実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。 作:2100
バスの昇降口で電子機器類を回収された俺たちは、茶柱先生の指示に従ってバスから少し離れた場所で待機している。
バスは高速道路を降りたあと、少しの間坂道を登り続けていた。その先にたどり着いたのがこの場所だ。
山岳地帯で、標高もかなりある。言うまでもなくめちゃくちゃ寒い。
両手はカイロを入れているジャージのポケットから外に出すことはできず、体は体温を維持しようと必死で振動を続け、その場で足踏みしている生徒も多い。傍から見れば全員トイレ我慢してんのかと勘違いされるレベル。
「うお、なんだここ……」
目の前に広がる光景を見て生徒の一人がそう呟いた。
そこにあったのは「これぞ」という感じの木造校舎。正面には玄関があり、その真上の二階部分の外壁には丸い時計が設置されている。
廃校寸前の木造校舎、みたいなテーマのテレビ番組で登場しそうな建物だからだろうか。間違いなく初めて見るはずなのに、どことなく見覚えがあるように感じてしまう。
特筆すべき点としては、非常に規模が大きいところだろう。建物は二つに分かれており、それぞれ男女別のスペースとして使われることが予想される。
500人近くの生徒を収容するにはこれくらいの規模が必要かもしれないが、この立地の学校にこんな規模の校舎はあまりにもオーバーサイズが過ぎる。廃校になった校舎の再利用というより、初めから林間学校を用途として建てられた施設と思われる。
そこで、点呼を終えた茶柱先生が俺たちに指示を出す。
「では、男女に分かれて移動だ。男子はこちら側から見て奥側の本校舎、女子は手前側の分校舎に入れ」
指示の通り、俺たちは歩いて校舎へ入っていった。近づいてみて分かったが、本校舎と分校舎では前者の方が少しサイズが大きいようだ。
持ってきていた上履きに履き替え、先導する教師について校舎の中を歩く。
当然ながら中も全面が木造だ。鼻腔をくすぐる木材のにおい。そして足を踏み出すたびに軋む床。
しかし不潔な感じは受けない。さすがによく管理が行き届いている。
「建物の中なのにさみい……」
前を歩く池がそう呟く。
「木造校舎だから、学校みたいに空調設備は充実してないみたいだね。さっき見えたけど、教室に1台ずつストーブがあるようだよ」
平田がそう答えた。
教室はともかくとして、いま歩いている廊下には現代の普通の高校でも空調がなく、ある程度寒いのが当たり前ではある。
高度育成高等学校の全面空調という恵まれた施設で、少々感覚が麻痺しているのかもしれない。
そのまま歩いていき、たどり着いたのは体育館。
すでに1年のAクラスとBクラスが体育館に到着していた。俺たちは3番目だった。
「指示があるまで、整列して待機しておくように」
先導役だった教師は俺たちにそう指示を出した後、元来た道を引き返していった。
ひとまずその指示に従い、整列して待機。
そのうちに1年Dクラス、そして2年、3年の男子生徒が順に体育館に入ってくる。
バスを降りてから30分ほどで体育館に男子生徒全員が揃った。
はじめのうちはそこそこ広く感じていた体育館も、全男子生徒が入ると少々息苦しさを感じる。
点呼を終えて確認が取れたのち、教師が前に立ってマイクで話し始める。
「全員が揃ったので、さっそく始めさせてもらう。バスの中で行った説明で、全員試験の概要は理解しているだろう。これからお前たちには各学年6つずつの小グループを作ってもらう。学年ごとにグループ結成が完了し次第、我々教師に報告するように。バスの中で説明した通り、教師はグループ結成に関して立会人など一切の関与を行わない。全て自分たちで決めるように。なお、大グループを結成する時間は本日午後8時から設けられている。では、各自始めろ」
簡潔な指示が出されると同時に各学年ごとに散り散りになり、グループ作りの話し合いが始まる。
