実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
試験本番がいよいよ間近に迫ってきた。
テストの点数を上げてCクラスに勝利するため、1分1秒も無駄にできない。生徒たちは必死な思いで日々の時間を勉強に費やしていく。
ただ、全員が全員勉強だけをしておけばいいというわけではない。俺や堀北などには問題作成、それに他の生徒に教える役割もある。
そして今日のこの集まりも、勉強以外に必要不可欠なことの一つだ。
場所はケヤキモール内のカラオケルーム。
ここで、試験に向けての最終的な話し合いを行うことになっている。
参加者は、試験の概要が発表されたときに集まった7人に幸村を加えた8人。
場所がカラオケになった理由は、話し合いの様子を他クラスに聞かれたくないためという至極単純なものだ。
しかしそれだけの理由ならば、寮の誰かの部屋を使えばいい。わざわざポイントを払ってカラオケルームを利用する必要なんてないと考えるのが普通だろう。
いや俺もそう思うんだよ。てかみんなそう思ってた。
しかしそれをよしとしなかったのが、いま慣れた手つきでてきぱきと軽食やドリンクの注文を行っている軽井沢だ。
「ねえ、歌っていい?」
「ちょっと、軽食とドリンクだけで我慢して。今日は遊びに来たわけじゃないのよ」
「でもさ、カラオケに来て歌わないのおかしくない?」
「あなたが寮はどうしても嫌だというからここにしたんでしょう……」
敷地内で誰かの部屋以外に完全な密室を用意するとしたら、必然的にカラオケになる。
そこで店員が部屋に来て、注文したものをテーブルに置いていく。
カラオケに来るのは小学生以来ずいぶん久しぶりで、そこで軽食を注文することに至っては初めての経験である。処女航海ならぬ処女注文。犯罪臭がやばい。
にしても、このカラオケの軽食メニューってのは値段の割に量が少ないな。飲食類持ち込み禁止となっていることからも、利益の源泉の多くを占めているであろうことがわかる。お金に羽が生えて飛んでいった先の一つはここだな。
「じゃあさ、この話し合い終わったらデュエットしようよ洋介くん」
「終わった後なら構わないと思う。息抜きにもなるしね。みんなどうかな」
平田の呼びかけには誰も反対はしなかったが、積極的に賛意を示したのは櫛田だけで、残りは「勝手にしてくれ」と思っているだろう。俺も含めて。
「……始めるわよ」
小さくため息をついた後、堀北が口を開いた。
「まず、勉強会の方は非常に順調と言って構わないと思うわ。一部も二部も、休日に私と速野くんでやっているBクラスとの合同勉強会の方もね。初めは一部の男子や女子がやや騒がしかったけれど、今はしっかりと集中して勉強している。おかげで、テスト範囲のものはある程度対応できるようになっていると思うわ」
「顔から英単語帳が飛び出るくらい頑張ったぜ」
顔から火が出るの応用バージョンだろうか。須藤なりに考えた表現なのかもしれないが正直意味が分からん。
「あなたの努力は認めるわ。試験範囲の問題ならある程度対応可能でしょう。けれど基礎学力に関しては中学1年生未満だということを忘れないで」
「あんだけやっても中1レベルかよ……」
「中1レベルじゃないわ。未満よ。概念は教えたでしょう」
「未満っつったら……げっ、マジかよ」
なるほど、確かに中1未満だなこれは。
「もう分かった。先に進めてくれ……」
その光景を見た幸村は頭痛を抑えるようにして手で頭を押さえている。
さらっと話を聞いただけでこれだ。期末試験の範囲だけでも対応可能なところまで持って行った堀北の心労は推して知るべしだな。
「幸村くんの方はどうなのかしら。長谷部さんと三宅くんの状況は」
「問題ない。それは間近で見ていた綾小路が証明してくれる。そうだな?」
「ああ。これ以上ないやり方だったと思う」
「そう、分かったわ。速野くんに主に任せている問題作成の方はどうかしら?」
俺にお鉢が回ってくる。
「……ペースとしては十分だ。期限に間に合わないなんてことにはならない。ただ作る問題への学校側の関与が想定以上に厳しい。堀北と幸村には一回見せてるが、試しに解いてみるか?」
