実力至上主義の学校にオリキャラを追加したらどうなるのか。   作:2100

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終わりを告げた日常Ⅱ

「たうあ!?」

 

 授業中、俺の背後から、突如としてへんてこな叫び声が聞こえてきた。

 

「どうした綾小路、私語か?」

 

「い、いえ、ちょっと目にゴミがですね……」

 

 何やってんだこいつ。

 そう思って後ろを振り返ったとき。

 俺は見てしまった。

 悲痛な表情で腕をさする綾小路。

 そして、自身の筆箱にコンパスをしまう堀北。

 

「……」

 

 俺はガタガタと震え上がりながら、授業を終える羽目になってしまった。

 

 

 

 

 

 1

 

 衝撃的な始まりで迎えた、皐月5月。そこから1週間ほどが経過したある日。

 茶柱先生の指摘以降、Dクラスの生活態度は劇的に改善していた。

 遅刻や無断欠席はない。授業中の私語も当然なくなり、全員が努めて真面目に授業を受けていた。

 悪態をついていた須藤も、なんだかんだで改善はしてきている。こいつに関しては授業中普通に寝てることがあるけどな。

 昼休み、昼食のために各々教室から出てこうとしていたところで、平田が立ち上がった。

 

「みんな、お昼ご飯の前にちょっといいかな」

 

 平田の一声で、クラス全員が手を止め、耳を傾ける。

 

「茶柱先生の言っていた中間テストが、今から2週間後に迫っている。そこで、先週の話し合いでも議題に上がった通り、僕たちで独自の勉強会を開こうと思うんだ」

 

 やっぱり、勉強会は話し合いで出た案の一つだったか。

 

「今日からテストの前日まで、平日は毎日夕方5時から7時まで2時間。この教室で勉強会を開くことになった。途中で帰ってもかまわない。でも、出来ることなら是非参加してほしい」

 

 その提案に、平田目当ての女子や、多くの赤点組がこぞって平田の元に駆け寄った。

有効な提案の上、話し合いで決まったことというのもあって、反対意見は出そうにない。参加人数もなかなかのものになりそうだ。

 ただ、十分とは言えない。

 一番参加しないといけないはずの須藤、池、山内の3人が参加に名乗りを上げていない。

 まずいだろこれは。あの3人の点数、まあ特に須藤だが、ちょっとやばかったぞ。

 自分で勉強するとも思えないし、何かしらのインセンティブ、或いは強制力を持って勉強させないと、現時点では3人とも退学濃厚だ。

 何か方法はないか、と考えるが、有効な手立ては思い浮かばない。

 

「あなたたち、お昼暇かしら?よければ一緒にどう?」

 

 そんな中、堀北がそんなことを言い出した。

 

「あなたたち、というのは、オレと速野のことか?」

 

「それ以外に誰がいるというの?」

 

 まあ、堀北が俺たち二人以外に話しかけるのを見たことがない、というのは確かにそうなんだが……

 

「急にどうしたんだ。怖いぞ」

 

「怖がる必要はないわ。山菜定食で良ければ奢らせてもらうけど」

 

「お前それ無料のやつだろ……速野曰くおいしくなかったらしいぞ」

 

 綾小路のセリフに、堀北が一瞬目を丸くする。

 

「あなた、あれを食べたの……?」

 

「興味本位だよ。……なんか文句あるか」

 

「別に文句はないわ。……あなたの守銭奴ぶりに、改めて呆れを覚えていただけよ」

 

「おい」

 

「話を元に戻すわ。さっきのは冗談よ。ちゃんと奢ってあげる。好きなものを食べて構わないわよ」

 

「……」

 

 そう言われても、これまでの堀北の行いからすると疑惑の目を向けざるを得ない。

 しかしその視線を躱して、堀北は言った。

 

「人の好意を素直に受け取れなくなったらおしまいよ?」

 

「まあ、確かに……」

 

 なんだかんだで丸め込まれ、綾小路は行く方針で固まったようだ。

 

「あなたはどうするの?」

 

「パスだ。裏がありそうだし、まあ仮にないとしても、弁当持ってるしな」

 

 俺には初めから、行くという選択肢を取ることは物理的に不可能だった。

 

「そう。残念ね。たまには少し高いもの、食べたくならない?」

 

