実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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混合合宿Ⅱ

 さて、紆余曲折ありつつもまとまった小グループの話し合い。

 龍園を引き受けることになった俺たちだが、決めなければならないことが一つある。

 グループの責任者だ。

 当初俺が龍園を引き受ける条件として出していた「責任者はAクラスかBクラスの生徒が務める」という決まりは、話し合いの過程で取り消した。

 責任者についてはゼロベースに戻ったわけだ。

 

「……どうする、責任者」

 

 俺は隣に立っている明人だけに聞こえるような声量で呟いた。

 

「……さすがにここでやりたがるヤツはいないよな」

 

 Bクラスを4名入れたはいいが、それでも龍園がいる以上何が起こるかは分からない。

 そのため俺たちのグループは報酬を得る期待は大して高くない。

 つまり責任者になってもうまみがないわけだ。

 そんなものをやりたがる方が変だ。

 

「よし……じゃんけんだな」

 

「「「え?」」」

 

 全員が一斉に俺の方を振り向いた。

 もちろん龍園は除いて、だが。

 

「な、なんでじゃんけんなんて……」

 

「誰もやりたがらないならそうするしかないんじゃないか? 何かいい案があるなら聞くが」

 

「いや……」

 

 そういった案があるわけじゃないのか、言葉に詰まる。

 同じだ。龍園の時と同じ。

 結局、何かを押し付け合う膠着状態から脱却するには、誰かがそれを引き受けるか、その何かを全員で上に放り投げて、運悪く一番近くに落ちた者が請け負うしかない。

 前者が龍園の時の対応、そして後者が責任者をじゃんけんで決めようとするこの対応だ。

 

「お前がやるんじゃだめなのかよ」

 

 Dクラスの生徒の一人、小田がそう言って俺を見る。

 

「じゃんけんの結果でそうなったなら引き受けるが……それ以外で受ける理由はどこにもない」

 

「いや、でも……このグループは半分以上お前の意見で出来上がったようなもんだぞ?」

 

「確かにそれはそうだが、俺は龍園と同じグループになると言っただけで、責任者まで引き受けるとは言ってない。それとこれとは話が違う」

 

「いや、自分で集めたグループなのに責任者は他のヤツになんて、無責任だろうが」

 

「他のヤツに、なんて言ってない。じゃんけんで平等にリスクを背負うんだよ。俺も含めて」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 そんな中、ひと際大きい声がグループ内に響く。

 俺たちの醜い押し付け合いに待ったをかけたのは、明人だった。

 

「俺がリーダーになってもいい」

 

「え……」

 

 思ってもみない申し出だっただろう。全員驚き、明人に注目が集まる。

 

「どういうことだよ。速野みたいにまた交渉でもするつもりか? 最近Cクラスに上がったからってずいぶん強気だなお前ら」

 

 逆にDクラスに落ちてしまった小田が吐き捨てるようにそう言った。

 

「別にそんなつもりはない。単純に倍の報酬を取りたいだけだ」

 

「報酬って……それには3位以上に入らないだめだろ」

 

「3位以上だって不可能じゃないと思ってるぜ。たとえ龍園がいてもだ。だから責任者を引き受けるんだよ。何か問題あるか?」

 

 問題ない、だろうな。

 じゃんけんという運試しの手法しか提案がない現状、誰かが引き受けてくれるならそれに乗りたいはずだ。

 

「……やるってんなら別に止めはしねーよ。退学になっても知らないからな」

 

「なら最下位になった時に俺に道連れにされないようにちゃんとやれよ」

 

「っ……わかったよ」

 

 これで話し合いはひとまず終わり。

 大荒れの様相を呈していたこのグループのリーダー決めは、結果だけを見れば明人のおかげで案外スムーズに終結した。

 これで今やるべき小グループ決めは完了し、解散して自由時間、という流れ。

 しかし、誰も体育館から出ようとしない。

 理由は恐らく、上級生がまだこの場に留まっているからだ。

 様子からして2年生も3年生もグループ決めの話し合いは終わっているのに、いまだに体育館に残っている。そんな中で同じ状況の1年生が勝手に体育館を後にすることはできない。