俺たち1年生の間で動きがあったのは、意外にもそれからすぐのことだった。
事前に示し合わせていたかのように、Aクラスが14人で1つの固まりを作ったのだ。
当然他クラスからは奇異の眼が向けられ、場がざわつく。
「何の真似だよ」
そんな他クラスからの疑問への答え……というより、全体への宣言のような形で、Aクラスのまとまりの中の1人、的場が言った。
「見ての通り、Aクラスはこの14人で1つのグループを作りました。あと1人確保できればグループが完成します。では、参加してもらえる方を募集します」
そう言い放ち、的場はまとまりの中に戻っていった。
「……」
俺はこのAクラスの戦略に少し違和感を覚えていた。
しかしほとんどの生徒はAクラスのいち早い行動についていけていない。
Aクラスの独断専行と捉え、糾弾する者も現れる。
しかしそんな反応は予想済みだったのか、的場は冷静に対処する。
「我々の行動が勝手なものに見えるのも仕方がありません。しかし、これはAクラスにとって利益だけがある行動ではありません。このグループはクラスが2クラスしか確保できないため、クラス数に応じた倍率を得ることができないんですよ」
その点は的場の言う通りだ。
おそらくAクラスはこのグループで1位を狙いに行くつもりだろう。メンバーを見ても、学力や身体能力などバランスの良い顔ぶれとなっている。最終テストではもちろん、スキーでも単純な実力でこのグループに勝つのは至難と言っていい。
しかし勝った時の倍率が得られないため、報酬は低い。
つまりAクラスのこの戦略の目的は報酬ではなく、最上位に自クラスの生徒を固め、下位のグループに入ってマイナス要因となってしまう生徒を減らすこと。そして他クラス中心のグループが1位を獲得して大きなポイントを得るのを阻止することにあると考えられる。
俺が違和感を覚えたのはここだ。この試験の陣頭指揮は坂柳がとっているはずだが、それにしては守りの姿勢を感じる戦略だ。
考え方が変わったのか、それとも俺が読み切れていない狙いがあるのか、あるいは……。
そんな俺の思考をよそに、的場は続ける。
「それに我々の作戦がずるいというのなら、同じような戦略をB、C、Dクラスの皆さんも採用すればいいだけの話です。少なくとも不公平な戦略ではないでしょう」
たしかに不公平な戦略ではない。
しかしこの戦略を他クラスがとるかといえば、とらないだろう。
Aクラスにクラスポイントで遅れをとる俺たちは、クラス数の倍率は何としても最大値を確保したい。その倍率を捨ててしまえるのはAクラスが最上位に位置しているからだ。
以前、船上試験で葛城が立った作戦と同じ理屈だ。
この作戦の提案を受けた他クラスがそれに抵抗を覚える理由は大きく分けて2つ。
1つ目は単純に、グループに入った生徒の居心地が悪いであろうということ。
10日間という期間は短くない。その期間中、ずっと9対1という環境下で過ごさなければならないのはストレスが溜まるだろう。
2つ目に、万が一があること。
このグループはたしかに優秀だ。しかし試験の詳細がよく分かっていない以上、最下位を取り、学校側のノルマを下回ってペナルティの対象になってしまう可能性は排除できない。
そんな時、まず間違いなく他クラスから参加した生徒が道連れにされてしまうだろう。そのリスクは避けたい。
と、そこで的場は「しかし」と口にし、続ける。
「それでも、我々が勝手を押し倒そうとしているのはある面では事実でもあります。ですのでもしこの提案に載ってくれれば、この14人を除いた6人のAクラスの生徒は好きに配置していただいて構いません。どのグループでも喜んで参加します」
Aクラスの残り6人を好きに配置できる権利。
グループ作成は全員が納得のいく形でなければならないというルールがあるため、少なくともAクラスの異論反論がなくなるという点では助かるといえば助かる。
