実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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第6巻
ペーパーシャッフル


 体育祭と中間テストを終え、着用が義務付けられたブレザーの存在がだんだんとありがたく感じ始める時期になってきた。

 とはいえ、まだまだ寒さは本格的ではない。今現在のように全校生徒が体育館に集まると、空気がこもりがちになって心地はあまりよろしくない。

 そんな空気感の中、壇上では、現生徒会から次期生徒会への引き継ぎ式が行われていた。

 壇上の生徒会役員たちの中には、知り合いの一之瀬の姿もある。

「現」会長である堀北兄からの簡素で義務的な挨拶を終え、次に「次期」生徒会長に既定路線で当選した南雲雅からの挨拶だ。

 生徒会長が切り替わるのは厳密にはいつなのかは知らないが、いちいち定義づけるのも面倒だし分かりもしないので俺の脳内では次から変えることにしよう。

 ポチッとな(切り替えるスイッチ)。

「現」生徒会長の南雲先輩が壇上に登り、挨拶を始める。

 

「改めまして、自己紹介をさせていただきます。この度、高度育成高等学校の生徒会長に就任することになりました、南雲雅です。これからどうぞよろしくお願いします」

 

 そう言って頭を下げると、中規模の拍手が起こる。それは、特に2年生の方から大きく聞こえてきた。

 頭を上げる。すると、纏っている雰囲気が一変した。

 

「早めではありますが、皆さんに私が掲げる公約を周知させていただきます」

 

 先ほどまで見せていた控えめな姿勢ではなく、自らの公約を訴える姿には凄みがある。

 その公約は、革新的なものだった。

 会長を含めた全生徒会役員は、任期を在学中無期限とすること。

 生徒会選挙制度と人数制限を撤廃し、いつ何時でも受け入れられる体制を作ること。勿論、除名の規約も作ること。

 

「ここで宣言させていただきます。私は生徒会長としての活動を通して……これまで生徒会が守ってきた、こうあるべきという学校の姿を壊していくつもりです。近々大革命を起こすことを約束します。実力のある生徒はとことん上に。反対に、実力のない生徒はとことん下に。この学校を真の実力主義の学校に変えていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 力強い宣言に、体育館はしんと静まりかえる。しかし直後、やはり2年生の方から拍手喝采が巻き起こった。

 対照的に、3年生の方にはあまり元気がない。

 上級生同士の間でも、色々とせめぎ合いがあったということか。ただたとえそうだとしても、下級生である俺たちの知るところではない。

 仮に「現」生徒会長の言う通りの大革命が成功したとしたら、綾小路にとってはいろいろと生きづらい学校になるかもしれないな。

 

 

 

 

 

 1

 

 10月中旬。

 Dクラスの教室内には緊張の糸が張り詰めていた。

 2学期中間テストの結果が発表されるのだ。

 緊張といっても、1学期中間テストのときのような、世界の終わりが告げられたかのような空気ではない。

 あるのは程よい緊張感だ。

 Dクラスも、全体として成長したということだろう。

 

「揃いもそろって真剣な顔つきだな。だが、赤点を取った者には覚悟を決めてもらうぞ。では、点数を発表する」

 

 例によって、茶柱先生が黒板に全員の点数が記された紙を貼り出す。

 

「全教科平均して40点以上がボーダーと思ってもらって結構だ。だが、表示されている点数には体育祭での活躍で得た点数も加減されている。結果として満点を超えた者もいたが、一律100点として扱っている」

 

 体育祭で点数が加算されたのは須藤や三宅など。逆に外村は、学年ワースト10の1人となってしまったため点数が引かれている。

 ちなみに俺は、入賞特典全てでプライベートポイントを選んだ。

 3位が1回、2位が2回で計7000ポイントを入手し、そのうち3000ポイントは事前の打ち合わせ通り下位組に回した。

 点数が貼り出され、全員のテスト結果が白日のもとにさらされる。

 

「うわっ! まじかよ!」

 

 貼り出される表は、点数の高い順に並んでいる。その一番下にあったのは、今声を上げた山内春樹の名前。その横にその点数。幸いなことに赤点のラインは上回っているものの、すれすれだ。

 その上に池、井の頭、外村と続いていく。

 恐らくこの教室のほとんどは、須藤が最下位だと踏んでいただろう。

 しかし、須藤の名前が載っていたのは下から12番目。大躍進だ。

 

「一気に自己記録更新! 平均60までもあとすこしだぜ!」

 

