実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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体育祭Ⅳ

 午前中のプログラムを全て消化し終わり、現在は昼食の時間である。英語で言えばランチタイム。

 昼食は自分で用意するのも買ってくるのも自由だが、大半の生徒はそのどちらでもない。

 学校側が用意してくれているからだ。

 敷地外から取り寄せた高級弁当、しかも無料ときている。

 その説明を事前に受けていた生徒たちは、昼食時間が始まるとこぞってその高級弁当の受取場所へと駆けて行った。

 体育祭で疲労を溜めた体だ。みな食欲には正直である。

 かくいう俺も例外ではない。俺は別に料理が好きで普段から自炊しているわけじゃない。しなくて済むならしたくない。

 というわけで、俺も高級弁当の利用者の一人なのだが……受取所の混雑具合はちょっと半端ではない。

 今あの場に行く気にはなれない。混雑が落ち着くまで少し待機していることにした。

 その間に、俺は綾小路から話を聞く。

 

「綾小路、堀北と何話してたんだ」

 

 一年生の200メートル走が終わった後、綾小路と堀北は少し長い間話し込んでいた。そしてそのあと、堀北はテントを飛び出していった。

 こいつが何か吹き込んだのは明白だ。

 

「別に、気にするほどのことは言ってない」

 

「じゃああいつは何しに行ったんだよ。須藤のところか」

 

「だといいんだけどな」

 

 そう言って、寮の方向を眺める綾小路。

 なるほど……大体分かった。触発したのか。須藤のところへ行かせるために。

 

「お前も飯は取り寄せの弁当を食べるのか?」

 

 露骨に話題を切り替える綾小路。

 俺もこれ以上は何も聞き出せないことを察し、それに乗る。

 

「ああ。人混みが緩和されてから取りに行くよ。……そろそろいいかもな」

 

 混雑具合はさっきよりは解消されている印象だ。

 

「じゃ、取りに行ってくる」

 

「ああ」

 

 手短な会話を終えて、弁当求めて三千里。いや遠すぎか。大体0.05里くらい。メートル単位にして200くらい。

 こういった単位の計算は非常に面倒くさいことが珍しくない。海外のニュース映像が流れた時に、天気予報の気温表示がファーレンハイト温度で「temperature:76」とか表示されて初見だと「はっ!?」とか反応してしまうアレだ。温度表示の統一は割と需要ある気がする。

 んなことはどうでもいいんだ。

 俺が到着する頃には混雑はほぼなくなっており、スムーズに弁当を受け取ることができた。

 弁当箱を片手にDクラスのテント付近に戻る。

 

「速野くん。今から昼ごはん?」

 

 そんな時、通りがかった平田に声をかけられた。

 

「え、ああ、まあ」

 

「じゃあ、一緒に食べない? みんなで食べた方が美味しいし、速野くんとご飯を一緒に食べる機会は今まで持ててなかったからね」

 

 平田は少し離れたところにいる男女数人のグループを指しながら言う。

 その中には軽井沢や前園などの女子、それに池、山内、綾小路もいた。

 ただそれは一つのグループというより、二つのグループが同じ場所に集まっている感じだ。恐らく平田が声をかけてドッキングしたんだろう。

 

「……じゃあ、そうする」

 

 断ってもよかったが、このままでは1人寂しく(いつも通りに)食べることになりそうなので、承諾した。

 敷かれたブルーシートの上に胡座をかき、弁当をかきこむ。さすが高級弁当ということもあって美味い。普段がお粗末な出来の手作りなので、美味さが余計に強調される。

 集団の中でも、平田や軽井沢のようによく話す人と、俺や綾小路のようにあまり喋らず食べている人がいて、食べ終わる時間にも差異が出てくる。

 池や山内が女子との雑談に夢中になっている中、それに加わっていない平田、綾小路、軽井沢、そして俺の4人のグループが自然に出来上がる。

 いや、今思えばこの4人がひとまとまりになるために俺がここに招待され、そしてこの位置に座るよう誘導された気がしないでもない。

 そんな疑問が頭に生じたのと同じタイミングで、平田が自分を含めて4人だけに聞こえるように話を切り出した。

 

「龍園くんは、やっぱり動いてきたね」

 

 平田の言う龍園の動きとは、さっきのハチマキのことなのか、それとも……。

 

「それで裏切り者は誰なわけ? 洋介くんは知ってるんでしょ?」

 

