実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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混合合宿Ⅲ

 部屋のスピーカーから流れる音楽で目が覚めた。

 時刻は6時。起床時間だ。

 周りからガサゴソと音が聞こえてくる。みんなも起床し始めているらしい。

 目覚めは決して悪いものではなかった。というのも、夕食、風呂を終えてからは全くやることがなかったのでとっとと就寝してしまったのだ。本来であれば午後8時から大グループの結成を行う場が設けられているはずだったが、それは南雲会長の提案で日中にすでに決めてしまったからな。

 俺が寝たのは夜9時前。その時はまだ電気は消えていなかったが、俺が眠りについてからそう長くないうちに消灯したはずだ。

 

「全員起きたか?」

 

 責任者である明人が声掛けを行う。全員ダルそうにしながらもそれに答えた。

 

「集合時間は6時半だからあと30分ない。それまでに準備して移動するぞ」

 

「ああ」

 

「分かった」

 

 それから全員ゆっくりと活動を始める。

 顔を洗ったり、着替えたり、トイレに行ったりなど様々。しかし共通しているのは、全員しっかりと準備に取り掛かってるということだ。

 

「……」

 

 このグループ……グループ仲は全くよくないが、まとまりがあるかという観点では意外とまともかもしれない。

 というかそもそも、龍園を除けば問題児と言われるような生徒はこのグループには属していない。

 その龍園さえ問題児っぷりを発揮しなければ、このグループはある程度の水準には達しているといえるだろう。

 明人も慣れないながら責任者としての役割を果たしているし、その明人の指示に反抗するような生徒もいない。龍園もちゃんと動いている。

 むしろ、石崎や話の通じない高円寺のいる清隆、啓誠のグループの方がよっぽど危ないかもしれない。

 まあでもあそこは南雲会長の大グループだし、なんだかんだで最下位は回避してきそうだ。一応、堀北先輩との勝負のこともあるしな。

 

 

 

 

 

 1

 

 混合合宿の1日は、施設内の清掃から始まる。

 大グループごとに割り当てられた区域を、時間内にしっかりと清掃する。もちろん、終了時には担当の教師からのチェックが入る。

 この寒い中で雑巾がけなんて御免だと思っていたが、使うのは雑巾ではなくモップだったので、その点は助かった。

 余談だが、ほうきを使っている龍園の姿はかなりシュールだったことをここに記しておく。

 そして一通り清掃を終えた俺たちは、次に大きな和室に案内された。

 いや……和室というより道場と表現した方が正確かもしれない。柔道で使用されるような畳が一面に敷き詰められている。何畳分か数える気も失せるくらいには広い。

 担当の教師からの指示があるまで待機している中、俺たちとは別のもう一つの大グループがこの道場に姿を現した。

 俺の見知った顔が多い。Cクラスの生徒が多く属する、平田たちのグループだ。

 これで延べ80人ほどがこの道場に集まっていることになるわけだが、まったく問題なく収容できている。むしろまだ余裕があるほどだ。

 平田たちの大グループ全員が入場し終え、担当の教師が声を発する。

 

「全員集まったな。今日から朝と夕方、お前たちにはこの座禅堂で座禅をやってもらう」

 

「座禅……」

 

 それで場が少しだけざわつく。

 この座禅はバスの中で事前に見せられた合宿の資料には書かれていなかったからだろう。

 つまり、いよいよ本格的に混合合宿のカリキュラムが始まったということだ。

 

「座禅は瞑想の一種だ。頭を真っ白にして行うものだと思われがちだが、そうではない。目を閉じ、イメージをすることだ」

 

 座禅は、メンタルトレーニングやイメージトレーニングの一種としてアスリートの世界でも取り入れられている手法だ。確かに、頭を真っ白にしてたらイメージなんてできないな。

 そして1グループ4列ずつで並ぶように指示が出される。

 たまたま前の方にいた俺は、このグループの先頭の右の角に並んだ。

 この列は座禅堂の中央に位置する。平田たちのグループと隣り合う列だ。

 誰が隣に来るかと思っていたところ、まさにその平田がその位置に並んだ。

 

「おはよう速野くん」

 

「ああ、おはよう」

 

 互いに挨拶を交わしたが、やり取りはそれだけ。下手に話し込むと、私語をしたとして減点される恐れもあるからな。

 そこから3分ほどが経ち、最後尾まで並び終えたのを確認してから担当の教師が再び口を開く。

 

