「アオイさん、患者用の食事の用意が出来ましたよ!」
「ありがとうございます!」
「はいお姉さん」
「ありがとう坊や」
「お兄さん、これどうぞ」
「ありがとうな、お嬢ちゃん」
炭治郎たちが柱稽古をやり遂げてから数日後、この日蝶屋敷はバタバタと忙しかった。
その理由は、柱稽古で負傷した隊員たち(主に実弥のせい)が続々と運ばれていたからだった。
「アオイさん、向こう側の患者に食事を運んで来ます!」
「炭治郎さん、ありがとうございます!そちらが終わったら今度はこちらを手伝ってください!」
「わかりました!善逸、玄弥、カナヲ!手分けして運ぶぞ!」
「了解!」
「わかった!」
「任せろ!」
手伝い人の中に炭治郎、玄弥、カナヲ、善逸の姿があった。その理由は、炭治郎の弟の竹雄に茂、妹の花子が慌ただしく働いているのに、自分だけのんびりする訳にはいかないと思ったからである。
因みに伊之助は炭治郎の末の弟である六太を連れて近くの山にどんぐりを拾いに行っていた。
…
……
………
『つっ…、疲れた…』
太陽が地平線の彼方に沈んだ頃、漸く仕事を終えた面々は疲れを露にしながら畳の上に座り込んでいた。
「お前らお疲れさまだったな。ほら茶を持ってきた、これで一服するといい」
するとそこに愈史郎がお盆を2つ持って現れた。しかもお盆の上には人数分の湯飲みが乗っており、湯飲みからは湯気がゆらゆらと登っていた。
「あっ、愈史郎さんありがとうございます。運ぶの手伝います」
「すまない炭治郎、疲れているのに助かる」
炭治郎は立ち上がりながら愈史郎にお礼を言い、愈史郎からお盆を1つ受け取った。
そしてちゃぶ台の上にお盆が置かれると、全員が湯飲みを持ってお茶を啜った。
ズズッ「丁度良い温かさです。疲れた体に染み渡ります…」
アオイがお茶を一口啜り、感想を述べた。
「それは良かった。まぁ、俺は普段から珠世様の為に紅茶を淹れているからな」
アオイの感想に愈史郎は当然とばかりに言った。
「そうだったんですね…」
炭治郎も愈史郎のお茶の淹れ方に納得しながらお茶を啜っていた。
「兄ちゃん、大変だよ!」
すると六太が慌てた様子で炭治郎の下に現れた。
「六太どうした?そんなに慌てて。それに伊之助は何処行ったんだ?」
炭治郎は六太と一緒にいるはずの伊之助の姿が見えないことに疑問を感じ、六太に質問をする。
「猪のお兄ちゃん、鴉から話を聞いた途端に急いで山を降りちゃったんだ!」
「「「「何だって!?」」」」
伊之助は炭治郎たちの中でも"責任感"が強く、頼まれたことは最後までやり遂げるのを炭治郎たちは知っていた。その伊之助が、頼まれたことを途中で放棄することはあり得ない。しかし現に伊之助は頼まれていた六太のことを放棄したのだった。
「伊之助が六太を置き去りにするなんて…」
「……ねぇ炭治郎、もしかしたら鴉から聞いた話が原因かもしれない」
伊之助が六太を置き去りにしたことに落ち込んで座り込んでしまった炭治郎にカナヲが言葉を掛ける。
「そうだよ!伊之助は俺たちの中じゃ責任感は強い方だから、もし任務が来たとしても六太君を屋敷まで"送り届けて"から向かうはずだよ!」
「善逸の言う通りだ、その伊之助が真っ先に下山するなんて、余程驚愕することだったんだろう?」
カナヲの言葉に善逸と玄弥も乗っかかり、炭治郎を励ます。
「カナヲ…、善逸…、玄弥…。……よし、伊之助を追おう!」
炭治郎は立ち上がると、伊之助を追い掛けることを決めた。
「カナヲ、善逸、玄弥。力を貸してほしい!」
「うん!」
「もちろん!」
炭治郎はカナヲと善逸と玄弥に助力を求め、カナヲと善逸は頷いた。
「……悪い、俺は
しかし玄弥は蝶屋敷に残ることを伝えた。
「えっ…、何で…」
「今から向かえば伊之助に追い付くことは可能だろう、けどそれは"常中が使えれば"の話だ。俺は全集中の呼吸の適正が無い。つまり、常中を"会得していない"んだ。波紋を使えば多少は追い付くことは出来ると思うが、正直言って足手纏いにしかならないと思う」