 かといって何かやることがあるわけでもない。

 手持ち無沙汰になっていたところで、南雲会長が1年生のところに近づいてきた。

 

「全グループ結成し終えたようだな。中々スムーズだった。そこで提案だが、今すぐに大グループを作らないか?」

 

「え、でもそれは今日の夜から決めることでは……」

 

 南雲の目の前にいた的場が、1年生を代表する形で応対する。

 

「それは小グループ決めにもっと時間がかかると考えていた学校側の配慮だ。今から自由時間といっても何かやることがあるわけでもない。なら、今から大グループまで作った方が時間の有効活用になるだろ?」

 

「それは、確かに……」

 

「堀北先輩も、それで構いませんよね?」

 

「ああ。その方が都合がいい」

 

「決まりっすね」

 

 そんなやり取りで急遽大グループの結成が始まる。

 学校側としては想定外だったらしく、生徒たちのやり取りを聞いて少し焦り交じりに準備をし始めた。

 本来学校側に振り回されるだけの生徒が、逆に学校を振り回してるな。これが強い権力を持つ新旧生徒会長のコンビか。

 

「決め方は……1年生にドラフト形式で上級生12グループの中から決めてもらいましょうか」

 

「待て南雲。1年生の持つ情報量は少ない。公平な決め方ができるとは思えん」

 

「それは2、3年生だって同じっすよ。どうしたって情報量に差は出る。大きな問題じゃありません」

 

「だが」

 

「どうだ1年、この決め方に異論はあるか?」

 

 堀北先輩の反論を遮るように、1年生に確認を取る南雲。

 

「いえ……僕らはそれで問題ありません」

 

 当然、反論などできるはずがない。間違いなくそれを見越したうえでのものだろうけど。

 

「よし。なら代表者同士でじゃんけんでも何でもして、指名する順番を決めろ」

 

「分かりました」

 

 南雲会長は便宜上代表者と言ったが、実際にじゃんけんに出るのは責任者だ。

 葛城、神崎、平田、金田、明人、そして少し遅れて前に出てきた啓誠がじゃんけんを行う。

 残念ながら明人はじゃんけんに負け、俺たちは最後の指名順となってしまった。

 

「悪い……」

 

「しゃーないって。こればっかりは運だし」

 

 少し沈んだ様子で戻ってきた明人を、Bクラスの墨田が励ました。

 こいつの言う通り、運なのでそれを責めることはない。それは先ほど少し言い争いのようなことをした小田も同じだ。もちろん、龍園のリスクを低減するために少しでも指名順を上げたかった、というのが本音だが。

 

「それより明人、どのグループがいいかとかって分かるか」

 

 しかし、ここからは運だけでなく情報戦の面も出てくる。そこである程度挽回することも可能だ。

 明人は弓道部のはず。俺よりは詳しいだろう。

 

「そうだな……やっぱ目玉は堀北先輩のいるグループだな。堀北先輩もそうだが他のメンバーも手堅い感じだ。逆に南雲会長のグループは案外微妙だ。会長以外のメンバーはぱっとしない」

 

「そうなのか……」

 

「郷田先輩のグループには目立った人はいないけど、結構いい感じだと思うぜ」

 

 墨田も明人にアドバイスを送る。

 

「そうだな。もし余ってたら指名するか」

 

 しかし、そんな明人たちの目論見はあえなく崩れ去る。

 郷田先輩のグループは、3番目の金田が指名してしまった。

 

「……まあ、仕方ないな」

 

 結局2つとも満足のいくグループを選ぶことはできなかったが、明人たち部活に入っているメンバー曰く、そんなに絶望するような組み合わせでもないという。

 ただ、考えてみれば当然のことかもしれない。上級生がそんなアンバランスなグループ作りはしないだろう。

 

「さて堀北先輩。こうして別々の大グループになったことですし、1つ勝負しませんか」

 

