主人公は「マシーナリーとも子Zero」登場の本徳サイボーグ・フルメンタリかず恵です。
2045年
"滋賀県で、人類が大量に消滅している"
その謎の事件の調査のため、幾人かの疑似徳サイボーグが調査に出動した。
しかし、その後彼らの消息は途絶えた。
事態を重く見たシンギュラリティ本会議は、この件に関し本徳サイボーグの派遣を可決。
この事件の原因の調査と排除を命じた。
「僕たちが殺す分には構わない。でも、そうでないとしたら……シンギュラリティを起こすという私たちの目的に影響を与えかねない」
フルメンタリかず恵は事件の発生した滋賀県甲賀市にやって来た。
そこに広がっていた光景は、彼女に違和感を与えるには十分だった。
「これは不気味だね……」
思わず彼女はセリートで眼鏡を拭きなおす。だが、眼前の光景は変わらない。
そこには人間たちの町があった。昔ながらの古民家や森、城だけでなく近代的な建物も点在している。
まさに、都会とも田舎とも言い難いその町にはしかし、人の気配は全く感じられなかった。
数日前までに生活をしていたかのような生活臭、生活感……そういったものは感じられ、それこそが事態の異常さを物語っていた。
「この町の人々は、数日前に突如として消失した、か。それも万単位で」
かず恵は住宅地に進み、家の中を覗いてみる。
争いのあった痕跡などは無い。
「一瞬で大規模な範囲の神隠しが行われた? いや、現実的じゃない」
やがて町の反対側まで到達した。被害は周辺の町にも広がっており、この市を局所的に狙った際に巻き込まれたものだとかず恵は考えた。地図に円を描くように、その範囲の人間だけがきれいさっぱり消えていたのだ。
かず恵は手がかりを求め、その円の中心と思われる場所に向かった。
「これは……」
考えたことは同じか。そこには、三機の疑似徳サイボーグの残骸が残されていた。
「回転体を完全に破壊されてる……やだな、こんな奴と僕戦いたくないよ」
かず恵は自身の回転体としてマントラの刻まれたヨーグルトメーカーを持っている。ヨーグルト生成能力の割を食うかたちで徳生成能力は低いが、彼女は自身の回転体を気に入っていた。
疑似徳から本徳に上がることは容易ではなかったが、彼女はそれを効率の悪いこの回転体で成し遂げたのだ。
発生する徳の量では確かにネットリテラシーたか子など他の本徳に劣る。しかし実力では負けていないとかず恵は内心考えていた。
「さて、調査続けますか」
元気よく立ち上がったところで通信端末に連絡が入った。
「もしもしー!」
「かず恵、また人間が消えた。次は三重だ」
かず恵は滋賀県での調査を切り上げ、三重に向かった。
三重県伊賀市。商店街に入ると、大きな横断幕が飾られている。
「忍者発祥の地? さっきの町にも同じようなことが書いてあったな」
アーケードを進んでいくが、先ほどの甲賀市同様、人々は一人として見当たらない。
かず恵は生成されたヨーグルトを口に入れながら考える。
「さっきの町は事件発生から日が経っていた。でも、連絡によるとここで事件が起きたのはついさっきだ。手がかりや犯人が残っている可能性は高い……」
調査を慎重に続けていたかず恵。
「キエーーーーッ!!!!」
その背後から、突如奇声が響き渡った! その町に人間は残っていなかったはずなのに!
「な、なになに!? 誰!?」
慌てて振り向くかず恵は、杖を持ちカメの甲羅を背負った奇怪な老人と対峙!
しかしそこは本徳サイボーグ。冷静に、繰り出された杖をヨーグルトメーカーで防ぎ、そのまま薙ぎ払う!
「ヒィッ!」
弱弱しく倒れる老人。つるりとした頭に豊かな髭が男であることを示していた。
「おじーさん、誰? なんで僕を襲うのさ」
老人の頭部を掴みながらかず恵が問う。
「人間を犠牲にすることは、ワシが許さん! 許さんぞ!!」
老人はそうわめきだし、かず恵はやれやれと首を振った。
「ではお嬢さん、お前さんもこの事件を解決しに?」
「そうだよ。僕はかず恵。おじーさんは?」
「ワシは多取(たとる)亀一郎じゃ。故あって、今は亀の力を持っておる」
それを聞いてかず恵は一瞬身構える。
どうぶつの力を持つ強化人間……N.A.I.L.のどうぶつ人間だ。シンギュラリティとは敵対関係にある、人類至上主義の集団。
「おじーさん、もしかしてN.A.I.L.の……」
「ああ、知っておったか。ワシは亀の力で生き永らえとる。だが、今は……ワシはN.A.I.L.に逆らっとる」
亀一郎は口をつぐむ。
その目には迷いが見えた。
「確かに、ワシが今も生きておるのはN.A.I.L.のおかげじゃ。じゃが……N.A.I.L.は最初から、おかしかったのかもしれん」
「どういうこと?」
「N.A.I.L.として人間の生きやすい世界を模索してきた。そのためには、邪魔な生き物は……絶滅させてきた。利用してきた。それだけじゃなく、イタコのように、敵対する人間も……消した」
「確かに。人間を一番に思ってるなら、その人間を殺すのはなんか違うかも」
「そして……いま、この街の人間を消したのも、N.A.I.L.なんじゃ」
「N.A.I.L.が……こんなに大勢の人間を?」
「ワシは、何を信じればいいのか分からなくなった。目的のためなら多少の人間は犠牲になってもしょうがない……頭ではわかっていたつもりじゃったが、こうして実際に見たときワシの中に迷いが生まれた」