近くに座っている平田に問題の書かれた紙を手渡す。
「これは……学校側に修正されてこの難易度なら、十分だと思うよ。今までの試験のどんな問題よりも難しいものが並んでる。さすがだよ速野くん」
平田がそう考えるのなら、ひとまずは大丈夫ということだ。
ただ以前藤野にも伝えた通り、「これは難しい問題ができた」と思ったところに学校側から修正が入るとかなりへこむ。
やはり学力を適切に測定するというテストの目的から外れることは許されないらしい。
ちなみに、単純な難易度面以外の点からも策を入れ込んでいる。
まず一つは、出会い頭の大問1に難問を持ってくること。1つ目の問題に躓かせることで、受験する生徒のペースを乱す。
そして、問題の並びを教科書の記述順にしないこと。これは特に暗記科目についてだ。多くの生徒は教科書のページの若い方から勉強していく。するとそこには暗記の順番が無意識のうちに生まれる。例えば日本史において、天皇や幕府、執権時代の出来事の解説は、当然ながらその地位に就いた人物の早い順になされる。北条氏執権時代でいえば2代目義時の時代(承久の乱発生、六波羅探題の設置)→3代目泰時の時代(御成敗式目の制定)といった流れがあり、生徒はその流れを覚える。しかし、出題の際には泰時の時代を先に出し、その後の問題で義時の時代の出来事を出すことで、その流れをかき乱してやる。
そういった罠を仕込んだ問題で直接的にバツがつかなくてもいい。ペースが乱されたり焦りが生まれれば、その影響はテストの結果全体として現れる。普通ならあり得ない凡ミスをしたり、普通なら簡単に答えられる問題をド忘れしてしまったり。このようにして点数を削っていくのが狙いだ。
このことは堀北以外には話していないため、他の生徒にとっては知る由もないことだが。
「現時点でできる限りのことはやり切っている状態よ。あとは本番までこれを継続して、Cクラスへの勝率を高めるだけ」
「すごくいい感じだねっ。このままいけばきっとうまくいくと思う」
「……ねえ、本当に大丈夫なわけ?」
いい雰囲気に水を差すような言葉を発したのは軽井沢だ。
「そりゃあたしもクラスメイトが退学になるのは嫌だけど、毎年そういう人は出てるわけでしょ。あたしがそうならないっていう保証があるわけ?」
「……保証は、できないけど……」
「ならさ、そんな軽々しく上手くいくとか言わないでよ」
「わ、私はただ、皆で試験を乗り越えたいだけで……」
「そんなの綺麗ごとじゃん。勝手にそんなこと言って、もしあたしが退学になったら責任とれるの?」
いったい何を言ってるんだろうか軽井沢は。いちゃもんとかいうレベルじゃない。無茶苦茶な言い分だ。
当たり前だが、軽井沢が退学になったとしても櫛田に責任はない。
しかし謎の怒りをあらわにする軽井沢は、あろうことか自らのコップに入っていたジュースを櫛田にかけてしまった。
ブレザーとワイシャツにシミが広がっていく。
「軽井沢さん!」
そんな行動に、黙っていた平田もさすがに声を上げた。
「今のはダメだよ軽井沢さん。やっていいことといけないことがある」
「だ、だって……私が悪いわけ?」
「あなたが全面的に悪いわ軽井沢さん。どう考えても櫛田さんに非はなかった」
「みんな、私は大丈夫だから……軽井沢さんを責めないであげて?」
自らが被害を受けたにも関わらず、櫛田は加害者である軽井沢を擁護するような動きを見せる。
「いや、軽井沢が悪いんだ。そうもいかないだろ」
しかし幸村も軽井沢を責める。
「あっそ。そうよね、櫛田さん人気者だもんね。速野くんはどっちの味方なわけ?」
ついに矛先が俺に向いた。
どう答えるのが正解か、一瞬考えてから言う。
「ん、ああ……とりあえず謝ったらどうだ」
ひとまず常識的な受け答えを行う。
軽井沢が一体何をしたいかはよく分からないが、この場を収める方法があるとすれば謝罪するしかないだろう。
「速野くんのいう通りだよ軽井沢さん。櫛田さんに謝るべきだ」
「悪くないと思ってるのに謝らなきゃいけないわけ?」
「まずは口にすることだよ」
