マシーナリーとも子は訝しんだ。
「何だァ?」
今月の生活費が何故かカツカツなのだ。昨日確認した時には異常は無かったはずだが。
サイボーグといえど、日々の生活費は必要だ。ましてや、今のとも子には同居人である澤村とハンバーグ寿司、自称娘である鎖鎌と錫杖……一機と一貫と二人を養わなければならないのだ。
錫杖がやって来たが、ちょうど同時期に鎖鎌がアルバイトを始めたことで家計の状態はほぼ据え置きとなっていた。
そのため、生活は厳しいもののある程度は余裕があるはずだった。
そんな中、とも子の元に驚きの知らせが届いたのだった。
生活費をひっ迫しているのは謎の出費。とも子自身に使った記憶はなく、澤村やハンバーグ寿司はバカでかい出費はしない。鎖鎌はバイト代で多少の出費はまかなっているはず。
となるととも子が怪しんだのは錫杖だ。
彼女は最近この時代にやって来たため、突拍子もないことをしでかしても不思議ではない。
「オイ、錫杖ちゃんよぉ。勝手に私の金使いこんでねぇか」
錫杖は、とも子の部屋に置いてあったフィギュア……マトちゃんをぐりぐりと動かして遊んでいた。
「ム? ママよ……たしかにお小遣いを増やしてほしいとは言っているが、勝手に使いこむなんて不誠実なマネはしないぞ」
確かに、錫杖は少々金にがめついところはあるが、卑怯な行いはしなそうな印象だ。
では、とも子の金を使いこんだのは誰なのだろう?
とも子は首をかしげる。
「おかしいな……錫杖も金を使ってないとしたら、何故こんなに口座から金が消えてるんだぁ?」
悩むとも子に、錫杖が思い出したように告げる。
「そういえば、鎖鎌が最近やけにすまほ? とにらめっこしていたが、それと関係あるのか?」
「鎖鎌が?」
「おーい、鎖鎌ちゃんよお」
鎖鎌のもとにやって来たとも子は、その様子がおかしいことに気づいた。
目は充血し、顔はうつろだ。
「ウゥーン」
その視線は、鎖鎌自身のスマホに一心に注がれている。
「そんな必死に、なに見てんだァ」
とも子がのぞき込むと、そこにはバーチャル配信者の配信の姿が。
綺麗な女性のアバターを用いた配信者が、ゲーム実況を行っている。そして、ゲーム会社から許諾を得たのか、投げ銭が飛び交っている。視聴者が配信者に支援としてお金を送っているのだ。
そして、その中に鎖鎌のアカウントがお金を送っているのをとも子は見た。しかもその額、五万円!
「オイオイオイオイオイ!!!! 鎖鎌!!!」
とも子は驚きのあまり叫ぶ。
しかし、鎖鎌は上の空だ。
今朝はこんな様子ではなかったのだが……
(……これは、何かおかしいな)
鎖鎌からスマホを取り上げると、鎖鎌は気の抜けたような様子で、そのままぱたりと倒れ込む。
あらゆることへのやる気が失われている。
「こりゃまずいな……」
とも子は、鎖鎌が自分以外のバーチャル配信者に現を抜かした事実になんとなくもやもやしながら、その配信者について調べてみた。
「なになに……現場 夢見(うつつば ゆめみ)……二か月前から活動を開始したバーチャル配信者、登録者は2万人、か……」
金髪に桃色のメッシュという奇抜な頭髪に、赤い眼鏡。眩しいほどにキラキラした大きな目が特徴的だ。
主に雑談やゲーム配信をメインに行っており、ファンの間では歌配信が人気なのだそうだ。
こう聞くと、どこにでも居そうないたって普通の配信者だが……
しかし、鎖鎌の視聴履歴を見ると、特に夢見の「歌配信」の再生回数が多かった。
昨日から今日にかけて、ずっと聞いているようだ。
とも子も試しに彼女の歌を聞いてみることにした。
「……ん、あっ!?」
耳をつんざく不協和音……いや、違う。これは、異星人・ズイノ星人特有の洗脳音波だ!
これによって鎖鎌は洗脳され、とも子のクレジットカードから現金を引き出し投げ銭を行っていたに違いない。
「ゆ、許せねぇ~~!!! こいつのせいで今月の生活費がぁ!」
叫ぶとも子の元に、彼女の上司であるネットリテラシーたか子がやって来た。
「ああ、とも子。貴方が作ったこの曲いいわね。クセになりそうよ」
「そんなことより聞いてくれよたか子~! 私の今月の生活費がヤベェんだよ~」
たか子は最近とも子が取り組んでいる音楽作成についてほめてくれたが、とも子はそれどころではない。
事情を聞いたたか子は、とも子に解決策を提示した。
「それなら殲滅しに行く?」
「いや、今回に限ってはなんかむかむかが収まらねぇ。もっと懲らしめてやりたい……いつになく」
(ははぁ、さてはとも子、鎖鎌がこの配信者に夢中になったことを根に持ってるわね)
「そうだ! 逆にあいつらを洗脳し返してやろう、そうだそうしよう」
(ま、今回は好きにさせましょう……)
怒りに燃えるとも子をそのままに、たか子はいそいそと引き返すのであった……
後日。
すっかり元通りに戻った鎖鎌を加え、とも子家の面々が食卓を囲む。その食事は残念ながら、いつになく質素なものだった。
「まあ、今月はしょうがねえな……それにしても、鎖鎌はなんであんな配信者見始めたんだ? きっかけというか」
そう問うと鎖鎌は、恥ずかしそうに頭を掻きながら答えた。
「えっと……実はあの配信者さん、どことなくママに似てたんだよね~髪とか眼鏡とか。あとは雰囲気もかな」
その答えを聞き、とも子はニッコリ笑顔を見せた。
「そーかそーか! それならしょうがないな! ははは」
「なんだか、今日のママはやけに上機嫌だな……」
錫杖はそんなとも子を不思議そうに見ていた。
そして、配信者の現場 夢見はというと……
正体が異星人・ズイノ星人だとばれるということもなく、配信活動を続けていた。
しかし、彼女に最近変わったことが一つだけあった。
彼女の歌配信で、毎回必ずある歌が歌われるようになったのだ。
フッと突然目をうつろにし、一心不乱に彼女は歌う。今日も、明日も、その先も……
「ニンジャ、ニンジャ、サプラ イズ ニンジャ……」