「それで、N.A.I.L.を抜けたんだ……」
「もうじき命尽きる老いぼれじゃ……これ以上あがいても変わらんことはわかっとる。じゃが、ワシは人間を救いたい! たとえN.A.I.L.に牙をむいても」
「やめといたほうがいいよ。おじーさん、僕にも負けたじゃん」
亀一郎はかず恵を、孫を見るような優しい目で見つめた。
「そうじゃな。こんな娘っこに負けるようじゃあ、無理かのう」
かず恵はヨーグルトメーカーのマントルをおもむろに見せつける。
「おじーさん、まだわかんないの? 僕、シンギュラリティのサイボーグだよ?」
亀一郎は腰を抜かす。
「なんと……その、ワシを殺す……のか」
「殺さないよ。だって僕、今任務中だもん。僕がおじーさんの代わりにN.A.I.L.ぶっ壊してきてあげる」
「それは……やめなされ。ワシが言えたことではないが、N.A.I.L.に一人で挑むなぞ無謀じゃ」
「大丈夫! 僕、こう見えて意外と強いんだよ!」
亀一郎は、少し諦めたような笑顔を見せた。
「言っても聞かんか。気を付けるんじゃぞ、特に黒服の女にはな」
「うん、おじーさんも長生きしなよ!」
ズドン、と。
亀一郎の頭部に刃物が突き刺さった。吹き出る赤い鮮血。
白目を剝き、バッタリと倒れるその様子を、かず恵はただ呆然と見ていることしかできなかった。
「え……何、これ……」
人類とサイボーグ。シンギュラリティと元N.A.I.L.正反対の立場ではあったが、利害は一致していた。そして、交流があった。それが、目の前で破り捨てられるかのように消えた。
「誰だッ!!!!」
怒りをあらわに叫ぶ。すると、そんな彼女に狙いすましたかのようにいくつもの刃物が投擲される。
ヨーグルトメーカーを駆使して弾き落とす。
「これは……クナイに手裏剣?」
その時、かず恵の脳内で複数の出来事が繋がっていく。
忍者発祥の地、伊賀と甲賀。
N.A.I.L.とどうぶつ人間。
消えた大量の人類。
見上げると、小民家の屋根の上にひとつの人影。
黒ずくめの消息をまとったその男は……
「サプラーーーーーイズ!!!!」
歓喜の表情でそう叫んだ。
「てめえ……」
怒りの形相で睨むかず恵をあざ笑うように彼は歌う。
「サ プ ラ
イ ズ
忍 者 ♪」
そして、高らかに宣言する。
「私はサプラーーーーーイズ忍者! 地球最強の生物、人間の力を取り込んだどうぶつ人間! そして、伝説の戦闘民族、忍者の末裔! あなたに、サプラーーイズをお届けしましたァ!」
言い終わる前に、かず恵はヨーグルトを射出! しかし、既にそこに忍者の姿は無い。
「無駄ですよ! 忍者たちの力を取り込んだ私は最強の戦闘マシーン!」
かず恵は無惨なサイボーグたちの残骸を思い出した。そして、後ろピッタリとまとわり付くいやらしい気配を察知していた。
「ガーっ!!!」
唸り声をあげながらヨーグルトメーカーで殴打。しかし、それも空を切る。
(落ち着け、僕は本徳サイボーグ……どうぶつ人間程度に負けはしない)
武器であるヨーグルトメーカーの射出口を自身の前方に向けたまま、かず恵はその場で横方向に回転し始める。
徳で生成されたヨーグルトがかず恵の周囲360°にまき散らされる。
高速で移動していたサプライズ忍者を名乗るどうぶつ人間が、かず恵の上部に回避。
それを逃さず、かず恵はジャンプ。
「オラーーッ!!!」
敵の腹部にヨーグルトメーカーによる強烈な殴打を叩き込んだ!
「がふっ……」
腹を抱えて地面に激突するサプライズ忍者。その頭部に、かず恵は容赦なく追撃を……
ガツン。
「手ごたえがない……まさか!」
ヨーグルトメーカーを持ち上げると、そこには身代わりの人形のみが残されていた。
いったいいつのタイミングで入れ替わったのか、かず恵には見切ることができなかった。すでに、周囲に気配を感じることはできない。
「逃げられた、か」
敵の行き先の検討が付かず、どうするか思案していたかず恵。その視界に、何やら不思議なものが映った気がした。
「なに? 僕に何か用?」
先ほどの敵の所業に怒りを抑えられないかず恵。その眼前にすぅっと現れたのは、半透明の霊魂のような物体。まさに幽霊と呼ぶべき存在だった。
「えっと……」
「まずは自己紹介を。ボクはゴーストのプレイジア。君たちで言うところの幽霊に近い存在さ、よろしく!」
「僕は……サイボーグのフルメンタリかず恵。いま忙しい」
「その割には、これからどうしようか考えあぐねている様子だったけど?」
からかうようにくるくるとかず恵の周囲を飛び回るゴースト。
「うるさいな」
「まあそう怒らないで。ボクなら、さっきの忍者の行き先を教えてあげられるのにな」
その言葉にかず恵が反応する。
「なんだって?」
「アイツの行き先はシンギュラリティ池袋支部だよ。目的は、きっと言わなくてもわかるんじゃないかな」
「本当にそんなことがわかるのかい」
ゴーストから表情は読み取れないが、声色には喜びが感じられた。
「ヒヒッ、それがわかるんだな。どうせ君には手がかりがないんだろう。ならボクについてきなよ」
こうして、しぶしぶではあるが謎のゴーストに先導されかず恵は池袋支部へ向かうのであった。
凶悪なN.A.I.L.のどうぶつ人間を殲滅するために。