「その程度の点数で騒がない。今回は体育祭で稼いだ分もあるのだから。みっともないわよ」

 

「お、おう……」

 

 騒ぐ須藤を一瞬で落ち着ける堀北。既に調教済みらしい。怖い。

 堀北は休み返上で須藤に教えていたと聞く。その効果は抜群だったようだ。

 ちなみに余談だが、三宅は16位、長谷部は17位と試験をクリア。苦手な文系科目でも、得点率は50パーセント超えを達成していた。ひとまずはよかった。

 

「見ての通り、赤点による退学者はゼロだ。無難に乗り越えたな」

 

 腕を組み、どこか感慨深そうな表情で教室全体を見渡す茶柱先生。

 

「私が着任して過去3年間、この時期までにDクラスから退学者が出なかった年はなかった。よくやった」

 

 普段茶柱先生が生徒を褒めるなんてことは滅多にない。その意外さから、数人の生徒はむず痒そうにしていた。

 しかし同時に、茶柱先生(この学校の場合茶柱先生に限らずだが)はこれで終わる人ではないということを、わずか7ヶ月ほどの学校生活で痛いほど理解している。

 案の定、何か話に続きがあるのか、教壇を降りて教室全体を歩き回る。そして平田の横で足を止めた。

 

「平田。この学校には慣れたか?」

 

「はい。設備には文句のつけようがありませんし、友達もたくさんできて、充実した学校生活が送れています」

 

「一度のミスで身を滅ぼすかもしれないリスクに不安は感じないか?」

 

「その都度、全員で乗り切っていくつもりです」

 

 クラスの優等生、まとめ役として100点満点の回答だ。

 それを聞き届け、茶柱先生は教壇に戻る。

 仕切り直し、とでも言うように、「さて」と言ってから連絡事項を口にする。

 

「お前たちも知っていると思うが、来週、期末テストへ向けて8科目の問題が出される小テストを実施する」

 

 少し前の話にはなるが覚えている。ホームルームで全員に告知されていたことだ。

 

「げ、中間終わったばっかりなのに!?」

 

 しかしどうやら池は分かっていなかったらしい。しっかりしてくれや。

 

「嘆きたくなるのもわかるが安心しろ。小テストは全100問の100点満点だが、その全てが中学レベルの問題だ。要は基礎の習得状況を確認する試験。0点だろうと100点だろうと取って構わない」

 

「おお! まじすか!」

 

 安直な反応を示す山内に、「だが」と釘をさすように続けた。

 

「この小テストの結果が、期末テストに大きく影響を及ぼすことも同時に伝えておく」

 

「影響? なんだよそれ。もっと分かりやすく言ってくれ」

 

 乱暴な言い方をする須藤だが、これはクラスの総意でもある。

 茶柱先生、いや、どちらかといえば学校全体のクセだろう。直接的な表現はせず、遠回しな言い方で暗示し生徒にヒントを与える。非常にまどろっこしい。

 

「お前に分かるよう説明できるといいんだがな須藤。まず前提として、その小テストの結果に基づいて、クラス内の誰かと2人1組のペアを組んでもらう」

 

「ペア、ですか?」

 

 想定外の言葉に平田が疑問を呈する。

 

「そうだ。そして試験本番においては、ペアの合計の点数が大きく結果にかかわってくる」

 

 ペアで挑む定期試験。これはまた俺たちにとっては新しい形だ。

 

「まず、期末テストは全8科目、各100点の合計800点満点だ。そして先ほど説明したペアの点数を合計し、各科目60点以上を取れていなかった場合、そのペアは2人とも退学だ」

 

「ぺ、ペア二人ともですか!?」

 

「そうだ。そしてそれだけではない。ペアの全科目の合計点が学校側の設定するボーダーを下回っていた場合も、同じく退学となる」

 

「そのボーダーってどれくらいなんですか」

 

「現時点ではまだ発表することはできない。だが、例年700点前後に設定されている。今回もそれくらいに設定されると考えて構わない」

 

 どれか1科目でも3割を下回るか、総合点で4割5分程度を下回れば退学か。

 学力の低い者同士がペアとなってしまった場合、必ず回避できるとは限らない、いやむしろ危険度の高いラインだ。

 となると、肝心なのはペアの決定方法だが……。

 

「先生、先ほど小テストの結果によってペアが決定すると聞きましたが、その決定方法はどのようなものなのでしょうか」

 

 同様の疑問を持った平田が質問した。

 

「ペアの決定方法をお前たちに明かすことができるのはペアの決定後、つまり小テストの結果が出てからだ。いまその質問に答えることはできないな」

 