「今日は随分食い下がるな、堀北。お前、一度断ったあとにもう一度同じように誘われること、不快に思ってたはずじゃないのか」

 

 先ほどの平田の件、しつこく誘われたことに対して堀北は強い不快感を示していた。

 

「……そう。ならいいわ」

 

 ようやく引き下がり、堀北は綾小路とともに食堂へ向かっていった。

 ……カッコつけて啖呵切ったはいいものの……本当はあの日の生姜焼き定食、改めてちゃんと食いたかったなー……なんて欲望も、あったりなかったり。

 

 

 

 

 

 2

 

 放課後を迎えた。

 この教室でやることはないので、早々に帰り支度を済ませる。

しかし教室を出ようとしたところで、出口付近で待ち伏せていたらしい堀北に声をかけられた。

 

「速野くん、少しいいかしら」

 

「今度はなんだ。昼といい今といい、ちょっと不自然だぞ」

 

「あなたは私の自然を知っているとでも言うのかしら?」

 

「一人が好きで、少なくとも放課後に待ち伏せしてまで誰かに話しかけるようなことはしない。違うのか?」

 

「気分が変わることもあるわ」

 

「やっぱり自然な状態じゃねえじゃんか……」

 

 俺に矛盾を突かれても、堀北はあっけらかんとしている。

 こんなやり取りはどうでもいいということらしい。

 

「で、要件は?」

 

「歩きながら話すわ」

 

 どうやらすぐに話すつもりはないらしい。歩きながら、となると、寮まで一緒に帰ることになりそうだ。

 こいつと帰宅すること自体は2回目だが、教室から、というのは初めてだ。

 俺と堀北の身長差は大体15センチほど。それだけ歩幅も違ってくる。俺は特に気にせず歩いているが、堀北も文句は言わずについてくるので、これからも配慮の必要はなさそうだ。

 学校から出て数分歩いたところで、堀北が言った。

 

「用件を言うわ」

 

「ああ、やっとか」

 

 続きの言葉を待つが、堀北は何か迷っているのか、少し間が生まれてしまう。

 だがそれも数秒の間で、決心したようだ。

 

「……今日の夜、私の部屋に来て」

 

ポク・ポク・ポク・チーン。

 

「……うん?」

 

「聞こえなかったかしら。今日の夜、私の部屋に来なさいと言ったのよ。夕飯、こしらえてあげるわ」

 

「……うん?」

 

「馬鹿なの?」

 

「いや言ってる意味は分かる。わからんのは行動の意味だ。俺を部屋に呼んで、飯を食わせてどうする。餌付けでもするつもりか?」

 

「餌付けしても私が迷惑なだけよ。それにさっき、あなたも聞いていたでしょう? 人の好意は素直に受け取るものよ。スペシャル定食を食べて、綾小路くんは美味しそうな顔をしていたわ。たまにはこういうこともやってみるものね」

 

「……」

 

 怪しすぎる。

 非常に怪しすぎる。

 

「……返事をする前に、ちょっと電話かけていいか」

 

「誰に?」

 

「他クラスのやつ、とだけ言っとく」

 

「……分かったわ。手短に済ませてもらえるかしら」

 

「ああ、そうする」

 

 ポケットから取り出し、俺の数少ない電話帳の中の……綾小路に電話をかけた。

 数コールして、綾小路が出る。

 

「もしもし?」

 

『どうしたんだ急に』

 

「お前今日の昼、堀北に飯奢ってもらってたよな。その後何された?」

 

「ちょっとあなた……!」

 

 何やら堀北がわめいているが気にしない。電話を掛けたらこっちのもんだ。

 

『なんかいま、そっちから堀北の声が聞こえた気がするんだが……』

 

「ん、ああ今隣にいるが……」

 

『……グッドラック、とだけ言っておく』

 

「は? なんだそ」

 

 れ、と言いかけたところで、綾小路は一方的に通話を切った。

 堀北が隣にいることが分かった瞬間、綾小路は会話を打ち切った。

 これはもう、堀北に何かされました、と言ってるようなもんだ。

 隣に立つ堀北に目を向ける。

 

「……他のクラスの生徒にかけるんじゃなかったの?」

 

「……綾小路にかけるって言ったら、お前無理やり止めてただろ」

 

「……」

 

「……で、もう1回聞く。俺を部屋に呼んで、飯を食わせてどうするつもりなんだ」

 