 軽井沢の言葉で、それが「Dクラスにいる裏切り者」のことだと分かる。

 その裏切り者がいつからDクラスを裏切り始めたのかは分からない。だが、少なくともその存在と、そいつがこの体育祭で何かしでかすということは予見していた。

 いや、事前に知っていたと言うべきか。

 

「おいちょっと待ってくれ。なんだ裏切り者ってのは」

 

 しかしここでは何も知らない体を装う。

 すると軽井沢が呆れ交じりに言った。

 

「あんた分かんないの? Dクラスの参加表をCクラスに渡した裏切り者のことよ」

 

「いや、参加表がCクラスに漏れてるっぽいことは察してたが……それは見張ってた俺の責任だと思ってたんだよ。だからその分を取り返せるよう頑張ってたんだが……裏切り者がいたのか」

 

 驚いた演技をしながら言う。それに平田は頷いた。

 

「君に心理的な負担をかけてしまったことは謝りたい」

 

「いや、平田が謝ることじゃないだろ」

 

 平田自身が裏切り者でない限りな。

 だがそれはあり得ない。

 なぜなら俺はすでに知っている。

 Dクラスの裏切り者は平田ではなく、櫛田であるということを。

 

「実は僕にも分からないんだ。具体的に誰なのか。その疑問を解消してもらえないかな、綾小路くん」

 

「いずれはそうするつもりだ。だが、今ここで誰が裏切り者かを言うことはできない」

 

「はあ? なんでよ」

 

「クラスで混乱が生まれる可能性があるからだ」

 

 確かにその通りだ。だが綾小路が本心で言っているとはとても思えない。

何か目的があると考えた方がいい。

 

「ちょっと待った。まずなんでお前が知ってるんだよ。堀北から聞いたのか?」

 

「いや、堀北から聞いたわけじゃない。でもそれは話すほどのことでもない」

 

 言うつもりはないらしい。

 

「分かった。それらについてむやみに聞くことはしないよ。でも、それが分かっていて、どうして参加表の提出を止めなかったんだい? もし気づいてたなら、場合によっては有利に事を運べたかもしれないのに……」

 

 学校側に提出するものとしてクラスメイトに最終確認を行った参加表を後でこっそりと書き換えれば、Cクラスに漏れる情報と実際にDクラスが決めた組み合わせとで齟齬が生じ、Cクラスを混乱に陥れることができる。

 しかしその手法によって混乱するのは、直前で出番の変更を余儀なくされるDクラスも同様だ。それでは意味がない。敵はCクラスだけではないのだ。

 さらに言えば、裏切り者が櫛田である限りその手法は無意味だ。クラスメイトから全幅の信頼を寄せられ、この体育祭でも女子のまとめ役を務めた櫛田は、恐らく参加表の変更会議にも加わる。そして裏切り者を自分に絞らせないために、その会議の参加人数を増やすことも忘れないだろう。

 それへの対策としては、あらかじめ複数の参加表を作ってクラスメイトと共有しておくことが挙げられるが、結局は同じことだ。最後に提出するのは一つだけ。その一つを、例えば裏切り相手とこっそり通話をつないでおくなどしてリアルアイムで伝達すればそれまでだ。

 結局Dクラスの組み合わせが漏れることは避けられない。

 

「そうだな」

 

 綾小路もその程度のことは理解しているはずだが、否定することはしなかった。

 

「なんでそんな他人事みたいな反応なわけ……そんな呑気でいいの?」

 

 言いながら軽井沢は、身近な人間にそれがいるかもしれない、と疑惑の目を向けている。

 

「裏切り者の道徳心を測ってる、ってとこか」

 

「は? 道徳心?」

 

 想定していなかった言葉に、思わず反射的に返してしまった。

 

「こちらから追い詰めることなく改心してほしい、ってことだよ」

 

 あまりにもバカバカしい答え。この場で本当のことを話す気はなさそうだ。

 

「この話は堀北さんの指示のもと、ってことなんだよね?」

 

「ああ。そうだ」

 

 なるほど。やっぱり平田にはそう説明してるのか。

 ただもはや信じられてはいないだろうな。その堀北自身が身も心もあれだけ徹底的にやられていては、すべて知っていたうえでそうしたと言われても「嘘つけ」という感想しか出てこない。

 

「それで、その堀北さんはどこにいるわけ?」

 

「……須藤を探しに行ってる、んだっけか?」

 

