実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

61 / 77
勉強会

 さらに翌日の放課後。

 俺は三宅と長谷部と3人で教室の一角に集まっていた。

 

「やっぱり、独学じゃ厳しかったか」

 

 今日の昼休み、三宅が代表して「やっぱり勉強会をセッティングしてくれ」と頼みに来たのだ。

 やっぱり来たか、ということで、すぐさま綾小路と幸村に話を通した。今はその二人を待っているところだ。

 

「情けない話だけどな……」

 

「あんまり気は進まないけど、さすがに退学はごめんだし。それに今回は他人も関わってくる話だしね」

 

 今回の試験に限っては、自分の退学はペアの退学につながってしまう。今までにないほどの強い責任感が生まれる。

 

「賢明な判断だと思うぞ」

 

 あのレベルのまま勉強会などの対策も取ろうとしなければ、俺が無理やりにでも時間作ってどうにかするという最終手段を取るしかなかった。しかしそれはちょっとあまりにも面倒なので、ひとまず避けることができてよかった。

 

「どこでやるとか聞いてないの?」

 

「いや。やるのは俺じゃなくて幸村だからな」

 

 そこは勉強会に参加するメンバーが決めることだ。俺が知るようなことじゃない。

 

「悪い、少し遅れた」

 

 と、そこで幸村と綾小路が到着した。

 とりあえずこれで顔合わせはできた。俺の役割はここまでだ。

 

「じゃあ、俺はこれで。あとは頼んだ」

 

 橋渡し役を委任した綾小路にバトンをパスし、俺は荷物を持って教室を出た。

 恨めしそうな視線を感じたが、こういう時は知らないふりをするに限る。ま、頑張ってくれ。問題作るよりよっぽど楽だろ。

 

 

 

 

 

 1

 

 俺がこの試験で堀北からの指図をあまり受けず、比較的自由に行動を取ることができているのは、俺が問題作成という役割を引き受けているからだ。

 問題作成自体は教室や図書館、カフェなど、机とペンさえあればどこでもできる。しかし、作った問題はCクラスには絶対に見られてはいけないもの。いや、例えDクラスの人間であっても、問題作成に協力しない生徒には見られない方がいい。それほどまでに警戒度を上げて対応すべきものだ。

 どれだけ高度に洗練された問題を作り上げたとしても、それが解く側に筒抜けでは全く何の意味もなさない。

 先に挙げたような人目を避けるのが難しい場所では、そういった危険性がどうしても高まる。

 ではどこが一番安全か。

 答えは簡単で、寮の自室だ。

 そのため俺は放課後はすぐに寮へ帰宅し、問題作成を行う必要がある。そういった事情があるため、堀北も俺に変に他の頼みごとをするわけにもいかないのだ。

 幸村たちの合流を見届けて教室を出た俺は、すぐに校舎を出て寮への道のりを歩く。

 

「おーい速野くん」

 

「……?」

 

 そんな道すがら、急に名前を呼ばれたので立ち止まる。

 

「……藤野か」

 

 俺が振り向くと、笑顔で右手を振りながらこちらに近づいてくる。

 

「今帰り?」

 

「そうだ」

 

「私もだよ。一緒に帰ろ」

 

「ああ、オッケー」

 

 そんな流れで、寮まで隣を歩くことになる。

 このような場面で最初に話を振るのはほとんどが藤野だが、今回は俺から口を開く。

 

「勉強会とかないのか? お前なら教師役やりそうなのに」

 

「今日は各自で、ってことでお休み。まあ、これから女子3人で私の部屋でやるんだけどね。ご飯会も兼ねて」

 

「なるほど」

 

 同性同士なら、夜の立ち入り制限も特にない。夕飯を挟んで多少遅い時間になったとしても何の問題もないだろう。

 

「速野くんこそどうなの? 今日は勉強会は?」

 

「俺は主に問題作成だから、そっちは今日に限らず堀北とか他の人に任せてる」

 

「あ、そうなんだ。結構難しいし時間かかるよね、問題作るの」

 

 藤野も問題作成に関わっているという話は以前聞いた。

 Aクラスはこの試験、坂柳が主導で取り組んでいるが、問題作成を一人で行うのは無理がある。普通ならその補佐役には派閥の人間を起用するが、坂柳はあえてそうせず、派閥の外から藤野、さらには政敵であるはずの葛城にも頼んでいるらしい。