 改めて問うと、ついに堀北は観念したのか、ふっと息を吐いて口を開いた。

 

「単刀直入に言うわ。Aクラスに上がるのに協力して」

 

「Aクラスって……いきなり随分と大きいことを言い出したな」

 

 俺たちは、クラスポイントというシステムそのものを知ったばかりだ。まだその価値もいまいち見えてこない。

 しかし、Aクラスとの間に開いた940の差がとてつもなく大きいことくらいは分かる。

 Aクラスに上がる。言うのは簡単だが、とてつもなく壮大な目標だ。

 

「いきなりじゃないわ。自分がDクラスであるということがどういうことかを知ってから、ずっと考えていたことよ」

 

「……自分が最低の『不良品』だと言われるのが耐えられない?」

 

「ええ。当然」

 

 ……プライドの高そうなこいつらしいといえばらしいが……。

 

「Aクラスに上がるといっても……具体的にはどうするんだ」

 

 本当ならば、俺に飯を食わせ、退路を潰してから話すつもりであったはずの内容。

 それを聞かせてもらう。

 

「Dクラスの授業態度や生活態度は、当初に比べれば大きく改善しているわ。ポイントのマイナス要素は、ほとんど削ることができたと思って間違いない」

 

「まあ、そうだな……」

 

「けれど、それでは不十分よ。茶柱先生の言っていたように、授業態度を改善してマイナスを削っただけでは、プラスになることはない。そしてポイントをプラスにするためには、間違いなくこの中間テストが鍵になってくるはず」

 

「つまり中間テストを好成績でクリアすることで、クラスポイントが増加する、ってことか」

 

「ええ。恐らくね」

 

「なるほどな……」

 

「だから勉強会を開くという平田くんの選択は悪くない。けれど、大きな問題があるわ」

 

「前回の小テスト、下位3名の不参加か」

 

「ええ。赤点ラインを割った7人の中でも、池くん、山内くん、そして須藤くんの3人は飛びぬけて点数が悪かった。このまま何もしなければ、彼らの退学は避けられないでしょうね」

 

 俺が考えていたこととほぼ同じだ。

 

 ただ、こいつのこの言い回しは……

 

「……まるでお前が何かをする、みたいな言い方だが」

 

「察しがいいわね。あの下位3名を集めて、私が個人的に勉強会を開く。綾小路くんに頼んだのは、あの3人を勉強会に参加させることよ」

 

「……そういうことか」

 

 綾小路はあの3人と比較的関わりがある方だ。委託先としては、確かに間違ってはいない。

 

「それで、俺には何をさせるつもりだったんだ?」

 

「あなたには、私と一緒に彼らの講師役をしてもらう」

 

「いや、してもらうって……」

 

 まるでもうそうすることが既定路線みたいな言い方だ。俺は何をさせる「つもり」だったのか、って聞き方をしたはずなんですけど……

 

「断る、とは言わせないわよ。小テストで満点を獲得した、1位の速野くん?」

 

「……」

 

 なんて皮肉たっぷりな言い方だ……

 と思っていたが、次の瞬間、急に神妙な顔つきになる。

 

「……結果を見たとき、正直驚いたわ。最後の3問、あれほどの難易度の問題を、時間内に解ける人がいるとは思わなかった。あなたは圧倒的な学力を持っている。Aクラスに上がるためには、間違いなくあなたの学力が必要になる」

 

「……」

 

 急に素直だな。

 ……まあ、受けてもいいか。

 俺も元々、似たようなことやるつもりだったし……。

 いや、ただそれ以前に、だ。

 

「お前、そんなボランティアみたいなことする善良な人間だったのか」

 

「……それは喧嘩を売っているのかしら」

 

「ごめんなさい」

 

 生物としての防衛本能が働き、考えるよりも先に謝罪の言葉が口を突いて出た。

 

「一瞬でもあなたを認めるような発言をした私が馬鹿だったわ……」

 

 うんざりしたような溜息が漏れる。

 

「さっきも言ったでしょう。私の目的はAクラスに上がること。これはそのための一手に過ぎない。決して彼らのためなどではない、ということをよく覚えておいて」

 

「……ああ、そう。ならそういうことにしとく」

 

「気に食わない言い方だけれど……まあ、分かったならいいわ」

 