 綾小路からはそう聞いている。

 

「そうだといいんだけどな」

 

「うん。僕らにとっては須藤くんが頼りだ」

 

 そうだ。

 Dクラスがどれだけ食い下がれるかは、この場に須藤が戻ってくるかどうかにかかっている。

 そして、須藤をこの場に戻らせることができるのは堀北のみ。

 クラスの命運は堀北が握っているといってもいいかもしれない。

 これは何も体育祭に限った話じゃない。

 そのあと……今後のDクラスが熾烈なクラス間競争を勝ち上がっていくうえで必要不可欠なことだ。

 これは堀北にとっても、さらに言えば須藤にとってもチャンスである。

 Dクラスには、あの二人の『進化』が必要だ。

 

 

 

 

 

 1

 

 昼食時間を終え、午後からは推薦競技が始まる。

 俺は推薦競技には一つも出場しないため、これ以降は椅子に座って観戦するのみだ。

 結局、堀北は時間になっても戻ってくることはなかった。

 昼食を終えたDクラスの生徒がテントに集まると、堀北の不在が全員に知れ渡る。

 男女それぞれのエースであった須藤と堀北が抜けてしまった。その事実が、Dクラスの悪い雰囲気にさらに拍車をかける。

 Dクラスでの俺の肩身は元々広くない。居心地の悪さを感じた俺は、テントから少し距離を取って観戦を行った。

 今行われている競技は借り物競争。お題を見て、それに合った人や物を連れてゴールへと突っ走る。

 迷うことなくお題を用意できる生徒もいれば、お題が書かれた紙を見て右往左往している生徒もおり、その様子はばらばらだ。どうやらお題の中身にかなりの差があるようだ。

 そんな中、ある人物がこちらに向かって走ってきた。

 

「速野くんっ、端末持ってる!?」

 

 赤いハチマキを巻いたAクラスの藤野だ。

 

「端末?」

 

「借り物競争のお題で男子の端末が必要なの! Aクラスの子にあたってみたんだけど誰も持ってなくて! そういえば速野くんは持って行くって言ってたの思い出したから!」

 

「ああ……」

 

 そういえばこの前電話した時にそんなこと伝えたっけな。

 まあ確かに、この会場に端末持ってくる生徒はあまりいないだろう。競技時間中の競技場内では端末の使用は禁止されている。持っていても邪魔にしかならない。

 そのうえで端末をお題に指定するのだから、何とも意地の悪いことだ。

 俺はポケットから端末を取り出し、藤野に手渡した。

 

「ありがと! これ終わったら返しに行くね!」

 

「ああ」

 

 そう言って、藤野はゴールへと全力疾走。様子を見ている限り1位を獲得することができたようだ。

 にしても、Dクラスのテント内で今のやり取りをしていたら、こんな状況で他クラスに協力する裏切り者として袋叩きにあっていたかもしれないな。テントから離れていて正解だった。

 

 

 

 

 

 2

 

「惜しかったね。もう少しで3位を狙うことができたんだけど」

 

「仕方ないさ」

 

 次の推薦競技、四方綱引きで、俺たちDクラスは最下位という結果に終わった。

 須藤がいればまた結果も違ったかもしれないが、たらればに意味はない。

 それよりも心配なのは平田だ。

 

「手持ち大丈夫か平田。もう30万使ってるだろ」

 

 そう、須藤2回分、堀北1回分の都合3回分の代役の支払いを平田が一手に引き受けているのだ。

 

「船の試験で大量のポイントを獲得できたからね。ここが使いどころだよ」

 

「俺もほかに比べればポイントは持ってる方だ。まあ最大限出せて3万程度だが……必要なら支援するぞ」

 

「ありがとう。気持ちはうれしいけど、心配しないで。代役を勝手に立てているのは僕だから、その責任は果たすよ」

 

「……そうか」

 

 この場に堀北がいたら、3万という数字を提示した俺にブチギレるだろうな。だが仕方がない。俺の保有するポイントの収入源のほとんどは表に出せないものなんだから。

 

「次の二人三脚も代役立てるのか」

 

 正直なとろ、先ほどの四方綱引きの敗北でDクラスの最下位は決定づけられてしまった。

 須藤には今までの競技で獲得してきた特典があるし、堀北の方は成績もポイントにも元から余裕があるはず。

 代役を立てることに、もはや10万ポイントをかける価値はないというのが個人的な意見だ。

 

「うん。テストに不安がある人が参加して入賞できれば、次のテストで有利になる。そのチャンスをあげたいんだ。自腹参加だと尻込みしてしまうだろうから」

 

「……それで最下位になった時のペナルティも肩代わりするのか」

 

「必要ならそれも辞さないつもりだよ」

 

「……」

 

 それだけのためにこんな……。

 悪いが俺にはまったく理解の及ばない領域だ。

 こいつの異常なまでのクラスへの執着ぶりはいったいどこから来てるんだ……?

