――――2021年――――
高円寺の古着屋街の一角に、その店はあった。男は迷いなくそのボロ屋に入っていく。
そこはアンティークショップ。古今東西のアーティファクトが並ぶ。
店主の象頭の神・ガネーシャに頼み、陳列されている一見何の変哲もないルービックキューブを見せてもらう。
ガネーシャは男に金額を提示し、男は値段を払う。
その金額は、アーティファクトとしては平均的な値段であった。
しかし、男は内心ほくそ笑んでいた。
(ガネーシャはこのアーティファクトの本当の価値を知らない……でなければ他人に売り渡しなどするものか)
そのルービックキューブは、特定の場所にあると不思議なことが発生するというマジックアイテムだった。しかし、今までの持ち主はガネーシャも含め、誰も場所と不思議な事柄の法則性に気づけなかった。
男はそれに気づいたのだ。
不思議な事柄……それは、体感時間がゆっくりになる、数分から数時間の記憶が無くなる、突然違う場所に現れるといったようにどれも関連性がなさそうに見える。
さらに、場所は、世界各地、それに池袋や奈良など、これについても関連を見いだせない。
(しかし、"徳"に着目すれば全ての謎は解ける)
男は以前、町でサイボーグを見かけたことがある。その際、彼らが持つ"徳"エネルギーに注目した。一度徳を知覚したことで、彼はその後、無意識のうちに周囲の徳を感じ取れるようになった。
なぜ、彼が徳を知覚できたのか。それには、彼の種族が関係している。彼はブラストラ星人。触覚を回転させて周囲の情報を知覚する宇宙人だ。
生まれつき回転する器官をもったこの宇宙人の男は、マントラこそないものの徳を知覚し、使うことができるようになった。
(私は知った。徳を使いこなすことができれば、単なるエネルギーのみでなく時間移動や時間操作、瞬間移動なども可能。ルービックキューブ事件との辻褄も合う)
ルービックキューブが反応する場所はすべて徳の高い場所。そして男は、ルービックキューブから高密度の徳を感じていた。
(この溢れんばかりの徳が、対象の人物に不思議な現象をもたらしていたのだろう……そして)
――――池袋――――
男は、ルービックキューブを持って池袋にやってきた。そして、触覚を回転させながら徳を手にまとわせる。
そして、ルービックキューブを両手で包む。ゆっくりと、慎重に。そのルービックキューブを開いていく。
すると突然、大量の徳が噴き出し、彼の体に流れ込んできた!
(感じるっ!!! 大量の徳! 大量のエネルギー! 大いなる力を! これで私は、究極の正義を執行できる!!)
そして、突然その男は、池袋の地から消えた……ように見えた。
――――2045年 夏 シンギュラリティ町田支部――――
フィニッシュヒム諸岡は、先輩から今月のシンギュラリティ月報を受け取った。そこには、諸岡が以前書いた原稿が掲載されていた。
「けっこういい感じに出来てるなあ」
それを読みながら休憩していると、突然上司が呼びつけてきた。
「すまん諸岡! 横須賀から緊急招集が来てる!」
「えっ!? いったい何が?」
「それがな……池袋支部との通信が途絶えたらしい」
――――横須賀データセンター――――
「や、や、よく来てくれたね」
ドゥームズデイクロックゆずきが集まったサイボーグたちを出迎える。
集められたのは、諸岡のほかに横浜支部のクラッシュトリガー生天目、茨城支部のパワードラッグ加藤。
「今回君たちに集まってもらったのは、来る途中に聞いてきたと思うけど、池袋との通信断絶の件だ」
つい先ほど、池袋支部との通信が途絶。それだけでなく、東京23区のほとんどが池袋を中心とした謎のエネルギードームに覆われ、通信・出入りが不可能となってしまっている。
「我々横須賀データセンターのサイボーグが原因を究明中だ。そして、各支部に同様の異変が起きないとも限らない。なるべく各支部の戦力は削りたくない」
「そこで我々というわけですね」
「その通り。私の徳をたっぷり詰め込んだ徳爆弾を用意した。試算では、これでエネルギーバリア内に侵入できるはずだよ」
「じゃあ行きましょう生天目さん、加藤さん」
「おう」
「ええ」
チームとして行動することになった諸岡たち三機は、早速池袋へと向かった。
「それにしても、いくら本部や支部を守るためとはいえ疑似徳三機は不安だなあ」
「それぐらい状況は切迫しているという事ね」
生天目と加藤は不安げだ。
「二人とも何を弱気になっているんですか。まだ何が原因かもわかっていないというのに」
一方、諸岡は最近大きな仕事を任され始めているだけあって、自信ありげだ。
「我々は研修で多くのことを学びました……本徳には劣りますが、我々三人が集まればどうという事はありません!」
諸岡が自信満々に語り、二人に笑顔が戻った、ちょうどその時!