「ああ。勉強会を開くのはAクラスに上がるため。つまりはお前自身のためだ、ってことだろ」

 

「ええ、そうよ」

 

「なら、Aクラスに上がるのは何のためなんだ?」

 

「……」

 

 言葉に詰まる堀北。

 Aクラスに上がる、という目標を聞いてから、ずっと疑問に思っていたことだ。

 一人が好きで、他人に干渉されることを嫌うこいつが、進学や就職に関してだけは学校の世話になろうとするのだろうか。

 それはちょっと引っかかる。

 何か違う目的があるんじゃないか。

 いま言葉に詰まったのがその証拠だ。「特権を得るため」とすぐに言うことができなかった。

 

「……とにかく、あなたには彼らに勉強を教えてもらう。いいわね?」

 

 どうやら、答える気はないらしかった。

 まあ、確かにこんなの余計なお世話か。答えないことを責めるのはお門違いだろう。

 

「ああ、分かったよ」

 

 池、山内、須藤の講師役を、正式に引き受けた。

 ……まあ、綾小路が3人を参加させることができたら、の話だが。

 そう考えていると、堀北がポケットからおもむろに折りたたまれた紙を取り出し、俺に渡してきた。

 

「これ、私の連絡先。空メールを送っておいて」

 

「あ、ああ……了解」

 

 ……思いがけないタイミングで堀北の連絡先をゲットしてしまった。

 空メールを送れと言われたが……

 綾小路は昼飯をおごってもらったんだよな。

 なら、同じように頼みごとをされた俺にもその権利はあるはず。

 今から飯作ってもらう、って空気でもないし。

 ここは『明日の昼飯、学食の生姜焼き定食』と送っておいた。

 滅茶苦茶無視された。

 

 

 

 

 

 3

 

 

 風呂上り、コップ一杯の水をちょうど飲み干し、机に置いたときだった。

 

『♫ー』

 

 初期設定から変更されていない着メロが部屋に響く。

 ベッドの上で充電中だった端末をプラグから外し、画面を見ると、そこには「藤野麗那」の文字が表示されていた。

 そういえば最近連絡取ってなかったな、と思いつつ、電話に出る。

 

「もしもし」

 

『あ、速野くん、今大丈夫?』

 

「ああ。どうした。久しぶりだな」

 

『う、うん。その、Dクラス大変みたいだったから……』

 

 クラスのことを指摘されて思い出す。

 そういえば、藤野はAクラスだったな。

 気を遣われたってことか。

 

「大変といえば大変だな」

 

『速野くんは大丈夫?』

 

「おかげさまで」

 

 俺がここまで節約できた大きな要因は藤野のスーパーの件だ。あれを知らなかったら、俺はもう2,3万ポイント使う羽目になっていたかもしれない。

 

「Aクラスは流石だな。ノーヒントのまま減ったクラスポイントが60だけなんて」

 

 当たり前のことを当たり前に行える、というのは社会で生き残るために必要不可欠な能力だ。

 それでも60減っているということは、Aクラスの中でもそれができない奴が一部だがいた、という事なんだろうか。それとも何か別の要因があるのか。「人事考課」とやらでポイント増減の詳細が伏せられている以上、憶測の域を脱することはできない。

 

『う、うん。そうなんだけどね……』

 

 ところが、俺の羨望の声とは裏腹に、藤野の声は沈んでいた。

 

「……なんかあったのか?」

 

『……話、聞いてくれる? もしかしたら、誰かに話すだけで気が楽になることもあるかもしれないから……』

 

「……」

 

 心理的ストレスは発散しないと気が狂う。だから、一見ストレスがなさそうに、楽しく、優しく生きている人でも、見えないところでは様々な形でストレスを発散しているのかもしれない。

 藤野のように誰かに話したり。あとは日記をつけるのも一つの方法だ。

 だから話を聞いてやろうとは思うのだが、問題は、俺にその効果が期待できるかどうかだ。

 藤野が先に述べたような効果を欲しがっているなら、俺よりも寧ろ櫛田の方が適任だろう。

 藤野と櫛田はすでに結構仲いいみたいだし。

 

「櫛田に相談した方がいいと俺は思うぞ。親身になって聞いてくれるだろうし」

 

