詰め   作:kab3

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4. オレはオマエのお兄ちゃんじゃないけど

 

 

 

 

 

 

 今の今まで、思えば兄は家に人を呼ばなかった。唯一許されていたのは小さい頃の乾さんちくらいで、それですら事実家の中に入ったのは青宗と赤音だけだ。勝手に入って来ることはないし、勝手に居ることもないし。

 ちゃんといたらしい友達と会うのは家の外で、家まで迎えに来るようなヤツもいなかった。そもそも、しっかり蓮の家を把握しているのなんかお隣さんと、お隣さんの家を知っていて蓮がお隣さんのお隣に住んでいることを聞いているヤツしかいなかったんじゃないかなと思う。誰かと遊ぶ時は公園が大体だった。

 兄の友達を、蓮はひとりも知らなかった。

 

「わ、なんかヘンな感じ」

 

 人が多い。兄ちゃんと、最近はその兄ちゃんで過ごしていた日々にいきなり二人も人が増えるとずいぶん熱量が増えた気がする。親は家まで帰ってこないし、会うのも大概外で、この日帰るんだけど食事くらいどう? と誘われる時くらい。家の中に自分除いて四人も人がいるのなんて、蓮は初めてだった。

 

「レン、オレんこと覚えてるか」

「イザナ、覚えてるよ」

 

 今は初めてのことにはしゃいでいるようなもの。くふくふ笑って機嫌の良さそうな蓮にイザナは少し安心した。気が気でないのは竜胆だ。だって、前の男が自分の弟に復縁したいって言おうとしてる。

 

「酷いこと言った。家族じゃねぇとか、言った。ごめん」

 

 想像よりもずっとまともに謝ったイザナに蘭はパチクリと瞬きをして、下手なことを口走らないよう手のひらで自分の口を押さえた。口角が上がってしまっているのがわかる。

 

「……なんのこと? そんなことオレ言われたっけ。トーゼンじゃんイザナは兄ちゃんじゃないのに」

「オマエは……そうか、覚えてねーのかもしんねーけど。それでも、オレは言ったから」

「ふぅん、それで? それだけ?」

 

 チットも崩れない蓮の顔が逆に恐ろしくなってきた。今は兄に向ける用の笑顔じゃない。

 

「オレはさ、オマエの兄ちゃんになれるか?」

 

 それ、竜胆と鶴蝶の前でよく言えたな、と蘭は思った。今のところ竜胆が蘭の弟から外れそうにはなく、蘭の地位が脅かされる心配がないので蘭は冷静になれていた。

 鶴蝶の方は“下僕”であることに特段の不満も不思議も感じていないようだが、先にそうなるべきは鶴蝶の方じゃないカナ、と思うのだ。本人たちはそれでいいと思っているのか知らないが、思っているというのは思い込んでいるというのか、思い込ませているというのか。

 ふと目線をズラすと、竜胆は黙ったままだ。黙ったまま、口をつぐんで、自分の拳を握っている。目は蓮に向いたまま。でも蓮はイザナを見ている。

 

「んー? ……なんで? イザナはリンじゃないじゃん」

 

 オレの兄ちゃんはリンだけだよ、といつもの笑顔で竜胆を見た蓮に竜胆は綻んだ。蘭も手のひらの下で微笑んだ。結局のところ蘭は弟が幸せならそれで良いのだ。

 

「そ、か。ダメか」

「ウン。ダメ。でもなんでイザナいるの? 兄ちゃんのトモダチ?」

「あー……」

「……ダチ?」

「ウン。竜胆と蘭はオレのダチ」

「エッ」

「わ」

「ほぇー、兄ちゃんのトモダチとかオレ見んの初めてだワ」

「オレ、チーム作ってんの。レンも来る?」

「えーと、そーいうのは兄ちゃんを通してクダサイ」

「エラいぞ、こーいうんはそうやって断れ、な」

 

 満足そうに竜胆が頷く。面倒そうな勧誘を受けた時のための講座は無事身に付いているようで。

 