ブツッ!!
その音とともに、横須賀データセンターとの通信が切れた。
「あれ……」
生天目と加藤は慌ててそれぞれの所属支部に連絡を取る。遅れて諸岡も。しかし。
「ダメだ……」
どうやら、少なくともここら一体の支部は池袋と同様の事態に陥っているようだった……
「ほとんどのサイボーグは防衛のためにその支部に残っている……!! 攻撃を逃れたのは私たちだけ……」
そこへ、男の声がした。
「その通り。貴様たちをつぶせば、日本のサイボーグは全滅だ」
その声は三人の頭上から聞こえてきた。
上を見ると、空に浮遊する宇宙人の姿が!
「我が名はブラストラ星人ダスター。2021年からやってきた。貴様ら地球の生命体を消し、環境を保全するために」
「何だとぉ……」
「この地球は汚れている。人類の減少によってここ2045年は多少マシになったようだが……」
「待て、貴様どうやってタイムスリップしてきた!?」
「これだよ」
ダスターが手に持っていたのは、ルービックキューブだった。その内側から、本徳サイボーグを凌駕するほどの莫大な徳があふれ出る!
「大量の徳は時間への干渉を可能にする。私は人類の減ったこの2045年で、効率的に生命を狩る!」
狂気の環境保全思想を持ったダスターが、膨大な徳エネルギーの矛先を諸岡たちに向ける!
「死ね、地球を汚すサイボーグどもよ!」
ルービックキューブから溢れる徳がダスターを媒介として凝縮し、高密度のエネルギー弾となって三人に降り注ぐ!
「まずいっ!!」
生天目と加藤の前に諸岡が進み出る。
「私が跳ね返します!!」
徳の力で強化された納豆の糸でエネルギー弾を絡め捕ろうとする! しかし、エネルギーの力に糸がほどける!!
「なんてパワーだ! 強すぎる!」
「どうやらこの徳という力は、私が正しいことをしているという心に反応して強さを増すようだ。地球の環境のために消え去れ!!」
「グワーーッ!!!!」
「フン。サイボーグなど取るに足らない存在だったな。次は地球にはびこる亜人どもを駆逐しなければ」
そう言ってダスターは横須賀の空を飛んで行った。
一瞬、何が起こったのか三人には分からなかった。
ダスターの徳エネルギー弾が諸岡の糸の網を貫通し、爆発が起きた。三人はその瞬間、機能停止を覚悟した。
その時である。何者かが高速で現れ、三人をかばったのだ。
そこにいたのはサイボーグだった。両肘に回転式砥石が装着されており、その体には傷一つない。
そして手には、妖しいオーラをまとった、まさに妖刀とでも言うべき日本刀が握られている。
「あ、貴方は……」
「私はレヴェリーソード蓮覚寺。ちょうど日本に来ていてよかったわ。さあ、行きましょう」
「い、行くってどこに……今日本のシンギュラリティ施設はすべて、謎のバリアに覆われています!」
「そうみたいね。だから、今日本で唯一、戦える本徳サイボーグのいるところへ行くわ」
「本徳サイボーグが……!? それはどこです!?」
「それはね……上野亜人商業組合よ」