 

 隣にいた綾小路がそう呟いた。

 

「ああ」

 

 一応そう返事をしておく。

 スタートすると、やはりまず抜け出したのは木下とそれを僅差で追う矢島。その後ろを堀北が追っている状態だった。

 だが、向こうもいつもの土俵ではないため、多少の苦戦は強いられている様子だ。差は案外ついていなかった。

 この時点で抜き出たのは矢島。

 ここで動きがあった。木下が頭陀袋を外す際にバランスを崩したことで、その隙をついた堀北がリードを奪ったのだ。

 

「おお!」

 

 Cクラスのワンツーフィニッシュを阻めるチャンスにDクラスが湧いた。

 そしてラストの直線を全力で走り抜ける。

 しかし後ろの様子が気になるのか、堀北は何度も木下の方を振り返っていた。結果としてそれが失速につながったのか、木下に追いつかれてしまう。

 そして次の瞬間、2人の足が互いに絡まり合い、かなりのスピードのまま転倒してしまった。

 

「おおお!? なんか凄いことになったぞ!?」

 

 倒れた2人の横を5人が通り過ぎ、順位が一気に落ちる。ようやく堀北が起き上がって7位でゴール。対する木下は競技続行不可能ということになり、最下位という扱いになった。

 

「……」

 

「どうしたんだい綾小路くん」

 

「次も同じ『偶然』が起こるなら、もう『偶然』ではないかもしれないな」

 

 隣で静かに綾小路がそう呟いた。

 

「……速野くんはどうかな?」

 

 平田がこちらを向いて、俺の意見を求めてくる。

 

「……ああ、まあ、そう考えるのが自然だな」

 

 特に不自然なポイントは、今の堀北と須藤だろう。

 Cクラスに都合のいい偶然が連続して起きすぎている。

 

「状況は悪いみたいだね……ほかの生徒も、徐々に気づき始めるころだと思う」

 

「もし気づく生徒が出てきたら、ケアを頼めるか?」

 

「もちろんだよ。それが僕の役目だからね。でも……何か手はないのかな?」

 

「あればいいんだけどな」

 

 そう言い残すと、綾小路は不自然な足取りでこちらに歩いてきた堀北の方へ向かっていった。

 

「……大丈夫かな、堀北さん」

 

 不安そうに呟く平田。

 

「さあ……俺にできるのは、一つでも上の順位を目指すことだけだ」

 

「……そうだね。頑張ろう」

 

「ああ」

 

 女子の障害物競争が後半を迎え、そろそろ次の競技への準備に入る。直前、前方のテントの方を見やると、木下は龍園に肩を抱えられ、足を引きずりながら移動していた。

 

 

 

 

 

 2

 

 1年生全員が二人三脚のスタンバイをしている中、俺は駆け足でその集団の中に入っていった。

 そしてペアである三宅の隣に座る。

 

「遅かったな」

 

「悪い、トイレがちょっと並んでてな……」

 

 俺と三宅の組の前には、俺の少し前に準備を済ませたと見られる龍園の姿も確認できる。

 そして今、須藤と池のペアがスタートしたのだが……。

 

「どわああああああ!!」

 

 須藤は池を半ば持ち上げた状態でトラックを爆走していく。一応池の脚は地面に付いているので違反にはならないが、作戦を分かっていたうえでも池の驚きはとてつもなかっただろう。

 そして結果、1位を獲得してしまった。

 

「おいおい……」

 

 ゴールした2人を苦笑いで見る三宅。

 

「……須藤ならではの勝ち方だな」

 

 まさに力技だ。

 そんなことを考えていると、次の組にいた平田&綾小路がスタート。ペースは順調。相性の良さもあり、須藤に続いて1位を獲得した。ちゃんと正攻法で。

 

「きゃー! 平田くんかっこいい!!」

 

 平田に向けられた女子の黄色い声援が耳に入る。

 ああいうミーハーみたいなのが本当にいるんだな……と思いながら、ともに1位に輝いたペアにも拘わらず全く見向きもされない綾小路に心の中で手を合わせた。

 

「龍園も一位か」

 

 5組目のレースの結果を見て、三宅がそう呟いた。

 そういえば龍園もほとんどの競技で1位を取ってたな。身体能力の高さでは間違いなく須藤の方が2枚も3枚も上手だが、点数だけを見ればひっ迫しているかもしれない。

 

「……とりあえず、今は競技に集中だな」

 

「ああ」

 

 7組目、俺たちの出番である。

 スタートのコールと同時にハイペースで飛び出す。全速力とまではいかないが、この時点で他の組を置き去りにすることができた。練習の通り、動きに狂いはない。そのまま2位と6、7メートルという圧倒的な差で1位を獲得した。

 これでDクラスの男子は、10組中3組で1位を獲得したことになる。上場の出来だろう。

 

「ふう……目標は達成だな」

 

 呼吸を整えながら三宅に言う。

 

「ああ。お疲れ」

 

 お互いの脚を結んでいた紐を解き、どちらのペースに合わせるでもなくDクラスの待機場所へ戻って女子の観戦に移る。

 女子2組目のDクラスは、櫛田と堀北のペアだ。

 二人の関係性が最悪であることを加味しても、好タイムが期待できる。

 堀北が大丈夫なら、だが。

 

「綾小路、堀北の足の状態はどうなんだ?」

 

 綾小路は先ほど堀北が戻ってきたとき、怪我の状態を確認しているようだった。

 

「正確なことはよくわからないが……期待はしない方がいいな」

 

 スタートした2人の姿を見ながら答えた。

 出だしは良かったものの、堀北の怪我の影響もあってか徐々に失速していく。速く走りたいという意思に反し、堀北の足は全くついていかない様子だ。

 

「やっぱり動き固いな」

 

 気づけば最下位争いに転落していた。

 競う相手はBクラスのペア。現時点ではわずかにリードしている。

 2人はBクラスの進行方向を妨げ、逃げ切る戦法を取ることにしたようだ。Bクラスの2人も必死に追う。

 しかし一瞬の隙が生まれ、Bクラスに追い越されてしまった。

 

「ああ! 惜しい!!」

 

 結果、堀北と櫛田は最下位という順位に終わった。

 堀北の足の状態が悪かったにしても、1位を取ることを狙っての組み合わせだったため、この敗戦はDクラスにとって大きな痛手になることは必至だ。

 二人三脚の次の競技は騎馬戦だが、その間に10分間の休憩がある。それ以降は男女の競技順が逆転する決まりになっていた。

 俺は身体が冷えて固まってしまわないよう、グラウンドの外側を軽くウォーキングしながら休憩時間を過ごした。

 

 

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