「……決定後ですか」

 

 つまり、今この段階でどのように点数を調整すればよいのか、その術を知ることはできないということだ。

 だが、少なくともランダムではないということは確かだ。それだけでも考察のしようはある。

 

「マジかよ。最下位と一緒になったら最悪じゃねえか」

 

「うげ、健に屈辱受けた! 絶対次挽回してやる!」

 

「無理すんなよ。口だけだろお前は」

 

 山内と須藤のそんなやりとりが聞こえてきた。

 確かに、須藤は実際に結果を出して見せた。発言の重みの差は厳然としてある。

 

「そしてもう一つ。お前たちには違う側面からも試験に挑んでもらう」

 

「違う側面、ですか?」

 

「そうだ。次の期末テストは、通称ペーパーシャッフルとも呼ばれる形式だ。これは試験の問題をお前たち自身に作成してもらい、それを他3クラスのどれかに割り当てるというものだ。問題は各科目50問、8科目計400問。問題が割り当てられたクラスと、自クラスの総合点を比べ、勝ったクラスが負けたクラスから50ポイントを得る。直接対決となった場合は、負けたクラスから勝ったクラスに100ポイントが移動することとなる」

 

「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 自分たちで問題を作る、って、そんなのアリっすか!」

 

「アリも何も、それがこの特別試験の大きな特徴の一つだ。配布された教科書や参考書だけでなく、敷地内の書店で売られている参考書、さらにはインターネット上の問題など、あらゆるものを活用して構わない」

 

「滅茶苦茶な引っ掛けとか、やばすぎる計算とか出されたら無理っすよ俺ら!」

 

「その点は安心していい。提出する問題は学校側で厳しく審査することになっている。その手の悪質な問題は都度修正が指示されるだろう。それを繰り返すことによって、試験に公正さをもたらす。分かったか?」

 

「うーん……まあ、なんとか」

 

 その説明を受けた瞬間、俺はノートにシャーペンを走らせ始めた。

 

「とはいえ、油断できないことはお前たちも理解しているだろう。このペーパーシャッフルでは、毎年1組か2組の退学者を出している。その殆どがDクラスだ。これは脅しではなくれっきとした事実だ。最後に指名するクラスについてだが、小テストの前日に私に報告するように。他クラスと指名先がかぶっていた場合はクラスの代表者によるくじ引きを行う。以上が小テストと期末テストの説明だ。あとはお前たちで考えることだ」

 

 そう言い残し、茶柱先生は教室を出た。

 

「作戦会議よ綾小路くん。平田くんたちを呼んできてもらえるかしら」

 

「了解」

 

 ガタっという椅子の音で、綾小路が席を立ったのがわかる。

 

「あなたは……既に始めているようね」

 

「まあ、先に終わらせておいた方が修正もしやすいだろ。1ヶ月の猶予はあるが、悠長にしてる余裕はない」

 

 俺のノートには5分ほどで作り上げた2問の地理の問題が書かれていた。

 期末試験の8科目は現代文、古典、数学、英語、化学、物理、世界史、地理。問題作成班の負担は軽くない。

 堀北はすぐにでも問題作成を始めるよう俺に指示を出すつもりだったようだが、こちらもそれは想定済みだ。

 

「そうね。中間テストの1位だもの。どうせあなたは問題作成に深く関わることになるわ。そのまま続けて」

 

「はいはい」

 

 中間テストではきっちりと見直しの時間を取り、全科目で満点を獲得することができた。

 堀北の方も全て95点以上という高得点だが、満点は数学のみに留まり、総合点では俺に次いで幸村と同点の2位となっている。

 学習指導要領を超えない範囲で、且つ出来るだけ難しく。

 例えば数学なら、池が懸念していたようにややこしい数字にして計算をかなり煩雑にさせれば点数は削れる。だが、露骨すぎると学校側によって訂正される。証明問題をずらりと並べれば3割解き切らずにタイムオーバーさせることもできそうだが、難解な証明は出題数が限定されるだろう。

 だが、初めから妥協するのも得策ではない。だから早いうちから「超難問」と言われるくらいの問題を作成し、学校側に提出してどの程度なら許容されるのかを見極めるのがいい。

 

 

 

 

 

 2

 

「遅いんですけど。今まで何やってたわけ」

 

「すぐに始めるわ。部活がある人もいるでしょうし」

 

「うわ無視。謝罪もないし」

 

