2045年夏。
東京都町田市――――ここに、人類抹殺を目的とするサイボーグ集団による組織・シンギュラリティの支部があった。
そして、町田支部に所属するサイボーグのひとりが、フィニッシュヒム諸岡である。
「弾薬よし、資料よし、箸の予備もよし……」
彼女は背中にレールガンを備え付けており、肘の小鉢にある納豆をかき回すことによって疑似徳を得る、疑似徳サイボーグである。
自身の無さから彼女は人類抹殺に消極的であったが、先日行われた合宿によってコンプレックスを解消し、今では順調に町田での任務をこなしている。
「しかし、まさか私がこんな大仕事を任されるとは……! 緊張で手が震えてきました」
その成果を認められたのか、その日諸岡には普段のノルマとは違った特別な任務が与えられた。なんでも、町田支部のある町田周辺で、過激派異星人による暴動が相次いでいるらしい。
神奈川県の横浜市・川崎市・相模原市と隣接している町田は、人間の個体数が少なくなった2045年現在でも周辺に数多くの建物が残っており、過激派にとって格好の隠れ家となっていた。
シンギュラリティと友好関係を結んでいる異星人のグループから被害の報告があったことにより事件が発覚。過激派たちの目的についてはわかっていない。
「応援のメンバーは……あ、クラッシュトリガー生天目さんも作戦に参加するんだ、よかった~知ってる人がいて」
諸岡の任務は、過激派の目的の調査と鎮圧。他の支部から応援でやってくるサイボーグや友好的な異星人グループの工作員と現地で落ち合い、協力する手はずになっている。
朝10時、準備を終えた諸岡は町田支部から車で出発し集合場所である無人のビルに到着した。異星人と共同で仕事をするのは初めての彼女は、緊張しながらドアを開ける。
するとそこには、異星人はおろか、クラッシュトリガー生天目すらいなかった。
「ちょっとはやく着きすぎたかな」
二時間後。
「寝坊かな」
さらに二時間後。
「おかしい……」
諸岡は上司に確認を取ったが、場所を間違っているわけではないようだった。さらに、生天目も異星人の工作員もこのビルに向けて出発していたという。
「つまり、ここに向かう途中で何かあったと考えるのが妥当ですね」
諸岡は、待機していた四時間の間に完璧に記憶した資料の内容を反芻する。
過激派のアジトと目される場所は、町田の無人ビルや廃墟の地下など合わせて約20か所である。今日中に新たな応援は望めないことから、一人で生天目と異星人工作員を救出しなければならない。周辺の地形や交通の便などを考慮し、諸岡はアジトの候補を三か所まで絞った。
「まずは、町田センフィル跡地……近くには廃墟、定食屋、カフェ、床屋」
早速行動を開始した彼女は、車を走らせ第一候補のビルの付近のカフェに入った。
無策でいきなり突撃するのは馬鹿のやることだ。ここで聞き取りを行い、アジトかどうかの辺りをつける。当たりだったら敵組織の構成人数を推測し、作戦を立てる。それは気弱で慎重な彼女なりの作戦ルーティンであった。
「いらっしゃい」
ペンドロ人のマスターがカウンターの席を勧めてくる。
そこに座り諸岡はコーヒーを注文した。店内に他に客はいない。クラシックが流れ落ち着いた雰囲気だ。
さて、何から聞き出そうか。さりげなくこの周辺の話題にもっていき……
諸岡がそう考えているとコーヒーがカウンターの奥から出される。同時に、ドアのベルが鳴り、ガラの悪い異星人が店に入ってきた。
「ようマスター、いつもの」
その男を横目で見た諸岡は、彼の衣服に微かに着いた血痕を見逃さなかった。