 派閥の取り込みだ。坂柳が指示を出し、葛城がそれに従ったという形を演出することで、いまだに葛城派に残っている生徒に精神的な圧力をかける狙いがあるんだろう。

 

「ああ。それで自信のあった問題が学校側に訂正の指示受けたときには結構ショックだ」

 

「うわ、それはキツイね……」

 

「ま、もうそういうもんだと思うしかないが……」

 

 雑談を交わしていくうちに、寮までもうすぐという距離に近づいた。

 ここで俺は話題を切り替える。

 

「そうだ……Bクラスとの勉強会、無事決まったぞ」

 

 言うと、藤野の表情が一瞬強張り、立ち止まる。

 

「昨日のうちに一之瀬から返事があった。いつやるかはこれから決めるが、開かれるのはほぼ間違いない。上手く持って行けば定期開催にもできる」

 

「……ありがと。じゃあ、それについてはまた連絡するね」

 

「ああ」

 

 藤野にとってはあまり楽しい話ではなかったな。

 最後のやり取りで雰囲気が重くなり、「じゃあ」という別れ際の言葉を除けば無言でそれぞれの部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 2

 

 週末。

 当然授業など行われておらず、がらんとしている校舎内を俺は歩いていた。

 といっても、完全に無人というわけではない。たまに教師や生徒とすれ違う。

 ちなみに、休日でも校舎に入る際には制服の着用が義務付けられているため、俺もすれ違う生徒も制服だ。

 窓は開け放たれており、外からは部活動を行う生徒の声が風に乗って入ってくる。

 そんな音をBGMにしながら廊下を歩き、職員室を経て、目的地に到着。

 そこは通常の教室の倍ほどの広さを持つ空間。視聴覚室だ。

 中に入ると、そこにはすでに数名の生徒が座って談笑していた。

 

「あ、おはよう速野くん」

 

 その中のひとり、一之瀬が俺の到着に気付き、挨拶をしてくる。

 

「おお、おはよう。てかほんとに早いな……」

 

 実のところ、すでにここに誰かが来ているのは知っていた。職員室に寄ったのはこの視聴覚室の鍵をもらい受けに行くためだったのだが、すでにBクラスの生徒が持って行ったと職員から言われたのだ。

 

「せっかく誘ってくれたのに、遅刻したら申し訳ないからね」

 

「いや、こういう場合って提案したDクラス側が先に来て待ち受けるもんなんじゃ……」

 

 そう、ここで今から行われるのは、俺が堀北に提案したBクラスとの合同勉強会だ。

 平日の放課後や夜はDクラスもBクラスもそれぞれすでに勉強会が組まれているため、そこを無理やりドッキングするよりも新たに休日に勉強会を立ち上げたほうが分かりやすい、という結論に至ったのだ。

 

「正直びっくりしたよー。堀北さんからこんな話をもらえるなんて」

 

 実は話を通しやすくするため、これは俺ではなく堀北からの提案であり、俺は一之瀬の連絡先を持っているため交渉窓口に抜擢されただけということにしてある。昨日そのことを堀北に伝えたら案の定小言をもらったが、「はいはい」って感じで聞き流した。

 ひたすらに無視していたら「あなた子ども?」なんて言葉も受けたが、「はいはい」だから子どもどころか赤ん坊だろうな。

 

「以前の堀北さんなら、こんなことはきっとなかったよね」

 

「体育祭で根本のところに変化があったみたいだ。正直、あいつの変わりようにはDクラスも驚いてる」

 

「大変だったもんね堀北さん……龍園くんに執拗に狙われてたのははた目からでも明らかだったよ」

 

 やっぱり他クラスから見ても分かりやすかったらしいな。

 まあ、龍園が敢えて見せびらかすようにしたというのもあるが。

 

「お互いにクラスの勉強会があるからって休日にしたけど、実は昨日と一昨日も堀北さんたちと一緒にやったんだよね」

 

「……え、そうなの?」

 

 何とも衝撃的な事実だ。

 