 南雲会長が突然そんなことを言い出した。

 それに対し、3年生の一部からは呆れたようなため息が漏れる。

 

「おい南雲。いい加減にしろ」

 

 体育祭の時に紅組の指揮を執っていた3年生の藤巻先輩が南雲会長の前に出た。

 

「いい加減に、ってどういう意味ですか?」

 

「こうしてお前が堀北に勝負を挑むのは何度目だ? 今までは特に口をはさんでこなかったが、今回は1年生も加わった大掛かりな試験だ。私物化されるのを見過ごすわけにはいかない」

 

「試験を私物化できるのも実力のうち、って考え方はできませんか?」

 

 私物化することを否定するでもなく、挑発的な口調でそう言った。

 

「ふざけるな南雲。そんな勝負を堀北が受けるわけがないだろう」

 

「そりゃ本人に聞かなきゃ分からないことじゃないですかね? 一応Aクラスのナンバー2とはいえ、藤巻先輩が勝手に決めることじゃないでしょう」

 

「南雲、お前……」

 

 体躯の大きい藤巻先輩にも怯むことなく、それどころか見下すような態度を取る南雲会長。そんな態度に我慢ならなかったのか、3年生から数人の生徒が出てこようとした。

 しかし、それを堀北先輩が制する。

 それを見た南雲会長は嬉しそうに口角を上げた。

 

「どうなんスか堀北先輩。ま、売り言葉に買い言葉であんなことは言いましたけど、勘違いしてほしくないのは、俺はただ堀北先輩と個人的な勝負をしたいだけなんスよ。別に私物化するつもりなんてありません」

 

「だから、それこそが私物化だと言っている」

 

「俺はそうは思いませんけどね。先輩たちの中にも、個人的にテストの点数で勝負したことのある人はいるんじゃないスか? 俺が望んでるのはそれと同じです。まさか藤巻先輩はテストの点数で勝負することも認めないつもりッスかね?」

 

「っ……」

 

 これは、南雲会長が一本とった形だな。

 テストの点数勝負と同じ、個人的な勝負だというなら、当事者である堀北先輩と南雲会長以外が口を挟めることじゃない。

 ここで、初めて堀北先輩が一歩前に出て、口を開いた。

 

「何をもって勝負とする?」

 

 その瞬間、3年生……恐らくはAクラスだろう。その生徒たちがざわつく。

 

「やっと出てきてくれましたね。まそうッスね……ここは、どちらがより多くの生徒を退学にさせられるか、なんてどうです?」

 

 その瞬間、1年生と3年生がどよめく。

 だが不思議なことに、2年生は驚いた様子を見せていない。

 

「冗談はやめろ南雲」

 

「はは、面白いと思うんですが流石にやめときましょうか。1年生もいることですし。まあシンプルに、どっちがより上の順位を取れるか、でいいんじゃないスかね」

 

 勝負の内容としては妥当なところだ。

 

「なるほど。それならばいいだろう」

 

「ありがとうございます。受けてくれると思ってましたよ」

 

「ただし、これはあくまで俺とお前の個人的な勝負だ。相手のグループを蹴落とすような真似はするな」

 

「そういったことも、上の順位を目指す手段の一つだと思うんですが?」

 

「この試験の趣旨を考えれば、他のグループを蹴落とすのではなく、自分のグループで結束して上位を目指すことがテーマだと分かるはずだ。他のグループの妨害をすること、他の生徒を利用してけしかけることも含めて、他の生徒を巻き込むことは認めない。もしそれが守れないというのなら、この勝負は無効だ。いいな」

 

 抜け目のない禁止事項だ。

 堀北先輩の暴力行為のシーンに関して対峙した時も、俺の思惑に先回りしてそれを封じる手を打ってきた。相変わらずというべきか。

 

「ま、勝負をしかけてるのは俺の方ですし、それくらいの条件は呑みましょう。あくまで正々堂々、グループでどれだけ結束して上位を目指せるか、という勝負ってことで」

 

