マシーナリーサーガ   作:晩舞龍

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ワニツバメに殺された友を忘れられないフィニッシュヒム諸岡は、降霊術に救いを求めてエジプトへ。そこでの出会いが、新しい事件を生む。


ロード・シャーマン2

 2046年 エジプト ベニ・スーフ

 

 そこで、一機のサイボーグと一人のシャーマンが対峙していた。

 サイボーグの名はフィニッシュヒム諸岡。ワニツバメによる東京襲撃で友人や仲間を無くし、シャーマニズムなどの降霊術に救いを求めた彼女は、ここエジプトで奇抜なシャーマンと出会った。

 シャーマンは彼女の書き記したメモを見て、読み上げる。

「クラッシュトリガー生天目。それが呼び出してほしい奴の名前か。そしてあんたはフィニッシュヒム諸岡。間違いないな」

「ええ」

 諸岡は頷き、しかし未だ疑心暗鬼という様子で男を見つめる。男はポケットから幾つかの札を取り出す。

「それは?」

「呪札だ。そんなことも知られてないということは、どうやら他の降霊術は相当廃れちまったようだな」

 そうぼやきながら、男は自身の手足と諸岡の額に札を張り付ける。

「俺の親父が使っていた降霊術は、この呪札を媒介として、魂……スピリットとパスを繋ぐ」

「魂……そんなものが実在するのですか?」

「ふむ……実際には"意識"のほうが近い。ともかく、脳の情報だけでは生き物は動かない」

「知識とは別の、意識……」

「だが、スピリットは肉体の死によって、こことは別の場所に霧散してしまう。それを呼び戻し自分の体の中で再構成するのが俺の親父の理論だ」

「こことは別の場所? それは、天国やあの世といった概念ですか」

「それについては俺も親父も科学者じゃないからわからん。並行世界かもしれないし、別の次元かもな」

「理論については分かりました。では、それが正しいことを証明してもらいましょう」

 男は諸岡を座らせ、自身も向かいに座る。そして、目を閉じ、

「報酬は弾んでくれよ」

 呪札がほのかに熱を帯び始めた。

「これは……」

「あんたの呪札は生天目サンのスピリットの情報を得るためにあんたの脳にアクセスしている」

 諸岡から見た男の手足の呪札は、不思議な粒子を纏い始めていた。

「俺のは生天目サンのスピリットを集めて、俺の身体に流し込んでいる」

 そう言うや否や、男のサングラスの奥の瞳に変化が起きた。

 厳しい目つきが、困惑と驚きに支配されたのだ。

「ん? なんだ、コレ」

 男がそう言ったのを聞いて諸岡は思わず体を乗り出した。

「生天目さん!! 私が分かりますか!」

「お前は……諸岡。私は……いま、どうなってる?」

 諸岡は生天目を混乱させないよう、自身の興奮を抑え冷静に話しかける。

「生天目さんは機能停止……すでに亡くなっています。その体は降霊術者の男のものです」

「私は、一時的に生き返った……?」

「意識だけの話ならば、そう言えます。もはやボディは破壊され、再生は、残念ながら見込めません」

「そうか」

 突然の話に少し面食らった生天目だが、自身の死の記憶が残っていたためか状況を正確に把握することはできた。

「ここからが重要です、よく聞いてください」

 諸岡は自身の額の呪札を剝がしながら、言った。

「生天目さん。あなたを生き返らせる方法があります。私の手を握って」

 言うとおりに男の体に意識を送り、手を掴んだ生天目。

「今から、その体を支配してもらいます。男の抵抗に耐えてください、生天目さん!」

 言い終わる前に、シャーマンの男は抵抗を起こした。生天目のスピリットを追い出し、自身の体の支配を取り戻すため。それはプロである彼にとって、たとえ相手がサイボーグであっても容易いことであるはずだった。魂を鍛えることのできるものなどいないのだから。しかし、何か強大な力が作用し、男の意識は本来の体に戻ることを押さえつけられていた。

「これは何だ!? 俺の意識が……親父……」

 諸岡には分らなかったが、男のスピリットが霧散するのを生天目は感じた。そして、生天目は男の体を手に入れたのだ。

「諸岡……いまの、どうやったの? 他人の意識を押さえつけるなんて……」

「徳です。徳をつかって、意識に干渉しました」

「徳を?」

「ええ。以前、貴方を復活させる方法を探していた時にゆずきさんの研究結果を見せてもらいました。パワーボンバー土屋というサイボーグの蘇生の際、徳の塊を干渉させることでそのサイボーグの意識を再起動させたそうです」