玄弥は思い付く限りの要因を述べる。
「それに今の蝶屋敷には人手が必要だろう?いくら禰豆子ちゃんや花京院さんたちがいるとしても、人手が多い方がいい。愈史郎さんは蟲柱様や珠世さんの手伝いで忙しいだろうしね」
「わかってるじゃないか」
玄弥の言葉に愈史郎は頷いていた。
「だから伊之助を追い掛けるのは炭治郎たち三人にお願いしたい」
玄弥はそう言って、頭を下げる。
「……わかった。玄弥、そっちのこと、頼む」
「……ありがとう、炭治郎」
炭治郎は玄弥に蝶屋敷のことを頼み、玄弥は炭治郎にお礼を言った。
そして炭治郎、カナヲ、善逸の三人は伊之助を追い掛けるため、蝶屋敷を後にした。
…
……
………
「("どんぐり丸"が言っていた場所はこの近くのはず。"母ちゃん"、無事でいてくれよ!)」
伊之助は自分の鎹鴉である"どんぐり丸"からの指令を聞き、とある山に来ていた。
普段なら頼まれたことは最後までやり遂げる伊之助だったが、今回ばかりは勝手が違った。
何故なら、鴉から伝えられた場所には"伊之助の母"が住んでいる場所だったからだった。
「(後もう少しで"家"に着く!)」
伊之助は記憶を頼りに母が住む家に向かった。
キャァァアアア~~!
「っ!?母ちゃん!」
すると遠くから女性の悲鳴が聞こえ、伊之助はその声がした方へ向かった。
「ゲヘヘヘヘッ、久しぶりの人肉だ!大人しく俺様に喰われな!」
伊之助が到着すると、今まさに女性が鬼に襲われている所だった。しかもその女性は伊之助の母の"嘴平
「させねぇ!『獣の呼吸・思いつきの投げ裂き』!」ブンッ ブンッ
何を思ったのか、伊之助は持っていた二本の日輪刀を鬼に向かって思い切りぶん投げた。
ザシュッ ザシュッ「グワッ!?」
投げられた日輪刀は鬼の両腕を切り裂き、側にある木に刺さった。
「グゥゥッ、誰だ!?」
腕を斬られた鬼は周囲を見渡す。
「俺様だ!」
するといつの間に抜き取ったのか、日輪刀を片手に一本づつ持った伊之助が琴葉の前に立っていた。
「母ちゃん、大丈夫か?!」
「いっ…、伊之助…?本当に伊之助かい?」
琴葉は自分を助けに来てくれたのが息子の伊之助だと知ると、目から涙が溢れ出た。
「母ちゃん、安心しな。母ちゃんを怖がらせたあのクソ鬼は俺がぶっ殺す!」
伊之助は右の刀を肩に担ぎ、左の刀を鬼に向けた。
「おいクソ餓鬼、誰が誰を殺すって?」
鬼は斬られた腕を再生させながら伊之助に質問をした。
「俺がお前をぶっ殺すって言ったんだ!俺がより強くなるため、より高みに行くための踏み台になれ!『獣の呼吸・陸ノ牙 乱杭咬み』!」
伊之助は鬼に攻撃し、鬼は腕で防御しようとするが、先程腕を斬られたことを思い出し、その場を後ろに飛んで伊之助の攻撃を回避した。
「危ねぇ危ねぇ。腕で防御しようと思ったが、斬られたことを忘れていたぜ…」
「逃げんじゃねぇ!大人しく死にやがれ!」
伊之助は鬼に向かって何度も攻撃を繰り出すが、鬼は伊之助の攻撃を悉く回避していた。
…
……
………
「ゼェ…、ゼェ…、ゼェ…。くそっ、ちょこまかちょこまか逃げやがって…」
伊之助が鬼と戦闘を開始してから十数分が経過したころ、伊之助は肩を上下させ、息を切らせていた。
常に攻撃をしていた伊之助と回避に専念していた鬼。
どちらが早くスタミナを消耗するのか、一目瞭然だった。
攻撃する方がスタミナが減るのが早く、更に伊之助は早く到着するために走っていたため、通常よりもスタミナが減るのが早かったのだ。
「フンッ、そろそろ遊びは終わりだ。くたばれ!」
鬼は伊之助に向かって腕を振り上げる。
「山の王である伊之助様を舐めるな!『獣の呼吸・陸ノ…』」ガクッ
伊之助も迎撃しようと型を使用しようとした瞬間、急に力が抜け、地面に崩れ落ちた。
「もらったぁ!」
鬼の攻撃が伊之助に襲い掛かる……
