実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
6時間目。
授業開始のチャイムが鳴るとともに、茶柱先生は教室を出て行ってしまった。
Dクラスの面々は、先生の謎の行動に困惑している様子。
そんな中、平田、そして俺の右後ろに座る堀北が席を立ちあがり、二人で教壇に立った。
まずは平田が口を開く。
「今日のホームルームは、明日の小テストに向けての話し合いをしたいんだ。茶柱先生に許可は貰ってある」
茶柱先生は事前に知っていたからこそ、すぐに教室を後にしていったわけだ。
先生としても助かるかもしれないな。授業1コマ分の時間を丸々事務作業等にあてることができる。
これまでのクラス内での話し合いにおいては、この位置は平田の専売特許に等しかった。体育祭では櫛田も出ていくことが多かったが、それでもメインで場をまとめていたのは平田だった。
そこに、今回初めて堀北が加わることとなる。
堀北はそのスペックの高さから、元々クラスでの発言力は低かったわけではない。しかしこのように表立ってクラスの先頭に立つというのは初めてのことだ。
「……話し合いを始める前に、過ぎたことだけれど一つ改めて謝罪させてほしいの。私は体育祭でふがいない結果を残してしまった。口では強いことを言いながら、結局何も残すことができなかったことを謝らせて」
そう言って、ゆっくりと頭を下げた。
堀北は体育祭の最中、須藤を連れて戻ってきたときにも、クラスメイトの前でこのようにして頭を下げた。それで堀北も「改めて」という言葉を使っていたが、謝罪というのは一度しかしてはならないというものではない。これが堀北なりのケジメというやつなのだろう。
「べ、別に、負けたのは堀北さんだけのせいじゃないし」
「そうだぜ鈴音。何の役にも立たなかったやつもいるしな」
「結果としては、ね。でも、そこに至るまでの一連の過程も含めて、体育祭の私に評価すべき点はほとんどないわ」
例えば、話し合いの段階で起こった軽井沢たちとの言い争い。自分を含めた運動のできる者を優遇して組み合わせを決めていく、という方針を堀北は強く推していた。時には罵倒ともとれる強い言葉を使って。その挙句で結果があれでは示しがつかないというもの。
自らの無力さを自覚し、それを通して成長した堀北の姿が、こうして平田とともにクラスの前に出るという形で表れている。
「けれど、謝罪はいったんここで終わり、次の期末試験、クラス全員で協力して全力で挑みたいと思っているわ」
「それは、そうだけどさ。具体的にどうするの? ペアの決め方とか分かってないし……結局、とにかく勉強するしかないってことになるんじゃ……」
「勉強は必須。これは当たり前よ。けれど、ペアの決定方法はもう分かったも同然よ」
「えっ、そ、そうなの?」
「ええ。そしてクラス全員で協力すれば、ある程度組み合わせを操作することもできるわ。平田くん、お願い」
「うん」
指示を受けた平田が、チョークを持って黒板に字を書き込む。
小テストの順位が1位の人と最下位の人、2位の人と最下位から2番目のひと、という順にペアが組まれる
「おお、なるほどー!」
「やったじゃん!」
「ぬか喜びは禁物よ。ここまでは少なくない人がたどり着いている結論のはず。つまりここまできてようやくスタートラインに立ったと考えるべきだわ。問題はその次。この法則でペアが決められていくのであれば、法則を見破れなかったとしてもある程度バランスの取れた組み合わせになるわ。けれど例外は起こりうる。例年、その例外が起こってしまった1、2組のペアが退学になっているのよ。そこで、その例外を排除する方法を説明するわ」
次は堀北が黒板に字を書きだす。
書かれたのは、池、須藤、山内、井の頭など10人の生徒。共通点は、Dクラスの中でもとりわけ勉強を苦手としていることだ。
「この10人は、小テストでは名前を書くだけで、あとは白紙で提出すればいいわ」
「わざと0点取るってことかよ」
「ええ。先生は成績には影響はないと強調していたから、心配はいらないわ。むしろこれはあなたたちを確実に成績上位者とのペアにするための策よ。そしてそのためには、成績上位10名には8割以上、あわよくば満点を目指して全力で取り組んでもらう必要がある」
先ほどの10名の上に、俺、幸村、平田、櫛田、王、高円寺などの成績上位者10名の名前が書きこまれる。もちろん、堀北本人の名前もあった。
「それ以外の中間層20名に関しても、これまでの成績を踏まえて上位下位10名ずつに振り分け、上位には5割ほどを、下位には1点だけ取ってもらう。ただしこの中間層に関しては、科目の得意不得意も考慮に入れて考えるわ。平均点あたりのペアが不得意科目まで被ってしまうと危ないから」