しかしそれだけでは押しとしては弱いだろう。
的場たちもそれは分かっているようで、こう付け加えた。
「そして残りの1人として参加してくださる方については、特別枠として招待したいと思っています」
「特別枠だと?」
話を聞いていたBクラスの神崎がその単語に反応した。
「はい。この小グループのリーダーは葛城くんが務めますが……仮に学校側のノルマを下回って最下位となった場合、参加してくれた生徒を道連れにすることはしないと約束します」
それは俺が考えていた『リスク』を排除する提案だった。
提案を受け、会場もざわつく。これだけでAクラスの提案の魅力が倍以上になったといっていい。
「もちろん、しっかりと試験に挑むことが絶対条件ではありますけどね。わざと試験をサボったり、このグループの点数を意図的に下げるような行為が明らかな場合は、容赦なく道連れにします。その点はお忘れなく。ですが純粋にテストの結果が悪いことは全て許容しましょう。その上で退学にはならない。つまりノーリスクということです」
「……なるほどな」
「試験に退学の不安を覚える生徒もいるのではありませんか? ですがこのグループに入れば退学どころか、グループ順位の報酬を得られる可能性すらありますよ」
まるでセールスのような口上だ。しかしその言葉は確かに試験に不安を覚える生徒の心に響いただろう。
Aクラスの勝手な主張だ、と切って捨てることもできなくなった。
もしこの話が本当であれば、一考する余地がある。
「では、5分間差し上げます。その間に決めてください」
「時間制限を設けるのか。勝手に提案しておいて」
「ええ。ですが心配しないでください。あくまで特別枠の用意を5分に限るということです。それを過ぎれば一切交渉しない、というわけではありません」
「だがそうなると、5分が経過した時点でその1枠の価値は激減することになるが?」
「どう捉えてもらっても構いませんよ。しかし我々は絶対に折れませんので」
それだけ言って、的場たちのグループは話し合いの場から一歩後ろに下がった。
さあ考えろ、とでも言わんばかりだ。
「無視する方向で構わないだろう。時間が過ぎればこいつらも話し合いの場に戻ってこざるを得なくなる」
「だよなー」
Aクラスの戦略に対して初めにそう述べたのはBクラスの神崎だった。
「あのグループに入れば、どうしたってその生徒は孤立することになる。どのような扱いを受けるか分かったものじゃない。それにAクラスが確実に約束を守るとも限らない」
そうバッサリと切り捨てた。
これだけはっきりと宣言したにもかかわらず、なぜここまで警戒するのか。
その理由は「学校側はグループ決めに一切関与しない」というルールの存在だ。
関与しない以上、Aクラスが特別枠の取り決めを守らなくても、学校から何らかのペナルティを課されることはない。
つまり、その取り決めが守られる保証がないということだ。
当然のことながら、取り決めは破るメリットが守るメリットを上回れば簡単に破られる。
では、今回のケースはどうか。
Aクラスは、責任者を務めるという葛城の退学、それに対するペナルティでクラスポイント100のマイナス、順位ペナルティでクラスポイント70のマイナスを受ける。
その代わりとしてAクラスは、他クラスの生徒一人、そのクラスのクラスポイント100のマイナス、順位ペナルティでクラスポイント5のマイナスを受ける。
明らかに釣り合っていないことが分かる。付け加えるなら道連れにできる他クラスの生徒は試験に自信を持たない、言ってしまえば能力のあまり高くない生徒に限られる。
リスクとリターンがあまりにも釣り合っていないことは明白だ。
つまりこのグループは本気で1位を取りに来ると考えていい。
残る可能性は、そのうえで意図的ではなく本当に最下位を取ってしまった場合。
しかしその点は警戒しても仕方のないことだろう。
