2045年夏
-ある日、シンギュラリティ町田支部にて
フィニッシュヒム諸岡(以下、諸岡)「ただいま戻りましたー」
上司「やあ、おかえり。どうだったかな?」
諸岡「順調です。先輩はいますか?」
上司「彼女なら、さっきまで休憩室にいたと思うけど」
先輩「ここだよ~」ヌルリ
諸岡「わっ! びっくりしたぁ」
諸岡「それで、話って何です?」
先輩「ああ、じゃあ会議室で話そっか」
-会議室
諸岡「これは?」
先輩「ああ、それ、今月のシンギュラリティ月報。読んだ?」
諸岡「ええ、まあ。これが何か?」
先輩「ああ、諸岡。君に執筆依頼が来てるんだよ」
諸岡「わ、私に?」
先輩「最近、新人サイボーグたちの活字離れが酷くてねえ」
諸岡「それは……徳が低いですねえ」
先輩「そうなんだよ。そこで、上もいろいろ考えたみたいだ」
諸岡「それで、なぜ私に?」
先輩「うん。今までは、徳の高い本徳サイボーグについての特集とかばっかりだったんだけど、それだと徳の低いサイボーグたちには遠い存在すぎて」
諸岡「活字自体を嫌煙してしまう、と」
先輩「そうなんだよ。そこで、疑似徳サイボーグの中でも真面目な君に白羽の矢が立った。身近な存在の方が親しみが持てるんじゃないかってね」
諸岡「事情は分かりました。どんな内容を書くかとか、テーマって決まってますか?」
先輩「徳が低いものでなければなんでも。とにかく、新人サイボーグたちが興味をそそられるような内容にしてほしいんだ」
諸岡「分かりました。ちょっとバックナンバーを参考にテーマを考えます」ペラリ
先輩「私も協力するよ。どれどれ……」パラパラ
諸岡「やっぱり、このサイボーグのこんな行動がすごいとか、こんな特技が徳が高いみたいな内容ばっかりですね……」
先輩「最終的には、こういう記事を読んでくれるようになってもらいたいもんだが……いや、押し付けるような考えは徳が低いか……」
諸岡「あ。こういうのはどうです?」
先輩「聞かせてくれ」
諸岡「納豆のレビューを書くんです」
先輩「それは……要するにグルメ記事か? まあ、徳の低い内容ではないが……」
諸岡「こういう箸休め的なコラムやコーナーも必要だと思いますし、これなら新人たちもきっと興味を示してくれると思います。ただ、私は納豆についてしか書けませんけど」
先輩「いや、いいアイデアだろう。二回目以降のことはおいておいて、初回はこのテーマで行ってみよう」
諸岡「やっぱり普通の納豆がいいって方は大勢いるし、私もそうだと思っている人も多いと思います」
先輩「違うのか?」
諸岡「普通の納豆も好きですけど、そればっかりじゃ飽きちゃいます」
先輩「まあ、そうだな」
諸岡「卵味のたれとか、焼肉のたれ入りとか。そういう変わり種も、意外とおいしいですよ」
先輩「マヨネーズかけたりとかも?」
諸岡「もちろん。ただ、はじめは少し度胸がいりますよね」
先輩「確かに。いつもの安定したおいしさを置いておいて新しいものに挑戦するというのは、些細な事でも勇気がいる」
諸岡「ただ、それをすこし頑張ってやってみる。それは、本徳サイボーグの徳が高い行為と通づるものがあるんじゃないかな~なんて」
先輩「ちょっとこじつけすぎな感じは否めないが、一理ある」
諸岡「なにもいきなり納豆カレーに挑戦しろというわけではありません。始めは昆布だしくらいでいいんです」
先輩「私も今度は違う納豆を食べてみようかな」
諸岡「でも、もう少し活字離れの読者をひきつける要素が欲しいです」
先輩「確かに。テーマがわかりやすいものでも、文体が固いととっつきにくさを感じるか」
諸岡「そうですね。ええと、こういうのはどうでしょう」カタカタ
先輩「ふむ。人物名と括弧をわざわざ会話ごとに書くのか。不思議な文体だな」
諸岡「はい。対談形式にすれば、セリフが頭の中で浮かびます。あとは、こういうのも」カタカタ
先輩「セリフの後に、半角カタカナで擬音を書くのか?」
諸岡「いわゆるSS形式ですね。セリフだけで進行させるために、効果音で動きを表現するんです。あとは、かっこの中に笑って漢字を書いて、笑っていることを表現したりとか」
先輩「お前、結構やるなあ。意外な才能があるもんだ」
諸岡「いやいや、これはわりと初心者が書く文体なんですよ。シンギュラリティ月報を書いてる方が見たら怒るかもしれません」
先輩「お、その姿勢、徳が高いんじゃない?(笑)」
諸岡「あはは(笑)」
先輩「じゃあ、早速初回の原稿に取り掛かってくれるかな。諸岡の分の仕事は私が引き継ぐから」
諸岡「ありがとうございます。あ、今の会話って録音してますか?」
先輩「ん? 一応してあるけど」
諸岡「そのデータください。それをそのまま、初回の原稿にしちゃうんで」
二人「ハハハ(笑)」