『うん、きっとそうだと思うけど、櫛田さん、普段からいろんな人の相談受けてて……あ、速野くんが暇そうだって言ってる訳じゃないよ? それに、誰かにこの事を相談したいって思った時に、はじめに思い浮かんだのは速野くんだったから……』

 

「……」

 

 どういうことだろうか。

 信頼度の点から言って、俺が櫛田に敵う要素なんて一つも存在しないはずなのに。

 藤野の感覚は俺にはよく分からないが、向こうから話を聞いてくれ、というなら断る理由はない。

 

「……聞くだけでもいいなら、いいぞ」

 

『ほんと? ありがとっ』

 

 電話口からでも分かる、安心したような声色。あまり過度な期待はして欲しくないな、と思いながら、俺は耳を傾けた。

 

『実は……クラス内がちょっと殺伐としてて……』

 

「……Aクラスが、か?」

 

 94000ポイントも貰っておいて、どうしてそんな状態になるのか。

 

『なんか、派閥争いっていうか』

 

「……政争かよ」

 

 少し戯けて突っ込みを入れてみたが、よくよく考えてみると、案外的外れな例えでもない気がした。

 茶柱先生の言う通りなら、Aクラスは、この学校でも最優秀の生徒が集中しているクラス。優秀な者同士、意見や考え方がぶつかれば、そういうこともあるのかもしれない。

 そして恐らくそれは、ただの高校生のくだらない内輪揉め、といった具合で済むものではないんだろう。

 

『それで、クラスが二分されちゃってて……今までそんな隔たりとか関係なく、両方の人と仲良くしてきたけど、どっちつかずって言われちゃったらそれまでだし、そもそもこの立ち位置にいられるのも時間の問題で……』

 

「ふーん……」

 

 両方の側の人間と仲良くできている、ということは、派閥争いが起こる前から、藤野はAクラスメンバーのほとんどと良好な関係を築いていたということか。

 派閥争いの様相は全く見えてこないが、藤野を引き入れようと両方の派閥が取り合いになる構図は想像に難くなかった。

 

「悩み相談なんて初めてだからよく分からんが、ここで俺が何か言っても、無責任なことにならないか?」

 

『そんな訳ないよ。相談したのは私だから……何か思いついた、ってこと?』

 

 藤野は俺の発言をそう捉えたらしく、期待のこもった声で聞いてくる。

 

「いや、特には……取り敢えず選択肢は、頑張って中立公平を保つか、どちらかの派閥につくか……どっちかにつくにしても、その判断基準が何なのかで話は変わってくるな……自分に合った考えの側か、優秀だと思った側か、決めきれないなら、神様の言う通りにしてみるのも一つの手だ」

 

 といっても、ここまでは藤野にも分かっているだろう。それが解決できないから相談しているわけだしな。

 ここで一つ、考えてみる。

 俺が知る限りの、藤野麗那という女子生徒について。

 

「藤野。突飛な発想だが……」

 

『うん、何でも聞かせて』

 

 コミュニケーション能力は櫛田並み。普段の様子を見る限り、Aクラスでは相当な信頼と人気を誇っている。そのことを加味した上で、俺は第三の選択肢を藤野に告げた。

 もちろん、これもきっと藤野の中ではすでに思いついていたことだろう。

 だが、藤野からは中々返事が返ってこない。

 

「……やっぱりぶっ飛びすぎだよな。悪い、今のは忘れてくれ」

 

『……ううん、なんか話しててすごいスッキリした。ありがとね、真剣に考えてくれて』

 

 そう言う藤野の声には、言葉通り、さっきまでの不安そうな色は薄まっているように感じた。

 

「いや、別にいい。また悩み事があったら誰かに吐き出せよ。溜めこむと、ストレスにもなると思うし」

 

『うん。じゃあその時は速野くんに相談するね』

 

「……お手柔らかにな」

 

 そう答えると、電話口からクスッと藤野が微笑した音が聞こえた。

 

『本当にありがとう。おやすみ、速野くん』

 

「ああ、おやすみ」

 

 お互いにそう言い、俺は画面の通話終了ボタンを押した。

 藤野は冗談めかしていたが、Aクラスの悩み事はハイレベルそうだから、本気で勘弁してほしい。

 それに対し、まずは中間テストを乗り切らなければ、というのが悩みであるDクラスの方が、格段にやりやすく思えてきた。

 ……寝るか。

 

 

 




次回更新は11月18日15時です!
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