「これまで座禅を経験したことがない者も少なからずいるだろう。はじめにその体勢から説明する。まずは手本として私がやってみる。見ておくように」

 

 そう言うと、担当の教師は胡坐をかいて座った後、両方の足先をその逆のひざに乗せた。

 これはよく仏像が取っている体勢だ。

 

「これは結跏趺坐と呼ばれる座り方だ。このようにやってみろ。まずは見よう見まねで構わない。分からない者は手を上げろ」

 

 理解すること自体は大して難しくない座り方だ。テレビや雑誌なんかで目にしたこともあるだろう。

 しかし、実際にやるとなると話は別だ。

 

「あでででで……」

 

 各所から苦悶の声が聞こえてくる。

 俺自身もその発生源の一つだ。

 片方のひざに乗せるだけなら容易いが、もう片方が乗せられない。無理やり乗せようとすると足が痛む。

 やる前から分かってはいたことだが、俺はこの座り方ができない。

 

「大丈夫?」

 

 隣で涼しい顔をして結跏趺坐を組む平田が心配そうに声をかけてくる。

 

「できない者は、まずは片方だけ乗せる半跏趺坐でも構わない。ただしこの結跏趺坐は最終テストの成績にも影響するので、注意するように」

 

 担当教師からの注意で、結跏趺坐ができない組からはため息が漏れる。

 

「……大丈夫じゃなさそうだ」

 

 残念ながら、俺がこの結跏趺坐をマスターできる未来が全く見えない。

 半跏趺坐の姿勢を保ち、俺は初回の座禅を終えた。

 

 

 

 

 

 2

 

 時刻は7時を過ぎたころ。

 朝食の時間だ。

 小グループごとに座禅堂から移動し、外に設けられた朝食スペースに到着する。

 どうやら朝食は大グループごとに摂るルールらしい。全員が到着しないと食べられないようで、すでに食事を始めているグループもあれば、到着したのに待機を強いられているグループもあった。

 俺の属する大グループは俺たち1年生の小グループの到着が最後だったようで、先輩たちはようやく食べられると安堵した様子だった。

 俺たちの大グループが全員揃ったことを確認し、案内役と思われる教師が口を開く。

 

「お前たちのグループの分はあそこに用意されている。また事前に説明されているとは思うが、明日以降天候が許す限りは朝食は事前に自分たちで作ってもらうことになる」

 

 そんな指示とともに、朝食に関する詳しい内容が書かれた小冊子が、各小グループの責任者に手渡された。

 

「そういやそうだった……マジ最悪だ」

 

 メンバーの一人が苦々しくそう呟く。

 これまで自炊の経験がない生徒にとっては苦行以外の何物でもないな。

 しかし学校側もそういったことにも気をまわしているようで、その日の献立の詳しい作り方を配布するそうだ。

 まあこれは配慮というより、自炊に慣れていないから参加したくないという言い訳を封じるためだと思うが。

 

「作るのは小グループ単位でやるとして、ローテーションはどうしますか? 進藤先輩」

 

 2年の責任者である飯島先輩が、同じく3年の責任者である進藤先輩に質問する。

 明人もその話し合いの輪に加わっているが、発言力は皆無に等しいため黙って話を聞いているだけのようだ。

 

「明日を含めて作る機会は6回。各学年2回ずつでいいだろう。1年もそれで構わないな?」

 

「はい」

 

「では、1年、2年、3年の順番にしよう。分かりやすくていいだろう」

 

「それで構いませんよ」

 

「分かりました」

 

 と、簡単なやり取りではあったが朝食づくりの順番は決定した。

 俺たち1年生の当番が最初の2日になったのは、どちらかといえばラッキーと捉えるべきだろう。

 日を追うごとに疲労は蓄積されていくため、日数が後になるほど朝食づくりの負担は大きくなる。

 目の前の朝食に早くありつくために、話し合いを終わらせようと急いだのか。あるいは最初に作るのは何となく面倒くさそうだから後回しにしようと思ったのか。進藤先輩の考えがいかなるものであるにせよ、結果としては好位置が転がり込んできたな。

 今の話し合いを受けて龍園がどんな様子かを見てみたが、まったく興味がなさそうな態度で、前方に広がる木々に目を向けていた。

 

 

 

 

 

 3

 