 話はまとまったようで、南雲会長と堀北先輩はそれぞれのグループのもとへ戻っていく。

 この勝負に関しては、俺は考慮しなくてもよさそうだ。

 どっちも俺の大グループではないし、他のグループを巻き込まない条件を堀北先輩がつけた。南雲会長が何かちょっかいをかけるようなことがあれば堀北先輩が何かしらの形で動くだろう。

 

 

 

 

 

 1

 

 このまま解散かと思われた俺たちだが、同じ大グループに所属することとなった上級生たちに呼ばれ、一か所に集まっていた。

 

「お前たちが1年の小グループだな」

 

「はい」

 

 上級生グループの一人が前に出て、俺たちに声をかけた。

 責任者である明人が代表して対応している。

 

「俺は3年の進藤だ。小グループの責任者を務める。事前の説明ですでに把握しているとは思うが、小グループと比べれば大グループは緩やかなくくりだ。だが順位がこの大グループではじき出される以上、協力していける部分はしていくべきだ。何か気になったことがあれば、手遅れになる前に上級生に聞け」

 

「分かりました。お願いします」

 

「責任者はお前か?」

 

「そう、ですけど」

 

 明人にそう確認した後、進藤先輩はある人物のもとへ近づく。

 

「誰が責任者をやろうが、仕切るのはお前だろうと思っていたんだがな、龍園。クラスのリーダーを降りたという噂は本当か?」

 

「あ?」

 

 対峙する進藤先輩と龍園。

 龍園と同じDクラスの小田は少し居心地が悪そうだった。

 確か、石崎とアルベルトが中心となってクーデターを起こし、龍園をリーダーから引きずり下ろした、というシナリオだったな。もちろん真実は違うが、一部の人間を除けばそのシナリオが龍園失脚の理由だということになっている。もちろん、クラスメイトも含めてだ。

 仲間割れである以上、あまり触れられたい話題ではないだろう。

 

「お前のクラスの小競り合いがどうだったかは知らないが、グループの足を引っ張るような真似だけはするなよ」

 

「クク、わざわざその念押しに来たのかよ。ご苦労なことだなオイ」

 

 一線を退いても、この相手の神経を逆なでるような言い回しは健在らしい。

 

「お前……」

 

「グループの順位なんざ知ったこっちゃねえが、ポイントが奪われんのは御免だ。頼みてえのはこっちの方だぜ」

 

「こっ……」

 

 進藤先輩が何か返答する前に、龍園は踵を返してこれ以上のやり取りには応じない姿勢を見せた。

 十分に舐めた態度ではあるが……龍園にしては控えめ、という言い方もできる。本来のあいつなら、今のやり取りの間だけでももうニ、三言余計な嫌味や罵倒が入っていただろう。

 

「おい、龍園を引き受けることを決めたのは誰だ?」

 

 一方、残された進藤先輩はそんな問いを明人にぶつける。

 

「それは……」

 

「俺です」

 

 明人が俺を指し示す前に、自分から名乗り出た。

 

「お前は……速野か」

 

 もう名前を知られていることには驚かない。最近は知られていることはある程度想定して動くことにした。

 

「お前が責任をもって龍園を制御しろ。いいな」

 

「え……制御って言われても」

 

「制御できる自信があるからグループに引き入れたんだろう?」

 

「いや、別に自信があるってわけではないですが……」

 

 龍園を制御できる人間なんて一握りだろう。

 

「なんだと? ならなぜグループに引き入れた」

 

「交渉して、龍園を引き受ける代わりにできるだけ優秀な生徒を引き入れることでリスクを下げようとしたんです」

 

「……なるほどな。だが、自信があろうとなかろうと制御してもらわなければ困る。しっかりやれ」

 

 プレッシャーをかけるような口調でそう言う。

 2つ下の後輩相手ならこれで何とかなると思ってるんだろう。そしてそれは蓋然性の高い事実ではある。

 

「……やれるだけはやってみます」

 

「ああ。頼むぞ」

 

 俺の返事を聞いて、進藤先輩もそれ以上言ってくることはなかった。

 進藤先輩が俺から意識を外したのを確認して、俺は龍園のもとへ行き話しかけた。

 

