マンハッタンカフェとのお話 作:不敬であるぞ……ウララちゃんは別だ
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前回よりも読みやすくなってるはずです。たぶん
その前回とは時系列的にあとの話ですが、読まなくても問題ありません。前話読んで「こんなクソ小説読めねぇよカス!」と思った方はこっち見て♥
「それで、今日はどこに行きたいの?」
他の店に比べ先んじて開店していた喫茶店で朝食を取っているさなか、カフェにそう問いかける。
彼女が休日のお出かけ先として指定したのは、トレセン学園最寄りの駅から二十分ほどでたどり着く超大型の複合ショッピングモール。基本的な服飾店や家具店、飲食店はもちろんのこと、映画館や遊園地すらも揃っている、トレセン学園とはまた違ったスケールの大きさを誇る場所だ。当然敷地面積も恐ろしく広いので、予め行動方針を決めておかねば歩いて回るだけで日が暮れてしまう。
「はい……私のコーヒー以外の趣味は、もちろん知っていますよね?」
「もちろん」
カフェの趣味は登山、良い子のみんなは当然知っているよね。だが、自分が担当トレーナーとなってからはトレーニングや「お友だち」を追いかけるのに忙しくて満足に山に登れなかったらしい。
「ですので、久しぶりに登山をするための準備と……トレーナーさんの装備を見繕いに」
「俺の?」
てっきり一人で登山に行くものだと思っていたから、素っ頓狂な声が出た。カフェ曰く「三年間も我慢したのだから、トレーナーさんも責任をとって付き合って欲しい」とのこと。
「お誘いは嬉しいが……登山なんて未経験だぞ?」
「大丈夫です。初心者向けの山ならそう険しいものではないですし……私が一から十までお付き合いします」
微笑むカフェは本当に可愛い……だがしかし、年長者として頼りきりになってしまうのもどうかという思いもある。
……悩むくらいなら聞いてしまえば良いか。今更遠慮し合う仲でも無いのだから。
「うーん……経験者に付き合ってもらえるのはありがたいが、カフェは迷惑じゃないか?」
「迷惑だなんて……」
コーヒーを一口のみ、カフェは饒舌に続ける。
「大自然に囲まれた景色、気持ちが良い疲労感、登頂した達成感、山頂の絶景、それを眺めながら飲むコーヒー……私の好きなものを、大好きなトレーナーさんと共有したい…………ダメでしょうか?」
正面から真っ直ぐと、満月のような目に見つめられる。カフェの純粋な本心と、上目遣いも組み合わさって、これは──
「ズルすぎる……どこで覚えたんだそんな殺し文句」
「ふふっ、ナイショです……」
「わかった、お願いするよ。また暫くは忙しくなるかもしれないが、どこかで必ず休みを合わせる」
「はい……!」
俺の愛バは今日も絶好調のようだ。
「ここです」
カフェに連れられて来たのはアウトドアやスポーツ用品が立ち並ぶ専門店エリアの一角。店内にはキャンプ用かと思われるテントやグリルセットが所狭しと並び、「今年のトレンド!」と目立つポップの元にはオシャレな服装をした黒マネキンが並ぶ。
「おぉ……」
普段の生活では決して見ることの無いようなものが並んでおり、年甲斐もなくワクワクとしてくる。とはいえ一応は年長者、カフェや周りの目もあるので自重する。
「このお店なら一通り揃えられると聞いたので……パッと見た感じ少し値は張りますが、品質も良いものです」
スキーのストックのようなもの──トレッキングポールと言うらしい──を手に取って眺めているカフェの口角は、微妙につり上がり、その尻尾はパタパタとはためいている。どうやらテンションが上がっているのは自分だけでは無いようだ。
広い店内を回り、時に質問を交えながらも必要なものを購入して行く。
「登山は普通の運動靴じゃだめなのか?」
「山道は舗装されてない道が多いので、こういったシューズの方が滑りにく疲れにくいんです……」
「ベースにミドルにアウター……結構着込むんだな」
「山は天候や環境変わりやすいですから。寒くなったら着る、暑くなったら脱ぐ、体温調節にはそういったシンプルな対策が1番効果的です……それに、コーデの幅が広いのでセンスの見せどころでもあります」