俺が指摘した点もしっかりと反映してくれている。ひとまずは安心だ。
「あなたもそれで異論はないかしら、高円寺くん」
Dクラスの最大のイレギュラー、高円寺にも確認を取る。
「異論などないさ。試験内容も当然把握している」
「では、小テストでは確実に80点以上を取ってくれると踏んでいいのかしら」
「さあどうだろうねえ。それはテストの内容や難易度次第さ」
「あなたがもし意図的に低い点数を取るようなことがあったら、システムそのものが成り立たなくなるわ」
堀北の言う通り、これはクラス全員が協力して初めて成立する作戦だ。
普段の高円寺を見ていれば、その作戦に従わないことも十分に考えられる。
「じっくり検討しておこう、ガール」
そんな適当なセリフだけ言って。高円寺は自前の手鏡に視線を移した。
それを見た堀北もこれ以上の追及は無駄だと考え、ため息をついてから補足説明を始めた。
自分以外に信じるものがない高円寺は、どうせ期末テストでは自分一人でペアの退学ノルマを達成するくらいの高得点を取ってくるはずだ。つまり小テストでしっかりと点を取って学力の低い者とペアを組んでも、サボって学力の高い者とペアを組んでも、結局高円寺のやることに変わりはない。
だからこそ、この男はどう出るか全く読めない。俺たちにできるのは祈ることだけだ。
1
堀北の作戦の通り、つつがなく小テストを終えたDクラス。
その結果によって決定されるペアは、早くもその翌日に俺たちに知らされた。
「それではこれより、ペーパーシャッフルのペアを発表する」
茶柱先生は、小テストの点数とともにペアが記載された紙を黒板に貼りつけた。
上から順に確認していく。
平田と山内。堀北と須藤。櫛田と池。幸村と井の頭。
俺は菊池と、綾小路は佐藤と。
三宅と長谷部もうまい具合にばらけ、それぞれ佐倉、前園とペア。
事前の想定通りだ。
「高円寺くんも、今回は合わせてくれたみたいね」
安堵を含んだ堀北の呟き。
高円寺のペアは沖谷。しっかりと高い点数を取っている。
「まああいつの場合はいつも通りなんじゃないか。合わせたつもりはないと思うぞ」
「そうかもしれないわね。ただ好材料であることは間違いない。ひとまず第一段階はクリアよ」
ペアはほぼほぼ理想通りになった。
クラス指定も、被りでくじ引きになることなくCクラスになることが決まった。
またCクラスもDクラスを指定、そしてAクラスは予想通りBクラスを、BクラスはAクラスを指定したため、全クラス被ることなくAクラス対Bクラス、Cクラス対Dクラスという直接対決の形になった。
Dクラスとしては最も戦いやすい形になったといえる。
「結果を見るに、お前たちの中にペアの法則を理解していた者がいたようだな。今更伝える必要もなさそうだが、ペアの法則は点数の高い者と低い者が順に組んでいく、というものだ」
見事に法則を見抜いていた堀北にクラスから称賛する視線が集まった。
「重要なのはここからよ。クラス全体の点数を高めること。先生、宜しいでしょうか」
「好きにしろ」
茶柱先生に一言断り、以前と同じく堀北と平田が前に出て教壇に立つ。
「対戦クラスの組み合わせにペア、ここまでは全て上手くいっているわ。協力ありがとう。ここからは単純に学力勝負になる。点数を底上げするために勉強会を開こうと思っているわ」
チョークを手に取り、その内容を書いていく。
「部活動のある人も考慮にいれて、1日2部構成にしようと考えているわ。今書いたように、1部は放課後になってすぐの午後4時から6時、2部は部活動終了後の午後8時から10時」
「僕は部活があるから、2部を担当するよ」
「お願いするわ平田くん。そして私が1部を担当する。学力に不安がある生徒は1部と2部両方出ても構わないけれど、その場合2部では部活動のある生徒を優先的に見ることになるわ」
このようにして、勉強会の中身が決まっていく。
教師役は基本的に堀北と平田。この2人に加え、1部と2部の両方に出てそれぞれの中間層を担当する役割に櫛田が抜擢された。
「んだよ、鈴音が2部じゃねえのか」
そう不満を漏らした須藤。
「極力2部の方にも顔を出すようにするわ」
「マジかよ。っしゃ、俄然やる気が出てきたぜ」
「けれど、私がいてもいなくてもしっかりやってもらわくては困るわ。分かっているわよね?」
「……ああ、分かってんよ。ペアだしな。俺も頑張らねえと」
しっかりとコントロールが効いているようだ。