「お前を制御しろだってさ」

 

「ハッ、同情してやるよ。だが俺を引き入れたてめえの自業自得だぜ」

 

 相変わらず、こちらを挑発するような物言い。

 不敵な笑いもそのままだ。

 リーダーを降りたいま、以前のような凄みは鳴りを潜めているが。

 

「ああ、全くその通りだよ」

 

 俺は変に言い返すようなことはせず、そう答えておいた。

 だが龍園。俺はお前が変な動きを見せるとはあまり考えていない。

 自覚してるかどうかは分からないが、お前にはまだ生きる意志がある。

 もしも自暴自棄になって暴れるなら、清隆にやられた時点で自主退学する手もあった。

 だがそうはしなかった。

 何よりお前の目がそう物語っている。

 つまり、自分からわざと退学になろうとしたりすることはない。

 今の龍園は、独裁を行っていた過去を持つだけの普通の生徒、と捉えるべきだろう。そう考えれば、下手な生徒よりも優秀だ。

 そのため俺は、多くの生徒が認識しているほど龍園のリスクを高く見積もっていない。だからこそ俺は龍園と同じグループになることを交渉材料に選んだんだ。

 

 

 

 

 

 2

 

 そこから大グループは一度解散になった。

 しかし夕食までは自由時間。まだ3時間ほど余裕がある。

 そこで2年生の飯島先輩からの提案で、大グループ内の希望者だけで親睦を深めることを兼ねて施設内を見て回ることになった。

 施設の探索は俺もやろうとしていたことなので、迷わずついて行くことにする。

 龍園と小田、それにもう一人のDクラスである船上試験で同じ組だった樫本、そしてAクラスの森重は参加しないようだった。

 

「君、三宅くんだったよね?」

 

 隣を歩く明人が飯島先輩に話しかけられる。

 

「ああ、はい」

 

「結構難しいグループみたいだけど、責任者として頑張ってね。手伝えることがあれば手伝うから」

 

「ありがとうございます」

 

 第一印象としては、朗らかな感じを受ける。

 もちろんそれが全てではないのだろうが、進藤先輩よりは気難しくなさそうだ。

 

「それから君が速野くんだろう? 成績とんでもないんだって?」

 

 明人の次は話の矛先を俺に向けてきた。

 

「まあ……唯一といっていい得意分野なんで」

 

「いやあ、得意なんてもんじゃないと思うけどね。単純な学力だけなら南雲ともいい勝負するんじゃないかって、うちのクラスでもたまに噂になるよ」

 

「……それはどうも」

 

 評価されているのは確かなんだろうが、それでも南雲会長を上回るとは微塵も思っていないようだ。

 もちろんあの人の学力を俺が分かっていない以上、勝てるなんてことは口が裂けても言えないが。

 

「もし最終テストに筆記試験の形式があったら、その時は頼りにしてるよ」

 

「頑張ります……」

 

 この受け答えで満足したのか、飯島先輩はまた別の1年生に話かけに行った。

 随分フランクな人だな。

 

「相談しやすそうでよかったな」

 

「まあな……。ただ、確か飯島先輩ってAクラスだよな?」

 

「ああ、初めの自己紹介のときにそう言ってたっけ」

 

 それにさっきの言い方からしてもそうであることは予測がつく。

 

「個人的な意見なんだが……南雲会長をあんまり支持できないんだよな。だからそのクラスメイトの飯島先輩も、いまいち信用しきれないってのが正直なとこだ」

 

 明人は声を潜め、俺以外には聞こえないようにそう言った。

 

「そうなのか」

 

「何か明確な根拠があるってわけじゃないんだが」

 

「まあ生理的に受け付けない種類の人間の一人や二人、いたって特段不思議なことじゃない。大して負い目に感じることもないと思うぞ」

 