「うっ、カフェに見劣りしないようにとなると中々に難しいな」
「安心してください、私がトレーナーさんをカッコよく仕立ててあげます……」
「テレビとかで見るよりも随分と小さいテントのように見えるが……」
「キャンプ用と違って携行性を重視していますし、山中は風や雨が強いですから。まあ、見繕ってる山はキャンプ場が無いので……残念ですが、また次の機会に」
「結構買ったな」
「はい……「あの子」が言ってた通り、あの店は当たりでした」
そんなこんなで、ウェア上下一式にシューズ、リュックサックやカラトリー等の装備品から、携帯食にカセットガスなどの消耗品を買い揃えれば、結構な荷物と金額になった。幸い荷物は配送サービスがあるようなので、カフェの分も含めトレーナー寮宛に送って貰うことにした。
「私の分まで出していただき、ありがとうございます……」
「まあまあ、カフェには色々と教えて貰う立場だからな」
カフェは折半しようと提案されたのだが、殆どは自分用の装備だったので全額出させてもらった。実際、トレーナーはかなりの高給取り、特に金のかかる趣味も無かったのでこの程度の買い物では貯金は揺るがない。
「さっ、次はどこを見て回ろうか。どこにだって付き合うよ」
カフェの手を引いて話題を流す。せっかくの休日、申し訳なさそうな顔よりも楽しげに笑った顔の方が絶対に良いのだから。
「でしたら……映画館とか、どうでしょう」
「いいね、何か見たい映画でも?」
「うーん……この『溶岩シャークVS芦毛のウマ子さん2』とか気になりませんか?」
「えぇ……」
既に日はどっぷりと落ち、頼りない街灯が照らす公園のベンチでのんびりと談笑する。昔から夜は好きだったが、こうしてカフェと出会ってからはより一層心地よくなった。
「……結構面白かったですよね、あの映画」
「あぁ、名前からは想像もつかない内容でびっくりしたが、ラストは感動したな」
確か、ふざけた名前とは裏腹に非常に手の込んだ感動系ラブロマンスだった……内容も面白かっただけにB級映画みたいな名前で損してなかろうか。
「そういえば……次のおやすみはいつ取れそうですか?」
「ん、ちょっと待ってくれ」
スマホのスケジュール帳を確認すると……前後に休みを取ることを考えると、ちょうど来月の末あたりに休みが取れそうだ。
「来月の末なら三日ほど、まとまった休みを取れそうだ」
「わかりました……登山のレクチャーはまた今度ですね」
「ああ……山でバテないよう、俺もトレーニングしておくか」
何気なしにそう呟くと、カフェがこっちをじっと見てくる……気の所為か非難がましい視線を含んでいる気がする。
「何か変なことを言ったか?」
「一人で山に、絶対に行かないでくださいね」
もしや、また何時ぞやのように「何か」がいるのだろうか。
「もちろん一人では行かないが──何か問題でもあるのか?」
「いえ、その……この先、トレーナーさんが初めて山を登ったことを思い出す時……その思い出に私が居たいんです。私と、二人だけの、思い出を……」
言っている内に言葉尻が萎み、最後の方は蚊の鳴き声のようになってしまった。同時に、その俯いた横顔は雪に落ちた紅葉のように、紅く染まっている。
「……今のは、ナシです」
そんなことを言われて今更無しになんてできる訳が無い。頬に手を添え、そっとこちらを向いてもらう。
「……俺も、初めての思い出にはカフェがいて欲しい」
俺だって、カフェとの思い出は山ほど作りたい。中々に気恥しいが……朝の仕返しのつもりで、彼女の顔を真っ直ぐと見据えてハッキリ言い切る。
「それに、可愛い愛バの頼みは全部叶えてあげたい」
「……反則です」
直ぐに顔を逸らされてしまったが、その表情はレースに勝った時の喜びの顔とも、二人でマッタリと過ごしている時の優しい顔とも違う。ちらりと見えた表情について言及はしない。しないが、あえて言うなら
──カフェさ、そんな顔すんの……反則
カフェに登山のイロハを手取り足取り教えてもらいたいだけの人生でした……
←この辺に偶然通りかかったアグネスデジタル