「一昨日偶然図書館で会ってね。近くにCクラスが座らないように協力をお願いされたんだよ」

 

「ああ、なるほど……」

 

 偶然の産物だったわけか。

 確かに、敵クラスに勉強会の様子を見られないようにするための対策としては非常に有効な手だ。

 それに昨日も一昨日もやったからといって、今日の勉強会の価値が落ちるわけでもない。

 

「ま、とにかく、今日はよろしくね速野くん。私も質問するところあるかもしれないから」

 

「そんなことあるか……?」

 

 一之瀬の成績なら俺の手助けなど不要だと思うが。

 まあ参加する以上、勉強の質問にはできる限り答えるつもりだ。

 そのうち、どんどんと生徒が集まってくる。

 参加者は主に各クラスの下位層で、且つ部活のない生徒だ。

 

「一之瀬ちゃん久しぶりー!」

 

「あ、池くんだったよね! 会うのはプール以来かな?」

 

 教室に入ってきた池と山内が一之瀬とそんな会話を交わしている。

 Dクラスからはこの2人のほかにも、井の頭など定期テストで下位常連となってしまっている生徒が集まっている。Bクラスも恐らく同じような感じだとは思うが、申し訳ないことに全く名前を知らないので詳細はわからない。

 講師役には一之瀬、俺、そして今教室に入ってきた堀北。

 2クラス合わせて13人ほどの集まりだ。

 

「おはよう堀北さん。こんな機会を作ってくれてありがとう」

 

 堀北のもとに駆け寄り、謝辞を述べる一之瀬。

 それを受けた堀北は一瞬こちらに視線を向けたが、すぐに一之瀬に向き直って答える。

 

「いえ……感謝するのは私たちの方よ。昨日と一昨日の様子であなたも感じたとは思うけれど、学力に不安がある生徒はBクラスよりDクラスの方が圧倒的に多い。こちらの方がより大きく力を借りることになってしまうと思う。よろしくお願いするわ」

 

「こちらこそだよ。じゃあ、さっそく始めよっか。みんな好きな場所に座ってね」

 

 一之瀬の指示で、談笑の声が静まる。

 池や山内も可愛い女子の指示には従うようで、口を閉じた。

 ま、特にこの二人は一之瀬目当てで来たようなもんだろうからな。

 別にそれに対して否定や非難をするつもりはない。動機が不純でも来ないよりマシだ。

 勉強会は授業形式だ。全員横並びで基礎の基礎から復習し、全体の学力の底上げを図る。

 授業を取り仕切るのは一之瀬と堀北。こういった前に出る役割に慣れていない俺はチューター役を担う。

 まず最初は英語をやることになっている。担当は一之瀬。堀北の担当は次の化学だ。

 

「みんな第1文型から第5文型まで覚えてる?」

 

 引っ張り出してきたホワイトボードを使って一之瀬が授業を始めた。

 日本の英語の授業は所謂「受験英語」と揶揄され、海外の実生活で使うような実践的な英語を学ぶ機会は非常に少ない。

 英語の成績が優秀で、試験で出題されるような文法や文章読解、リスニングなどはできても、ネイティブスピーカーと相対すると何もできないというのはよくあるパターンだろう。

 まさに俺がそうだ。まったくといっていいほど喋れない。「え、あ、あー……あ、アイム、えー……」って感じ。一単語ごとに言葉に詰まる。傍から見ればキョドってるようにしか映らないだろう。あれ、もしかして日本語しゃべってる時と変わらない……?

 発音やアクセントは試験で問われることがあるため暗記しているが、そういう問題ではない。

 暗記しているだけではだめだ。喋れるようになるためには喋るしかない。幼いころに習得した日本語だって同じだ。なのにこれまでの人生で英語を喋る機会がなかったのだから、今の俺が喋れないのも当たり前のことだ。

 まあでも、今回の試験でスピーキング能力を問われることはない。

 これといった悪影響はないだろう。

 一之瀬がはきはきとした声で授業を進めている中、俺と堀北はたまに飛んでくる質問に答えていく。

 授業は普段のように1時間ぶっ続けで行うわけではない。勉強中に集中力を欠くことのないよう、こまめに休憩をはさむ。

 計1時間半ほどが経過し、英語の授業は終了となった。

 