 午前中は座学。

 指定の教室で、大グループ単位で受けることになる。

 大グループは比較的緩やかな括り、というのが事前に受けていた説明だったが、大グループで過ごす時間も意外と短くない。少なくとも午前中はほとんど一緒だ。

 そしてその時間に一番気を遣って振舞う必要があるのは当然俺たち1年生だ。

 社会全体を見れば年の差の1つや2つなんて微々たる差だが、学校という狭いコミュニティの中ではそれだけで上下関係が決まってしまう。

 上級生がそばにいるという事実だけで、息が詰まるような感覚を覚える。

 もちろん、それも龍園を除いて、ではあるが。

 ちなみに俺たちは筆記用具とノートに関しては持参することを指示されていないため、学校側から提供があるようだ。

 しかし全体を見てみると、学年が上がるごとに筆記用具とノートを自前で用意している生徒の割合が多くなっている。

 これまでの経験から必要になることを予見していたのかもしれない。

 1年生の中で自前で用意していた準備のいい生徒は、Bクラスの2人だけだった。

 座る席は自由にして構わないというのが学校側の指示だったが、俺たち1年生は遠慮し、2、3年生が着席するのを待ってから空いている席に座った。

 そして例によって俺は無言の圧力で龍園の隣に配置されてしまった。

 明人は「悪いが頼む」って感じでアイコンタクトを送ってきたが。

 龍園が座ったのは教室の一番後ろの席だ。俺もその位置に腰かける。

 

「お前、グループ単位の行動の時いつも一番後ろにいるな」

 

 今この瞬間もそうだし、移動の時もそうだ。

 

「悪いかよ」

 

 仏頂面で短く答える龍園。

 

「いや、ただ言ってみただけだよ」

 

 分かってはいたことだが、常に人の前に、そして上に立とうとしていた以前までのこいつとはえらい違いだ。

 ただただだるい。面倒くさい。

 そう思っていそうだ。

 

 

 

 

 

 4

 

 昼食後は、いよいよ待望のスキーの時間である。

 準備体操とスキー道具の準備は事前に終わらせておくように指示があった。

 男子用のスキー板やストック、ブーツ、その他諸々の道具は全て1号館と呼ばれる巨大な倉庫に備えられており、授業前にこれらを準備しておく必要がある。

 それらを全て持って移動となると、かなり重量がかさむ。地面が雪だということもあって通常より歩きにくいのも難点だ。

 

「俺スキーなんてやったことねえんだけど」

 

「俺もだよ。でもポイントに影響するんだろ?」

 

 移動中、そんな会話が耳に入ってくる。

 当然多くの者はスキー初心者だ。学校側もそれは分かった上でやっているはず。

 しかし中にはスキー上級者もいるかもしれない。

 では、このスキー演習は本当に単にスキーが上手い人が無双するというだけのものなのか。

 それはそれで単純で分かりやすい。だがそれならわざわざ報酬内容を生徒に隠す理由がない。

 俺は報酬内容に何かしらのひねりがあると思っている。ほとんどの生徒が初心者の中で、運良く経験者がいるグループ、クラスが得をするような運任せのルール作りをこの学校がするとは思えない。

 もちろん、ただの考えすぎという可能性もあるが。

 スキー場に着くと、責任者を先頭として小グループごとに一列に並ぶよう指示が出される。

 明人とは昼食の時から別行動をしており、その姿を見つけるのに時間がかかる。そのため俺は列の最後尾に並ぶことになった。

 ただまあ、恐らく早めに並んでいたとしても龍園が最後尾に並んでいる限り俺はここに並ぶことになっていただろう。

 周囲を見てみると、全体的に高揚感というか、明るい雰囲気を感じ取ることができる。未経験の競技や明かされていない報酬内容などの不安要素はるものの、日程の説明を受けたときから混合合宿では1番楽しみなイベントだったんだろう。

 

「ただ、やっぱウェア着てても寒いな……」

 

 上下ジャージに比べれば厚着のため、施設に到着した時よりはまだマシだが、それでも寒いことに変わりはない。

 そのまま数分が経過した頃。

 

「よし。全グループの集合が確認されたので、これよりスキー演習を始める」

 

 教師の1人が拡声器を使用してアナウンスした。

 

「まずはじめに、講師を務めていただく方々を紹介する。全部で21人。全員日本で有力な、尊敬すべきスキープレイヤーだ。まずはじめに……」

 

 と、21人の講師の紹介が始まった。女性も数人いる。

 道具から察するに、俺たちがやる種目はクロスカントリースキー。残念ながら日本ではメディアに取り上げられるほどの注目スポーツではなく、したがってその選手の認知度も低い。講師を知ってる人はほとんどいないだろう。