 小言を言う軽井沢。しかし堀北はそれを全く意に介していない。

 作戦会議には、綾小路、堀北、軽井沢、平田、俺、そして櫛田と須藤が参加していた。

 場所は、校舎隣接で生徒からも人気が高いカフェパレット。

 俺が一人で問題作成の続きをやっているうちに参加者から場所、時間までぜーんぶ決まり、「あ、これ俺いらないパターンかな?」と思って帰宅しようとしたところで堀北に止められてしまった。くそ。

 

「それじゃあ、まずは来週の小テストのことから話しましょうか」

 

「あまり気にしなくていいんじゃないかな? 立て続けの勉強はみんなの負担も大きいだろうし。成績には影響しないとも言ってたしね」

 

「小テストに関しては、私は無理に勉強させようとは思ってないわ。でも、単に点数を取ること以外に何か意味があるはずよ。茶柱先生の言っていた通り、小テストの結果が期末テストに影響を及ぼしてくる」

 

「ペアの決定には法則がある、ってことかな?」

 

 小テストの結果に基づいて、と先生は言っていた。その可能性は十分にありうる、というかほぼ間違いないだろう。

 

「点数が近い同士でペア、とか?」

 

「正解不正解が似てるとかもあんじゃね?」

 

 軽井沢と須藤がそれぞれ直感で意見する。

 

「どの可能性も否定できないわね」

 

「ちょっと気になることがあるんだけど、いいかな」

 

 平田が手を上げて話の流れを一度止める。

 

「何かしら。どんな意見でもあると助かるわ」

 

「法則性の存在がちょっと疑問なんだ。例年同じ試験をやってるなら、上級生に聞けば教えてくれそうだよね。わざわざ学校側が隠すことじゃないと思うんだ」

 

 これまでやってきた特別試験で「上級生に聞く」というカードを切れなかったのは、舞台が無人島や船の上だったからだ。学校にいる今なら、聞くことも可能かもしれない。

 櫛田もそれに同調するように頷いた。

 それについてはあまり期待しない方がいいだろうな。以前堀北会t……いや、いまはただの先輩か。堀北先輩と話した時にも、特別試験に関連することについては詳しくは言えない様子だった。恐らくそう定められているのだろう。

 

「あなたはどう思うかしら」

 

 そこで突如として、堀北から話が振られてしまう。

 何か言わないといけない空気になってしまった。勘弁してくれよ……。

 

「あー……なんというか、学校側は隠してるんじゃなくて、いう必要がないってことじゃないのか。毎年毎年全クラスが法則性を見抜いて試験受けてるとも考えづらい。なのに、例年退学者が1組か2組しかいないんだろ」

 

「え? それっておかしくない?」

 

 俺の発言に軽井沢が反応を示した。

 

「話が見えてきたよ。つまり、法則性を見抜けなくても、大量の退学者が出るような深刻な影響は出ないようになっている、ってことかな」

 

「正解よ」

 

「だめだわかんねえ。どういうことだ?」

 

 話し合いに何とかしてついていこうとしていた須藤だが、ここでギブアップ。俺に顔を向けて説明を求めてきた。

 

「もし法則性があるとして、それを見抜けなかったら普通どうなる?」

 

「そりゃ、やばいだろ」

 

「退学者はかなりの数になるだろうな。なのに、茶柱先生の説明によれば退学者は1組か2組だ」

 

「あ? おかしくねーかそれ」

 

「だから今その話になってんだよ」

 

 須藤にもご理解いただけたようだ。

 

「平田くんの言う通り、法則性を見抜けなくても深刻な影響は出ない。そう考えると……ペアの法則は、『高得点者と低得点者から順に組んでいく』。おそらくそれで間違いないわ」

 

 この話し合いを持つ前からたどり着いていたであろう結論を口にした。

 全員が納得する答えに異論が出ることもない。

 

「なるほどね。でもそれって平均点くらいの人が一番危ないんじゃない?」

 

 軽井沢の懸念は正しい。成績上位者なら、恐らく一人でボーダーを突破、もしくはそれに近い点数を取ることもできる。よって最も赤点の危険度が高まるのは、平均点同士のペアが二人とも下振れしてしまうケース。

 

「そうね。でも、そこは正面から実力をつけてかかる他ないと思うわ。そしてそのためのサポートを全力で行う」

 

 ……あ。

 

「ちょっといいか」

 

「何かしら」

 

「平均点くらいの成績で、得意不得意も被ってたらよりまずいんじゃないか」

 

