ゲート その者は帰り咲く灰色の薔薇 作:TS大好き侍
俺、
オタクであり、それを親友と共に誇りに思いながらもこれから先の人生でもそうあり続けると信じているオタクであった――――が、しかしそれはあっさりと終わりの時を告げてしまう。
「▽×▲※ッ!」
世に言う人身事故。悪く言えばひき逃げ。親友と共に近所の同人ショップに同人誌を買いに出かけたのだが運悪く夢の中へと導かれつつある運転手が操る長距離トラックに遭遇、間一髪守梶自身は助かるコースだった。だが、彼は隣で歩いている親友が巻き込まれる事に直感的に気付くと何を思ったのかそれを庇いトラックと激突。数メートルほどまるでボールのように地面を跳ねながらも吹き飛ばされるとシャッターのしまった衣服店に轟音と共に激突、かなりの威力だった事を意味する大きな凹みを作りながら彼は倒れた。トラックはそのまま去り跡に残ったのは血だまりを作りつつある倒れ伏せる彼だけだ。
庇われた彼の親友は突然の出来事にバランスを崩し地面へと尻もち、そしてその直後、眼前で起こった目をそむけたくなるほど悲惨な光景にフリーズしていたがそれが解けるとすぐさま我武者羅に彼へと駆け寄った。頭からは血を流し激しくぶつかったのだろう腕や足は曲がってはいけない方向へと曲がり、それは首も例外ではない。誰が見ても明らかに手遅れだった彼へ涙を流し、泣き叫びながらも彼の名を呼びながら助けを求めるが意識が消失しつつある彼は声がハッキリとは聞こえておらず、周りにいる人も写真などを撮っている野次と化すばかりで誰も通報などを行わない。
「▽×▲※▽×▲※!」
そんな中、既に死につつある守梶は既にクリアに見えなくなりつつある瞳に映る親友の泣き顔を見ながらこう考えていた。何故泣いているんだ、自分の命が助かったんだから儲けものだろ? っと。既に動きそうにもない表情筋を何とか動かして笑顔を作ろうとするがその途中で意識消失。ようやく救急車のサイレンの音が聞えて来る頃には彼の命は既に消失していたのだった――――そして。
「・・・は?」
次に目を開けた瞬間、死んだはずの彼の目に映る光景は広大な草原広がる日本では滅多に見る事が出来ない平原だった。
※※※
この世界に転生して既に800年以上……俺は俺にとっての始まりの地、アルヌスの丘へと足を運んでいた。
「ここは相変わらず吹く風が気持ちいわね」
この異世界へ転生して目を覚ましたのがこの場所。思い出深く、そしてこれまでの人生で一番の謎がある地だ。調査の為に何度足を運んだか―――少なくとも三桁は行ってるな、うん。でも最近数百年の月日をかけて元の世界へと変える方法を片手間に探し続け、研究し続けたってのに不可能と言う結論が出たのは嫌な記憶だよなぁ……ハァ、でもなぁ。
「……片手間に研究したのが悪かったのかしら?」
呟く声も草の潺に飲まれて散る。だけど仕方ないと思うんだ、途中から全く別の事を研究してたからさ。
俺の生まれた種族は既に滅びの危機を迎えていた。だからそれを救おうと必死に努力したのに……ま、応急処置は出来たから数百年先までは問題ないでしょう。
既に亜神と化して長い我が身。何でこんな事になったんだか……神になるつもりなんてサラサラなかったのに帰還方法を探る為に色々な事に手を出していたらいつの間に神官に選ばれ、アレよアレと亜神に……何で?それに加え誰に選ばれたのかまったく心当たり無くて名乗ろうにも名乗れない状態が今の今まで続いてるのってツライだよなぁ……マジで誰? 名無しの神って言い訳、結構辛くなってきたんですけど。
ゆっくりとその場に座り、遠く輝く夕日を眺める。綺麗な夕日はサンサンと輝き、単純な感想ではあるけど綺麗だ。そんな風景に見とれているとふと、空を見上げた。夕焼けに赤く染まる空が、俺の死んだ時に見た最後の空の景色が俺の前世の世界を思い出させ、懐かしい気持ちが胸の中を埋め尽くした……あぁ、帰りたいなぁ。
思わずそのまま寝ころび目を瞑る。そして瞼の裏に過去の景色を思い浮かべた。
広い道路には車が走り、通勤の為に沢山の人々の営みの音が聞こえ、そんな場所で俺は親友と共に何気ないオタク話に花を咲かせながら学校へ通う……すごく、凄く懐かしい景色。そして決して元に戻らないであろう景色……あぁ、悲しい、悲しいなぁ。涙が頬から落ち、周りの音も聞こえないほど悲しい気持ちが溢れて俺は泣き出した。
帰りたい、帰りたい、家に帰りたい。元の家に帰りたい。家族は死別し例え誰も待っていないとしてもあの日常へ帰りたい。
呼吸が辛くなり、俺の涙は止まらない。だけど誰かに見られては困ると帽子でその顔を隠して1人、そのまま泣いていると――――
「おぉーい、何で泣いてんだ?」
――――耳を疑う、聞こえるはずの無い者の声がした。何度もう一度会いたいと願い、叶うことの無い事だと諦めた人物の声。
「――――耀司ッ!」
帽子を跳ねのけ、声の方へと俺は飛んだ。
「うぉ!?」
確かな人の温もりと感触がその存在を確定させ、夢や幻の可能性を捨てさせそして改めてその者の顔を見た。
「――――ッ」
「な、なんだよ……」
―――その顔はニキビだらけでやる気のない間抜けな顔。そしてあの時最後に見た、親友の顔だった。
「―――ッ よ、ようじぃ」
「何があったか知らないがほら、胸ぐらいなら貸してやる」
私は懐かしい匂いに包まれ、久しぶりに悲しみ以外の涙を流したのだった。その時の空は丁度夕日が落ち、真っ赤にそまった夕焼けの空だったと言う。
「そういえば守梶は何でこんな河川敷で泣いてたんだ?」
「ようじぃ~」
――――そして、私は800年ぶりに故郷へと帰還出来のだった。