「蓮も入れんの?」

「嘘なんかつくかよ」

「え、兄ちゃんもいんの?」

「いるよ」

「……いるけどさぁ」

「そっかぁちょっと迷うな……そこの人も?」

「鶴蝶? 鶴蝶もね、いるよ。強いし」

「カクチョー?」

「鶴蝶はレンの兄ちゃんより強いぜ」

「そういうこと言うなって!」

「鶴蝶の前じゃオマエらなんかザコもザコ」

「はー??」

「言ったな?」

「イザナ、あまりそんなこと」

「へー、強いんだ。いちおう聞くけど喧嘩?」

「ケンカ」

「背も高いもんね」

「そ、そうか?」

「オマエが低いんじゃね」

「は? 蓮はこれがベストサイズなんですぅ」

「イザナも変わんねーじゃん」

「ヤクルト飲んだらやっぱり背高くなんのかな」

「おい蘭覚えとけよ」

「そーじゃね?」

「ヤベ」

「マジ? オレ毎日飲むわオレの分残ってっよね?」

「残ってる残ってる」

「明日の分も明後日の分もあるわ」

 

 冷蔵庫まで蓮は走った。幸い階下が足音で文句を言って来るような造りではない。しばらく静かになって、冷蔵庫の扉が開く音がして

 

「ウソつくなよ、明後日の分ないけど!」

「アレ」

「1日何本計算?」

「2本だわ!」

「1本だろフツー」

「は? カクチョーくん2本飲んでんだから2本が一番のびるってことだろ?」

「はー、なるほどね?」

「明後日の分買いに行かなきゃじゃん!」

「え、わりぃ、飲んじまった」

「素直か」

「オレが育てたんだ」

「それでこんなんなる?」

「いいってカクチョーくん。兄ちゃんが出したんだろ?」

「竜胆な」

「や、だってアレは出すっしょ」

「出す出す」

「出せ出せ」

「アレで出さねーのは人間の心持ってねーな」

「オレは人の心あるからな」

「オレにないみたいに言ったな」

「被害妄想じゃん?」

「ないだろ」

「あっ!」

「へぇ」

「……ふーん?」

 

「仲、いいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蓮は兄の友達に会ったことがなかった。家に兄と自分の友達以外を入れることもなかった。

 兄は蓮のことをいつでも見ていてくれて、兄がその兄以外と楽しげにしている姿も見ることはなかった。自分の友達なら言わずもがな、兄は蓮といるときは蓮をひたすらに優先した。

 なんとも言えない不快感。単純も単純に書き変えれば嫉妬心。兄が自分を見ていてくれればそれだけで幸せな蓮にとっては初めての感情だった。

 

 楽しそうな兄とその兄それからイザナをボヤけた視界にいれて、こちらを伺ってオロオロしている鶴蝶くんに近づいた。

 どうすればいいのかがわからない。腹が立つ。寂しい。気持ち悪い。でもこんなの面倒だろうし。胸の奥の柔かいところがキュウっと断末魔を上げそうな心地さえして、ともすれば兄より大きな背丈の鶴蝶くんに抱きついた。

 

「え」

「あ゛?」

「は?」

「わぁ」

 

 そろそろと背にまわされた手はあたたかい上に優しかった。

 

「オ゛レ、カクチョーぐんと家出ずる」

「は、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カクチョーのひとつ上。兄よりは低い背丈。実際イザナと並んでみれば2セン3センくらい小さいカモ大きい……カモ?

 

カクチョー

マジかわいい。かわいいはオマエのためにあったと言っても過言ではないどころかかわいいが有り余って周りまでかわいく見えるまである。かわいいしかない。かわいい枠のトップ張れる。末っ子はオマエの指定席だがオマエも兄になるんだよっ!

 

オマエの弟はオマエらに大事にされて育ったんだから嫉妬耐性あるわけないだろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鶴蝶は焦っていた。今日というかついさっき会ったばかりの人間(しかも王様の弟)に手を引かれているのも、それがグズグズ鼻を鳴らしているのも、なんで急に家出なんかしようと思ったのかも、なんでよりにもよって自分を連れて家出しようとしたのかも、尻ポケットで通知をうるさく訴える携帯も訳がわからなかった。電話かメールかわからないが返事をしなければ絶対面倒なことになるのに、目の前の小さな人間は「オレがいるのに携帯触るの?」とでも言いそうな雰囲気を纏っている。

 

「……どこ行くんだ?」

「グズッ……」

「……」

 

 会話も続かない。灰谷の弟なのに情けない面を隠さないしチットも泣き止まない。

 秋晴れの空を見上げて少しだけ嘆いた。

 前を歩くレンをみれば、レンの泣き顔を見て兄たちが処理落ちした隙に家を飛び出したから着の身着のままで、秋も中頃に差し掛かった今では少し寒そうな気はした。対して鶴蝶は荷物を全部手元に置いていたから、突然引っ張られた時にも咄嗟に全部持って出ることができた。それだけが唯一の幸いかもしれない。