このグループが最も最下位になるリスクの低いグループであるということは疑いようがない。その点は作戦を無視する方向の神崎も同意せざるを得ないことのはずだ。
もちろんリスクはゼロではないが、そんなことを言っていてはどこのグループにも入れなくなる。
「神崎氏と平田氏、少しよろしいでしょうか」
そんな中、Dクラスの方から一人の生徒が前に出てきてそう言った。
あれは確か……金田、といったか。
ペーパーシャッフルの際、学力が高いと啓誠が警戒していた生徒だ。
それにしても……どうでもいいことではあるが、クラス単位でのことを考えると、「ああそうか、自分たちはDクラスじゃなくてCクラスに上がったんだ」と自覚する。
まだ変更後のクラスが板についていない証拠だ。
せめて、「Cクラス」という看板に慣れるまでは再転落したくないものだ。
Dクラスの代表のような形で前に出てきた金田は、呼んだ神崎と平田だけでなく、聴衆の俺たちにも聞き取れるような声量で言った。
「これはチャンスと捉えるべきと考えます。的場氏も言っていたように、あのグループは1位をとっても2クラス分の倍率しか得られない。対してB、C、Dクラスが協力し、残ったAクラス6人を調整して配置すれば、5つのグループ全てを4クラスで構成することも可能です。どうでしょう、我々3クラスで協力してAクラスへの包囲網を作るというのは」
「それはつまり、Aクラスの提案に乗るということか」
「そういうことです。仮にあのグループに1位をさらわれたとしても、4クラス分の倍率があれば十分に挽回可能だと考えます。それに、良くも悪くも試験の成績はこの小グループだけで決まるわけではありませんからね」
金田の言う通りだ。スキーについては明らかにされていないが、試験そのものの順位は大グループ単位ではじき出される。
小グループがどれほど奮闘しても、他学年のグループの成績が芳しくなければ順位の保証はない。
「賛成だよ金田くん」
平田が金田の話に乗る姿勢を見せた。
元々平田はAクラスの提案を渡りに船だと考えていそうだからな。
対して、少数派となった神崎。
腕を組みつつ、口を開いた。
「話は分かった。だが、誰をあのグループに入れる? 特別枠の約束はいざというときには反故にされると考えたほうがいい。少なくとも、Bクラスには入りたがる生徒はいないだろう」
神崎はその部分に対する疑いを撤回する気はないらしい。
「Dクラスのみんなはどうかな?」
平田がDクラスに問いかけるが、反応はBクラスと似たり寄ったり。やはり不安はぬぐえないということだろう。
「僕は、Aクラスが約束を破る可能性は低いと思ってるんだ」
そんな不安を否定するように平田は言った。
「なぜそう思う?」
「まずAクラスが約束を破る必要が出てくる状況は、所属する大グループが最下位になって、且つこの小グループの成績が学校の設定したボーダーを下回った時だ。前者はともかく、後者の可能性は低いんじゃないかな。敵ではあるけど、彼らはAクラスだからね」
順位付けは大グループで行われるが、退学ペナルティの基準は小グループ別。最下位になったとしてもボーダーを下回ることはないだろうという予想だ。
「それに万が一そんな事態になったとしても、誰かを退学に追い込むような裏切りをするには、まだ時期が早すぎると思う。僕らが3年生ならまだしも、今はまだ1年生。3年間の折り返しにすらきてないんだ」
このタイミングで裏切ってしまえば、今後一切このような取引は通じなくなる。Aクラスにとってのデメリットは何も学校側からのペナルティだけではないということだ。
「僕はCクラスの中から1人選びたいと思ってる。彼らの言う通り、退学は避けられるし、上位に入れば報酬を獲得できるかもしれない。どうかな?」
Cクラスに向けてそう問いかけた。
問われた方は少しの間お互いに様子を伺っていたが、最終的に池、外村、山内の3人が名乗りを上げた。