「お疲れ様、一之瀬さん」

 

「やー、授業って結構大変だね。先生たちいつもこんな難しいことやってるんだ。改めて尊敬するよ」

 

 一之瀬はそう言いながらふう、と息をついた。

 教師はそのうえ、1時間という授業時間内にキリのいいところまで進めるために、授業進度の計算も必要になる。この学校の教師は例外なくそのあたりが非常に上手い。とても優秀な人材が集められている事をひしひしと感じる。

 もちろん一之瀬の力量も中々のものだったが、それでも素人とプロの差は歴然。「ただの生徒とは思えない」レベルではあったが、お世辞にも「教師顔負け」と言えるようなレベルではなかった。

 しかし内容自体は十分に分かりやすいもので、質問を受ける合間に見回っているときも、頭を抱えているような生徒はいなかった。

 この勉強会の狙いである「学力の底上げ」は十分に達成されている。

 次に化学を担当した堀北のときも同様だった。一之瀬が近くに来た時にやたらと質問していた池と山内を除けば、だが。いや別に一之瀬が迷惑そうにしている様子はなかったしいいんだけど。

 ひとまず、勉強会は成功したといっていいだろう。

 やはり普段の授業とは違い時間制限がなく、こまめに休憩時間を取ることで勉強中の集中力を高められたのが功を奏したと思う。

 定期テストで得点率が4割ほどになってしまう生徒の多くは、恐らくだが授業中に集中力を欠いてしまって、基礎的な部分が大きく欠落してしまっていることに原因があると思われる。

 1学期中間テストで、堀北は池たちに対して「授業中にとにかく集中すること」という勉強法を授けたが、その結果池たちは「授業内容は意外と分かる」と発言していた。

 つまり、基礎の部分であれば集中すれば分からないわけじゃないということだ。

 フレキシブルに時間を活用できるのは大きな利点だな。

 

「みんな、お疲れ様。5時回っちゃったから今日は解散っ。帰っても復習を忘れないようにね」

 

 一之瀬がそう告げると、「はーい」という間延びした返事とともに全員ぞろぞろと帰り支度を始めた。

 疲れが顔に出てるな。苦手な勉強を計4時間もやったんだから、こうなるのも当然か。

 しかし堀北としては、この程度はやってもらわなければ、という思いだろう。成績が下位の生徒は上位の生徒とペアになったことで退学の恐れは大きくないが、この試験の目標は退学者を出さないことではなく、Cクラスに勝つことだ。そのためには下位の生徒をどれだけレベルアップさせられるかが重要なポイントになる。

 

「今日はありがとう一之瀬さん」

 

「ううん、こちらこそ。速野くんもありがとう」

 

「いやまあ、俺は見回ってただけだから……」

 

 勉強会への貢献度でいえば、俺はこの二人の足元にも及ばないだろう。

 

「それに、他の科目については自分たちでやらないといけないってなると、先が思いやられるな……」

 

「なら、他の科目についても是非一緒にやろうよ。今日と同じく週末に。私の方からも頼もうと思ってたことだから」

 

 ありがたいことを言い出してくれた。

 

「どうかな堀北さん?」

 

「私としては非常に好都合なことだけれど……構わないの?」

 

「もちろん。有意義な時間になるってことは、今回だけで十分わかったからね。ただひとつだけ、ふたりの参加を条件にしてほしい」

 

「ふたりって……俺と、堀北?」

 

 一之瀬は頷いた。

 お互いに顔を見合わせる俺と堀北。

 

「もちろん、発起人の一人として参加はするわ」

 

「俺もそうするつもりだが……」

 

 そんな俺たちの少し戸惑ったような答え方を見て、一之瀬が「あ」と言って付け加える。

 

「もしかしてこんな条件つけたことを不思議に思ってる感じかな? や、特に深い意味はないよ。単純に円滑にコミュニケーションが取れて、教える力も十分っていう条件を満たしてるのが君たちだからさ」

 

 櫛田もその条件には当てはまりそうだが、堀北に比べれば多少授業のクオリティは下がってしまうことが予想される。

 講師役を増やす分には一向に問題ないが、それは俺と堀北が参加したそのうえで、ということだ。

 それに加えて、上手くいった今の形をあまり崩したくない、というのもあるだろう。

 まあ納得できる理由ではある。

 言われずとも最初から参加するつもりだったしな。でなきゃこの勉強会を企画した意味がない。

 