 

「レン」

「……なに゛」

 

 目元を赤く腫らしたレンが鶴蝶を見上げる。手に持っていた上着を上にかぶせて、頭を撫でた。そもそも丈が長めのだったので、オーバーサイズにも程があるが、まぁ、引きずりはしてない。大丈夫だ。

 

「アテあんのか?」

「……ウン」

「ならいい」

 

 手のひらを差し出せば、レンはそれを握ってまた進み始めた。

 

「ゔぇッ……カクチョーくんやざじい」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「蓮!?」

「え、キキ?」

「蓮なの?」

「セーくん……泊めてくんない」

 

 とうに日は沈み、鶴蝶も肌寒さを感じ始めた頃、通知に忙しく働いていた鶴蝶の携帯はもう充電が切れ、〝乾〟の表札が掲げられた家の扉を蓮は叩いた。セーくん、レン、キキと気やすげで、アテがしっかりアテになったことに安心した。

 

「……喧嘩屋!? なんで」

 

 黒髪は鶴蝶のことを知っているみたいだった。不良ってことか。家の場所的に、多分東卍か黒龍。お呼びじゃなさそうだし、連れてこられただけでもあるから、鶴蝶としてはもう帰ってもよかった。

 

「セーくん、カクチョーくんも泊まっていい?」

「いいぞ」

「どーぞ入って」

「エッ」

「え?」

「メシは」

「食べてない」

「手洗ってきなよ」

「アーちゃんのオムライスがいいな」

「冷やご飯あったかな」

「え、オレも食べたい」

「えー、ハジメくんも?」

「オレカップ麺」

「キミたちご飯食べたよね?」

「今日おばさんとおじさんは?」

「出張……と旅行」

「わ、ゴメン邪魔した?」

「そんなことないヨ」

「カクチョー? は? 食べれないのあるか?」

「や、えと、ないです」

 

 それがどうしてか、アレよアレよと言う間に暖かい室内に招き入れられ、手を洗い、食卓を囲んでいる。何故だかわからないが、そうなっているのだからそういうことだ。

 

「どう?」

「おいしーよ」

「おいしいデス」

「赤音さんの飯が美味しくねーとかあり得ねーもんな!」

「レン、ひとくち」

「あー」

「ん、いつも通りだ」

「青宗もちょっとはハジメくん見習いなよ」

「ココはやりすぎだろ」

「そんなんだから彼女できないんだゾ」

「うるせぇ、オレはいーの」

「紹介する?」

「できんの?」

「んなわけ」

「セーくん」

「なに」

「今日一緒に寝よ」

「……ウン」

「あ、ココは」

「ベッドたんねーから赤音の部屋な」

「エッ」

「ウソ!」

「カクチョーくん寝る場所無くなんじゃん」

「いっつも寝る寸前まで赤音の部屋いんのになんか変わる?」

「今日お布団干してない……」

「そんなの全然気にしないって!」

「大丈夫じゃん」

「や、ちが、違くないけど違くて」

「カクチョー、風呂空いてるから使えよ着替えはオレのでいいか?」

「いいのか?」

「背、足る?」

「たけーよな、何センチ?」

「ハーパンとTシャツならそこまでだろ」

「オレのは?」

「オレの前のでピッタじゃん」

「イヌピーのんがまだデケーしな」

「ま、まだ成長期だし」

「オレも」

「オレも伸びてる」

「んむ……ヤクルトある?」

「ヤクルト? なんで」

「背、伸びるから」

「そーなん?」

「牛乳じゃないんだ」

「いや、あんま聞かねーけど」

「あ、それは」

「ン?」

「オレが、飲んでたから、それで、その」

「ふーん」

「なるほど?」

「なんか言いたいことあんなら言えば?」

「うち、ヤクルト置いてますよ」

「マジ!? のんでいい!?」

「どーぞ1本五百円ね」

「たか」

「あ、財布持ってなかったわ」

「ウソだろ」

「これはマジ」

「冗談だって」

「知ってる知ってる」

 

 とにかくわからない。夕方のボロ泣き姿が嘘のように機嫌良く笑うレンに安心して、まるで赤の他人の家の風呂を借り、上がればヤクルトの容器が2本空になっていて、よそんちの客間のベッドを目前にしてようやくアタマが追いついた気がする。