そしてじゃんけんの結果、山内がグループに加わることになった。
「これでいいのかな?」
「はい。これでグループは結成されました。約束通り、残り6名は自由に組み込んでもらって構いませんよ」
それだけ言い残し、的場たちのグループは教師にグループを結成した報告をしに行った。
いまの平田の動きは、B、Dクラスから名乗り出る生徒が出ないようにしていたものだった。
最初はだれも積極的には名乗り出ないと読んだうえでB、Dクラスに問いかけた。その後グループに入ることへのメリットを説明したうえでCクラスに問いかけ、名乗り出させる。
これで特別枠は誰であるにせよCクラスの生徒が確保できるという寸法だ。
うまいムーブだった。
「これでAクラスに対しての包囲網を作る準備ができましたが……残り5グループ、どのように構成しましょうか」
「やはり4クラス構成は必須だろう。倍率を下げる理由はない」
「そうだね。メインとなるクラスが12人、後の3人を3クラスからひとりずつ……というのが理想の形、ということに関しては共有できていると考えて構わないかな?」
「異存はありません」
「ああ」
そこから、Aクラスを省いた3クラスでの本格的なグループ決めの話し合いが始まっていく。
平田の言っていた通り、まずは12人、1人、1人、1人のグループを3つ作る。
そのリーダー、つまりは責任者は、現在話し合っている平田、神崎、金田の3人がそのまま務めるようだ。
そしてそのリーダーのもとに、それぞれのクラスの生徒が多く集まってくる。グループ入りを希望する生徒たちだ。
当然と言えば当然の流れだ。道連れにされることがまずない、どこよりも安全なシェルターがだからな。それに他クラスの生徒と過ごさなければならない、というこの試験の難しい部分も最小限で済む。
そう、この試験は他クラスの生徒と共同生活を送る試験。
つまり誰かは龍園翔と10日間を過ごさなければならないということ。
龍園がDクラスのリーダーを降りた、という噂は、冬休みに入ってからすぐに流れ始めた。
その証拠と言わんばかりに、現在この場もDクラスの指揮は龍園ではなく金田が取っている。
しかし、それでもそれを素直に信じるような生徒は少ない。
今現在、多くの生徒が目をそらしている事実だが、全員が納得した形で小グループを組まなければならないというルールがある以上、その道を避けて通ることはできない。
いやでも向き合わなければならないときがくるだろう。
その段階で、この話し合いは一度膠着する。
俺個人としては……龍園とどうしても組みたくないというわけじゃない。
このグループ決めは、今のところ順調に進んでいるといっていい。
1
そして、いよいよその時がやってきた。
話し合いの膠着。
沈黙の時間。
グループがある程度固まってきた状態で、龍園をどのグループに入れるか、という問題が表面化したのだ。
「龍園くん、僕らのグループに入らないかい?」
話し合いを動かすため、平田がそう提案するも……。
「ざけんなよ平田! こいつとだけは死んでも無理だぜ」
須藤をはじめとし、グループ全員の猛反対を受けた。
「Dクラスのグループで受け入れるのが最善策だろう」
「それはそうなのですが、こちらとしても中々難しい状況でして……」
他クラスからはもちろん、クラスメイトであるDクラスからもこのように扱われている状態だ。
結局、押し付け合いは終わらない。
ほとんどメンバーの固まっている3つのグループで龍園を受け入れることはほぼ不可能だろう。構成人数がすでに多い分、グループの「まとまった意見」が存在する。そしてその意見が「龍園受け入れ反対」から覆ることはあり得ない。
つまりこの状況を動かすには、まだグループのメンバーが全く固まっていない余りものの誰かが動くほかない。
俺は気持ちを落ち着かせるために一息ついて、一歩前に出る。
「俺は龍園と同じグループでも構わない」