彼氏である平田に言われ、無言で立ち尽くす軽井沢。
「……ごめん」
平田の説得に折れるようにして、軽井沢が謝罪した。
「ううん、大丈夫だよ。私ももうちょっと軽井沢さんを理解した上で発言するべきだったなって」
「なんか、ほんとにごめん。冷静じゃなかったかも」
今の一瞬で頭が冷えたのか、何回か櫛田に謝る。なんとかその場がおさまり、平田は安心した様子だった。
空気が変わると、また新しい疑問が浮かんでくる。
「そういえば櫛田さん、替えのブレザーはあるの? 明日大丈夫?」
汚れた櫛田のブレザーを見ながら、平田が心配そうに言う。
「実は前にブレザー一着ダメにしちゃってて、今着てるこれしかないんだよね……」
「だったら近くのクリーニング屋に持ってけばいいんじゃねえか。俺も部活とかで汚した服はそこに持ってくぜ。今から持ってって、明日朝イチで取りにいきゃ間に合うだろ」
部活をやっている須藤ならではの経験だ。
まあ、俺も入学当日に持って行ったことあるんだけど。味噌汁がかかったブレザー。あの時は本当にびっくりしたし、その藤野との付き合いが今も続いていることはもっとびっくりしている。
「その、お詫びってわけじゃないんだけど、クリーニング代は私に出させてくれない?」
「いいよそんな、気にしなくて」
「でも、全部私が悪いから、それくらいはさせて」
こうして落とし所がつき、この一連の騒動は収束した。
1
その後はカラオケを楽しむようなお気楽な空気ではなくなり、話し合いが終わると全員そろって施設を出た。
しかし全員一緒に帰るわけではない。恋人同士である平田と軽井沢は並んで歩いていたが、それ以外はカラオケを出てからはバラバラだった。
櫛田はブレザーをクリーニングに出しに行った。須藤は途中で夕飯を買うとか言ってたな。
俺も一人で歩いていたが、ふと隣に並んでくる人影があった。
「あなたに一つ話があるわ」
「堀北……」
俺の名前をはじめに呼びかけることもなく、本当に唐突に話しかけてきた。ちょっとは前置きがあってもいいと思うんだが。時間が惜しいのか。それとも嫌なのは俺と話す時間の方?
「なんだ話って?」
「私の分の問題作成を、すべてあなたにやってもらいたいのよ」
「……は?」
なんなんだ急に……いや、堀北のことだ。ちゃんとした理由があるんだとは思うが……。
「櫛田さんと賭けをしたのよ。期末テスト8科目のうち、櫛田さんが指定した数学で私と点数を比べる。私が勝ったら今後私への妨害行為をしないこと、逆に私が負けたら、私と綾小路くんが自主退学すること、そしてどんな結果になってもこれらの件について私が公にすることはないことを約束した。兄さんを保証人にしてね」
……そういうことか。
ん? いやまて。
「なんでそこで綾小路の名前が出る? お前と櫛田の賭けじゃないのか」
「正直、それは想定の範囲外のことだったわ。私と櫛田さん、兄さんの3人で賭けの内容についてやり取りしている現場を、あなたが私にやったように電話でこっそりと綾小路くんに繋いでいたのよ。そのことを櫛田さんに見抜かれてしまった。櫛田さんは、自分の過去を知る綾小路くんも退学にすることを望んだ。もちろん私は彼を巻き込むつもりはなかった。けれど彼自身がその賭けに乗ったのよ。私が勝つ方に賭ける、とね」
「……話は分かった」
あいつも奇妙なことをするもんだ。
ただ、これでなぜ堀北がこんな頼みごとをしてきたのかは理解できた。
「つまり、賭けに勝つために自分の勉強に集中したいと」
「ええ。もちろん、講師役はしっかりとまっとうするわ。だけどそれ以外の時間を自分の勉強のために使わせてほしい。頼めるかしら」
俺をまっすぐに見据えてそう言う堀北。
「その話、お前は俺にどんなメリットを用意できるんだ?」
二つ返事で受けることは簡単だ。俺の負担が増えると言っても、元々問題作成はその多くを俺が担当していたため、堀北の分量はたかが知れている。
しかしタダ働きというのもなんか癪だ。
「5000ポイント用意するわ。それで手を打ってもらえるかしら」
……まあ、妥当なところか。
「分かった。それで受ける」
