吉原遊郭の戦いが呆気なく終わってから1ヶ月後、承太郎は夜の山道で鬼を倒していた。
「……終わったな」
鬼の崩壊する様を見届けた承太郎は刀を鞘に収めた。
「承太郎、今回の任務はこれで終わりだ。次の任務があるまで屋敷で待機せよとのお館様からの指令だ」
「また待機か、ここ最近待機が多いな」
「仕方なかろう、以前に比べて鬼の出現率が少なくなっているのだから」
そう、遊郭の戦いが終わってからというもの、鬼の出現率が低下していたのだ。今回の討伐も以前の任務から数週間ぶりの任務だったのだ。
「だが喜ばしいことじゃないか、"鬼が少ない"と言うことは"被害者が少ない"と同義なのだからな」
「…だといいがな」
承太郎はどこか浮かない顔をして、その場を去った。
…
……
………
「おはよう皆、今日もいい天気だね。空は青いのかな?顔触れも変わらず半年に一度の"柱合会議"を迎えられたこと、嬉しく思うよ」
この日は半年に一度の柱合会議の日であり、承太郎を含む十名の柱が中庭に揃っていた。
「早速だけど、皆も薄々気づいているだろう。鬼の出現率が徐々に低下している、十二鬼月の上弦を三体も失った無惨にとってはかなりの痛手だ」
「そして無惨は今ある戦力を全て
『御意!!』
耀哉の命令に柱一同は頭を下げて返事をした。
「頼もしい限りだよ。皆、よろしくね」
…
……
………
柱合会議が開かれた翌日、柱一同は承太郎の家である『波紋屋敷』に集まっていた。その理由はただ単純明快、『広い』。それだけである。
承太郎も屋敷の広さは自覚していたため、何の文句も無く屋敷の大広間を貸している。
「さて、皆さんお集まりいただき、ありがとうございます」
呼び出した張本人、しのぶが集まった柱に労いの挨拶をする。
「本日お集まりいただいた理由、それは、お館様が仰っておられた『柱稽古の内容と順番』についてです」
「内容と順番…?」
しのぶが出した議題に蜜璃が首を傾げる。
「昨日会議から帰った後に、胡蝶と少し話し合ったんだ。"内容と順番を決めないと何処かで被るだろう"…とな」
「確かに、訓練内容が似かよったり、一度やった訓練をもう一度することになりかねんからな」
承太郎の説明に錆兎が同意していた。
「ですので、今ここで訓練の順番と内容を決めてしまおうと思うのです」
「なら俺は"体力向上"を派手に推すぜ」
「南無…、なら私は"筋力向上"をさせよう…」
「俺は"打ち込み稽古"にするぜェ」
天元を筆頭に次々に訓練の内容を決めていった柱たちであった。
…
……
………
「では内容を確認します。まず宇随さんが"体力向上訓練"、有一郎君が"高速移動訓練"、蜜璃さんが"柔軟"、伊黒さんが"太刀筋矯正"、煉獄さんが"模擬戦"、不死川さんが"打ち込み稽古"、悲鳴嶼さんが"筋力向上"、鱗滝さんが"連携訓練"、空条さんが"波紋習得"、私が"全集中・常中の習得"。これでよろしいですか?」
しのぶの質問に柱全員が頷いた。
「では次に順番ですが、まず一番に私、二番に空条さん、三番に宇随さん、四番に有一郎君、五番に蜜璃さん、六番に伊黒さん、七番に煉獄さん、八番に不死川さん、九番に悲鳴嶼さん、最後に鱗滝さんでよろしかったですか?」
しのぶの二度目となる質問に柱全員が頷いた。
「では以上の内容と順番でお館様にご報告します」
「うむ!胡蝶、よろしく頼んだ!」
…
……
………
「『柱稽古』…ですか?」
その名の通り、柱が下の階級の者に稽古をつけることを言う。
柱は通常、多忙の故継子以外の者に稽古をつける暇が無いのだ。
しかし昨今、鬼の出現率が低下の一路を辿る今、最終決戦が近いと予測した耀哉が柱に要請を出したのだ。
「ああ、まず最初に胡蝶の所で"全集中・常中"を習得し、次に俺の所で"波紋の習得"、次に宇随の所で"体力向上訓練"と言った稽古を設けることになったんだ」
炭治郎の質問に承太郎は分かりやすく説明をする。
「因みに全集中の呼吸を使えない者は俺の所から、常中と波紋を使える者は宇随の所から稽古を開始することになっている」
炭治郎は"全集中・常中"と"波紋"の二つを習得しているため、稽古は天元の所から始まるのだった。
…
……
………
「はい皆さん、おはようございます。私は蟲柱の胡蝶しのぶです。まず最初に"柱稽古"について説明させていただきます」
「"柱稽古"とは、私たち柱の階級を持つ人が、皆さんに"一つの課題"を伝えます。そして皆さんはその課題を行って、柱が許可を出せば次の柱の下に向かい、そこで柱の課題を行う。これの繰り返しです」
「私からの課題は"全集中・常中"の取得になります。これは全集中の呼吸を四六時中行うことで、筋力や持久力を向上させます」
しのぶの説明に何人かが頷いていた。どうやら頷いた人は常中のことを知っているようだった。
「この屋敷には以前常中を会得した隊員が残してくれた道具がありますので、それを用いて訓練してくださいね」
そう、かつて炭治郎が善逸と伊之助に常中を会得させるために使用していた岩がそのまま残されており、しのぶはそれを利用していたのだ。