この場の全員に聞こえるような声でそう言った。
誰かがこのように立候補してくることを望んではいただろうが、それがまさか俺とは思わなかったのだろう。自クラス、他クラス問わず、面食らっている生徒が少なからずいた。
「お、おい知幸……」
いきなりの俺の宣言に、近くにいた啓誠が「やめておけ」とアイコンタクトで主張してくる。
俺は啓誠たち綾小路グループのいる方に一瞬だけ目配せしつつ、片手でそれを制止した。
「本当か速野」
代表して、神崎が俺に問うてくる。
「ああ。ただ、俺も退学するのだけは絶対にいやだからな。いくつか条件を付けさせてほしい」
「龍園を受け入れてもらえるのなら、できる限りのことは受け入れるつもりだ」
すでに話し合いは、龍園の処遇さえ決まればあとはもう少し、というところまで来ている。
神崎がそのようなことを言うのもうなずける。
「助かる。条件は2つだ。まず1つ目に、このグループの責任者はA、Bクラスのどちらかの生徒が務めてもらいたい」
「なっ……」
いきなりかなり厳しい条件かもしれないな。
龍園が所属する小グループは、どのように引っ掻き回されるか分かったものではない。現状、最も最下位の可能性が高いグループだと認識されている。
そんなグループの責任者になるなど、退学のリスクを高めるだけ。絶対に避けたいところだろう。
場はまだ騒然としているが、俺は目を泳がせつつも再び口を開く。
「次に……いま余っているAクラス6人とBクラス8人の中から計3人、このグループに入るメンバーを俺に決めさせてほしい。この2つだ」
かなりふっかけたもんだと我ながら思う。
普通なら即座に却下されるであろうこの提案。
しかし、龍園への対処を巡って話し合いがまとまらず、鬱憤が出てきたこのタイミングならチャンスがあるかもしれない。
……と思っていたのだが。
「……速野。さすがにその条件を二つ返事で受け入れることはできない。そもそもなぜ責任者を俺たちBクラスとAクラスにやらせようとする?」
やはりそう甘くはないようで、神崎からすかさず反論を受ける。
「AクラスとBクラスというより、うちとDクラスには責任者をやらせたくなかったから、消去法なんだよ。Cクラスからは絶対に退学者を出したくないし、万が一の時に龍園を道連れにできるように、同じクラスのDクラスから責任者は出さない方がいい。まあそういうわけだ」
「少し待ってください」
そこで、すでにグループ結成を済ませ、一歩引き下がっていたAクラスの的場が話に割り込んできた。
「我々Aクラスは、確かに余った6人は好きに配置して構わないという条件を出しましたが、それはあくまでグループの話。むやみにグループの責任者を押し付けられるようなことは許容していませんよ」
「……」
……話が進む前に止めに入ったか。
まあ当然そうするだろう。
「……ってことは、俺が好きにメンバーを選ぶことは許容してる、と捉えても構わないか?」
「それなら事前に出していた条件とも矛盾していませんし、ご自由にどうぞ」
とのことだった。
それを受け、俺はやり取りの相手を神崎へ切り替える。
「神崎。……たぶんお前なら分かってるとは思うけど、俺はメンバーを好きに選べる権利を使ってできる限り優秀な生徒を集めようと思ってる。最下位を避けて退学者を出さないためだ。ただ自分で言っといてなんだが、俺は他クラスの事情には疎いからな。責任者の条件を取り下げる代わりに、Bクラスから4人、このグループに推薦してもらいたい」
神崎は責任者の条件がついていることで頭を悩ませていた。
それを取り下げるのだ。妥協点としてはいい具合のところだろう。
「……4人か」
「ああ。できるだけ上位クラスの生徒の数が欲しいからな。その分だけ退学のリスクも減るだろ」
どんな試験か具体的に分かっていない以上、実力主義の学校で測られた「クラス」という尺度は非常に有用だ。