こうなると不安なのは、須藤よりも池や山内、それに喋るのが好きな女子の方かもしれない。
「勉強会は、とりあえずこのような形でやっていくわ。何か問題が発生したり疑問点があれば、都度私か平田くんに伝えて」
話し合いがまとまり、堀北が自分の席に戻ってくる。
俺はそのタイミングで一つの提案をすることにした。
「堀北。Bクラスと合同で勉強するはどうだ」
「……珍しいわね。あなたから提案なんて」
「悪い提案じゃないと思うんだが」
「そうね。一之瀬さんが了承してくれれば、Dクラスとしては非常に助かると思うわ」
堀北の発言を裏返すと、BクラスにとってDクラスが足手まといになってしまわないか、という懸念があるということ。
ただ、一之瀬なら多少不利な件でも無下に断るとは思えないし、俺が出て教える役に回ると言えばBクラス側としても悪い話にはならないはずだ。こういった名声は利用するに限る。
「俺から話してみる」
「分かったわ。断られたかどうかにかかわらず、結果を報告して」
「了解」
俺はすぐに一之瀬にメールを送り、それから机に向かって問題作成を始めた。
2
放課後。
問題作成を進めるためにさっさと帰宅しようとしたところで、教室のドア付近で三宅に呼び止められた。
「悪い、ちょっといいか速野」
「……どうかしたか」
三宅についていき机を見ると、用件はすぐにわかった。
「この部分なんだが……ちょっと何がどうなってるかさっぱりでな……」
勉強の質問だ。
科目は古文。テキストにはその部分にかなりの回数線を引いた跡があり、長い間悩んでいることが伺える。
そこまで高難度というわけではないが、苦手としている三宅にはきつかったか。
「長谷部、ちょっと」
「え、なに」
ちょっと嫌そうな顔をされてしまったが、めげずに手招きをする。一応呼びかけに応じて三宅の席に来てくれた。
「三宅がこの部分分からないって言うから、お前にも解説しとこうと思ってな。興味ないなら帰っていいぞ」
「あー、そこ私も分かんなかったんだよね。解説見てもさっぱり」
どうやら呼び止めたのは間違いではなかったらしい。
ゆっくり丁寧に説明していく。
解説を見ても分からない、というのも仕方がないなこの部分は。なぜか解説の記述が非常に雑になっているという、たまにあるパターンだ。
俺の説明で何とか合点がいったようで、二人ともうんうんと頷いていた。
「や、速野くんの解説でなんとか分かったけど、テスト本番で解けって言われたら無理って感じ」
「同意だ」
「解けないと思ったら捨てるのも手だぞ。後ろの問題のほうが簡単だったり、解きやすかったりするのはよくある」
問題番号順に解かなければならないなんて決まりはない。
「それはそうなんだけどさ。ただ難しいって感じるだけで、どれくらい難しいかは分かんないから捨てようにも捨てられないわけ」
「なるほどね……」
「そう考えると、点数操作するときに得意不得意も考えて分けたのはよかったな。お前とペアにでもなってたら詰んでたぞ」
「そうなったら仲良く退学だねえ」
「そこまで仲良くしたくねえよ」
「ただ、言っちゃ悪いが安心できるレベルじゃないぞ。大丈夫か? 二人とも勉強会には参加しないんだろ?」
「たぶんねー。向いてないし、大人数でやるの」
「俺も一人でやるつもりだったが……やっぱまずいか?」
「俺個人としては、独学はおすすめできない」
ただ、長谷部の言うように勉強の方法にも向き不向きがある。
向いていない環境でやっても、苦痛が増すばかりで成績は伸び悩んでしまう。
「お前が教えてくれると助かるんだが」
「速野くん問題作るんじゃなかったっけ? じゃあ無理でしょ」
「ああ。だから悪いがそれは厳しいな。ただ限界感じたら知らせてくれ。当てがないこともない」
平田や堀北などの教師役を除き、成績優秀で、かつ比較的時間に余裕があるであろう人物。2人ほど候補がいる。
「あんまり気は進まないけど……考えといたほうがいいかもね」
「みたいだな。わかった。ただひとまずは一人でやってみる」
「頑張ってくれ」
俺は直帰する予定を変更し、二人のもとを離れて自分の席に戻った。
まずは綾小路に話しかける。
「ちょっと頼まれてほしいんだが」
「面倒ごとは勘弁だぞ」
「別に面倒ごとじゃない。幸村を呼んできてくれ」
綾小路は夏休み中、船で幸村と同室だったはずだ。俺が呼ぶより印象がいいだろうと判断した。
「まあ、それくらいなら」
「助かる。あと堀北も話聞いてくれ」
「私も? 何かしら。手短に頼める?」
「善処する」
少しして、綾小路が幸村を連れてもどってきた。
「なんだ? 話があるって聞いたんだが」
「ああ。これなんだけどな」