 チラッと見えた誰かの部屋には黒龍の白い特攻服が掛けられていて、おそらく白い方の姉弟の家だろう此処はつまり黒龍の人間の家だってことで、喧嘩屋の二つ名も知られているらしいし、闇討ちなんてことは多分ないだろうが落ち着きはしない。

 ちがう、なんで今日会ったばかりの他人とその知り合いの家にお泊まりなんてことになっているんだ。流されすぎだろ、オレ。そう思ってため息を吐いた鶴蝶の目に映ったのは、とっくに力尽きて静かになった携帯電話だ。

 沢山かかってきていた電話のひとつにも出ていなかったことが今になって後悔できる。帰ったらイザナに蹴りをもらうだろうか。けれど、心配する気持ちもわかる。なにせ相手は弟らしいし、灰谷からしても大事に人目に触れないように育ててきた弟らしいし。

 連絡くらい入れとくか、と思い立ち客間から廊下に出る。

 充電器くらい誰か持ってるだろうと思ってのことだ。そうでなくても家電があるだろうと思った。けれど、廊下は電気も付いておらず、家の中はヤケに静かだった。

 鶴蝶は何もせず部屋に引き下がることにした。

 

 充電器を借りるにも、とっくに全員部屋に引きこもってしまっていて、なにやら雰囲気のあった白い女の人と黒い方の男の入って行った部屋にも、どう考えてもヤバそうなレンと白い方の男が入って行った部屋にも入るどころかノックすらするのは憚られたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 身内の泣き顔というものは、灰谷にとって無縁のものだった。蓮の泣き顔というのも、拾った日に感じ取ったものくらいでそれからずっと蓮は泣かなかった。

 喧嘩をしといて泣くようなヤツも少なく、たまに出会うどうしようもない雑魚だったりヘタレだったりが灰谷に泣き顔を見せた。ぐずぐずで、みっともない泣き顔は見てきた。女の泣き落としだってそうだ。見慣れている。笑い蹴飛ばしてきた。けれど今は喧嘩でもなく。何かを求められたわけでもなく。非難されているわけでもなく。

 つまり、ひどい衝撃だった。

 

 なんで泣いてるのか、なんで急に家出なんて言ったのか、なんで鶴蝶と、とかそんなことよりも蓮が泣いていることが与える情報が大きすぎた。

 蓮が、レンが、弟が泣いている。涙を流しているのではない。泣いているのだ。

 思考が停止する。何故かはなにも分からないまま、泣かせてしまった事実を飲み込もうとして、弟が泣いているのを見てまた振り出しに戻って、ようやく竜胆が「蓮」の名前を呼べた頃には、蓮は鶴蝶と連れ立って家を出てしまっていた。

 

 先にアタマが回復したのは蘭の方だった。

 ソファの上を見て、蓮の携帯が落っこちていることに舌打ちする。

 次にどうにかなったのはイザナだ。

 下僕と弟が一緒にいなくなった衝撃からなんとか回復して、蘭と顔を見合わせた。

 最後は竜胆だ。

 兄に正気に戻されて、戻ったかどうかは定かではないがすぐさま竜胆は外に駆けていった。家の外まで出て、右も左も見て、蓮も鶴蝶も見えないまま勘だけに頼って走り出そうとしたところでその肩をまた兄に掴まれた。

 

「なに!?」

「マ、落ち着け」

「はぁ?」

「チッ、鶴蝶のヤツ電話でねぇ」

「電波?」

「いや」

「持ってるよな」

「アイツはいつもポケット入れてる」

 

 振り返れば携帯片手に不機嫌そうなイザナと、不機嫌な兄。息をつけばわかる。闇雲に走るよりどう考えても人を頼るかなにかした方が良い。

 自分も、とポケットに手を伸ばして携帯がないことに気がついた。あぁ、家だ。机の上に置いたままだ。靴も突っ掛けただけだった。

 

「さみぃし、家入ろうぜ」

 

 刺々しく蘭がそう言うのに、少しだけ安心した。

 

 

 

 

 

 果たして、蓮と鶴蝶はすぐに見つかった。見かけた人間がいくつもいた。蓮の顔はそうそう知られていないものの、喧嘩屋が泣いている子供に引っ張られている姿はずいぶん目撃されていた。何処にたどり着いたかまでしっかり突き止めたあと、目下の問題は、蓮が家出をしているということである。そもそもここは蓮だけの家で灰谷の家でないことは考えない。実質灰谷の家でもあるからだ。

