実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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冬休み~懐柔~

 クリスマスも過ぎ、気づけば2015年もあと3日を残すのみとなった。

 去年の今頃は入試の追い込み期間だったため、そのための勉強ばかりしてたな、確か。

 俺は計3つの入試を受けた。

 公立高校の入試、私立高校の入試、そしてこの学校の入試だ。

 3つとも問題の性格が異なるため、それぞれに合った方法で勉強していく必要があるのだが、これがまた少し億劫だったりする。

 問題の難易度はともかくとして、頭の働かせ方を切り替えるというのはそれだけでも労力を消費するのだ。国語でいえば、県立高校では抜き出しの問題か選択問題が多いが、私立の方は50~200字程度の記述問題がずらりと並ぶとか。理科なら、同じ計算問題でも文字式を使うタイプか具体的な数字を使うタイプかによって分かれる。面倒くさいことこの上ない。

 まあ、入試の話は今はいい。これは余談だが、入学から8か月が経とうとしているのに入試の話を持ちかけるとドン引きされることが多いので注意が必要らしいぜ。

 そんな一年前と比べても、今の俺の勉強量はほとんど減っていない。

 というのも、学習部の最初にして最大級のイベントが間近に控えているからだ。

 そのイベントとは、大学入試センター試験。

 形式としては模擬試験だが、使用される問題は本番と同じ。本番を受ける本物の受験生との成績比較も可能だ。

 その前に予備校主催のセンター試験の模試も2つ控えている。だらけている余裕はない。俺が休み中に「何もしてない」と言うときは「勉強以外は」という枕詞が隠れていると考えてもらっていい。

 そんなガリ勉の呼び名をほしいままにしている俺だが、今日はまた少し違った用事が入っている。

 いや、用事を作った、と言った方が正しいか。

 これほど勉強ばかりしていれば、流石に飽きが来るというもの。

 別に勉強は嫌いではない。しかし好きな食べ物であっても何時間も食べ続けていればもういらねえとなる。それが「嫌いではない」程度のことならなおさらだ。

 しかしだからといって用事を無理矢理作ったというのもまた正しくない。

 この用事は済ませておくべきものだ。

 俺にとってみれば一石二鳥である。

 その用事がある目的地に到着。

 目の前のドアをコンコン、コンコンと2回に分けてノックし、そのままドアを開けた。

 その人物は、玄関のドアの目の前で待ち構えていた。

 

「ちゃんと鍵開けて待ってたんだな」

 

「あんたがそうしろって言ったんでしょ……」

 

 目的地とは……そう、クラスメイトである櫛田の部屋だ。

 俺がここを訪れているところを誰かに見られるリスクを極力減らすため、スムーズに部屋に入れる手筈を事前に決めておいたのだ。

 10時ちょうどごろに部屋を訪れるので、その1分前に鍵を開けておくこと。

 そして俺が来た合図としてドアを2回に分けてノックすることも。

 

「それで、何の用?」

 

 この空間に俺がいる時間を少しでも短くするためか、息つく暇もなく用件を問う櫛田。

 

「いくつか聞きたいことがあってな」

 

「は? そんなの電話で聞けばいいでしょ」

 

 たしかに、ただ聞くだけならそれでもよかった。

 しかしそれにもちゃんと理由はある。

 ただそれより今は質問の内容を伝えよう。

 

「お前、覚えてるか? 一学期中間テストの直前、堀北がお前に自分を嫌ってるのを確認したこと」

 

 櫛田は一瞬疑問の表情になったが、すぐに記憶を辿り思い出したようだ。

 

「……ああ、あの時ね。あの女ほんと何を言い出すのかと思った。あんたや綾小路がいる前で……ま、あえてそうしたのかもしれないけど」

 

 わざわざあの場で堀北が発言したのにはたしかにそういう面がありそうだ。

 しかし今回の主題はそこじゃない。

 

「あの時の綾小路の反応がずっと引っかかってたんだよ」

 

 だからこそ、俺は今でもあのシーンをはっきりと覚えている。

 綾小路は驚きのあまり「おいおい……」と声を漏らしたはずだ。

 あの反応は、櫛田が堀北を嫌っていたという事実に対しての驚きではなく、それを櫛田本人に確認したことに対しての驚き、というニュアンスが強かったように思う。

 

「お前……綾小路に本性知られてたんじゃないのか? かなり早い段階で」

 

 櫛田の目つきが、普段の学校生活では想像もつかないほどに鋭くなる。

 少し間が空き、櫛田はため息をつきながら口を開いた。

 