…
……
………
「それでは訓練を開始する」
しのぶが訓練を開始したのと同時刻、承太郎の下でも柱稽古が開始された。
と言っても、承太郎の下には善逸、伊之助、カナヲ、玄弥の炭治郎の同期"四名"しかいなかった。
「お前たちは既に"全集中・常中"を会得しているため、蟲柱の稽古は免除されている。よって俺の所からの開始となる」
「俺の稽古は"波紋の会得"、並びに制御を行う。栗花落以外は波紋を会得しているため、波紋の制御を主とした訓練を行ってもらう」
「栗花落は波紋に関しては初心者のため、まず波紋とは何なのかを知ってもらう。いいな?」
承太郎の質問に一同は頷いた。
「ではまず、我妻、不死川、嘴平の三名は"彼"から波紋の制御を学ぶように」
「儂は承太郎の祖父、ジョセフ・ジョースターじゃ。お前さんたちは今から儂の所で波紋の修業を行ってもらう。よいな?」
「「「はい(おう)!」」」
「栗花落は俺の所で波紋の座学だ。いいな?」
「はい」
「いい返事だ、ジジィ、そっちは任せるぜ」
「分かっとるわい。では三人共、儂について来い」
ジョセフは善逸、玄弥、伊之助の三名を連れて部屋を後にした。
「それでは栗花落、波紋に関しての座学を始める。まず波紋の正式名称は『波紋呼吸法』と言って、全集中の呼吸とは異なる呼吸法だ」
「波紋は太陽と似た力を持っていて、得物に纏わせれば鬼への有効打になるだけでは無く、体内に異物を入れられても、無効化することができる」
「それだけでは無く、身体能力が著しく向上するため、体の老化が遅くなる。現にジジィはああ見えて四十代だからな」
ジョセフの実年齢を知ったカナヲは声を出せないほど驚いていた。それもそのはず、ジョセフの見た目は二十代半ばだったからだ。
「座学に関しては以上だ。何か質問はあるか?」
承太郎の質問に、カナヲは首を横に振った。
「なら次は波紋の会得だ、ここから先はジジィに稽古をつけてもらう。ジジィは道場にいるはずだから、一緒に行くぞ」
承太郎とカナヲは一緒に道場へと向かった。
…
……
………
承太郎とカナヲが道場に到着すると、異様な光景が広がっていた。
それは玄弥、伊之助の二名が床に寝転がっており、善逸が肩を上下させながら荒い息をしていた。
「……ジジィ、一体何をさせていたんだ?」
「おお承太郎。いやなに、波紋の制御を行うにはそれ相応の修行が必要なんじゃが、『実戦に勝る修行は無し』と思って波紋"のみ"を使った稽古をしていたんじゃが…」
「……何となく読めたぜ。三人で戦わせて、我妻が勝ち残ったわけか」
ジョセフは承太郎に現状の説明をしていると、承太郎はオチを見破った。
「クソッ、波紋の扱いに関しては一日の長があると思っていたんだが…」
「紋逸に負けるなんて納得いかねぇ!おい、もう一回勝負しろ!」
「無茶言うなよ…、俺だって疲労困憊なんだから……。てか、最初に負けた伊之助の方が疲れてるだろ…」
玄弥は寝転がりながら善逸に負けたことを認めており、伊之助は起き上がりながら善逸に再度勝負を挑もうとするが、善逸も疲労困憊になっており、再戦は難しそうだった。
「それより承太郎、彼女の座学はもう済んだのか?」
「終わっているからここにいるんだ。ジジィ、手ほどきを頼めるか?アイツらは俺が見ておく」
承太郎は親指で善逸たちを指差しながら言う。
「なら頼むぞい。それでは嬢ちゃん、こちらに来なさい」
ジョセフはカナヲを手招きし、カナヲはジョセフの下に向かう。
「まずは深呼吸をしなさい」
ジョセフはカナヲに深呼吸をするよう言う。カナヲは疑問に思いながらも深呼吸をする。そして息を吐き終わったと同時にジョセフはカナヲの胸、正確には横隔膜がある所を"突いた"。
「!?、ゴホッ、ゴホッ!」
カナヲは苦しさの余り、噎せてしまった。
「苦しいじゃろうが、耐えるのだ。波紋を会得するには一度肺の中の酸素を空にせんといかん。そしてその状態からもう一度息を吸い込むと…」
カナヲは言われた通りに息を吸い込むと、先程とは違い、力が漲る感覚があった。
「今力が漲る感覚があったじゃろう?それが波紋じゃ。後はそれを一人で出来るようになれば"入門編"は終わりじゃ」
ジョセフの言葉にカナヲは頷きながら呼吸を繰り返す。
「承太郎、そっちはどうじゃ?」
「今休憩を取らせてる、再開は早くて十分後くらいだな」
カナヲは承太郎の後ろを見ると
「なるほど、全集中の呼吸と合わせているのか」
「ああ。でも、二つの呼吸を
「やっぱり波紋一筋の方が良いのかな?」
「どうだろ?呼吸と合わせると威力は落ちるけど、応用の幅が広がるからな。そこは臨機応変に切り替えないと」
善逸は床に腰を降ろして座っており、玄弥は上半身を起こして
伊之助はと言うと、床にうつ伏せで倒れていた。
「んっ?ああ嘴平は疲労が溜まり過ぎてて、ちょっと小突いたら倒れたんだ」
カナヲの視線に気づいた承太郎がカナヲに伊之助の状態の説明をする。
カナヲは
「(波紋ってこんなにも疲れるものなんだ…)」
と思ってしまった。