「じゃ、私たちもそろそろ帰ろうか」

 

「そうね」

 

 そう言って、帰り支度のために各々の席に戻る。

 授業を進めるために色々なテキストを広げていた二人と違って、俺は立って見回っていただけのためバッグからほとんど荷物を出しておらず、すぐに支度を終えた。

 その足で俺は一之瀬に近づいて話しかける。

 

「一之瀬、ちょっと渡したいものがある」

 

「ん? なになに?」

 

「これなんだが」

 

 俺が手渡したのは、問題とその解答と回答欄、計3枚の紙だった。

 

「これは……」

 

「作った問題だ。人数分コピーしてBクラスで使ってくれ」

 

「え、いいの?」

 

「そのために作ったんだ。ただ、答えはこの回答欄に書いてもらって、そのあと回収して俺に返してくれ。できる範囲で構わないから」

 

 最後ちょっと関白宣言みたいなセリフになってしまった。

 

「なるほど、Bクラスがどれだけ解けるかを調べて、難易度の指標にしたいんだね」

 

「そういうことだ」

 

「でも大丈夫? Cクラスに漏れたりしないかな? もちろん十分気を付けるけど」

 

「まあ……十分気を付けてくれ」

 

 策はない。

 

「う、うん、分かった……責任重大だな……」

 

 いや、別にそんな重く考えなくてもいいんだが。

 実のところ、Cクラスになら漏れたって一向に構わないしな。

 

「一之瀬、この教室のカギ持ってるか。俺が返しに行くから渡してくれ」

 

「ん、じゃあお願いするよ。ありがとう」

 

 カギを受け取り、二人が教室を出るのを外で待ってからカギを閉め、職員室へ返却した。

 

 

 

 

 

 3

 

 Bクラスとの休日の合同勉強会は、次の週、その次の週も順調に進んでいった。

 初めよりも扱う科目の数も増え、それに伴い時間も長くなったため午前中から始めるようになった。最初から最後まで参加する生徒は昼食を持ってくることになる。ただ途中退室、途中参加はすべて自由であり、午前中のみ、あるいは午後のみに参加する生徒も中にはいた。

 俺は毎週問題を作り、一之瀬を介してBクラスに提供している。

 毎回クラスの半分ほどの回答が一之瀬から俺に戻ってくる。実際に解いた生徒からの評判は良好らしい。何よりだ。

 俺が参加していない平日の勉強会も、聞いた限りでは問題は起きていないらしい。先日、幸村からのアドバイスで、Cクラスの問題は金田という男子生徒が作成する可能性が高いらしいということが分かり、それを想定して問題を予想して勉強する手法も取り入れたそうだ。

 ここまでは順調にいっていると判断していいだろう。

 そんなある日の放課後、視聴覚室での用事を済ませて学校を出た俺はいつもと違う道を歩いていた。

 行先はケヤキモール内のカフェ。

 そこでは綾小路、幸村、三宅、長谷部の4人が勉強会を開いている。

 俺はそこに参加するわけではない。一応初めのキッカケを作った人間として勉強会の様子を見に行くだけだ。

 さっと見に行ってさっと帰り、また自室で問題作成の続きをする。ここまでが今日の俺の予定である。

 モール内に入り、目的地のカフェへ。

 放課後を迎えてしばらく経ったこの時間にこの場所に来たことはないのであまり分からないが、恐らく普段よりも利用客は多いんじゃないだろうか。

 ほぼ全員がティーカップや軽食とともに勉強道具を広げ、試験勉強を行っている。テストが近づいているこの時期ならではの光景だ。

 カフェに入店してから綾小路たちを見つけるのにそう時間はかからなかった。

 その場所にやけに人だかりができていて、俺の目を引いたためだ。

 そしてその人だかりの中には、いま最も会いたくないと言っていい人物がいた。

 

「ほお、てめえもここに来るとはなあ。速野」

 