「……知ってたかもね。一人で勉強会を壊した無様な堀北の悪口を言ってるところ、見られたから」

 

 ……やっぱり、そういうことだったか。勉強会を壊した、ということはあの時か。

 ってか、見られたって……。

 

「お前迂闊すぎない? 見られるような場所でそんなこと……」

 

「ちゃんと人気のないところ選んだに決まってるでしょ! 放課後の6時過ぎの屋上に続く階段なんて、そんなところ誰が来ると思うの!?」

 

「……」

 

 いやまあ、確かに仕方ないといえば仕方ないが……櫛田が絶対に隠し通さなければならない恥部ともいうべきあの本性を校舎内で晒す以上、もっと細心の注意を払うべきだったとしか言えない。どこまで行っても自己責任だ。

 櫛田もその点は自分の落ち度であることを理解している。だからこそこの件でこれだけ声を荒らげるわけだ。

 

「それで、どう口止めしたんだ? まさか無条件に信じたわけじゃないんだろ?」

 

「……どうだっていいでしょそんなこと」

 

 口を閉ざした櫛田。

 何があったのかは知らないが、どうやらその点については言いたくないらしい。

 取り敢えず自分で考えてみるか……。

 櫛田と綾小路にあった違和感は……。

 

「……ブレザー、が関係してたりするか?」

 

 ブレザー、という単語が出た瞬間、櫛田の身体が跳ねるのが分かった。

 

「……なんでそう思うわけ」

 

 櫛田は無意識に態度に現れてしまったためか否定はせず、俺の思考の過程を探る。

 

「この前、カラオケで軽井沢がお前に飲み物かけただろ。軽井沢の性格にきつい部分があるとしてもあれはかなり不自然だった。なんであんなことしたのかは分かってるか?」

 

「それは……カンニングの材料を仕込むのに、ブレザーの枚数を確認して……っ、そういうことか」

 

 櫛田も理解したようだ。

 

「ああ。これはお前のブレザーが何らかの理由で1着使えないことが事前に分かってないと打てない手だ」

 

 仮にブレザーの件を知らずに動く場合、ブレザーに1日やそこらでは修復不可能な傷をつけて着用するブレザーを強制的に固定させるか、もしくはもっと別の方法を考えていただろう。

 俺の言葉を受けた櫛田は、ハッとしたよう表情になり口を開いた。

 

「ちょっと待って。じゃあ私のブレザーにあの紙を仕込んだのって、やっぱり綾小路だったわけ?」

 

「もしもお前の口止め材料がブレザーなら、少なくともあいつが絡んでるのは確かだな。ただあいつがやったかどうかは分からない。他に主犯がいて、綾小路はそいつに情報を提供しただけって可能性もある」

 

 ここでもやはり、敢えて綾小路と確定はさせなかった。

 最後の詰めとして櫛田に言葉を投げかける。

 

「それで……お前のその反応からすると、やっぱりブレザーが関わってるみたいだな」

 

「……説明すればいいんでしょ」

 

 観念したようなため息をつき、櫛田はクローゼットからブレザーを1着取り出して俺の前に持ってきた。

 そのブレザーの状態はあまりいいとはいえず、少しホコリを被っているのが分かる。

 長く放置されていた証拠だ。

 櫛田はそのブレザーの左胸のポケット付近の場所を指し示した。

 

「このブレザーのこの部分……綾小路の指紋が付いてる。あいつが私の胸を触った証拠。あの場面を見たことを言いふらしたら、レイプされそうになったって訴えるって言ってあるの」

 

「……触らせたのか、自分で」

 

「……悪い?」

 

 悪いか悪くないかでいえば悪いに決まってるが……冤罪だし……。

 ……綾小路に見られたことで気が動転してたんだろう。正常な状態のこいつなら絶対に取らないであろう手段だ。

 しかし……付け焼き刃の対処であるからこそ、そこに大きな綻びが生まれる。

 

「お前……微物検査って知ってるか?」

 

「は? 何急に」

 

 唐突な俺の言葉に眉を顰める櫛田。

 

「いいから。知ってるのか知らないのかどっちだ」

 

「……知らないけど」

 

 渋々といった様子でそう答えた。

 まあ、だろうな。

 

「痴漢の疑いがある人物に対して行う検査だ。被害を訴えた人の衣服の繊維が疑いのある人の手についてないか、それを調べる」

 

「……それとこれと何の関係があるわけ?」

 

 俺の言い方に苛立ちを覚えている影響もあるかもしれないが、理解が及んでいないようだ。

 