 実際、今の2年生に忌避感を感じる生徒はいないわけじゃないと思う。

 3か月ほど前の全校集会。南雲会長の就任あいさつの時の2年生は、ある種狂信的とも感じられた面があったからな。

 ただ、それだけではない。

 あんな色んなものがない混ぜになった感情を向けられるようになるまでに、一体どんな行動をとってきたのか。

 

「お、ここが食堂か」

 

 グループのメンバーのその声で、俺の意識は再び施設内の探索に戻された。

 

「こっから先は、飯の時間以外は立ち入り禁止だったな」

 

「唯一の男女共用スペースだろ? そりゃ制限されるかあ」

 

 朝食や昼食はここではなく、本校舎分校舎それぞれにある外のスペースで食べるため、この食堂を使うのは夜だけ。それぞれ1時間ずつだ。女子と接触できるのはその時間だけ。

 一応スキーの時間も男女共通だが、それぞれエリア分けがされているため接触できるかといえば難しいだろうな。

 食堂は、本校舎と分校舎を繋ぐ連絡口でもある。俺たちが今いる場所の真向かいには、分校舎への入り口がある。といっても、その距離はかなり離れているが。

 

「……」

 

 ……なるほど。食堂の構造は大体わかった。

 

「さて、これ以上ここにいても何もできないし、引き返すか」

 

「だな」

 

 先輩たちの声に従い、俺を含めた他のメンバーもその場を離れる。

 本校舎内は一通り見て回ったため、これ以上行くところはない。メンバーそれぞれの部屋に戻るべく廊下を歩いている。

 しかし、俺はその途中で集団から外れた。

 

「おい、どっか行くのか?」

 

 俺の離脱に気づいた明人が声をかけてくる。

 

「もう一周してみようと思ってな。夕飯までには戻ってくるから大丈夫だ」

 

「そうか。気をつけろよ」

 

「ああ」

 

 返事を確認して、明人と別れる。

 一人になった俺は、また別の道を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 3

 

「戻ったか知幸」

 

 施設内の探索を終え、一人で小グループの部屋に戻ってきた俺を出迎えた第一声は明人からのものだった。

 俺がこの小グループの共同部屋に入るのは初めてなので、戻った、が正確な表現かどうかは怪しいが。

 

「ああ」

 

 ここに来るまでにいくつか小グループの共同部屋を通り過ぎたが、ところどころ談笑する声が漏れ出ているところがあった。

 比較的まとまりのあるグループなのだろう。試験の遂行もスムーズに行きそうだ。

 では、このグループがどうだったかというと……まあ、いまのこの沈黙を見れば明らかだな。

 若干ではあるが、明人も困り顔だ。

 ただ申し訳ないが、こういった場面で俺にできることはない。

 自分のことをさせてもらう。

 部屋を俯瞰してみると、そこそこの広さがあることが分かる。ただしその敷地面積のほとんどは5個ある2段ベッドに占められていた。

 そしてそれぞれのベッドにはすでに荷物が置かれている。荷物には名前が書かれているため、誰がどのベッドを使うかの目印としても機能していた。

 

「空いてるベッドどこだ?」

 

 一見しただけではどこが未使用か分からなかったのでそう質問する。

 

「ここが空いてるぞ」

 

 俺に答えるようにして小田が指し示したベッドは、最も窓に近いベッドの一段目。

 部屋で一番冷気を受ける場所だ。

 

「……オッケー」

 

 しかし、そこは施設探索を優先してベッドの場所を決めるやりとりの場にいなかった俺の責任だ。

 文句は言わず、大人しくその場所を引き受けた。

 のだが。

 

「……」

 

 果たして、これは悪運と言うべきか。少なくとも幸運ではないことは確かだが。

 俺のすぐ隣のベッドの1段目。つまり最も近い距離のベッドには、龍園が目をつぶりながら寝転んでいたのだ。

 少し尋ねたいこともあったんだが……まあ後ででいいか。

 龍園の上のベッドにはAクラスの森重が寝転んでいた。それを確認してから俺は自分の使うベッドに荷物を下ろした。

 そこから俺たちのグループには一切の会話が生まれないまま、夕食までの自由時間を過ごした。

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