『雷の呼吸・壱ノ型 霹靂一閃・六連』
…ことは無かった。何故なら善逸が鬼の両腕両足を"斬った"からだった。
『ヒノカミ神楽・
更に炭治郎が鬼の後ろから鬼の胴体を分断した。
「伊之助ぇ!今だぁ!」
「!?感謝するぜ子分ども!『獣の呼吸・参ノ牙 喰い裂き』!」
そして最後に伊之助が鬼の頚を斬り、鬼は絶命した。
…
……
………
時は鬼が伊之助に向けて腕を振り上げる少し前に遡る…
「っ!?この音…、誰かが戦ってる!」
「本当か善逸!?」
炭治郎、カナヲ、善逸の三人は伊之助を追い掛ける途中、善逸が戦闘音を聞き取った。
「間違いない、金属音が聞こえる!っ!向こうだ!」
善逸が音がした方に指を指すが、伊之助たちの姿は見えなかった。
「っ!?いた!善逸が指を差した方!伊之助が女性を庇いながら鬼と戦ってる!」
否、カナヲだけが見ることができた。
「炭治郎!俺の背中に乗って!俺の"霹靂一閃"なら早く辿り着ける!時期を見計らって飛び降りるんだ!」
「……ありがとう、善逸。行くぞ!」
炭治郎は善逸と速度を合わせ、タイミングを見計らって善逸の背中に飛び乗った。
『雷の呼吸・壱ノ型 霹靂一閃・六連』
背中に炭治郎の重みを感じた善逸は、壱ノ型を六連続で使用する。そして炭治郎が自身の背中から飛び降りた後、鬼の腕や足を斬った。
『ヒノカミ神楽・斜陽転進』
そして炭治郎もまた、善逸の背中から飛び降りた後、自身の体を反転させ、鬼の胴体を斬ったのだった。
…
……
………
「伊之助…、伊之助…」
炭治郎たちが鬼を討伐した後、カナヲに支えられた琴葉が伊之助に近づいて来た。
「母ちゃん…」
「伊之助!あぁ…伊之助…」ギュッ
琴葉は伊之助を抱きしめ、目から涙を溢していた。
「伊之助が急いでいた理由…、なんとなくわかったよ」
「うん…、伊之助は母親が住んでいるこの山に鬼が出たから、急いでいたんだ…。母親を助けるために…」
「よかったね…、伊之助…」
善逸、炭治郎、カナヲは伊之助と琴葉の抱き合う姿を見て、もらい泣きしていた。
…
……
………
「子分ども…、すまねぇ。頼まれたことを放り出した上に、母ちゃんを助けるために力を貸してくれて」
鬼を討伐してから数分後、伊之助は炭治郎たちに頭を下げていた。
「別に気にしなくてもいいよ、事情が事情だったしね」
「そうそう、母親が無事で良かったじゃん伊之助」
炭治郎と善逸は伊之助を許し、伊之助は頭を上げた。
「伊之助、これからどうするの?このままじゃ、またお母さんが鬼に襲われちゃうと思うけど…」
「もし伊之助さえよかったら、伊之助のお母さんを蝶屋敷に迎え入れたいと思うけど…?」
カナヲは伊之助に琴葉のこれからのことを提案する。
「そうだよ!蝶屋敷に来ればいつでも会えるし、鬼にも襲われない!」
「それに今の蝶屋敷には猫の手も借りたいほど忙しいからね、伊之助さえよかったらきっと喜んで受け入れてくれると思うよ」
善逸と炭治郎もカナヲの提案に乗る。
「……ありがとう」
伊之助はいつも被っている猪の頭の被り物を外し、再び頭を下げた。
「そうと決まれば、早速移動しよう"親分"!」
「そうだぜ"親分"!ここにいたらいつまた鬼が現れるかわかんねぇからな!」
炭治郎と善逸は伊之助を"親分"と呼び、出発を促す。
「……よっしゃあ!子分ども、親分である俺様に着いて来い!」
「「応!」」
伊之助は猪の頭の被り物を再び被り、意気揚々に歩き出した。
「伊之助のお母さん、これから安全な所にご案内しますので、私たちに着いて来てください」
「わかりました、よろしくお願いします」
カナヲは琴葉に蝶屋敷に案内することを伝え、琴葉はカナヲに頭を下げ、一緒に下山した。
…
……
………
その後炭治郎たちは伊之助の母親の琴葉を紹介し、蝶屋敷はより一層賑やかとなった。
因みに琴葉に最初に仲良くなったのは炭治郎の母親の葵枝で、お互いの料理の腕を見て、お互い切磋琢磨したことは言うまでもない。