DクラスよりCクラス、CクラスよりBクラスだ。もちろんAクラスが1番いいが、Aクラスを大人数入れようとすると残りのグループに配置するAクラス人員が足りなくなる。
「……クラスで話し合う時間をくれ」
「ああ。分かった」
そうして、神崎たちBクラスは独自の話し合いを始める。
俺はその間に、平田のもとに歩み寄った。
平田の周りにいたクラスメイトたちは、突然大胆な行動に出た俺に好奇の視線を向けてくるが、気にせず平田に話しかける。
「勝手に話進めて悪かった」
「……正直、驚いてるよ。君がこんな矢面に立つような行動をするなんて」
「このままじゃ、龍園押し付け合ってタイムオーバーなんてこともあり得そうだったからな……」
龍園に関して、先が見えなかったのは平田も実感していたところだろう。
「……君が大丈夫だと思うなら、僕は信じるよ。どうやって責任者が決まるかは分からないけど、もし君がなったら、その時は僕もできる限りサポートする」
「ああ、頼む」
できるだけ責任者になることは避けたいが……まあ、こればかりは運だな。
平田から離れ、元いた場所に戻ってきたのとほぼ時を同じくして、神崎たちBクラスも話し合いを終えたらしくこちらに語りかける。
「話はまとまった。4人だったな」
「ああ」
「4人いれば、龍園がいても協力して乗り切れるだろうという結論になった」
「……そうか。助かる」
Aクラスの包囲網を作るという方針になった以上、Bクラスの生徒も必ず一人以上は龍園と同じグループにならなければならない。
取れる選択肢は2つだ。入れる人数を最小限に抑えて危険にさらされる人数を減らすか、人数を増やして危険度そのものを抑えにかかるか。
一之瀬が仕切るBクラスの風土なら、前者のように1人を見捨てるような結論は出さないだろうと踏んでいた。
「神崎。もう一つ頼みがある」
「なんだ」
「いま残ってるAクラスの6人、取るとしたら候補は誰がいるか教えてくれ。3人くらいには絞りたいんだが」
Bクラスは俺たちCクラスとは違い、他クラスの情報のサーチまで行っていたようだし、そうじゃなくても俺よりは詳しいだろう。
「3人に絞るなら……あの中なら橋本、森重、島崎だ。森重と島崎は学力が高い。橋本は総合的に優秀だが、とぼけたふりして油断ならない人物だ。坂柳にも認められている」
「なるほど……分かった」
神崎からの説明を受け、3人を見定めるような視線を送るが……これに大した意味はない。
すでに誰を取るかは決まっている。
「森重」
俺に名前を呼ばれた森重は、一瞬だけ表情を歪めた。
しかし周りに気付かれないようにすぐに元に戻り、俺に向き合う。
「このグループに入ってもらう」
取引がある以上、森重はこれを拒むことはできない。
「……分かった」
1年男子は80人。15人グループ4つに10人グループ2つ。
俺と龍園を含む10人グループは7人までメンバーが固まり、定員まで残り3人となった。
ネックだった龍園への対処が完了すると、そこからの動きは割とスムーズだった。
俺のグループの残り3人はすんなりと決定。
あとは余った人員でもう一つの10人グループを組み、これで小グループ6組が全て結成された。
ひとまず、グループが組めずに退学になる、なんて間抜けな事態は避けることができた。
1年生男子小グループ
1.Aクラス14人(葛城、的場ほか)、Cクラス1人(山内)
2.Aクラス1人、Bクラス12人(神崎、柴田ほか)、Cクラス1人、Dクラス1人
3.Aクラス1人、Bクラス1人、Cクラス12人(平田、須藤ほか)、Dクラス1人
4.Aクラス1人、Bクラス1人、Cクラス1人、Dクラス12人(金田ほか)
5.Aクラス2人(戸塚、橋本)、Bクラス2人、Cクラス3人(綾小路、高円寺、幸村)、Dクラス3人(アルベルト、石崎ほか)
6.Aクラス1人(森重)、Bクラス4人(墨田ほか)、Cクラス2人(速野★、三宅)、Dクラス3人