「関係大ありだろ。なんで容疑がかかった側の検査を被害を訴えた人の衣服の検査より優先するか分かるか? 繊維系のものは指紋が残りにくいからなんだよ。服は金属やプラスチックとは違うんだ」

 

「……」

 

 櫛田の表情には若干の焦りが浮かぶ。

 

「もちろん絶対に残らないわけじゃない。ただその指紋を抽出できる技術はまだ正確性の面で課題があって証拠能力としては強くない。そして仮に抽出できたとしても、お前が着用しているタイミングでついたものかは分からない」

 

 ブレザーを脱ぐタイミングなんていくらでもある。指紋がついているだけでは、櫛田がブレザーを着ていないタイミングで綾小路がたまたま胸の部分に触れただけ、という可能性も排除できない。

 しかし、それ以前の問題として……。

 

「それに、そもそも半年以上も前の話だろ。そんな長い期間が空いて、しかもクローゼットに普通にしまってるだけじゃ、指紋の採取なんて到底無理だ。ほぼ間違いなく指紋は残ってない」

 

 警察は証拠品を厳重に、かつ慎重に保管する。

 ブレザーを証拠品にしたいなら、せめて圧縮袋に入れて真空保存しておくべきだった。

 それでも長い期間が空けば指紋の検出は難しくなっていくが。

 そこで突然、ボフッ、ボフッ、という音が聞こえてきた。

 櫛田が自分の拳をベッドに叩きつけている音だ。

 全ての行動が水泡に帰したことがたまらなかったのだろう。

 

「……どうすればよかったわけ」

 

「は?」

 

 いまいち聞き取れず、聞き返す。

 

「だから、私はどうすればよかったかって聞いてるの!」

 

 苛立ちを俺にぶつけるような金切声だ。

 一度ため息をつき、答える。

 

「……過去のたらればに大して意味はないと思うが……まあ、触らせた上で実際に叫び声をあげるべきだったな。そしてその声を聞いて誰かが来る前に交渉して、このことをバラせば退学という約束をしっかりと証拠に残る形で結ばせる。結ばなければ来た人にレイプされそうになったと訴える、って脅してな。その段階ならブレザーの指紋も検出のしようがあっただろ」

 

 約束を結ぶことができれば、単に階段から落ちそうになっただけ、とか適当に誤魔化せばいい。

 しかし、気が動転していた櫛田にそこまでの思考を求めるのは無理難題だろう。俺も実際そのような事態になればこんな冷静に考えられるかといえば自信を持って頷くことはできない。

 その上櫛田の場合はブレザーの指紋が長期の証拠にはなり得ないことを知らなかった。そのため新たに脅しの材料を作ろうという発想に至ることもできない。

 いずれにせよ櫛田は、綾小路の口止めに関して一切の後ろ盾を失った。というより盾だと思っていたそれは初めから盾ですらなかった。

 いまこいつは非常に危ない綱渡りをしている。

 

「言っとくけどな、お前が後悔するべきは対応を誤ったことじゃない。校舎内で本性を晒したことだ」

 

 もちろん、それくらいのことは櫛田も理解しているだろう。

 しかしこうして口に出して言うことで、より櫛田の心に深く刻みつける。

 

「これに懲りたら、二度と誰かの前で迂闊なことはするなよ。もちろんそれには、お前の本性を知ったやつを退学させようとする行為も入る」

 

 これは先日も櫛田に言ったことだが、こいつがそのように動けば動くほど、本性を知る者が増え、自分の首を絞めていく。

 今までは龍園、綾小路、そして俺と、むやみに言いふらすことのない人物にたまたま当たっていただけだ。極端な話、もしも山内あたりに知られたら、その日のうちに4人には広まり、一週間もすればクラスのほぼ全員が耳にすることになる、なんて展開が簡単に予想できる。

 

「お前はこれまで自分の首を絞めるようなことしかしてない。そろそろ有効な対策を打ったら……」

 

「もううるさい! さっきから上から目線であーだこーだ……そういうところほんとウザい。このクソ陰キャ、消えてよ!」

 

 俺がセリフを言い切る前に、櫛田の叫びにも似た声に遮られた。

 普段の櫛田からは考えられない、口汚い罵倒。

 しかしそれに対して俺が目くじらを立てることはない。

 むしろ歓迎したいほどだ。

 

「……それでいいぞ。初めて有効な対策が取れたな」

 

 俺のそんな言葉に少し困惑したような表情を浮かべる櫛田。

 

「……どういう意味?」

 