 教師が名前を紹介して、講師の人が一礼し、生徒が拍手する、というのを21回繰り返し、およそ5分ほどで講師紹介は終わった。

 そこから拡声器が講師に手渡される。

 

「高度育成高等学校の皆さん、こんにちは。武藤です。皆さんはこれから数日の間、スキー演習をやるということですが、おそらくスキーやったことないよ、って人がほとんどだと思います。ですが安心してください。スキーは危険も多い競技ですが、非常に楽しいスポーツです。楽しみながらスキーに打ち込めば、必ず滑ることができるようになるでしょうし、私たちが全力でサポートしてそうさせてみせます。ではこれから数日の間、よろしくお願いします」

 

 非常に頼もしく力強い挨拶だった。

 やはりプロ。一目見ただけでも持っている雰囲気が全く違うのが分かる。

 拍手がおさまると、教師の指示に従って小グループごとに別れる。講師は小グループ1つにつき1人。残り3人の講師にはまた別の役割があるらしい。

 

「じゃあみんな、並ばなくていいから適当に集まってくれ」

 

 講師がそうアナウンスすると、散り散りだった大グループメンバーが講師の周りに集まってくる。

 

「全員集まったかな。さっき自己紹介したけど、35人もいたら覚えてないでしょ? なので改めて。僕は尾形です。よろしく」

 

「西原です。よろしく」

 

 しゃべる担当は尾形って人らしい。

 

「じゃあ、準備体操はみんな済ませてるって先生に聞いてるから、もう早速始めようか。まずはブーツをスキー版に固定しよう」

 

 生徒全員スキーブーツをすでに履いており、板に固定すればすぐにでも滑れる状態だ。

 ブーツを板に固定する。字面は簡単そうだが、初心者にとってはこれが結構面倒な作業なのだ。

 まずはブーツの裏の雪を落としきる。次いで板のレバーを上げ、留め金を外す。そこにできた窪みに、ブーツにある出っ張りをはめ、カチッと鳴るまでつま先を固定したまま踵を上げる。これで片足の固定完了。

 この作業を全員行い、ひとまず全員ブーツを板に固定することができた。

 

「よし、全員できたね。この合宿でみんなに習得してもらうのは、スキーの中でも『クロスカントリースキー』という種目だ。名前は聞いたことあるんじゃないかな。このストックを使って雪をこいで進み、タイムを競う。みんなにはこれを小グループごとにリレー形式でやってもらう」

 

 クロスカントリーのリレーか。まあ資料に載っていた道具やバス内での先生の言葉から予想していたいくつかのパターンの一つではあった。

 

「あの、小グループごとに人数が違うんですが、どうやってリレーのタイム計測を行うんでしょうか……?」

 

 全員気になっていたであろうことに関して質問がある。

 

「1年生は最大15人、2、3年生は最大14人の小グループを作っているんだったね。リレーの人数はグループの最大人数に合わせることになっている。例えば1年生で10人の小グループは、2回滑る必要のある生徒が5人になる。分かったかな?」

 

「ありがとうございます」

 

 グループ内で比較的速い5人を2回滑らせることができる好機と捉えるか、2回滑らないといけない体力面での心配をするべきか……。単に人数が少ないことが不利になるというわけでもなさそうだ。

 

「リレーで一人が滑る距離は約800メートル。それからもしも滑ることができない、危ないと判断された場合、その人の分は10分と計算してタイムを出すことになってるから、みんな頑張ってくれ」

 

 800メートルで10分か。スキー初心者が一週間足らずでどれくらいのタイムで滑れるようになるのかはわからないが、10分もあれば滑れる人との差別化はできているだろう。

 と、そんなことを考えていたとき。

 少しバランスを崩して倒れそうになってしまった。

 

「おっと……」

 

 とっさにストックをついて転倒を防ぐ。

 その光景を目にした尾形さんが、俺だけでなく全員に聞こえるように言う。

 

「おっと、大丈夫? 立ってるときに板を平行にしちゃうとバランスがとりずらいから、非平行にしたほうがいいよ。この板を非平行にするのはスキーの基本だから、よく覚えておいてね」

 

 非平行か。

 さっそく言われたとおりにやってみると、確かに足場がかなり安定した。さっきはスキー板を平行にしたまま立っていたが、こうすると確かにバランスがとりやすい。

 

「じゃあ、まずは軽く歩いてみよう。歩く時もさっき言ったように板を非平行にすることが重要で……」

 

 ここから、本格的にスキーの練習が始まった。

 