 場所が割れ、すぐにバイクに跨ろうとした一名を止め、冷静に蘭は会議を始めた。

 つまり

 

「迎えに行って「帰らない」とか言われたらどうする?」

「べつにオレは一緒に住んでたわけじゃ」

「会って、「もう兄ちゃん嫌い」とか言われたらどうする?」

 

 既に竜胆は限界である。イザナもダメージを受けた。蘭とて自分で言って心を深く傷つけた。

 竜胆は兄と喧嘩をした経験はあるが、弟とはない。どころか灰谷は身内に大きな反抗期を経験したことがない。蘭と竜胆は一緒に反抗する側であったし、竜胆の蘭に対する反抗もささやかなものだった。家出するほど、怒らせたか悲しませたかすることはない。

 イザナももちろん経験はない。イザナには反抗期なんてない妹と、反抗できる兄と、まだ弟に近いだけの喧嘩相手がいるだけだ。下僕は下僕。反抗の目など見たこともない。

 

「つまり、オレらはなんで蓮が急に家出するとか言ったのか考えなきゃいけないわけ」

 

 三人よれば、とは言うが。

 三人は寄ってたかって頭を抱えた。まったくもって、理解ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起きて、人がそばにいるのは久しぶりだった。

 

「おはよう、蓮」

 

 まだ寝ている。いつかに比べればずいぶん精悍な顔付きになった。益々、凛に似ていく。あと一年、二年ほどか。そうして髪をもう少し伸ばせばまるきり。それでも青宗よりも小さく、幼く、大事な弟だ。

 

「セーくんだ」

 

 しばらくそうしていると、ついに菫の目が見える。とろけていて、寝ぼけているのが丸わかりだった。

 

「なんで……や、そだ、家出……」

「家出したのか」

「そ、家出したん……」

「ふぅん」

 

 大きく伸びをして、布団から這い出る。扉の外は未だ静かだ。

 

「アーちゃんとココくん……ちゃんと寝たと思う?」

「ココは根性ないぜ」

「だよなぁ」

 

 洗面所に向かう途中で鶴蝶の眠る部屋をノックしてみた。間もなくしっかり目を覚ましている鶴蝶が出てくる。洗面所に行って、蓮は顔に水を撫でつけて口を濯いで拭きもしないまま洗面台の前を交代。鶴蝶も似たようなものだったが顔に容赦なく水をかけるし、鏡を見て何度か瞬きしていた。

 

「あー、食パン、卵、ハム、ヨーグルト……カップ麺?」

「ラピュタ」

「おー、カクチョーは」

「いっしょでいーだろ」

「お、おう」

「聞いてやれよ」

 

 少し笑って青宗は台所へ行く。「セーくんラピュタ作んのマジ上手いんよ」「ラピュタって」「見たことない!?」「ある……ような」「今度見ようぜ、そんでね、ラピュタに出てくるパンなんだけど」と蓮と鶴蝶が話している声が聞こえる。

 

「セーくん料理できんのラピュタだけだもんね!」

「オマエな、ラピュタが出来るってことは目玉焼きも作れんだぞ」

「お、そうか。なるほど」

「目玉焼きが作れるくらいだとウインナーも焼ける」

「天才じゃん、焼いてよ」

「蓮は?」

「オレ? なんでもござれよ。卵焼き作れるしパスタも茹でれる」

「は? シェフ目指してんの」

「ふふ、すげーでしょ」

「すげーわ」

「でも、ラピュタ作んのはセーくんが一番上手いんだよな」

「そりゃそうだろ」

「カクチョーくんは?」

「オレはあんま、料理とかしないな」

「……そか、じゃ、今度作ったげるよ」

 

 チン、と高い音が鳴る。冷蔵庫から勝手に持ってきた牛乳を鶴蝶と自分のコップに注いだ蓮は青宗が戻ってくるのを今か今かと待っていた。

 

「なぁ」

 

 得体が知れない。流されるままに朝食まで世話になっている。ケータイの充電器があるかと聞いた時には「ココは持ってる」と返され、どうにも二人の部屋を叩くわけにはいかず未だ充電切れの静かな携帯を机に置いて、鶴蝶はここにいた。

 

「なんでオレを連れてきたんだ?」

「オレのこと見てたの、カクチョーくんだけだっただろ」

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