「つまり、徳には、意識や魂、スピリットに干渉する力がある……!?」

「これは私にとっても不安材料が多くて、一種の掛けでしたけどね。こうして生天目さんが戻って良かった」

「体は人間だけどね。回転体が無いと、なんか落ち着かない。さっきも、男の体からスピリットが消えていくのを感じたし……」

「そういえば、生天目さんにはスピリットの説明をしていませんでした。ご存じだったんですか?」

 生天目は自分の記憶にない知識が脳裏に浮かぶのに気付く。

「これは……私じゃなくて、この男の知識だ」

 そして、自分の記憶に靄がかかっている事にも。

「昔のことになると思い出せる自信がない。あんたや私自身のことは覚えているけど」

「スピリットに付随する記憶情報には限界があるということでしょうか?」

「うん、この男の記憶によればそうだね」

 早速男の記憶を参照し、生天目はスピリットについての分析を始める。すると、重大な事実に気づいた。

「諸岡。どうやらまずいことになった」

「というと?」

 言うが早いか。男の住居と思われる建物から勢いよく四つの発光体が飛び出した。

「あれは……」

「記憶によると、男が封印していた四体一組の精神生命体……それも、非常に危険な」

「どう危険なのです?」

「人や物に乗り移って、やりたい放題していたところをこの男がシャーマンの力で封印していたみたい。私が体を奪ったことで奴らに隙を与えた」

 

 二人のいる路地に、奇怪な人間がやって来た。顔は喜びで満ち、足取りはおぼつかない。

 その姿はごく普通の女だったが、明らかに様子がおかしい。

「やった! やった! ついに出られた! 喜びでおかしくなりそう! いや、もうなってる!」

 奇声を上げる女を目撃し、諸岡と生天目は目を合わせる。

「あれが……」

「ええ、精神生命体……通称ゴーストの一体でしょう。近くの人類に取りついたようですね。ここでもう一度封印します」

 

 

 

 横須賀

 シンギュラリティ 横須賀データセンター

 

「それじゃあ小田、後は頼んだよ」

「まかせときな」

 横須賀データセンターの洗濯係として日々働く疑似徳サイボーグ・グラインドグリッド古賀。そんな彼女も今日は休暇。その仕事を同型機のグラインドグリッド小田に預け、洗濯室を出た。

 

 そして、彼女は休暇を満喫するために遠出していた。仕事の日は洗濯室にこもりきりのため、料理の材料や暇つぶしのための本を買いに出かける。

「次はどんな料理に挑戦してみるかなっと……ん?」

 空がにわかに明るくなったように感じた。周囲の愚かな人間たちは気付いていないほどわずかに。

「何だ?」

 空を注視する。しかし、彼女の記憶はそこで途絶えた。

 

 動きを止めていた古賀が再び動き出す。しかし、その体に流れるスピリットは直前までとは違っていた。

「ああ。なんと哀しいのでしょう。私たちが長きにわたって封印されるとは……このサイボーグの肉体をお借りして、必ずやあのシャーマンを滅さなければ更なる哀愁が私を襲うに違いない……」

 

 

 ロシア

 

「こんな雪山に私を求めるサイボーグがいるとはね……あー、今年イチ疲れたわ」

 そう零すのはシンギュラリティのサイボーグ、レヴェリーソード蓮覚寺。ロシアの支部のサイボーグから要請を受け、その武器である回転ノコギリのメンテナンスを行ってきたのだ。

 次の依頼である中国の支部に向かっている途中、彼女も空に光を見た。

「何だァ?」

 彼女は集めた無数の武器の中からとびきりの妖刀を取り出し構える。

「ゴーストか……だが、こっちの妖刀にはもっとヤバい呪霊が封印されてるんだ」

 しかし、空中に漂うゴーストは躊躇いなく蓮覚寺の妖刀に飛び込んでくる。

「!?」

 その手に握られた妖刀は、ゴーストによってそのオーラを失い、そしてより禍々しいオーラに包まれた。

「乗っ取られただって!?」

 ゴースト妖刀は蓮覚寺の手を離れ、そして強大なスピリットの力で蓮覚寺の持つ他の刃物を次々と引き寄せる。

「私の剣を返せーッ!!」

 叫びも空しく、妖刀に寄り集まる形で蓮覚寺の刃物たちが"体"を構成していく。

 やがてそれは、全身刃物でできた全長10mほどの巨大な人型を形成した。

「怪物だ……」

 すべての刃物を奪われ、蓮覚寺に残された武器は回転式の砥石のみ。瞬時に勝ち目が無いと悟り、即座に逃走する。

 そんな彼女を見送るように声が届いた。あの妖刀に取りついたゴーストからだ。

「貴様には感謝するぞ、サイボーグ! この無敵の体を手に入れられたのだからな! だが、この程度では俺の怒りは収まらん! あのシャーマンを血祭りにあげるまではァ!!!!」

 

 

 

 アメリカ

 

 ひとりのイモータルが、きょろきょろと街中を歩く。まるで、初めて都会に出てきた田舎者のように。

「へえ、こんなものもあるのかぁ! 楽しいなあ、楽しいなあ」

 それを見た人類は目を見張る。サイボーグや亜人の進行が進む2046年においてもなお希少な種族。

 その生物はドラゴニュート。

 その目は、何かに取り憑かれたかのように虚ろで、見るものを不安にさせた。

「自由って、楽しいなあ!」

 

 

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