 戦々恐々ともいえるような視線を平田に寄越している中、その平田に近づいてくる人物がいる。

 

「あの、平田くん、私にも協力させてもらえないかな? 二人三脚、堀北さんの代役で私が出たいんだ。もちろんポイントは払うから……ダメかな?」

 

 そう言って、櫛田が自ら代役を買って出た。

 

「もちろんだよ。櫛田さんなら運動神経もいいし、ぜひお願いしたい」

 

 平田も問題なくそれを承諾した。

 

「ありがとうっ。じゃあ早速茶柱先生に代役の報告をしてくるね」

 

 奥の方にいる茶柱先生の方へと駆けていく櫛田。

 しかし、その足は途中で止まってしまった。

 

「わりぃ、遅くなった! 今どうなってんだ!?」

 

 そんな声とともに、須藤、そしてそのすぐ後ろから堀北が、走ってDクラスのテントに戻ってきた。

 

「須藤くん、それに堀北さんも。戻ってきてくれたんだね」

 

「……わり、ウンコが長引いた」

 

 歓迎するように明るい笑顔を浮かべる平田とは対照的に、クラスメイトの多くは須藤に冷めた視線を向ける。

 それもそのはずだろう。須藤はクラスの信頼を完全に失って出ていったのだ。

 推薦競技を欠場し、その代役としてポイントを吐き出しているのは須藤が殴り飛ばした相手である平田。いい顔をする者がいるはずがない。というか異常なのは平田の方だ。

 須藤も自分に向けられる視線がどのようなものか、それくらいはわかっているだろう。

 しかし須藤は、そのすべてを正面から受け止めた。

 そして、その場で勢いよく頭を下げたのだ。

 

「わりい! 俺のせいでクラスに迷惑かけた」

 

 これまでの須藤ではありえない行動に、クラス全員戸惑いを隠せない。

 

「平田も殴っちまって悪かった。堪えられなかった俺のせいだ。それから寛治も、正直お前に当たってたところがあった。謝らせてくれ」

 

 2人に対しては個別に謝罪の言葉を述べる。

 

「戻ってきてくれただけで充分だよ須藤くん」

 

「……んだよ健、らしくねえな」

 

「間違ってたところは謝んねえとな」

 

 入学以来友人をやっている池も、須藤にこのような態度を取られるのは初めてのことだろう。むず痒そうにしている。

 

「……別に、俺も全然活躍できてねーし。足引っ張って悪かったよ」

 

 そんなやり取りを皮切りに、張りつめていた空気も弛緩していく。

 須藤の誠意ある行動がクラスメイトの心を動かしたのだ。

 

「須藤くん、実は今から男女混合二人三脚が始まるところなんだ。まだ間に合うよ。走ってくれるかな」

 

「ああ、もちろんだぜ」

 

「私には代役をお願いしても構わないかしら。二人三脚だけじゃなく、リレーの出番も……」

 

 それまで口を開いていなかった堀北がすっと前に出て、申し訳なさそうに言った。

 

「……いいのかよ。あそこまでリレーのアンカーやりたがってたじゃねーか」

 

「構わない、というよりもうそうするしかないのよ。この足の状態では、もうまともに走ることすらできないわ。今の私は……いえ、この体育祭、最初から私は役立たずだったわね。事前にあれだけ大口を叩いていたにもかかわらず、立派な成績を残すことができたわけでもない……本当にごめんなさい」

 

 須藤に続き、堀北までもが深く頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。

 

「頭を上げて堀北さん。君が最大限の努力をしてきたことはみんなが知ってる。誰も責める人はいないよ。代役はさっき櫛田さんが名乗り出てくれたんだ」

 

「そうなのね……お願いするわ櫛田さん。ポイントも私が出したいところだけれど、生憎20万の持ち合わせがないのよ。貯められるまで、建て替えをお願いできないかしら」

 