 

 

 

 

 5

 

 俺が想像してたより、みんな結構スキーが上手かった。

 指導開始から2時間半ほどを経て、小グループ10人のうち、いまだにある程度の滑りを習得できていないのは俺とDクラスの小田の2人だけ。残りはみんな800メートルは遅くても7、8分で滑れるだろうというレベルにまで達していた。

 滑ることができないと判定された俺たちは、ほかの8人とは別の場所に行くよう指示された。

 龍園の目付け役のような役割を負っている俺だが、龍園は滑れる組、俺は滑れない組なので強制的に分かれることになる。

 怪我の功名と言うべきか。

 

「……人が集まってるな。あそこか」

 

「多分そうだ」

 

 小田とともに歩いてそこに向かうと、目測60人ほどの生徒が集まっていた。

 男女比は女子が若干多いくらいか。おそらく全員俺たちと同様に滑れないと判断された生徒たちだろう。

 とりあえず俺たちも集まっている輪の中に加わる。

 

「左から1年生、2年生、3年生と順に並ぶように」

 

 教師からの指示が入る。

 その通りに一番左に行くと、同学年の見知った顔がちらほら見える。その中にはさく……愛理の姿もあった。

 愛理のほかにCクラスは……博士、山内、井の頭、松下。松下以外の4人はお世辞にも運動神経があまりいいとは言えないため予想のついたメンバーだが、松下もか。正直意外だ。

 少しして愛理が俺の到着に気づいたらしく、こちらに駆け寄ってくる。

 

「と、知幸くんも滑れなかったの……?」

 

「ああ。恥ずかしながらそう判断されてしまってな」

 

「そんな、恥ずかしいなんてことないよ。私も滑れなかったから……」

 

「……まあそれはそうなんだが」

 

 言葉の綾というやつである。

 俺が来たあと、一年生の並ぶ場所には追加で5人ほどの生徒が集まった。

 教師たちは何かを話し合って確認した後、一年生全体に聞こえるようにアナウンスを始めた。

 

「全員集まったので、話をはじめさせてもらう。今ここにいる君たちは全員、講師からまだスキルが滑る段階にないと判断された者だ。これから君たちには3人の講師からスキーの基礎を徹底的に学んでもらう。技術が向上し、滑っても問題ないと講師に判断された場合、この『基礎コース』を離れ、小グループ単位での練習を行う『演習コース』へ参加くることになる。また、この『基礎コース』では一学年あたり1人の講師がつく」

 

 余った3人の講師の役割はこれだったようだ。

 

「現在、お前たち以外の演習コースにいるメンバーは、本番同様のリレー形式でタイム計測を行っている」

 

「えっ、初日にもタイム計測をするんですか?」

 

「そうだ。だが計測は初日に限らず毎日行い、その結果を公表する。結果に一喜一憂することは望ましくないが、このほうが君たちのモチベーションも上がるだろうとの考えのもとに行っている」

 

 確かに。学校では中間テストや期末テストの結果を張り出すことがあるが、これは生徒のモチベーション向上を目的としていることが多い。それと同じようなことだ。

 

「また、不参加の君たちの分は自動的に10分がタイムとして計上される。最終日まで滑ることができなければかなりのハンデを背負うことになるだろう」

 

 話によればスキーによる退学処分はないらしいが、その分クラスポイントやプライベートポイントのペナルティは大きいと予測しておくべきだろう。

 

「大丈夫かな……」

 

 隣で話を聞いていた佐倉が不安そうにつぶやく。

 

「ついてるのはプロだからな。過剰に不安がることはない」

 

「そ、そうかな……」

 

「ああ」

 

 多分。という言葉は付け加えなかった。ここは佐倉を少しでも安心させるのが正解だ。

 

「残り1時間半ほど時間はある。ひとまずはここで解散とするので、戻りたい人は速やかに片づけて施設に戻るように。だが、担当学年の講師の方に監督を依頼して練習に励むのも構わない。自由にしたまえ」

 

 言い終わると、教師は前から立ち去って行った。

 さて生徒の側だが、今の話を聞いてさっさと施設に戻ろうとする人がいるだろうか。練習して滑れるようにならなければきついペナルティが課される。いまは何が何でも練習時間を確保したいはずだ。

 

「練習、しないといけないよね……」

「俺はしたいけど、先生の言う通り自由なんだから帰ってもいいと思うぞ」

「う、ううん、やるよ、練習!」

「なら、もうみんな講師のところに集まってるみたいだし行くか」

「うん」

 

