トレーニングに関して、何か特別なことは無かった。
教科書通り、お手本通りに基礎を突き詰めつつ、しかしそれを徐々に彼女に合わせて変化させ、フィットさせて行くような、試行錯誤の繰り返し。
気がつけばメイセイオペラ自身も驚くほどに体力も筋力も、そして自信もついていた。
いつしかトレーナーはメイセイオペラを愛称で呼ぶようにもなった。
「わたしはね、オペラ、先人達の残したトレーニングやその方法は必ず意味があると思う。たとえそれが何も無かったから生まれたような苦し紛れの代用策だったとしてもね。それはそれで、これからそうならないための立派な教訓になる」
成功からも失敗からも学ぶ。
それが、メイセイオペラのトレーナーが彼女に求めた全てだった。
言うは易し、行うは難し。
元々本格化を迎える前の基礎の基礎をやるのだ。
普通なら飽きてサボるようになったり、逆に無理をして負荷を増やすトレーニングをしたがるものだが、メイセイオペラは忠実に実直にそして愚直にそれをこなしていた。
その『不安』が頭をよぎるまでは。
ある放課後ことだ。
「なんでそったらけっぱるの?」
きっかけはそうなんとなしに同級生に聞かれたことだった。
メイセイオペラには分からなかった。
質問の意味はわかる。しかしその意図するところは分からなかった。
小柄な自分に対する見下しからくるからかいか、或いは本当に気になっただけかもしれない。
がんばったところでどうせ中央には行けない。
仮に運良く行けたとしても、再び地方に逃げ戻ってくる連中は後をたたない。
そんな話は少なからず彼女も聞いたことがあったし、此処のみならず、地方のレベルが軒並み中央と比べものにならないくらいに遅れているというのも他ならぬこの盛岡トレセン学園で習ったことだ。
「勝ぢでから」
メイセイオペラは短く答えた。
同級生も「そうがい」と短く返すと、そのままトレーニングに向かって行った。
教室を出て体操服に着替え、グラウンドに行くといつも通りにトレーナーが待っていた。
「トレーナーさん」
「オペラ、どうした?」
メイセイオペラは聞きたかった。
別にトレーナーにチクるとかでは無い。
もっと他に聞きたいことがあった。
「おらは、ほんに強ぐなれでらのだべが?」
「もちろん」
不安に反し、トレーナーは即答した。そして
「君は、中央のG1でだって勝てるウマ娘だ」
と続ける。
「そんじゃ…」
もっと効果的なトレーニングを…
メイセイオペラがそう言おうとした時
「だからこそ体が出来ていない今、無理をすれば却って選手生命を縮めてしまいかねない」
それ故に、今は基礎をと、彼女のトレーナーはそう言った。
しばしの沈黙。
それを破ったのは他ならぬメイセイオペラだった。
「すまねぁー。焦ってらったようだ」
「気にしないでいい。むしろ安心したよ」
その言葉を聞いてメイセイオペラは首を傾げる。
「君もまた、周りを何する一人の女の子なんだってね」
その言葉を聞いたメイセイオペラは真っ赤になったが、それがどんなものだったのか、その時はまだ分からなかった。
焼き芋が美味しいんだ。