ここはトレセン学園、生徒会室。
この日、ここには一人の来客があった。
「よう、会長殿」
その来客とはアブクマポーロ。
ダート界に於ける期待の新星と目されるほどの傑物。
最初こそ平凡な滑り出しであったものの、初の重賞大井記念では二着に六バ身という大差をつけ、東海で行われたG2ウインターステークスを一着で制し、帝王賞も目前と評される実力者だ。
体躯こそスラリとしているものの、腰まである鹿毛に獅子を思わせる力強い眼差し。
かと言って無闇に威圧を振り回しているわけでも無い。
彼女曰く、そう言ったものは無闇に振り回すものでは無く、刀のように普段はしまっておいて必要な時だけ抜き放てばいいものらしい。
野性味あふれる出立ちに反し、彼女はどこまでも知的で冷静だ。
「おや、珍しいじゃないかアブクマポーロ」
「カカッ。なに、アンタが何度もフラれた相手がいるって聞いてな」
アブクマポーロは冗談めかして言う。
かの『皇帝』直々の引き抜きに首を縦に振らなんだウマ娘に興味があったのだ。
なにせ、彼女もまたその『皇帝』の呼びかけに否と首を横に振った一人なのだから。
「まあね。地方ウマ娘の未来の総大将殿にそう言われると、どんな顔をすればいいか分からないが」
そう言うシンボリルドルフは困ったような笑顔を向ける。
「カカッ、それこそ買い被りさね。おれはおれに出来ることをしてるってだけさ。その舞台として地方の方が肌に合うってだけでね」
アブクマポーロに言わせれば、地方の連中は卑屈に過ぎる。
そりゃあ相対的な盛り上がりだったり、或いは純粋に芝を走りたいのならば中央は向いてるんだろうが、ことダートに限って言えばどちらかと言えば地方に軍配が上がるのだ。
もっと自信を持ってくれていいし、持ってくれないと困る。
そうでなくば張り合いが無い。というのは身勝手ではあるが、しかしライバルが少ない競技ほど興の冷めるものも無いのは事実。
無論、全くの絶無では無いのだが。地方レースを、ひいてはダート界隈を盛り上げるという点において、そここそは彼女の数少ない不満点でもあった。
だからこそ、自身と同じ選択をしたホネのあるウマ娘がいたことが嬉しかったし、出来れば本人に会うより先に、彼女に直接接触したシンボリルドルフから直接その所感を聞きたかった。
「で、どうなんだ?そのーー」
「メイセイオペラか?」
「そう。どんなもんだ?」
会長席に腰掛けるシンボリルドルフに歩み寄り、ズイッと顔を近づけるアブクマポーロ。
「フフッ」
それに触発されてか、シンボリルドルフは笑みをこぼした。
「うん?」
「ああ、いや、気を悪くしたのなら謝るよ。ただーー」
そう、勿体ぶるように言葉を溜めるシンボリルドルフにアブクマポーロは首を傾げる。
「ただ?」
「この二、三年はダートの話題で盛り上がりそうだと思ってね」
その言葉を聞いて、アブクマポーロは目を細め、再び問いかける。
「ほう?その心は?」
「キミと、君と並び立つ者のレースに皆が心躍らせるだろうと、そう思ったまでさ」
それは、紛れもない本心だろう。
「ヘェ」
その短い一言に、少なからぬ闘志が宿ったのを、かの『皇帝』は見逃さなかった。
さて、どうなるのでしょうねぇ?