 Cクラスの龍園翔が、俺の入店に気付いて声をかけてきた。

 その横には須藤の一件で色々あった石崎、小宮、近藤の三人。

 さらにもう一人、バカンスの際に船内の図書スペースで一緒になった椎名ひよりという女子生徒も一緒だった。

 

「……何か用か? ってかその前に、お前俺の名前ちゃんと呼ぶの初めてなんじゃね?」

 

 今までガリ勉野郎としか呼ばれていなかった気がする。

 

「クク、そっちの呼び方をお望みだったか?」

 

「呼びやすい方で呼べばいいだろ」

 

 この基準なら間違いなく本名の方だろうけど。

 

「ま、ちょうどいいところに来たことは褒めてやるよ。綾小路、幸村、速野、てめえら3人にまとめて聞いてやる。俺からの『贈り物』は届いたか?」

 

「贈り物?」

 

「一体何の話だ……?」

 

「さあ……」

 

 俺には全く身に覚えがない。となると、届いたのは恐らく綾小路か。当たり前ながらこの場の本人はすっとぼけているが間違いない。

 龍園が何をどんな手段で贈ったのかは知らないけどな。それはこの2人にしか知りえないことだ。

 

「どうだひより。何か引っかかることはないか?」

 

 俺たちに質問をぶつけた龍園は、椎名に意見を求めた。

 

「どうでしょう。今の段階ではなんとも……」

 

 当然の返答だ。このやり取りだけでは何も得られるものはないだろう。

 俺がこの女子生徒について知っているのは、本が異様に好きらしいということだけ。なぜこの場に呼ばれているのかに関してはまったく見当もつかない。

 引っかかることはないかと龍園に問われていたことから、そういった洞察力に優れたものを持っているのか。まあどうやっても想像の域を出ない。

 

「一体何の用なんだ龍園。俺たちはいま忙しいんだ」

 

「別に用なんかねえよ。今日のところは挨拶だけさ。お前らに一つ言っとくぜ。近いうちに改めて会おうってな」

 

「どういう意味だ」

 

 三宅は龍園に対し、この場の誰よりも強気に出る。

 それにまともに応じることなく、龍園と取り巻きはカフェを去っていった。

 嵐が過ぎ去り、一瞬の静寂ののち、店内はまた元の喧騒を取り戻す。

 しかし綾小路たちが勉強していたスペースには、いまだに一人、椎名が居座っている。

 

「ねえなんなの? そんなところにいられると邪魔なんだけど」

 

「少々お待ちくださいね」

 

「はあ? さっさとどっか行ってって言ってんだけど。意味わかってる?」

 

 かなり乱暴な口調でそう攻め立てる長谷部だが、椎名の方は特に気にした様子もなく、バッグを置いたままレジの方へ歩いていった。

 

「……お前なんか機嫌悪くないか? どうかしたか」

 

「速野くんが来る前、龍園くんに拾おうとしたカップ踏み潰されたの。あーイラつく」

 

「ああ……」

 

 今の説明ですべてを理解したわけではないが、まあ何となく想像はつくのでそれ以上深掘りすることはない。

 相変わらず龍園は周囲に敵しか作らないような行動をとる。今回の被害者は長谷部だったようだ。

 

「まあ……取り敢えず、勉強会そのものは順調に進んでるみたいでよかったよ。じゃあ俺もこれで」

 

「もう行くのか?」

 

「様子を見にちらっと寄っただけだからな。頑張ってくれ」

 

 滞在時間は10分しない程度だっただろう。俺は店内を後にした。

 途中でコーヒーの入った紙コップを持った椎名とすれ違った。お互いにそれは認識していたが、軽い会釈だけで言葉を交わすことはなかった。

 龍園がこうしてこの場に現れたということは……綾小路の思惑通りに事は進んでいるのだろう。

 先日Cクラスでは、例の録音を外部に……綾小路に漏らした裏切り者を探し出す会があったそうだ。さらに、堀北の裏で暗躍するDクラスの生徒を探り当てようともしている。仮に『X』と名付けて呼んでいるそうだ。

 まあそこでの話を耳にした時点で、俺は少々軌道修正を強いられることになってしまったわけだが。

 それについては仕方がない。

 これからは以前までの通り目立たず騒がず。これを意識して行動するだけだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。