話が一つまとまったところで、俺は別の気になる部分について尋ねることにする。
「その賭け、お前にだいぶ不利じゃねえの?」
そもそも勝つことができるかどうかも怪しい。
櫛田は龍園と繋がっている。それはCクラスが提出する問題文と解答を手に入れる手段が櫛田にはあるということ。
龍園が堀北を退学させたがっているようには見えないが、それでも堀北が敗北し、退学という運命に絶望するところを見られるなら、と協力する可能性はある。いや、相手が櫛田であることを考えると、何としても手に入れると考えなければならない。
そうなれば堀北は満点以外を取ることは許されない。
そして学校側の修正が入っているとはいえ、その分野に関して素人である生徒の作成する問題を解くという経験はほとんどないに等しい以上、それは普段の試験で満点を取ること以上に難しいはずだ。
そして勝負が決した時。もし仮に堀北が負ければ、畏敬の念を抱く自身の兄を保証人にしている以上、必ず堀北は契約通りに退学する道を選ぶだろう。
だが櫛田はどうだ。堀北先輩は今年度限りで卒業する身。保証人であるあの人が卒業してこの学校を去って以降、堀北を妨害しないという約束を櫛田が守るかは分からない。いや、破られる可能性の方が高いとみるべきだ。
「それでも、やる価値のあることだと思っているわ。櫛田さんはDクラスにとって必要不可欠な戦力。櫛田さんが安心して全力を尽くせるよう、まずは彼女の汚点を知る私が彼女からの信頼を獲得していく必要がある。これはそのための一手よ」
「……なるほど」
堀北の覚悟は分かった。何か策を弄することもなく、実力で満点をもぎ取ってこの賭けに勝つつもりであるということも。
だがこれはかなり危ない橋を渡っている。
覚悟を決めれば上手くいくというものではない。
堀北が退学しても俺に致命的な何かが起こるわけではないが、打つべき手は打っておくべきだろう。この機に乗じるためにも。
2
先ほどのやり取りを終えた俺と堀北は、他に何か会話をするでもなく寮までの道のりを並んで歩いていた。
そして寮のロビーに到着したとき。
俺たちは同時に違和感に気付いた。
「……妙に騒がしいわね」
時刻は午後8時半をとうに回っている。にも拘わらずロビーには多くの一年生が集まっており、ざわついていた。
中に入ると、そこにいる生徒たちは例外なく1枚のプリントを眺めていることに気付く。
その中には先ほど別れた綾小路の姿も見えたため、事態を把握すべく堀北が声をかける。
「これは一体何事?」
「ポストを見てくれ。全員のものに同じ紙が入ってるみたいだ」
「ポスト?」
言われるがまま、俺も堀北も自分のポストを開く。
すると綾小路の言う通り、一枚の紙が入っていた。
そこには活字でこう書かれてあった。
『1年Bクラス、一之瀬帆波が不正にポイントを集めている可能性がある。 龍園翔』
「これは……」
「相変わらず滅茶苦茶な手を打ってくるわね……」
体育祭での苦い経験がある堀北が憎らしそうに呟いた。
堀北に言う通り滅茶苦茶な手だ。しかし非常に龍園らしいやり方でもある。わざわざ最後に名前を書いて自分がやったと誇示するところまで。
名誉棄損で学校側に訴えられてもおかしくないが、それすらもまったく気にしていない様子だ。いや、このような活字ならパソコンがあればだれでも打ち込める。いざ訴えられても誰かが自分の名前を勝手に使っただけ、と言い逃れられると考えてるのかもしれないな。
しかし一体どのような根拠でこんなことをやったのだろうか。確かに一之瀬は人に奢ることにほとんど抵抗がなく、かなりポイントに余裕があることはうかがい知れるが……やったのが龍園であるだけにその目的は読み切れないのが正直なところだ。
「おい、龍園が来たぞ!」
そこに、下校してきた龍園が到着した。
「おい龍園、どういうつもりだ!」
「あ? なんだよいきなり」
Bクラスの生徒がつかみかかる勢いで龍園に詰め寄るが、龍園はまるで知らないように振舞っている。
「決まってるだろ! この手紙だよ!」
「手紙?」
突き出された手紙に目を通すと、龍園は薄くフッと笑った。
「ああそれか。クク、おもしれえだろ?」