 佐倉とともに、1年生担当のスキー講師のもとへ向かう。

 おそらく1年生全員いる。帰った奴はいないだろう。

 俺はすっと佐倉の隣を離れ、滑れる組がタイム計測をしている場所へ向かった。

 さっきの先生の話が約5分、移動時間が約3分だったから、まだリレーが始まっても序盤のはず……

 

「ちょうどスタートか」

 

 俺が現場に着いたのとほぼ同時に一番走者がスタートした。

 動きはぎこちないが、やはり滑れると判断されただけはある。みんな初心者にしてはそこそこのペースで滑っていた。

 そのまま最後の最後までレースを見守っていたのだが。

 合わせて3人、ずば抜けて速い生徒がいた。

 2人が男子で1人が女子。

 男子の1人は高円寺。おそらくこの3人の中でも高円寺が一番速い。

 ほか2人もかなりのものだ。間違いなく全員経験者だろう。速さもさることながら明らかに周りと動きが違う。

 

「……なるほど」

 

 これは素人が合宿期間中にあの3人に勝てるようになるのは絶対に不可能だな。

 

 まあ当たり前の話なんだけどな。素人が経験者に善戦するなんてアニメや漫画の世界でしかありえない。

 

 手も足も出なければ歯も立たず、コテンパンにやられて終了。現実はこうだ。

 

 俺が途中でいなくなったことに引っかかっていた佐倉には「トイレに行った帰りに腕時計をなくしたので探していた」と適当な嘘でごまかした。  

 

 

 

 

 

 6

 

 スキー、そしてその後の座禅を終えた俺たちは、夕食にありつく。

 この合宿中で唯一男女が時間を共有できるタイミング。俺たちは綾小路グループの6人で集まり、テーブルに座っていた。

 今日のメニューはニラ、もやし、ニンジンと豚肉の炒め物だ。それに適度に手を付けつつ、雑談に興じる。

 

「へえ、そんなことが……」

 

 俺は清隆と啓誠から、昨日のグループ決めのあとに起こった出来事について聞かされた。

 南雲会長の提案で大グループまで決まった後は自由時間で解散という流れだったが、唯一啓誠と清隆のグループだけ体育館に留まっていたのだ。

 理由はまだ責任者が決まっていなかったためだったのだが、その最中に興味深い事実が明かされた。

 その事実とは、卒業時に所持しているポイントは、若干低いレートで現金化されるというもの。

 高円寺はその事実をどこかで知り、それを利用してAクラスに上がる戦略を立てていたという。

 卒業間際になった3年生に声をかけ、そのポイントを受け取る。そして学校側で現金化されるよりも高いレートで、高円寺の卒業後に現金を譲渡する。

 普通ならこんな話を上級生は信じないだろうが、高円寺は、有名な「高円寺コンツェルン」の次期社長としてホームページに名前が載っている。数千万動かせるだけの力があることを示すことが可能だった。

 他の誰にも真似できない、高円寺だらかこそ打つことのできる手だ。

 

「え、でもさ、入学して最初に茶柱先生から受けた説明で、ポイントは現金化できないとか言われなかったっけ?」

 

「その点は俺も気になってたんだ。説明と違うって」

 

 波瑠加の指摘に啓誠も同意する。

 確かに茶柱先生からは、ポイントを貯めこんでも意味はない、という旨の説明を入学初日に受けた。

 しかし、正確には「現金化できない」とは言われていない。

 

「俺たちが言われたのは、『卒業時に学校側でポイントを全て回収する』だ。表現としてはポイントを貯めこんでも意味はない、みたいな言い方だったから、現金化できないと思い込まされたんだ。回収した後にそれに応じた現金を与える、ってルールが卒業間近の3年生にだけ明かされる予定だったんだろうな」

 

 俺の説明になるほど、と納得する面々。

 

「そういうの多いよな、この学校。説明の仕方が意地悪すぎんだろ」

 

 明人が不満そうに声を漏らす。

 

「まあ気持ちはわかるが、これに限って言えば1、2年生に現金化を見据えた勝負をしてほしくなかったってことだと思うぞ。3年の卒業間近に教えるのも、どうせ要らないからって後輩に大量のポイントを譲渡する生徒が出てくるのを防ぐためってのもあるだろうし」

 

 学校側が不親切な説明の仕方をするとき、ほとんどの場合そこには合理性がある。

 だからきっと、スキーの報酬の説明がないことにも合理性があるのだろう。

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