「お前はストレスの発散方法が表の性格と相性最悪なんだよ。元からストレス溜まりそうな生き方で、そのストレスは声にして吐き出さないと耐えられない。ただそれは綾小路の件みたく誰かに聞かれるリスクと隣り合わせだ。なのにお前は一瞬たりともそれを聞かれるわけにはいかない。といって我慢するとまたさらにそれがストレスに繋がる」

 

 これではあまりにも負担が大きすぎる。

 

「だからそういうのは自室で思う存分やれ。なんなら俺を呼びつけてもいい。俺への罵倒でも、さっきみたいに聞き流すくらいはする。とにかく一人か俺しかいないタイミングで、自室でやることだ」

 

「……何それ。自分から進んで罵倒受けたいの? キモいんだけど」

 

「受けるんじゃない。聞き流す、って言っただろ。聞いた感じお前の罵倒は自己完結してることが多いから、あんま心に響かない」

 

 これを言ったらまた櫛田のストレスが増すだろうから口には出さないが、堀北との日常会話の方がまだダメージがある。

 てかそう考えると堀北の言葉鋭利すぎるでしょ。やばあいつ。歩くジャックナイフ。

 それ以降櫛田は特に反応を見せなかったが、俺の提案が自分にとって有効であることは自分が一番理解しているはずだ。

 恐らく今後はそう対応していくようになるだろう。

 ひとまず、これで櫛田の部屋を訪れた目的は達成された。

 さて……。

 

「お前、この後誰かと遊ぶ約束してたりするのか?」

 

「はあ? 別に今日は何もないけど……急に何?」

 

 櫛田の疑問に答える。

 

「ならケヤキモールで昼飯でも食うか」

 

 そう言った。

 疑問の解消のために答えたはずだが、櫛田の表情は解消どころかそれまで以上に疑問に染まっている。

 

「……あんた頭おかしいの? 冗談にしても面白くないんだけど」

 

「ポイントは俺が出す。店のチョイスはお前が勝手にやってくれ。どんな値段でも出してやる。一人で行くのは憚られるが、普通の友だちとは絶対に行かないし行けない、って感じの店にでも行くといい。俺のことは人数合わせ兼財布だと思っていいぞ」

 

 ケヤキモールに何度も何度も行っている櫛田なら、こういう機会にしか行けない店も既に何店舗か頭に浮かんでいるだろう。

 

「……餌付けしようってわけ?」

 

「まあそういうことだ」

 

「は? 死んで」

 

 櫛田は皮肉のつもりで言ったんだろうが、俺があまりにも即答で、しかも思いっきり肯定したのが気に入らなかったんだろう。流れるような罵倒を受けた。

 ただ本当に餌付けのようなことなのだから仕方ない。櫛田をできるだけ飼い慣らすことは理にかなった行為だ。

 櫛田に嫌われたままでも、利用する上では問題ない、という考えは変わらない。

 しかし道具というのは使い勝手が良いに越したことはない。

 より利用しやすくなるように。いわばこれはそのための投資。包丁を研ぐための砥石を買うようなものだ。

 それから、俺自身もこういった機会にしか行かないような店で飯を食いたい、というのもある。1割くらい。

 

「で、行くのか行かないのかどっちだ? ちなみにポイントだけ出せ、ってことなら俺は帰るぞ」

 

 俺も美味い飯を食いたいからな。1割といったが実は3割くらいはそれ目的かもしれないなこれ。

 

「……わかった。行く」

 

「ん、そうか」

 

 俺の存在というデメリットより、高級店にタダで行けるメリットを取ったようだ。俺のアドバイス通り、財布だと思えば我慢できると判断したんだろう。

 

「とりあえず準備するからあんたはここ出てって。行く店は後で端末に送るからそこに現地集合。いい?」

 

 とはいえ、できるだけ俺といる時間は削りたいらしい。ストレスを溜めないようにするため、そしてできるだけ俺といるところを他人に見られたくないというのもあるだろう。いい判断だ。

 

「ああ、わかったよ」

 

 承諾し、俺は櫛田の部屋を出て階段で自室に戻った。

 

 櫛田はケヤキモールのランチの中で最も高いであろう店をチョイスしてきたが、それだけあって味は非常に満足のいくものだった。

 また人目があるため、櫛田は普段学校で見るいつも通りの自分を演じていたが……裏の顔の櫛田と接した直後だと、本当に同じ人物かと疑いたくなる。それほどに演じ分けのレベルは高かった。

 ただそれと同時に、普段の櫛田の姿がいかに嘘で塗り固められたものであるか、それをまざまざと見せつけられるわけで。

 表の櫛田と接する方がこっちのストレスになるかもしれない。

 そんな奇妙な感情が生まれた一日だった。

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