俺はカバンの中から紙の束を取り出し、幸村と堀北にそれぞれ一部ずつ渡した。
「これって……」
「ここまでで俺が作った問題、二人に解いてもらいたいんだよ」
クラスでトップの学力を持つ二人。これ以上の適任はいないだろう。
「……なるほど。私たちを難易度の指標にするということね。私たちがどれくらい解ければ納得するのかしら」
「そうだな……制限時間を20分として、お前たちで7割弱なら上出来だろ」
この制限時間とこの問題量でこの二人が7割しか取れなければ、Cクラスからは退学者が出てもおかしくないレベルだ。
「確かに勝率は高まるな。俺たちが良い点を取るほど問題の質も上がっていく」
「ああ。だからかなり真剣に解いてくれ」
「分かってる。簡単に低い点数を取ったりはしない」
「頼んだ」
とりあえずはこれでいい。
次に本題へと入っていく。
「幸村、あと一ついいか」
「……まだ何かあるのか?」
「悪いが聞いてくれ。勉強を教えてやってほしいやつらがいる」
「池や山内なんて言わないよな?」
「違う。長谷部と三宅だ」
先ほど考えついていた2人の候補。そのうちのひとりが幸村だ。
ちなみにあと1人は高円寺だったので初めから全くあてにしていない。
「あの二人の成績は壊滅的ってほど悪くはないんじゃないか?」
「総合点はね。ただ、あの二人はどちらも文系科目をかなり苦手としているわ」
幸村の疑問には堀北が答えた。
「それは把握できていたから、あの二人はペアにならないように調整したはずだけれど……それだけでは手に負えなかった、ということ?」
「そういうことになる。加えて二人とも大人数での勉強会を好まないタイプだ」
特に心配なのは長谷部のほうだ。俺が行ったその場しのぎの応急処置で国語の点数が良化し、中間テストに関してはそこそこの順位だったが、本来の学力は中間層のうちの下位に位置する。それを三宅との調整の兼ね合いで、小テストでは中間層上位の点数を取ったため、同じく中間層下位の前園とペアになった。
「それを知っていたということは、あなたはあの2人との接点はあるけれど、教える時間が取れないから幸村くんに頼み込んだのね」
堀北の完璧な推理に頷いた。
「まだやることが確定したわけじゃない。1人での勉強に限界を感じたら、声をかけてもらうことになってる」
あとで文句を言われないよう、一応まだ未定であることも伝えておく。
「分かった。引き受ける」
「……お、マジで?」
正直五分五分だった。場合によっては少し手のかかる交渉が必要かと考えていたが、すんなりと承諾を得られた。
「ああ。その二人と俺の橋渡し役はお前がやってくれるんだろ?」
「できる限りは。……でもいいのか? こっちから頼んでおいてなんだが、こういうのあんまり好まないんじゃないか?」
「体育祭では何もできなかったから、俺も最初から何かできることはないかと思ってたんだ。どんな試験でも、クリアするためにはクラスで協力していかなきゃならない。この学校で過ごしていくうちに、どんどんその考えが強くなっていった」
これまでの生活で心境の変化があったのは、何も堀北に限ったことではないのだろう。
須藤も、いまの幸村も。もちろん俺もだ。
「一応準備はしておく。やることになったら声をかけてくれ」
「悪いな、助かる」
やり取りを終え、幸村は自分の机へ戻っていった。
こちらの会話が幸村に聞こえなくなるくらい離れたところで、堀北が口を開く。
「橋渡し役、あなたに頼めるかしら。綾小路くん」
「……オレが?」
堀北に言われた瞬間、いやだというオーラを全身から出す綾小路。
「そうしてくれると助かるな。俺の代理みたいな役割で。考えようによってはコミュニティを広げられるきっかけにもなるだろ」
綾小路はいざとなれば無理やり突っぱねることもできるが、こうして色々理屈をこねることで断りづらい状況に持っていく。
船上試験の件での貸しを使うこともできたが、それをこんな小さなことで使うのはかなりもったいない。
「……はあ、分かった。オレは何をすればいいんだ……?」
うんざりした様子を見せながらも、ひとまず了承してくれた。
「まあ……管理、って言い方が一番当てはまるか。2人の呼び出しまでは俺がやるから、そのあと勉強会が円滑にいくように立ち回るんだ。それ以外はぼーっとするなり勉強するなり自由にしてくれ」
どうせ勉強せざるを得ない雰囲気になるだろうけど。
「まあ、やれるだけはやってみる」
「助かる。じゃあ正式に決まったらまた伝える」
綾小路は心の中で「決まりませんように」と願っていることだろう。
そんな願いが儚く散ったのは、早くも翌日のことであったことをここに記しておく。