 名前を出すことは避けたが、俺が懸念しているのは三宅と長谷部。あの2人が組むのはちょっとまずい気がする。

 笑えるレベルで傾向が似ているのだ。

 

「……そうね。その配慮も必要になるわ。全員のカバーはおそらく無理でしょうけど、できる限りその組み合わせは避ける。得意科目と不得意科目の確認、お願いできるかしら」

 

「分かったよ」

 

「任せて」

 

 こういうのには平田と櫛田が向いている。多分大丈夫だろう。

 

「それが確認できたら、私たちは次の段階に行くことができるわ。指名するクラスだけれど、狙うべきはCクラスよ」

 

 俺の心配をよそに、話し合いは次のフェーズに移行していった。

 

「それには賛成だよ。でも、AクラスもBクラスも多分そこをついてくる。最悪のパターンになることも予想されるんじゃないかな」

 

 AクラスとDクラスの直接対決にでもなったら、かなり厳しい戦いになるだろう。

 

「でも、やはり無理をする理由はないと思うわ。各クラスにどれほどの学力差があるかはわからないけれど、Cを指名して、くじ引きで争うことになっても他のクラスがCを叩いてくれることに期待しましょう」

 

 まあ、堀北の言う案が堅実だろう。平田のいう可能性を危惧したとしても、それでBクラスを狙って冒険する理由にはならない。

 そしておそらく、Aクラスと直接対決することにはならないと思う。

 体育祭での成績も芳しくなかったことで、いまAクラスはほぼ完全に坂柳の政権下にある。葛城派も潰れたわけじゃないが、かなり弱体化している。

 今までは身体のこともあって表に出てこなかったが、今回の学力に特化した特別試験はその限りではない。

 藤野やそのほかの生徒から聞いている坂柳の性格なら、必ずBクラスを指名して叩こうとしてくるはずだ。

 

「それにしても……随分と静かね須藤くん。こういうとき、あなたは大体口を挟んでくると思っていたけれど」

 

「俺が分かるレベルじゃねえし。うるさかったら邪魔だろ?」

 

 須藤のそんな常識的な発言に、堀北は驚きを隠せない。

 

「んだよ、なんか変だったかよ」

 

「変じゃなかったから驚いているのよ……なんともいえない気分だわ」

 

 確かにおとなしかったな、須藤。

 今までの須藤を見ていれば、途中で話に変に介入して乱されると考えられてても文句は言えないだろう。

 

「まあ一つ言えんのは、いきなりAになれるわけでもねえし、目の前の相手を一個一個潰してくって考えたらわかりやすいぜ」

 

「なるほど、そういう面もあるかもしれないね。もし今回Cクラスに勝てれば、僕らは逆転できるかもしれないところまで来てるしね」

 

 そう。

 現時点でCクラスは492ポイント、Dクラスは346ポイント。もしCクラスと直接対決になって勝利するか、Dクラスがどちらにも勝利し、Cクラスがどちらにも敗北した場合、またはCクラスとDクラスの直接対決でDクラスが勝利した場合、DクラスはCクラスのポイントを逆転し、クラスが昇格するのだ。

 

「まじかよ!」

 

「うん」

 

「頑張らないとねっ」

 

 もしかしたら平田は、この事実を終盤に言おうと決めていたのかもしれないな。須藤はもちろん、全員のモチベーションを上げるために。

 全員で気合を入れ直し、その場は解散となった。

 カバンを持って席を立ち上がる瞬間、堀北に声をかけられる。

 

「速野くん、あとで話があるわ。外で待っていてもらえるかしら」

 

「話? 何の?」

 

「その時に話すわ」

 

 ここでは一切話すつもりはないらしい。俺は首肯するほかなく、言われた通り外のベンチに座って堀北の到着を待つ。

 数分後、店から堀北が出てきた。

 

「歩きながら話すわ。寄り道はしないでしょう?」

 

「まあ。まっすぐ帰るつもりだ」

 

 向こうもそれは同じのようで、通学路を並んで歩く形になる。

 ……入学したての頃、これと同じようなことが同じような場所であった気がする。

 少し懐かしいことを思い出していると、堀北が話題を切り出す。

 

「あなたに頼みたいことがあるの。その前に、聞いてもいいかしら?」

 

「答えるとは限らないぞ」

 

「安心して。あなたのポイントについてではないわ」

 

 ポイントを貸すにあたって俺がつけた条件はしっかりと記憶しているようだ。

 

「櫛田さんがクラスを裏切っていたこと、あなたはいつ知ったの? この前は少し混乱していて聞きそびれていたから、ここではっきりさせておきたい」

 

