『第二のオグリキャップ』
その言葉に、ダートコースに集まったウマ娘達はざわめく。
オグリキャップ。
その名は日本に知らない者はほぼいないほどに轟いており、こと競技者や関係者ではまさに知らない者は無い程の有名人だ。
また同時に、地方ウマ娘達の希望であり憧れそのもの。
『芦毛のウマ娘は走らない』とまで言われていた時代、地方レースでの活躍ぶりを評価され、かの『皇帝』シンボリルドルフ直々に赴いたオファーに応え、鳴り物入りで中央入りを果たした末に、スター街道を駆け上がり瞬く間に一時代を築いたまごうことなき『怪物』。
しかし、光があれば影もまた色濃くなるもの。
彼女の存在に続けと中央の門扉を叩いたウマ娘も少なからずいたが、長らく彼女に続く地方ウマ娘が現れていないのもまた事実だった。
だが、それがどうしたと言わんばかりに段上のウマ娘は続ける。
「確かに…地方にゃぁ課題も多いさ。
中央に比べりゃ貧相な設備で、お粗末な環境で。
レースをやったって、中央が大々的にやってる芝のG1やらに比べりゃぁ、ろくすっぽ客も入らねぇ。
それでも、憧れの中央は文字通り雲の上で…よしんば行けたって、出戻りする連中も後をたたねぇ…。だがオメェらよぉ…ホントにいいのか!?それでよォ!?」
そのウマ娘は最初の静けさが嘘のように感情的に声を荒げる。
何人かのウマ娘達がビクッと反応するが、そんな彼女らでさえ朝礼台の上の眼鏡のウマ娘から目が離せない。
「おれ達地方のウマ娘は!!今!!中央連中に完っっっ全にナメられてんだぞ!?」
その声は、本気で怒っていた。本気で悔しがっていた。そして…
本気で勝ちたがっていた。
「弱ぇままでいいのか!?
どうせ勝てねぇだろうって鼻で笑われたまんまでいいのか!?
芝で勝てねぇ?だったら何だってんだ!!
ダートレースはおれの庭だ!!おれ達の世界だ!!
ならよ…おれ達の得意のダートで…お高く止まってる連中の鼻ぁ明かしてやろうじゃねぇかよ!!」
眼鏡越しにもわかるほど、爛々と野心に輝く瞳。
かの『皇帝』が是非中央にと欲したその力強さは今なお失われず、どころかより色濃く雄弁に、そして鮮明に宿していた。
そして、壇上の名も知らぬウマ娘の覇気に触発されたようにひとりのウマ娘がぽつりと声を上げる。
「トレーナー…私、やりたい。やってみたい」
「え?」
普段はそんなことを言わない子なだけに、戸惑うトレーナー。
「どう足掻いても負けるんなら、せめて挑んで敗れたい。でなきゃ…」
そのウマ娘は俯いた顔を上げ、トレーナーを真っ直ぐ見つめる。
「自分が納得出来ない」
ダートコースを、沈黙が支配する。
しかし、この場にいるウマ娘達の総意は、もはや固まっているも同然だった。
「カッカ。そうこなくっちゃなぁ…」
その時確かに、歴史が動いていた。
少しずつ、しかし確実に。
「メイセイオペラ」
「えっ…はいっ!?」
いきなり名を呼ばれ、メイセイオペラはピクリと反応する。
「ちょっとこっち来い」
そう呼ばれてチョイチョイ、と手招きされるや、何が何やらと困惑した様子でメイセイオペラは壇上に上がり、恐る恐る生徒達の前に出る。
「コイツはおれがいま一番に目にかけてるウマ娘だ」
「へ?」
がっし、と肩を組まれるもメイセイオペラは困惑の表情を浮かべる。
「これからコイツに勝って見せろ。全力でな…」
「へ?」
ワイワイと、いつに無く活気に満ちたダートコースを、ウマ娘達は疾駆する。
そして…
「ゼェ…ゼェ…」
「クッソ…強い…」
どうにかこうにかメイセイオペラは逃げ切り、その実力を確かなものとして地方ウマ娘達に見せつけた。
「カッカ。なぁんだよ、やっぱやればできるじゃねぇか」
その様子を満足そうに眺めるのは地方ウマ娘達を焚き付けることに成功を確信したからか、うんうんと頷くメガネのウマ娘…アブクマポーロだった。
アブクマポーロ、メイセイオペラ、この二名はきて欲しいところさんですね。