「何が面白いんだよ! ふざけたことしやがって!」
「だったら事実を証明してみろよ。一之瀬が不正にポイントを得てねえって事実をよ。なあ?」
龍園が目を向けた先には、騒ぎを聞きつけて今ここに来たばかりであろう一之瀬の姿があった。
「どうなんだ一之瀬?」
「それは……今ここで何を言っても、龍園くんは信じないでしょ?」
「当然だな。事実かどうかを判断するのは学校側だ」
「そうだね。みんなごめんね、こんな騒ぎになっちゃって」
騒ぎを招いたのはこの手紙をばらまいた犯人だが、一之瀬は自ら謝罪した。
「でも安心して。明日先生にこのことを伝えて、不正はしてないってことを証明して見せるから」
「クク、この場じゃ何も言えねえってことか。不正を疑われても仕方ねえな」
「ううん、不正なんてしてないからこそだよ。所持しているプライベートポイントの残高は、いずれ特別試験で戦う武器になっていくかもしれない。だからこそ、他クラスの君の耳に入れるわけには行かないな。それに、先生にこのことを伝えて私が説明すれば、調査がされるはずだよ。そうすれば不正かどうかは自ずと明らかになるし、もし不正だと判断されたら私がこの場で言うまでもなく公表される。違う?」
「なるほどなあ。だがお前が明日学校に報告する保証はどこにある?」
「なら、君の口からこのことを伝えても構わないよ。結果は変わらないけどね」
「クク、自信たっぷりじゃねえか。なら、明日を楽しみにしとくぜ」
そんな捨て台詞を残し、龍園はエレベーターに乗ってこの場を立ち去った。
「一体龍園くんは何がしたいのかしら。一之瀬さんが不正を犯しているなんて全く信じられない話だけれど……」
「一之瀬のあの様子からしても、不正はないだろうな。少なくとも学校側に咎められるようなことはしてないだろ」
その点だけはまず間違いない。学校側から出されるのは、一之瀬の身の潔白を証明する結果だろう。
俺が気になるのは別の部分。
この手紙を配布したのが、本当に龍園だったのかということ。
お前さっき龍園らしいやり方って言ってたじゃねえか、と突っ込まれるかもしれない。
いや、その時点ではそう思っていたのだ。
龍園がここに来るまでは。
仮に龍園が犯人だとして考えると、ここに来た時の龍園の態度は実に龍園らしくなかった。
あいつは「なんだよいきなり」とこの騒ぎについて何も知らないような言動を取っていた。いや、言動だけならいい。気になったのは、あいつはその仕草や態度まで、まるで本当に知らないかのようだったことだ。
これは龍園らしくない。あいつがやったなら、ロビーが騒がしくなっている時点でこの騒ぎの原因がこの手紙であることを想像できているはずだ。ならばあいつはどのように登場するか。ロビーに入った時点で、以前堀北に対してしていたようにニヤニヤと不気味な笑みを浮かべ、その場にいる者を挑発するような態度を取るだろう。
しかし龍園が笑みを浮かべたのは、手紙を全て読み終わった後だった。これは龍園が取る行動としては引っ掛かる。
そもそも龍園が犯人なら、Bクラスの生徒に差し出された手紙を最後まで読む必要なんてないだろう。あの時の龍園は間違いなく文章を最後まで目で追っていた。あれはこの文章を初めて読んだからこそ生まれる動きだ。そして龍園はこんな細かい演技をするような人間じゃないし、今回の場合する必要もない。本当にあの時に初めて目にしたと考えるのが自然だ。
そのため、あの龍園の態度を見た時点で、この件の主犯が龍園ではないことはほぼ確信していた。
犯人は、龍園なら勝手に名前を使っても自分が犯人であることを否定しない、と読んだ何者かだ。
龍園の名前を使おうなんて考える人物は限られているんじゃないだろうか。
普通なら無記名を選ぶだろうし、たぶん俺でもそうする。
一度視点を切り替えて考えてみる。
これをやられた龍園はどう思う? 誰がやったと考える?
いま自らが探している、Dクラスで暗躍している人物……『X』の仕業、という考えが頭を過るはずだ。
そしてそれすらも犯人の狙いである可能性が高い。
そう考えると、この手紙の犯人はおそらく……。