 ……なるほど、それを気にしてたか。

 まあその点に疑問を持つのも当然といえば当然か。

 

「いつかっていえば……体育祭後に龍園と会いに行くのに櫛田が迎えに来るって聞いた時だな」

 

 クラス対抗リレーが始まる直前、堀北が俺に借金を頼む理由の詳細を話したときだ。

 

「たったそれだけのことで、櫛田さんが裏切り者だと?」

 

「俺は元々、クラスで裏切り者がいるとすれば平田か櫛田の二択に絞ってたんだ」

 

「一体どうして……」

 

「船上試験で、龍園が優待者の法則を看破しただろ」

 

「少なくとも本人はそう言っていたわね」

 

 龍園が法則を見破ったという話を完全に信じているわけではないらしい。

 まあ、そこはどうでもいい。大事なのは、DクラスとAクラスの優待者はすべて龍園に知られていたであろうということ。

 

「その法則が何なのかは俺にも分からないが……自クラスの優待者を全て把握して法則を導き出したとしても、それだけでは裏切りメールは送れない。それができるのは他クラス……少なくとも1クラス分の優待者も照合して確証を得てからだ。その他クラスの優待者の情報をDクラスから得ていたとしたら、漏洩源はDクラスの優待者を把握していたあの2人のどちらかである可能性が高い」

 

 Dクラスでの信頼が最も厚いあの二人には、必然的にそういった情報が集まりやすい。

 

「けれど、あなたと幸村くん、それに綾小路くんも耳にしていたんでしょう?」

 

 知っていたという点では確かにそうだが、それで全員が全員高い確度で疑わしいということにはならない。

 

「綾小路が自分から直接龍園にかかわりに行くと思うか? いや直接的じゃなくても、スパイ仕込んで間接的に龍園にかかわりに行ってることすら、俺からしたら不思議でしょうがないことなんだぞ。あいつを裏切り者として疑えるわけがない」

 

「……確かに、それはそうね。それに加えて、幸村くんも考えにくい。彼は自分が最下位クラスに配属されたことに納得がいっていない節がある。裏切るとしても、裏切り先に2番目に低いランクのCクラスを選ぶとは思えない。せめてBクラスを選択する。そういうことね」

 

「そんなところだ。それ以外にも、龍園と同じグループのあの二人なら、学校側の指示で連絡先を交換してる。接触の機会はかなり作りやすかったはずだ」

 

「なるほどね……」

 

「まあそれでも、疑いの割合は櫛田が8で平田が2くらいだったよ。櫛田と龍園にはお前っていう共通のターゲットがあったから、利害の一致がある。それで櫛田が迎えに来るっていうんだから、ああやっぱりなと思っても不思議じゃないだろ」

 

 俺の発言には、嘘と事実が混在している。

 しかしそれがどの部分かを確定させることは堀北にはできない。

 それに、俺の嘘は別にクラスを裏切るようなものじゃない。

 やましいことがないわけではないが、それは堀北に責められるようなことじゃない。隠したいことの十や二十、誰にだってあるだろう。

 

「……筋は通っているわね」

 

「本当のこと言ってんだから当たり前だ」

 

 堀北も俺がどのように答えるかくらい予見していたように思う。そしてどうせ尻尾も出さないであろうことも。

 そのうえで俺を尋問した。

 ただ段々と馬鹿らしくなったのか、幸村の疑いに関しては自分から否定しだしたが。

 

「それで、一体何なんだ頼み事って」

 

 話を初めの段階に戻す。

 

「……そうね、その話に行きましょう。頼み事は、私たちが作成する問題についてよ」

 

「作ることそのもの以外にも何かやってほしいのか」

 

「ええ。あなたが作った問題、学校側に提出する前にすべて私を通してもらえないかしら」

 

「……というと?」

 

「すべての問題を私が一元的に管理し、必ず私が問題を提出するという形にするのよ」

 

 ……なるほどそういうことか。

 堀北の発言の意味、それを理解する。

 

「……問題の精度の確認のために、元々お前を通すつもりではあった。要は勝手に提出しなければいいんだろ。お前の言う通りにしとく」

 

「助かるわ」

 

 堀北のこの方針は、今回も必ず動くであろう櫛田への対策として非常に有効だ。

 体育祭では櫛田と龍園に散々にやられた。二の足を踏んでなるものか、という強い意志を感じることができる。

 失敗から学び、確実に成長を見せている。

 俺は俺で、詰めの段階に向けて行動していかないとな。

 

 

 

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