「そんな、気にしないでいいよ。さっき平田くんが言ってたんだ。船の試験で得られた大量のポイントの使いどころはここだって。だから建て替えなんて言わずに私が持つよ」

 

「そうはいかないわ。クラスに迷惑をかけた上に、ポイントまで……」

 

 堀北の性格上そこだけは譲れないのか、何としても食い下がる。

 訴えるその手は震えていた。

 龍園によって作り出された自分のこの現状への悔しさ。それがにじみ出ている。

 

「……じゃあ、そういうことにしとくね。堀北さん」

 

 ここが引き際だと思ったのか、櫛田も折れた。

 

「ええ、ありがとう櫛田さん」

 

 止まっていた足を動かし、櫛田は茶柱先生へ代役の報告を行った。そしてそのまま須藤とともに二人三脚の待機場所へと移動していく。

 それに伴い、Dクラスの生徒たちもテントへ戻っていった。

 しかし俺はしばしその場にとどまった。

 右足を引きずりながらこちらに向かってくる堀北の姿を認識したためだ。

 たまたま俺のいる方向に歩いてきたわけじゃないことは分かる。その目はまっすぐに俺を見据えていたのだ。

 

「テントから消えて戻ってきたかと思えば、お前も須藤もまるで別人だ。正直、そっくりさんだってオチの方がよっぽど素直に呑み込めるぞ」

 

「あなたはこんな時にもそんな物言いをするのね……まあいいわ。今はあなたを責めることのできる立場にはない。むしろ恥を忍んで、あなたに頼まなければならない立場だもの」

 

「頼む? ……って、何を」

 

 奇妙なことを言い出す堀北。

 

「けれど……そうね、その前にあなたに言わなければならないことがある」

 

「は……?」

 

 すると、堀北は先ほどクラス全体にして見せたように、俺にも深く頭を下げた。

 

「今までのあなたへの非礼を詫びさせて。ごめんなさい」

 

「……ほんとどうしたんだ急に」

 

「須藤くんですらできたことを、私ができないのでは話にならないでしょう」

 

 ……そういう張り合いの感情からくる謝罪かよ。お前謝る気あんの……とは口には出さなかった。せっかくその気になってるんだから、口を挟まず最後まで話を聞くべきだろう。

 

「……あなたの行動が気に入らないことも信用ならないことも、すべて事実よ」

 

「お前謝る気あんの?」

 

「けれど……私自身のことやクラス間競争で上手くいかないことについて、そういった不信感のあるあなたに当たっていたという面があることもまた事実。それについては謝らなければならないわ」

 

 実際のところ、俺は別に堀北に謝ってほしいと思っていたわけではなかった。

 それはおそらくクラスを欺いているという負い目が多少なりとも俺にあったからだろう。もっとも、負い目があるからといってそれをやめるかは別の話だが。

 ただ、謝罪をしたいというならそれを受け取らない理由はない。堀北に恨みがあるわけあないしな。……いや、船で右足踏んづけられた時はちょっと恨んだな。あれは痛すぎた。

 

「ああ……分かったから頭上げろよ。お前にそうされるとなんか気色が悪い。……それで、そんなに丁寧に謝って、俺に何を頼まれてほしいんだ」

 

 後回しにされていた本題に切り込む。

 

「……借金よ」

 

「……はあ?」

 

 想定内の答えではあったが、口調の上では驚いて見せた。

 

「詳細は後で話すわ。とにかく今は大量にポイントが必要なの」

 

「額は?」

 

「……100万ポイント」

 

「……マジかよ……って無理だ無理。60万しか持ってないぞ俺は」

 

「なら50万ポイントで構わない。もちろん、あなたの望む利率で返すことを約束するわ」

 

「利子付きか……」

 

 ここで高利を押し付けることも可能だ。

 だがもし、堀北がポイントを必要とする理由が俺の想像通りだったとしたら……。

 

「……いずれにせよ詳細な話を聞くまでは決められないな。ただお前が俺に借金頼み込むなんて、よっぽどのことなんだろ。前向きに考えとく」

 

「感謝するわ。……本当に」

 

 噛み締めるようにそう言った。

 状況はかなり追い詰められてるみたいだな、堀北。

 

「とりあえず戻るぞ。あんまり長いとクラスメイトも不審がるだろ」

 

「そうね」

 

 やり取りを終わらせ、俺たちはテントへと戻った。

 

 

 

 

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